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■オープニング本文 「背後を突かれると困ったことになるの」 その日、蒼旗軍を指揮するガランと清璧派後継者の綾麗は、香春関の領主の館で、領主の程灰零立ち会いのもと今後の策を確認して居ました。 香春関、それは瑞峰の入り口とも言うべき非常に重要な関所の街、その場には他に綾麗の開拓者仲間の岳陽星と言う泰拳士に、商人の鷺・俊麗と付き人のからくりツバメ、それに開拓者ギルドの窓口となって居る猫っ毛の少年孔遼。 「でもよ、こいつ等だって八極轟拳に台頭されちゃ困ったり、自分たちがやられる可能性とか考えたりするんじゃねぇのか?」 「何ともいえません。紅梁は武人達がひっそりと住む隠れ里、轟拳に知られているかは解りません。鼓青は文化と財で繁栄していた街で位置的に轟拳と小競り合い程度で済んでいるため危機感があるかは解りませんし」 「んー……蝉黄はーあまり関わりたくないところではあるんですよねー」 「なんで?」 「駆け引きを好む、と言やぁ聞こえは良いけどね、旗色が悪いと直ぐにぱたぱた、手のひら返しさ。信用出来たもんじゃないねぇ」 陽星の疑問に綾麗が答えれば、渋い顔をして言う孔遼、同意を示すシュンレイは商人として『関わりたくない』というのは嫌と言うほど思い知っているようで僅かに唇をゆがめます。 「わしら蒼旗軍も、関わってきていなかったこの瑞峰地方で考えれば海の物とも山の物ともしれぬ集団としか見えぬであろう」 「私たち清璧も、彼らからすれば一地方の小さな門派の一つと見なされればそれまで。信用されなければ集落を護るために背後を襲われないとは言い切れない、そう言う事ですね」 ガランと綾麗が言えば、瑞峰の事情をよく知る灰零は重々しく頷いて。 「今は僅かの兵力も、そして資材も惜しい。その上背後まで気にして戦わねばならぬのは不可能であろう?」 灰零の言葉に少し悩む様子を見せる綾麗ですが、緩く息を吐くと。 「それぞれ出向いて確約を取らねばならない、と言うことですね」 決意を込めるかのように綾麗が言えば、できうる限りの情報をまとめよう、と言うこととなり、暫しの間対策のための相談を続けるのでした。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 嵐山 虎彦(ib0213) / 明王院 浄炎(ib0347) |
■リプレイ本文 ●鼓青 泰国の北西部にある、瑞峰地方。 その中心となる都市・瑞峰は八極轟拳の手に落ち、蒼旗軍や清璧派が鬼哭塞を落とし反撃に打って出はしたものの、未だ轟拳による略奪等が多発していました。 「開拓者とおっしゃいましたね、この鼓青に何用です」 明王院 浄炎(ib0347)がやって来たのは鼓青という、話で聞いたところでは文化をこよなく愛す裕福な街です。 しっかりとした石造りの城壁に囲まれた街の中は、目にも鮮やかな色彩が溢れており、優美で深い青を基調とした鎧の護衛兵に案内されて領主の館へとやって来れば、そこで既に待っていた領主の梁季子は訝しげな表情を浮かべて口を開きました。 「預かって参った書状は、既に読んだかとは思うが……八極轟拳についてのことだ」 「……確かに、瑞峰が墜ちた、とは耳にしておりますが……しかし、ご覧頂ければ解るよう、私どもの街は、御覧の通り、備えもございますしそれなりに街を護る者もおります。第一、あちらとことを起こさねば、巻き込まれるようなこともございませんわ」 床まで届かんばかりの長く美しい髪を指先で軽く弄びながら小さく笑むと立ち上がる季子。 「客人は持て成すもの、ごゆるりと滞在され、お気が済みましたらそのように……」 そう言って踵を返して立ち去ろうとする季子ですが。 「待たれよ」 明王院が一言、足を止め、ちらりと目を向ける季子。 「この屋敷へ迎え入れられるまでの道のりを見ても、美しい街と思う」 「当然のことですわ。この街は幾代もの者たちが育み作り上げた技術と文化の街ですもの」 扇を口元に当て誇らしげな表情を浮かべくすりと笑っていう季子に、明王院は続けて。 「しかし、八極轟拳はどう見るであろうか」 「……何がおっしゃりたいの?」 明王院の言葉に、笑みを消してきっと厳しい目を向ける季子、しかし、明王院はゆったりと腰を下ろしたまま、じっと目を向けると落ち着いた様子で続けます。 「八極轟拳は力こそ全て。己が武力を誇示し、人々を支配するような輩が、平穏と安寧の中で育まれる舞踏や細工の妙を愛し、共に生きるであろうか?」 「それは……」 いかに瑞峰の、この地方が地の利で恵まれており、他の地とあまり関わりがなかったとしても、事実この地で略奪などが相次いでいることを耳にしている季子は一瞬言葉に詰まり。 じっと季子の迷いを見定めながら、慎重に、それで居て更に踏み込むように明王院は口を開きます。 「風雅な嗜みもただ金目の物か否か程度にしか思っておらぬ連中と聞く。それだけではない、この街は非常に豊かな街だ。そのような所を、そのまま見過ごす者たちであろうか?」 そこまで言って明王院は、改めて美しい屋敷の部屋をゆっくりと見回して。 「本当の意味での豊かなこの街の価値を解る者たちとは思えぬ」 「……」 季子は僅かに眉を寄せて扇を閉じ口元に当てるとじっと考える様子を見せています。 「……ですが、蒼旗軍や過山派と言いましたわね? その者達が何処まで信用出来るか、私には分かりませんわ。清璧派というのも、あの香春関の程灰零様が一目置いているのは存じ上げていますが……この目で確かめておりませんもの」 出来る限り事を荒立てなければ巻き込まれることもない、そんな風に言う季子はきっと明王院を見据えると続けて。 「この街は高い城壁に守られています、いざとなれば守りに強い城もある、何故危険を冒さねばなりませんの?」 「いや、ここで轟拳と事を構えろと言う話をしに来たわけではない」 「ならば、どうしろと言うのです?」 「事が終わるまで、この都市を守ることを考えて貰いたいのだ」 明王院の言葉に考える様子を見せた季子は次の言葉を待ちます。 「元を立てば、後暫くは残党のみを気にすれば良くなる、その対処の手が厳しくば、開拓者を呼べばよい。開拓者には、俺程度のもの力量の者はざらにおるのでな」 「貴方がたの動きを見守れと言う事ね」 「この街のことを考えても、子らの代まで、健やかで育んでいける為にもあのような輩はのさばらしておくべきではなかろう」 言われる言葉の一つ一つを注意深く考えている様子の季子がまるで答えを求めるかのように見れば、敢えてそれには応えず静かに見返す明王院。 「そう思ったが故、老婆心ながら伺った次第」 「……」 暫し考える様子を見せた季子は、逡巡の後に口を開きます。 「街のこととして、私の一存で決められることでは御座いません、今暫くこちらに逗留されお待ち頂きたいのです」 酷く迷った様子の季子は、護衛兵と給仕をしていた侍女へ明王院の案内を言いつけると考え込む様子でその場を辞し、明王院も客間で寛いでいれば、街を細工物で飾られた、恐らくはこの街の武芸者であろうものが馬を飛ばし駆けだしていくのを見送り。 「……さて」 明王院は用意された客間でごろりと横になると眼を閉じ静かに返答を待つことにするのでした。 ●蝉黄 「蒼旗軍、だと?」 嵐山 虎彦(ib0213)が岳陽星と連れだってやって来たのは、蝉黄。 領主の李玩は睨め付けるように嵐山を見ると、一段高い所から会っているからか何処か小馬鹿にするような反応を見せます。 「ふんっ、帰れ、何処の何かも分からぬ不逞の輩の話など聞く必要も無いわ。衛兵、こ奴らを放り出せっ!」 「おいおっさん、俺たちはまだ……こら爺っ!」 「……また、直ぐに戻るぜぇ。見送りはいらねぇよ、おい、陽星も、一旦戻るぞ」 「何言ってんだ、虎……ん?」 「良いから、ちぃと後に出直すぜぃ」 にやりと笑う嵐山に渋々ながらも陽星も引けば、嵐山は陽星を引き連れて領主の館を出れば、ぐるりと村を見回して。 「おう、村から追い出すってぇことまでは言わねぇよなぁ?」 態々来たんだぜ、そう言いながらぎろりと見ながらにぃと笑ってみせれば、衛兵は館に入らなければいいと口をもごもごさせて屋敷へ引き返してとを中からがっちりと締めます。 「ありゃあ、信用出来ねぇな、背後を任せりゃ、必ず後ろから刺してくるような奴だぜ」 「どうすんだよ、だからってぶちのめすわけにもいかねぇだろ?」 「誰がそう決めた? 悪評が立たねぇように気を付けなきゃなんねぇが、ありゃ、駆け引きがどうこうって話じゃねぇ。それより気になってたんだがよ……」 そう言って、ぐるりと村を見回す嵐山、陽星もつられたように周囲を見回すと。 「なんか、活気がない、と言えば聞こえは良いけど……なんか、この村は、領主の館だけががっちりと石造りので守られているし、えっらく豪勢な部屋とかだったけど……その、なんっつーか……」 「酷ぇな、ここまで来ると」 土地は豊かなはず、そして村は低い石造りの頑丈な壁で囲まれ物々しい様子ながらも、どんと一番奥の所にある領主の館が贅を尽くしたものであるのと対照的に、村の人々は疲れ窶れた様子で項垂れ力なく歩き働いています。 「あの壁があるから、逃げるに逃げられないのか……」 陽星はあの壁がなければきっとこの人達だって逃げ出している、と怒りの籠もった声で呟くように言って。 「まぁ……手前ぇの村を捨てて逃げ出す必要はねぇやなぁ……陽星」 宿探しも兼ねて、村を探るぞとひそひそと陽星に話して二人で手分けして動くことにすれば、嵐山が聞いて回るのに痩せてよろよろとした様子の子供が近付いてきて。 「おう、えぇと。坊主じゃねぇな……お嬢ちゃん、どうしたぃ?」 「おじちゃん……こわいひと?」 「いやいや、顔は怖ぇかもしんねぇが、平気だぜ〜」 しゃがんで子供に目線を会わせて話を聞けば、ずーっと物心付いた頃からひもじくて辛い事が何とか聞き出せることで。 「ぜんぶ、えいへいさんがもっていっちゃうの……」 「道理で、子供も少ねぇ訳だ……」 手持ちの食料などが到底村の人間に足りるものではないのが分かれば、今ここでこの子に食べ物を与えたら済む問題でも無さそうで、女の子の頭を撫でてやると、慌ててやって来たのはこれまた痩せて足元がおぼつかないその子の母親のようで。 「申し訳も……お許し、下さい、まだ幼くてこの子は……」 「いやいや、構わねぇよ。……その、この村にゃ宿もねぇのかい? ちぃと用事でやって来たんだが、泊まる場所もなくてなぁ、男二人で、まぁ、食い物などは何とかなるんだが、この季節の野宿はちぃとと思ってねぃ」 「は、はぁ……野宿とたいして変わらないかも知れませんが、お困りでしたら、うちで良ければ……」 そう言う女性にお礼を言うと、直ぐそこにある、古くて元は確りした家であった事が伺わせる周りより大きめの家に迎え入れられ、一部屋空いていたであろう所に、ぼろくてもきちんと干してくれたらしき布団代わりの布を運んできて。 「じゃあ、連れを呼んでくるぜ」 「はい……」 どうやらこの家では布を織ったりして居るようで、聞けばご亭主は畑へ行っているとかで、夕刻には戻るそう。 「見て回ったけど……酷いな、この村……」 陽星と合流して部屋へと戻れば、暗い顔をして言う陽星、どうやら前の領主が急逝した時に、領主の跡取りの娘が父親殺しと疑いをかけられ、領主の館を追い出されたとか。 娘さんが父親を殺したという証しは怪しいものだったし、前の領主親子は良い人達だったため、村の人達は不憫に思って名家だった家に娘さんを置いてあげることにし、結局その家の息子さんと結婚して居ると聞いて、おんやぁとばかりに嵐山は首を傾げます。 「俺、ここまで話しといて思うんだけどさ……」 「あぁ、俺も多分だが……ここのさっきの痩せた娘さんが、その領主の娘なんじゃねぇのか?」 膝の上でふにゃふにゃ転がったりして構ってもらいたげな小さな女の子がきょとんと見上げるのを、とりあえず片手間であやしつつ嵐山は口を開いて。 「じゃ、領主の娘がおんだされて、後に座ったのがあのちっせぇじーさんか」 「村の人達も誰も領主の娘が父親殺しなんて信じちゃい無い様子だったけど、その後に税と称しての搾取でみんなそれどころじゃなくなったっぽいな。衛兵とか言うのも前からの人なんて居ないそうだし……」 そこまで言って、陽星は何とも言えない表情を浮かべて。 「でも、瑞峰にそれを訴えて助け求めても何もして貰えなかったとか何とか」 「んで、数年でこの有様、てことか」 「ころころと掌返しするっていうのは、今の領主のせい、って事だな」 顔を合わせて互いに方針が思い浮かんだようで居れば、既に夕刻、ちらりと部屋の外を見るも、村の殆どの家の竈に火が入る様子もなく、二人で眉を顰めれば。 「お客人……こんな、粗末なものしか、お出しできませんが……」 そこへ顔を出したのは畑に行っていたという家の主人で女性のご亭主、穀物と葉の切れ端が僅かに入った湯の器を運んできたのですが、村の様子からそれは精一杯のものと分かり。 「……悪ぃな、頂くとしよう」 「って、虎、これは……」 「折角の持てなし無駄にすんじゃねぇ。っと、ほれ嬢ちゃんも食うかい?」 遠慮しようとした陽星を制すと、嵐山は自分が食べる前に、膝で遊んでいた女の子に匙で食べさせてやると、陽星に目配せし、陽星は先程領主へと差し出し突っ返された書状をこの家の主人へと渡せば、それに目を通して驚いたように二人へ目を向けます。 「その通りの事情でここに来たんだがな、村の様子はこの通りだし嫌でも色々と耳に入って来てねぃ」 「その、差し出がましいようだが……村に、本来の領主が戻れば、この村に活気が戻るというなら、その、俺らで、出来ることをしようと思うんだが……」 「ほ、本当で、御座いますか? もし、もしお助け頂けるのでしたら、私達に出来る事なら、なんでも致します」 頭を下げる主人に頷くと。 「さてと……余り時間もかけちゃいられねぇからな、夜のうちにいっちょやらかすかねぃ。御主人……」 軽く延びをしてから、嵐山が何事か主人への耳元で言えば頷いて立ち上がる御主人。 「さて……時間まで一眠りするか」 「よく寝られるな、こんな時に……」 陽星は深く息を付くと手を合わせて精一杯の湯を頂くことにするのでした。 ●紅梁 「待ってくれ、俺たちは……」 「言葉なぞ無用! この里に来ると言うことは武を極めんと欲す者であろうがっ!」 羅喉丸(ia0347)の言葉を大音声で切って捨てるのは壮年男性、それはあと少し歩けば里という、竹林の中での事でした。 「……この里は完全自給自足だから近付く者は皆武芸者という事なのでしょうか……」 「どうだろう……いや、流石に普通に客人が全く来ないと言うことは無いと思うんだが……」 戸惑った様子で言う羅喉丸は、綾麗と共に問答無用に棒を繰り出してくる相手をいなしていました。 紅梁へと向かったのは、羅喉丸と綾麗の二人、清璧派の後継者として武威を示す事が出来ればと考えての事だったのですが、まず里へと入る前に仕掛けられていて。 「これって……っ、試されている、って事、ですよね?」 「里への仲間入りに来たわけではないんだが、っと」 話し合いをするのに、襲いかかる相手に反撃して良いのか判断に困る二人。 「しかし……仕方ない、このままでは話しにすら行けないからな」 「……穏便に生きたかったのですけれど、やむを得ませんね」 「失礼する」 里に行って話をするにはここを通り抜けなければならないと判断すれば、一言言って懐へ一撃を撃ち込む羅喉丸、綾麗も飛び込んできた男の蹴りを受け流すとその勢いのままにとんと坂道の方へと転がし、二人はそのまま一気に里の方へと駆け出します。 追撃に飛び出してきた男達を更に叩き伏せて次が来る前へと里の入口で指揮を執っていた男へと迫れば、僅かに眉を上げて面白い者を見るかのように羅喉丸と綾麗を見るのは、壮年男性。 「貴方が梁斑か?」 「如何にも。成る程、男女対の者がこの里へとやってくるのは珍しいが……ここでの修行に加えるだけの力はありそうだな」 さも可笑しげに呵々と笑う壮年男性、梁斑に、慌てて首を振る綾麗。 「いえ、私達が来たのは、ここで武の道に励むためではありません」 「大事な話が合ってやってきた」 「大事な話、だと? 修行以外に、何を大事なことなどあるものか」 「と、兎に角、話を聞いて下さい!」 羅喉丸と綾麗が言うのに訳が分からんとでも言うような表情を浮かべる斑ですが、ふと羅喉丸が身に付けている青い布飾りに目を留めると軽く眉を上げて。 「ふむ……その布飾り、清璧派か」 頷くと、付いてこいと言って里の中へと入っていく斑に付いていけば、幾つもある小さな家の奥に、一つ、大きな屋敷と行っても云い建物があり、そこへと入っていきます。 「さて……その布飾り、昔ここにいた者でもって居たのがいてな。山や関を越え、この紅梁へ何用だ?」 そう尋ねる斑に綾麗と羅喉丸はそれぞれ自己紹介をし、ガランからの書状を出せば、綾麗が清璧の後継者であることを聞いて少し驚いた様子を見せて。 「八極轟拳……ふむ、八極轟拳……いや、近々外で大きな戦がありそうだというのでな、実践を兼ねてとは考えて居たのだが、この書状から鑑みるにもしやそれが蒼旗軍とやらだったのか……」 「兵を出すつもりだったのだろうか?」 「ああ、この地方での戦なぞ、あるとすれば内部での力の誇示ぐらいしかないものでな、そこに出張り叩くというのは良い訓練の機会だと、こう思っていたのだが……何やら大事な戦のようだな」 斑の言葉に頭を抱えて良いのかほっとして良いのか困った表情を浮かべる綾麗、羅喉丸は改めて口を開きます。 「八極轟拳は邪法、力こそ正義という者たちだ」 「力の正義、それは正しくないか?」 「……八極轟拳は技を奪い糧を奪い、当たり前に生活を営む者たちを踏み躙るんだ」 「…………待て、それはその辺りの普通の集落の、領民達から略奪すると言うことか?」 「はい。既にこの瑞峰内でもいくつも略奪の末集落が焼かれています」 轟拳について語る羅喉丸と、問いに頷き続ける綾麗の言葉に、表情が豪快に笑っていたものから徐々に厳しくなりやがて憤怒を浮かべる斑。 「それと、幾つか門派も、奥義や強力な武具目宛てに襲われることもある。八極轟拳は手段選ばない。焼き討ちも、人質をとる事も厭わない」 「ふぅむ……」 「出来ることならば、力を貸して頂きたい」 暫し羅喉丸と綾麗を見て考える様子を見せる斑は、自身の憤怒と耳にした現状とで色々と考えることもあるよう。 「我々は力によって見技によって語る」 漸く口開いた斑はそう言うと、立ち上がって。 「我等は命を惜しまぬ、しかし、お主等に命をかけるだけの価値があるか、どちらでも良い、俺に見せてみろ」 斑の言葉に綾麗と羅喉丸は目を合わせると、羅喉丸はにと笑って俺がやろう、と言って立ち上がり、斑が手をあげれば、後ろの衝立をさっとどかす里の者、その先には入口があり、中へ足を踏み入れると兎に角広い修練の間がありました。 「奥義を尽くして応えよう」 「楽しみだ」 互いに向き合えば、静かに見据えて立つ羅喉丸に、ぎらっと鋭い目を期待に輝かせ楽しくて仕方がないとばかりに口元に笑みを浮かべる斑。 長いこと対峙していた二人、勝負は一瞬で付きました。 「くっ……」 その短い一瞬、斑の強烈な突手を紙一重で避けると、立て続けに拳の三連撃。 がくりと膝をついた斑は、直ぐに修練の間にごろりと転がり、幾度か呼吸を繰り返して息を整えると。 「ふ、ふふふ……ふ、ふははははははっ!! 見事っ! 成る程、その技こそが、雄弁に語っておる! 愉快、愉快だ!」 呵々と笑って身体を起こす斑に一礼する羅喉丸、満足げに立ち上がり頷く斑は、兎に角今日はこの里で泊まるよう、明日改めて今後の話をする事、客人を持て成す宴に参加することなどを話していれば、優美な鎧を身につけた武人が何やら書状をもってやって来ます。 「ん? 今日は書面を読むことが多い日だな……ふむぅ」 その書状にさっと目を通すとにぃと笑って改めて綾麗と羅喉丸へ向き合う斑は。 「蒼旗軍、並びに清璧派の友人よ。俺は心を決めた! これより紅梁、そして鼓青は主等に力を貸す事にした! 我等の力、存分に使うが良いぞ!」 上機嫌に言う斑に、羅喉丸と綾麗は何処かほっとした様子で漸くに笑みを浮かべて頷くのでした。 ●蒼い旗の下に 夜も更けた頃、蝉黄の領主の館に響き渡ったのは、老人の萎びた茶色い悲鳴でした。 嵐山と陽星が泊めて貰った家の女性、黄氏は領主の館の元々の住人、彼女の知る抜け道の一つを使って中へと入り込めたのです。 「さて……領民達の前で、お前ぇさんのしたことを、もう一度、頭から話して貰おうかねぃ」 にぃと笑って村の広間へと李玩を引きずり出す嵐山、搾取された村人達の恨みの目を一身に受けながら、震えて前領主を殺したのは自分であること、罪をなすりつけて領主の娘を処刑しようとしたものの村人達が納得せず放り出したことなどを話す李玩。 「さて……となりゃ、罪もねぇ、そして本来の正当な領主に街を戻すのは、こいつぁ筋ってもんじゃねぇかねぃ?」 嵐山が村の人々と話している間、旗色を見て財宝を掠め取って逃げようとした衛兵を陽星が待ち構えていてひっ捕まえていたりと、そういった事を絶え間なく続けていれば、やがて朝を迎えて。 「急に餓えで弱った身体が戻るわけではありませんが……私達はやり直していくことにします。……堅実に」 「そいつが良いやな」 領主を引き渡し村人達で彼等を囲めば、黄氏とその主人がそう言って礼を言うと。 「今の私達には闘う力はありませんが……この場所があります、そして李玩の貯め込んでいた蓄えは人々に還元し立て直しても尚、余りあるものです」 そこまで言うと、主人も口を開いて。 「必要があればここを拠点の一つとしてご利用下さい。兵を出すことは出来ませんが、せめて出来る限りの協力は惜しみません」 蝉黄の答えを聞いて頷く嵐山と陽星は、新たな領主一家と村人達に見送られて鬼哭塞へと戻って来て。 「身内とよく相談して参りました。私たち鼓青は蒼旗軍の元、文化を破壊する者たちへの鉄槌となるため力は惜しみません。そう、ガラン様へお伝え下さいませ」 二日程の滞在で街の風雅で優美な様を楽しみながら返答を待っていた明王院は、季子の返答と用意された書状を受け取り確かに伝えようと請け負うと鼓青を離れ一路鬼哭塞へ。 「あ? 鼓青の梁季子か? ありゃあ俺の妹だ。言うなれば、あそこが俺の実家って事になるかな」 暴れないから蒼旗軍の所に連れてけ、里の者たちは決戦に備えて後から合流すると告げて付いてきた斑は、鬼哭塞への道すがら、あいつの歳は聞くなよ、などと言いながら大刀を担いで呵々と笑って。 各人の尽力によって、紅梁、鼓青、蝉黄、それぞれの協力を取り付ける事が出来たのでした。 |