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■オープニング本文 五行にある陰陽寮が一つ、青龍寮の寮長室。 「‥‥それで、今年度の卒業及び進級についての発表の場はどうされますか」 先ず一年の進級試験に対する合否を確かに判定してから数日後に側近から尋ねられた疑問に対し、架茂 天禅(iz0021)の解はと言えば。 「お前が適当に考えておけ」 ただの一言、それだけで。 「‥‥は?」 「お前に任せる、と言った」 それなりに付き合いが長いとは言え、一応は祝辞言う場でもあるのだがそれの仔細をまさか部下へ投げっ放しにするとは予想もしておらず、思わず二度尋ねる彼だったが答えは変わらないまま「会議があるから頼んだぞ」とだけ最後に言って、寮長室を後にする架茂。 「平蔵様‥‥」 「任せる、って言ったんだろ。じゃあお前の好きにやればいいさ」 そして取り残された側近はと言えば、架茂の後に続こうとする側近の矢戸田 平蔵へ助けを求めるも、その侍は笑って応じるだけで。 「‥‥そうだな。何なら俺が考えてもいいぞ」 だがふと立ち止まれば、何か思い立ったからこそだろう先の前言を撤回するとますます笑みを深めるのだった。 ●と言う事で 「‥‥これは、どう言う事だ」 「その、あの‥‥」 それからまた数日後、場所は同じく青龍寮の寮長室で今度は側近が架茂に問い詰められていた。 内容は先日話題に挙がった全学年の合否及び卒業通知に関する事で、架茂が震える手で持つ紙片にはでかでかと『飲んで歌って踊って騒いで一年を振り返ろう!』とか書いてあり、その事について詰問している次第で候。 (平蔵様、自分が飲みたかっただけじゃ‥‥) 一方の側近、ちらと帯同する平蔵の方を見ては内心で一人、数日前に遡って平蔵に任せた自身を呪うも 「どう言う事かと聞いている。余所を見ず、我を見て簡潔に答えよ」 「えぇと、その‥‥」 厳かな声が響けば我に返って側近、続き架茂に問い尋ねられるともごもごと返す言葉を言い淀むが 「節目でもあるし寮生達の努力を労うのも悪くないだろ。とそのついで、お前が普段から酒を飲まなければ憂さを晴らしている風にも見えないからわざわざそう言った場を設けたんだとさ」 「‥‥ふむ」 流石に見かねた平蔵もそのまま放置、と言う事はせずしっかり助け船を出せば最後はさて置き、彼が発した最初の言を受けて考え込む五行王。 「まぁ我は飲まんが、そう言う話であれば分からなくもない。必要な手配を済ませておけ」 やがて納得すれば程なくして許可を出すとニッと笑んで平蔵。 「お前ならそう言うと思って予め、話を進めておいて良かった」 「‥‥何の話だ?」 ある程度の流れを既に読んでいたのか、次いでそう言えば嫌な予感しかしなかったからこそ架茂は眉根を潜めて尋ねると 「折角の機会だからな、寮生達にも既に話していて企画を考えて貰って宴で催す事にしたからその要望を汲み上げておいてくれよ。お前が行くって話しているからな。それとその企画にはお前も参加しろよ」 「そんな暇など」 「暫くは予定を空けていた筈だよな?」 その解を紡ぐ平蔵の話は最後まで聞いた上で、さらり突っぱねようとするが‥‥流石は架茂と一番に長く付き合う側近なだけあって、当分の予定までしっかり把握していたからこその切り返しに王はますます渋い表情を浮かべながら、条件付きで応じるのだった。 「‥‥来年はやらんぞ」 |
■参加者一覧 / 薙塚 冬馬(ia0398) / カンタータ(ia0489) / 露草(ia1350) / 御樹青嵐(ia1669) / 各務原 義視(ia4917) / 樹咲 未久(ia5571) / 鈴木 透子(ia5664) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 宿奈 芳純(ia9695) / 无(ib1198) / 成田 光紀(ib1846) / 晴雨萌楽(ib1999) / フレデリカ(ib2105) / トエト(ib7013) |
■リプレイ本文 ●通達‥‥のその前に 青龍寮の寮長室で果たして架茂 天禅(iz0021)は憮然とした表情を浮かべ、机上で何かを認めてはポツリ、呟いた。 「‥‥予定を狂わされるのは好かんのだが」 「言いだしっぺはお前だろう?」 「正確には我ではないが‥‥まぁ止むを得まい」 そんな王の呟きに側近の一人が矢戸田 平蔵は苦笑を浮かべ宥めるもそれを受けて架茂はますます表情を厳しいものにするが 「のんびり待つとするか」 それでも顔を上げないまま、筆を止めずにそれだけ言えばやがて部屋の中に沈黙が降り立つ、寮長室のそんな静かな昼時。 ● 進級の合否通知に労いの宴が始まらないその理由とは、寮生達がこぞって宴の為に皆へ振舞う料理を作る、と言う提案からで‥‥言った以上は前言を翻さない架茂の回答を受けて皆が皆ではないが、殆どの者が寮内にある調理場に集っていたからである。 と言う事でカンタータ(ia0489)がその輪の中心となれば、あれやこれやと厨房を慌しく駆け回る一年生達。 「豚のロースト‥‥でいいかな? 折角の宴会だし、それ位良いよね?」 「いいと思いますよ〜」 豚肉の塊を目前に思案するフレデリカ(ib2105)の呟きにも彼女は頷けば、自身が手を掛けている寸胴鍋をちらり見た時。 「それにしても‥‥中々弾けた文句ですねぇ。王が考えたのでしょうか?」 「え‥‥えぇ、そうかもしれませんね」 何時からか厨房にいた、超絶料理音痴として青龍寮では名高いらしい樹咲 未久(ia5571)の登場には宿奈 芳純(ia9695)でも内心ギョッとしながらも、表面は努めて穏やかに応じると笑顔を返しながら彼はカンタータへ声を掛ける。 「カンタータさん、私も調理をして良いですか? この前は何も起きませんでしたから大丈夫です」 「ん〜‥‥」 果たして未久のその打診に彼女は暫し、天井見上げては悩んだ‥‥その時だった。 「毎度お馴染だが、差し入れ付でお邪魔する」 厨房の戸が開け放たれれば、姿を現した薙塚 冬馬(ia0398)へ皆の視線が集中すれば、旧知の仲である当の未久は彼の方を見て一言。 「いつも冬馬は楽しそうですから私もしたいのです」 「‥‥まぁそう言う事なら、ですよ〜」 その彼の来訪を機として明確な理由を告げると、カンタータとしても頷かずを得ず。 「何をしようとしているんだ?」 そんなやり取り交わす二人とはまだ距離があるからこそ、聞こえなかったそのやり取りに対して近付きながら首を傾げる冬馬へ 「まぁ、私も料理が作りたいと言うお話ですよ」 「‥‥そんなにしたいんなら見ていてやるから、変な事するなよ」 果たして未久はやはり笑顔で答えると‥‥溜息漏らす彼はその腕前を知るからこそ、精一杯の妥協案を提示するとお目付け役二人の監視下で未久の戦いは始まった。 「‥‥っんー!」 それから暫し、術を行使して油被った空豆に玉葱を嬉々として焼こうとした未久は冬馬から何度目かの拳骨を頭頂部に受けて悶絶していた‥‥実績があるとは言え、知識がある者からすればそれは先ずあり得ない行為で、冬馬としてもそれは同じく。 「術を使わずに空豆焼けたら皮を破って醤油をかけてくれ。あと玉葱も」 「火力調整を術に頼るのは危険だと思いますよ? 後、下拵えした餡の味は冬馬さんに見てもらいましょうー」 故にそれだけ言えば持ち寄った手土産を手際よく器へ移し始める冬馬の傍ら、カンタータがそう言って宥めると渋々未久は彼女の言に従うのだった。 「王様に変なもん食わすなよ」 友人の口から再三に響いた厳しい言葉に項垂れながらも今度こそは必ず真っ当に成し遂げて見せる、と決めていたからこそ挫けずに。 ●宴の、その前に それから暫くして、手配していた料理含めて宴の席が一頻り整うと寮長室に一年の寮生代表がやってくれば架茂を招くと‥‥先ず大講堂の中で始まる、進級の合否通達。 「‥‥この場にいない者も多くないとは言え、いると言う話を聞く。後で構わん、必ず我の前に顔を出す様、伝えておけ。来月までは待つつもりでいる‥‥が気が変わる事もある。早めに参ずる様、言い含めておけ」 も先ず切り出した話は進級の合否分からずも今日この場にいない者らへの言葉。 誰へともなく架茂が珍しく皆へ忙しなく視線飛ばせば、誰でもない皆が確かに頷いたのを見届けてから遅れて溜息だけ漏らすが、それも僅かだけ。 「‥‥もう、一年か」 正確に彼が来たのはまだ最近と言えば最近の話なのだが‥‥それでも感慨を込めてポツリ漏らせば、場に介する寮生達はそれを受けて今日までの一年を思い返し。 「だが、この場にいる誰もが抱いているだろうそんな感慨もここで発表する結果如何で悲喜交々となる。残る者は今まで以上に励め」 しかし刹那の後にそれをばっさり切り捨てれば厳しい表情のままに言葉を続ける架茂。 「そして去る者は追わん、それが陰陽寮での決まりだからだ。それでも‥‥」 果たしてそれは事実で、別段気にした風も見せずに架茂はそこまでを言って。 「ここで経験した今までの一年はその多少に関わらずこれからの糧になるだろう。道が違うものとなっても‥‥それだけは何処へ行こうとも間違いが無い。それは忘れるな」 しかし最後に付け加えられた言葉は普段よりも何処となく温和な含み持たせた響きが込められている様な気もしたが‥‥それは誰にも分かる筈が無く、彼も気に留めず改めて場に集う皆を見回して後、淡々と告げるのだった。 「では、呼ばれた者から前に来い」 それから名を呼び上げられた者は進級試験を無事に通った者達。 「まあこんなものでしょう」 そうは言いながらも内心では密かにでも嬉しかったと後に言う各務原 義視(ia4917)は進級の証でもある碧符を受け取り、壇上を後にすれば (少し心配してたんだよね。見方変えればまだ目標がないって取られても仕方ない答えだったし) その後で呼ばれたフレデリカもまた、内心ではそんな事を考えていたりはしたが無論それを口にする事はせず符を受け取ると、彼女と入れ違いに壇上へのぼるモユラ(ib1999)もまた皆と同じ符を受け取れば (試験は‥‥うん、合格してる! よかった‥‥これでまた一年、ここで勉強出来る) やはり義視と同じく安堵し次年度へ無事進級を実感したからこそ、踵を返した彼女は壇上で皆へ向き直ると思わず頭を垂れては叫ぶのだった。 「えーっと‥‥皆さん、二年次もよろしくお願いしますねっ!」 ● 一方その頃、宴の騒ぎとは無縁に静かな教室の中で追試を受ける者が数人‥‥和紙に向き直っては黙々と筆を走らせていた。 『道を選んだのは、一言で言えば好奇心だ』 その内の一人、どんな都合からか先日の進級試験を受け損ねたゼタル・マグスレード(ia9253)も同じ場にいる者達と同様に筆を走らせ、冒頭をそう書き出していた。 『アヤカシを追う様に生きる事を望んだ日から、僕自身がアヤカシとならぬ為に陰陽師となり、また今青龍寮に属する事を選んだのは、紙一重を凌ぐ命綱の様なものだと思う。限りなく貪欲で、未知の可能性を秘めたアヤカシは、生ける者の敵対者でありながら興味を掻き立ててならなかった』 少し、思案しながらも着実に書き進めるその様子には揺るぎがなくてまたその内容も確かに自身の導を打ち立てる。 『毒も僅かならば薬となる様に、善悪の枠に押し込めず、やがて僕の命が尽きて後も後世に残す知識を少しでも多く得る為、僕は僕の好奇心に従い歩むつもりだ』 そしてどれだけの時間を経てか、最後をそう締めくくってゼタルは筆を置けば一つだけ伸びをすると耳を澄ませ‥‥まだ遠くからでも聞こえてくる嬌声を聞き止めれば慌てて駆け出すのだった。 彼の合否についてはまたすぐ後に知らされたが‥‥まだその時点では誰にも分かる筈がないとは言え、他の者と同じく青龍寮で一年を過ごした事に変わりなければゼタルにもまた、その宴に参加する権利は当然あるからこそ多くの友らと同じ時間を過ごすべく。 ●祝いの宴 程無くして進級試験の合否通知が全員へなされるといよいよ始まる、祝いの宴。 その結果はさておいて、集う皆で粛々と‥‥始まる筈もなく、宴故に架茂が自然と放っている(様な気がする)重圧を前にしても寮生達は別段気にせず、やんやの大騒ぎ。 「かくして宴は厳かに、とな」 まぁそれでも始まって間も無いからこそ、振舞われる様々な魚の刺身や塩焼きに煮付けにジルベリアの汁物を食べては黙々と頷いて舌鼓を打つ鈴木 透子(ia5664)の様子を見て成田 光紀(ib1846)が言う様に何処か弾け切れていないのは未だ酒精が回っていないからか。 「‥‥ねぇあれ、青嵐さん‥‥だよねぇ」 「様になっているね」 しかし素でも、普段とは違った美麗な女性物の和装を身に纏っては自ら調理した数々の海産物を運ぶ御樹青嵐(ia1669)の艶姿には皆注目せざるを得なければ、架茂ですらその姿には付き合い短くとも面食らった表情を浮かべるも 「王もお一つどうぞ」 「‥‥うむ」 その最中でもまだ始まったばかりだからこそ‥‥と言うよりは興味本位で寮生達は架茂の周りに群がってくれば、未久の酌にもう何度目か杯に注がれた酒を飲み干して。 「架茂王、ちゃんと休んでるんですか? 何だかいつも顔色悪そうなんですけど‥‥」 「‥‥問題はない。そも何時もこう言うものだ」 どの程度飲めるのかは傍らにてニヤニヤと笑みを浮かべる側近しか知らずも、それなりに杯を重ねる割に顔色変えない架茂へ、フレデリカが問えばまだ呂律も確かに普段の調子で応じると首を傾げる彼女だったが 「改めて、これからどれ程の間か分かりませんが宜しくお願い致します」 「今更に畏まる必要はない」 「それで、一つ確認したい事があり‥‥」 またその場に无(ib1198)も加わると、空いた架茂の杯へ酒を注ぎながら恭しく頭垂れるが鼻を鳴らして応じる五行王は次いで彼が響かせた言葉も途中で、それを読み切って答え返す。 「ここで常に寝食する訳でない以上、容認はする。但し、何らかの不都合が生じた場合にはその限りではない」 付き合い長くなくとも、観察力が高いからだろう常に彼と共にいる尾無狐を見て言えばそれ以上は何も言わず、无が頭を下げるが彼は次いで別に準備していた話題へ変えるべく顔を上げて口を開く。 「そう言えば王は寮生の頃、どうだったんですか?」 「どう、とは」 「どう言った寮生だったのか、気になりまして」 「あ、それは私も気になります」 その、不意に尋ねられた昔話に架茂は密かに眉を上げるがこの様な場だからこそ先まで三味線奏でていた筈の露草(ia1350)も近くまでやってくれば興味津々と言った風に好奇の瞳を数多受ければ渋々とでも、口を開く王。 「‥‥自身で言うのも難だが、真面目だった。まぁ地味でもあったな。友人は少なかった訳ではないが多い方でもないだろう。さほど、目立った寮生ではなかったと自身では思っているが‥‥他の者からすれば、どう見られていたかは知らぬ」 「意外と言うか、納得出来る部分もあると言うか‥‥」 果たしてそう答えた王へ、率直な感想を紡いだ青嵐は直後に放たれた王の一瞥は気にせず笑むと、再び話題は変わって。 「そう言えば未だ一人身ですが、結婚とかされないんですか?」 王とは言え、故に未だ独身である事を疑問に思うからこそ出たそれに対して‥‥架茂はと言えば、ただ渋面浮かべるだけで 「そうなんだよなぁ‥‥誰か紹介してやってくれないか?」 「お前‥‥」 逆にその疑問に露わな反応を示したのは傍らで淡々と酒だけを飲み続けている平蔵。 彼が発した言葉には鋭い視線投げる架茂だったがそれとは裏腹に、場にいた寮生達は笑い声を上げた。 それから暫くして、漸く質問攻めから解放された架茂は相変わらず笑うだけの平蔵を漸く睨んだ、その時。 「‥‥どう、ですか。あたいら、その‥‥上手く、頑張れてますか?」 「不安か」 不意に宴の席には似つかわしくない不安含む響き発したのはモユラ、架茂は率直に問えば頷く彼女へ王はと言えば。 「頑なに信じろ。人それぞれで見方が違う以上、確かなただ一つの答えはない。それは自らが出すものだ」 小揺るぎもせず果たして断言せしめるが‥‥それでも腑に落ちない、と言った表情のままである彼女を改めて見れば、頭を掻いた後に個人の見解を口にする。 「‥‥我から見た場合、まだ何とも言えんな。それが今の我の答えだ。それを受けて何をするかは‥‥誰であれ、自由だ」 「またそんな真面目な話を‥‥折角の宴だ。故に架茂王、賭け事等と如何だろうか」 とそう締め括った直後、考え込んでしまったモユラの傍らから光紀が賽を手にして割り入ると一つ、遊びを持ち掛けてくるが 「非生産的だな。運不運に任せて金銭を賭けるその行為がな」 「だからこそ、その運を試したく興じ溺れるのだと思うのだが」 ばっさり切り捨ててくる彼に、それでも光紀が更に言葉返すと奇遇の目で自身か架茂が飲むだけとも補足すると瞳閉じる架茂は暫し思案して。 「‥‥一理はあるな」 しかしやがて頷けば、ニッと笑んで光紀は賽を高々と放った。 ● 宴も始まってから幾星霜‥‥も経ってはいないが、それでも結構な時間が経てば酒は飲んでも飲まずとも、知らぬ内に場にいる面々のテンションは上がるもので。 「余興としては、青嵐さんと協力しての‥‥!」 「後ろで見守っていますね」 唐突に始まった、露草操る呪術人形主演の人形劇‥‥主役しかいないのはご愛嬌、と言うか旧友にはめられた気がしなくもないが青嵐とて人魂「やんやん」を作り出してそれを精一杯にサポートすると何かに誘われる様、他の寮生達も飛び入り乱入してきてアドリブでの人形劇がいよいよ。 「ええと‥‥他にも色々持ってきました! そりゃもう色々と」 始まるその前に彼女、これのみに拘らずとも他でも楽しめる様に何やら色々な物が詰まった袋を架茂へ託せば、今度こそ幕開けとなる人形劇。 「しかし意外と、飲める奴が多くて俺としては嬉しいぜ」 「‥‥我としては別にどうでも良い」 最初からドタバタ感の強い人形劇を見て笑いながら、平蔵はまた徳利を一本空けては言うが‥‥かたや架茂はと言えば、憮然とした面持ちで素っ気無い言葉を返すだけで (この宴ってやっぱり側近の方の陰謀‥‥!) その会話を聞いたからこそフレデリカは抱いていた疑問を確信にするも、それ所ではない架茂。 光紀との賭けで負けが込み、散々酒を呷ったので何をするでもなく視線だけただ彷徨わせていて。 「気のせいか‥‥明らかに外ればかりじゃないだろうか?」 「そんな筈は‥‥あ」 その一方で架茂と対した彼はと言えば、露草が置いた袋の中から取り出された饅頭の包みを食べあう面々の様子を見守っていて、次々に悶絶するその様子ににぎやかしとは言え突っ込めば、義視もそう言葉を返しながら改めて饅頭入っていた包みを見ると‥‥何事かに気付いて口を開く。 「十個中九個が外れです、だそうで‥‥」 「逆転の発想、ですねぇ」 「笑い事ではないと思うんだが‥‥」 そして唖然とする彼を見て、未久は相変わらずに笑みを絶やさず言うが即座に突っ込んだ冬馬の言がどちらかと言えば事実で、外れを引いた面々は笑い声響く中で即座に保健室へ急行。 「皆さん無理はされません様に〜、お酒が駄目な方は料理をどうぞですよ」 「青梗菜と湯葉の炒め物もどうぞ。青梗菜は胃腸の調子を整える効果もあって、こう言った席にはお勧めかと」 流石にその状況には苦笑こそ浮かべながらカンタータがやんわり釘を刺して場を諌めると、芳純も機を見計らって折り良い頃に自ら拵えた料理を持って来た丁度その時。 「ちょぉっと、待ったーぁっ!」 「待ってたよもーすけくん!」 いよいよ佳境に入っていた人形劇のその場に割り入って来たのはゼタルと、彼が操る呪術人形‥‥遅参しても現れた彼の姿には、親友二人の表情も綻べばますます人形劇は盛り上がりを見せて。 「‥‥それにしても楽しそうだな」 「少なくとも一年、この学び舎で陰陽術やら学んだ仲ですから」 その光景を目前にポツリ、漏らした架茂だったが少し遠くからでも響いた透子の声を聞くと彼はよろり立ち上がれば彼女の方へ一つ、質問投げかける。 「今までで、面白いものは得られたか?」 「そう、ですね‥‥」 果たしてその問いに、透子は依頼の中で挑戦した事について話してみるが 「まぁ聞かん話だな。とは言え成立するなら‥‥前者は術の威力を底上げが図れるか。尤も、相応のリスクも伴うだろう。後者は‥‥我からすれば見た目だけのどうでも良いな。ある種、自己満足とも言える‥‥が何であれ、得られたものがあったのなら良い。これからも精進する事だ、歩は止めるな」 「‥‥はい、出来る範囲で」 意外と酒を飲んだ割にその思考は普段と変わらない様で、それを受けて僅かにでも複雑な表情浮かべながら透子が頷き応じると、その話を聞いていた芳純がその場にやって来れば新たな話題を切り出す。 「術、と言えば陰陽師が瘴気を感知する術の開発は可能でしょうか?」 「出来ん事はないだろうな。瘴気を行使する陰陽師にとって、逆転の発想であるとしても」 それは新たな陰陽術の提案で、それを受けて架茂は思案しながら応じると 「不躾ですが実際、王はその術を‥‥」 「完全ではないが、出来ん事もない‥‥かもな」 次いで響いた問いに対しては珍しく曖昧な回答を返す架茂‥‥どうやらその類の術も研究こそされてはいる様だが、まだ容易には誰しも容易に震える領域には達していない様子ではあったがそれでも、芳純からすれば耳寄りな話を聞いた事となるとそれを機に再び始まる質問攻め。 「はいはーい、私も少しだけ質問なのですよ〜。今後の予定、って何か考えているのですか?」 「入寮試験と入寮式を経て、何をするか‥‥要望あれば、汲み上げてもいいとは思うが」 その機にとカンタータもこれからの展望を尋ねると、少しの間の後に返って来た彼からの答えはまだ決めかねている所多いからこその回答ではあったが、皆からすれば良い話も聞けて一時でも場は騒然として。 「とりあえず、入寮式に関しては皆に手伝って貰う手筈だ。先輩として、昨年以上に励んで貰おうか」 「はい、それは勿論です。なので折角の宴に架茂王も女装されてみては如何でしょうか?」 「それは面白そうですね!」 その場でも最後、低く響く声で近く行われる手筈の入寮式についてもサラリとだけ触れれば、頷き応じながらも青嵐は女性物の着物を片手に果たして問うとフレデリカに他の皆もやんやと騒ぎ出し‥‥いよいよ宴の終幕が訪れた! 「‥‥面白い話だ。ならその代わりに未だ実験段階の式を食らって青嵐、お前が無事だったらな‥‥!」 「あー、ここで入るか。見た目変わらんが、酔っているとたまに素の調子のまま辺り構わず大暴れするからなぁあいつ」 ポツリ、今更の様に呟いた平蔵のその言葉は直後に轟いた振動音の中で掻き消えた。 「振り返ると中々楽しい一年でしたね」 「でも、これからか‥‥どうなるんだかな」 その光景を偶然でも遠目から見るだけで済んだ未久と冬馬はそれを前にしながらも苦笑浮かべ、そんな言葉を交わすのだった。 一先ずの陰陽寮にとっての一年は今日で終わり、新たな年度が巡りだす。 これから始まる刻にはいったい何が待つか、それは架茂でも寮生でも今はまだ誰も知らない。 だが、仲間がいるのならそれはきっと‥‥。 |