龍破谷の死闘
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 難しい
参加人数: 19人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/09/16 18:16



■オープニング本文

 蒼旗軍に檄文が飛ぶ。
『時は来た。今こそ決起の時。囚われの仲間を取り戻し、八極轟拳を倒すための蒼き御旗を掲げる時!』
 それは八極轟拳に抗し耐え抜き漸く辿り着いた、その時。
 檄文に呼応し沸き上がる腹の底からの声。
 しかし、檄を飛ばした当のガランは、苦渋の表情を浮かべていました。

 香春関、それは瑞峰の入り口とも言うべき非常に重要な関所の街。
 檄文を発する二日程前、その香春関の領主の館で、蒼旗軍を指揮するガランと清璧派後継者の綾麗は絵図面を広げていました。
「わしは反対じゃ。囮はわしが……」
「いいえ、今回の策は私の方が適任だと思います」
 目の前の絵図面は多数の蒼旗軍仲間が捉えられている鬼哭塞という要塞とその周辺の地図で、二人は香春関の領主・程灰零立ち会いの下、幾つか駒をおいて要塞攻めの策を練っていたよう。
 要塞攻めの駒達の背後を突ける唯一の地点、そこに記されていたのは、龍破谷という深く細い谷です。
「おぬしは清璧の後継者という立場だけではない、今は救邑の英雄が再来と、力ない者たちの希望と言っても良いのじゃ、万が一があってはならん」
「ここを護れるのは少人数のみです。それに、鬼哭塞が落ちねば意味が無いですし……」
 そこまで言いかけてから、綾麗は少し困ったように微笑んで。
「それに、救邑の英雄として名が知られてしまっているならば、功を焦った者たちを引きつけるのに、私の方が最適でしょう? 私の元には、龍の籠手と、蛇の脚甲まであるんですから」
 困ったような寂しそうな綾麗の笑みに、ガランは苦渋に満ちた表情で空を仰いで。
「ならば、今回はその言葉に甘えさせてもらうとしよう。恩に着る」
 深く息を吐くとガランはやっとの事で、そう告げるのでした。

「おい、綾麗」
 ガランと別れ白と青の装束に、黒地に赤い文様と銀の縁取りの入った帯を締めながら支度をしていた綾麗へと声をかけるのは、開拓者仲間の岳陽星。
 陽星は少し怒った様子で歩み寄ると口を開きます。
「何で俺はそっちについて行っちゃ駄目なんだよ」
「何でも何も……ガランさんの護衛に回って貰いたいからと言伝た筈ですけれど……」
「そうじゃなくて、御前の方が危ねぇとこ行くんだろうが、名前からして不吉だしよ」
 あれこれと言葉を尽くして思い留まらせようという陽星ですが、綾麗に宥められて。
「うまく待ち構えられれば私の方なら勝算はありますよ。ですが、ガランさんに万一があれば取り返しがつかない。ですから、お願いします」
 綾麗の言葉に納得いかないまでも、理解出来るのか、陽星は頷くと、くれぐれも気をつけろよと伝えて歩き去っていくのでした。


■参加者一覧
/ 緋桜丸(ia0026) / 万木・朱璃(ia0029) / 音有・兵真(ia0221) / 羅喉丸(ia0347) / 鷲尾天斗(ia0371) / 柚乃(ia0638) / 鷹来 雪(ia0736) / 紬 柳斎(ia1231) / 黎乃壬弥(ia3249) / 珠々(ia5322) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 紅 舞華(ia9612) / 嵐山 虎彦(ib0213) / オドゥノール(ib0479) / 不破 颯(ib0495) / 无(ib1198) / 海神 雪音(ib1498) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 白雪 沙羅(ic0498


■リプレイ本文

●覚悟
「綾麗さん……おや?」
「あぁ、これですか? 赤蛇……穏春が連れて行って貰えないならせめて、と」
 羅喉丸(ia0347)が蛇の脚甲と同じ色彩の帯を綾麗が着けているのに首を傾げれば、それに気が付いて口を開く綾麗。
 駆けつけた羅喉丸が話しかけたのは、龍破谷の直ぐ側の宿営地で見張りを立て支度をしていた時のことでした。
「ウェンチュンという名だったんだな。様子は?」
「赤蛇と呼ぶと直ぐに泣きそうな顔をするんです。元は随分と気の優しい子だったようで塞ぎ込んでいますが、何とか落ち着きつつあります」
「なら良かった。……早いところ準備を済ませて迎え撃たないとな」
「はい、あちらに一応この辺りの地形など用意してありますので……」
 確認を済ませれば、綾麗は呼ばれその場を離れますが、羅喉丸はその背をじっと見ると。
「きっと重責を負っているのだろうな」
 だからこそ力にならねば、ぐと拳を握って頷くと、羅喉丸も迎撃のための確認へと戻るのでした。
「お嬢ちゃん無茶はしてもいいが、無理はするなよ?」
「緋桜丸さん……」
 どれぐらい持ち堪える必要があるか解らないためか、食料の確認をしていた綾麗へと声をかけたのは緋桜丸(ia0026)、どこか危なっかしい様子を見て取ったかそう言うと、黄金に煌めく短筒の収まったホルスターを見せてにやりと笑みを浮かべます。
「一人じゃないんだ、仲間は常に頼れ。俺らもそれに全力で応える」
「そうだぜ、綾麗のお嬢。守りが大事な依頼なら俺らの得意なとこだからな!」
 嵐山 虎彦(ib0213)も呵々と笑って言うと、任せろとばかりに自身の胸をどんと叩いて見せて。
「さて、張り切ってお仕事でもしますかァ」
 にやりと笑いながら鷲尾天斗(ia0371)は剣呑な笑みを浮かべ楽しそうに言えば、不破 颯(ib0495)は待ち構える地点へと目を向けると微苦笑を浮かべます。
「しかし、こんな狭い場所に大人数でごくろうなこったねぇ」
「前衛と後衛の配分を考えなければ動きにくい場所ですが……ここさえ抜けさせなければ、と言うのも頷けます」
 絵図面と龍谷破と名のついた道を見比べて考える様子を見せる海神 雪音(ib1498)。
 その様子を見ると、漸くに思い悩んでいた様子の綾麗の顔にも微かに笑みが浮かんで。
「綾麗」
 そこへ声を掛けるのは紅 舞華(ia9612)、ゼタル・マグスレード(ia9253)と話していたところで綾麗に気が付いたようで、綾麗がそちらを見れば、幾人か集まっている仲間のうちに音有・兵真(ia0221)がいるのに気が付き目を瞬かせます。
「綾麗、久しぶり、ずいぶんな事になっている様だが」
「音有さん、ご無沙汰しています。それに……随分集まって頂けたようで……」
 知っている顔があったからな、と笑う音有、万木・朱璃(ia0029)は綾麗を見ると任せなさいとばかりに笑い。
「ふふん、守りながらの戦いには慣れていますよー」
「仲間の大事な人ですから、守りきってみせます」
 珠々(ia5322)は頑張らないと、と小さく呟きつつ頷いて。
「友人の役に立てるなら、悪くない仕事だ」
 オドゥノール(ib0479)がゼタルに笑って言えば白雪 沙羅(ic0498)は綾麗へと挨拶をしています。
「ゼタルさんの要請でお手伝いに来ました」
「そうですか……大変な状況ですのに来て頂いて感謝します」
 一方で、綾麗へと声を掛けた舞華の表情は何処か納得いってないもののよう。
「囮にと申出た気持ちは分かる、分かるが……」
 綾麗の様子にもやもやしたものがある舞華ですが、紬 柳斎(ia1231)はにと笑みを浮かべると口を開きます。
「無事に終わらせて、皆と美味い酒を酌み交わしたいものよ」
 覚悟が決まっているなら言うことは無いとばかりに柳斎が笑えば、舞華に説得されて来ていた黎乃壬弥(ia3249)は軽く肩を竦めて。
「綾麗はこの戦いの後、やりたい事は?」
「やりたい事……いえ、その、特には……」
 釈然としない気持ちを抑えつつ綾麗へと問えば、困ったような顔で考え込んでしまい、それが舞華の何とも言えない不安を掻き立てるようで。
「皆様にご武運を」
 鷹来 雪(ia0736)が一同へと言えば、各人が改めて支度へと離れていくのに、雪は綾麗へと声を掛けました。
「生きて帰る事が大前提です。心配してくれる人が、待つ人がいるならば尚の事。死ぬ覚悟より、生きる事を諦めない覚悟を」
 待つ人が居るなら、そう言われて少しだけ困ったような微笑を浮かべる綾麗。
「綾麗君」
 ゼタルに呼び止められて綾麗が振り返ると、一瞬ためらう様子を見せるも緩く息を吐いたゼタルは綾麗へと歩み寄って。
「綾麗君は多くを背負う人だ、それはわかっている」
 そう言うと、見上げてくる綾麗を見てゆっくり、そして確りとした口調で続けます、
「全てが終わったら、きちんと伝えたい事がある……聞いてくれるかい?」
「全てが、終わったら、ですか?」
 現状を考えればどう答えて良いのか逡巡する綾麗の言葉にゼタルは頷くと。
「君は旗印や象徴としての存在のみにあらず」
 その言葉に、落ち着いた様子で居た綾麗は少し驚いたような表情を浮かべて。
「八極轟拳を打倒した後、君自身の幸せの為に生きて欲しいと思う。……だからこの戦いも必ず君を護る」
 そう伝えると、ゼタルも支度の輪へと足を向け、綾麗は暫しの間考える様子を見せると自身も戦いの備えへと戻るのでした。

●襲撃
「頭を潰そうと言うのは解りますが……」
 やれやれと傍らの相棒尾無弧と呆れを通り越して妙な感心をしてしまうのは无(ib1198)、眼下に見えるはどこからから役立つしてきた物資で飲み食いしつつ奇声を上げている者たちの姿。
「八極轟拳……一人も通しはしないよ!」
 リィムナ・ピサレット(ib5201
「にゃぁ」
「あら……柚乃さん?」
 猫の鳴き声がしたと思い振り向いた綾麗は、真っ白で美しい毛艶の猫又がふわふわと尻尾を揺らして鳴くのを見て、その鳴き声が柚乃(ia0638)の声だと気が付いて目を瞬かせると。
「猫又なら、言葉を話せますから……」
「凄く綺麗な猫又さんですね」
 こんな綺麗な相棒が本当にいたら良いのにとくすりと笑う綾麗に、にゃー♪ と鳴いてみせると、人数を少なく錯覚すれば相手も油断するかもしれないですし、と柚乃。
「気休め程度かもですが……っ。軽傷でも怪我の蓄積は重傷に繋がりますから」
「まだ敵の手の内が解らんしな」
 言って顔を上げた柳斎は合図の狼煙が上がったのに気が付き刀を取り上げ道の先を見て。
「やって来たみたいですねー……さぁ、これくらいの劣勢は何時ものこと、きっちりブッ飛ばして抜けますよー!」
 うじゃうじゃ見えますねーと言う朱璃はにと笑って言うと道の向こうから聞こえてくる喧騒に向き直るのでした。
「我が名は羅喉丸。人呼んで飛雲大侠なり。我が首を取り、名を上げんとする侠はかかってこい」
 最初の襲撃で囮として綾麗の姿を見せ確認させなければいけない事もあってかずいと前に出名乗りを上げ殺到したところで、大音声に名乗りを上げ危険を分散させる羅喉丸。
「飛雲大侠、だとッ」
「どっちも落とせばいい目がみれるぞっ」
 躍りかかるように大刀を振りかぶり駆け込んできた巨躯の男、と、その懐へと入り込むように躍り込み刀を横薙ぎに振り抜く柳斎。
「ぎゃ……」
「こ、んの……」
 一人の胴が切り払われるももう一人が蛮刀で受け止めるのに一歩飛び退って刀を構え直します。
「綾麗さんを狙いたくば、まずは拙者を抜くことだ。尤も、それが出来れば、であるがな」
「私の精霊砲は何時だって狙い撃ちますよー!」
 後ろの方で矢をつがえる姿を確認次第、朱璃から放たれるのは精霊砲。
 吹き飛んでのたうつ男を引きずり素早く引っ込む者が居る様子に、ある程度の長期戦にして数で押していくつもりなのを見て取ったか朱璃は声を上げます。
「すぴーど勝負になります、付け入る隙も与えずいきましょう。全てが正念場ですよー!」
「誰一人通さない」
「後ろを護ってくださる人達の所へ行かせると思いましたか?」
 鋭い蹴りをいなして羅喉丸が言えば、その隙に術者達を狙おうとすり抜けようとした男を、その勢いを利用するかの如く後ろに肘撃で吹き飛ばす綾麗。
「まぁ来ても何も出ないですよ」
 吹き飛んで空いた場所に直ぐに滑り込んでくる男に、一瞥する无が魔刀を投げればその男の腕を切りつけ、もう一人の无、白面式鬼が間髪を入れずにその男を弾き飛ばして。
「将を落とさせる気も無いし、落ちたら青龍の名折れだしねぇ」
「うにゃ、させません」
 周囲へとさっと目を走らせつつ言う无、目の前の男を盾にするかのようにその背に隠れ突撃してきた男に柚乃がきゅとふにふにのにくきゅうを向ければ、たちまちその男を貫く氷の刃が現れます。
「人数が多いからか一人一人潰していくしかないみたいですにゃ?」
 節分豆を確認するようにちらりと見て言う猫又柚乃。
「さぁ、リィムナリサイタルスタート! お代は悪党どもの命だよ♪ あたしの歌で昇天させてあげる♪」
 更に押してこようと人の波が近づいたとき、そこに響き渡るのはリィムナの歌、荒ぶる魂を沈めるはずの歌は、押し寄せた泰拳士達を巻き込みさながら地獄絵図のような状況を瞬時に作り出し、後ろの方にいた者たちは這々の体でその場を離れて。
「泰拳士相手だと覿面に効くね♪」
 にっこり笑ってばんばん歌っちゃうよーと歌を続けるリィムナ。
「とどめを刺そうとすれば必ず他の邪魔が入るな」
 数の優位か、あまりしっかり連携を取っているわけではないにしても、どうしても一人に当たれば他が仕掛けてくる形に押されはするものの、一撃の下に叩き伏せる羅喉丸に、苦無いで意識を逸らし様確実に切って捨てる柳斎とで押し返すと。
「奴ら、一旦引き上げるようだな……」
「あれでも何か対策でも練ってきますかねー」
 こちらを気にしつつも急いで撤退していく八極轟拳の者たちを見つつ呟くように言う柳斎、朱璃は何度来ても一緒ですけど、と小さく鼻を鳴らして。
「そろそろ我々も交代しておこう。……綾麗さんも、ちゃんと休憩を取らなければ」
「いえ、私は……」
「さ、休みましょうにゃ?」
 引き続きこの場に残ろうとしていた綾麗に羅喉丸が声をかければ、猫又柚乃が綾麗を促して、合図を出して次の組を呼ぶと宿営地へと入れ替わりに向かうのでした。

●激突
「さぁて……」
「思ったよりも相手も粘るみたいだな」
 黎乃が太刀を手に道の向こうを見れば、引き継いで大して経っていない頃合い、直ぐに動きがあるのに目を向ければ、力押しの様相を見せていた第一波と違い黒尽くめの者や多様の武具を身につけた者たちが立派な体躯の者たちの後ろで動いているのが見えます。
「……上に居る……」
 さっと視線を巡らせゼタルが言えば、這うように進む者がぱらりと小石を落とすのに目を受けて。
「あっちは任せてください」
 軽く釘へと指を滑らせてからつつっと崖へ歩み寄る珠々がひょいひょいと崖に手をかけ登っていくのと、正面の敵が奇声を上げて突進してくるのはほぼ同時のことでした。
「一人たりとも奥へは近づかせない」
 正面で小楯を持ち美しい槍を構え待ち構えるオドゥノールは、見極めるように男達の後ろへと視線を投げかけながらも剣を盾で受け流して。
「ふん、懐へ入り込めなきゃ届かねぇよ」
 最低限の動きで蛮刀を受け流せば、振り下ろされる斧にひょいと半身引いて交わすと、次の瞬間一歩踏み込み太刀を突き入れる黎乃。
「取り合えず、近い奴からだな」
 音有は次々と付き入れきり払おうとする剣を槍と脚絆での蹴りとでいなしてちょこちょこと石突きや流れのままに蹴りを入れるなどして体勢を崩せば、その隙を塗ってゼタルの氷の龍が襲いかかります。
「成る程……轟拳の中でもそれなりに腕の立つと言うだけ有るんだな……」
 符を構え直しきっと敵を見据えるゼタルは蹌踉めいている男にとどめを刺すべく符を放てば、それは鼬のような姿に変え凄まじい早さで駆け抜け対象を切り裂いて。
「させません!」
 聞こえる珠々の声、ぎりぎり伏せて身を潜め進んでいた男達が何やら取り出せば、そこへ飛んでくるのは釘、男達が見える一まであがって来てそこから狙い撃ちにしたようで、体勢を崩して蹌踉けた一人の男。
「……転がり落ちてきたら、あとは後衛の人たちにボコっていただきましょうか」
 更に体勢を崩すようにと珠々が放った釘が男の足を穿って、奇妙な悲鳴を上げて転落していく男を見送れば、とっさに懐から何やら引き出す男が一瞬のうちに珠々へ迫ると。
「この穂先は届くぞ」
 とっさに身体を引きながら何とか刀で受け流そうとした珠々にあわや刃が届くかと思われたそのとき、深々と男を射貫くのは神槍グングニル、それは音有が気を込めたもので。
「……っ、火薬!?」
 こんな場所で火薬を使えばどうなるか解らないことも、男にとっては仲間の筈の者たちを巻き込むことも躊躇してないことに嫌な汗を掻きつつ周囲を確認すると、下の仲間と合流するために一時火薬を回収してから降りるのでした。
「連携を取るには指示を出している人が居るはず……」
 群がる男達を見据えて注意深く探る沙羅、丁度敵の後方に居る男達の中で違う動きの者が居ないか伺い見ていて。
「今寝返れば配下として優遇するが、続ければ容赦はしない」
「はっ女や餓鬼どもの寄せ集めがっ!!」
 舞華が囁くのに吐き捨てるように棍を繰り出す男が叫び打ちかかるのを受け止めると。
「抜駆けしようとしてる、寝返ろうとしてる奴が、お前の背後にいないとでも?」
「なっ!?」
 一瞬意識が背後へと逸れるのは互いに信用するような仲間ではないから、そこを突いて舞華が刀を振り抜き切り倒すも、直ぐ脇より繰り出されるのは爪、見ればそれは暗鬼の爪で、舞華の腕に赤い線を引けば。
「毒など忍びには効かぬ」
「……」
 切りつけてきたのは黒装束の男で斬られた男を盾として寄ってきていたようですが、毒が効かないのに僅かに眉をしかめるも、追撃を素早くかわすと人に紛れるようにして身を引いて消えてしまいます。
「大丈夫ですか?」
「ああ、もう少し押し戻せれば余裕が出そうなんだがな……」
 一歩下がる舞華に雪が聞いて舞華の傷を癒せば頷き応えると再び刀を構えて、舞華は前に戻り。
「皆様、ここが正念場です」
 雪が力強い舞で精霊へと働きかけ援護しながら言えば、休み無く戦い続けて居る一行に、今少しの間戦う気力を与えるようで。
「長丁場に思えても、きっと後から思い出せば、瞬きのうちのように思えるのだろうな」
 オドゥノールはそう呟いて槍を握り直して小楯を相手へと向けます。
「大丈夫ですか?」
「助かる」
 沙羅が符を放てば、音有の腕を僅かに掠められた爪の痕に小さな炎が這い毒を燃やし尽くし、先程から少しずつ敵を削るために幾度か氷の龍を放っていて。
「くっ、本当にきりがないな」
「最低限の連動があるのですから、あの中で指揮を執っている人さえなんとかできれば……」
 何とか練力を回復しながら持たせてきていても、後衛も前衛も数を相手に疲労が蓄積しつつあり、眉を寄せるゼタルに沙羅も豆を囓って周囲に視線を巡らせて。
 入れ替わり立ち替わりに攻め込んでくる様子になかなか判断のつかないところだったのですが、注意深く確認して居た沙羅は。
「違っていたとしても一人減らすだけでも……っ」
 放たれる符は氷の龍となり、黒尽くめの男達の中に食らいつき節々を凍らせますが、その氷を振り払うようにして身を引きかける男。
「逃がすものか」
 そこへ追い打ちをかけるようにゼタルが放つ符の氷の龍が、絡みつくように男を捕らえればどうと倒れた黒尽くめの男を見ると、じり、じりと攻め込んできていた敵の後衛が下がり始めます。
「これで、ひとまずは凌いだな」
 ばらばら敗走を始める敵に、撤退に気が付いていない残党を薙ぎ払うと音有は言って。
 一同疲労困憊ではあるものの漸くに一息つくことができるのでした。

●殲滅
「しつけーな、あいつらも」
 僅かに笑いを含んだ声音で言う鷲尾、直前に戦っていた一段と入れ替わるように出てきて敵と対峙するように道に立ちはだかるのは、鷲尾に緋桜丸、そして嵐山です。
「さて、何時まで持つかなァ……相手がさァ」
 浮かぶは凶笑、狂気にも似た目が見据える先は、体勢を立て直してこちらへと向かってくる八極轟拳の、襲撃の最後の一団であり、無事な者も負傷者も併せて一番の人数の段でもありますが。
「要は殲滅しちまやぁ良いんだろ?」
「油断さえしなければ不可能ではないが……」
 鷲尾の言葉に微苦笑を浮かべる緋桜丸、そこに弓を手に出てくる不破と雪音。
「どちらの方が悪役なのか解らない気がしますね……」
「相手はなりふり構わなくなってきたようだねぇ……」
 支度はできたと敵を見渡しやすいよう左右に分かれ一段上之段産へ上がると、雪音と不破はそれぞれ弓を手にいつで持つが得られるように待機して。
「あと一息、これを防ぎきれば……」
「おう、お嬢、休んでねぇで良いのかぃ?」
「はい、私は他の方のおかげで殆ど体力の消耗もありませんし、それにあまり長く私が姿を隠していれば、囮の意味もあまりないことになってしまいますからね」
 休憩を挟んで戻る綾麗へ嵐山が問うも綾麗は首を振って微笑を浮かべるのでした。
「雪音は右後方ォ! 颯は左の変な服着た奴、毒手だァから射殺せェ!」
 戦場に飛ぶ声、鷲尾の指示に間髪入れず次々と放たれる矢、それは近づく前から遠距離の敵を射貫いていく雪音と不破。
「次から次へと良くもまぁ」
 流れで次からと矢を射ていても押されているのに微苦笑を浮かべはするもののその手が止まることもなく。
「……どこにいようと射抜いてみせます……月涙!」
 落ち着いた様子ながらも、強い感情を込めたその一撃が確実に敵を減らす算段に、第一陣の矢をかいくぐっても次に雨霰と降りかかってくるのは鉛玉です。
「飛んで火に入る何とやら……だな」
 緋桜丸が呟くのと、男達が緋桜丸の魔槍砲と目が合うのが同時。
「尻尾巻いて逃げる奴は逃げろォ! あの世に逝きたい奴は前ェ出ろォ!」
 楽しげにともすれば魔導砲やら銃やらを撃っているのが楽しいのかと見える鷲尾ですが、そこはきちんと戦術を持ってして冷静に見ながら指示を出しており、的確に後ろへ回り込もうと崖の上を通ろうとするものを撃ち落としていきます。
「おうおう、お嬢を狙うなら俺を倒してから行くんだな」
 そして、敵達から見れば目的である綾麗へと後一歩の所を待ち構えるのが嵐山、大音声で立ちはだかると啖呵を切って。
「通行料はテメェの命だ。死にたくなけりゃ、尻尾を巻いて帰りやがれぃ!」
「もっとも、禍根はここで断つつもりだからな、逃がす気もあまりない」
 がっつりと槍で受け止めた嵐山、その直ぐ横からすと現れるのは黄金に輝くハンドマスケットの銃口、それは緋桜丸の愛銃で。
「やるぞ!」
 その一言、咄嗟に皆が目を伏せると同時に炸裂するのはまばゆい閃光、寄せ手は緋桜丸の言葉の意味も分からずにその光を直接見るハメになり、目を押さえてもんどり打つ男達の直中に、まるで踊るかのようにするりと入り込むと的確に鉛玉を叩き込んでいって。
 そこまでに、そもそも消耗している部分もあったこともあり、上部からの狙撃で相手の遠距離を封じていくこともあり、そして何より魔導砲の威力もあってみるみると削れていく敵陣の男達。
 目の前の男が大斧を振りかぶり襲いかかってくるのに、ぴたりと額へと向けた銃の引き金を絞り撃ち抜いた緋桜丸、男の身体を蹴り倒すとそこに迫る黒衣の男達の爪が届く前に、雪音と不破が上からきっちりと射抜いて倒していき。
 やがて、その場に立っているのは一行達だけ、多少の擦り傷切り傷がないわけではないですが、誰かが倒されたと言うこともなく。
「っ、鬼哭塞の方より何か来ます!」
 それに気が付いて声を上げる雪音、どちらなのか、見極めのために目を懲らしながら居れば。
「青い印を腕に撒いて居るみたいだねぇ〜」
 不破が見て取った通り、それは鬼哭塞が落ち、急ぎ動ける者たちを引き連れ駆けつけた陽星で。
「……おいおい、まじかよ……」
 駆けつけた陽星は、そこに広がる八極轟拳の者たちの地獄絵図に絶句して。
「殲滅、したってのか……?」
 擦れた声で呟くも、漸くに我に返ると陽星は、鬼哭塞が落ち作戦は成功、ガランの無事を綾麗へと伝えるのでした。

●撤収
「こちらの作戦は大成功だ。牢の開放も成功したらしい」
 生き残りは居ないか、危険を完全に排除するために一同が確認して居る間、綾麗は宿営地で陽星からの報告を聞いていました。
「それは何よりです。あと一息、ですね……」
 ほっとしたように言う綾麗ですが、その様子に疲労以外の何かを感じたが首を傾げる陽星。
「どうかしたのか?」
「……ちょっと確信が持てず迷っていることがあって……」
「……」
「私自身の意識ははっきりしています。でも、龍と、蛇の思いも、自覚できる自分が居ます。なまじ元の記憶が無いために、これが元からだったのか、今、影響を受けすぎているのかが、分からないんです」
 綾麗の言葉にますます首を捻る陽星。
「でも、お前の意識がはっきりしてるっていうなら、何か問題があるのか?」
「龍の様に生きるべきなら、私は引かないといけない気がしてしまって。……考えすぎですね、忘れて下さい」
 困ったように苦笑する綾麗ですが、陽星は陽星で困ったように頭を掻くと口を開きます。
「俺が思うに、お前はお前で良いんだと思うがなぁ。記憶がある前も一応短い期間とは言え知っているが、たいしてかわんなかったぞ?」
 そう言われるのにちょっとだけ目を落とす綾麗ですが。
「龍は、何事も一人でやっていたので……仲間を頼りにすることに、ちょっとだけ、罪悪感があったんです」
 小さく息を付くと綾麗は改めて顔を上げて。
「すみません、もう大丈夫。それで……ガランさんは次に動きについては、まだ?」
「あぁ、敵の牙城を攻めるための策を云々言ってた」
「……云々、って、あの、そこが大事な所なんですけれど……」
「いや、正直色々と焦っててな、俺等の所より圧倒的にこっちが危険だからって、急いでこっち来たんで……」
「……合流したときに詳細は聞くことにします」
 仕方がないとばかりに苦笑気味に笑うと、綾麗は改めて絵図面を確認してそれを閉じると。
「私も、次の動きに合わせて支度しないといけませんね」
 言って確認から戻って来た一同へと顔を向けて。
「今回、協力して頂けて、本当に感謝します。……撤収しましょう」
 万が一の覚悟をして臨んだ戦いで、その一言が言えるのが感慨深いようで、何処か噛みしめるように言うと、実感が沸いたのか漸くに綾麗は何処かほっとしたような笑みを浮かべるのでした。