遅い逢瀬
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/14 19:34



■オープニング本文

武天此隅でも大店の一つに数えられるとある酒屋‥‥季春屋。
 そこの若夫婦は一風変わっている。
 奥さんは仙花といい、元は武天の樽屋の娘。親の事業の失敗と心中によって一人遺された。全ての借金を娘が背負う事になり、花街に売られてきた。
 彼女は紅を差してないのにとても赤い唇をしているので緋桃と名付けられた。
 緋桃として働き出した彼女は随分と頑張って自身の稼いだ金で返していた。早く返す事が可能だったのは、彼女を思う嘉月という季春屋の若旦那の存在があった。
 幼少の頃から少なからず想い合ってきた二人は緋桃が遊女になってからも嘉月の気持ちは変わらない。
 無事に身請けが終わり、祝言の時も遊女時代の置き土産のトラブルがあったりとしたが、二人の誠実さは誰もが認めるもの。
 今は四代目も産まれて街の皆が知るおしどり夫婦だ。

 四代目は瑞香という名前で、二歳になる。
 少しずつ言葉を話し、笑顔が絶えない男の子。
 お母さんの背におんぶ紐で背負われて店に出てくると途端に店に人が集まったりする。
「あらあら、今日はお店に出ておりますのね」
 三代目女将さんである仙花に負ぶされている瑞香に声をかけるのは一人の老女。
「鷹来様、架蓮姉さま、いらっしゃいませ。瑞香、ごあいさつなさい」
「こにーわ」
 こんにちわがまだうまく発言できてないようだが、折梅とお供の架蓮は挨拶されて上機嫌だ。
「これは、鷹来様、架蓮さん、いらっしゃいませ」
 店の前の来客に気づいた三代目の嘉月が顔を出す。
「そういえば、沙桐様、祝言を挙げられたあと、此隅には戻られてないのですか?」
「ええ、いまは開拓者としてやっております」
「そうですか、沙桐様にも瑞香を抱いてやってほしかったんですけどね」
「あと、開拓者の皆様にも会わせてほしいのですが」
 少し寂しそうな様子の仙花に折梅はある事を思い出す。
「では、お呼びしましょう」
 折梅の言葉に夫婦は目を丸くする。
「開拓者は事件があるときだけ依頼するものではありませんよ。開拓者の依頼は多岐にわたります。私のような老人の話し相手にもなってもらえますし、瑞香さんの子守もして下さいます」
「そうなのですか」
 意外そうな表情をする夫婦に折梅はぽむと手を打つ。
「折角ですから、お二人で出かけたらいかがです?」
「そうですね、仙花ちゃんがこちらに着てから、逢瀬らしいこともしていないですし、瑞香ちゃんの子守を依頼したら?」
 逢瀬の言葉に夫婦は顔を見合すと頬を染める。
「あらあら、まだお若いですわね」
 くすっと、折梅が微笑むと二人ははっと我に帰り、慌てだす。
 そんな二人を微笑ましく思いつつ、架蓮はギルドに依頼に出しに行った。


 神楽の都のギルドで依頼が張り出された。
「あれ、ばあさま?」
 ひょっこり顔を出した沙桐がギルド受付員の真魚に声をかける。
 最近は神楽の都の生活に慣れてきたようであった。
「ええ、沙桐さん、行かれますよね」
「え」
「行かれますよね」
「へ?」
 妙に気合が入った真魚がゴリ押しされ、沙桐も参加する事になった。
 


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
輝血(ia5431
18歳・女・シ
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
桃李 泉華(ic0104
15歳・女・巫


■リプレイ本文

 季春屋に集まってくれた開拓者達に大手を振って歓迎してくれたのは瑞香だ。
「お姉さん、お兄さんにいらっしゃいって」
 抱っこしてくれる仙花お母さんが瑞香に言えば、きょとんとした顔になり、もう一度開拓者達に手を振る。
「いらしゃー」
「舌足らずなのがまた可愛いわね。こんにちは、私はユリアよ」
 笑顔全開のユリア・ヴァル(ia9996)が瑞香の小さな手と握手する。
「ゆーりぃ」
「かわいいーっ」
 お母さんがユリアへ手を離すと彼女は瑞香を抱きしめる。無邪気なユリアがとても可愛らしい。
「御無沙汰しております」
 嘉月がぺこりと頭を下げると、鷹来雪(ia0736)も頭を下げる。
「こちらこそ。お元気そうで何よりです」
「雪さんは、沙桐様と一緒になられたとか、遅くなりましたが、おめでとうございます」
 先輩夫婦に祝福され、雪と沙桐は顔を見合わせて笑いあう。
「めでたい知らせはいくつあってもいいさね。なァ、泉華」
 猫耳帽子を被る桃李泉華(ic0104)が北條黯羽(ia0072)の言葉に嬉しそうに頷く。
 はしゃぐ瑞香の顔を覗き込んでいるのは草薙早矢(ic0072)だ。
「はやり、小さい」
 真直ぐ見つめる早矢の声に反応し、瑞香が手を伸ばす。何気なく手を差し伸べると、瑞香は嬉しそうに中指を掴む。
 小さな指であるが、その熱はとても高い。
「温かい」
 ポツリと呟くと、瑞香は嬉しそうに笑う。
「可愛いですね」
 御樹青嵐(ia1669)が嘉月に声をかけると、「ええ、今が可愛い盛りです」と答える。
「どちらに似ているのでしょうか?」
「顔立ちは母親にですね。目元は私似です」
 瑞香を見つめつつ、雪が尋ねると、嘉月が答える。
「輝血さん、いかがされましたか?」
「別に、なんでもないよ」
 後から現れた折梅に尋ねられて輝血(ia5431)はそっぽを向く。
「折梅さ‥‥」
 雪が声をかけようとしたが、一度止まってしまう。
「おばあさま、おひさしぶりです」
 少しだけたどたどしいが、照れ笑いしつつ、雪が言い直す。
「ようこそ、いらっしゃいました。新婚生活は如何ですか? 沙桐さんがわがまま言ってませんか?」
「そんな事ないよ!」
 心配する折梅に沙桐が抗議するも彼女は聴いちゃいない。
「ともあれ、今日は一日逢瀬を楽しんできてください」
 騒ぐ鷹来一家を背に青嵐が言えば、夫婦は少し照れながら頷いた。



 少々瑞香がお母さんと離れるのを寂しがっていたが、新しく出会ったお姉さん達がいてくれる事をなんとなく理解すると、笑顔を戻す。
 店番組達が瑞香と遊べないのを少し心残りにしつつ、店の方へと向かう。
「それでは輝血様、瑞香くんを宜しくお願いします」
「う、うん‥‥」
 いつもなら「任せておきな」と、男前宜しく言い切る輝血であるが、今回ばかりはそうは言えないようだった。
「姉さん、お揃いのお着物でお手伝いとか、えぇ思わん?」
 泉華が言えば、黯羽も頷く。
「何か、揃いの着物とかはないかねェ?」
 店員に尋ねると、いいものがあると、奥へと走り出す。
「前に、なじみの呉服屋さんが渡してくれたものがあります」
 急いで戻ってきた店員の少女が出してきたのは桃花の柄で紗に絹の襟に赤い刺繍で「季春屋」とある法被というより、千早や羽織に近いようなものを用意してきた。
「夏の先取りで紗を着られては如何でしょう? お二人は巫女服ですので、合うとは思うのですが」
 店員が説明をすれば、泉華がうんうんと嬉しそうに頷く。
「姉さん、これ着てみたいわぁ」
「そうかィ‥‥じゃァ美人巫女姉妹風でございって、トコかねェ?」
 思ったより、普通の衣装をもって来られて黯羽は少しほっとしているようであった。
 その一方、雪は奥の勝手口付近で空を見上げていた。
 今日は曇り空であるが、今は梅雨時期。いつ雨が降ってくるか分らないのが実情。
 少しでも雨が降る時間が分れば配達に出た時に濡れずにすむからだ。
 あまよみの結果を伝えると、配達員達が何刻にどの店に行くか地図を広げて確認しあう。
「ああ、奥様とても助かります」
「この時期は身体も崩しやすい時期ですので、少しでもお役に立てればと思います」
 配達員が雪に頭を下げると、彼女は笑顔で返す。
「私も下準備を手伝います」
 酒の種類を書き付けてある紙と配達先の書付を見つつ、雪も準備をしていく。
 準備が進んでいくと、店の前に空の荷車が止まる。
「お、配達かィ?」
 黯羽が気づくと、奥から雪が酒瓶を持ってきた。
「はい、もう一回目が出るので」
「そうかィ、まァ任せな」
 それなりに大きい瓶だったので、見かねた黯羽が代わりに持つ。
「二人とも、荷を纏める縄と茣蓙を持って来てくれ」
「へぇ」
「はい」
 黯羽の指示に二人が奥へと向かう。
 荷が纏まると、結構な量であり、配達も三人がかりでやるそうだ。
「行き先は花街なんだ」
 配達は沙桐も同行する模様。
「行ってらっしゃいませ!」
 華やかな開拓者達に見送られて、配達員と沙桐は荷車を走らせて店へと向かった。



 子守組に入った青嵐は台所にいた。
 季春屋の食事は女将さんと女達が作るものであり、店の大所帯振りを理解する青嵐は引き受ける事にした。
 瑞香はおねえさんが大好きということなので、男の自分は裏方で支えていこうと考えている。
「青嵐、女装はしないの?」
 無垢な輝血の言葉に青嵐は複雑そうな顔をしたが、「子供というのは真理をみやぶるものです‥‥」とだけ呟いて台所へと逃げる。
 子供と遊ぶ部屋用に開放された部屋はユリア、早矢、折梅が瑞香を囲んでちやほやしていた。
 輝血が音もなく入ると、瑞香が戸の方を向くと、輝血は目を見開いた。
 何故、分った‥‥と。
「輝血、遅かったわね」
「ちょっと、雪と話してた」
 ユリアが早矢と子守を交代すると、輝血に声をかける。ちろりと輝血が瑞香の方を向けると、早矢が「高いたかーい」と瑞香を抱き上げていた。
 よく見るあやし方であるが、子供は大丈夫なのだろうかとか輝血は思うも、瑞香はとても喜んできゃっきゃと甲高い声で笑っている。
「やーしやしやしやし。可愛いですねー、瑞香たん」
 ちゅっちゅと早矢が瑞香の頬に頬擦りをするが、ちょっとだけ困ったような素振りを見せる。
「どうかした?」
 ユリアが察して、早矢に声をかける。
「いや、大丈夫だ」
「輝血さんと変わったほうがいいですよ」
 折梅が声をかけると、早矢はそれに従う。輝血は何故か固まっているが、それも数瞬。分ったと平静を装い、瑞香の方へと向かう。
 じっと、見つめあう輝血と瑞香。
 なんとなく、竜虎相打つという様相にも捉えられるが、輝血は困惑顔を隠せなく、瑞香は新しく遊び相手になるおねえちゃんがきてうれしそうだ。
 瑞香の様子窺いで特に何もできない輝血に瑞香は首を傾げる。
 やっぱり輝血おねえちゃんは見てるだけなので、瑞香は重たそうな尻をあげてすっくと、立ち上がる。
 突然の瑞香の行動に輝血は目を丸くし、その挙動を見るしかない。
 蛇に睨まれた蛙というように怯えてはないと輝血自身は思った後、「自分は蛇だった!」と心中でツッコミを入れる。
「如何されました?」
 輝血の気持ちに気づいているかどうか、他のおねえちゃん‥‥一応、折梅含む‥‥が早矢を気遣う。
「いえ、何だか、愛馬と対応が似せてしまい、どうしたものかと‥‥」
 真面目に答える早矢にユリアは「ああ」と頷く。
 ユリアの後ろでは、瑞香がのしのし歩きだす。
「勝手あるくなーー」
 強硬手段で止めるべきか判断が下せず、輝血はとりあえず言葉で静止を促すも、瑞香はのしのしと床の間へ歩く。
「馬って賢いでしょ? きちんと心を遣えば分ってくれるものよ」
「早矢さんにとって、愛馬は相棒なのでしょう? そうなるのも仕方ありません」
 ユリアの言葉に折梅も同意と言葉を繋げる。
「はい」
 先輩奥さん達の言葉に早矢は安堵したような微笑を見せる。
 後ろの輝血は瑞香が床の間に飾ってある菫を掴んでいるので、心が修羅場と化している。
 自分の知識では、菫の茎には毒がある。掴んでも口に含まない限りは大丈夫だが、相手は子供!
「さわっちゃだめだってーー!」
「あーい!」
 差し出される菫の花に輝血は瑞香が自分に花をあげようとしていた事に気づく。
「あら、輝血にプレゼント?」
「あい!」
 プレゼントが贈り物という事を理解しているか分らないが、ユリアの言葉に返事を返す。
「輝血おねえさん、お礼をいわなければ」
「‥‥ありがとう」
 遅れて返事を返す輝血に瑞香は抱きついて、抱きつかれた輝血ががっくりと肩を落とした。


 華やかな開拓者達が店に出て、接客している話は瞬く間に広がり、客足は多くなってきた。
 配達に出回っているのが沙桐だったので、お嫁さんが店番しているという話を聞いて、折梅の既知達が酒を買うついでに挨拶にと来る事も多かった。
「何卒、宜しくお願いします」
 笑顔を絶やさず、礼を尽くす美しき嫁である雪の姿勢に折梅の既知達は「沙桐さんはいいお嫁さんを貰ったなぁ」と喜んで帰っていった。
 美人の接客となれば、一度は見てみたいのも人の気持ち。
 笑顔の泉華に鼻の下を伸ばそうとする男もいたりする。
「お嬢さん、かわいいですねー。お店終わったら‥‥」
「軟派事はこの店じゃァ法度だ」
 イイ笑顔の黯羽が声をかけると、身丈や迫力ある美人ぶりを見せる黯羽の威圧に男達はそそくさと退散する。
「しっかし、困ったもんだねェ」
「すみません」
 ふーっと、ため息をつく黯羽に頼りなさそうな番頭が謝る。
「ここの娘達は中々可愛い娘が多いからねェ、寄り付く虫がでるンのも解るさね」
「いつもは三代目が出張ってくださるんですが、私じゃぁ‥‥」
「まァ、俺が出張って何とかなりゃァ、それでいいさね」
 ひらひら手を振る黯羽が見やるのはしょんぼりしてる男の子に泉華が話しかけていた。
「おかあさんが風邪なんだ‥‥」
 男の子のお母さんは風邪で寝込んでおり、甘酒を飲まそうとしていたようだった。
「甘酒は今日の分、売り切れてしもうたんよ‥‥」
 困り顔の泉華に黯羽も何とかならないかと表情を曇らせる。
「青嵐様に聞いてみますね」
 踵を翻した雪が台所へ行くと、少ししてから、お銚子を持ってきた。口の部分には木の栓がしてある。
「少し分けてもらいました」
「ありがとう」
 輝く笑顔で男の子が渡した代金は色んなお手伝いで溜めた小遣いなのだろう。錆びつつも綺麗に磨いたと思われる。代金を番頭に渡すと、泉華はこの子を送るついでに配達できるか尋ねる。
 急ぎの配達があり、黯羽が一升分の瓶を持ち、泉華が銚子を持って配達へ向かう。
 雪が二人を見送ると、逆の方向から沙桐を含む配達員が戻ってきた。
「お帰りなさいませ」
 笑顔で待ち受ける雪に疲れを滲ませた配達員達がつられて笑顔となる。


 主夫の喜びを感じようとした青嵐は何故か、女性店員達に乞われて料理教室を開いていた。
 夏の旬を使った料理をはじめ、丁寧に教える。
 その合間に青嵐は皆の分と瑞香用のおやつを作る。
 先ほどお昼に出した冷やし饂飩の瑞香用はうどんを短めにして食べやすくすし、お腹を壊さないように配慮を重ねる。暑くなり、冷たいものを食べたいと思うが、子供の体調も考えると冷たいものは控えるべきかと青嵐は配慮を考えていた。
 瑞香は青嵐のうどんをぺろりと平らげた。
 おやつは水饅頭を瑞香に与えるのは悩ましいと思い、桃だけでもと砂糖で煮る。この時期だと食べられるが固いものが多いからだ。
 暑い中、見目と味で涼しさを感じるのが天儀の夏。
 用意が出来ると、青嵐は大人達用に冷茶を添えて瑞香の部屋へと向かう。
「おやつが出来ましたよ」
 青嵐が障子を開けると、転びそうになる瑞香を必死の様相で輝血が抱きとめていた。
「おやおや、過保護ですね」
「え、青嵐何か言った? あー、あぶない!」
 どんな局面でも冷静さを保つ輝血が慌てる様子は滅多に見ない。子供一人にアタフタしている輝血は何だかとても面白いのだが、それは口にしてはいけない。
「おやつが出来ましたと言ったのですよ」
「瑞香‥‥おやつだって」
 おやつは解るのか、青嵐はおいしいごはんをつくるひとという認識なのか、瑞香が進んで青嵐の方へと駆け出す。
「だから走るなー! ユリア!」
「任せて♪」
 輝血の腕から抜け出した瑞香を抱きとめたのはユリアだ。
「瑞香、おやつよ」
 青嵐より瑞香用のおやつが乗った器を受け取ったユリアは一口大分を匙に載せて瑞香に食べさせる。
「おいしい?」
 ユリアの言葉に瑞香は咀嚼しつつ嬉しそうに頷く。
 またぱかっと、口をあけて「あーん」と食べさせてと促す。
 瑞香が匙に興味を持ち、自分で食べるのかと思い、匙を手渡して器を瑞香に寄せると、何とか掬った匙の桃をユリアに食わせようとしている。
「あら、頂くわ」
 子供が食べるには冷えている桃の砂糖煮は程よい甘さだ。
「美味しい」
 ユリアの笑顔に瑞香も嬉しく、他のおねえちゃんたちへ順番に食べさせていった。
 お昼寝の後は早矢が馬となって遊んでくれていた。


 夕方、仕事も終わり、店番組が中へ入ると、瑞香を抱っこしてもらう。
「かわいいなぁ」
 きゃっきゃと泉華達が瑞香と遊ぶ。
「月餅とか食べさしてえぇやろか?」
「一口大に切ると食べやすいですよ」
 泉華の言葉に折梅が助言を加える。
「ウチと分け分けしよか♪」
 瑞香は月餅も美味しそうに食べると、やっぱり、泉華に食べさせようとした。
「輝血様の子守姿見たかったです」
「見なくていいよ」
 期待の眼差しの雪に輝血はぐったりとなっていた。
 輝血の子守様子を知っているユリアと早矢は顔を見合わせてくすりと微笑む。
「夕飯までもう少し時間がありますから、少し散歩でもしてきたら如何でしょう?」
 青嵐の言葉に数名が退出した。

 ユリアは家のお土産に酒を数種購入。
「珍しいのってない?」
「そろそろ飲み頃のこれは如何でしょう?」
 出してきたのは緑茶の焼酎だ。
「それも頂くわ」
 いくつかの摘みになる乾き物も包んでもらい、ユリアは家に帰るのが楽しみのようだった。

 街に出たのは雪と沙桐だ。
 雪は友人達に祝われたので、お返しをしたいと言った。
「いい物を贈りたいね」
「ええ‥‥私も赤ちゃん、ほしくなります」
「そうだね。俺達の赤ちゃんだったら絶対可愛いよ」
 手を繋いで二人は店じまい前の三京屋へと向かう。

 日も暮れかけた頃、夫婦も戻り、皆で夕食となった。
「本当にありがとうございました」
「手がかかったでしょうに」
 夫婦が頭を下げて開拓者に労わりの言葉をかける。
「とてもいい子だった」
 素直な感想を述べたのは早矢だ。ユリアもそれに同感で頷く。
「子供というものはいいもんだねェ」
 泉華に酌をされつつ黯羽が言えば、その隣で青嵐にお酌をしてもらっている輝血は一度酒を飲み干す。
「‥‥別に悪くはなかった」
 大変だったけど。

 夕食中に瑞香は寝てしまい、大人達の癒しとなったようだ。