花嫁奪還
マスター名:大河
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/04 07:58



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルドに一通の手紙が届いた。

 前略
 
 開拓者の方々、突然のご依頼お許しください。本来ならば、このような私的な依頼を、アヤカシ退治や遺跡探索を主とする皆さまにお願いするのは筋違いと心得ております。ですが、わたくしにはもう時間がないのです。ですので、恥を承知でこの手紙を出すことに致しました。
 わたくしは、石鏡の陽天に住む小春(こはる)と申します。近々十八の誕生日を迎えるのですが、その誕生日と同時に、わたくしは父の決めた会ったことのない許嫁と結婚させられることになっています。これは、わたくしの父の独断です。わたくしの家系は恥ずかしながら交易で成り上がった商人の家系であるため、父はわたくしに少しでも身分の高い者と結婚して欲しかったようなのです。
 ですが、わたくしには想い人がいます。幼い頃から陽天で共に育った、幼馴染の昴(すばる)。彼と結ばれる為であるなら、父に勘当されても構わないと思っています。
 わたくしはその由を父に話しました。しかし、父は納得してくれませんでした。それどころか、わたくしに沢山の護衛をつけ、一日中監視し、身動きを全く取れなくしてしまったのです。このままではわたくしは何もできずに、父の言うとおりに結婚させられてしまいます。
 そこで、冒険者のみなさまにお願いしたいのです。どうかお願いです、わたくしを攫って頂けないでしょうか。
 恐らく、そのチャンスは結婚式当日の一日限りです。その日、わたくしは護衛の者と共に、結婚式をする予定の神社まで徒歩で向かうこととなっています。父や婚約者は、わたくしが向かうより前に、神社で待機しています。つまり、わたくしが神社に向かうその一瞬だけ、監視の目が緩くなるのです。
 幼馴染の昴とは既に連絡を取り合い、町外れの某所で落ち合う手筈となっています。皆さまには、護衛の監視の目を掻い潜り、昴が待つ某所までわたくしを無事に送り届けて頂きたいのです。
 無茶な依頼だということは重々承知していますが、わたくしを助けて下さいますよう、何とぞよろしくお願い致します‥‥

 草々


「‥‥さて、どうしたものでしょう」
 手紙を最後まで読んだギルド役員は、その場でやれやれとため息をついた。本来、開拓者ギルドはアヤカシ退治や遺跡探索を主として活動している。それ以外の依頼が来ない訳ではないが、優先順位はもちろん前者の依頼だ。今回の依頼は特に依頼主の私的な依頼なので、本来ならば後回しにする類のものなのだが‥‥
「‥‥ですが、今回ばかりは仕方ないですね。事は急を要するようですし」
 ギルド役員は、手紙に書かれている結婚式の日付を見た。そこに書かれていた日付を見るに、準備に使える期間はあまりに短い。それに、ギルド役員自身、なんだかんだ言いつつこの依頼が気になっていた。花嫁を結婚式当日に奪還する依頼‥‥不謹慎だが、なんとも魅惑的な響きではないか。
 しかし、ギルドの立場からすれば微妙な依頼だ。下手な方法だと、小春の父親から開拓者が人攫いだと思われてしまうだろう。そうなってはまずい。開拓者には、こちらの素性を隠してもらいつつ任務を遂行してもらわなくてはならない。
 役員は、それからというものの手早く書類を纏めると、その依頼を分かりやすいよう大きく張り出した。


『緊急 花嫁奪還の依頼です』


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
鈴歌(ib2132
20歳・女・吟
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
月見里 神楽(ib3178
12歳・女・泰


■リプレイ本文

●神社にて
 小春の父親は苛々していた。
 小春が来ないからだ。結婚式の時間はもう間近に迫っているのに、彼女は神社に現れない。新郎はなかなか姿を見せぬ花嫁に怒り、罵詈荘厳を彼女の父親に浴びせた。新郎は花嫁に不信の念をいだき始めている。これ以上の遅刻は、この結婚式の破談に繋がりかねない。
 そんなことを彼が危惧し始めた時である。
「‥‥初めまして。貴方が小春さんの父親ですね」
 人目を避けるようにして、小春の父親の前にエグム・マキナ(ia9693)が現れた。周りを警戒しているのか、新郎がちょうど席を外した時を狙ってのタイミングだ。
「そうだが、君は‥‥?」
「何者か、と言われると困りますね」
 父親の問いに、エグムは優しく微笑む。
「‥‥そうですね。娘さんからの手紙を受け取った人間、そういえば大枠のところはご理解いただけるでしょうか?」
「小春からの手紙、だと?」
 エグムの言葉に、小春の父親ははっとして息を飲んだ。
「お前‥‥何故、それを私に伝えに来た」
「私は、貴方を一角の商人と踏まえ、ちょっとした提案に来たんですよ」
 エグムはまた微笑み、その提案を話し始めた。

●花嫁行列
 一方その頃、小春の結婚式の準備は着々と進められていた。

「とうとうこの日が来てしまいましたね‥‥」
 白無垢に身を包まれた小春は、大勢の護衛に囲まれながら神社に向かう行列をなしていた。道行く人々は素敵な花嫁だと口を揃えて言うが、その言葉ひとつひとつで彼女の表情は暗くなっていく。
「大丈夫、この作戦は必ず成功させてみせるから」
 肩を落とした小春の肩を、設楽 万理(ia5443)が叩いて勇気づける。
「そうですよ!この作戦は幸せな門出の一歩なんですから、笑ってください!」
 同じく小春の護衛として潜り込んだ開拓者、マーリカ・メリ(ib3099)も万理の隣で彼女を励ました。マーリカの役割は護衛兼介添え役ということになっているので、個人的に小春と知り合いだったらしい万里と同じく、小春の傍に常についていても怪しくない立場だ。
 対する鈴歌(ib2132)は、少し離れた位置で彼女たちを見守っていた。吟遊詩人としての身分を隠し、腰にレイピアを帯刀して護衛らしく振舞っている。そして、彼女はある人物の動きを注視していた。それは、小春が護衛の中で最も厄介だと言っていた、護衛頭の悠月という男だ。
(ほんま、なんぎなこっちゃ。確かにずっと小春を凝視しとる)
 護衛として潜り込むことは簡単だった。小春が一言、男の護衛に囲まれて歩くのは嫌だと父親に言ったのだ。
 だが、小春の父親の側近であると悠月いう男は最後まで反対していたらしい。
(今回の作戦は、この悠月はんをどうにかせんとあかんなぁ)
 鈴歌は悠月の姿を目で追いつつ、改めて今回の作戦について気合いを入れ直した。

●作戦、決行
 花嫁一行は、それから結婚式を取り行う神社に向かい歩みを始めた。
 神社に向かう道中が人気の少ない道であるのは幸いだった。待ち伏せ班の一人である石動 神音(ib2662)が事前に現場を調べており、作戦決行は最も人気のない細い並木道で行われる手筈が整えられていた。

「うわぁ〜ん、お腹痛いよ〜!」
 並木道を通る途中、そんなけたたましい泣き声が一行の足を止めた。泣き声の主は、待ち伏せ班の一人である月見里 神楽(ib3178)だ。彼女の役目は仮病で護衛をひきつける役であり、もちろんこの泣き声も演技。彼女はタレ耳の猫獣人であるため、頭に布を巻いて子どもらしい外見を装っている。
「だ、大丈夫ですか!?」
 泣き叫ぶ神楽の傍に、小春が駆け寄る。もちろん、これも作戦の内だ。
「小春様、あまり道草を食っては‥‥」
 案の定、護衛頭の悠月は眉間に皺を寄せたが、それを万理が止めた。
「待って。病気の子どもの介抱をするぐらいの時間の余裕はあるでしょう?」
「そうですよ。ここであの女の子を見捨てていけば、結婚式に向かう小春さんの心の中にわだかまりが残ってしまうかもしれませんよ」
 続けて、マーリカも畳みかけるように言う。それでも悠月はまだ何か言いたげだったが、小春の言葉が最後のひと押しとなった。
「ごめんなさい悠月。わたくしはここでしばらく彼女の介抱をしたいので、一旦休憩をとってもよいでしょうか?」

●謎の盗賊、現る
 作戦通り並木道で休憩をとることとなった一行は、次なる作戦へ移行するための準備に入っていた。

(えっと、神楽さん。これからわたくしはどうしたらいいのですか?)
 こそこそと話しかける小春に、神楽も同じく小声で返す。
(ちょっと待ってて。そろそろ恵皇(ia0150)さんが来てくれるはずだから‥‥)
 そう言いながら、神楽は片手を上げるような仕草をして合図を送った。事前の作戦で決めていた、次の作戦へ移行する準備ができた事を伝える合図だ。その合図を離れで見ていた鈴歌は、おもむろに立ち上がり周りの護衛に語りかけた。
「せっかくの休憩中やし、ちょっと一曲歌ってもええやろか」
 その提案に、突然の休憩で手持無沙汰になった護衛達の興味が鈴歌に向かう。
「この歌はな、さる花嫁の‥‥そうやね、ちょっと変わった歌なんよ?」
 そう言い、鈴歌は歌い始めた。その歌のあまりの上手さに、はじめこそ興味本位だった護衛の意識は完全に彼女の歌に向かった。ひとり、またひとりと鈴歌の周りに護衛が集まり、小春の近くから護衛の数が減っていく。
 その時である。

「ひゃっはー! 女と金目のモノは置いていけぇー!」
 わざとらしいほど大きな声を出して、木々の影から恵皇が現れた。顔にもふらの面をかぶり、手には手斧。彼の役割は、盗賊として登場し護衛をひきつける役目だ。
「な、何者だ!?」
 さすがの悠月も、この時ばかりは小春から注意を逸らし恵皇に意識を向ける。
「俺は通りすがりの盗賊よ。それよりそこの花嫁さんは残念だったなぁ、せっかくの式当日に俺みたいな盗賊に目をつけられてよぉ」
 そう言いながら、恵皇は挑発するように手斧を片手でぐるぐると回す。だが、相手が油断するようにわざと恵皇はその手斧を「うぉっと」と言いながら取り落とそうとするなど、意外に芸が細かい。
 案の定、その様子に「取るに足らない盗賊だ」と判断したのか、幾分落ち着きを取り戻した様子で悠月は護衛達に命令した。
「おい護衛達、この不審者を捕えろ!」

●花嫁交換
 ここまで作戦は順調に進んだ。恵皇はわざと護衛の攻撃を受け、三下盗賊を演じ続けている。その様子にすっかり護衛達は騙され、意識は完全に恵皇の方へと向いていた。だが、小春の傍にはまだ悠月と2人の護衛がいた。意識こそ突然現れた恵皇に向いているものの、小春の身に何か起きればすぐに気付かれてしまうだろう位置にいる。
 しかし、もちろんそれも想定内の事。
(よし、次の作戦に移行してもらうぜ!)
 恵皇は、タイミングを見計らい片手で持っていた手斧を両手で構えた。次の作戦へ移行する準備が出来たことを伝える合図だ。
 それを並木道の外れから見ていた神音は、近くで一緒に控えていた朽葉・生(ib2229)に話しかけた。
「朽葉ちゃん、作戦の合図だよ!」
「そのようですね。では、慎重にいくとしましょうか」
 そう言いながら、朽葉は小春の周りにいる護衛に気づかれないギリギリの位置まで近づくと、持っている杖に意識を集中した。‥‥一番初めに術をかける相手は、もちろん悠月だ。
「深き眠りに堕ちよ、アムルリープ!」
 彼女が詠唱を完成させると、術をかけられた悠月は途端に体のバランスを崩し、その場に立膝をついた。
「な、なん、だ‥‥?」
 手練の魔術師である朽葉の魔法から逃れられる筈もなく、悠月はそのまま地面に倒れて眠ってしまう。その様子を見ていた残りの護衛達二人も、護衛頭の突然の異変に彼の元へと集まった。
 つまり、小春の周りはついに完全なノーガードとなったのである。

「小春、今のうちに着替えて!」
「は、はいっ」
 万理は作戦に合わせ、小春の衣装を素早く脱がせ始めた。その隣では、身代わり花嫁になる手筈の神楽も、急いで衣装を着替えている。
「鈴歌さん、護衛の様子はどうですか?」
 マーリカが少し離れた位置にいる鈴歌に尋ねると、返事の代わりに手でオーケーという合図を送った。どうやら、まだ護衛達はこちらの様子に気づいていないようだ。
 そして、こうして花嫁交換の準備が着々と進む中でも、朽葉は残り二人の護衛にアムルリープをかけ続けた。神経を集中させてかけた彼女の魔法はすべて成功し、小春の周りの護衛はすべていない状態となった。

「‥‥あとは、護衛頭をなんとかしておかなくちゃね」
 神音はそう言うと、なるべく足音を消して悠月に近づいた。そして予め用意していた荒縄で悠月の腕を縛る。本当なら念には念を入れて用意していた手ぬぐいで猿ぐつわもしておきたかったところだが、それ以上悠月に接触すると彼が起きてしまいそうだったので諦めた。
 だが、これで一番厄介な悠月の戦力を殺ぐことができたと言えるだろう。

「こっちはひとまず完了だよ。そっちの準備は大丈夫?」
 神音が着替えをする一同に尋ねると、万理が得意げに言った。
「完了よ。見て」
 万里が指さす先には、衣装を交換した小春と神楽の姿が。もともと背丈が近かったこともあり、彼等は傍目に少し見る程度では完全に入れ替わって見えた。神楽の耳や尻尾も、白無垢の衣装や角隠しにうまく隠れて全く目立っていない。
 対する小春は、今まで神楽が来ていた衣装に身を包んでいた。
「皆さん、本当に色々とありがとうございます」
 深々とお辞儀をする小春に、マーリカは首を振った。
「何言ってるんですか。お礼は、無事に昴さんのところに辿りついてからですよ」
「ふふっ、そうですね」
 今までずっと緊張していた表情をしていた小春が、ふいに笑った。その表情は可愛らしく、年相応の幼さが残る顔だった。‥‥結婚するにも、駆け落ちするにも、まだ彼女には早いような気がする程度に。
(‥‥とと、そんな事まで考えても仕方ない、か)
 万理は首を振って考えを消すと、意識を作戦に戻した。
「‥‥で、後は神音が小春を駆け落ち相手のところまで護衛するって手筈よね」
 万理が確認すると、神音は頷く。
「うん。後はそっちで少しでも時間を稼いでくれると嬉しいな」
「わかりました、任せてください!」
 神音に対し、マーリカはぐっとガッツポーズを作った。

●作戦、終了
「くそっ、お前らなかなかやるな! 今日はこれくらいにしておいてやるぜ!」
 そんな三下のお決まり台詞を残し、恵皇は去っていく。
 小春と神音がこの場から離れた様子を見て、作戦の最終段階に移ったのだ。花嫁が無事に昴の元に辿りつけるまでの時間を稼ぎつつ、自分たちもこの場から離れなくてはならない。この作戦の中で最も気を引き締めなくてはならない部分だ。
 恵皇が立ち去るのを見て、二人の護衛が彼を追った。だが、彼の逃げ足は速く、二人の護衛は全く追いつけてはいない。その様子からすると、恵皇は無事にこの場から逃げることができるだろう。
 問題は、入れ替わった花嫁たちの側だ。

「おい、なんだこの縄は!」
 目が覚めた悠月は、目の前にいる神音に叫んだ。
「ごめんなさい。でも、しばらくおとなしくしていてください」
 神音は、事前に調べていた人目につきにくい脇道に、悠月を引きずりながら運びこんでいた。運ぶ途中でさすがの悠月も術から回復し目を覚ましたが、腕を縛られていてはどうすることもできない。彼が出来ることと言えば、ただ叫ぶことだけだった。
「くそっ、お前もあの盗賊の仲間か!? 何が目的だ!」
 叫びつつ、悠月は自由にならない体でなんとか小春の様子を見ようと体を起こした。遠くには、遠目からも目立つ白無垢がはっきりと見える。だが、悠月はその姿に違和感を覚えた。
「‥‥あれは、小春様じゃ、ない?」
「あ、やっぱりわかっちゃうか。なるほど、小春ちゃんが気をつけろって言うわけだね」
 神音の呟きに、悠月はまた、眉間に皺を寄せる。
「‥‥まさかお前たち、小春様の差し金で?」
 その言葉には返事をせず、神音は心の中で呟いた。
(やっぱり、女の子は大好きな人と結ばれなくちゃ)

●逃亡
 万理が「悠月はあの三下盗賊を追っかけていった」と言いうまくその場を取り繕い、花嫁が入れ替わった一行はそのまましばらく神社へ何事もなかったように歩みを進めた。
 そして、ある程度そうやって時間を稼いだところで、この作戦が終了する時がきた。

(さてと、そろそろ逃げるわよ)
(はい。いち、にの、さん、ですよね!)
 万理が横目で合図し、マーリカがそれに答える。鈴歌も離れから確認の合図を出した。
(よし、じゃあ‥‥いち、にの、)
 万里のカウントダウンに、他の仲間は耳を塞いだ。
(さんっ!!)
 万里のカウントダウンと共に鳴り響いたのは、マーリカの吹いたブブゼラという楽器の音。突然の大きな音に共にいた護衛達は驚き、何事かと周囲を見回す。その隙に、小春に変装した神楽を含む四人は、それぞれ違う方向に向けて勢い良く走り出した。
「なっ、お、追いかけろ!」
 護衛の一人が叫び、なんとか態勢を立て直して彼等を追うもの、バラバラに逃げた彼等を追うのは至難の業だった。それに、こういう時に指示を出す役の護衛頭・悠月の不在も大きな痛手である。さらに‥‥
「うわぁっ、なんだこれ!」
 護衛の一人が叫んだ。神音が用意した撒菱や数々の玉に足を取られたらしい。その効果がよかったので、マーリカは相手に怪我をさせてしまう恐れのある魔法の使用は止めておいた。
 そうこうしている間に四人はあっという間に逃走を終え、無事に『結婚式』‥‥花嫁奪還作戦は幕を閉じたのである。

●父親の結論
「‥‥そうだな。では、娘には少し時間の猶予を与えるか」
 エグムから提案を聞き終えた小春の父親は、静かにそう答えた。
「それが得策だと思いますよ。彼等は所詮まだ子ども。行動力はあっても行き詰まるときがくることでしょう。その時こそ、貴方が動くべき時です。ただ、どうあっても婚約相手の家系には睨まれるとは思いますが‥‥」
 エグムの言葉に、力なく小春の父親は言った。
「結婚式にこの大遅刻だ。例え小春を今からここに引っ張ってきても、もう縁談は上手くいくまいよ」
 開き直ったように、父親は続ける。
「娘の駆け落ちを認めるにしろ、連れ戻すにしろ、答えを出すにはまだ早い‥‥ということか」
 父親のその呟きには答えず、エグムはただ静かにその場を後にしたのだった。

 その後、小春は神音の護衛の元、無事に駆け落ち相手である昴の元に送り届けられた。
 だが、はたして駆け落ちした小春と昴は無事に幸せな生活を送ることができるのかどうか。

 ‥‥それはまた、別のお話。