薄明の天岐
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/31 22:03



■オープニング本文

 睦月も半ばのこの頃は肌にはまだ寒い。
 大きく息を吐く色がほんのり白い。
 風が浚う薄茶の髪は寒さで上気した頬を撫でた。しかし、そんな寒さも気にならないほど心は浮き立つ。
 水色の瞳が見るのは憧れの土地、神楽の都――!

「キズナちゃん?」
 きょろきょろしている薄茶の髪の子供に声をかけたのは北花真魚。
 ギルド員と一見しただけでわかる羽織を着ていた。
「真魚さんですか」
 キズナと呼ばれた子供は顔を明るくする。
「理穴からの旅路お疲れ様です」
「平気です。だって、神楽の都に行けるのですから」
 本当に楽しみにしていたキズナは目が輝いている。
「でも、本当にその格好なのね‥‥」
「わかりやすいかなって。後、変装の練習にもなりますから」
 にこっと笑うキズナに真魚はくすっと笑う。
「では、行きましょ」
 見た目は少女でもキズナという子供は少年である。シノビとして現在修行中の志体もちだ。

 今、各国の王様が神楽の都に集まっているのだという。
 キズナが現在居住している理穴国の王もまた神楽の都に滞在している。彼が世話になっている人達は不在の王を支えるため、忙しいようだ。
 折角だから観光してこいと言われ、キズナは一人神楽の都に来た。
 本来、キズナは保護対象であるが、彼の保護者代役である理穴監察方の上原柊真はあえて一人で神楽の都へ行かせた。
 実を言うと、キズナは成人後、理穴監察方の役人になりたいと意志を固めてはじめているのだという。
 ぶっちゃけた話、キズナはまだ形にはなってないが人格、能力、容姿においても将来有望である事は監察方の偉い人達は見抜いているし、欲しい。
 だが、キズナはまだ成人していない。来年の春で成人を迎えるまでに柊真はキズナに色々と見て欲しいと考えている。
 それでも監察方に入りたいのであれば歓迎する。

 社会見学を兼ねてキズナを神楽の都に向かわせた。
 開拓者はキズナも知っているし、その名は開拓者につけてもらった宝物だ。
「どんな人がいるんだろう‥‥」
 わくわくを隠せないキズナは開拓者ギルドへと向かった。

 きょとーんとしているキズナは小袖の上に羽織を着せられた。
 そう、開拓者ギルドの受付員の羽織だ。
「あらー、かわいいーー」
「似合ってる」
「君、いい身体してるね。開拓者ギルドで働かないかい?」
 他の受付員達よりちやほやされるキズナ。
「真魚さん、どういうことですかーー!?」
「柊真さんより職業体験してほしいといわれてるの。手伝いなら大丈夫だから」
「‥‥ぼく、開拓者の仕事するんだとおもいました‥‥」
 がっくりうなだれるキズナはギルドの事務仕事に精を出す。
 基本は真魚の指示の下の雑用なので、楽は言えば楽だが、中々に量がある。
 一日職業体験が終わったキズナには真魚より包みが渡された。
「え‥‥おかね‥‥?」
「そう、働いたからにはお給金を受け取らなきゃ」
 笑顔の真魚にキズナはおずおずと受け取る。
「ぼく。はじめて働いてお金を貰った‥‥」
 物心つくころから親族に虐待されて育ち、開拓者達のおかげで保護者ができたが、そこではお小遣いを貰っていたので、稼いだ事はなかった。
「これで旭さん達へお土産買ったら?」
 助言にキズナは一つうなづいた。
 キズナは神楽の都の宿で滞在予定。真魚はといえば‥‥
「‥‥私には行くべき場所があるから‥‥! 茶トラにゃんこ総右側新刊がね‥‥!」
 そう言って帰ってしまった。
 因みに明日はお休みを貰っているらしい。その背中からにじみ出るオーラがずいぶんと腐れていた気がしたが、キズナにはまだ早い話。

「キズナちゃんも早く上がりなさいよ」
 真魚と仲がいい受付員からも言われてキズナは羽織を脱いだその時だ。
「おとうちゃんが、おとうちゃんが‥‥っ」
 小さな女の子が入り口前で泣きながら叫んでいた。
「どうかしたの」
 キズナが駆け寄ると女の子は泣きながらであるが、父親がアヤカシに怪我をさせられたそうだ。
 女の子は神楽の都郊外に住んでおり父親が林へ作業に出かけた際、アヤカシに襲われたらしい。無我夢中で逃げ帰りとりあえずは命はある。
 父親の斧がその林の中にあるので取りにいってほしいそうです。
 だが、依頼となれば金が要るも女の子は持っていない。
「おとうちゃんのおの‥‥」
 更に泣き出す女の子を見てキズナは昔、開拓者に言われた事を思い出す。

「確かに開拓者は金で使える。金がなくてもつき合う者もいない事はない。知り合いの力も借りれば、自分の力以上の事が可能となる。覚えておけ」
 
 キズナは振り返り、受付員に声をかける。
「ぼくがお金をだします! どなたか、同行してください!」
 中には開拓者がおり、その場で募集が行われた。


■参加者一覧
若獅(ia5248
17歳・女・泰
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
珠々(ia5322
10歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
祖父江 葛籠(ib9769
16歳・女・武
ガートルード・A・K(ic1031
19歳・女・吟


■リプレイ本文

 神楽の都のギルドはとても賑やかだ。
 入り口の方で女の子の泣き声に反応した御凪祥(ia5285)は束ねた黒髪を揺らして振り向いた。
 結構な人がいたので、あまり状況が分からなかったが、その後に響いた意志のある少年の声に青の瞳を一度瞬いた。
 記憶の中にある少年の声は意志がこめられたものだっただろうか。
「キズナ!」
 近くにいた声はその時一緒に居た拳士、若獅(ia5248)のもの。そう、彼女がその名を贈ったのだ。
「若獅さん! 祥さんっ! お久しぶりです」
「また‥‥大きくなった‥‥」
 驚愕していたのは珠々(ia5322)。確かにと祥は納得した。久しぶりに見たキズナは成長していた。身体も、精神も。
 今は若獅より少し大きいくらいだ。
「神楽の都に来ていたのか。元気そうで何よりだ」
「はい!」
 祥の言葉にキズナは元気よく頷けば、若獅がキズナの服装に気づく。
「ギルド職員になったのか? 小袖似合うな‥‥」
「違います。職業体験をしてこいと言われたのです」
 若獅に小袖姿を見られて恥ずかしくなってきたのか、キズナは慌てて訂正をする。
「キズナ! また変装?」
 騒ぎに気づいた叢雲怜(ib5488)が声をかけるとキズナはこくりと頷いた。
「大丈夫?」
 軽やかな声音が乗せるのは心を落ち着かせる口笛を奏でるガートルード・A・K(ic1031)。
「一生懸命走ってきたんだな」
 女の子が着ていた着物の砂埃に気づいた若獅が見える部分をはたいて落とす。
「泣かないで! アヤカシなんてやっつけるからっ」
 元気よく笑顔で笑いかけるのは祖父江 葛籠(ib9769)だ。素早く印を結んで淨境を女の子へと発動させると女の子の怪我が引いていく。
「うん‥‥うん‥‥お初っていうの‥‥おねがい‥‥」
 開拓者の優しさに明るさに女の子は何度も頷いた。


 泣いていた女の子、お初は神楽の都にはよく行っているので、武器を持つ開拓者に見慣れており、抵抗はない模様。
「開拓者とは話したことがないから、うまくしゃべれない‥‥」
「上手く話そうとしなくてもいい、伝えようとする気持ちが大事だ」
 穏やかに話す祥の言葉にお初は照れて俯いてしまう。
 ガートルードと葛籠に手を繋がれてお初は少し笑ったりしだしている。助けてくれる人達が名乗り出てくれた事で安心しているようでもあった。
 そんなお初の様子にほっとしつつ、若獅はキズナと話をしていた。
「将来の事か‥‥」
 今回、キズナが神楽の都に来た理由を聞いた若獅が呟く。
「ぼくは世の中の事がよくわからないから、色々と見聞するといいと言われました」
「俺達は開拓者だから色んなものを見るけど、開拓者は開拓者で道が決まってるからなぁ」
 キズナの言葉に怜がうーんと悩む。
「道が決まっている者にとってもそれがよき道かはわからない。考える機会を与えられたのはよき事と思う」
 口を開く祥に若獅も同意のようだ。
「将来の事はすごく大事だからな。色んな事を見聞きして、よく考えて決めるといいさ」
 皆、自分で立とうとしているキズナを応援しているのだ。



 お初の住んでいる所は神楽の都郊外の集落だ。キズナの着替えも含めて歩いて一刻もかからない。
 いつもは静かなところらしいが、少し騒がしかった。
「お初!」
 開拓者達と一緒に集落に戻ったお初を見つけ、悲痛そうに叫ぶのは母親だろうか。
「お母ちゃん」
 ひしっとお初を抱きしめる母親を見て気づいたのはガートルード。
「もしかしてオハツちゃん、誰にも言わないで来たとか?」
「きっと、ウチの人の怪我を見て驚いたのだと思います‥‥」
 ガートルードの問いに母親は困ったように答えた。
「アヤカシに襲われて驚くのは無理もない。主人の怪我の様子は」
 志体を持つ開拓者ならアヤカシの力量を見極める事も可能だが、一般人はそうも行かない。
 ましてや、自分を護ってくれる父親が怪我をしたとなれば、その不安は膨れるばかり。お初が恐慌状態になっても開拓者へ頼るという行動は的確だと祥は思う。
 力を持たぬ者のために声を上げて助けを求めるキズナの成長に祥と若獅は嬉しく思う。
 助けを求めるという事は時に勇気を必要とするし、初めて会った時のキズナは何も知らない赤子同然のようなものだったからだ。
「お初ちゃんのパパ上、痛そうなのだ!」
「葛籠さん、お願いします」
 怜とキズナが言えば葛籠が即座印を結ぶ。
「傷が塞がっても、体の衝撃はそのままだから安静にしてね」
 葛籠が注意を促すと、お初の父親はがっかりと項垂れてしまう。
 どうやら、納品をしなくてはならない椀があり、数量は二十。場所は神楽の都のギルド近くなので、開拓者達はその場所は知っている料亭だ。
「御代は些少ですが‥‥」
「好意でやってるし、いいのだけど‥‥」
 ガートルードが小首を傾げるとさらりと切り揃えられた金の髪が揺れる。
「それなら皆でその代金で甘味でもどうだ?」
「ボクも行きたい。依頼後の甘味って美味しいよね」
 若獅の提案にガートルードも同意のようである。
 そんな様子を珠々はしっかりと記録‥‥もとい、記憶する。
 きっと彼は喜ぶだろう。キズナが擦れることなく成長できたのは彼の誠意。
 自身がしてきた事を考えれば裁きは逃れられないが、キズナだけは純粋な善き人であってほしいと思ったのだろうと珠々は思う。
 今となれば彼はわるいひとなのか、いいひとなのか分からないが、分かるのは「法を破った人間」である事。
「オハツちゃん、待っててね」
 にこっと笑顔で笑いかけるガートルードの言葉にお初は元気よく頷く。
「さ、いっくよー!」
 お初の様子をみた葛籠が元気よく開拓者に声を掛けた。



 ある程度の林の様子や地形を教えてもらった開拓者達は林へと足を踏み込んだ。
 前衛は祥と若獅が入る。
 一見すれば静かな森であるが、夜でアヤカシがいる情報があれば薄気味悪く感じる。
「キズナ‥‥?」
 若獅がキズナの様子に気づいた。緊張しているのか、その表情は硬い。
「‥‥ぼく、アヤカシと戦うのあまりやった事がなくて‥‥人と戦うことはあるんですが‥‥」
 現在、治安関係の役人の家に保護されており、お手伝いで悪人と戦う事はあったようだ。
「確かに、人とアヤカシじゃ手加減も動きも違うから、戸惑うよな」
 一緒に困る怜にキズナはこくりと頷く。
「狼型アヤカシがいるのは確定のようだが、俺の心眼では瘴気までは分からないので、超越聴覚が使えるなら音を聴いて俺達に伝えてくれないか?」
 祥の助言にキズナは頷き、意識を集中して音を伺う。
「向こうの茂みの向こうに獣のような足の動きが聞こえます」
 キズナの報告を聞き、祥が意識を集中してアヤカシの同行を探る。キズナが言っていた地点に気配が二体。場所はまばらであるが五体はいる。
 ゆっくり目を開いた祥は先を進もうと促した。
 今回の依頼の一つにアヤカシ退治の他にお初の父親の斧を取り返すというのもあるので、それを取り戻さないとならない。
「お初ちゃんのお父さんの斧はもう少し奥にあったんだっけ」
 辺りを見回し、葛籠が呟く。
「ウル、シ‥‥とかいう木の近くって言ってたね」
 聞きなれない植物の名をガートルードが記憶を確かめるように声に出す。
「漆には気をつけてください」
「どうして?」
 珠々が注意喚起をすると、ガートルードが尋ねる。
「漆には皮膚がかぶれる作用がある」
「斧を回収したら、すぐ離れるようにしないとならないな」
 祥が説明をし、若獅が対策を述べた。
「先に確かめたほうがいいね」
 怜が言っているのは茂みの向こうにいるだろう気配。
「そうだね。斧も向こうにあるし」
 こくりとガートルードが頷く。
「落ち着いていこう」
 葛籠の言葉に頷いたキズナも動き出すと、怜の動きに気づく。
「何か探してるの?」
「うん、お初ちゃんのパパ上は結構無我夢中になって逃げたようだし、足跡とか分かればなって」
 怜の理由を聞いたキズナが見分け方のコツを伝える。
「ほら、こっちの草がを見て」
 草の折れてる方向が少しだけ違って、ガートルードも葛籠も納得する。
「あ、こっちでいいのだな」
「珠々、他に音は聞こえる?」
 はっと、キズナが振り向いて珠々に声をかける。
「今のところは気づかれていないようです」
「よかった、行きましょう」
 声をかけるキズナの表情に緊張の色は見えない。
「きちんと基礎を教えてもらっているようだな」
「まだまだです」
 ほっとしたように囁く祥にシノビとしては先輩の珠々の感想はちょっと厳しい。
「あとは実践だな」
 珠々の頼もしさも知る若獅が頷く。


 用心深く茂みの向こうへと草木を掻き分ける。草木の揺れる音が聞こえていたのだろうか、狼型アヤカシが前衛達へ飛び上がった。
 察知していたかのように十字槍の穂先が狼型アヤカシの喉笛を刺して動きを牽制する。なおもアヤカシは人間を欲するように四本足を動かしてもがいている。
 次に飛び出してきたのは若獅だ。地を蹴り、手にした闘布に風を孕ませて軽やかな動きでもう一匹飛び上がった狼アヤカシの動きを翻弄する。
 若獅の動きに合わせるように滑り込むのは弦楽器の鋭い音色。後方でガートルードがバイオリンを奏でている。彼女の音色は直接的な刃ではないが、仲間達の刃と共に敵を討つ。
 音色に合わせるかのように若獅は敵の動きを見て、自身に飛びつくアヤカシの腹の下に滑り、蹴り上げてアヤカシの着地を不安定にさせる。
「キズナ!」
「はい!」
 若獅の声に反応したキズナが小太刀を構え飛びだす。狼アヤカシは着地に失敗したが、新たな標的を見つけ、体勢を整えてキズナに襲い掛かる。
 キズナの方が仕掛ける機微が早く、攻撃を受けるかもしれないと若獅は読んだが、それは杞憂で終わる。狼アヤカシの動きがもたつき、キズナの機微が合わさる。
「は!」
 気合と共にキズナは狼アヤカシを一刀両断にする。
「やったな!」
 ぱっと、顔を明るくして誉める若獅にキズナはとても嬉しそうだ。
「自信になるといいね」
 微笑んだガートルードは次の曲を奏でる。重低音の響く重く息苦しさを伝わる曲だ。
「見事だ。次がくるぞ」
「はい!」
 祥の言葉にキズナは葛籠と共に彼の後ろについて攻撃に備える。
 戦闘の構えをしつつも、葛籠はと怜はお初の父親の斧を捜している。
 話によれば、ここはアヤカシなど出たことがなかった。
 だから特にアヤカシ対策などはやることもなく漆を採りに行っていたそうだ。
 斧は大小様々あれど、手近な武器であると同時に重い荷物でもある。
 そして、漆の木の近くに置いてきたというか、アヤカシに向かって投げたという。
 目印は漆の木に斧の傷がある周辺だろうと考える。
 怜は一度思考を停止し、アヤカシの動きに集中する。
「後ろ‥‥!」
 素早く叫んだのはガートルード。
「任せて」
 言葉が言い終わるよりも早く振り返り、素早い動作で怜が撃ち放つ弾丸は一度直角に曲がった。
 開拓者の背後に回ろうとしていた狒狒アヤカシの脳天を吹き飛ばし、絶命させる。
 前では祥がアヤカシの相手をしていた。
 長い槍の穂先がゆらゆらと中空を漂い、その刃の煌めきが儚くも感じる。
 今目の前にいるアヤカシは狼型一匹と鹿型アヤカシ一匹。
 獣の本能そのままに威嚇し、弱いものから食べようとする。
 待てができない愚かな狼アヤカシが見すえたのは葛籠。祥の槍が狼アヤカシの腹を切り裂くと、清々しいまでの白色が狼アヤカシの視界を遮る。
 最後の狼アヤカシの目に映ったのは狙った獲物が持つ分厚い刃。
 葛籠に叩き潰された狼アヤカシを踏みつけて鹿アヤカシが駆けだす。
 その瞬間を待っていたかのように急に動きが重くなった。低重音の爆音がアヤカシを襲っている。
 標準を合わせた怜が撃った弾丸が右角を粉砕する。
 若獅が飛び出してアヤカシの頭を蹴り飛ばした先に待ちかまえるのは葛籠の薙刀が頭の半分を叩き割る。
 最後は祥の雷が罰を下して周囲が静かになった。
「終わったようだな」
 ちらりと祥が奥を向けば、闇間から珠々が現れる。
「はい、お掃除完了です」
 珠々は瘴気を振り払うように剣を振って鞘に納める。最後の一体をしとめたようだった。
「いつの間に!」
 驚くキズナに珠々は「キズナにはまだまだです」とやはりちょっと厳しい。
 それでも用心に越したことはなく、七人は漆の木へ向かった。
 漆に触れないように探していると、木の近くに転がっている斧を葛籠が見つけた。
「これでお初ちゃん、喜んでくれるね!」
 嬉しそうに葛籠が斧を大事そうに持つ。

 お初の村に戻った頃は当のお初は眠ってしまっていた。
 確かにもう遅い時間だ。
 集落の数人は起きており、なにも無いが風呂は焚いてくれていたようだった。
 せめて温かい湯で迎えてくれた。
 翌朝、お初は斧を取り返し、アヤカシも倒してくれた事に感謝感激ではじけるような嬉しさを身体いっぱいで表していた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ほんとうにありがとう!」
 両親は只管開拓者に礼を述べて頭を下げていた。
 キズナが代わりに代金を払っていた話も聞いて申し訳なかったようだ。
「依頼料なんだけど‥‥気持ちだけじゃだめかな」
 ガートルードがいえば、キズナはどうしたらいいのか困惑してるが、気持ちは変わらないようだった。
「ぼくは皆さんがいなければこの依頼を成功させる事ができませんでした。どうか、受け取ってください。ぼくの気持ちです。勿論、旭様へのお土産も買います」
 しっかり意志を持ったキズナの言葉にガートルードは笑顔で頷いた。


 神楽の都を観光しつつ、納品も問題なく終わる。甘味屋で休憩してから納品の報告に向かう。
 お祭り騒ぎのような街の賑わいにキズナは迷子にならないようについていくのに必死だった。
「ほら、キズナ向こうの甘味屋まで競争だ!」
 待ちきれない様子の怜が言えば、キズナが驚きつつも「負けないよ!」と走り出した。
「あたしも!」
 葛籠も一緒になって走り出す。
「転ばないでよ」
 ちょっと危なっかしい三人の姿にガートルードが注意の声を上げる。
 甘味屋につくと、珠々は皆の様子を見つつ、最後に頼んだ。祥は甘味が苦手なので、お茶だけだけだが女将さんから茶請けに漬物をおまけして貰った。
「あ、あのっ おひとつどうぞ‥‥っ」
 勇気を出して珠々は隣に座っていた葛籠に声をかける。
「いいの! ありがとう! あたしのもどうぞ!」
「ありがとうございます。ガートルードさんも」
「いただくよ♪」
 女子らしい会話に珠々はいつも通りの表情であるが、嬉しそうなオーラを放っており、中々に微笑ましい。
「キズナ、お疲れさんな」
「若獅さんたちがいてくれたからです」
 隣の卓では若獅がキズナを労わるも、彼は謙虚だ。
「遠慮すんなって、カッコ良かったぜー♪」
 若獅が拳を上げると察したキズナも拳を上げて若獅の拳と軽く打つ。
 これからキズナがどんな大人になっていくのだろうかと目を細め、祥は茶を啜った。