流れ星を見に行こう
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/13 22:57



■オープニング本文

 麻貴が沙桐と再会してから夏の間、麻貴は長期休暇を貰って武天で沙桐や折梅と過ごすことにしている。
 だが、火宵の動向もわからず、旭の件の後片付けと自身の怪我で動けなくなった。
 沙桐や折梅も一華や遼咲の行方不明者の事で遊びに行けない。
 手紙のやりとりで今回は取りやめとなった。
 キズナや旭の事もあるので、仕方ないと麻貴は考えていた。
 やはり、家族と会えない寂しさは募るものだ。


 麻貴達が療養している診療所に梢一が馬を飛ばして現われた。
 監察方の仕事もあるのにと麻貴は驚いていたが、当人は麻貴の顔を見てほっとしたようだった。
 その後、梢一は柊真より報告を受けていた。
「そうか、葉桜の話と変わりないな」
「羽柴様は?」
 麻貴を一番心配しているのは杉明だと柊真は思う。
「ああ、心配はしてたが、葉桜の術で何とか取り留めた事を知ると一安心していた」
「そうか‥‥」
 麻貴の事を思ってかそっと溜息をつく柊真に梢一は話を切り替える。
「それでだ。兼ねてより延びてた秋明殿の護送を近日に行う」
「今、動くのは天蓋の目が光っているからな。遼咲の近くに入れば護衛は強化されるから襲撃されても迎撃できると」
 先日の火宵の手紙を読んだ柊真は折梅に麻貴や旭の事、火宵の戦について手紙に託していて、折梅は全てを承知の上で天蓋を動かし、遼咲の守りを強化させている。
「それでだ。武天から沙桐君を護衛に頼もうと思う」
「沙桐か、今は天蓋にいるんだっけか」
「鷹来家に戻ったら面倒だからな。天蓋なら連れ戻せないし、好きに動く事ができる」
「護衛ならうってつけな人材だが、公私混同していいのか?」
 ちろりと柊真が梢一を見やる。
「見てられん。こればっかりは俺達にもどうする事ができない。だから、お前が自分を責めることなどないし、俺達もお前を責めたりはしない」
 お見通しかと柊真はため息をついた。
「まぁ、沙桐君には殴られろ。俺は止められん」
「アイツを止める奴は香雪の方以外いないだろう」
 それはもう覚悟済みのようである。
「それでな、以前に金子家の縁の温泉地に行っただろう」
「ああ、奇妙なアヤカシがいたがな」
 ころっと話を変える梢一に柊真が頷いた。
「そこは山の上にあるのか、星が綺麗だろ。折角だから一泊でもしたらどうかと義父上が申してな。それに開拓者を呼んではどうかなと」
「羽柴様にはかなわないな」
 苦く笑う柊真に梢一も苦笑している。
「奥方を亡くされ、気落ちしていたところに麻貴を引き取り、変わられたと誰もが言う。あの方があそこまでの地位に上り詰めたのは麻貴と葉桜を守るためだからな」
 敵うわけないだろと梢一が笑う。


■参加者一覧
/ 滋藤 御門(ia0167) / 俳沢折々(ia0401) / 玖堂 真影(ia0490) / 柚乃(ia0638) / 鷹来 雪(ia0736) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 周太郎(ia2935) / 紫雲雅人(ia5150) / 平野 譲治(ia5226) / 珠々(ia5322) / 輝血(ia5431) / からす(ia6525) / 霧咲 水奏(ia9145) / 溟霆(ib0504) / 无(ib1198) / 朱華(ib1944) / 白藤(ib2527) / タカラ・ルフェルバート(ib3236) / 御鏡 雫(ib3793) / 宮鷺 カヅキ(ib4230) / フレス(ib6696) / 久良木(ib7539) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / ギイ・ジャンメール(ib9537


■リプレイ本文


 先に宿に着いた沙桐は開拓者達を迎え入れていた。
「皆さん、ようこそ。ゆっくりしていってくださいね」
 穏やかに微笑み仲居さん達に部屋への案内をお願いする。
 沙桐と顔なじみの開拓者は麻貴達がまだ来てないか確認していた。
「やっほ、沙桐君、元気してたー?」
 開口一番と共にハグをするのは弖志峰直羽(ia1884)だ。
「わ、直羽さん。お久しぶりです」
「麻貴ちゃんは大変だったね」
 直羽の言葉に沙桐は表情を陰らせる。やっぱり無理して笑ってたかと直羽は目を寂しく細める。
「‥‥空笑いと無理して笑うは違うと思うよ。君が麻貴ちゃんを想っているのは俺達がよく知ってる。笑うのも辛いなら代わりに俺が笑うから」
 優しい直羽の瞳に沙桐はこくんと頷く。
「あ、麻貴ちゃん、おっひさー☆」
 俳沢折々(ia0401)が入り口の方を向いて手を振っている。
「やぁ、こんな姿で失礼。折々ちゃん、また大人の女性へと成長したね」
 柊真に抱えられた麻貴が折々に声をかける。
「まーった怪我したんだって? しょーがないなぁ。カタナシも大変だねぇ」
「もう塞がっているよ。こんな所で立ち話もなんだから後で話そう」
 和やかに麻貴と折々が再会を喜んでいると、沙桐が柊真に気づき、殴りかかろうと駆け出すも、輝血(ia5431)にさっと足を差し出され、上背のある直羽に抱きつかれているわで上手く動けないようだ。
 そんな沙桐の様子に紫雲雅人(ia5150)が溜息をつく。
「沙桐様、柊真様を責めないでください。麻貴様を守れなかったのは私も同じですから」
「雪ちゃんは悪くないよ!」
 白野威雪(ia0736)が柊真を庇うと沙桐は即座に反論をする。
「誰も悪い事はない。これから悪い事をするのは沙桐だよ。だからお仕置き。葉桜がいい着物を麻貴に何枚か置いてったってさ。ついでに着なよ」
 着物の情報は美冬から聞いたようだ。雪に「借りるよ」と声をかけて沙桐の襟首をひっつかんで奥へと向かった。喚く沙桐であったが、輝血が沙桐に耳元でなにやら呟くと彼はすぐに黙り込んだ。
「‥‥約束だからね」
「あたしを誰だと思ってるの」
 自信に満ち溢れている輝血に沙桐は降参しかないようだった。
「タマ、後で麻貴連れてくるんだよ」
「わかりました」
「何故私まで!」
 叫ぶ麻貴は珠々(ia5322)の引率と柊真の護送により輝血の元へと運ばれた。
「俺は殴られても良かったんだがな」
 苦笑する柊真に麻貴は複雑そうに頭を柊真の胸に凭れる。
 美冬と旭に挨拶をしていた滋藤御門 (ia0167)はにぎやかな様子にぽかーんと見ていたフレスに声をかける。
「どうかした?」
「な、なんでもないんだよ」
 ふるふると心の靄を振り払うようにフレス(ib6696)は首を振った。

 麻貴と沙桐は輝血と珠々の手により着替えさせられていた。
「見事な人形ぶりですね」
 ひょっこり顔を出したのは雅人だ。
「イジられてしまったよ。まぁ、彼女の楽しさは何となく感じられたし、葛先生にいい話ができたよ」
 苦笑する麻貴と沙桐の前に現れたのは鮮やかな紅の姫。
「【句倶理の民】第十三代目当主、玖堂真影、ご挨拶致します」
 淑やかかつ自信に満ち溢れた玖堂真影(ia0490)の口上は一転し、明るい笑顔を見せる。
「沙桐さんお久しぶり、麻貴さんは初めまして! おばあちゃまは今回いらっしゃらなくて残念です」
「君か! 会えて嬉しいよ」
 麻貴が声を上げると沙桐は真影の口上に首を傾げると、側にいたタカラが声をかける。
「言葉通りです」
 真影は当主である父親に謀反を起し、家督を奪うことに成功し初の女性当主として就任したという報告を聞いた。
「わ、おめでとう、ばーさまも絶対喜ぶよ!」
「ありがとうございます。こちらは婚約者のタカラです。弟も婚約しましたよ」
 近況を嬉しそうに語る真影を見つめていたタカラ・ルフェルバート(ib3236)が穏やかに名を名乗る。
「初めまして。【句倶理の民】宗家、玖堂家第二家令、タカラ・ルフェルバートと申します」
 美しい容貌に穏やかな声音のタカラに沙桐は静かに彼を見据える。
「ばーさまにとって真影ちゃんは初めて会った開拓者の一人であり彼女の成長と幸福を願っております。どうか彼女をよろしくお願いします」
 沙桐の言葉にタカラは静かに受け取り、頷いた。沙桐も自分で言っていて近くにいる雪に視線を向ける。彼女もまた、その縁の一人だから。
 双子と言えば柚乃(ia0638)もそうだ。今回は兄と来れなかったが、彼の分までと双子に対の風鈴を渡す。
 二人が風鈴を鳴らすと似た音が涼やかに響く。
 これならば離れていてもこの音色を聞けば寂しくはない。
「麻貴ちゃん、話は聞いたよ。大変だったね」
「やっぱり」
 直羽が話したその名を聞くと、麻貴は破顔した。
「似てますね」
 旭や美冬、キズナまでに頷かれ、直羽は何だかむず恥ずかしそうにしている。
「なんだか、嬉しいな」
「強い志と優しさはとても似てます」
 雪までに言われ、直羽は嬉し恥ずかしで困り果てる。
「で、お前さんの傍にいる子は誰なんだ」
 柊真に呼びかけられた御門はフレスと共に麻貴の傍に。
「僕の、大事な人です」
 少し緊張した面持ちで御門がフレスを紹介する。
「フレスなんだよ。はじめましてなんだよっ」
「御門君の成長は君か。私は羽柴麻貴、どうか宜しく」
 柔和に微笑む麻貴に見つめられてフレスは少し緊張してもらう。
「僕が成長出来たのはフレスがいたから。迷い立ち止まった僕に彼女の真直ぐさに励まされました。彼女がいてくれるから僕はこれからも頑張れます」
 晴れやかに言う御門はもう一人の殿方だ。
 初めて出会った可愛い少年ではない。
「共に仲良くな」
 麻貴の言葉にフレスはこくんと頷いた。


 弟子のカヅキと来た久良木(ib7539)は一人山を登っていた。
 よく舗装されている山道を歩き、星を見る者は多いのかもなと感じていた。
 彼の大事な弟子は今頃風呂だろうか、誘った時は何だか鳩が豆鉄砲でも喰らったかのようにきょとんとしていたのだからそうとう珍しく思われたのだろう。
 多くの開拓者がいる中、少しでも彼女は楽しんでもらう事を久良木は思っている。


「随分いいところだな」
 縁側に座って寛いでいるのはギイ・ジャンメール(ib9537)。
「中々評判がいいところだそうですよ。なんでも、理穴の貴族が利用してるとか」
 无(ib1198)が説明を加えれば彼は頷く。
「へぇ。お前は星を見に行くのか?」
「ええ、折角の誘いですからね。この時期は流星群も見れるでしょう。貴方は?」
「俺は縁側で見るさ、ここからでも十分見れるってよ」
 袖振りあう縁と同じ開拓者の気安さで会話をしていると、ふと、視界の端をてくてく小走りで走る影が。
 ギィが首を傾げたのは何だか面白そうな企みごとをしているような平野譲治(ia5226)の姿。

 宿の奥ではからす(ia6525)が厨房で板前さん達になにやら作ってもらったり、自分でも作らせて貰っている。
「けど、いいのか? 宴をする暇あるのか?」
「何、構わんさ。喜ぶ顔を見れればそれでよし」
 板前の一人がからすに言えば、彼女は不敵な笑顔で返す。
「粋だねぇ」
「良い誉め言葉をありがとう」
 しれっと言うからすが言えば、その向こうで譲治が何やら仲居さん達に身振り手振りで何かを説明している。
「一番大きいのはこれかねぇ」
 仲居さんが出したのは盥だ。一番大きい物だ。
「何に使うんだい?」
「それは秘密なりよ☆」
 それと譲治は井戸の場所も教えて貰っていた。



「む、混浴ではないのか」
 ラグナ・グラウシード(ib8459)が呟くと、柊真が女湯は向こうと指差す。
「ラキスケ、ダメ、ゼッタイなんだろうか」
 少々残念がっているかもしれないラグナの呟きは高く、まるで結界呪符「白」のような石壁に打ち付けるだけであった。
「こうも暑いと風呂も億劫になりがちだけど、温泉は入りたくなるのは不思議だなぁ」
 風呂で一杯洒落込む溟霆(ib0504)が酒をきゅっと流し込む。
「広い風呂は疲れを癒すからな」
「感覚の差ですよね」
 雅人も入り、酒を貰う。
 キズナも入っており、広い風呂にきょろきょろしている。
「カタナシさん、麻貴さんにもう少し身体を労わるように言って下さい」
 ずばっと、本題を切り出した雅人に柊真は困ったように顔を顰める。
「丸め込むのは可能だが、いざとなればあまり効かない。だがな、昔よりはまだマシになった。昔のあいつは殆どの人間を信用せず、一人で切り込んでいった。あそこまでの怪我はあまりなかったが、酷い怪我も多々あったからな」
 柊真の言葉に雅人は頭を抱える。
「それにな、あいつはお前さん達を信じている。それ故に無茶も出来る。自分に何があってもお前さん達ならやってのけると」
「無茶をしてほしくないから困ってるのに‥‥」
 嬉しいやら困ったやらで雅人は大きく溜息をついた。
「正直、俺は面白くないんだがな」
 子供のように拗ねる柊真に溟霆はくすりと微笑んだ。
「余裕じゃないんだねぇ」
「当たり前だろ。俺がいなかった内に知らないのが麻貴の周りにいるんだぞ、安心していたら取られているかもしれないんだ」
「一人は大丈夫じゃない? 中々可愛い子だったね」
 溟霆の言葉に柊真は「彼は見る目がある」とだけ答えた。


 一方、女風呂の脱衣所では御鏡雫(ib3793)が旭の怪我具合を見ていた。
「古傷はもうどうしようもないね」
 少し顔を寄せる雫に旭はしかたないと笑う。
「歩いて回復治療に専念すればかなり回復すると思うけど、自分次第だね」
「幸い、新しい怪我は雪さんや御門さん達に治して貰いましたので」
「傷が塞がって何よりだよ、折角の温泉が台無しだからね」
 くすっと笑う雫に旭も頷く。ちょっと心配そうに雫の後ろから礼野真夢紀(ia1144)が顔を出す。
「お風呂上がったら生姜蜂蜜水を用意します。少しでも火照りを収めてください」
「それなら私が氷を作ります」
 雪が声をかけると、麻貴が喜ぶ。
「それは楽しみだ。是非頂くよ」
「はいっ、カキ氷で楽しんでください。そういや、今回はおばあちゃまはいないのですね」
 真夢紀が言えば、麻貴は頷く。
「ばーさまは忙しくてね。また機会があれば会ってあげて」
「はい」
 繚咲の件を知らなく、頷く真夢紀に麻貴は癒されるように微笑む。
 そんな様子を少し遠くで見ていたフレスはそっと溜息をつく。
「どうかしましたか」
 珠々がフレスに声をかけると「なんでもないんだよ!」と声を上げた。
「おお、珠々ちゃんがお姉さんだな」
 麻貴が茶化すと、珠々は固まってしまった。
「脱衣所が賑やかですね」
 先に温泉につかっている柚乃が呟く。
「怪我をしてる方がいましたからね。確認事項もあるでしょう」
 ふーっと、寛いでいる宮鷺カヅキ(ib4230)が呟く。
 唐突な師匠の誘いのまま来てしまったが、その真意はまだ分からず、少々困惑気味のようだ。
 けれど、温泉は気分を少しだけ浮かせてくれた。


 先に温泉から上がり、縁側で涼んでいた朱華(ib1944)を白藤(ib2527)が見つける。
「食事の用意、出来たみたいだよ」
 彼女もまた湯上りの浴衣姿である。
「この辺は山だから野菜が美味しいみたい」
「へぇ」
 当たり障りない話をしながら二人が宴会場へと向かい、食事となる。
 朱華は大食漢であり、近くの大皿の料理をぺろりと食べてしまった。
「ちょ、朱華! 人の分も食べないでよ!」
「今次の料理持ってくるさ」
 仲居さんが笑顔で次の大皿の煮つけを持ってきてくれた。
「俺、結構食べるからじゃんじゃん持ってきて」
 あっさりと朱華が仲居に言えば、「たんと召し上がってください」と微笑む。
「あ、星見するんだろ、酒は飲むなよ」
 横目で注意する朱華に白藤はむーっと、拗ねる。

 様々な出来事の小休止の時期に「よい誘いがありまする」と霧咲周太郎(ia2935)を誘ったのはお嫁様の霧咲水奏(ia9145)。
 恋人同士、婚約者同士の参加はあれど、夫婦という形の参加はこっそり憧れの眼差しを向けられていたのに二人が気付いていたかはまた別の話。
 祝言を挙げる前もよく二人で旅に出たものだ。
 春の桜、秋の月、冬の雪‥‥春夏秋冬四季折々を二人で見てきた。
「今は夏‥‥蛍狩りを思い出しまするよ」
「ああ、そうだな」
 杯を傾ける周太郎は当時を思い馳せる。
 当時も変わらず水奏とともにいれる幸せは心に滲む。
「たまには恋人の頃を思い出してみますかな?」
 箸で天ぷらに塩を少々つけて夫に差し出してみる。口で「あーん」と誘って。少々気恥ずかしさも何故か伴いつつ、周太郎はその趣向を受け入れる。

 ある程度飲食が終われば、余興が始まる。
 一指し舞うは真影。華やかな舞に軽快な鼓が一層真影の舞を引き立ててくれる。
 一度は散った花であるが再び見事に咲いた真影がこれから羽ばたこうとする双子の為に舞う。
 美しい舞を見ながらギィが酒を飲む。
 予想以上に一人でも楽しんでいるようだった。料理は美味いし、温泉もいい。ここは離れだからこの部屋の縁側からでも見れるので、そのまま動かずに楽しむ予定だ。
 更に御門やフレスも舞いに入り、麻貴が余興にと立ち上がると、沙桐が支えるように一緒に舞う。


 宴もそこそこに抜け出した无(ib1198)は一人山道を登る。
 意外と綺麗に道が均してあるのには少々助かった。
 この辺だろうかと思った先にいたのはからすだ。
「やあお疲れ様。茶でも如何かな?」
 少女らしからぬいつもの口調のからす。无は宴会場では彼女の姿が無かった気がした。
「この為にですか」
「なんのことやら」
 どこか悪戯っぽくからすが言葉を囀る。
「では、茶を頂きましょう。夏とはいえ、夜は冷えてきますからね」
 そう言って无はお茶を受け取った。
 少し離れて星を見に開拓者が山を登り始めた。


 食事を終えたラグナは无の後で一人山へを登る。
 賑やかな場であったが、やはり星が見たかった。
 精悍な顔立ちをしているラグナであるが、意外にもメルヘンや可愛らしいものを好む。
 意外性もあるのに何故女性との縁がないのか意外にも謎だ。
「途中から道が悪くなったな。うさみたん、大丈夫か」
 背に背負ったうさみたんを気遣い、うさみたんの耳についた葉を払う。
「おお‥‥!」
 前を向けば見渡す限りの流れる星。
「きれいだな、うさみたん」
 背負ったうさみたんには星が見えるだろうか。振り向けば木々がある。
「悪かったうさみたん。これならばどうだ」
(「うん、きれいだね」)
 きっとそう言っているに違いない。
 流れる星を見つけるや否や、ラグナは全身全霊を駆けて己の願いを叫ぶ。
「恋人が出来ますように! 恋人ができま‥‥! ぐあ! 噛んだっ!」
 がくりと膝をついてラグナが叫ぶ。
 彼の未来や如何に。


 やはり暗い山道をすたすた歩くのは朱華。その後ろを追うのは白藤だ。
 少し焦っているせいか、足元がふらついてしまう。
「お前な、気をつけて歩けないのか」
 呆れて振り向く朱華に白藤はつんのめるようになってしまい、慌てて朱華の袖を掴む。
「朱華が歩くの早いから、ついて行くのに精一杯なのっ」
 顔を上げる白藤の視界には呆れる朱華とその更に後ろで流れる星。
「朱華! 流れ星!」
 はしゃいで白藤が袖を引っ張ると、朱華も星を見る。無邪気な白藤はお願い事を何にするか聞いてきてくる。
 願いは決まっている。
「お前は?」
 朱華の言葉に白藤は彼の袖を掴んだまま星を見つめる。
 少しだけの勇気を持てるように。
 それを口にして 君は どう思うか‥‥


 御門とフレスは手を繋いで山道を登る。
 繋がれた手より感じる御門の手の温もりはどこか遠い。
 この宿についてからフレスの心を覆うのは麻貴の存在。
 御門の憧れであったが、その憧れが何を示すかはまだ子供のフレスにだって分かる。
 フレスもまた、彼女なりに御門を想っているのだから。
「流れ星は何を願う?」
 御門の言葉にフレスは思いつかなく考え込んでしまうが、思う事は唯一つ。
「一緒にいたい」
「僕もだよ」
 顔を見つめ合わせて流れる星を感じ、二人は願う。
 必死に願うフレスが可愛らしくて御門が彼女の額に口付けをする。
 その日を楽しみに待っている。


「柚乃ちゃん、真夢紀ちゃん、折々ちゃん大丈夫」
「はい」
「うーん」
 旅は道連れとはよく言ったものだ。
 直羽は麻貴を気遣い、輝血が傍にいる。
 その後ろには柚乃と真夢紀と折々が歩いている。
「折々ちゃんは食べすぎだな」
「麻貴ちゃんだって食べてたじゃないかー」
 笑う麻貴に折々が反論する。
「私はいつだって食べ盛りだからな」
 言い切る麻貴に柚乃がくすくす噴き出してしまう。
「二人とも喰いすぎ。まぁ、二人とも食った方がいいんじゃない?」
 冷静なツッコミを入れるのは輝血だ。
「晴れてよかったです」
「真夢紀ちゃんのあまよみは抜群だな」
 麻貴の誉め言葉に真夢紀はえへへと照れる。
「あっれ、からすちゃん、お給仕?」
 直羽が待ち構えているからすに声をかける。
「疲れただろう、酒がいいかお茶もある」
「俺は徳利持ってきてるから、アテ頂戴」
 直羽が言えば、からすは揚げ物をきゅうりの和え物を渡した。輝血は酒を所望し、折々と柚乃はお茶を貰う。
「食べ過ぎたのならば転がってもいいだろう。その方がよく見える」
 折々の食べすぎに気付いたからすが彼女にお茶を差し出しつつ、助言した。
「今の時期は天の川も見れるよね」
「折々様の願い事は?」
「また麻貴ちゃん達の誕生日を祝う事」
 柚乃の言葉に折々は即答した。
「そうだ、ぷれぜんとだよ」
 折々が差し出したのは「祈りの紐輪」。
「気持ちだけ貰う」
 麻貴はそう突っ返した。いつもなら笑顔で受け取るのに。
「また来れる時に来て、治療してよ。皆もさ」
「しょーがないなぁ、麻貴ちゃんは」
 麻貴に抱きつかれて折々は笑う。
「やっぱさ、あれこれ理由をつけず、あんた達双子は一緒に居るといいよ」
 輝血が言えば麻貴はありがとと涙を滲ませて酷く穏やかに笑う。
 それは双子の悲願だから。


 真影とタカラは冷えないように仲良く一枚の大判の布で二人肩を寄せ合って暖を取っている。
「凄く綺麗だね」
「流星群となれば、沢山の願い事が出来ますね。僕の願いは‥‥ご存知でしょう?」
 ちらっと、真影がタカラを見やると彼は艶やかに微笑む。当の彼女は瞳を一度瞬き、可愛らしく笑顔となる。
「あたしの願い、知ってるわよね?」
 その願いは二人だから分かり合える事‥‥


 麻貴は雅人に声をかけられ、二人で少し離れた所で星を見る事になった。
「大分顔色はよくなりましたね」
 慰労の宴の際に傷はほぼ塞がっており、問題は麻貴の体力回復。
 臓器にまで到達してなかったのは幸いだったが、あの出血量だけは治癒の術ではどうにも出来ない。時間が必要だ。
「悪かったよ」
 苦笑する麻貴はどこか冴えない。
「どうかしましたか?」
「何だか寂しいのかもしれなくてな」
 雅人は察しが付いた。
「カタナシさんがいるじゃないですか」
 自分で言って胸が痛む。
 彼女は星だ。
 掴む事はできない。けど、掴んでいる男がいる。
 何故、早く会う事が出来なかったのだろうか‥‥
「私はいますよ」
「ありがとう、雅人」
 すぐに読売屋って呼ぶのでしょう?
 雅人は口に出さず、心の中で呟いた。
 彼女は滅多に呼び捨てにしない。普段から同年代や目上を呼び捨てにする者は相当信頼を寄せている人物。
 余裕のない時だけ信じている人間にそうするのを雅人は知っている。


 雪と沙桐は二人で山に登っていた。沙桐は雪に気を使いながら、手を繋いで。
 麻貴の不安定さや傷を治すのを拒んだ事、そして、火宵に言われた事を雪は話していた。
「‥‥隣に立ってくれる?」
 沙桐が振り向くと、雪は沙桐と目が合う。
「護りきれず危ない目に合わせるかもしれない」
「強くなります」
「‥‥隣に立ってほしい。俺の妻として」
 沙桐の言葉に雪は星が流れている事を気付けなかった‥‥



 宿で星を見る者もいる。
 その中の一人である譲治は宿の人に大きな盥を用意してもらっていた。
 歩くのが困難な怪我人がいるならば、と旭の前に盥を置く。
 なにやら面白そうだなとギイと溟霆も顔を出す。
 その横で雫が浴衣を着崩して団扇を扇ぎつつ眺めている。
 盥に映るのは流れ星。
「地面にも星があります」
 おおと、キズナが反応する。
「さぁさぁ、ご覧あれなのだっ!」
 元気よく声をかける譲治が火をつける。
 ぱちぱちと軽やかに花火が咲く。水鏡に映る流れ星もまた美しい。
「中々風流だね、面白いよ」
 溟霆が言えば、譲治は得意げに笑う。
「地上の輝きとお空の煌めきっ! 同時に見られる贅沢なのだっ♪」
「確かにその通りだね」
 くすくす笑う雫もその煌きに目を細める。
「なるほど、昼奥に行ってたのはその為か」
 ギィが納得し、杯の酒を飲み干す。
「まぁ、綺麗ね。キズナもやってきたら?」
 旭の言葉にキズナも譲治より花火を分けてもらうととても喜んでいる。
 そんな光景を見ていた珠々が柊真に呟く。
「いつか子どもにしてほしいって言ったら、本気にしてくれますか?」
「母さん、孫が出来たぞ」
「まぁ、羽柴様も喜ぶわ」
 旭と桃寒天を食べていた美冬は乗り気だ。
「さ、先の話ですよーーー!」
 気の早い親子に珠々は慌ててしまう。
「珠々! 一緒にやろう!」
「花火はまだあるなりよ!」
 キズナが珠々の手を引っ張り、花火に誘う。譲治が珠々に花火を渡し、火をつける。
 ちらりと、珠々が柊真の方を向けば珠々の方を穏やかに見つめている。
 どこかで見た親子の光景とはこの事だろうかと珠々は一人気恥ずかしそうに俯いた。


 賑やかな庭を後ろで聞きつつ、周太郎と水奏は星を見つつ散策をしている。
「人ってぇのは星も同じだな」
「遠き星のようと感じた事もありましたが、それも何時かの昔の事。今は双子星のように傍に居りまするよ」
 夫婦となるまで二人には困難もあった。乗り越えた今、二人はどんな双子星よりも近くにいるだろう。
「全てが終わったとしてもまた見つけようとするもんだ」
 愛しいお嫁様を目にやり、周太郎が手を繋ぐと、水奏は微笑んだ。
 流星とは終わる星の最後の煌きと言われているが、この双子星はきっと離れないだろう。

 屋根の上ではカヅキと久良木がいた。
「何を焦っている」
 久良木は彼女を見ずに問う。
「私が?」
「早く答えを出そうとしているんだ」
 久良木は誰よりも彼女の事を見ている。そう、彼女よりも近く、客観的に見ている。
 彼女は視線を落とす。
「いいんだよ、知らないままでも。幸せは色々あるんだ。おのずと知る事となる。それから幸せを追えばいいんだ」
 誰にも欺けるのにどうしてか彼はできない。
 カヅキと他の者に呼ばれる彼女は顔を歪めた。
 きらりと、星が流れて瞬いた。

 流星には願いをかなえる言い伝えがある。
 誰もが知る話だ。
(「何を願おうかな‥‥」)
 无が見上げれば流れ星がみえた。
 こんなに見れるならきっと願うだろう。
 そう思える光景だ。



「キレーだねぇ」
「うん」
 折々の言葉に誰かが頷く。
 寝転がった彼女は目を細めて星に手を伸ばす。

「銀湾の 空の近さに 手を伸ばし」

 穏やかな声で彼女は今年も謳う。


 それぞれの想いを星は運んでいく。
 願わくは幸福に繋がりますように‥‥