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■オープニング本文 ●安須大祭 石鏡、安雲の近くにある安須神宮にて二人の国王‥‥布刀玉と香香背は賑々しい街の様子を見下ろしてはそわそわしていた。 「もうじき大祭だね」 「そうね、今年は一体何があるのかしら」 二人が言う『大祭』とは例年、この時期になると石鏡で行なわれる『安須大祭』の事を指している。 その規模はとても大きなもので石鏡全土、国が総出で取り組み盛り上げる数少ない一大行事であるからこそ、二人が覗かせる反応は至極当然でもあるが 「はしゃいでしまう気持ちは察しますが、くれぐれも自重だけお願いします」 「分かっていますよ」 だからこそ、やんわり淡々と二人へ釘を刺すのは布刀玉の側近が滝上沙耶で、苦笑いと共に彼女へ応じる布刀玉であった。人それぞれに考え方はあるもので、石鏡や朝廷の一部保守派には派手になる祭事を憂う傾向もあり、一方で、辛気臭い祭事より盛大なお祭りを望むのが民衆の人情というもの。 様々な思惑をよそに、お祭りの準備は着々と進みつつあった。 ●と言う事で そんな話が交わされてから数日後、安須神宮。 その内部にある部屋で布刀玉(iz0019)はやはりその側近と言葉交わしていた。 「‥‥それで、御自ら?」 「はい。何処も人手が心許ないと言う話を伺っていますから、ね」 その話は途中から聞いたとしても安須大祭に関わる事であるのは明確で‥‥笑顔浮かべる布刀玉とは対照的に、沙耶の渋い表情からもそれを察する事は出来て。 「だからと言って何も布刀玉様まで出張らずとも‥‥満足な警備も出来ませんので」 「沙耶がいれば事足りませんか?」 故に側近の口調には普段よりも抑揚なく、淡々と手厳しい感あったが次いで響いた王の声には何も返せず、視線を反らす彼女。 「とは言え全般、僕だけでは対応出来ないでしょうから‥‥」 そんな側近の反応に首を傾げながらも布刀玉は自身、何をすべきか思案して‥‥そして見出す。 「安須神宮の見学をされる方の対応に回りましょう」 「‥‥それが妥当で賢明かと」 その結論を聞き、息を吐いてから改めて王へ向き直った沙耶。 一つ頷きこそして、しかし提案もする。 「ですが一つだけ言わせて頂けるなら、一日限定の人数限定と言う事に‥‥」 「まぁ‥‥しょうがないのかな?」 それに対し布刀玉は微かに肩を落とすも、自身の立場も自覚するからこそ渋々頷いて‥‥その代わり、彼もまた一つの提案を側近へ返す。 「それじゃあ折角だから、開拓者の方も招きたいと思うけど」 「異論はありません」 布刀玉の提案、彼女からしてみれば自身以外にも王を警護出来る人材が少なからず増える事にも繋がり、むしろ喜ぶべき案。 「ならこれから、その手配に関する文書を認めよう」 かたや、布刀玉と言えばやはりその心中察しているか分からず‥‥それでも先までとは違う、屈託のない笑み湛え卓に向かう彼の表情を見て沙耶は溜息漏らしながらも釣られて微笑むのだった。 |
■参加者一覧 / 朝比奈 空(ia0086) / 滋藤 御門(ia0167) / 玖堂 真影(ia0490) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 りょう(ia1673) / 羅轟(ia1687) / 平野 譲治(ia5226) / 景倉 恭冶(ia6030) / からす(ia6525) / 玖守 真音(ia7117) / 千羽夜(ia7831) / 朱麓(ia8390) / ジェシュファ・ロッズ(ia9087) / ベルトロイド・ロッズ(ia9729) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / ルンルン・パムポップン(ib0234) / 明王院 浄炎(ib0347) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / ケロリーナ(ib2037) / ミリート・ティナーファ(ib3308) / 長谷部 円秀 (ib4529) |
■リプレイ本文 ●穏やかな陽気の中、殺気立っているのはきっと気のせいです 安須神宮を眼前、流れ行く人達を傍目に頭上を見上げて長谷部 円秀(ib4529)は輝く太陽に目を細め、静かに呟く。 「さて、絶好の観光日和ですね。どうせなら全員で楽しみたいものです、が‥‥」 天候は快晴、正しく彼の言う通りなのだが‥‥布刀玉(iz0019)の傍らに控える滝川 沙耶が放つ、妙なプレッシャーには彼ならずとも鼻白むもので。 「どうかされましたか?」 「‥‥いや、何でもない」 思わず尋ねてしまう円秀だったが、彼女から返って来たのは素っ気無い回答だけ。 まぁ周囲の尋常ならざる人ごみから察すれば、必要以上に気を揉むのはしょうがなく‥‥とは言え、側近なのにそれを表情に顕にしていいものだろうかと考え、クスリ笑む。 そんな側近の気苦労を知ってか知らずか、肝心の布刀玉はと言えば 「久し振りにお会いしますが、お元気そうで何よりです」 「空様に御門様‥‥でしたよね? お久し振りです」 「近く大きな祭開かれるとか‥‥楽しみにしております」 「もう半ば、始まっている様な感じではありますけれどね」 「そうね、とても賑やかで。久し振りではありますが今回も、宜しくお願いします」 朝比奈 空(ia0086)に滋藤 御門(ia0167)らと、そこに柚乃(ia0638)も加わって久々に会った者と挨拶交わし微笑んでいた。 尤も、久しくこの手の場に出てくる彼見たさにこの場へ駆けつけた者は一般の人込みで多く、挨拶やら握手やらひっきりなしに絶えない。 まぁこの辺りも沙耶が気を揉んでいる所なのかも知れないが。 「私はミリート。よろしくね、布刀玉くん♪」 「香香背ちゃんのおにいさまですのね、初めましてです〜」 ともあれ、側近のそんな配慮に気付きながらも神宮内でもあって他にも警護の者多いからこそミリート・ティナーファ(ib3308)にケロリーナ(ib2037)は遠慮せず彼に近付けばそれぞれに屈託ない笑みを浮かべ、頭垂れると 「初めまして、今日は宜しくお願いしますね」 「ふゎゎ、けろりーなお友だちになりたいですの☆」 「はっ‥‥私も!」 他の人達と同様に笑顔浮かべて布刀玉は二人にも応じるとケロリーナ、早く彼の手を掴めば友好の誓いを言うとミリートもまた彼女に続いて手を振り掲げ、やいのやいのと。 「あー、前もって言っておくけどあたしの事は呼び捨てで構わんぞ。その方がこっちも気が楽だからねぇ」 「‥‥お気遣いありがとうございます」 も早くもヒートアップしかかる場を制する様に朱麓(ia8390)が布刀玉の頭にぽふり、手を置けば挨拶より先にそれだけ言うと、その心遣いに気付いてた彼が一礼すれば苦笑で応じる朱麓。 「今日は貴族の姫らしくしとこうかしら」 「大体、姫姉様に護衛なんて必要だったんですか? そんなん必要n‥‥」 「‥‥真音? 何か言った?」 「イエナンデモアリマセン‥‥とそれよりも姫姉様、布刀玉様へ挨拶を!」 「そうね、そうだったわ」 とそれぞれに挨拶交わす中、玖堂 真影(ia0490)と玖守 真音(ia7117)の石鏡に縁ある同じ氏族二人は王へ挨拶交わそうとしつつも、真影の余計な一言から唐突に漫才が始れば最後には屈する真音だったが‥‥その最後ですべき事思い出せば真影へ改めて言うと頷いて彼女、漸く王の前へと進み出て恭しく頭を下げる。 「お初に御意を得ます、布刀玉様。『句倶理の民』玖堂家が一の姫・真影と申します」 「同じく守護一族、玖守家が嫡男・真音。どうぞお見知りおきを」 「えぇ、こちらこそ。これからもどうぞ支えて頂ければ幸いです」 すれば応じる布刀玉だったが沙耶に肩を叩かれれば辺りを見回して漸く、自身がすべき事を思い出してそれを声にする。 「‥‥と挨拶ばかりで長くなりそうなので皆様、集られたでしょうか?」 「集ったなりよーっ! 今日はよろしくなのだ!!」 「はい、拙い所あるでしょうがこちらこそ」 その問い掛けへは場に集った一同の中、平野 譲治(ia5226)が代表して満面の笑みを持って答えると近い年頃なのに元気溢れる彼とは逆、静かに頷いて布刀玉は皆へ呼びかけるのだった。 「それでは、神宮の見学をされる方は僕の後に着いて来て下さい。近くのもふら様牧場へ大もふ様を見に行く方と柵の修理を手伝って頂ける方はあそこにいる、案内の者へ着いて行って下さい」 ●安須神宮観光ご一行様 門を潜る前に二つに別れた一行の内の一つはそのまま門を潜り、石鏡の中枢たる安須神宮のその敷地へと足を踏み入れる。 「これが安須神宮かぁ〜‥‥凄いね!」 「あ、あぁ‥‥そうだな」 未だ歩いているのは神宮へ繋がる道なのだが、その奥に見える神宮の本殿を見てジェシュファ・ロッズ(ia9087)とベルトロイド・ロッズ(ia9729)は性格の違う双子の割、珍しくそれを見て意見を一致させていた。 「正面に見えるのが本殿で、政はあの中で行っています。右手に見えるのは神宮司庁でその奥にあるのが参集殿。神楽殿に神酒殿はあちらに‥‥」 そんな賑々しい兄弟の傍ら、布刀玉はその間にもしっかりと周囲に見える建物の説明をしていれば二人、慌ててあっちにこっちにと視線を投げると 「思っていた以上に、規模が大きいわねぇ」 「そりゃ姫姉様、見た時なくても石鏡の中枢の中枢だから当然だと思いますよ?」 「‥‥今日は一言余計ね、真音」 双子とは逆、余裕持って王の説明を耳で受けながら真影はゆるりと辺りを見回してはボソリ呟くが‥‥それは真音の耳にも入って突っ込まれると即時、両のこめかみをこぶしでぐりぐりぐりぐり。 「でも開放の折、一般の方が見て回れる所だけ挙げているので実際にはまだ色々とありますよ」 そして悶絶する真音を見止めて布刀玉はクスリ笑い、もう一言だけ付け加えると唖然とする従姉弟だったが‥‥そんな折、朱麓の口から響いたのは一つの疑問。 「そういや、この神宮て何で安須って名前?」 「えぇと‥‥」 お決まり、と言うかオーソドックスではあるが良い質問を受けて果たして布刀玉は一時口篭る。 「‥‥実際、由来はあるんですか?」 「あぁ、ある‥‥が布刀玉様なら問題はなく答えられるだろう」 「しっかりした由来があるなら、やはり深い歴史を持っているんですね」 その様子を見て空は彼を気にしながらも側近へ小声で尋ねると、頷いては呟いた沙耶の言葉に納得して御門もまた頷くと‥‥布刀玉、ここで漸く口を開く。 「須く安らかなるべし、と言う意味を込めて『安須』と冠された様な‥‥曖昧な回答で申し訳ありませんが」 「すべ、からく‥‥?」 「当然、妥当若しくは必要と言う意味で合っていたでしょうかー?」 果たして解を聞き、首を傾げるベルトロイドだったが次いで響いた彼の疑問には弟のジェシュファが応じると首を縦に振る布刀玉へミリート。 「へー‥‥でも何となく、名前の通りって感じはするね?」 「そう言って貰えると、僕としても嬉しいです」 辺りを見回しながら笑顔で言えば彼から返って来た笑顔を目の当たりに照れ屋故、思わず視線反らす。 「しっかしあんたもまだ若いんだからもっと肩の力抜きゃ良いのに‥‥」 「まだ何時もよりは自然体ですよ?」 それを見て笑みながら朱麓もまた返って来た答えに納得して頷くが、しっかりし過ぎているからこそそんな言葉を掛けるも、至って動じずに応じて彼は再び皆の先頭に立って口を開いた。 「それでは普段、お見せしていない本殿の中を案内しますね」 それから多少の時間を経てお昼時、神宮内内部の案内を受け休憩も兼ねた昼食を来客用の間にて一行は受けていた。 「‥‥すぐ行動に繋げられる子供は、羨ましいですね」 「でも、出来ない事の方が多いですよ?」 簡単ではあるが海老の天麩羅を入れたおにぎりを拵えてきたケロリーナが積極的な行動を前、微笑んで呟いた空へ果たして言葉返した御門だったが 「あーっ、お本沢山!」 「勉強しなければならない事が多いですからね」 直後に響いた声を聞けばそちらを見て‥‥書棚に納められている本の量に改めて唖然とし、また王とは言え傍らにいるケロリーナと同じ年頃の布刀玉が見せた涼しげな態度と言葉には声を詰まらせて。 「‥‥はっ、そう言えばこの神宮ではどんな精霊様を祀っているんだろー?」 「あぁ、それは気になりますね。私も調べ切れなかったのでもし宜しければ聞かせて頂ければと‥‥」 「えぇ、構いませんよ」 だがそんな彼の内心に気付く筈もなく、無邪気な声音でケロリーナが問えば掌叩いて円秀も同意すると頷き布刀玉。 「安須神宮に祭られている精霊の名は『空翔覇龍(そらかけるはたがしらのりゅう)』、と呼ばれています‥‥尤も、伝承上でも名前しか確認出来ていないのでどの様な姿形か等、詳しい事は未だに分かっていません」 今までと変わらない調子で言いながらも、それを聞いて一同はと言えば初めて聞いたその名前にそれぞれ表情を変えるが 「そろそろ良い時間でしょうか? 落ち着いたならもう少し、内部を案内します。また何処か、見てみたい希望もあれば‥‥」 休憩に割いた時間が比較的長かった様で、皆の反応こそ気にしながら布刀玉は立ち上がり言えば、またしてもケロリーナが手をぶんちょと振り回して口を開く。 「はーい、お部屋の方も見てみたいのー☆」 ちゃきり‥‥。 すると直後、微かに響いた鍔鳴りの音に場は静かに、しかし騒然とする‥‥誰が鳴らしたかは余程疎い者でなければ明らかで。 (え、それでも反応するの‥‥) (過剰過ぎじゃないかねぇ) 内心でだけ誰かがそんな事を思ったらしいが、流石に口にする事は出来ず。 「まぁ、たまの機会ですから構いませんよ。尤も香香背の部屋に関しては流石に許可なく‥‥と言う訳にも行きませんから、僕の部屋だけでお願いしますね」 慣れているのか布刀玉は気にせず笑顔で応じると再び皆の水先案内人となるべく、踵を返すのだった。 ●もふりもふられ大もふ様 時は遡り、安須神宮の門前で別れたもう一方はと言えばその近くにある石鏡内で最大規模を誇る、もふら様牧場を訪れていた。 「それじゃあ譲治くん、柵の修理頑張ってねー」 「るーはしっかり楽しんでくるなりよー!」 尤も到着してすぐに琉宇(ib1119)と譲治の微笑ましいやり取りの通り、大もふ様との邂逅組に牧場の柵修理組の二手へ更に分かれる。 ● その一方、大もふ様との邂逅組の方へ先ず視点を移そう。 「大もふ様‥‥どれだけもふもふしてるのかしら」 「大もふ様って普通のもふらと違うん?」 まだ見ぬ大もふ様の下へ案内される最中に千羽夜(ia7831)はうっとりと夢見る少女の様な表情湛え呟けば、直後に響く同行者で恋人の景倉 恭冶(ia6030)が漏らした疑問は彼女の耳に生憎と入らず 「恭冶さん、早く行きましょ♪」 「そ、そんなんひっぱんなって‥‥!」 がっしと手を掴まれて彼、半ば千羽夜に引き摺られる形で大もふ様の下へと急行するのだった。 そしてそして大もふ様が鎮座すると言う、もふら様牧場のその最奥。 「こ、これが大もふ様‥‥」 「わぁ‥‥陽に染まり安らぐ巨体、見るからにふかふかです!」 「大もふ様の事、知ってから一度触ってみたかったんですの♪」 全長3mはある大もふ様を初めて目前に、うっとりと感嘆の吐息漏らす千羽夜にルンルン・パムポップン(ib0234)も負けず瞳輝かせて見上げれば、礼野 真夢紀(ia1144)は年相応に無邪気な表情を浮かべ大もふ様の周りをぐるぐると。 「しっかし本当にでっけぇなぁ‥‥ってあいつ、大もふ様を前に何をしているんだ?」 その光景、苦笑を浮かべながらも恭治が遠目に見守っていればふと大もふ様の懐に熊‥‥もとい、まるごとくまさんをしっかり着込んだ羅轟(ia1687)が手を合わせて何やらブツブツと呟いていて。 「これから‥‥物‥‥破壊‥‥紛失‥‥しません‥‥様に」 後日、当人から聞いた話に寄れば物を壊したり無くしたりと言った不利益が数多くあってその厄払いにと、と思っての祈願らしく。 「巨大マスコットが大もふ様にマジ祈願とか‥‥そもそも大もふ様に祈ってご利益あるのかね?」 「‥‥ぬ、不破殿‥‥か?」 「ありゃ、見付かった」 その時、その祈りを遠目から見守っていた不破 颯(ib0495)は逃さず聞き留めれば首を傾げると、余り視界が利かない筈にも拘らず彼の存在に気付いた羅轟が振り返り尋ねれば僅かにだけばつ悪そうな表情を浮かべる颯だったが 「まいっか、俺も倣わせて貰うわ‥‥今年も平和に過ごせます様に。のんびり楽しく過ごせるとなお良いねぇ」 次いで苦笑めいた笑顔湛えるとくまさんの隣で二人揃って手を合わせて祈ってみる事に。 「大もふ様、元気にしてた‥‥?」 「あぅ、触ったー‥‥触って良いの?」 その傍ら、彼らの祈りは気にせずマイペースに柚乃は微笑湛え、大もふ様に触りながら尋ねるとそれに気付いたルンルン、指差し尋ねれば頷きだけ返す世話係の巫女に笑顔返して彼女。 欠伸だけ柚乃に返す大もふ様の尻尾へどーんと飛び掛る。 「‥‥香香背ちゃん、忙しいのかな。今日はここにはいない‥‥?」 「生憎と今日はこちらの方に足は運ばれていない様で」 すれば続く他の皆にも動じず、世話係の巫女へ向き直って尋ねる柚乃だったがその回答には生憎と快い返事ではなく、僅かに肩を落とし内心しょぼくれる彼女。 も他の皆が次々に大もふ様へ触り、もふり飛び込む様を前にすれば柚乃も辛抱堪らず、その豊かな毛並みの海に飛び込み埋もれる。 「凄く綺麗な毛並み‥‥よしよし、優しく撫でちゃいます。この辺りが気持ちいい?」 「いえ、きっとこの辺りが」 「こっち、だと思う‥‥」 その最先に飛び込んだルンルン、大もふ様のもっふもふ感を楽しみながら慈しむ様に撫でてやると、ふるり震えるその反応に彼女が果たして尋ねれば‥‥それを機に何故か真夢紀に柚乃も加わって大もふ様へのあちこちをさわりさわり。 お互いが幸せな気持ちになれるって大事な事だよね! 「あ、あの‥‥抱きついてもいいですか?」 かたや、その光景が目に入らない程に大もふ様を凝視している千羽夜は世話係の巫女に今更な質問を繰り出し、確かな了承を得れば頬を上気させ瞳をますます輝かせると‥‥いよいよ大もふ様へ文字通りに飛びつき、その毛並みを思う存分堪能し始める。 「あーん、最高っ! もう好きにしてっ!!」 「もっふぅ‥‥」 初体験の大もふ様ダイブは返って来る確かな弾力にもふもふ感から彼女を魅了して止まず、別所の丁寧なお触りとは違う大胆で激しいハグには思わず大もふ様も久しく声を発し。 「‥‥‥」 (機嫌、損ねてないかなぁ‥‥) だが一方では見てるだけー、な彼氏の恭治は静かに眺めてのみ‥‥ちらと彼の方へ視線を投げるとやおら立ち上がった恭治、内心こそ分からずも漸く大もふ様に触れれば一先ず安堵する彼女は再び、大もふ様を強く抱き締める。 「‥‥っきゃ!」 が突然、背後から抱き締められた事に千羽夜は驚けば振り返るとそこには恭治がいて。 何か言う訳ではなく、ただ抱き締めているだけだがそんな彼の振る舞いに千羽夜は微笑み大もふ様から身を離しては恭治を抱き締め、囁いた。 「あなたへの気持ちと、もふ愛は別物だからね?」 と彼らのいちゃいちゃに気付かず、琉宇はと言えば相対してから未だじーと大もふ様を見上げていて。 「こう言うの、欲しいなぁ‥‥」 誰しも思い、彼もまた同様に思った本音をポツリ漏らせば麗らかな陽気にも当てられてぽふん、その懐に倒れこむと 「なんだか、眠く‥‥なって来ちゃった」 暫く後、その絶妙なふわもこ加減から眠気に誘われて琉宇は傍らで大もふ様のかゆい所は何処か探し当てよう大会が繰り広げられていても気にする事無く、遂に夢の中へ落ちれば 「もふ‥‥ぁ」 長閑な風景にそれぞれが楽しむ真っ只中において、その一切を気にせずに大もふ様はまた欠伸だけして後、やはり眠りにつくのだった。 ●地味だけど、大事な事? と大もふ様ともっふもふ戯れる面々が楽しく過ごしている一方、牧場の柵修理組はと言えば。 「ガタが来ているとは聞いていたが、確かにその様だな」 牧場の管理を統括する巫女から大よその話を聞き終え、実際にその柵を目の当たりにして呟く明王院 浄炎(ib0347)の様にしっかりした者が多く揃っていた。 「これからも使うものなりよねっ!? じゃ、しっかり作らねばっ!」 まぁ譲治だけはしゃいでいたが、あくまで見た目だけの彼の内心もまた、他の者と変わらず。 「それにしても、意外と物好きが多いのなぁ」 「サダカ、喜捨としてお手伝いしたいのです」 「人数が多い方が楽だろうと思ってな」 「‥‥そうか。ま、頑張ろうか」 そんな彼の様子に苦笑浮かべながらジルベール(ia9952)がモハメド・アルハムディ(ib1210)や琥龍 蒼羅(ib0214)を次いで見ては呟くと、明朗に応じるジルベリアの青年と表情を変えない、無愛想に一見見える志士の二人から返って来た人の良い答えを聞けば頭を掻きながらもジルベールは今度笑めば、踵を返して柵の方へ向き直れば 「おおっし! 喜愛(気合)も一緒に入れるなりよっ!」 「あぁそうだな、期待しているぞ」 変わらぬやる気を見せている譲治の頭に掌置いて言えば、柵の修理を始める‥‥その前にジルベール、果たして場にいる皆を集めれば作戦会議を始めた。 それから暫く。 「君の力を借りたいのだがよろしいかな?」 「もっふぅ? 何をするもふか?」 開拓者以外にも人手こそいるが有限であって‥‥故にからす(ia6525)は現地にいるもふらをスカウトしては労働力へ変換していた。 最大規模の牧場とは言えもふらはもふら、例外たる大もふ様こそ行使するのは憚られるがそれ以外は他の牧場にいるもふらと何ら変わらない扱いで問題なく、巫女から承諾も得られれば今に至る次第で。 「そこの木材を運んでくれぬかな。勿論、喜ぶだろう相応の報酬は準備している」 「もふ‥‥なら手伝ってやるもふよ。はっ、別に報酬が欲しくて手伝う訳じゃないんだもふ!」 明らかにこそしなかったが報酬について提示すれば、彼女と言葉交わすもふらはその交渉に応じる。 と先ず、彼女のもふらスカウトによって木材の運搬限定でも着々と労働力が集えば 「ショクラン、ありがとうございます」 続々とその木材を運搬するもふらがやってくる都度、律儀にモハメドが頭を垂れる傍らで広く人が展開しては着々とその修復作業にあたっていて。 「材木の運搬と、各所への展開は順調なりよー」 「ふむ、これで作業も楽になるな」 周囲の状況を相変わらず元気良く駆けては譲治、その目でしかと確認した現状を誰へともなく報告すれば頷く浄炎だったが 「もふら様使わずともアーニー、私でも運ぶ等の作業は出来るのですが」 「これだけの広さで、時間も限られているからな。出来る範囲を見極めて効率を上げないと」 「はっ、全部やるのではないなりか!」 「‥‥流石に無理だと思うが」 人助け故の喜捨、と言う事でもふら様こそ望んで協力して貰っているがモハメドだけはどうしてもそれが気になって口を開くが、浄炎の言う事も尤もで‥‥またやって来たもふらの頭を今度は撫で、傍らで今更な事に気付く譲治と苦笑漏らす浄炎のやり取りを耳にしつつ改めて辺りを見回してモハメドは長閑な風景に気付いて呟く。 「アーヒ。あぁ、ここは良い所ですね‥‥」 と言う事で進捗は至って順調、額を伝う汗を拭って一息つく蒼羅はふと視界の片隅で何事かしているジルベールに気付き、声を掛けると 「‥‥何をしている?」 「あぁいやな、作業だけしてるのも気が滅入るからちょっと手品を披露していたんやけど‥‥」 いやに疲れている調子で応じる彼は話の途中で察してくれと言わんばかりに視線をある方へ投げれば、そちらを見て蒼羅は彼の疲労の原因についてやっと気付く。 「もっと見せるもふー!」 「もっとこう、派手な奴をもふー!」 「地味でも面白いのが良いもふよ!」 「むしろ発破だもふ!」 果たして蒼羅の視線の先にはわんさと群れ、次から次にジルベールへ手品を見せろと迫るもふら達の姿があって、支離滅裂な彼らの勝手な言い分はさて置いて自分で蒔いた種とは言えジルベールは肩を竦めれば 「と言う事や‥‥」 「頑張れ」 ポツリとそれだけ漏らすも、蒼羅は手伝えそうにもないと早く判断すれば再び柵の修復作業に向かうのだった‥‥暫く後、背後からジルベールの絶叫が響く中でも変わらず無表情のまま振り返らずに。 ●鴉が鳴くから帰ろう それからもそれぞれは楽しみ、また遣り甲斐のある労働に励んでいたが‥‥時間は有限で、日が橙に染まる頃には柵の修復作業も一先ず区切り入れて終わりと判断すれば、大もふ様と戯れる面々は柚乃や真夢紀を中心に熱く楽しくもふら様トークで弾む中。 「お疲れ様です」 「あぁ王様、お疲れさんやでー」 牧場に足を運んだ布刀玉と安須神宮観光御一行様を見止めて後片付けをしていたジルベールが手をひらり振って応じれば、それに気付いて場にいた皆も視線を投げるとその中心にやって来た彼へ浄炎。 「‥‥と言う風に逆立った部分は削り取って置いた故、今度は毛が解れる事も無かろう」 「そこまでのお気遣い、ありがとうございます」 義務こそなかったが簡潔に修理の範囲と状況を確かに布刀玉へ伝えれば、頭を垂れる彼へ唐突に差し出されたのは一杯のお茶。 「お疲れ様なのだっ! のど痛くないなり?」 「今着たばかりなので大丈夫ですよ」 「‥‥あれ?」 差し出した主は譲治で、だが余程真剣に柵の修復に当たっていたのか布刀玉の所在までは正確に把握しておらず、苦笑を浮かべて答えた王へ彼は首を傾げるも 「それでも神宮の案内、お疲れだったろう?」 それでもと譲治の背を押す様にからすが口こそ開くが 「もふー‥‥」 「あぁ済まない、ご苦労様。手伝ってくれてありがとうね」 彼女が設けた茶席に長蛇の列を成している、その先頭のもふらが声を上げると慌ててそちらの対応をする彼女に、布刀玉は微笑めば一先ず他の皆と同じく茶席の片隅にお邪魔する。 「いやぁ、いい一日でした」 「そう言って貰えると幸いで‥‥向こうの皆さんも楽しんでいる様ですし」 と言う事でまだ暫く全員分のお茶は出てきそうになかったが、今日一日を振り返って円秀は簡潔だが率直な感想を布刀玉へ言えば、その意をしっかりと汲んだ彼は改めて頭垂れると未だにもふら様トークが熱い一団へ視線投げ、笑み 「今日はありがとさんだよ。今日はちょっとドタバタしてて無理だったけど‥‥今度、お礼に歌ってあげるね。これでも結構上手なんだから、ふふふ〜♪」 「楽しみにしていますね」 「それでは、この場で済まないが解散となる。以降は各自、それぞれに任せる。この場であれば多少ならまだ、寛ぐ分に問題はないのでゆっくりして行っても構わない」 一行を代表する様にミリートがお返しの礼を言えば、沙耶が締めの挨拶を持って布刀玉を水先案内人とした、安須神宮観光は幕を閉じた。 「改めて今日は皆様、ありがとうございました」 |