【AP】デコエッグと兎
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/15 21:45



■オープニング本文

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 武天が領地、繚咲。
 米、絹木綿、紙や楽器を生産している土地。
 納めているのは有力志族の一つ、鷹来家。当主は鷹来沙桐。
 現在は繚咲東に巣くうだろうアヤカシ討伐のため、当主としての仕事は叔父緑顎が引き受けている。
 管財人は沙桐の祖母である折梅。今は老いているがその気性は若く、柔軟性が高い。その昔は鉄火肌で人のために東奔西走していた。
 沙桐の出向もかねて近年十年くらい此隅にいたが、去年に繚咲の誘拐事件が起き、その件で繚咲にいる。


 鷹来家の本屋敷のとある一室。
 美しい花達が一年中眺められる中庭に面した部屋は管財人である鷹来折梅の執務室。
 半隠居であるが、まだ執務を行っていた。
 最近は次男に任せつつあるが、大事な所はまだ自分が見ている。
 一息つこうと折梅が庭を見やれば、桜の開花が近づいてきたようであり、心が弾む。
 今年もいつもの桜には会えないのは少し寂しいが‥‥
 仕方ないと折梅は寂しく微笑んだ瞬間、可愛らしい笑い声が聞こえた。
「お花見、連れてあげようか?」
 折梅が顔を上げるとそこには百合を模した白無垢姿の娘がいた。顔は綿帽子でよく見えないが佇まいからして人間ではない事を本能で思い知らされる。
「何者ですか」
 厳しい声で折梅が問いただすもその百合の娘は「誰でしょ〜☆」とはぐらかすばかり。
「いつもお仕事で忙しい折梅ちゃんにごほうびよ。えい☆」
 娘が百合の切花を振れば、折梅にピンク色のオーラが纏われ、折梅は本能的に目を瞑った。
 遠くなる意識の中、耳の中に笑い声が反響した。

 折梅不在に気づいたのは折梅の護衛シノビである天蓋領主こと蓮司。
 今日は鷹来家本屋敷におり、異変を察知して向かえば誰もいなかった。緊急を要すると考えた蓮司は開拓者を呼び寄せた。
 数日後、精霊門より武天に現れると、鷹来家当主の沙桐が現れてそこから馬を用意されて開拓者達は夜通し繚咲まで行くように指示された。
 そろそろ高砂の街に入ろうとした時、百合の娘が現れた。
「お前は!」
 沙桐が叫んだのは見覚えがあったからだ。
 年変わり頃に死闘を繰り広げたあのアヤカシだ。
「今日はお誘いに来たのよ♪ 私、百響。よっろしっくね〜☆」
 随分と軽い調子で百響が言えばさっと、百合の切花を振ると、ピンク色のオーラが沙桐と開拓者を包んだ。
 甘い香りと共に一行は意識を手放した。



 沙桐と開拓者一行が目を開けるとまず嗅覚が甘い香りに反応する。起き上がって辺りを見回せばお菓子の建物があった。
 開拓者はそれがジルベリア風の城というのが理解できた。
 黄金色に焼けた煉瓦のクッキー、屋根を模したアイシング、飾り付けはジャムや果実の砂糖煮やチョコレート。
 可愛らしい飾り付けで天辺には王冠に鎮座するカラフルにチョコレートでコーティングとデコレーションされた卵のオブジェがあった。
「あ、お目覚め〜?」
 先程の百響が中空に浮かんで見下ろしていた。
「ここはどこだ。俺達を元の場所に戻せ!」
「あ、だいじょーぶよ〜。自力でちゃーんともどれるから♪」
 きゃらきゃら高い声で百響が笑う。
「自力ってどういうことですか?」
 開拓者の一人が訊ねると、百響は「文字通り」と笑う。
「お菓子の城の中にはお姫様がいるの。そのお姫様に卵を渡すのよ」
「その卵はどこに?」
「それを探すのは自力。城の中にあるから探して」
 どうやらそこまでの義理はないようだ。
「あと、ウサギがその辺に色々と卵を飾ってるから紛い物が沢山あるから気をつけてね」
 渡せばすぐに戻れるからと無責任な事を言って百響は消えてしまった。
 とりあえずは城の中に入り、中を確認する。
 中も全てお菓子でできていた。中庭には七色の炭酸水の噴水があり、飴細工のカフェテラスもあった。
「おいしそう‥‥」
 誰もがポツリと呟く。
 城内に入ってもお菓子ばかり。ソファーはチョコレートスポンジでできており、ソファーカバーはアイシングをレース状に細く描かれてあったものだ。
 最奥の部屋には重厚なチョコレートの扉があった。綺麗にテンパリングされており、とても艶やかで触れる事を躊躇ってしまうがお姫様に会わなくてはならない。
 沙桐が先頭に中に入るとそこには玉座があった。
 ちょこんと座っているのは着物風ドレスに身を包んだ幼女‥‥
「麻貴‥‥?」
 否だ。
「わたしのなまえはおりうめよ」
 記憶上折梅の年齢はその幼女のおよそ十倍だ。
 確実に嫌な予感がする。
「百合のアヤカシにここに連れ去られたの。助けが来るから大人しくいなさいって言われたのよ」
 どうやら御当人のようで‥‥
「でも、ウサギはどこに‥‥」
 開拓者の一人が呟くと、ちび折梅は困った顔をした。
「城の中でいつも卵を飾り付けているわ。それを城中に飾っているの」
「何か分かるような目印とかは?」
 別の開拓者が尋ねると、ちび折梅は自分の顔を指差した。
「私に似てる顔でウサギの耳をつけているわ」
 どうやら、うさ耳ちびっ子がいるようだ。

 ぷっきゅー ぷっきゅー

 空気が抜ける間抜けな足音が近づいてくる。
「たっまごをかっざりましょー♪」
 テンション高い折梅というか、沙桐とよく似たうさ耳ちびっ子が飛び跳ねて王の間に入ってきた。手には綺麗にデコレーションされた卵。
「こっこにーかっざりましょー♪」
 部屋の隅にデコレーションされた卵を飾り、ぷっきゅーと足音を立てながら部屋を出て行った。
「ウサギってあれ?」
「そうみたい。百合の花がついてある卵を探せばいいみたい」
 ちび折梅が頷く。
「寧ろ、あのウサギを問い詰めれば何とかなりそう?」
 開拓者が呟けば沙桐が頷く。
「とりあえずあのウサギ麻貴をひっ捕らえる」
 ぐっと、沙桐がやる気を出した。

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
フレス(ib6696
11歳・女・ジ
白雪 沙羅(ic0498
12歳・女・陰


■リプレイ本文

「ちいさいお‥‥麻貴さんです」
 きらりと目を輝かせたのは珠々(ia5322)。
「似てたわね」
 自身の頬を摩りつつフェンリエッタ(ib0018)が見やったのはちび折梅。
「まーったく、どこの世界も麻貴は迷惑ばかり」
「同感だね」
 麻貴が走っていった方向を見つめつつ言い切ったのは輝血(ia5431)。それに沙桐も頷くと、輝血はじろりと沙桐を睨みつける。
「私達は百響にまんまとやられたのですね」
 固い表情と声音は白野威雪(ia0736)のもの。
「あんなにも愛らしい折梅様や麻貴様に会わせるとはやりますわね」
「いや、そこ違うから」
 キリリと効果音をつけつつ雪が言えば、輝血と沙桐がダブルでツッコミを入れる。
「でも、百合エッグ見つけないと大変なんだよ〜」
 フレス(ib6696)が手をぱたぱたさせながら言えば「そうだねぇ」とのんびりしているのは弖志峰直羽(ia1884)だ。
「でも、お菓子のお城だなんて不思議だね」
 手近の家具を摘めば飴細工のティーカップ。
「俺‥‥このお城貰って帰って王様になりたいんだぜ‥‥」
 キラキラ目を輝かせるのは叢雲怜(ib5488)だ。
「その前に麻貴を捕まえて百合デコエッグを吐かせなきゃね」
 一歩前にでた輝血が言えば、ぴくりと白雪沙羅(ic0498)が反応する。
 美しい髪というか毛並みの白猫。あどけなく見つめる緑の瞳は箱入り子猫といわんばかりであるが‥‥
「狩りの時間にゃーー!! 百合デコエッグ、まってろにゃーー!」
 ぐっと、拳を握りしめ、愛らしい声で雄々しく叫ぶ白猫に沙桐は黙ってうなだれた。
「勇ましいのです」
 きゅんと、白雪のギャップにときめく雪もひっそり暴走しているのに気づく者は意外と少ないだろう。
「猫が増えた?」
「神威人だからしかたないわね」
 冷静な輝血のツッコミにフェンリエッタが理性的なコメントを入れた。


 直羽と沙羅はお菓子調達をしていた。
「ジルベリアのお菓子はあまり知りません‥‥」
 この城の殆どはジルベリアのお菓子で生成されていたようだった。
「んー? でも天儀のお菓子もあるよ」
 直羽がおいでおいですると、沙羅はぱっと、顔を明るくすると、あれっと目を見開く。
「道明寺粉の実でしょうか‥‥」
 桜餅の実が成っていたと思ったら少々勝手が違っていたようだ。ふかした道明寺粉の木に実っていた。
「桜もあればもしかしたら葉っぱの塩漬けがあるかもね」
「あ、花壇と思ったら粒あんでした!」
 はっと、沙羅が植木鉢型に焼いたメレンゲの中に敷き詰められていた粒あんを発見した。
 きらりと、目を輝かせた沙羅は走り出した。桜の葉の塩漬けを目指して。

 フレスと珠々は探検しながら玉子探し。
「ほんとおかしなんだよ〜」
 天井はクッキーの表面にアイシングでコーティングされて、七色の飴のリボンでデコレーションされていた。あっと、珠々が近くの棚に足を掛けて三角跳で跳躍しだす。
 着地の際に彼女の両手にあったのは天井に飾ってあったピンク色のケーキが一個ずつ。
「わ、可愛いんだよ〜」
 あそこにありましたと珠々が顔を見上げればチョコレートのシャンデリアの蝋燭台の上にあったらしい。
 焔を模っただろうイチゴがちょこんと乗ったイチゴ味ケーキ。
「珠姉さま、おいしいんだよ〜。ありがとうなんだよ」
 無邪気なフレスの笑顔に珠々は黙って頷く。どうやら照れてるようだ。
「階段にも玉子を飾ってますね」
 ちらりと珠々が見やれば其処此処にエッグが飾られている。とある一点を見た珠々はそのまま固まってしまう。
 フレスが手にしていたのは人参柄。
 忌まわしき橙はここでも途切れません。

 シノビ特有の身のこなしで城の中を探し回る輝血はあたりを埋め尽くす甘い匂いに飽きる溜息を零した。
「ホント、甘いものばっか‥‥」
 ふとアルコールの匂いに気づいた輝血が近づいたのは丸い砂糖菓子だ。指ざわりは砂糖のざらざらしたもの。その奥からアルコールのにおいがする。
 思い切りよくぽいっと、口の中に入れると砂糖が溶けてとろりと口の中に広がったのは梅酒だ。
「いいね」
 気に入ったようで、もう一個食べる。
 自分は食えるものであればなんでもいいが、他の人はそうは行かない。
 あれっと、輝血が視界の隅に入ったものを探しに行く。
「‥‥甘味ならなんでもあるんだね」
 橙色のクッキーを手に取りつつ、輝血は更に橙色を求めに行った。

 こちら、単独行動の怜。
 男らしくありたいと思う彼でも甘味の魅力は強敵だ!
 目的の百合デコエッグはちび麻貴が知っているようだが、あの麻貴だから簡単にはいかないというのが大人達の考えだ。
「麻貴姉はお菓子好きだからなー」
 きっと、こっちの麻貴も同じくお菓子が好きだろうというのが全員の考えだ。
 お茶会が出来る所がないか探していると、メイド姿の緒水がいた。
「あ、緒水姉〜〜」
 メイド姿の緒水は淑やかに笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ、お客様」
「この城の中でお茶会出来る所はあるの?」
 怜が尋ねると緒水が中庭がお勧めだと言う。
「美しい花々がいつも見ごろですよ」
 其処には大人数でもお茶会を開ける大きい一枚板のテーブルと椅子があるらしい。
「ありがとうなんだぜ♪」
「よきお茶会を」
 場所を確認するために怜は踵を返した。

 フェンリエッタはううん‥‥と唸っていた。
 この世界に来たのはアヤカシの所為だ。現実世界とは全く違うものであり、食べられるもののようで何で出来てるかわからないし、アヤカシの用意したものと考えると出した手を引っ込めたくなるような気持ちにもなる。
「‥‥こわいの?」
 ひょっこりフェンリエッタを覗き込むように見上げるのはちび折梅。
「悩んでても仕方ないわね」
 くすっと、笑うフェンリエッタは折梅も一緒に待ちましょと声をかけると、折梅はこっくりと頷いた。
「あなたはアヤカシの顔を見た?」
 折梅が尋ねると、フェンリエッタは首を横に振った。
 百合を模った白無垢のアヤカシである事しか確認できなかった。
「そうなの‥‥」
「なにかあったの?」
 首を傾げるフェンリエッタに折梅はあどけなく顔を上げる。
「どんなアヤカシか知りたかったの」
 純粋な好奇心にフェンリエッタは「そう」と微笑む。

 沙桐と共にエッグとちび麻貴を探していた雪だが、今の所は徒労に終わった。
「麻貴様の音、あまり聞こえませんね」
「エッグを作っているのかな」
 きょろきょろと辺りを見回す沙桐は気が疲れているようだった。
「もう少しゆっくりしたいよ‥‥」
 雪がおろおろして謝ると、沙桐は違うと言って雪の手を握る。
「一緒にゆっくり歩きたかったなって」
 くすっと、沙桐が雪に笑いかけると彼女は顔を赤らめて俯いた。


 見回った開拓者達はやはりエッグは見つからなかった模様。
 ちび麻貴を引き付ける方向にした。
 台所を借りた開拓者の一人である直羽はマシュマロを焼いていた。
「美味しそうなんだぜ」
 キラキラ目を輝かせた怜が見つめる。
「普通にあるけど、お持て成しするからには作ったほうがいいからね」
 焼いたマシュマロはクッキーで挟むと、むにゅっとマシュマロが飛び出してちょっと見目が残念だ。
「飾るといいんだぜ」
 溶かしたチョコを持ってきた怜が飛び出たマシュマロ部分にチョコをかけてその上に花の形をした砂糖菓子を飾る。
「怜君、すごい」
「それほどでもないのですっ」
 素直に誉める直羽に怜はちょっと照れている。
 その隣で黙々作っているのは沙羅。見事に桜の葉の塩漬けをゲットしたようだ。
 丁寧に慎重に作っているようでどんどん形がよくなっている。最初に作ったものは雪が葉っぱで上手い事フォローしていた。
「沙羅様、お上手ですよ」
「はいっ」
 雪に誉められて沙羅も嬉しそうだ。
 中庭では残りの開拓者と折梅がお茶会の用意をしている。
「食器の類は大丈夫ね。あとはお菓子とお茶ね」
 フェンリエッタが確認すると、珠々とフレスが頷く。
「今直羽さん達が用意しています」
 珠々が言えば、用意を終えただろう直羽達がお菓子を持ってきた。
 お茶もばっちり。
 さぁ、お茶会の始まりだ。


 ぷっきゅー ぷっきゅー

 間抜けな足音を立てつつちびウサ麻貴が歩いている。
「やあ、うさぎさん!」
 ぴこぴことくま人形を動かして麻貴に話しかけているのは沙羅。
 見た事がないものなのか、麻貴が立ち止まり沙羅のくまに集中している。
「‥‥くまさん」
 ぽつりと呟いていてもくま人形をガン見している麻貴。
「ねぇ、こっちにこない? これからお茶会するんだ」
「うん」
 ふらふらと近づく麻貴に珠々がギラギラと獲物を見据えていた。
「ここに座るといいですよっ、お菓子も取りやすいし!」
 一生懸命自分の膝をたたく珠々はいつもの逆をやりたがっているらしいが麻貴の視線はくまだ。
「うん」
 いや、こっちでしょと直羽が麻貴を珠々の膝に乗せる。自分より小さな麻貴にはピンと立ったウサ耳があり、彼女の耳が動けば珠々の頬を撫でる。
「珠々様、私にもっ」
「はい、後ほど‥‥」
 雪が言えば珠々はうっとりしつつコックリと頷いた。
「麻貴姉、本当にちいさい」
 いつもは沙桐と変わらない体格の麻貴だが、じっくり見ると普通に仮装した子供。自分もだっこしたいと思うけど、お兄ちゃんだから我慢‥‥
「後でちゃんと抱っこさせますよ」
「やったぁ、珠々姉、ありがとー」
 怜の我慢に気付いた珠々が言えば怜は素直に喜ぶ。
「麻貴ちゃん、お菓子もあるよ」
 直羽が言えば麻貴が直羽が作ったレアチーズケーキを食べる。
「おいしい」
「よかった」
 喜ぶ麻貴に直羽は笑う。
「ボク達、百合のたまごをさがしてるんだ。しらないかな」
「ゆり‥‥どこだっけ?」
 核心を突く沙羅に麻貴は首を傾げる。
「どこにあるのー?」
 フレスの言葉に麻貴はうーんうーんと首を左右に傾げている。
「じゃぁ、どんな形か教えてくれる?」
 手帳を出してきたフェンリエッタが尋ねると麻貴は断片のように特徴を話し出した。
 緑色に色づけされた玉子で小さな牡丹と芍薬と鬼百合が描かれており、天辺に白いチョコで作られた白百合の花が飾られ、七色の飴で作られた翼が付いているらしい。
「なんだか豪華ね」
「女王様のエッグだから」
 フェンリエッタが言えば麻貴は胸を張るも、フェンリエッタは自分の方を見ずに手帳に何かを書いていた。
「何書いてるの?」
 雪の膝の上に移動されていた麻貴が興味津々にフェンリエッタの方を覗こうとするが、沙桐がフェンリエッタの隣に座っているのでよく見えない。
 沙桐を押しのけようとする麻貴だが、フェンリエッタは書くのをやめて手帳を抱え込む。
「これは私の秘密のノートなの」
「ひみつー?」
 秘密の香りはよい香りなのか、麻貴の興味は更に増す。
「人に見せるの恥ずかしいわ」
 ちょっと照れて悪戯っぽく笑むフェンリエッタに麻貴はくまから秘密ノートに興味を切り替えたようだ。
「あるところ教えるから! 見せて!」
 ばたばたと手をばたつかせる麻貴に全員が心の中「わかってるんかい」と異口同音のツッコミを入れつつ、輝血は動かないように雪に怪我をさせないように影で押さえつける。
「くまさん特製桜餅、美味しいんだぜ」
 すかさず怜が自分の膝に乗ってきた麻貴に沙羅が作った桜餅を渡すと大人しくなった。
「どこにあるの?」
 きらりと深緑の瞳を煌かせるフェンリエッタに麻貴はビシィっと一点を指差す。
「あそこ!」
 麻貴が指差したのは城の天辺。
 指の示す方向を見た殆どが「よりによって‥‥」と呟いた。
 ただ一人‥‥否、一匹が情熱を燃やす!
「獲物捕捉! いっくにゃーーー!!」
 ガタンとけたたましい音を立てて沙羅が立ち上がると全員が沙羅を見つめる。
「にゃ、にゃんでもにゃぁよ?」
 慌てて違うと言っても呂律が回ってなく猫言葉。


 狩りの時間となったが、その前に先輩シノビである輝血の目が光る。拳を握り、それを後輩シノビである珠々のお腹に軽く当てる。
「重量管理も出来ないの?」
 よく食べてたようで食べた分、ぽこっとなっている。
「これからナイスな身体に‥‥」
 まぁまぁと直羽が言いかけると輝血に睨まれた。

 捕獲班は珠々、怜、沙羅、直羽。
 バタバタと城を駆け上がる。階を上がっていくたびに見上げるとある。
「たまごがあります!」
 沙羅のテンションもガン上がっている。狩りというだけではなく、空に近いこともあり、エッグの翼が風に揺られているのだ。
 城の天辺の屋根裏部屋に着くと、珠々が窓を開けて怜が懸垂の要領で屋根に上がる。
「沙羅!」
 怜が手を差し伸べると、後続の沙羅が直羽の肩を借りて屋根によじ登ろうとしていた。怜の手を借りて沙羅も登り、珠々も登る。
「気をつけて!」
 心配する直羽の声を背に受けた三人がエッグへ走るも突風が吹いた。
 三人が踏ん張って風が止むのを待っている。
 そっと、怜が薄目を開けると、エッグがゆらゆら揺れていた。更に突風が吹いてころんと、エッグが台から落ちた。
「逃がさないにゃーー!」
 沙羅が絶叫と共にエッグを追う。跳ぶと沙羅はエッグをキャッチした。
 だが、彼女の足場はない。
「あぶないんだよ!」
 下で見ていたフレスが顔を青ざめる。
「しょうがない」
 輝血が沙羅の着地場所と思われる場所へ走る。

 短く永い無音の世界へ輝血を導く

 難なく輝血は着地寸前の沙羅を抱きかかえて綿菓子の茂みへとびこんだ。
「輝血!」
「輝血様!」
 夜を使った事に気付いたフェンリエッタと雪が叫ぶ。
「大丈夫」
 沙羅は輝血の腕の中で目を回している。胸の安堵に気付かない振りをしてぽいっと、沙桐に沙羅を手渡した。
「おりうめさまぁ〜」
 沙桐の腕の中で沙羅が折梅にエッグを渡す。まだ目は回っている。
「ごめんね‥‥っ」
 悲しそうに謝るちび折梅の小さな両手にエッグが収まる。
「‥‥繚咲だね」
 ぽつりと直羽が呟けば折梅が光を纏い、その閃光は開拓者達の目を焼く。


 ふっと、フェンリエッタが目を開けると自分達が百響と遭遇した場所。
 辺りを見回せば馬は特に怪我をしている事も興奮している事もなかった。
「‥‥どういう事‥‥」
「もどったのかな‥‥」
 フレスが周囲を見回せば老婆となった折梅の姿が。
「戻ったようだね。お手をどうぞ」
 やれやれと直羽が砂埃を払い、折梅の手をとる。
「ありがとう皆さん」
 柔和に微笑む折梅が開拓者達を労わる。
「沙羅さんでしたね。お怪我は?」
「だ、大丈夫です」
 折梅に微笑まれて沙羅は少し緊張した面持ちで答える。
「沙桐さん、この子を」
「ばーさま、わかるけど持ち帰り禁止」
 真顔の折梅に沙桐もきっぱり斬る。
「ともあれ、戻れてよかったんだぜ♪」
「そうですわね」
 ねーっと、怜と雪が笑い合う。

 折梅を送り届ける際、輝血は珠々の腹を凝視する。その視線は確り珠々に届いている。
「珠々、人参料理で痩せないとね」
「だ、橙がなくても痩せますーー!」
 この後、人参の攻防戦に負けた珠々がいたとの報告があったとか。