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■オープニング本文 キノコ、キノコ、ノコノコキノコ♪ 可愛らしい声が、不思議な節をつけてギルドの中に聞こえてくる。 キノコがとれりゃー、うちらはまんぞくー、まつりがはじまるぞー♪ やがて真っ赤なリボンを頭にのせた、キノコのようにぱっつんと髪を切りそろえた女の子が現れた。 ……不思議な歌を歌い続けている。 「お嬢ちゃん、どうしたの?」 まだ二十代になったばかりのような若い女性職員が、女の子とおなじ目線までしゃがんで尋ねた。迷子だったらしかるべき対応をしなくてはいけない。 「ノノコね、キノコのおまつりにいくのー」 舌っ足らずな調子で女の子が嬉しそうに笑う。ノノコというのがこの子の名前なのか。キノコの歌(らしきもの)を楽しそうに歌っていたところをみると、よほど楽しみな祭なのだろう。 「ノノコちゃんっていうの?」 「ううん、ノノコじゃなくて、ノノコなの」 「……えーと、ノノコちゃん、かな?」 「ノノコだよ」 コミュニケーションがとれているのかいないのか微妙だが、女性職員は困ったように、それでも肝心なことを訊く。 「お母さんはどうしたのかな?」 「……おかあ、さん?」 きょとんとした顔で自称ノノコちゃんが訊き返す。今初めてその言葉を聞いたといった風だ。 「うーん……ママ、のほうがわかるかな?」 小さい子にわかりやすいように彼女が言いなおした時、入口のほうから女性の声がした。 「ロココ! どこにいるの?」 「ママ!」 ノノコちゃんではなくロココちゃんが、ぱっと顔を明るくさせて入口のほうに駆けていく。 女性職員が立ち上がり後ろからついていくと、自分より少しだけ歳が上の女性が女の子を抱上げていた。 「お母さんですか?」 「はい。すみません、同郷の友達に会いにきて、目を離したら……」 「ギルドの中とはいえ、気をつけてくださいね」 にっこりと微笑む職員の目の前に、ロココちゃんが手に持っていた紙を差し出した。何かのチラシのようだ。 「……なぁに?」 「キノコのおまつり。じーじのごはん、おいしいよ」 満面の笑みを浮かべたロココちゃんを抱きなおしながら、母親が告げる。 「私の地元の村で、毎年キノコ祭をするんです。キノコの串焼きとか、キノコのお酒の屋台なんかが出るんですけど、実家の父もキノコのシチューを出すらしくて」 「キノコのシチュー! 美味しそうですね」 「他にもイベントが色々と……ああ、そうだ」 娘とそっくりに嬉しそうに笑って、母親が言った。 「キノコ狩り競争があるので、よかったら皆さんもいかがですか?」 「キノコ狩り?」 「ええ。単純にキノコ狩りの数を競うんですけど、地元の者は参加せず外部の方限定でやりますから、慣れない方でも優勝できるかもしれませんよ?」 採ってきたキノコはその場で調理して食べるらしい。 「単なるお遊びですから優勝したからって何もないですけど、祭の屋台は食べ放題になります。いかがですか?」 その日、依頼とは別の掲示板にチラシが一枚貼り出された。 『ビバ! キノコ祭!』 |
■参加者一覧
氏池 鳩子(ia0641)
19歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
奈々生(ib9660)
13歳・女・サ |
■リプレイ本文 ● 『エントリーはこちら』 村の広場には大小様々な屋台が出ていたが、その端にキノコ祭実行委員会本部なるものがあった。 「キノコ狩り〜、いえー!」 奈々生(ib9660)は受付の男性に向かって腕を振り回した。 「採って採って採りまくるぞう! そして焼きキノコ食べるぜい!」 はしゃぎまくる女の子に、周囲の大人たちは微笑ましいものを感じる。 「あ、地元の人が知ってるキノコスポットがあるって」 「それは教えられません」 微笑ましくは思っていても、受付の男性はにこやかに、はっきりきっぱりと断った。 「キノコの収穫場所は家族にも教えないものなんです。頑張って探してみてくださいね」 「むーん……」 少しだけうじっとしてから、奈々生はすぐに明るく叫ぶ。 「それよりもっとすごい誰も知らない、不思議な桃源郷みたいなキノコの世界を探すの!」 キノコがうじゃうじゃ〜、と鼻歌を歌っている奈々生に男性が笑いながらリーフレットを渡す。 「これは?」 「簡単な毒キノコの見分け方ですよ。鮮やかな色のキノコだけが危ないわけじゃないですからね」 わからなかったらくれぐれも食べないように、と念を押し、男性はその他の地図や磁石、籠なども手渡した。 「では用意、スタート!」 広場には十名ほどの老若男女が集っていた。 皆、同じ籠を手に持ち、合図とともに地図を見ながら走っていく。 「のんびりしてていいんですか?」 背の高い参加者の青年が、隣で地図を見ている氏池 鳩子(ia0641)に尋ねた。 「基本的に、勝利条件の数多く採る、ということは考えてない」 鳩子は地図から顔も上げずに答えた。 「なめこの一点狙いなのでな」 「なめこ、ですか……?」 「そう。持って帰って味噌汁にいれて美味しく食うのだ」 青年が怪訝そうな顔をして行ってしまうと、鳩子は裏山に向かって歩き出した。 落ち葉を踏みしめながら、立ち枯れや倒木、ブナやナラの太い木等を重点的に確認しながらなめこを探す。 「この木はどうだ……違う、ムキ茸か。まあ、これはこれで癖のない味なんで、せっかくだからいくつか採っていくか」 なめこじゃないことにがっかりしながら、ポイポイとムキ茸を籠に放り込んでいく。 「む、あそこに苔むした倒木が……。あそこならあるいは!」 逸る気持ちを抑えて鳩子が倒木を覗き込むと、黄金色の輝きと目があった。 「ふにゅ〜、見つからないなあ……」 プレシア・ベルティーニ(ib3541)はとてとてと歩き回りながら困り果てたようにつぶやく。 元々、プレシアはキノコを食べることに気持ちが飛んでいて、採る部分は省略気味だ。 「あっ、匂いで分かるかもなの〜」 しゃがみ込んで地面の匂いを嗅ぐと、狐耳をぴこんと立てて嬉しそうに歩き出す。 少し行くと、立ち枯れ木に赤や緑のキノコがびっしり生えていた。いかにも怪しそうである。 「ふにっ!? わぁ〜い! いっぱい見つけたの〜!!」 瞳に星が舞っていそうな勢いでプレシアは極彩色のキノコ達に飛びついた。受付で毒キノコの注意を受けているはずだが、全く意に介していないのか緑の一本を千切ると、いきなり口の中に放り込む。 「……………ふに? ん〜? 何かいつも食べてるのと違う感じなの〜……」 残念なの〜と言いながら耳をぺたんと寝かせるが、特に毒にあたった様子もない。 すぐに気分を変えて別のところを探しに行くが、歩き回ったせいか、腹からぎゅるるると音が聞こえてきた。 「ふにぃ、お腹、減ったの〜」 この世の終わりのような顔をしておにぎりを取り出すと、プレシアは切り株に座って食べ始めた。 もきゅもきゅもきゅ。 幸せそうな顔をして頬張っていると、右手にレンガ色の重なったキノコが見える。 「……ふに? あっ、きのこだっ!」 歩いていってキノコの塊を籠に入れると、視線の先に更なるレンガ色。 「ふんすっ! 今度こそいっぱい見つけたもんね〜っ!」 目一杯ドヤ顔をしながら、プレシアは次々とキノコを籠に放り込んでいった。 日陰のじめじめした倒木や切り株を探しながら、礼野 真夢紀(ia1144)は考えていた。 「採った事のあるのって、松茸と椎茸位なんですけど……」 今後の参考のためにと参加した真夢紀だったが、案外みつからない。 (確かキノコは木から養分貰って成長する物だから……それで椎茸って栽培するんだし) 地図に目を落とし、それからぐるりと周囲を見回すと、珍しい赤い木が見える。 「赤松?」 ジルベリアに松は珍しい気もしたが、キノコがこの村の名物のようだから、様々な木を植えているのだろう。 あまり期待をしないようにしながら赤松の周りを回る。 「松茸、でしょうか……?」 松の根元に小さな一本を発見。そうっと地面から上の部分を採る。 「う〜ん、しめじやえのき、舞茸でしたら、お店で売ってるの見た事ありますから解るかもしれませんけど……」 ため息をついて更に松の木を調べていくと、先程のものよりもう少し大振りの松茸らしきキノコがあった。 更に別の松にはうす茶色のカサが見える。 (見た事ないのは、村の人に聞く為に一応採取しましょう) 真夢紀はふんっと気合を入れると、目に付いたキノコを片っ端から籠に入れていった。 ● 「七十七、七十八……な、七十九個!?」 他の参加者が多くても三十個程度だったのに対して、開拓者達は数がまったく違っていた。中でも目に付いたキノコを全て採ってきた真夢紀はぶっちぎりの一位だ。 「おめでとうございます、優勝です!」 村長が賞状と『屋台食べ放題』と書かれた目録を真夢紀に渡そうとする。 「あの〜、食べ放題より……知らない調理法教えてもらう方が嬉しいのですが……そういうのって、駄目ですか?」 メモを取り出して言う真夢紀に、村長が困ったように眉を八の字に下げる。 「調理法ですか……?」 今までそんなことを言い出す優勝者はいなかったのだろう。 「それは構いませんが……」 「ありがとうございます!」 真夢紀はちょこんと頭を下げると嬉しそうにメモを片手に走り出した。 まずはキノコのお酒。 「ヴォトカにキノコを漬け込むんだよ。まぁ、薬膳酒の一種さね」 大小様々な壜を並べて売っている屋台のおかみさんが豪快に笑って教えてくれる。 「あまりキノコはこすらないようにして、キノコ2:ヴォトカ3くらいかねぇ?」 キノコの種類によって効能も違うらしい。 「……お土産にして飲める人に飲んでもらってみます」 「そうしとくれ。うちのはどこのキノコよりも上物を使ってるからさ」 おかみさんはカラカラと笑うと酒瓶を包んでくれた。 「五十個以上も採ったんだってね、すごいな」 始まったときに鳩子に話しかけてきた青年が、再び話しかけてきた。 「五十六個だ。それでも優勝はできなかったが」 鳩子はキノコの串焼きを手に取ると、少しだけ熱そうにかじる。 「どうだい、うまいか?」 屋台の向こう側から大柄のオヤジが大声で訊いてきた。 「動いて腹が減ったからな。こういう時の飯はうまい。そして、屋台で食う飯は普通にうまい」 ははは、そうか、と言いながら、オヤジは隣の青年にも串焼きを勧めた。 「きっのこ♪ きっのこ♪ きっ、の〜、こ〜♪」 ぴょんぴょんと飛び跳ねながらプレシアが端から順に屋台の食べ物に手を出していく。 「ノコノコキノコ〜♪」 舌足らずな歌声と赤いリボンが見える。ノノコちゃん……もとい、ロココちゃんだ。 「はい、じーじのとまとしちゅーですー」 トマトとキノコのシチューを盛った木の皿を、にこにこしながらプレシアに押し付ける。 「ふにっ? キノコがいっぱい入ってる!」 幸せそうな顔をしてシチューをもきゅもきゅと食べ始めたところに、真夢紀もやってきた。 「あ、シチュー! シチューの作り方も教えてください!」 「しろいしちゅーもあるのー」 看板娘のロココちゃんからクリームシチューを受け取りながら、真夢紀が後ろのお祖父さんに声をかけた。 「あー、シチューの作り方かね?」 口ひげをたくわえた初老の男性が答える。 「大体カンでやっちまうんだが……クリームシチューはキノコとニンジン、玉ねぎ、ブロッコリーをバターで炒めて塩コショウして、ホワイトソースで煮込んだら出来上がりだな」 何とも豪快な作り方である。 「……それだけ、ですか?」 「うーん、炒めるときに味付けを濃くして、後からはできるだけ調味料を追加しないことだ。トマトのほうも基本的には同じだな」 困ったような顔をした真夢紀にプレシアが笑って言った。 「食べてみたらわかるの〜」 受け取ったクリームシチューを一口すすって、真夢紀もほっこり笑った。 「さあさあ、採りたての焼きキノコ〜!」 奈々生はその場で自分の採ってきたキノコを焼いて、簡易屋台を開いていた。 アミ茸、木シメジ、エノキ茸、ムキ茸、舞茸。様々なキノコを楽しみ、皆にも楽しんでもらいたい。 そんな気持ちからキノコを焼いて配っていたら、いつの間にか人だかりができていた。 「……なめこ以外なら提供しよう」 鳩子が奈々生の採ってきたキノコ類をみて声をかける。 「なめこ以外?」 「なめこは味噌汁にして食うからな」 奈々生はふふと笑うと、じゃんじゃん焼きましょう、と笑顔で言った。鳩子もそれを手伝う。 「キノコおいしいー!」 奈々生が歓声を上げた。 年に一度のキノコの祭。 あなたも来年はいかがですか? |