【陰陽寮】青龍寮入寮式
マスター名:蘇芳 防斗
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 15人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/05 21:46



■オープニング本文

 先日、陰陽寮が三寮にて執り行われた入寮試験とそれの合否も次いで個々に通達がされれば、次に執り開かれるのは入寮式。
 もその前に補欠含め合格の通知受けた者が一同に揃い結陣にある知望院に集められれば、五行が王の架茂 天禅(iz0021)を前に、陰陽寮へ入寮するに当たって一種の儀式とも言えるだろうそれに臨んでいた。
「‥‥先ずはこの場にいる皆へ、自ら望み入寮を果たした事に対し我は祝辞を贈ろう。おめでとう」
 その場に介し、居並ぶ陰陽師は五行の中枢担う者に各寮の寮長もいて架茂の存在だけでも十分な重圧は刻が過ぎるごとに重みを増すが、当の王はと言えば気にする筈もなく平然と口を開いては新たな寮生達を半ば睨む様な厳しい表情こそ浮かべながらも祝辞を紡ぎ。
「形式ばった挨拶は好かん故、長々と面倒な事は言わん。入寮した以上、生まれも育ちも気にはせん。ただこれからの三年は純粋に力を、知恵を養い蓄えろ。そしてそれをどの様な形であれ寮を巣立ってから後、五行の為に、我の為に捧げろ‥‥故に励め」
 だが次いで響いた言葉は先の発言より威圧的且つ一方的なものであり、場に介する新たな寮生達はそれぞれに思う事こそあったが‥‥寮生達の戸惑いなど気にする筈もなく架茂はさっさと身を翻しその場を辞すれば、その後を継いで傍らに控えていた陰陽師が皆の前へ進み出ると、これからの予定を皆へ告げるのだった。
「王の挨拶は以上となります。以降はそれぞれが属する寮の予定に従って赴き、入寮式に臨んで下さい。その仔細については実際に確認して貰うと同時、必要な手続き等は全てそちらにて行いますので必ず遅参はしない様に‥‥それでは、これからの三年間が皆さんにとって掛け替えのない時間になる事と、そしてこれからの五行を支える重要な存在になって貰える事も祈念してこの場は閉じます。それでは、解散」

●ばとるろわいやる?
 それから場所は青龍寮の大講堂へ変わり、寮長代理である架茂は第一声を放つ。
「それでは皆には殺し合いをして貰う」
(冗談のつもりなんだろうけど、冗談に聞こえん‥‥)
 果たしてそれを聞いた誰もがそんな事を思うが、口にはせず。
「‥‥まぁ半分は冗談だ」
「って半分は正解?」
「何をするんですかー」
 降りる沈黙を気にせず次の句を紡ぐ架茂へ寮生の一人が首を傾げれば、別のもう一人が率直にその疑問を口にすると架茂‥‥の代わり、その隣にいた矢戸田 平蔵が口を開く。
「寮内の案内の後にまぁ、拳を交えて貰う!」
『えー!』
「陰陽師だからって戦場で常に守って貰える訳ではないからなー。改めてその事を身をもって知って貰うと同時、拳で先輩後輩分け隔てなく親交を深めろ!」
(この人も大概無茶言うんだな‥‥)
 どうやら今年の入寮式の発案者は陰陽師ではない、侍の彼の発案の様で‥‥着眼点は面白いのかもしれないが、寮生の反応は人それぞれながらも一つの結論に至る中。
「まぁそう言う事だ。夕飯位は馳走しよう‥‥健闘を祈る」
 さっさと架茂は話を締めれば漸くその後に皆の反応に気付くと、もう一言だけ添えるのだった。
「あぁ、最後まで残っていた者には何かやるか‥‥」


■参加者一覧
/ カンタータ(ia0489) / 氷海 威(ia1004) / 胡蝶(ia1199) / 露草(ia1350) / 御樹青嵐(ia1669) / 各務原 義視(ia4917) / 樹咲 未久(ia5571) / 鈴木 透子(ia5664) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 宿奈 芳純(ia9695) / 无(ib1198) / 羊飼い(ib1762) / 成田 光紀(ib1846) / フレデリカ(ib2105) / 秋雨(ib7169


■リプレイ本文

●青龍寮入寮式
 合同での入寮式を終え、青龍寮へ戻ってきた架茂らと生徒達は一時の休憩を挟んでいた。
「失礼しました」
 そんな折、寮長室へ足を運んだ胡蝶(ia1199)の話と今年度の授業料を受け取れば架茂が頷いたのを確認して後、彼女は部屋を辞して。
「‥‥何だって?」
「進級通知を受けるのと、学費を納める為だけに今日は足を運んだと言う」
「残念だな」
「それぞれに事情はある。それと一人一人まで細々と面倒は見ておられん」
 それと入れ違い、寮長室に入って来た矢戸田 平蔵の問いへは率直に応じると顎を撫でる侍に素っ気ない言葉で応じる王だったが‥‥二人の付き合いはそれなりに長い。
「‥‥結構まともな奴だったんだな、お前」
「これでか」
 その言葉の真意を見透かしたからこそ平蔵がそう言えば、鼻を鳴らして彼は自嘲浮かべるが
「まぁ行こうぜ、他の奴らを待たせるのも悪いしな」
「‥‥お前と違って我はまだ余り、気が乗らんのだが」
 それ以上深くまで、平蔵は突っ込まずに次にすべき事をする為に行動を促せば今度は渋面浮かべる架茂に平蔵は満面の笑みを返すのだった。

 それから屋外へ出る架茂らと寮生達。
「未だ臨時ではあるが、当青龍寮の寮長である架茂だ。細かな挨拶は省く」
「まぁとりあえず、付き添いみたいな矢戸田 平蔵だ。見掛けたら適当によろしく頼むな」
「架茂王付の陰陽師、椎名 望です。ご縁がある時には宜しくお願いしますね」
 一先ず主要となる3人がそれぞれに改めて挨拶をすれば、それを聞きながら感慨深く成田 光紀(ib1846)は呟く。
「一年経ったか、早いものだ」
 だがそれも僅かな間だけで、すぐに今を見つめれば‥‥後に待つ行事に対して難しい表情を浮かべる。
「さて、らしいと言えばらしい催しだが‥‥しかし面倒だな。こう言ったものは眺めている方が面白いのだが」
「そう言うなよな、たまに事なら悪くはないぞ。それにいざという時、役に立つかもしれないしな!」
 が何時の間にか傍らにいた平蔵に言葉で宥められ、肩をばしばし叩かれるとますます表情を難しくして。
「それはともかく、新入寮生を対象にした寮の案内をする。また改めて確認したい者等いれば、学年問わず同道を許す。案内は椎名に任せる故、指示には従う様に。それでは以上だ」
 とそれを切っ掛けに場がざわざわとし出すが、それを一蹴する様に架茂が口を開けば言うだけ言って踵を返すと
「えー」
「僕ですみません‥‥」
 不満の声を顕わにする新入生の羊飼い(ib1762)に思わず詫びる望だったが
「ともかくこれから寮内の案内をします。迷子にならない様、私の後に着いて来て下さいね」
 言葉の通りにすぐ顔を上げると皆を促し、歩き出した。

 と言う事で青龍寮ツアーの始まり始まり。
 因みに二年生の方々はこのツアーに着いて来ている人もいればそれぞれ、好き勝手に動いております。
「此処が教室です、陰陽寮の勉学の場の一つで皆さんが一番に足を運ばれる場となるでしょう」
 まず手始めに新入生が連れられてきたのは望が言う様に一番使う場だろう教室。
 簡素な卓と椅子が並んだ、至ってシンプルな作りだったが勉学のみに励む事を考えればまぁ当然な作りではある。
 ましてや今は仮とは言え、寮長が架茂である‥‥寮長代わってからまだ然程時間が経っていないとは言え、寮内各所にある程度の手が加えられていても何ら不思議はない。
「因みに志体を持たれる方と持たれない方ではペースが違うので、教室は別れる事となります。また今年度は志体を持たれる方の入学が少なかったので、一年二年は合同で授業を行う事もあります。それでもまぁ、少ないかとは思いますが」
「ふむ‥‥まぁそれはそれで面白そうか」
 ともかく続く望の話に氷海 威(ia1004)は頷くと、チラリ覗かせた好奇に輝く瞳の光を見れば側近は微かに表情を綻ばせれば、教室の近くにある次なる区画へ案内する。
「この辺りが研究区画です。授業の際に用いる為の大規模なものもあれば、個人向けの個室もしっかり完備しています!」
 そしてそう言えば望、ばっさと腕を掲げ上げれば歩き出し、教室と個室のその中をそれぞれに見せると
「とは言え後者で挙げた個室は予約制で事前に寮長から許可を貰わないと使えないので気を付けて下さいね」
「寮長、つまり陛下に断りを入れなければならないと‥‥」
「何か使い辛くなった気がしますね〜」
「そんな事ありませんよ、多分‥‥」
 その最後に戸を閉めながら注意事項を添えれば、呟いた威の言葉の途中から一年生たちに紛れ着いてきたカンタータ(ia0489)が率直に、笑顔で言うと苦笑いを浮かべるしかない望は話題を変えるべくその更に奥へと進み言う。
「この界隈が宿泊区画です。それぞれに個室で研究に際して必要な場合等あれば先の研究個室と同じく、申請の上で適宜貸し出していますがある程度の使用期間が決まっているので、それ以上の滞在は出来ません。気を付けて下さい」
 そしてその内の一つの部屋の扉を開ければただ畳と机だけある殺風景な風景にある者は驚き、ある者は感心する。
「未来ある皆さんの勉学の為に国費を用いて立てた訳ですから、無駄な物は一切排除していますし持ち込みにも制限があります。皆さんは先ず、今立っている自身の立場と言うものをしっかり認識しておいて下さいね? 授業を始めるよりも先ず、それが何よりも大事な事ですから」
 そんなそれぞれの反応を見ながら、初めて望は真面目な表情を覗かせると皆へ諭す様に言えば途端、引き締まった皆の表情を見て笑顔を浮かべた。

「この辺りが蔵書庫、と言うか資料庫でしょうか。まぁ青龍寮の中枢の一つと言っても過言ではないでしょう。それ故に一年生の皆さんは此処に入られる事は許されません、来年まで我慢して下さいね。また、色々と制限もあるので使用の際は気を付けて下さい」
 それから案内が続けば大よそ最後、蔵書庫まで案内されるがその扉は開け放たれないまま、望の口頭による説明だけ……ここが気になっていたからこそ着いてきたカンタータもちょっと落胆。
「は〜い、中にはどんなものがあるんですか〜?」
「まぁどの寮でも言える事ですが、まず基本的な陰陽術と式、アヤカシと瘴気は勿論として‥‥」
 そんな先輩の様子は露知らず、手を上げて尋ねた羊飼いへ望は果たして彼女の方を見ればそれから長々と、蓄えられている知識の概要や文献についてつらつらと並べ始めるのだった‥‥見た目爽やかそうな印象の割、意外と知識が深いと言うか結構なマニアと言うか。
「此処が食堂です。朝と昼、夜は間違いなくやっていますが‥‥その三食以外の時間帯は取り仕切っている方の気分次第でやっていたりいなかったりします。まぁ余りあてにしない方が得策ですが‥‥おっと」
 ともかくそれより長ーい彼の話を聞いて後に最後、食堂の前に辿り着けば説明を始める望はその最後、自らの掌で口を抑えると、口元に人差し指を当て小声で皆へ忠告する。
「ちょっと気難しい方で地獄耳持ちなので、ここで食事をとられる際には皆さん言動に気を付けて下さいね? 因みに持ち出しは一応可能です。それじゃあ、ここで昼食を食べて午後に備えましょうか。今日だけは私が出しますので、好きな物を食べて下さい」
「それでは遠慮なくっ!」
 だがしかし、最後の一言だけは直後に返って来た羊飼いらの返事を聞いてすぐに後悔する彼だった。

●集中砲火‥‥のその裏で
 やがて一年生に二年生、それぞれに昼食を取り終わった昼下がり‥‥昼食も食べ終えた皆は一同に屋外の運動場へ集まると、果たして意気揚々と声を発する平蔵。
「よーし、それじゃあそろそろ始めるぞー」
(何故にバトロワ‥‥そして自ら参戦する王は只の物好きなのか、大器なのか)
 とそんな侍を見てゼタル・マグスレード(ia9253)は内心でそう呟き、架茂の方をチラリ見てみるが‥‥気だるげな表情は何時も以上で、どうにもやる気は感じられなかったが
(まあ、流石は五行王‥‥か?)
「殴り合いなど粗野な事は本来好かんが、偶には悪くないか‥‥」
 一先ずゼタルは溜息洩らしつつも精神衛生上、そう思っておく事にして開き直り呟く。
 大人の世界って難しいよね?
「よろしい、ならば殴り愛をいたしましょう!」
 とそんな王とゼタルの一方、親友の一人が露草(ia1350)はと言えば‥‥無駄に殺る気満々だった、見た目そんな風には全然見えない十七歳の乙女なのに!
「殴りあって親睦を深めるって‥‥なんて脳筋なノリ」
「何か言ったかー?」
「いいえ何も平蔵さん」
 だが同じ乙女でもフレデリカ(ib2105)はと言えば至って冷静、と言うか冷めた反応を見せていて‥‥地獄イヤーな平蔵に漏らした呟きだけ認識された様で尋ね返されるが、それにはあっさり首を振って溜息洩らす彼女の反応の方がどちらかと言えば普通である。
「矢戸田様も無茶を仰る。いや、侍とはそう言うものか‥‥あいつも、そうだった」
 そして威もまた同じ様な反応ではあったが‥‥何やら回想モードに入ってしまう。
 戦い始まるよー、気を抜かないで!
「運動は思いの他に楽しいですが、肉弾戦は苦手ですねぇ」
 だが相変わらず笑顔浮かべている樹咲 未久(ia5571)からも、普段と違う覇気は感じられなかったが架茂はと言えば、嫌な予想だけ拭えず。
「それじゃあ始めるぞー、合図があったらもうその場から始まるからなー!」
 だが王の、心の準備を整えるより若干早く平蔵が声を上げると
「では、開始!」
 僅かな暇の後、合図が次いで響けば途端に土煙舞って学年問わず、生き残りを王提供の賞品を賭けた戦いが始まるのだった!

「陛下ぁー! 一手ご指南をぉぉぉ!」
 果たして第一声、威の絶叫が響けば続けとばかりに架茂目掛けて群がってくる生徒達!
「まぁ、そうなるよな。精々頑張れよ」
「誰のせいだ‥‥」
 その光景を見て、あえて満面の笑顔で平蔵が言えば五行王の溜息とほぼ同時、くるりと踵を返してその場から去る侍に溜息を漏らすも
「まぁ、たまには悪くないか」
「ちぇぇーい!」
 ポツリ、漏らした言葉はが消えるより早く威が放った蹴りを皮一枚で避ければ、次々に来る拳やら掌底やらもヒラヒラ避けて見せて‥‥確かな意味あるものと実感する場に居合わせた一同。
「あれ、意外‥‥ですねぇ〜」
「まぁ、たまに平蔵から色々教わっているからな。避けるだけなら多少嗜みがある」
「きゃー」
 無論、それは予想だにしなかった事なので各務原 義視(ia4917)も目を見張るが、それでも怯まずに架茂へ突撃して回し蹴りを見舞う‥‥も、やはりそれも避けられれば羊飼い発する歓声の中、地に倒れ伏せば何やら足を抑えて悶絶。
「っ、格闘戦が苦手な事がばれてしまった様ですね!」
 どうやら足がつるのを必死に堪えているらしい彼の強がりはしかし流して架茂、溜息洩らして次々に掛かってくる寮生達をいなし始めるのだった。

 一方、王やら平蔵にはまず目をくれずに戦う寮生達もいて、宿奈 芳純(ia9695)もその一人ではあったが‥‥他の者と違うのは四方が解放された空間ではなく、三方が閉じられた寮敷地内にあった何処かの袋小路に身を伏せていた。
 利点としては半ば身を隠している状態なので気付かれない内に人がみるみる減っていく点と、殴り合いになっても1対1で対する事が出来る点だろうか。
 だが‥‥。
「ここなら一人ずつ戦えますので、どうぞ遠慮なく」
 人影がちらり、動き近付いて来るのを察し、声発してから立ち上がる彼が見たのは
「まぁ、そうだな。遠慮はなしで行こうか」
「平蔵様、ですか‥‥」
 開始早々、やる気あった割にいきなり姿をくらませた平蔵で‥‥その顔を見て芳純は静かに呟き微かに顔をしかめるも
「着想は悪くないが、それだけで実力の格差は埋められるかな?」
 その反応を見ても至って気にした風も見せず侍は彼の作戦を褒めては頷き、そして地を蹴った。

 とここで主戦場となっている運動場の方では未だに王様頑張っていた。
「この三位一体の攻撃、王とて躱せますか‥‥!」
 そんな彼へ青龍寮の三羽烏とか仲良し三人組とか色々呼称があるらしい三人、漸く王と対峙すれば御樹青嵐(ia1669)の言葉を切っ掛けに、息を合わせ三方からあえてタイミングをずらし、飛びかかる!
「ふん」
「踏み台にされたー!」
 だがしかし、架茂はひらり宙を舞えば遠慮なしに先ず近かった露草の肩を踏むと続く二人の攻撃を躱し、距離を置くが
「仇は‥‥討つ!」
「滅多にない機会‥‥王、手合わせを!」
 それでもと再び、今度はゼタルの声を合図に三人が駆け出せば、无(ib1198)も裂帛放って地を蹴ったその時だった。
 パタリと唐突に架茂が倒れたのは。
「あれ?」
「‥‥もう降参でいい、疲れた‥‥」
 その光景を前、唖然とする露草らへ突っ伏したまま腕だけ上げてひらり振りそう言えば
「架茂王様の弱点はスタミナ不足、と」
 その光景を前に動きを止め、奮戦していた内の一人である无もやはり表情こそ崩さず、内心で唖然としてしっかりその事を脳内に刻むと、ここでフレデリカが何事か思い出して言葉発する。
「そう言えば平蔵さんは?」
 果たしてその問い掛けへ場にまだ立つ一同、もう一人いた厄介な相手の存在を思い出すがそれと同時、何処からか笑い声が響いてきた。
「はっはっはー!」
 正しくその声の主は平蔵その人で、場にいた皆はそちらの方を一様に見れば揃い溜息を漏らす。
「‥‥やっぱり、一番にマークしておくべきだったかしら?」
「ですねぇ、となるとどうしましょう〜」
 不安視していたフレデリカの予想は的中し、うむむと渋面浮かべる彼女に同じ予想抱いていたカンタータもどうしたものかと悩むが
「まぁまぁ先輩方、折角ですからやるだけやってみましょうかー」
 今まで積極的に参加していなかった羊飼いが何かの思惑あってか笑んでそう言うと‥‥暫し皆で打ち合わせた直後、最後のボスへ揃い挑むのだった!
「どっちが勝つかは‥‥五分五分、かね?」
 一人、上手く場の状況に合わせてうろうろしたり等と目標にされる事避け続けて傍観の体に徹する光紀が漏らした呟きが喧噪に掻き消える中で。

「ギャフ」
「まぁ惜しかったな。いい線は行っていたが、やはり皆してもう少し体を鍛えておくべきだな」
 やがて決着はつき‥‥平蔵だけが何とか場に立っていた。
 最初に姿を消していた羊飼いがこそこそ設置していた草の輪トラップある場へ招き入れれば、未久や他の者も打撃で応じるでなくその動きを止める事に専念した上で他の皆による一斉攻撃は確かに効果こそあったが、皆で掛かっても決めきれなかった頑丈さは一同の想像を超えていて‥‥平蔵が倒れる、あと一歩の所で寮生達の皆が先に揃い地に倒れていた。
「と言う事で悪いが賞品は俺が貰う!」
 互いに遠慮なし、とは言えどちらかと言えば大人気ない彼の振る舞いに参加した寮生達は皆、呆れるしかなかったが‥‥そんな皆の視線など気にする事なく、平蔵は賞品である架茂愛用の筆と硯と墨の一式を貰い複雑な面持ちを浮かべたとか。

 ともあれ、日は落ちる。

●そして宴へ‥‥
「‥‥疲れたので簡単に言う、はしゃぐのは今日までだ。明日からは青龍寮生らしく振舞い、勉学に励み、いずれ高みへ至れ。その足場たる一つの此処を確実に踏み締め進み、我の力となる事を祈る」
「それでは皆のこれからの成功を祈念し、乾杯!」
 戦い終わり、日も落ちれば一同は改めて大講堂へ集うと心持、普段よりますます顔色が悪い気がする架茂の挨拶と、続く平蔵の乾杯の音頭聞けばそれぞれ手に持つ器掲げ、打ち鳴らした。

「いちばんいいごはんを頼む」
 そんな中で第一声として響いたのは露草の言葉。
「御樹君の料理は楽しみだな」
「そう言って下さると嬉しいですね‥‥はいどうぞ。皆様もよろしければ」
 果たしてそれには同意、とゼタルも頷き言えば青嵐は夏らしい具材をからっと揚げた天ぷらを主に、焼きナスや胡瓜の酢の物、夏野菜の糠漬け等を先ずは仲の良い二人へ、次いで皆の卓へも置いて回る中。
「露草さんは何か作られないんですか?」
「え? 私は食べる専門ですから!」
 早速天ぷらを頬張る露草へ、問いを投げたのは隣に坐するフレデリカで‥‥しかし僅かな間の後に断言しちゃった彼女、それでいいのか!
 まぁ人それぞれだからいいよね。
「暴れ回った人どうぞー」
「あー‥‥これは落ち着きますねー」
「暑いこの季節ですしさっぱりした酢の物が良いだろう、との事です」
「‥‥食べられるのか?」
「どう言う事でー?」
 と言う事で些事は気にせず義視が松の実やら薬草すり潰して煮込んだおかゆ振る舞えば、頬張り感嘆する後輩の羊飼いへ笑み返せば、次いで未久が持ち寄る小魚の南蛮漬けなます添えを目に、見た目綺麗だったからこそ何時も以上に疑惑に駆られる成田の反応を前に新寮生たる羊飼いが首を傾げるのは当然で、詳しい説明を誰かがすると
「私ではなく、義弟が作ったものですから大丈夫ですよ‥‥!」
 それを一部否定して言葉発する未久の様子に、次いで場に笑いが響いて。
「‥‥しかし、相変わらず凝った‥‥と言うべきか、変わった料理が多いな」
「お酒の当てにはなると思いますよー」
「まぁ、嫌いではない」
 そんな喧噪の中、普段と変わらず静かな調子で呟く架茂の目前にはカンタータが拵えてきた料理があって、余り見ないそれ‥‥夏に因んで冷たくしたボルシチに、サワークリームと焼玉ねぎが添えられ味付けされた茹で餃子の様で中の具材が違うそれらを一口ずつ頬張り、表情変えないまま応じる架茂に彼女が笑んで応じると
「これは美味しいですね、後で作り方を聞いても良いですか?」
 自らの料理を携えてきた青嵐もそれを食し尋ねれば、頷くカンタータと暫し料理談議に花を咲かせた丁度その時。
「架茂王様も、平蔵様も、是非にどうぞ」
「おう、お前も飲めよ!」
 新寮生、と言う事で考えると主役の一人と考えても過言ではないだろう威が王と平蔵の前へやって来れば、徳利傾けると先ず応じる平蔵がご返杯とすれば暫しそれを繰り返す二人。
「王、宜しければこちらも」
「‥‥単純な味付けだが、美味いな」
 そんな一方で唐突に手持無沙汰となった架茂ではあったが、芳純が持ち寄る白菜と豚肉の巻煮込みを勧められれば、それを頬張ってますます高まる場の喧噪の中でも微かにだけ笑んだ。

「いかん、何をやってるのだ俺は」
 それから暫く‥‥平蔵と返杯を繰り返し続けていよいよ酔いが回った威は一人席を外し、夜の涼に当たる。
「‥‥あいつとも、何度やっても全然勝てなかったな。いつも悔しくて‥‥だが、楽しかった」
 そして不意に何事か思い出すとポツリ漏らした、そんな時。
 背後に気配を感じて威が振り返れば、そこにはゼタルがいて。
「何を一人で呟いている?」
「あ、いえ‥‥何でも」
「そうか。まぁこれから宜しく頼む」
 酒の席の様子を見ていたからこそ彼もここまで足を運べば尋ねるも、言い淀む威にはそれ以上は何も聞かず、肩を叩いて頭垂れれば
「こちらこそ‥‥!」
「若いねぇ。まぁ適当によろしく頼むよ」
 先輩から先んじての挨拶に慌て威も返し頭垂れると、何時からかいた光紀も不敵に笑めば更に言葉返すと、威の第一印象を率直に述べるのだった。
「‥‥何か色々極端な奴だなぁ、お前って」

 同じ刻、大講堂。
「‥‥そう言えば新入寮生の自己紹介位、させるべきだったか」
 遠くであった出来事を知るかの様、ポツリ漏らす架茂だったが
「まぁ、今更だよね?」
「形式ばった物より、直接接した方が数倍理解できる」
 フレデリカと、次いで響いた无の言葉聞けば何事か考えてか天井を見上げ、だがやがて二人へ応じる。
「‥‥それも一理ある、か。今後は我もそうさせて貰おうか」
 それを聞き‥‥ある程度は架茂のなりを理解しつつある上級生達は僅かとは言え、背筋を震わせたとかどうとか。


 数少なくとも新たな寮生を迎え、新たな期に臨む青龍寮へ足運ぶ皆に幸多からん事を。
 そして、いずれこの寮で過ごす刻に終わり来ても‥‥最後に至る為のこの一歩をどうか大事に歩まれん事を切に願う。