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■オープニング本文 開拓者達が折梅との雪見の宴をした翌日、繚咲の有力者達に一通の手紙が渡された。 沙桐に課せられた命題と貌佳領主の処分の件だ。 この二件に関しては驚きを隠せない。 開拓者を雇ったとしても沙桐がアヤカシを倒すという課題を守れるとは思っていなかったし、繚咲の血統の為とはいえ、貌佳領主が実の妹に子供を産ませた上にアヤカシを隠匿していた事実は衝撃だった。 それと同時に貌佳の領主となれる機会もあり、有力者達は水面下で戦々恐々としている。 しかし、有力者にとってもう一つは沙桐の花嫁である。 相手の情報は少しずつ漏れており、開拓者ではないかという話もある。 そして、百響討伐時には高砂領主、深見領主が己の兵を率いて戦っていたと聞く。 あの二人が関わったとすれば、三小領主の中二人が沙桐の花嫁の件に関して賛同しているのではないのだろうか。 開拓者とはいえ、状況次第では人間である。 愚かな考えを持つ者も少なくはない。 当然のことながら、沙桐も折梅も予測済みだ。 顔合わせの前夜、麻貴と沙桐は高砂領主の屋敷の客間で布団を並べていた。 子供時代、出来なかったことだ。 生き別れにならなかったら、幼い頃はこんな風に布団を並べて寝ていたのだろうかと二人は思う。 幼少時代、麻貴は葉桜とよく寝ていた。杉明はとても忙しく、帰れないときは柊真や梢一が泊まりにきてくれて四人で寝ていた。 沙桐は折梅が忙しいこともあり、繚咲時代は常に一人だった。 たまに天蓋へ遊びに行くことがあり、蓮誠や架蓮が遊び友達だった。 二人は沙桐を主と慕い、忠誠を誓っているが、気を許している友人でもある。沙桐も二人は数少ない友人だ。 そんな双子がぽつりぽつりと話している。 最近あった話は高砂の花魁の話。百響に捕らえられた花魁の両親は生活を行うだけなら特に支障はなくなっていた。 両親としては捕らわれた事を恥じと思い、償いのため早く外で働かせてほしいと言っているようだった。 「けどさ、柳枝ってさ」 「身請けになるのかなぁ‥‥あいつの性格なら自分で貯めてると思うけど。自分で探しに行きたがっていたようだし、男としては身請けしたいって思うんじゃないかな」 「‥‥んー、ざっと百万文‥‥?」 「目方量らないと判らないけど、それくらいかなー。先はわからないけどね」 ぽつぽつ双子が話しつつ、ふと、麻貴の表情が真剣となる。 「‥‥沙桐」 「ん?」 躊躇いがちな麻貴の言葉に沙桐は頭を麻貴の方に向ける。 「緑萼殿を憎んでいるのか」 「ああ、あいつは麻貴を追い出してあんな二つ名をつけたんだ」 吐かれる息が炎のようだと麻貴は思う。この炎が鎮まる時が何故来ないのかと麻貴は心が締め付けられるような思いになる。 「‥‥麻にはそういう薬効があるからな」 「明日は早いよ。寝よう」 話を切る沙桐に麻貴は悲しそうに瞳を閉じる。幼い頃聞いた記憶を蘇らせる。 麻貴、あの男は優しすぎる故のことだ。 許してやれ。 私はもう、とうに許しているのに‥‥ どうすれば沙桐の憎しみの炎を消せるのだろうか‥‥ 何故、理穴にいる杉明に連絡が取れたのか、私だけを引き取らせようとさせたのが誰なのか‥‥ 沙桐を助けて‥‥ 決して悟られまいと麻貴は必死に泣かないように耐えた。 翌朝、麻貴と沙桐は開拓者を迎えに繚咲のはずれまで来ていた。 「いるよなー」 「いるなー」 双子は肩を落としつつ開拓者を迎え入れる。 「いるね」 「連れてきてますね」 「やりますか」 開拓者達も気づいており、声をかけてくれる。 「大先生達お願いします」 自棄の悪ノリで双子が開拓者に声をかけた。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志 |
■リプレイ本文 少し時間を巻き戻して、集まってくれた開拓者の中に久々に見る顔を見て麻貴は嬉しそうに微笑む。 「ご無沙汰してます。長年の因縁、終わらせましょう」 「よく来てくれた」 穏やかな微笑みを浮かべたその男、紫雲雅人(ia5150)の姿は麻貴にとって頼もしい存在だ。 他の開拓者も麻貴にも沙桐にとっても代え難い存在ばかりだ。 「来てくれてありがとう」 沙桐が見つめるのは雪だ。 「緑萼様が設けてくださった席です。共にいます」 迷いない白野威雪(ia0736)の佇まいに輝血(ia5431)は眩しそうに目を細める。 ふと、溟霆(ib0504)が視線を向けた。 いる。 当然の事ながら、双子も開拓者もわかっている。 野暮な草達だ。 「大先生達、よろしくお願いします」 「ど〜れ、俺達に任せな」 ノリよく答える羽喰琥珀(ib3263)に御樹青嵐(ia1669)と珠々(ia5322)が頷く。 麻貴と沙桐は駕籠に乗ってもらうようにと言われた。 先行組は輝血、雅人が隠れて監視。珠々は一般人に変装をして先を歩いている。 確認をしたところ、三人はいるだろうというのがわかる。 少し離れているのは妨害を目的としているのではなく、様子見だろう。 互いの手の内は分っている。 珠々の耳にも息を潜めて沙桐達を殺そうとしている者達が待ち構えているのが聞こえてきていた。 ふと、雅人は顔を上げる。 視界に映るのは芽吹く前の木々だが、それはすぐに芽吹く事のない木々であり、生きている植物の色ではない。 この自然もまた被害者なのかと雅人は思う。 シノビ達の感覚に呼応するように一陣の風となった練力が隠れている雅人を襲う。 雅人もまたその動きを見極めており、くるりと身を翻しその風を避けた。他のシノビ組も気づくだろうと思い、雅人は剣を投げと瞬く間に短い悲鳴を上げさせる。 一方、輝血はもう攻撃を受けていた。 分銅の鎖が走り、輝血を捕らえようとすれども、風の宝珠の力を借りた彼女に届くことはない。 むしろ、輝血の方から駆けだし、投射された分銅の先につま先をかけて跳躍する。分銅をもった男の頭上を跳び、背後に回ると華奢な腕が男の首を絡めて締上げた。 「うわああああ!」 輝血の実力差を悟ったサムライらしき男が悲鳴のような声を上げて刀を振りあげたが、その振りあげる刀で斬ることもできずに崩れ落ちる。 崩れ落ちた男の背後に潜むように攻撃を加えた雅人に輝血はちろりと見やった。 「鈍ってないね」 「それはどうも」 素直な評価を下す輝血の言葉は嬉しいものだ。 「猫の手にもなればいいですよ」 「黒猫の手はいつだって全開だよ。この辺は後、二人かな」 輝血の軽口に雅人は口元に笑みを浮かべて雅人は黒猫のいる方向を見つめた。 話の黒猫は囲まれていた。見た目は小柄であれど、歴戦のシノビ。傭兵として戦いたいという心もあり、迷いが構えにでている。 「おかあさんを鷹来家の娘にするために、雪さんとおじさんをけっこんさせるために来ました。おかあさんたちには指一本さわらせません」 手には短刀が握られていたが、男達は珠々の動きを注意していた。 緊張に耐えきれなかった男が珠々に突撃をする。握られている槍を思い切り前へ突き出す。 槍の穂先が珠々に届くか否かの瞬間、短刀が軽く当てられる。微かな金属の振動は大きく槍の進路を変えていた。小さな変化に槍使いは槍を薙ぐ為、体勢を動かしたはずなのに男の視界は空を捉えている。 男はまだ気づいていない。己の嗅覚が甘さを感じている事に、自分が倒れた事も。 「この辺にいる前衛は片付けたと思います」 珠々の呟きは十分に届いていた。 一般の旅人姿の溟霆は依頼に集中せねばと思えども脳裏にかすめるものがある。 「柳枝の事?」 沙桐が尋ねれば溟霆は頷く。心の中で不覚だったかなと思いつつ。 「顔にでてたかな」 「まぁね」 声で「百万文」と言ってたのだが、仲間達はあえてスルーした。 「私も応援しております」 「ありがとう、雪君、もう少しだからね。正念場だけど」 「大丈夫です」 穏やかに話しかける溟霆に雪はしっかりと返した。覚悟を持った彼女はとても凛として美しく思える。 先を進むと、戦闘の後の様な痕跡を見つけた。 「待ち構えておりましたのね」 「ああ、そうみたいだな。今はまだ見つけやすいけど、街中でも注意しねえと」 痕跡を視界に入れた雪が呟くと、琥珀が警戒を強める。 「高砂の街中は碁盤の目のような状態です。一本道とはいえ、わき道からの攻撃は避けられないかもしれません」 小鳥型の人魂を飛ばした青嵐が話に加わる。 高砂は繚咲の中では豪農地帯と言われているが、領主の屋敷から鷹来家本屋敷の周辺は店で賑わっている。 今日もその賑わいは変わらない。 二組の駕籠が大きな街を走り抜ける。今日は鷹来家本屋敷で有力者が集う日であるのはこの周辺の者達は察していた。ああ、どこかの有力者が本屋敷へと向かうのだなと見ていた。 ある地点で浪人のような男達が何かを窺うように屯していた。人ごみもそこそこにあり、気を張らねばならない。 十字路を越えた時、溟霆が振り向いたのに気づいた開拓者達が身構える。 後ろの方から女の甲高い悲鳴が聞こえ、背後からばたばたと駆け出す音が鼓膜を騒がす。 「来なすったな!」 早く反応したのは琥珀だ。彼が向いている方向は前方だが、そちらからもまた刀を抜いた男達が駆けてくる。 刀も抜かずに前に出た琥珀をみた男達は斬って捨てろと叫んでいる。 子供だからという理由で侮られるのはよくある事だ。だが、琥珀はそんなことも不敵な笑みで返す。間合いに入った瞬間、琥珀の手が背後へと向ける。 いち早く刀を振り上げ、琥珀に凶刃を向けようとした男が後方へと吹き飛ばされる。 その瞬間、何が起きたか開拓者以外には理解できなかった。 「無っ粋だなー!」 腕を閃く琥珀の手には細身の天儀刀があった。 「人様の晴れ舞台邪魔しよーって無粋者は、俺達にぶっ飛ばされてから馬にでも蹴られてなっ」 「全くですね」 ぱらりと呪術符を手の中で広げた青嵐が同意する。 「雪さんは後ろに」 「私も護ります」 青嵐が駕籠と雪を護るように立ちはだかると、後方からの攻撃を威嚇するように雪が発動させたのは浄炎。 訓練されていない限り人間は炎に対し、反射的に恐れを抱く。周囲への火事の心配はないが、触れた人間すらその炎に焼かれてしまう。 「このような事をし、主の名を傷つけるのですか!」 凛とした雪の声音に男達は怯んでしまう。 「やっちまえ!」 数ならば自分たちが上。自分達が無事ですまないかもしれないが、女子供にいいようにされたくはない心の上で男達は士気をあげる。 「愚かだね」 投げ放たれたのは溟霆の赤い刀身の飛苦無だ。人の隙間を縫い、サムライの男の刀身を柄に近いところから折った。 「きっとあのひとがおよめさんだ!」 通行人の子供が雪を見て叫んだ。高砂の街でよく雪の姿は見かけられている。香雪様こと折梅とも仲がいいのも情報通には知れ渡っている。 「沙桐様を護れ!」 「沙桐様の嫁さんをまもるんだ!」 叫んだのは街の人々だ。石や桶、台など、手当たり次第浪人達に物が投げつけられる。 「怪我をさせてはいけません!」 驚いた雪が咄嗟に声を出すも、無抵抗となった浪人達に「押さえつけろ」と男達が束になって押さえつけに走る。 「私は聞きだしで残ります。ご武運を!」 「青嵐様!」 「いくぞ!」 残る青嵐を心配する雪だが、時間が無いと琥珀が駕籠の持ち手役と雪に声をかける。 「おやおや」 屋根の上から見ていたシノビ達が無謀と言うか、勇敢な街人達に感心する。 「早速愛される花嫁ですね」 「雪は頑張ってきたから」 「本当に頑張ってました」 更に向こうにも応援の足が来ている。シノビ達は静かに排除に走った。 何段にも強襲の駒が伏せている。もう、本屋敷は目の前なのに。 溟霆は先に潜む凶刃を倒していた。 背後から敵の加勢する音に気づいたが、それでも溟霆は疲れを見せなかった。ここから少し離れたところに愛しい太陽がいる。情けない姿は見せたくない。 駆ける音に気づいた溟霆が敵かと思ったが、それは違う事をすぐに理解できる。 「緑萼様の名の下、助太刀致す」 静かな口調に蓮誠を思い出した溟霆だが、それは彼の声ではない。視界に入った姿に溟霆は目を見張った。 「千島殿‥‥」 愛しい太陽の父、千島がそこにいた。 二人のシノビが浪人達を押さえている間にも二組の駕籠と開拓者達が花蓮と蓮誠に迎えられていた。 「雪様、正念場です‥‥」 「私達が雪殿をお守りします」 ぎゅっと雪の細く白い手を架蓮が握り締め、蓮誠が誓う。 広間には繚咲中の有力者達が集まっていた。 一際、その視線を注がれているのは泉だった。彼女の父は繚咲北部の魔の森の主を匿っていた。繚咲の裏切り者という位置にいる彼女に聞こえるように非難が浴びせられる。 泉は悔しそうに拳を握り、唇をかみ締めていた。いつ、爪で手のひらを傷つけるか時間の問題のようだが、それは雪の手でやんわりと止められる。 「御傍におります」 優しい雪の声は泉の心に沁みる。それと同時に非難の行き先は鷹来家直系の血を流し、他国の血を流す双子の姿に注がれる。 そして、繚咲の実質最高権力者の緑萼と折梅が現れた。 雪は沙桐の様子が心配で仕方ない。沙桐の目がとても冷たいからだ。 「さて、はじめようか」 よく通る緑萼の声が響いた。 会議の内容はまず、貌佳領主の件だ。 アヤカシを匿った貌佳領主は領主の権利を剥奪するのは満場一致だ。 「全て、奴のみの企てた事。娘である泉も奴の秘密を知ろうとし、殺されかけたのは開拓者ギルドの報告書にもあることだ。一族への処罰はなし。次の貌佳領主は現時点では空席」 すぐには決められないというのは仕方ない事だ。 「泉、お前には二年、ここで暮らしてもらう」 「はい」 「ここで貌佳領主代理としての勉学を身に着けてもらう。芽吹かなかった場合、他の者にその座を譲る事」 そこでざわめく広間に折梅の静かな一喝が入り、次の議題に入る。 沙桐の件だ。 「昨年、年頭に言い渡したとおり、沙桐はアヤカシ百響を討伐した。その件は事実。彼の要求をのみ、開拓者、白野威雪殿を花嫁として迎え入れる」 緑萼の言葉に一人の有力者が声を上げた。 「鷹来家の嫁は必ず繚咲の有力者の娘でなければなるまい!」 「血を保存しようとし、己の近親者に子供を産ませるような真似をしろと?」 皮肉めいた声は廊下から聞こえた。 「お届け物です」 美しい青年と娘の登場に場が騒然となり、二人が床に打ちつけたのは浪人の一人。 「あ、さっきの」 琥珀が言えば美しい青年こと青嵐は何人かの名を上げる。全て、繚咲の有力者の名だ。 「彼らはさきほど、沙桐さん、麻貴さん、雪さんに危害を無そうと浪人らを回しました。全て吐き、逃げられませんよ」 顔を赤くしたり青ざめたりと忙しい場の中、くつくつ笑う声が聞こえた。 「繚咲の有力者が親でいいのであれば、今すぐ、俺が白野威殿を娘にしよう」 意地悪げに少し楽しそうに言葉を差し入れたのは高砂領主の大理だ。 「我ら、深見の娘に相応しい。私の娘としても歓迎です」 更に声を上げる新しい深見領主である常盤も真面目に言っている。 「わ、私はまだ代理ですが、私もです! 若いお母さんだけどよかったら」 泉が隣の雪の手を握り返すと雪は立ち上がった。 「一介の開拓者である私にご温情ありがたく思います。私はこの身一つで沙桐様をお慕い申し上げてます。末永く、隣にありたく思います」 ここに自分を快く思うものはいないものもいるが、三領主のように護ってくれる人もいる。開拓者の仲間が支えてくれる。 何より、愛しい沙桐がいるではないか。 心強い人々の思いを受け、雪は言葉を述べた。一度、折梅の方を向けば、彼女は微笑んでくれた。 「俺は繚咲を護る当主として、一緒に戦ってくれた雪殿以外の女性を選ぶつもりはない。彼女はこの地を守ってくれた人の一人だから」 沙桐が立ち上がると雪の方へと向かい、彼女の肩を抱く。 「頼む‥‥麻貴を俺の姉として認めてほしい。雪ちゃんを俺の花嫁として認めてほしい」 雪は自身の肩を抱く沙桐の手が震えている事に気づく。きっと、悔しいのだろう。憎い相手に頭を垂れて願いを乞う事が。 「我々、三領主は白野威雪殿を花嫁として迎え入れる意志を一致させた。そして、麻貴もまた、鷹来姓を名乗らす事に賛成だ。彼女もまた、百響討伐に参加したものだからな。繚咲を救った者を無碍にする気はない」 朗々と宣言する大理に緑萼はその考えを受け入れた。 「今日の顔合わせは終了ですね」 にっこりと折梅が微笑む。 その声は外で警戒に当たるシノビ達にも聞こえた。 「悲願、達成ですね」 「おかあさんのところに行ってきます!」 雅人が言えば珠々は一目散に本屋敷の中へと走った。 「長かったね」 ふーっと、ため息をつくのは溟霆だ。 「気疲れですか」 くつりと笑う雅人に溟霆は「僕も緊張する事もあるよ」と返した。 顔合わせが終わったあと青嵐は輝血と二人で上弦の月を見上げていた。 「輝血さんに伝えたいことがあります」 「何?」 真摯に見つめる青嵐に輝血は少し心をどよめかされる。 「私も輝血さんとの未来を勝ち取りたいと思います。輝血さんの背負う物、私にも背負わせてください。貴方と共にありたい」 時が止まるような感覚に襲われた輝血はただ、青嵐の黒曜石のような瞳から逃げられなかった。 違う場所で沙桐は雪と共にいた。 「祝言の日取り、今月中ってあいつが言ってたけど、次会った時ずらしたいなら言ってやって」 「はい」 あいつとは緑萼の事だ。沙桐は何だか少し疲れているようであった。 「雪ちゃん‥‥ごめんね、悪意むき出しのような場所に連れてこさせて、先に花嫁衣裳とか頼んでてごめん、驚かせようとしたんだ‥‥気持ち考えてなくてごめん」 沙桐に向き直った雪が何かを言おうとする前に沙桐が彼女を抱きしめる。 「俺のお嫁さんになってくれてありがとう‥‥」 「私は沙桐様と共にいたいですから」 声を震わせる沙桐が泣いていた。 「読売屋、お疲れ」 銚子を手にした麻貴が雅人の杯に酒を注ぐ。 「猫の手にもなれませんでしたが」 「何を言うか、君らがいてくれたからこそ、外での余計な揉め事がなかった。ありがとう」 自嘲する雅人に麻貴が首を振る。 「こっちの因縁も終わりましたし、読売屋再始動です」 「久々の瓦版は繚咲のお嫁さん騒動決着ですか? 永久保存版です」 肴もどうぞと珠々が勧めて来た。 「祝言ってどうなるんだ?」 首を傾げる琥珀に麻貴は同じく首を傾げる。 「緑萼殿が有力者の意気が消沈している今やりたいとか言ってたけど、雪ちゃんの気持ち次第じゃないかな」 「よかったな。うまく行って」 にかっと、琥珀が笑うと麻貴が嬉しそうにうなずく。 |