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■オープニング本文 安雲にある安須神宮のその一角にある自室にて布刀玉(iz0019)は椅子に腰掛け、頻りに首を捻っていた。 「‥‥うーん」 「どうかされましたか」 先から続くその様子から部屋の入口にて警護の為か、佇んでいた沙那は気になってしょうがなく、遂には口を開いて尋ねると彼。 「いえ、もうお正月も近いなと思って」 「そうですね」 「‥‥うーん」 至極当然な事を口にすれば、こっくりと側近は頷き応じるが‥‥その後に肝心の答えは続かず布刀玉、再び首を傾げるも 「こう、折角の機会ですから何か催したいですよね」 「は‥‥」 「やはり、普通に考えるなら宴会が無難なのでしょうか」 「まぁ、それは、その通りかとは思いますが」 暫しの間を置いてから口を開き先から思案していたのだろう、側近の問いに対する答えを漸く返せば今度は訊ねてきた布刀玉に沙那は曖昧な答えだけ返すと石鏡の王が一人はやがて断言した。 「じゃあ誰とは問わず、参加しても大丈夫な宴会を催しましょう!」 「は‥‥え?」 「そうなると後は場所ですか‥‥何処か評判の良い温泉宿にすべきでしょうね」 「すいません、暫しお待ち下さい」 果たしてその言葉に沙那、余りにも唐突過ぎて固まるがそれには気付かず布刀玉は頭を巡らして早々と次の段階に移行するも、漸く思考が追いついて側近は主の考えを制止すべく声発すれば次々に尤もな事を立て並べていく。 「言い難い事ですが、先ずは自身のご身分を考えて‥‥」 「新年を迎えて早々ですよ、この時位は良いじゃないですか」 「しかし、万が一に悪漢が乱入して布刀玉様の身にもしもの事があると‥‥」 「沙那」 「はい」 「信頼しているよ」 が、それはゆるりと避ければ布刀玉が最後にそれだけ言うと‥‥溜息を漏らしながら果たして沙那、それへの回答は 「‥‥分かりました、場の選定はこちらでしておきますし警備についても可能な限り人目に触れない様、厳重に行ないます」 「うん、宜しくね」 結局折れて話を纏め、笑顔を浮かべる主を前に頭だけ垂れて場を辞する‥‥普段は厳格で通っている彼女も、どうやら布刀玉の前では形無しの模様。 「一年の計は元旦にあり、と言いますし色々な方とお話してみたいものです」 とそれはさて置き、沙那が去ってから布刀玉は立ち上がると窓の外に広がる蒼穹を見上げ呟くのだった。 |
■参加者一覧 / 天津疾也(ia0019) / 滋藤 御門(ia0167) / 六条 雪巳(ia0179) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 奈々月纏(ia0456) / 橘 琉璃(ia0472) / 秋霜夜(ia0979) / 奈々月琉央(ia1012) / 巴 渓(ia1334) / 喪越(ia1670) / 嵩山 薫(ia1747) / ルオウ(ia2445) / 斉藤晃(ia3071) / エリナ(ia3853) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 各務原 義視(ia4917) / 倉城 紬(ia5229) / 菊池 志郎(ia5584) / 難波江 紅葉(ia6029) / 新咲 香澄(ia6036) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 九条 乙女(ia6990) / ルーティア(ia8760) / 夜光(ia9198) |
■リプレイ本文 石鏡の某所にあるそれなりに大きな温泉宿を借り受け開かれる、布刀玉音頭で開かれた新年会。 布刀玉が言う様に開拓者のみならず、近隣の住民も押し掛ければ果たして幾ら大きい温泉宿の大広間とは言え、すぐ一杯になる。 「あけおめことよろや〜。さーみんなお年玉やでー!」 そんな中で挨拶もまだ始まっていないからこそ前座としてか、上座の方へ躍り出た天津疾也(ia0019)は言葉と同時に一つ、今日の日の為に加工したほぼ真円の球体を落とす。 「‥‥‥‥」 ベタな、余りにもベタなその疾也のアクションに対して場で先まで『お年玉』の一言に盛り上がっていた一同は瞬時に凍りつけば、次いで殺意漲らせ(残念な事に手頃な得物がなかった為に)近くにあった座布団を一斉に投げつけ、前座は瞬時に終了。 その一騒動の直後、場はそのままに取り合えず布刀玉が先まで疾也が立っていた、今は座布団の山の上に(背も低いのでしょうがなく)立つと騒ぎも収まれば、苦笑こそ貼り付けたまま口を開くのだった。 「‥‥えー、まぁ告知の通りに身分や立場はここでは一切気にせず、無事に新年を迎えた事を喜ぶべく皆様どうぞ楽しんで下さい」 ●布刀玉王、初めて見る人いと多し そして直後、一先ず飲み物とそれを注ぐ器だけ配布されれば乾杯の唱和が響くとすぐに料理も場へ次々に並べられ、途端に始まる乱痴気騒ぎ。 「仲間達も悪気はない奴らだが、派手にやらかすさ。新年から手間を掛けるだろうけど、何かあれば協力しよう」 「まぁ、大きな問題はないと見ているが‥‥何かあればその時はな」 そんな光景を前、布刀玉を近くなく遠くない距離から見守りながら部下の配置も確認する沙那へ巴 渓(ia1334)は声を掛けると普段からなのか、厳しい面持ちの割には声音柔らかく言うと一先ずそれに安堵し、信頼もして渓は掌を掲げれば人が多く集まる布刀玉の元へと歩いていく。 「布刀玉様、御無沙汰しております。お元気でらっしゃいましたか。本年もどうぞ、宜しくお願いしますね」 「直接お会いするのは初めてですね。この様な席にご一緒させて頂ける事、嬉しく思います」 「いえ、こちらこそ。初めてでも再びでも今年もどうぞ、宜しくお願い致します‥‥そしてわざわざ足を運んで頂いた事にもまた、感謝しています。どうも有り難うございます」 その、人群れる中央にて滋藤 御門(ia0167)や六条 雪巳(ia0179)の挨拶に笑顔で応じる布刀玉に、二人もまた笑顔を浮かべるとその時。 「わわっ」 「手前が布刀玉王か‥‥新年から色々とありそうやけど、いっちょ頑張ったってや」 唐突に頭を撫でられわしゃられ驚く彼、何者かと振り返ってみれば‥‥その背後には斉藤晃(ia3071)、視線が合うと豪快に笑んで彼は一度だけ掌で布刀玉の頭を叩けば 「なんや怖そうなねぇちゃんがおるの、労っているっちゅうに‥‥ま、期待しておるで?」 人波に紛れているとは言え沙那の鋭い視線に気付いたらからこそ、辺りを見回し知人を見付けてはそちらの方へ早々に退散すると、御門の笛の音が奏でられる中で再開される挨拶の応酬に和やかな会話。 「おうっ、俺、ルオウってんだ。よろしくな!」 「こちらこそ、宜しくお願いしますね」 「ふーん‥‥」 次にやってきたのは年の頃が大よそ同じルオウ(ia2445)にルーティア(ia8760)‥‥とは言え、それぞれの対応は異なり無邪気に接してきたルオウに対してルーティアはと言えば布刀玉の顔に迫り、凝視するが 「あぁ、無礼な振る舞いだったら済まない。とりあえず肉食えにく、大きくなるなら肉を食うのが一番だぞ」 「は、はぁ。でもそうですね」 「ならほら、とっておきだ」 様々な依頼に臨んでいるからこそ礼儀もそれなりには熟知しており、即座に自身の対応を詫びれば改めて気軽に言葉投げ掛けると、頷く彼に丸々一羽分の鳥の丸焼きを差し出せば‥‥流石にそれには戸惑う布刀玉ではあったが、無碍に出来る筈もなく苦笑こそ湛えて大きな皿を受け取ると 「あぁ、やっと着いた‥‥流石と言うべきか、人が多過ぎる」 漸く人波を掻き分けて彼の元へ至った渓、雑談の輪に入ってくれば一つの問いを投げ掛ける。 「なぁ、妹は好きか?」 「香香背の事ですか、それは勿論ですよ」 すると返って来た答えを聞いて渓は笑顔を返せば、脳裏を掠める一つの記憶を語ろうと思い‥‥しかし寸で思い留まる、言わぬもまた華である事を理解しているからこそ。 「お前は守れよ、たった一人の妹なんだからな」 だからこそ、大事な事だけを抜いて言えば素直に頷く布刀玉。 (「年中こんな感じだったら息が詰まるだろうな‥‥」) しかし、そんな目に見える光景を別の視点で捉えるからこそ菊池 志郎(ia5584)は内心、そう呟かずにはいられない。 確かに見た目、華もあれば楽しげな光景ではあるが‥‥それはそれ。 その実、沙那こそ明らかに自身の役割を明示した上で堂々とその姿を晒してこそいるが、一国の王をただそれだけで護衛している筈はないと踏むからこそ、そして話にこそ聞いていたが志郎自身が驚く程、王とは言え幼い見た目にも拘らずその様な窮屈な場にいると思ったからこそ。 「布刀玉様、新年明けましておめでとうございます。縁があれば今後もまた、宜しくお願いしますね?」 だから志郎もまた布刀玉へ新年の挨拶交わすべく、丁度先まで交わされていた話が終わったタイミングで話の輪の中に入り込めば、更に場を盛り上げるべく自身が経験した冒険譚の一つを語り始めた。 「一つ、お話をさせて貰っても宜しいでしょうか?」 ●宴会場、新年に相応しい宴 そんなやり取りの中でも人の行き来は未だ激しく、【野槌】に属する面々もまた人波に揉まれれば開始から少し遅れ、今になって漸く会場の中へと辿り着く。 「わぁ‥‥広いですぅ〜。皆さ〜んっ、こっちこっち」 「‥‥上座ですが?」 「無礼講だし、余り気にする必要はないんじゃないか?」 すれば誰よりも先を歩いていた秋霜夜(ia0979)がその宴会場の中、良さげな場所をいち早く見付けると皆を手招きすればエリナ(ia3853)は唖然と彼女を見て首を傾げるも、尤もな理由を明示すれば言い終わるより早くその場に座ると他の皆も霜夜に倣い、微苦笑湛えつつも場に座すると卓に並ぶ料理に手を付けながらも歓談に至る。 「お? 琉央、頬に何かついてたで〜♪」 その中、恋人同士の間柄である藤村纏(ia0456)と琉央(ia1012)はと言えば‥‥仲間内の中でも別段気にせず琉央の頬についていた米粒を可憐な指先で摘んでは自身の口に放ると熱々振りを見せ付ける。 「‥‥っ!」 「ん? どないしたのん?」 「な、何でもないっ!」 照れる彼に首を傾げて彼女だったが 「あ、あんな。その、ウチがお酌しよか?」 「あぁ、じゃあ貰おうかな」 「‥‥ほな、どーぞ」 琉央の傍らにあるお猪口が空である事にも素早く気付けば徳利片手に尋ねると言葉少なく応じて彼はお猪口掲げ、注がれる酒をくいと飲み干す。 「折角やから雪巳はんも?」 「‥‥え? いえ、私はお酒弱いので‥‥や、あの‥‥本当に少しだけですよ?」 その光景に微笑みつつ、纏は雪巳の杯も空である事に気付くとやはり尋ねれば‥‥琉央とは違う、遠慮した答えこそ返すも断れる筈はなく彼女の申し出に応じて杯掲げては飲み干す。 「本来なら神社で寂しく呑んで過ごす筈だったのだけどねぇ。宴会となれば行くしかないさね」 「そうね、全く‥‥」 さて、仲睦まじいその一団の傍らでは女性が二人だけで酒を酌み交わしては料理を摘んでいた。 「‥‥相変わらず、呑んで食べてだけ?」 「折角の機会を逃すのも惜しく」 「まぁ、そうなんだけど」 その一人、難波江 紅葉(ia6029)が空の徳利を着実に築きながら尋ねれば、淡々とながらもこんがり焼かれた尾頭付きの鯛を口に運んでは物の数分で片付ける嵩山 薫(ia1747)が応じると、苦笑を浮かべる紅葉。 「あっ、嵩山さん! 今年もよろしくお願いします」 「あぁ霜夜かい、こちらこそ何かあればまた宜しく頼むよ」 そんな静かにも愉しくやり取りを交わす二人の存在に、果たして霜夜が気付けば近寄りにこやかに挨拶交わすと薫も穏やかに応じた、丁度その時。 「皆、盛り上がってるかーい? 愛し合ってるかーい!?」 「いぇーい! 喪越さんはハピィニュイヤーですYO♪」 「おーう、ハピハピニューイヤーだYO!」 のんびり緩やかに流れていた場の空気を喪越(ia1670)が発した一声で拭い払う様に響けば、そんな彼にもまた霜夜が応じるとやがて場の空気は喪越の方へと流れる事に。 「しっかし、ひたすら飲み食いや宴会芸だけってのも捻りが無ぇな‥‥ここは一つ、ちょっとしたゲームをやってみるか?」 果たしてそう呟けば周囲を見回し、長閑に賑やかに各所で盛り上がっている宴の中で通る声を響かせれば、首を傾げる周囲の一同に彼は言葉を続ける。 「白い碁石に番号を書いて見えない様に箱に入れた上で布刀玉王に引いて貰い番号を読んで貰う。読んで貰った番号が予め配る番号記された紙にあれば穴を開け、縦横斜めのいずれかで番号が揃えば勝ち、ってな」 「‥‥面白そうだが、その景品は?」 「景品は、皆が持ち寄った土産プラスー‥‥」 そしてルールの説明を済ませれば、果たして響いた誰かの疑問にはそちらまで振り返らず応じ、最後だけは囁く様に言うと‥‥喪越との距離があった筈だが、それでも最後の景品を確かに聞き止めた沙那は表情こそ変えず、しかし言う。 「いささか洒落で流すには厳しいな‥‥摘み出せ」 「ヘイ、セニョリータ! 楽しいのが一番だと思うだろー! 折角の新年なんだしぃー‥‥」 すれば直後、何処から沸いてきたか私服でカモフラージュしていた布刀玉親衛隊だろう者等に陽気な陰陽師はあっと言う間に囲まれ担がれ、その場を強制的に辞するのだった。 「やぁお疲れ。お茶はどうかな」 場は変わり、酒が飲めない者達を考慮して避難所の代わりとしてか宴の場の片隅にからす(ia6525)が主となって設けた茶席。 周囲のどんちゃん騒ぎでも平穏だけ保つその場に、すっかり出来上がった雪巳がやってくればからすの呼び掛けに対して彼。 「おひゃ、ですかぁ〜?」 倒れ込みながらも尋ねればやがて彼女を抱擁する、酔えば抱き着き魔と化す彼に対して果たしてからすはと言えば。 「‥‥君の場合は、これか。まぁ飲め」 表情変えず、また動じずにぐいと雪巳の長髪を引っ張り天井を見上げさせれば、その鼻を摘み口元開けて持っていた茶碗に満たされている特製のお茶を注ぎ込むと 「‥‥はふ」 熱々のお茶、と言う訳ではなかった様でそのまま抵抗せずに雪巳はやがて飲み干せば一息だけ漏らした後、程無くして倒れ眠りにつく‥‥一体何が入っているか、明らかにされていないからす特製のお茶、恐るべし。 あ、因みに毒の類は一切入っていないので体に優しい事には変わりはありませんきっと。 「こちらはどうやら落ち着けそうですね。少し休ませて貰って良いでしょうか?」 「えぇ、問題はありませんよ」 とそれと丁度入れ替わりにやって来た布刀玉が響かせた問い掛けに対し、彼女は躊躇いもせず頷き応じると笑顔を返して彼はその場に設けられた席の一つに腰を下ろせば、唐突なその来訪にいち早く対応する夜光(ia9198)。 「蒼天、桜、酒、と、肴の一つも、欲しい所‥‥弓弦にて奏でる音で宜しければ、耳障りにならぬ程度に、ご覧に、入れましょう」 つ、と持参した胡瓜の塩揉み盛った小皿をお茶請けの代わりに布刀玉へ差し出しつつも問うと、果たして頷いた彼の回答を受けて後に銘なき弓を担ぎ出し単弦のそれを弾き出す。 音が限られているからこそ、単調に聞こえるかとは思ったがそれでも抑揚を付けて感情も込め、強弱織り交ぜ弦を弾けば成程確かに弓で奏でているとは思えない曲が場に響き渡る。 「弓の弦とは言え、良かったと思いますよ」 「ありがとう、ございます‥‥」 やがて曲も終われば静かな拍手の後に布刀玉は率直な感想を言うと先まで奏でていた曲とは裏腹、静かな声音でそれでも精一杯に礼を言えば頭を垂れると 「それだけ若いのに、凄いですね。一体お幾つなんですか?」 それでも賛辞する、幼き王ではあったが‥‥しかし、最後の問い掛けは色々な意味で失言である事にはまだその時、気付く筈もなく。 「歳、ですか‥‥? ご覧の、通りの歳ですが」 「‥‥失礼、しました」 それでも丁寧に答えを返してきた夜光に対し、まだ対する人の年齢が読めない彼は見た目以上に自身よりは年上だろう事だけ察し、そして女性でもある事に漸く気付くと今更失言を詫びて頭を垂れると果たして少し離れた場から聞こえてきた声を聞き留め、一度間を置こうと思ってそちらを見る。 「私は男性に不慣れなので、どの様に克服すべきか‥‥」 「色気攻撃に対し鼻血を出さぬ良い方法は無いのだろうか‥‥」 何やら悩み事を話し合っているのだろう二人、倉城 紬(ia5229)と九条 乙女(ia6990)の二人の姿を見止めれば、次いで二人の傍らに置かれている最初こそ様々な料理が入っていた筈の、今では空となった器の圧倒的な山をも見れば尋ねずにはいられない。 「あの、大丈夫ですか?」 何を、とはあえて言わずに。 「‥‥っ!」 「?」 その布刀玉の問い掛けに対し敏感に、また過剰に反応したのは紬で大仰に身を震わせれば固まると、先まで赤かった頬を更に赤く染めれば首を傾げる彼に対して乙女が口を挟む。 「あぁ、彼女はちょっと男性に慣れていないだけなので余りお気になさらず」 「成程、それで先の相談だったんですね。大変かと思いますが頑張って下さいね?」 すればその話を受け、先の相談を思い出した布刀玉は納得すると微笑んで二人を応援すれば頷く乙女だったが直後、名案を閃いたからこそ一つの提案を石鏡の王へするのだった。 「そう言えば丁度良かった、折角なので相談に乗って貰っても良いですか?」 無論、断る理由のない布刀玉はその提案には首を縦に振って応じた。 再び視線は賑やかな宴の場へ‥‥懲りず、それでも場を盛り上げる為にどじょう掬いを披露しては今度こそ皆から笑いを貰う疾也のその傍ら。 「‥‥あれっ、そう言えばエリナは?」 「厨房へ行くとか言っていた様な?」 尋ねながらもこっそり、酒が満たされている徳利に手を伸ばすルオウのその甲を叩いて、琉央が答えを返せば丁度その時。 「えと、戻りました‥‥」 彼が探していた当人、野槌が固まるその場へ大きなお盆を携えて戻ってくると 「何していたんだ?」 「これを、教わりながら作っていました‥‥」 果たして何事かと尋ねるルオウに、持つお盆を近くの卓に置けば器の一つをルオウへ差し出す。 「お雑煮やねー、正月らしいわ」 「だなっ、わざわざありがとうな」 それを覗き見て纏、見た目はお世辞にも良いとは言えないがそれでも作る時に込めた気持ちが伝わってくるお雑煮を見て微笑めば、ルオウも頷くと内気な彼女らしく顔こそ俯けながらも彼にはもう一つだけ、小さな包みを手渡す。 「後、お年玉‥‥クリスマスプレゼントみたいなものでしょ?」 「いやちょっと違う様な‥‥でも遠慮なく貰うな!」 その包み、クッキーが入ったそれに苦笑こそ浮かべながらも彼はエリナを見て屈託なく微笑んだ。 と此処では穏やかに、そこでは賑やかに、向こうでは騒がしくもそれは当分絶えそうにもなく、楽しい時間はまだまだ続きそうであった。 ●温泉にて、ゆったりのんびり さて、宴会場では目まぐるしくも徐々に盛り上がって行っているその一方、温泉もまた布刀玉見たさに足を運ぶ人の多さからか時間に拘らず非常に混み合っていて。 「‥‥温泉にようこそようこ。ゆっくりしていってね?」 しかし女湯では果たして瀬崎 静乃(ia4468)が常に、良質の湯に浸かりに来た女性がやって来る度に両手広げて出迎えれば、そんな彼女を前に驚き徳利を落としそうになった新咲 香澄(ia6036)だったが、何とかそれは地面に落ちる寸前で上手く掴み直すと 「‥‥ま、まぁ言われなくてもそのつもりでっ」 徳利を掲げ直し、最初こそ言葉に詰まるも何時もの快活な調子を全開に笑顔で言えば足元が滑らない様、注意しつつも小走りで湯のある方まで駆けて行くと温度はしっかり確認して後、しっかり体を流してから湯へゆっくりと浸かる。 そう言えば効能は、と思ったが確認を忘れていて‥‥しかし屋根もない露天風呂に降る雪と、雲の隙間からでも顔を覗かせている月をも頭上を仰ぎ見れば視界に捉える事が出来て香澄はそんな事すら気はもう気にせず、持って来た徳利からお猪口へ酒を注いでそれを片手に月を見上げ、飲み干しては感嘆する。 「露天風呂で雪見酒‥‥風情があっていいね〜」 「どうぞ、一献」 「あぁ、どうもどうもっと!」 すれば空いた杯にまた並々と酒を注いでくれたのはからすで、遠慮せずに礼だけは言うと香澄は酒を、からすは水を揃い煽っては月が輝く天上を見上げる。 「‥‥僕は今、この瞬間の為に生まれてきたのかもしれない」 「んー?」 と、果たして何時からいたのか。 出入口にて誰も彼も出迎えていた筈の静乃、脇に浮かべるたらいに置いた徳利から程好く冷えたお茶を自身の杯に注ぎながら言えば、唐突なその残響に今度は驚かず香澄は首を傾げ、彼女を見ると 「‥‥雲に隠れているとは言え見える良い月と降る雪に温泉、そしてありきたりだからこそ美味しい飲み物‥‥これ以上の贅沢はないよね」 「うん、それには同感かな。中々簡単には堪能出来ないかもね?」 その口から返って来た答えには同意、と頷くとやはり揃って笑顔を浮かべれば静音の後を着いては隣に並び、湯船に首元までしっかり浸かる紬もまた彼女らに倣って天上に浮かび輝く月を見上げれば静かに微笑む。 「温泉は良いなぁ‥‥とても良い」 「良いですねー」 そんな彼女らと同じく、天上に浮かぶ星月よりも温泉と酒をまったり愉しむ雲母(ia6295)と水鏡 絵梨乃(ia0191)の姿も露天風呂の片隅にある。 「そちらの方々、一献どうか?」 「あぁ、遠慮なく頂きましょうか」 「ありがとうございます!」 その二人の下へ誰へ彼へ酒なり水なりを注いで回るからすが来れば、それにはやはり二人揃い応じるとからすも此処で一時、腰を落ち着け湯船に肩まで浸かる。 「うむ‥‥眼福、眼福」 「えと、そんなにゆったりねったりとした視線で見回さないで下さいっ」 「いや悪い、つい癖でね」 女性ばかりとは言え、今この場を見回してから雲母は隣に並ぶ絵梨乃の肢体もじっくりと見ては酒を煽るも、それを受けて彼女が身を翻せば苦笑を浮かべ詫びる弓使い。 「しかし湯に浸かりながらの酒もまた美味ってねぇ。今年もこうやって美味い酒が呑める様、良い年にする努力をしないとねぇ」 「えぇ、そうですね‥‥頑張りましょう」 その暢気な二人のやり取りを見てくすり、微笑みながら紅葉が果たして呟けばからすが差し出す徳利から注がれる酒を杯で受け、飲み干すとまだ雲母の視線の前に晒されている絵梨乃もまた、身をよじったままの姿勢ではあったが頷き応じるのだった。 「‥‥‥女子らしい体型の方々は、少々、妬ましい、あぁ、妬ましい‥‥」 果たして膝を抱えて湯船に浸かる夜光が所構わず、辺りの女性を見ては妬ましい眼差しを送っていたのに気付いた者はどれだけいたか。 ● 一方の男湯、女湯の方と比較すると嬌声がない分だけ比較的静かな気もするが所々ではやはり酒のせいもあって大いに盛り上がっている。 その話の内容はと言えば、それぞれに違うもので。 「撤退すると見せかけて、敵を誘き出す。そこで兵を伏せておいて、包囲殲滅‥‥これで終わりと思いきや、次の手があり別働隊が敵の本陣を襲う‥‥と言う風に策に陥れる訳だな」 「うーん‥‥」 例えば一息入れに来た布刀玉、さりげなく気を配る御門の視界の中で各務原 義視(ia4917)による、戦術講座を受けていたり。 「いささか、難しい話ですね‥‥」 「まぁ、戦術の話ともなればまだ縁はないでしょう」 一通り、その話を聞き終えて率直な感想を言う彼に乙女も頷く‥‥因みに彼女、男湯に躊躇いなく入ろうとして一時、沙那に止められるも年齢が年齢だからと言う事で此処では一先ず、お咎めなく男湯へ浸かっている。 「とは言え、これから何時かは必要になるだろう。いずれ、学んでおいた方が良いと思うぞ」 「そう、ですね‥‥」 「余り気が乗らないか」 閑話休題、義視が至って真剣な眼差しでそれだけは言うと果たして表情を曇らせた布刀玉へ、今度は問い掛ける陰陽師を前にそれにもまた素直に頷く石鏡の国王に 「だがこれも民を守る為と考えれば、何時かは必要になると思うが‥‥まぁ、それはこれから考えてみるといい」 それだけは言えば、漸く彼から視線を外して天上を見上げた。 それでもやはり、たまに浸かる程度の温泉と言う事もあってのんびり気ままに湯を楽しむ者もいるのは当然と言えば当然だろう。 「たまには、のんびりとしていましょう。この頃ハ−ドでしたから、今の内にしっかり疲れを取らないと」 「全くです」 橘 琉璃(ia0472)が首元までしっかりと湯に埋める隣、宴の席が多少だが落ち着いた機、露天風呂にやって来た雪巳と共に静かに語らっていた。 「しかし星月を眺めながら湯に浸かれるのは贅沢ですよね‥‥♪」 「まぁ、慌しいと中々にはないな」 傍から見れば男とは言え美麗な二人、揃って夜空も見上げて微笑めば果たしてむさくるしい率が高い男湯でも、そこだけは確かな華が咲く。 そして改めて杯を交わせば琉璃、心地良い眠気に襲われながらもぼんやりと光り輝く星を見てはこれからに想いを馳せるのだった。 (「今年も忙しくなりそうですかねぇ‥‥果たしてどんな事が起きるやら」) ●宴も終われば、思う事 はらり、雪が未だ降る中で宴も終われば宴会場のそこかしこに開拓者も、またそうでない人も揃って寝倒れる光景を前、遅い風呂から漸く上がってきた布刀玉は苦笑を浮かべる。 「お気は済まれましたか?」 「はい、やはり開いて正解でした。沙那には迷惑を掛けたかも知れませんが」 「いえ、その様な事はありません」 そしてその背中へ声を投げ掛けた側近に対し、振り返ってから確かに頷けばその最後には自身の我侭から彼女へ詫びるも、表情は変えないままに首を左右に振れば 「まぁ新年を迎えたばかりですし、最初位はこれ位羽目を外した方がきっと今後の活力になると思うんですよね」 それに安堵して表情を緩める布刀玉、改めて宴会場を見回せば自身の寝床を探すも‥‥その時になって一つ、大事な事を思い出してまた沙那の方を見ては言うのだった 「‥‥あ、そう言えば誰か足りませんか?」 「雪が止まないんだぜアミーーーィゴ! これ、このまま放置され続けたらガチで死ぬんじゃね?」 その忘れられていたのは喪越、途中退場の憂き目に遭ったまま屋外に放置プレイとか沙那さん酷過ぎます。 しかも温泉宿のすぐ外ならまだしも、念入りに目隠しをした上で馬に乗せて何処かへ投げたものだから、当の本人ですら今いる場所が宴会催される温泉宿からそれなりに近い、程度の認識しかないと言う事態なら開拓者でもそれなりには慌ててしまう訳で。 「しかもこんなに叫んでも誰も来ないしー! 恐るべし、セニョリータ‥‥」 果たして木霊しか響かないその場、雪が深々と降る中で喪越はまだもう暫く叫び続けた。 とこんな落ちをつけつつも、石鏡国王の唐突な申し出から催された新年会は一応つつがなく終わり、皆それぞれに新たな年に向けた一歩を踏み締めるのだった。 〜終幕〜 |