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■オープニング本文 ●梅雨時、また巡る刻 場所は五行の首都、結陣。 久し振りに自室へ戻ってくれば小窓を開けて、五行王の架茂 天禅(iz0021)は目を細め差し込む光に目を細める。天儀も既に6月、夏を目前に鬱陶しい季節へ移行していた。 「玄武寮の建て直しは間に合ったか」 「はい、駆け込みですが何とか‥‥寮長らの人選も大よそ終わっています」 「そうか」 五行の陰陽四寮ではこの時期、入寮試験が行われる。 手近にいた側近へ尋ねれば帰ってきた答えを聞きながら真っ白な紙を前に、天禅は四角い墨を硯で磨って墨を生む。 やがてじわり黒い水が出来れば、それに筆を浸し各寮長への文を認め始めて‥‥青龍寮の新たな人員配置をどうすべきかと今更に思い至る。 「‥‥嫌いではないのだがな」 「何か仰られましたか?」 「いや、引き続き我に代わる青龍寮の寮長の人選も継続して頼む」 そしてポツリ漏らせば、尋ねる側近には首を左右に振って応じるが頷いた側近のその表情には苦笑めいた笑みが浮かんでいて‥‥架茂はそれを見ない振りして筆を走らせるのだった。 陰陽四寮は国営の教育施設である。陰陽四寮出身の陰陽師で名を馳せた者はかなり多い。天禅も陰陽四寮の出身である。一方で厳しい規律と入寮試験、高額な学費などから、通える者は限られていた。 寮は四つ。 火行を司る、四神が朱雀を奉る寮。朱雀寮。 水行を司る、四神が玄武を奉る寮。玄武寮。 金行を司る、四神が白虎を奉る寮。白虎寮。 木行を司る、四神が青龍を奉る寮。青龍寮。 つい最近になって玄武寮の建て直しが終わり、寸でではあったがその人員も集められたからこそ、その門戸が今年になって久々に開かれる事となったが‥‥白虎寮は未だ建て直しが続いていて今年も入寮試験は見送りとなっている。 「‥‥こんなものか」 やがて、側近が去ってから陰陽寮の各寮長宛に送る文を認め終えると、架茂は何を思ってか再び小窓の外を見やるのだった。 「今年はどうなる事か‥‥」 ●一つの問題 「‥‥それで、だ」 それから暫し、場所は変わらないままに架茂は側近二人を前に言葉を紡いでいた。 「はい」 「肝心の試験問題、何か良案はないか?」 「‥‥えーと?」 それに応じる、陰陽師の彼へ架茂は果たして今更な問い掛けを投げると間抜けな表情を浮かべる彼に矢戸田 平蔵はその脇を小突く。 「察してやれ、幾らこいつでも最近あれやこれやとやっている。そこまでの余裕は持ち合わせていなかったって事だ。五行の王でも、人の子って事だよ」 「‥‥考えが至らず、申し訳ありません!」 「それよりも、試験問題だ」 次いで侍の口から言葉響けば平伏して詫びる陰陽師の彼だったが、別段気にした風も見せずに再度、同じ問いを繰り返す架茂を前に二人はそれぞれに思案すれば 「そうだな‥‥やっぱ面接は必要じゃないか?」 「そう、ですね‥‥これは恐らくどこでもやるでしょう。後は各自の学力とか」 平蔵の発した提案には陰陽師の側近も頷いて学識に関わる試験の話も続けるが 「意思を伺うのは良いとして、知識だけあっても実際にそれを振るう場面で使えなければ何ら意味はない」 それには架茂、果たして首を左右に振ると側近はすぐに次の案を出す。 「なら、実技でしょうか。でもそうなると‥‥」 「寮内に‥‥適当な施設はなかったよな?」 「はい」 「ふむ‥‥」 それを受けて考え込む五行王、次いで響かせた疑問には側近が首を縦に振れば再び考え込む事暫し。 「面接とは別に、実技でも一日当てるか」 「何か思い浮かんだのですか?」 「何もないなら、何かおけばいいだけだ。陰陽術とはアヤカシと戦う為だけに限られたものではない。それならば、尚更にな」 何か思い浮かんだのか、そう言えば今度は逆に尋ねる側近へ意味深な解を返す王に一人取り残された感があった平蔵が久方振りに言の葉を紡ぐ。 「で一体、どんな良案なんだ?」 果たしてそう、率直に尋ねれば‥‥二人を前にその案を口にする架茂。 「‥‥何だ、地味だな。しかも単純だ」 「しかし陰陽術の殆どを占める攻撃的な術は極端な差が出ず、なれば‥‥何も戦いの全ては正面切った物だけではないと考えれば、この術は陰陽師にとって抑えるべき有用なものの一つと我は考える。故に、その扱いを見る」 「そう言うものなのか?」 「まぁ、一理かと」 それを聞いて平蔵はと言えば、肩を竦めて一言応じるだけだったがそれには肯定も否定もして架茂が言えば、側近は頷くが‥‥それから遅れ、王を前に偉そうな事を言ってしまったと身を竦ませるも 「真理は誰もが知る筈はない、肯定も否定も自由だ。絶対の答え等ない‥‥だがこれに関しては決定で話を進ませる。故に必要な準備を済ませておけ」 しかしそれは何ら気にも留めず認めれば、やがて決断下すと側近二人へ入寮試験のための手筈を整えさせるべく、指示を出すのだった。 ●青龍寮 入寮案内 【入寮資格】 ・陰陽師である事 但し、下記の入寮試験に合格した者のみを青龍寮の寮生として認め迎える 【入寮試験内容】 ・実技試験 寮生の証である『龍花』を探し当て、手に入れる事。 制限時間は受験者の全員が集まってから日が沈むまで、雨天決行。 但し、開始から二刻(1時間)の間は所定の場所から動かずに人魂のみ行使してそれを捜す事。 だが簡易的な罠も各所に設置されているので、各自注意の事。 また道具の使用は全般的に禁止とする。 二刻過ぎた後は自由に動いて構わず、『龍花』の奪い合いによる決闘含む行動も自由だが寮施設へ被害を与えた場合は大きな減点が課される。(原因が誰と明確でも、関与した全員に減点が課される) 因みに準備されている『龍花』の数は不明、多いかも知れないし少ないかも知れないし加えて『龍花』を手に入れれば必ず合格、と言う訳でもない事を添えておく。 ・面接試験 架茂他、寮の運営を担う者を前に陰陽寮の寮生としてこれから何をするか、何を目指すか等と言う話が無難だがこれと言う題目は設けない。 だからこそ、しっかり考えた上で臨む様に。 |
■参加者一覧 / 氷海 威(ia1004) / 羊飼い(ib1762) |
■リプレイ本文 ●門前を見て 「昨年と比べ、どうか」 「‥‥まぁ」 寮長室より、門前に集う人の群れを見て呟いた架茂 天禅(iz0021)へ応じたのは昨年、その様子を見届けた側近の一人で言葉を選んだ末に応じる。 「去年程、ではないでしょうね」 「‥‥玄武寮、か」 「かと思います。でもそれはいい事ではないでしょうか」 しかし率直なその解を聞いて架茂の表情は別段変わる事こそなかったがその内心は知れず‥‥次いで漏れた言葉にも側近が応じれば、頷いて架茂。 「それぞれに競い、向上を図る。そもそう言う意図を含んでいる以上は現状を否定出来る筈がない」 「とは言え、今年はまだしも来年以降は‥‥」 「質を高めれば良い話だ。そもそも雑魚はいらん故に人数の多少に関わらず、今まで以上に小さくとも才能ある魚を逃さん為、目の細かい網を用いれば良い」 鼻を鳴らして言葉を返すが、不安を覚える側近へ架茂は尚も珍しく饒舌に応じれば人の群れへ視線を投げ、並ぶ雁首を一瞥する。 「ふーん‥‥ここが青龍寮、かぁ」 「一時的とは言え、陛下が直々に預かっている寮だ。礼に欠く事がなき様に」 果たしてその中には何を想ってか、至って気楽な調子で青龍寮を見上げ呟く羊飼い(ib1762)に、そんな彼女へ丁寧な口調でも釘を刺す様に言葉発する氷海 威(ia1004)の姿があって。 「‥‥決していない訳ではない。まだ秘めたる才能も見逃さず、我らが汲めば良い」 「責任重大ですね」 「それが出来ないと言うのなら、五行に明日なぞない」 彼らを見てそう呟いた‥‥と言う事では決してないかも知れないが、直後に紡いだ王の言葉へ側近は応じながら額に微かでも汗を滲ませるが、それでも架茂は平然と言ってのけるのだった。 ともあれ、今年の青龍寮入寮試験はやがて始まる。 ●争奪戦! やがて開かれた門戸を潜り、居並ぶ入寮試験を受けに来た者達へ側近は先ず実技試験を始める旨告げれば、改めてその説明を行う。 「‥‥やや漠然とした内容でしたが、一先ずは事前に告知した通り人魂の有効圏内のあちこちにある『龍花』を二刻(一時間)、この場から動かずに探して下さい。二刻を過ぎた頃、また声を掛けますのでそれから以降は自由に動いて『龍花』を手に入れて、私の所へ戻ってきて下さい」 「‥‥まぁ、それなりに探す所はあるけどなぁ」 その説明を聞いてそう呟きながら周囲を忙しなく見回す羊飼いだったが、側近は意に介さず開始の合図を紡ぐ。 「それでは、開始」 すれば直後、途端に口を閉ざして皆はそれぞれに人魂を作り出してその行使を始めて実技試験に臨んだ。 (先ずは高空から寮の全貌を確認、その後に少しずつ場所を絞り込んで行きましょうか) 果たしてそう、内心で呟き作り出した小鳥の人魂を使役する威。 また多くの者の中で彼も同じく、様々な形状を模す人魂を作ればそれぞれ思い思いに操るが 「好きなだけ寮を視察しろって事ですねぃ」 その一方で羊飼いはと言えば、圧倒的多数である彼らとは真逆に人魂を作る素振りすら見せず先と変わらず辺りをきょろきょろとするだけ。 動けない刻限と限りある練力を天秤にかけ‥‥た訳ではないのだが、彼女にとって人魂で『龍花』を捜索する事が有益ではないと判断した事は、また正解であった。 「はい先生‥‥なのかは存じませんがぁ、寮の事について教えて貰ってもいいですかー?」 「‥‥構いませんが、どんな事でしょう?」 と言う事でその彼女だけ、側近の方へ向き直れば尋ねると‥‥面喰った表情浮かべる彼ではあったが首を縦に振れば、彼女は遠慮せずに気になっていた陰陽寮のその内情について彼へ質問攻めを始めた。 「えー‥‥先ずは寮の活動や実績とかでしょうかねぇ」 それから、大よそ二刻が過ぎた頃。 「‥‥それでは皆さん、寮生の証である『龍花』の捜索を行って下さい」 「うおおおおー!」 羊飼いの様々な質問攻めに半ば疲れた側近だったが、それにも気付いたからこそ場の皆へ次なる合図を発し、彼女から解放された事に安堵の溜息を漏らせばそれは知る筈もない受験生達は一斉に駆け出して。 「‥‥研究が主な玄武の方が良かったかしら」 「まぁそう言わずに。では武運を」 果たして側近の溜息に気付かず、今更にそんな事を呟く羊飼いではあったがそれでも他の者達と同じくゆるり動き出せば、先までの彼女の行動を目に留めていたからこそ威は檄を飛ばして足早にその場を後にすると 「んー、とりあえずそちらもー」 それに羊飼いも応じ、手を振れば‥‥やはりまた辺りをきょろきょろと。 「寮生の証なら、諸先輩の寮生さんが持ってますよねっ」 ポツリ漏らしたその羊飼いの判断も正しく真。 『寮生の証である『龍花』を探し当て、手に入れる事。』がすべき事ならば、落ちている物だけに拘る必要は何らない。 入寮試験の真っ最中、とは言え手伝いで足を運ぶ青龍寮の先輩寮生も多くないとは言え決して零ではなく‥‥彼女は近場にいたと記憶するその元へ、一番最後に駆け出した。 果たして鼻歌歌って駆け出す羊飼いの傍らで威はと言えば、真正面から課題の解決に臨んでいて。 「‥‥ここにあったのは確かでしたが」 幸いにも『龍花』を見付けた先ず一箇所目は人影もなかったのだが、人魂が入れる場所でも人が手だけでも突っ込めるかは現場に来なければ完全な判断は付かず、実際にその状況を目前として彼は思い悩んでいたが 「此処にだけ拘る必要はありませんか。他の人でも取るのには苦労するでしょうから」 それも僅かで、その場から踵を返せば次に近い場所を目指して駆け出すのだった。 「‥‥どれ」 受験生達が奮戦するその中、架茂はと言えば‥‥出来るギリギリまで小さなサイズの人魂を使役して、その風景を垣間見ていて。 「そう言うのは趣味が悪い、と言う話ではなかったのですか‥‥?」 「見なければ分からない事もある、とは言え我が出向いても悪くにしか働かんだろう」 「それは、まぁ‥‥」 何時からか戻った側近に窘められていたが、尤もな理由を言うと側近としてもそれは受け入れない訳にはいかず‥‥とは言え、突っ込まれた所で使役する人魂と視覚聴覚を共有する事に集中している彼としては気にする所ではなかったかもしれず。 「次次ーっ。まさか本当に『俺と戦って勝てたらな!』なんて言う先輩いると思わなかったぁ」 ともあれ、やがて捉え聞いたその声の主である羊飼いの行動に五行王は首を傾げる。 「‥‥何者か?」 「まぁ、変わった受験生ですね‥‥」 果たしてその問い掛けに側近は一言でだけ応じると、顎を撫でながら彼はまた別所を人魂で飛び回って辺り見回して‥‥渋い表情を浮かべる男を見掛けて暫し注視する。 「何とか、手に入れる事が出来ましたが‥‥」 「ふむ‥‥」 その男性は威、渋い表情を浮かべていたその理由は定かではないが‥‥先の彼女と違い、与えられた課題をそのままに受け取って対応した事に対して浮かべた表情と考えれば納得もいくが、架茂はその経緯までまだ知る筈なく‥‥しかしその表情から向上心の一端を見たか。 「開拓者として、現役で活動している者はどれだけ受けていたか?」 「えぇと‥‥両手で数えられる程度ですね」 「‥‥やはり、多少の差異は出るか」 やがて人魂を消し、漸く側近と向き直った架茂は一つだけ尋ねると返って来た答えを聞けば全体の総評を言って後、再び窓の方へ向き直れば言うのだった。 「一先ずじき終わるだろう。お前は戻って場の取り仕切りを行え」 やがてそれから刻限に至って、実技試験の幕は閉じた。 この時点で一部始終、それなりに見ていた架茂は既に判定を下していて‥‥それを持ち越したまま面接試験へと移行する。 ●己が道を示す 翌日、同じく青龍寮の内部にある一室。 「面接では今の所、目に付く逸材はいないか」 昼時の休憩を挟んで面接の為に使う部屋へ戻ってきた架茂は舌打ちして表情にも苛立たしさを顕わにするも 「受験者の数が数ですから、今年はしょうがないかと」 「分かっている。確か朱雀も同じ傾向だったな。玄武は‥‥聞くまでもないな」 それを宥める側近の一人へ鼻を鳴らし応じながらも他寮の状況も少しは気になる様で。 「一応、次からが開拓者としても経験のある人材です」 「まぁ期待せずに話させて貰おうか」 一先ず胸を撫で下ろした側近は王へそう呼び掛けて、しかし気に留めた風見せず架茂は右親指の爪を噛むのだった。 「入れ」 それから多少の時間を経て、先ず呼ばれた威。 「氷海威と申します」 「畏まった礼は不要だ。そして単刀直入に聞く、どうして青龍寮へ来たか」 椅子へ腰かける前、恭しく架茂と場に並ぶ彼の側近や諸先輩を前に頭を垂れるが架茂の対応はそれよりも早く‥‥そう言われて後、椅子へ腰を掛けては目前の皆を見回して後に口を開く威。 「寮生として学んだ知識と技とを開拓者としてアヤカシから少しでも人々を守る対策に生かしたく‥‥」 「ふん、まぁ形式的だな」 「‥‥えぇと、気にせずお話を続けて下さい」 果たしてその途中でばっさりぶった切る、噂に違わない王の事を知りながらも思わず鼻白んでしまう威だったが、それは側近が出した助け舟によってすぐ続きを紡ぐ事となり。 「それと同時、新たに行き来が可能になった儀も含む各地のアヤカシの情報を集め寮に持ち帰り、研究を深めて知を得ると共に知識庫への貢献を目指したく思います」 「ふむ‥‥」 気を取り直した彼の言葉に今度は何事か考える架茂は威へ問いを返す。 「それだけの力があると自負するか、そして成せると」 「そうでなければこの場へは足を運びません、陛下」 鋭い視線と共に発せられたその問いへ、威はしかし怯まず応じるとまた鼻を鳴らして五行王。 「まぁ、具体性に今一つ欠けるがその意気は認める。導はここでも探せるしな‥‥尤も、言った事が果たして出来るかどうか」 大雑把な評価を告げ、しかし視線を逸らさない威の様子を見て架茂は微かに口端を引き上げた。 「そりゃぁ国王の左に座るためですのよ」 「‥‥面白い事を言う」 次いで面接を受ける羊飼いの、最初に威へした問い掛けと同じ言葉投げかけた彼女の答えはとても変わった物で。 「と言うかですねー、むしろ自然界の森羅万象より学べるものがココにあるのかしらん」 「森羅万象、か‥‥解き切れぬ理を追って何も残さず朽ちるより、自らの手で新たな理を生み出す事が有意義ではないか。つまりはそう言う事だ」 「ふんふん、まぁはしょっていますが‥‥そう言うものですかねぃ」 次いでそのペースのまま、今度問い掛けた羊飼いの対応に周囲は静かにでもざわめくが至って気にせず架茂は応じ、彼女もまた納得して頷くが周囲はざわりざわりと。 「ま、独り分の知識には限りがありますもの。群れるのも偶には良いかもですねーと思った次第でこちらに足を運んだのですよっと」 「馬鹿と正直は嫌いだが、馬鹿正直は嫌いではない」 だが羊飼いと架茂はそんな場の雰囲気をやはり気にする事なく言葉交わすと、暫し降りる沈黙。 (‥‥青龍にゃ友達居ますし、面白そうなんですけどね) そんな中で彼女は自身の懐事情を思い出しながらも友人の顔を思い出した、その時。 「合否は追って出す、よって今日は以上だ」 その沈黙からこれ以上の言葉はないと判断したのだろう架茂が面接終了を告げれば、羊飼いはにぱと笑ってその場を後にするのだった。 ●合否通知 「‥‥こんなもの、だろうな」 面接試験の更に翌日‥‥寮長室で新たに書き加えた歴代の合格者名簿を卓上に放って架茂は息を吐くと、側近は威と羊飼いの名前書き加えられたその名簿を確認して呻く。 「たったの八人、ですか‥‥今までで一番少ないじゃないですか」 「これでも十分、甘く見たつもりだがな」 果たしてその言を受け、王は溜息を漏らすが側近の疑問は絶えず。 「主席は?」 「試験だけで測れる筈もない。今はほぼ横並びだろう‥‥適当な機を見て、判断する」 「それならば今後、一年二年は合同で?」 「手間が省けていいだろう、その方が」 次々に響くそれに渋面浮かべながらも架茂は応じるとやがて思案する。 「ともあれ入寮試験は終わった。次は‥‥入寮式か、それはどうしたものか」 「まぁ、まだ最初だ。そんなに気張らず行こうぜ。何ならまたアイデア出してやるよ」 「‥‥‥」 そんな彼に矢戸田 平蔵は至って気楽に応じるが、架茂はと言えば余り良い予感を覚えなかったとか‥‥さて、これからどうなる事か。 |