【燻蕾】結びの火色
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/17 20:31



■オープニング本文

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 情報収集の為、街に降りてきている未明はある騒ぎを聞きつける。
 裏路地のあばら屋の周辺が雪にまみれたという話。
 役人の調べでは乱闘でもあったのか、血の跡もあったようだ。
 話を耳にした未明は最近会った馴染みになりつつある開拓者の顔を思い出した。
 彼は火宵の探し人を知っている可能性があった。
 もし、ここが彼女の住処だったら‥‥
 いても立ってもいられなく、未明は周辺の情報収集にあたる。
 だが、彼女らしい目撃情報もなく、未明は顔をしかめるばかり。
 件の家にほど近い汚い飲み屋に入ったがどうやら人はいなかった。
 調べてみれば生活の跡はあった。かなり近日までの痕跡は見つけた。
 だが、この主の手がかりになるものはなかった。
 騒動と同時期にいなくなったのか。
「満散‥‥あんた、生きてるのかい‥‥」
 悲しそうに呟く未明の声は虚空に散った。


 場所は変わって天蓋領主の庵。
 ここで異常な状態になっていた。
「いただきます」
 手を合わせて声を上げたのは一華だ。
「いただきます」
 沙桐、秋名も合わせて声を上げる。
 そして、破月も。
 領主、領主の双子の姉を狙った者、領主が守る民を殺した者が揃って食卓を囲う。
 なんだそりゃと沙桐は呆れたが、一華が破月が敵意がない事から牢屋に入れるのは可哀想と言い出したのだ。
 破月が暗殺者であることは流石に伏せていた。下手に怖がらせたくないから。
 破月も天蓋の事は知っているので、天蓋領主の目のあるところでは戦いになりかねない事は無益と言ったので、沙桐監視の下で共同生活をしている。
 破月はどうやら家事ができるので一華に頼りっぱなしだった家事も破月にお願いしつつある。
 ただ、料理は一華が引き続きやっている。
「まともな生活をすることになるなんて思いも寄らなかったわ」
「いや、まともじゃないだろ」
 洗濯を終えた破月が呟けば、手伝っていた沙桐がツッコミを入れる。
「何も聞かないのね」
「依頼人が誰かもよくわかってなくて、君が行き倒れたところを拾ったんでしょ。もう、天蓋の皆の情報待ちでしょ。それとも、行き倒れる前の話したいの」
 破月の言葉に沙桐はさばさばと返すと彼女は黙った。
「‥‥結局、君は罪を償う事になるけど、いいの? 会わなくて」
「会う資格がないから。ここは強固な檻だから来たの。貴方が来た瞬間に彼が言っていた匿い先がどこかわかったし。私、償っていいって言ってくれたの‥‥」
「そう」
「皆、いい子ばかりね」
 悲しそうに嬉しそうに表情を歪める破月に沙桐は微笑む。
「俺が信頼している開拓者ばかりだからね」
「そう」
 もう一度破月が頷けば、彼女は虚空を見つめた。
「沙桐様」
 破月が向いた方向に架蓮が控えた。
「ああ、どうだった?」
「あの戦闘の後、腕のみ回収しましたが、奴等が向かった方向は一華様と共にいた宿の目撃情報があった村にまた目撃情報がありました」
 前に開拓者二人が庵に捜索をした時とは反対の方向にアヤカシが人間を食べただろう形跡がありました」
 ちらりと沙桐が架蓮を見やれば彼女は言葉を続ける。
「顔は判別できず、服も先に剥ぎ取られていたような形でした。ほぼ全裸の状態で放置されていた可能性があります」
「‥‥隻腕?」
 沙桐が確認すると、架蓮は頷いた。ふーっと、沙桐が溜息をするなり架蓮は如何しますかと尋ねた。
「捕縛を見据えた山狩りでもしようか」
 沙桐が言えば架蓮は頷いた。
「あ、破月はお留守番だからね」
「わかってるわ。いってらっしゃい」
 沙桐が釘をさすと破月は声をかけた。


 山の冷気の中、一人倒れた。
 倒れた人間を見下ろすのは狩衣の男。その手に握られている小太刀は血に濡れている。
 シノビ達は倒れた者より武器や衣服を剥いだ。
「いこうか」
 男が呟くと従えていたシノビ達は言葉に従った。
 一刻後、獣アヤカシ達が食事を見つけた。
 息も絶えかけているが生きてる。
 逃げようにも片膝を斬り落とされてしまった。片腕も斬られた。
 けれど、逃げよう這いずった。
 生への執念‥‥死への恐怖に心を支配されながら。
 だが、その思いも奴等には『美味しいもの』だ。
 思い虚しく、男の喉と腸目掛け、何匹ものアヤカシ達が飛び掛ったのだった。


 あれっと、首を傾げたのは火宵だった。
「未明はまた飛びまわってるのかぁ?」
 傍に控えていた曙が頷いた。
「最近、街に出て色々と情報を仕入れているようです。開拓者の姿もあると言ってましたな」
「ああ、あいつも気を使ってるんだろ」
 くすりと火宵が無邪気に笑むと、彼直属のシノビ達が控えた。
 彼等が見つけたのは目的の位置の把握。
 半年間、火宵がここに移ってまで捜し求めていた。『掃除』をしながら。
「この調子じゃ、あと半月後、この辺にいるな」
 地図を広げ、火宵が確認する。
「更に確認しろ。その前にちゃんと、メシ食って寝とけ」
 火宵が命ずるとシノビ達はその言葉に従った。
「秋に戻るって言ったのにずれ込んだもんだ。だが、二度と逃がさねぇよ」
 低い声で火宵は呟いた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142
18歳・女・志


■リプレイ本文

「この間はありがとうございました」
 ぺこりと繚咲のシノビに頭を下げるのは珠々(ia5322)だ。
 娘シノビ達は「可愛い!」ときゃぁきゃぁはしゃぎだす。
「もう、珠々様可愛い」
「お気になさらないで下さい」
 以外に普通の娘らしいシノビ達の様子に珠々は戸惑いつつも陰陽師の事を尋ねるとシノビ達は困った顔をした。
「あの後、繚咲にいないか知らせたのですが、時折、見たって聞きました」
 娘シノビの話に目を見開く珠々。
「数年に一度、でも場所はバラバラ」
 その場所とは高砂、貌佳、深見と三つの領地、街中で見かけたとの事。
「他に、陰陽師に詳しい方はいませんか?」
 珠々が尋ねると、彼女等はうーんと顔を見合わせる。
 高砂の花街で花魁をしている女シノビだと言ったが、人気で気難しい人なのであまり会ってくれないらしい。


 殺されたシノビの話を聞いた御簾丸鎬葵(ib9142)は平静を装いつつもその惨状には凛とした美しい表情を硬くしてしまう。
「なんという所業‥‥」
 少しでも使えないとなれば命を切り捨て、アヤカシの餌食にさせる‥‥それが真実とあれば情の欠片もない依頼人達に対し、怒りの火を心に灯すのは鎬葵だけではなく、滋藤御門(ia0167)も同じだ。
「向こうは余裕がないということでしょうか、足がつくのを徹底的に切っている所からして」
「どうなんだろうね。俺が開拓者を使って動いてる事をあまり気にしてない感じにも思えたな」
「沙桐様は心当たりありますか」
「俺は見た事ないよ。陰陽師の人脈を知ってそうなのがいるか天蓋の方にも声をかけてるけど」
 思案する沙桐はちらりと溟霆を見やる。
「ボクは女性に見つめられるのがいいな」
 視線に気づいた溟霆(ib0504)はきっぱり言った。
「うん、知ってる。超知ってる。君の見解は?」
 沙桐の言葉に溟霆はそうだねぇとのんびりと口にする。
「交戦してもボロがでないように徹底的にやってるし、諜報を専門にしているシノビ達じゃないかな。腕も立つし、どこの流派か分かれば戦いようもあるんだけど」
「‥‥今回は形振り構ってられないかもしれない。その時は頼むよ。俺は君達の無事を優先したい」
 底冷えする程状況を楽しむ赤の瞳と鋭く真摯な緑の瞳がぶつかる。
「わかったよ。出来るだけ生かして捕縛するよ」
 少しだけ表情を和らげて溟霆が頷いた。
「輝血ちゃんもね」
 すぐさま沙桐が釘をさすと輝血(ia5431)は鬱陶しそうに頷いた。
「麻貴と違うんだから」
 別の人間と分かってても無茶をやらかした奴と似た顔に言われるのは腹が立つのかもしれない。
「やる時はやるから、手を汚すのは少ない方がいいよ」
 そっぽを向いて輝血が呟いた。そんな輝血を見た御樹青嵐(ia1669)が寂しそうに見つめる。
「とりあえず、今ある情報で整理してみましょうか」
 地図を用意してもらったフレイアが部屋の真ん中に地図を広げる。
 まずは一華が捕らわれていた庵の場所を確認。それから依頼人の目撃情報があった麓の村の場所。
 麓の里は山を挟んで繚咲の向こう側。庵も山頂には届かないが繚咲の反対側。
「シノビの遺体は」
 フレイア(ib0257)が架蓮に尋ねると遺体の場所は庵より更に奥だという。庵の裏手から半里程の所で見つかったようで、周囲にアヤカシがいたようで、架蓮達も即座に戻ってきたようだった。
「とりあえずは山狩りだね、山狩り」
 溟霆が言うと、珠々が戻ってきた。


 皆が山に出るよりいち早く早馬を走らせたフレイアは目撃情報があった麓の村に行った。
 目的はそこで依頼人が食料を買い込んだかどうかの確認。
「え、軽装で?」
 だが、食料を買い込んだ様子はなく、簡単な旅装程度の服装だったため、近場の繚咲は貌佳へ行くのだろうと思っていたようだった。
「そうですか、お供の方はいなかったのですよね」
「ええ、お一人でした」
 宿の者がそう言えば、フレイアは礼を言ってその場を後にした。
 他の店に話を聞いたが、食料を買い込む見慣れない人間はいなかったと言った。
 依頼人は殆ど手ぶらの状態で山に入っていった。
 山に籠もるつもりはなかった可能性が考えられる。
 隻腕のシノビの殺害現場を考えれば、戻るか山を下るか‥‥


「どこにいるかな」
 山を見上げて呟いたのは輝血だ。
 にがさないよ。
 無垢な言葉ながらもその念は何より強い。
「行きましょう」
 青嵐が声をかけると輝血は頷いた。
 三人のシノビが三班に分かれて行動することにしており、輝血と青嵐が一緒だった。
 シノビ達はともかく、陰陽師が足跡を消して移動するとは思えなかった。
 微かな手がかりを見つけるようなもので骨が折れるのは承知の上で捜索し始めたが、輝血と青嵐は別の目的がある。
「青嵐、無理するんじゃないよ」
「大丈夫です」
 二人が歩いていても特に人が入った痕跡はなかった。
 山頂目指して上がっていけば、景色が見下ろせるくらいになっていた。
「青嵐、見える?」
 輝血が尋ねると青嵐は頷いた。
「見えました」
 二人の視界に入っているのは洛苑が遺した養蚕工房だった。
 青嵐は一度、一華の救出時に庵に行ったことがある。その事をふまえて青嵐が庵から養蚕工房まで二里は固いと言った。
「‥‥二里か‥‥遠いけど早駆で行けない距離ではないね」
 輝血が言い切れば青嵐も頷く。
「ただ、アヤカシがいるこの山を突っ切るのを考えれば‥‥」
「山を熟知しているか‥‥アヤカシを払いのけるくらいに腕が立つか」
 肌で感じるのは、そんな奴らと自分達は戦う事が濃厚なのだろうと輝血が心の中で溜息をつくと、遠くの小枝を踏む音に気づいた。 他の班の音とは思えない。
 音の数が明らかにおかしいのだ。
「青嵐、くるよ」
 輝血が呟けば、青嵐は構えた。


 珠々と鎬葵、御門は順調に上がっていった。
 御門は人魂を飛ばして主に身を隠せられる場所を探していた。
「両方あります」
 御門の人魂を見た珠々が呟けば、鎬葵も見上げる。
「鳥は両翼がなければ飛べないのでは?」
「もう、麻貴様だけの話ではありませんから」
 御門の言葉に鎬葵が意味を理解した。
「‥‥もう、離させませんよ」
「勿論です」
 決意を新たに鎬葵が言えば珠々も頷く。
 二人の様子に御門は微笑んで捜索の続きを促した。
 御門の人魂は岩陰なんかを探していたら、枯れ葉や岩の苔とは思えない色の岩を見つけた。
 急斜面で御門の身体能力では実際に見ることが難しかったので珠々に頼んで確認してもらった。
 シノビの珠々は実際に身も軽い事もあり、難なく御門が言った岩へ近寄ることができた。
 岩は付きだしており、人が一人隠れるくらいには大きかった。
 中を確認しようと珠々が中に入ると、彼女はそのまま固まった。
「珠々殿?」
 出てこない珠々を心配して鎬葵が声をかけた。
「ここ、アヤカシが出ます」
 そう言って珠々は出てきた。
 それは誰もがわかっている。
「珠ちゃん?」
 御門が声をかけると珠々の様子に気づく。彼女は無表情を徹底されてきたが、その瞳は揺れていた。
 はっと気づいた御門が岩の方を見る。
「足に杭を打たれてて‥‥」
 珠々の声が震えていたが、どんどん感情をなくすように硬くなっていく。
「くいちらかされていました」
 その言葉で鎬葵も何があったか理解した。
 岩の茶褐色の色は枯れ葉の色ではない。土の色でもない。
 アヤカシに喰われた人間の血飛沫が乾いた色だった‥‥
 言葉をなくし、呆然とする三人であったが、心眼を発動していた鎬葵が気づいた瞬間、彼女は即座に刀を抜き、同時に珠々も構えた。


 少し時間は巻き戻し、溟霆と沙桐はフレイアを待っていた。
 馬を駆けて戻ってきたフレイアは「お待たせしました」とだけ言った。
「気にすることはないよ。女性を待つのも楽しみではあるから」
 にこっと笑うのは溟霆だ。
「お疲れさま、すぐに出発で大丈夫?」
 沙桐が声をかけるとフレイアは頷く。
「早くしないと逃げられる可能性があります」
 硬い口調でフレイアが言えば、溟霆と沙桐が表情を変える。
「地図を見る限り、食料を買い込めるような村は目撃情報があった村しかありませんでした」
「その様子だと、買い込んだ様子はないんだね」
 溟霆が確認を取るとフレイアは頷いた。
「‥‥次の補給地点は繚咲は貌佳が一番近いですが、あれだけの騒ぎを起こして貌佳に入るとは‥‥」
「となれば、繚咲を避ける形をとるか‥‥」
 現在位置からは遠いですが、挟み撃ちを狙いたいです」
「馬を使おうか」
 そう言って三人は馬を駆けて行った。
 三人が目的の場所に到着し、馬を繋いで中へと入る。
 奥へと入って行けば、すぐさま狒狒アヤカシが三人を襲ってきた。
「おやおや、歓迎されてるね」
 俊敏な狒狒アヤカシに対抗しようと前に出たのは溟霆だ。
 舞うかの如くに溟霆が右手を差し出せば、狒狒アヤカシは溟霆めがけて長い手を振りおろした。
 アヤカシの手に何かが引っかかった。
 瞬間、溟霆は横に飛んで腕をかわしたが、身体は翻してはおらず、左手を右手と交差するように降り上げた。
 狒狒アヤカシは自身の異変に気づいたと同時に宙を舞う。
 言葉もなく、アヤカシは寸断された。
 ぼとりと落ちるアヤカシだったものから垣間見るのは細い細い闇の糸。
「さぁ、急ごうか」
 穏やかに溟霆が振り向けば二人は頷いた。


 とりあえず、雑魚にはあまりかまいたくないと輝血と青嵐はアヤカシをいなしながら上を目指す。
「ったく、前よりなんか増えてない?」
「アヤカシの顔は流石に覚えられませんよ」
 輝血の珍しい軽口に青嵐が呆れるように答えると、輝血が顔を上げる。
「合流するよ」
 そう言って二人が駆け上がり、その木々の奥を見つめた。

 鎬葵が刀を振るえば紅葉の如くの燐光が煌く。
 アヤカシを斬ったその刀身は血に濡れて嵐の如くの波紋を見せた。
 斬撃符を発動させた御門が時間をずらして鎬葵が斬ったアヤカシとは別のアヤカシの足を斬りおとした。
 こちらには五匹の剣狼に襲われており、珠々が遠距離攻撃で二匹を近づけさせないようにしていた。
「随分と大勢だね」
 木々の向こうから現われたのは輝血と青嵐だった。
 二人は即座に臨戦態勢となり、戦闘に加わる。
 輝血が前に出て不安定な地面を軽やかに蹴った。宝珠の力もあり、輝血は安定してアヤカシに向かい、一閃振り下ろした。
 剣狼の左耳から鼻にかけて削ぎ落としたが、やはりアヤカシはそれでも輝血を喰らおうと間合いを詰める。輝血は跳んで腕を伸ばし、手近な枝を握った。
 輝血の足はアヤカシの鼻先を蹴ってさか上がる。標的が視界から消えたアヤカシが次に視界に入れたのは斬撃符だった。
「いくよ」
 合流した五人はまた先を進むもアヤカシが阻む。
「キリがないですね‥‥」
 美しい顔を顰める御門が斬撃符を繰り出す。
「庵が見えました」
 珠々が言えば、全員がそちらの方を向いた。一度休憩をしようと五人は中に入る。
 庵の中を確認していけば、台所に使った後があった。
 今までは使った形跡がないようにしていたのに‥‥
「‥‥わざと山に入らせた‥‥という事でしょうか」
 陰陽師はここにアヤカシが出る事を知っている。
 自分達をおびき寄せてアヤカシに喰わせようとしたのか‥‥以前、一華の時に思案した事が今の御門は確信に近いものを感じる。


 溟霆とフレイアと沙桐はアヤカシを撃破しつつ、捜索と合流をしようと上へと上がる。
 フレイアが溟霆の横から狙うアヤカシをアイシスケイラルの氷の刃で串刺しにする。
 助けてくれたお返しとばかりに溟霆がフレイアの背後から狙うアヤカシを斬り倒す。
「女性に助けられるだけは性に合わないんでね♪」
 花があるとないとでは気持ちに欠けるのか、溟霆はいつも以上にしっかりしているようであるが、彼はいつでも安定しているので沙桐は気にせず黙々とアヤカシを斬り捨てている。
「皆はどうしているだろう。溟霆君、聞こえる?」
 沙桐が声をかけると、溟霆は首を軽く横に振った。
「もう少し上に行ってみるか」
 再び三人が上がろうとした時、溟霆が沙桐を制した。彼の様子に沙桐がはっとなる。
「来る‥‥」
 溟霆は武器を構えてない。
 陰陽師だろうか‥‥
「シノビ‥‥が数名」
 低く溟霆が知らせる。フレイアや沙桐にも気配を理解でき、二人は構えた。
「あれ、お前等」
 きょとんとした火宵が出てきた。


 庵を出た五人は目的の遺体を確認しに行った。
 遺体は架蓮達が発見した際に埋葬されており、埋めてある形跡があった。
 敵とはいえ、手を合わせ魂を見送り、先をめざず。
 珠々と輝血が音に気付いた。
「どうかしましたか」
 二人の様子に気付いた鎬葵が尋ねると、向こうで話し声がするとだけ言った。
「もしかして沙桐さん達でしょうか」
「反対側から上がったという事ですか」
 思案する青嵐に御門が意外そうに呟く。詮索している暇はないので先を急いだ。
 シノビ達が聞こえる音を頼りにして歩いていると声が明確に聞こえてきた。
「火宵‥‥」
 呟いたのは誰の声か‥‥
 火宵が近くにいるとわかった御門は固く口を結ぶ。
 言わないと決めた。
 破月に任せたいから。
 急いで行った五人は火宵と周囲のシノビの気配と溟霆達と合流した。
「おお、団体様のご到着か」
 おどけて言う火宵に青嵐が呆れる。
「繚咲で何をしているのですか」
「用事を済ませようとしているだけだ。気にすんな」
 青嵐の質問に火宵は答えようとしなかった。
「この山で陰陽師とシノビを見ませんでしたか」
 珠々が質問を変えると火宵は頷いた。
「見た事あるぞ、というか、入れ違いだった」
 実際に見たのは彼の部下達であるが。
 山に入っては何かを確認していっているようで、特に何もしていないと火宵は言った。
「‥‥アヤカシと戦わせて時間稼ぎという事かな」
 ふむと考え込む溟霆に輝血は逃がしたかと
「何を確認しているか解りますか?」
 鎬葵が尋ねると、火宵は鎬葵を見て少し思案するが口を開いた。
「ここは餌場のようだぞ」
 火宵の言葉は御門達が見たものを裏付けるもの。
「人間を連れてきてはアヤカシに喰わせて来たみたいだったが、俺達がここに来てからはそれを始めた形跡はなかった」
「食べたかどうかの確認をしていたのですね」
 フレイアが言えば火宵は頷いた。
 火宵が来た時点では生きた人間はいなく、喰われた後だったようだった。
「奴等はもうここにはいないって事か‥‥」
 ふーっと、溜息をつく輝血に火宵は「現時点ではな」と言う。
「奴等はまた来るさ、庵を見ただろ」
「大量の血痕と何か関係があるのでしょうか」
 鎬葵が反応すると火宵は不敵に笑う。
「ああ‥‥今に解るさ」
 火宵が動き出すと、青嵐がどこに行くかと聞いた。
「繚咲領主やお前等と戦う気は無い。余計な事はしたくないんでな」
 そういうと、ふらりと火宵は姿を消した。
「‥‥人の領地でもないから好き放題してる奴がいるって事か‥‥」
 簡潔に輝血が纏めた。
 日は落ち、もう夜の帳が見えてきた。