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■オープニング本文 厚く高い壁に囲われた花街は苦界に落とされた女達がいつかまた、娑婆の世界を夢見て男に身を委ねる。 見果てぬ夢を握れるのはほんの少し。 それでも女達はその夢に縋るのだ。 夢に近いところに君臨せし繚咲の花街の太陽こと、柳枝太夫は約束された日を夢見る。 幼少時に天蓋のシノビである父と母が姿をくらまし、同郷のシノビ達から疑われの目で見られた。 本来は謀反と見なされ、柳枝も殺害される事となったが、それを止めたのは天蓋のシノビを纏める緑萼と折梅、そしてまだ小さい沙桐だった。 天蓋のシノビはこの三人の言葉にしか従わない。 この三人の言葉は絶対だった。 緑萼が柳枝を花街に捕らわすよう手配したのだ。 父と母を探したくば、自身の力で娑婆に出よと命じた。 遊女にはとにかく金がかかる。 位が高い遊女であればあるほど教養が高く、衣服小間物代が半端ない。 それが借金と言う形で店につけるのだ。 自身の身一つで稼ぎ、借金を返し、自身の身請け代を払う。 勿論、どこかの殿様でも捕まえればそれでよし。 柳枝は必死になって教養を身につけ、男をたらしこむ技術を覚えた。 そして、シノビとしての技術も力も得た。 全ては父と母を捜すため。 緑萼が与えてくれた機会を絶対に逃がさなかった。 柳枝の父と母は緑萼の護衛と彼の密命を遂行するシノビ。 緑萼は彼らをとても信用していたという。柳枝はそんな彼らが溺愛している娘。 今ならわかる。 緑萼はずっと自分を護っていたのだ。 謀反でいなくなっても、敵に捕まったとしても、何も知らない柳枝がいずれ危険な目に遭うかもしれない事を。 遊女になる為の借金を全て返し、身請け金の支度をしようとしていた柳枝に一人の男が現れた。 愛する郷である繚咲を救い、父母を連れてきた人。 思いが通じ合い、迎えに来てくれると信じている。 ● ある昼間、柳枝太夫は禿がいない事をに気づき、探しに出る。 台所でぬか漬けのつまみ食いでもしているのだろうか。ここの店のぬか漬けは美味く、漬物屋でも開けば繁盛するのではないかと食べたものの誰もが思う。 つまみ食いとは普通に食べるときより美味いものだ。 許しを得ずに食べるという行為がより危機感を際立たせて美味と感じるのだろう。 つらつら思案していた時にふと、視線がある遊女部屋に向いていた。 先日、身請け金を店に納めて貰った遊女の部屋だ。 遊女の目は何も映してなく、ただ虚ろ。 右手に持った剃刀は‥‥ 「何をしているのでありんすか!」 左手に当てていた剃刀を奪った柳枝に遊女は返してと剃刀に手を伸ばす。 「そねえな事をしてはいけんせん!」 肌を叩く乾いた音と共に柳枝が叫ぶ。 「もう、わっちは生きていけんせん‥‥っ」 張り詰めた緊張の糸が切れたかのように遊女は泣き出した。 「どういう意味でありんすか?」 彼女は幸せを手にしてたのではないか。 日取りももう決まり、娑婆に出れるのだ。 「あの人が行方をくらましになりんした‥‥」 騒ぎに気づいた他の者達が遊女の部屋に駆けつけた。 楼主と柳枝と件の遊女、火垂が楼主の部屋で話し合う。 実を言うと、日取りの打ち合わせはまだ仮であり、正式には決まっていなく、男の方も行方が知れない。 「開拓者に調べていただきんしょう」 柳枝の言葉に楼主は頷いた。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
源三郎(ic0735)
38歳・男・サ |
■リプレイ本文 廓の壁はとても高く、赤い壁の向こう側でどんな営みが行われているのか、どちらの世界も伺えることは容易ではない。 たった一枚の壁が全ての世界を変える。 心配そうに見上げるのは鷹来雪(ia0736)。 「今は落ち着いているようだし、店の人も見てるって言ってたから大丈夫よ」 雪に声をかけたのはユリア・ヴァル(ia9996)。 「私達も声をかけてあげたいけど、今は彼らに任せなきゃ」 同じ既婚者であるユリアの言葉に雪は静かに頷くと、左手にぬくもりが触れる。その方向を見やれば、珠々(ia5322)が無垢な瞳で見つめる。 ゆっくり一度瞬いた雪の瞳は強い意志を持つものへとなっていた。 壁の向こうに入っていたのは御樹青嵐(ia1669)と源三郎(ic0735)。 開拓者が来たと知るや否や、好機の目線が青嵐と源三郎に向かう。 楼主の部屋へ通されると、柳枝と火垂だろう遊女が待っていた。 「連絡が取れなくなったのは?」 「もう、二十日ぐらいです‥‥」 やつれた顔の火垂がぽつりぽつりと呟く。 「岩参さんがここ最近、何らかの厄介事に巻き込まれていたような様子はありましたか?」 「なんだか、アヤカシの動きが活発と窺ってました‥‥獣とは思えない足跡も見かけるとも」 ふむと青嵐が考え込むと源三郎が尋ねる。 「最近は金策の事でなにかありましたか」 「私の身請け金で苦労させました‥‥これからは更に働かねばと‥‥」 源三郎の言葉に火垂は顔を俯かせた。 「早まってはいけません。早合点で先立たれては、残された男も辛うござんす」 去り際、源三郎が火垂に声をかけた。 まだ、岩参は死んだわけではない。火垂の自殺も今から行われる捜索も推測の中で発生している。 あの時、火垂が柳枝に気づかれずに命を落とした場合、岩参が生きていた事がわかり、火垂の死を知れば彼はどう思うのか‥‥ 彼の日の衝撃は源三郎の脳裏に今も焼け付いている。 火垂の姿を見て、自身の記憶を垣間見る。一度自身を日陰に落とした翳り。 同じような思いはさせたくない。 岩参が生きているのであれば。 深見の街に入った玖雀(ib6816)は飲み屋の方へと足を向けた。 飲み屋と言ってもどちらかといえば食事をするのが主のようで、持ち帰る為に器を持っていく姿も見受けられる。 甘辛い醤油炊きの匂いにつられ、店の中へと入る。 「竹の子の煮物と、握り飯」 「はいよ」 しっかりと味が含められた煮物はとても美味しい。 「最近、材木屋の岩参って見たか?」 「あー、見てないわね。ちょっと、最近見たー?」 それとなく女将さんに尋ねると、女将さんが別の席にいた大工らしき男に話しかける。 「この間、身請け金払ってすかんぴんだって笑ってたなぁ。あいつの所は、伐採だけじゃなく、その場で材木にも加工しちまうから一度篭ると十日も帰ってこねえ時もある。他の知ってる奴も大将が張り切って大変だと山に行く前に笑ってたさ」 「そうか、ありがとうな」 玖雀は教えてくれた客に何か差し入れてくれと少し多めに代金を払い、店を出た。 くしゃみをする素振りを見せた溟霆(ib0504)はふぅと、ため息をつく。 どうやら、噂をされているようだ。 心当たりはある。 青嵐と源三郎にはいらぬ気遣いをさせただろうと推察する。 仕事が終われば報告と自分の用を足しに花街に向かうので、その時は好機の視線は仕方ないと思う。 「溟霆様」 聞き込みに走っていた雪が溟霆の姿を見つけて声をかける。 「岩参様の姿は、二十日ほど前に山に向かったっきり目撃が途切れているようです」 雪が自分が仕入れてきた情報を溟霆に伝える。 二人の姿に気づいたユリアが合流した。 「山に入ったのは岩参含めて十人。七日に一度ほど報告の文が来るようだけど、それはなかったようよ」 「では、山に入と推察して進めても宜しい所でしょうか」 ユリアの報告に雪が二人に問う。 「そうした方がいいようだ」 玖雀も合流し、歩きがてらに三人の報告を耳にして彼も雪の言葉に賛同のようだ。珠々も合流し、同行者の家族が心配し始めており、深見の領主に捜索隊を派遣するかどうか話をし始めていたという報告した。 「時間が無いようだね」 山に入って問題が発生したと断定しても 程なくして青嵐と源三郎が加わり、開拓者たちは深見の山へと向かった。 「ところで、珠々さん。岩参と人参似てますよね」 「まったく似てません!」 憎きに橙が引き合いに出されて珠々は即座に反応する。 ● 山に入ってからは三手に分かれる。 三手ともにシノビが入って、山もさほど大きくないこともあり、超越聴力である程度は三人の動きを把握できる。 材木屋の山ともあり、定期的に人の手で手入れをして木を育てているようだ。 「店の連中も自分達の食い扶持に困ったような様子は無かったんだな」 「ええ、その辺はきちんとしてたわ」 玖雀の確認にユリアが頷く。大きな金が動くと周囲の動きも変わってくるものだ。げに恐ろしきは人の心なりとはよく言ったものだ。 店の中での問題発生は少ないだろうとは思うが‥‥等と思案していた玖雀が気づいたのは子供の泣き声。 ユリアが玖雀の様子に気づいて声をかけるが、彼が何かを探っているように黙り込み集中している。 「子供がいるようだ」 「こんな処に?」 声を頼りに玖雀が歩き出すと、いたのは七歳か八歳くらいの女の子。 「どうしたの、迷子?」 「おにいちゃんが、かえってこない」 しゃくりあげつつ、女の子が話し出す。女の子の兄は家族を養う為に材木屋で働き始め、両の手で余るほどの日数で帰ってきてないようだ。 「俺達がちゃんとつれて帰ってくるから、ほら」 残念ながら子供が喜ぶような菓子は持ち合わせていなかったので、玖雀は節分豆を渡す。 「‥‥うん、ありがと」 口をへの字に曲げて女の子が豆を握り締める。何か照れているようだ。 「遅れるけど、送らないとね。入り口までしか一緒に居てあげられないけど‥‥」 「いつもいりぐちまでひとりでいくの‥‥」 目線を合わせてユリアが言えば女の子はどうやら、今回初めて山の中へ入ったようで、迷子になったらしい。 「迷子になったら兄ちゃんがっかりするから、家で待ってろよ」 「うん」 山の入り口まで女の子を送って二人は再び中へ走り出す。 源三郎と珠々は水場を探す。 水は人間にとって必要なものだ。その辺りに彼らはいるだろうと考えた。 澄んだ水場は飲んでも問題はなさそうだ。 「足跡があります」 複数の足跡に気づいた二人が頷きあう。 「足の種類は五人ほどでした。水汲みは交代制でもそれ以上の人数の足跡がなければならないと思います」 ぽつりと珠々が言えば源三郎の表情が硬くなる。 「負傷者という事ですかい」 二人の耳に木に何かを当てている音が聞こえ、二人が顔を見合わせて駆け出した。 「聞こえましたか。今、そちらに向かいます」 珠々がシノビ達に言葉を伝える。 「木を切る音がめちゃくちゃです」 その場所へついた時、木を囲んでいるのはきこりではなく山賊だった。 「やい! 手前ら、なにしてやがる!」 源三郎が咆哮を発動すると、男達は敵意を源三郎へと向ける。 人数は五人。即座に奔刃術を発動させた珠々が走り出して源三郎に意識を向けた男達にとび蹴りを食らわす。 「ごふぅ!」 「人の恋路を邪魔するものはゆるしません!」 倒れたひとりを足蹴にして珠々が叫ぶ。 「やっちまえ!」 相手は男一人とすばしっこい小娘。咆哮で気が向けられようとも四人でやれると思った。 荒立った黒猫に任せつつ、源三郎はひとりを捕まえ、岩参達の事を尋問。 少しでも情報がほしいゆえにだ。山賊の男はここより更に向こうの方にいると言った。 取りあえず、手近な蔦で山賊たちを縛り付けて二人は奥へと向かった。他のシノビ達にもその事は聞こえており、時機の悪い連中だと哀れむ。 最後の組である溟霆、青嵐、雪は珠々の暴れっぷりに平常運転だと感想を持つ。 「山賊は大丈夫でしょうか‥‥」 珠々に対し、信頼を寄せる雪だからこその言葉であり、青嵐は大丈夫でしょうと答えた。 「雪君、そろそろ」 「はい」 溟霆に促されて雪は瘴索結界「念」を発動する。 「気をつけて」 青嵐が雪に気遣いつつ、歩みを進める。 進んだ間もなく瘴索結界「念」が瘴気を感じる。 「かなり先ですが、います。今、わかったのは三体」 警戒した様子で雪が言えば、シノビ達に十分聞こえた。 更に先を進んでいくと、数が増えていく。珠々達と合流した時点でその数は六体。 「獣系アヤカシのようだね。厄介そうなアヤカシがいなければいいのだけど」 ため息交じりに溟霆が呟く。 「暴れているというよりも、辺りを窺っているようですね」 同じく耳を澄ましている珠々が呟く。 「ユリア様達を待って、突入いたしましょうか」 雪の提案に全員が頷く。 ユリアと玖雀が合流して地図を確認すると、この先に岩参達の宿泊所があるようだ。 「俺らでひきつけるから、後は一気に対処だ」 前に出るのは玖雀と源三郎。 目で確認できるのは狼アヤカシ三体。 「犬っころ! 相手してやる!」 源三郎の咆哮にひきつけられたアヤカシが源三郎の方へと走る。彼の前を駆けるのは玖雀。 手にした一本の棍棒を構え狼アヤカシに突進する。右手で棍棒を振り上げると、アヤカシは避けた。からりと、棍の先が折れて避けた狼アヤカシの背骨を叩き折る。衝撃に耐え切れなかった狼アヤカシがそのまま地を這う。 「次はお前かっ」 手近な玖雀へとアヤカシは牙を剥く。腕を返せば節が増えて緩やかな曲線で狼アヤカシの横顔へ叩きつける。 源三郎の鋭い剣気はアヤカシを怯ませるが、勝るは人への食欲。源三郎へと爪を立てようと走り出す。 「はぁああ!」 気合一閃、源三郎の太刀筋はすれ違いざまに狼アヤカシの胴を切断した。 前衛二人を残し、開拓者達は岩参達の宿泊所へ走る。 獣アヤカシが徘徊しており、狒々と鹿のアヤカシがいた。 「一掃します!」 青嵐の言葉は即呪符へ込められ、氷龍を召還し、アヤカシ達の動きを鈍らせる。 投射の計算を終えたユリアは神槍「グングニル」を放ち、尚も動こうとする鹿アヤカシの頭を砕く。狒々アヤカシ目掛けて投射し、更に走り出す。 甲高い悲鳴を上げた狒々アヤカシは動きを止め、神槍は主の下へと戻るため動き出した。途中、もう一体の狒々アヤカシを貫通してもその威力は衰えず、ユリアの手元に帰還する。 「雪、急いで! 頼むわよ!」 「はい!」 溟霆が先導となり、雪がユリアの激励を受けて走り出す。雪の視界からも宿泊所らしき姿はあれど、アヤカシがたむろしていた。 「僕らは開拓者だ! 助けに来た! 戸を開けてくれ!」 溟霆が宿泊所に向かって叫ぶと、閂が外される音がした。 「助けてくれ! 怪我人がいる!」 戸の向こうから若い男の叫び声が響く。 「反対お願いします」 珠々が溟霆に言えば彼は頷き、珠々と別な方向へ向ける。雪はきりっと、宿泊所の戸へと視線を向ける。 「飛び込みますので開けてください!」 雪の言葉に戸が恐る恐る開けられていき、駆け出した。雪一人がようやく入れる位の隙間が開くと、有限実行で飛び込んだ。 身体を打ったが、今はそれどころではない。身体を起こして雪は即座に閃癒を皆に発動する。ざっと見渡せば、けが人ばかり。重体者が四名、閃癒では間に合わないかもしれない。 「大将を助けてやってください!」 年若い少年の悲痛な声に雪は横になっている者の傍らに駆けつける。 「ユリア様、重傷者が数名います。閃癒をもう一度!」 走ってくるだろうユリアに雪が叫ぶと後ろから「分ったわ!」と頼れる声が聞こえ、彼女も中に入り、閃癒を発動する。 「骨を折っている人もいるようよ、手伝って!」 様子を見たユリアの言葉に源三郎が中に入り、骨折の処置を施す。 「彼が、岩参ね‥‥」 人相書きを手にしたユリアが確認する。横たわって、心の臓の動きが弱まって虫の息の男は岩参だ。 「はい」 「遊女、火垂の依頼を受けてきたわ、貴方達、アヤカシに襲われて籠城を?」 ユリアの言葉に男達は頷く。 「いけません、そちらに逝ってはなりません!」 雪は必死に岩参に声をかける。 「貴方は火垂様を娶るのでしょう!!」 悲鳴にも近い雪の言葉と同時に夜の如く黒い結界が雪と岩参を包み込む。 星を通じ、雪は岩参の魂に触れる。 探すのは宿星の欠片。 振り向いた時、釣鐘型の花のような何かのようなものがあったような気がしたが、それは探していた宿星の欠片。 「かえりましょう。繚咲へ。火垂様の下へ」 黒の結界が消えたとき、岩参の心の臓は再び動き出した。 そこからその場で出来る処置を施されて、深見領主の使いの下、山から下ろされた。 「火垂の下にでも放り込んでおけ」 現場に臨場した深見領主が岩参を花街へ送れと指示する。 「寄り道は出来ないからな。花でも渡してこい」 玖雀が早咲きの火垂袋の花を摘み、岩参の着物の襟に差し込むと、朦朧とした意識の中、彼は了承したような気がした。 ● 玖雀とユリアが遭遇した女の子の兄も無事に山を降り、女の子と無事に会えた。 「大丈夫ですか‥‥」 「ええ、結構、疲れます‥‥」 珠々が雪の手を引きつつ、心配する。 「急ぐことはもうないし、ゆっくり行きましょ」 「ですが、旦那様を神楽の都においてて」 茶目っ気たっぷりにユリアが言えば、雪は困ったように笑う。 「結婚したんだっけ、おめでとう♪ そうね、構ってあげなきゃ拗ねちゃうわよ」 「そうなのですね。気をつけますっ」 先輩嫁様のユリアの言葉に雪はまじめに答える。 「拗ねればいいと思います」 しれっと言う青嵐に溟霆は微笑んで前に出る。 「僕はちょっと用があってね。お先に失礼するよ。雪君は無理せずに」 雪の返事を待たずに溟霆は高砂へと足を速めて去っていった。 「もしかしてですか?」 察した源三郎が言えば青嵐は頷く。 溟霆が向かったのは花街。 楼主に会い、岩参の状態を伝えると禿に火垂に伝えるようにと使いを出す。 「さて、楼主に話があるのだが」 「柳枝の事ですね」 楼主が言えば、溟霆は頷く。 「柳枝太夫を僕の妻として身請したい。言うまでもないが、身請金等の一切も廓の定法に従うよ」 意を決した溟霆が言えば、楼主は姿勢を正す。 「かしこまりました。確認を取り、五月末までにこちらより証文を用意いたします」 「頼むよ」 楼主は思い出したように溟霆に声をかける。 「身請け金ですが、ざっと百二十万文は御用意してください。あれはもう、貴方以外の人に身請けはしません、都合がつく時に言って下さい。それまでは命だけは大事にしてください」 「肝に銘じるよ」 頭を下げる楼主に溟霆は微笑んで頷いた。 |