水月牢の囚人
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/24 12:41



■オープニング本文

「……何故裏切った」
 忌々しげな若い男の声、ぴちゃりぴちゃりと水音のする薄暗い石牢、金属の重い格子を隔てて二人の男が向き合っていました。
 一人は忌々しげな声を上げた若い男、目の下に薄く浮いた隈が男の顔をますますに悪相にしているよう、自身の言葉に何も応えない相手に舌打ちをして。
「忠義を尽くすという誓いが、聞いて呆れるわ」
「……」
 今一人は長身の男で、首にも、そして四肢にも木の枷がつけられ、更に枷は身動きを奪うように石組みに深く縫い止められている鎖でつながれています。
「この、裏切り者がっ! 何とか言ったらどうだ!?」
「……貴方には、解りますまい……同じことが降りかかり、同じものを見た筈ですのに……」
 枷で繋がれて居た男の声は存外に落ち着いていて、上着を引きはがされ、その体躯に無数の切り傷や火ぶくれが有るなど微塵も感じさせぬもので。
「ふん……まぁ良い。役に立たぬものなどもはや用済みだ。お前は、ここで動けぬままに、邑一つ焼ける知らせを待つが良いさ。もっとも、その頃お前の四肢も頭ももげて潰えておろうがな」
「……」
 若い男の言葉に薄く微笑む長身の男、それに若い男は気が付いていないようで。
 ふんと一つ鼻を鳴らして歩き去っていく様を見送ると、長身の男・黄遼燕は静かに息を吐いて目を瞑って。
「一足先にお待ちしております、我が主」

「香春関の目と鼻の先……見せしめの焼き討ちと言うことは、関を開けねばこうなるという警告ですね」
「はっ、瑞峰は護られて安全な土地だからって全然護りが居ねぇってのは、流石にどうよ? あの爺さんが食えねぇのになるのもそりゃ当然だわ」
 難しい顔をして瑞峰近隣の図を広げ、香春関の客室で顔を見合わせているのは泰拳士で清璧派後継者の綾麗と、同じく泰拳士の岳陽星。
 血で書かれた書き付けをもたらしたのは、香春関に瑞峰より逃げて来て保護された、五つか六つ位の少女です。
「これをもって、あそこににげろって、そのおにいさん、いってて……」
 暖かな布にくるまれて震える声で言う少女、どうやら瑞峰領内の村が略奪にあったときに掴まって下働きをさせられていたよう。
 そこに旅姿だった長身の男性がやってきて少女を見て驚いたよう、それから暫くして書き付けを渡し、これを抱えて関の領主に届けるように告げて彼女を建物から出し、逃げられるようにと騒ぎを起こしてくれたそうです。
 その書き付けが清璧派の綾麗へと当てられた者であったため呼ばれ、急ぎ駆けつけた二人は書き付けの書かれた状況などを考えると思わず表情は暗くなり。
「遼燕さん、無事だと良いのですが……」
「襲撃の日取りまでほとんど時間も無い、兎に角、まずは邑を護ってから偵察でも何でもして……流石に子供逃がすために騒ぎを起こしたとなりゃ、心配だけどよ……」
 兎に角ギルドに連絡をして手を借りよう、そこまで話がまとまりかけたとき、扉が静かに開き、入ってくるのは一見穏やかな風貌の白髪白眉白髯の老人で香春関の領主、程灰零です。
「急ぎ知らせた方が良いと思っての」
「何かありましたか?」
「ここより臨む峰の一つに、水月牢という古い要塞がある。平和に酔うた瑞峰で長らくうち捨てられておったものだが、聞いて解るように牢と、見せしめの刑を行う場所でもあった」
「まさか、誰かそこで処刑されたとか言うんじゃ……」
「いや、見せしめのために、数日中に処刑が行われるらしい。裏切り者の、と言うことらしいの」
「……遼燕さん……」
 少女によりもたらされた遼燕の書き付けの邑の襲撃と、その遼燕の見せしめの処刑との話に、綾麗はギルドの窓口となって居る孔遼を呼んで貰えるように灰零に頼むと。
「ここから間に合う距離だと、金剛寺ですが……」
 他にも幾つか心当たりを考えつつ、綾麗は力を借りられないか打診するための文を認め始めるのでした。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔


■リプレイ本文

●襲撃に備えて
「どうか、一時的に邑の人達を受け容れて貰えないだろうか」
「関の内側に迎え入れることは出来ぬ。それは、人道的な問題ではなく、許容量の問題での。それに、関を挟んで瑞峰の邑とこの近隣の邑は色々と問題があったということもある」
 ゼタル・マグスレード(ia9253)が相談すれば、白い髭を撫でつつ答える程灰零。
「とは言え見ぬ振りも出来まいて……こことその邑との間に、要塞が一つある。そして儂はそこの鍵を持っておる。そこを提供しよう、食料も幾ばくかは用意させよう」
「そこはどういった?」
「水月牢と同じく、瑞峰にまだごたごたとした争いが続いていたときに築かれた要塞じゃ」
 防衛拠点として使われていたため、いざという時のために手は入れてあると言うこと、本来なら場合によっては対立する可能性のある者たちに明け渡すのは難しいところと灰零は説明するも。
「梅園の主の導きじゃ、分の悪い賭けに乗っても良いと、そう思えたでな。如何様にも使われると良い」
 ゼタルは差し出される鍵束に、感謝、と答えて受け取るのでした。
「逃げてきたときに、幾つか崩れかけた建物とかがあったんだ」
「うん……」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)が尋ねれば、綾麗の脚にぎゅとしがみついて俯き加減でいた少女には頷いて。
「私と清璧、それに金剛山の方々は邑の方に向かいますが……どちらもどれ位戦力があるか分かりません。くれぐれもお気を付けて……」
「大丈夫、安心して任せて♪ 牛裂きに邑の焼き討ちなんて、手加減する必要は無さそうだしね」
 にこりと笑ったリィムナの笑みの口角が僅かに上がり。
「……それに、処刑されるのはどっちかなぁ?」
 くすりと笑うと、リィムナは分厚い革張りの本の表紙を撫でるのでした。
「よぉ、陽星、二人でちぃと暴れてみようじゃねえか!」
 にぃと笑いながら軽く手を掲げる嵐山 虎彦(ib0213)には、にっと笑い返して手をパンと打ち合わせるのは泰拳士の岳陽星。
「おお、いい加減やられっぱなしはうんざりだ、やってやろう」
 嵐山と陽星はにと笑いあうと、幾つか打ち合わせの言葉を交わすのでした。
「……詳しい事情はよーわからんが、邑一つ焼き討ちとは穏やかじゃねーナァ」
 かしかしと軽く頭を掻きながらぼやくように言うのは梢・飛鈴(ia0034)。
「ま、轟拳の連中のヤルことだからしょうがないカ……ん?」
 各人残された僅かの時間に情報収集を含めて絵図面を前に打ち合わせをしていれば、飛鈴の視界に入るのはギルドの泰国窓口の少年孔遼。
 孔遼は幾つかの馬車と十数人の人物を連れてきており、孔遼の後ろにぬっと現れるのは、白髪に白髭のがっちりとした初老の男性。
「ガランさん! 来て頂けたのか……」
「間に合ったカ」
 驚いたように声を上げる羅喉丸(ia0347)に、飛鈴も微かに笑みを浮かべます。
「そちらにも予定があるとは承知しているが、無理を承知で手を貸して貰いたい」
「すでに事情は知らせて貰った。なぁに、無理ではないし、八極轟拳と闘うならば仲間も同然」
「有難い」
「清璧派とも協力していきたいと思っておるし、なによりいつも世話になっとる貴殿等の頼みだ。必要になるかと思って、馬車と手勢を用意したぞ」
 馬車と側に控えている泰拳士達を示して言うガラン、飛鈴は口元に手を当てて幾つか計画を頭の中で反芻してから改めて口を開いて。
「馬車は水月牢からの脱出用だナ。邑への援護に蒼旗軍の拳士を貸して貰うガ……腕の方はどうなんダ?」
「貴殿等並を揃えるのは無理だったがな。それなりに動けるもんを十人ほど選んできた。存分に使っとくれ」
 そう言って馬車やその人員と、邑防衛に回る泰拳士達とを羅喉丸と飛鈴に引き合わせてから、ガランは初顔合わせとなる清璧派の後継者である綾麗の元へ歩み寄るのでした。

●襲撃
「避難はあらかた済んだ。蓄えは余り持ち出せなかったが、短期決戦なら十二分であろう」
「金剛山と清璧から出し合って十人……籠城するには十分な人数だな」
 金剛山の僧とゼタルが確認して居れば、聞こえてくるのは飛鈴の合図の笛。
 あまりに平和だったからか、守りが全く無く柵すらも申し訳程度の邑、石造りの三階建ての建物以外はひたすら平屋が並び、飛鈴は真っ先にその三階の建物の屋上へと上がって警戒をしていました。
「来たカ……」
 十数人が馬に乗り、また二、三十人はいそうな相手方の下っ端が得物を手にずらずらとやってくれば、そのうちの数人が邑を囲もうとでも言うかのように広がって回り込んで。
「火が掛けられれば手筈通りに消火を!」
 腕が僅かに劣る数人に指示を出し確認すると、ゼタルの側へ戻ってくる綾麗。
「避難が前もって完了したのは幸いでしたね」
「後は、彼等の帰る場所を守りきることだな……」
 言ってゼタルは決意を込めるかのように陰陽刀を握り直して賊たちを真っ直ぐに見据えます。
 やがて、騎馬の賊が先陣を切り奇声と土煙を上げながら駆けてき様に放たれるは幾本もの火矢、それが干し草の摘まれた辺りや蓄えのたっぷりと詰まった小屋に的確に迫れば。
「燃やさせると思うか……っ!」
 きっときつく賊たちを見据えるゼタルの構える刀から放たれる冷気、白銀の龍がその鱗を輝かせつつ火矢を喰らい吐き出される凍てつく氷の息が騎馬達に襲いかかります。
「なっ……待ち伏せかっ!?」
 狼狽する男達、ですが、龍と白く煌めく凍えた空気が過ぎ去ったその地点には既に、石造りの建物より一気に躍り出た飛鈴の姿が。
「ぐあああっ!!」
 腕が飛鈴の放った山刀に吹き飛ばされ上がる絶叫と雷鳴のような音、その男は次の瞬間馬より投げ出され宙を舞います。
「さて、ト……」
 馬の背に降り立ち瞬時に視線を巡らせれば、みえるは騎馬より更に後ろ、得物を手にした賊徒達の更に後ろで指揮をしているかのような若い男の姿が目に止まり。
「数の勝負ハ……頭を潰すに限るナ」
 呟くと山刀を拾い上げてて更に敵陣真っ直中に飛び込むと、繰り出される蛮刀山刀を舞うかのようにひらひらと交わし山刀で弾き返します。
「ハッ!!」
 どん、と周囲に走る凄まじいまでの衝撃波、飛鈴が踏み込んだ脚を中心に薙ぎ倒された男達に容赦なく踵や膝を撃ち込んでいけば、眼前に開ける視界、辛うじてその衝撃波を受け堪えきった若い男へと悠然と歩み寄って。
 勝負は一瞬、蒼い閃光と雷鳴の鳴き声、飛鈴の繰り出した脚は男にその姿を認識させる間もなく、その意識を刈り取るのでした。
「命を奪うつもりなら、己も奪われる覚悟を、その拳に誓えるか。弁えよ賊……!」
「はっ、奪われる弱い奴が悪いのよッ!」
 馬で乗り込んできた賊徒を相手に斬り掛かられる蛮刀を刀でいなせば霧消する守りの印、もう一撃、と繰り出された刀を受け止め弾き飛ばしたのは、二人の間に滑り込むように入って来た綾麗、その腕に輝く篭手と受けた反動のままに撃ち込まれる掌打で。
 それを確認すると同時、蒼旗軍の若い兵を囲むように襲いかかろうとしていた男達へと再び氷の龍を放つゼタル。
「あと少し……っ」
「綾麗君、賊が、撤退を始めた」
 長柄で馬上の賊を引きずり下ろす僧達の姿や、蒼旗軍の振るう剣と清璧の若者達の押さえ込む姿の更に向こう側、見れば散り散りに逃げていく賊徒達の姿が見えて。
「どうやら、首魁を押さえたようであるな」
 幾つか擦り傷を作った様子の僧の言葉通り、賊を指揮していたものの身柄を飛鈴が押さえたことにより下っ端から逃げ出し始め、散り散りに逃げていく者たちを見送ると、ゼタルは緩く息を付いて。
「こちら側に大きな被害は出なかったみたいだね」
 倒した残党達を縛り上げたり幾つか壊れた建物を修復する必要はあるかも知れないものの、邑を守り賊徒を追い散らしたことで、漸くに防衛に回っていた一同は安堵の息を漏らすのでした。

●来るべき時
 水月牢、かつて重要な要塞であり、いつしか用途が代わり血生臭い歴史を積み上げることとなったこの地。
 あまたの血を啜った正門前の広場には、五頭の牛がじゃらりと鎖が繋がれており、その平地の一角、処刑を見るには特等席のその場所に天幕が張られ数名の人影が確認出来ます。
「……見たところ、赤蛇は居ないか……」
 息を潜めて黄遼燕が引き出される時を待っていた一同、天幕を伺えば幹部の姿をはっきりと確認は出来ないものの、少年程の大きさの姿は認識できず呟く羅喉丸。
「では、手筈通りに……」
 確認をして、出来うる限り刑が執行される前に駆けつけられるだけの距離へとじりじりと進み何とか予定の位置まで近付けば、響き渡る銅鑼と太鼓の音、重く軋んだ音と共に開かれる関の門と、下ろされる橋。
「酷ぇ……」
 体中に見える無数の傷痕、首と手を固定した木の枷の上から更に厳重に鎖で拘束された長身の男が、それでいて引き立てられているにしては堂々と広間中心までゆっくりと歩んでいって。
 がちゃり、と嫌な音を立てて外された鎖、木の枷が外されれば、更に下には金属の首枷がきつく締められており、牛に固定されていた鎖がまさに繋がれようとする、その瞬間。
「破アッ!!」
 要塞の脇ぎりぎりの所から一気に駆け込み鎖を繋ごうとしていた男を捕らえる白い光、羅喉丸の拳が一撃でその男の意識を刈り取ると、続けとばかりに飛び込み様に槍を振るい周囲の賊を打ち倒す嵐山。
「大丈夫か?」
 剣で薙ぎ払い駆け寄った陽星が崩れ落ちかけるのを支えると、驚いたように三人へと目を向ける遼燕。
「なん、で、こちらへ……」
「安心しろ、邑の方にゃ綾麗の嬢ちゃんやゼタルが行ってるぜ」
「しかし、態々、こんな危険を……」
「情けは人の為ならず、遼燕さんには三度助けられた。命を懸けるには十分だ」
 にぃと笑いかける嵐山、得物を手にとって襲いかからんとする賊を打ち倒して笑って言う羅喉丸は、天幕の方へと目を向けて。
 そちらでもほぼ同時に騒ぎが起こっていました。
「ぐ、がぁっ」
 天幕にいた、数人の幹部と思しき男達が吐血し崩れ落ち始めて。
 それはリィムナの手により呼び出された呪い、そして彼にとっての永遠とも言える一瞬、その一瞬に命が刈り取られるまでのありったけの呪いが流し込まれたようで。
「んっ?」
 その瞬間、視界を塞ごうとでも言うかのような瘴気の霧が一瞬にして天幕とその周囲を覆い、リィムナは僅かに目を懲らします。
 リィムナの呼び出す呪いの影響がなかったその男は、周囲に警戒していて、いち早く羅喉丸達に気が付いた為、天幕より離れていました。
 蒼仙は自身の影武者や、他の幹部の様子から呪いに気が付き咄嗟に周囲に瘴気の霧を張り巡らせたようで。
「あれは……蒼仙っ!」
 その瘴気の霧に気が付いたのは羅喉丸、嵐山もそれに気が付けばてにぃと笑みを浮かべ槍を構え直し、陽星は遼燕を担ぎ上げ。
「背は任せろぃ」
 頷くと羅喉丸は瘴気の霧にて視界を塞がれたリィムナへと駆け寄ります。
 瘴気で視界を奪い狙い仕留めるのが蒼仙の遣り口、瘴気が晴れるまで逆に要塞からの狙いに対してもリィムナは不利となるためで。
「遼燕さんは確保出来た」
「じゃあ、周囲を掃討しつつ撤退だね」
 瘴気に紛れて斬り込んでくる敵の時を止め呪いを撃ち込めば、羅喉丸と連携してじりじりと引き返しつつ戻るリィムナと羅喉丸。
「くっ……裏切り者の処刑とは聞いていたが、清璧や開拓者が取り戻しに来るなぞ聞いていない。備えもなくあんな化け物とやり合えるか」
 配下を羅喉丸とリィムナに差し向けつつも、自身はいち早く馬へと飛び乗り身を翻す蒼仙。
「何か、この様子だとここの要塞取り返せたりしない?」
「まぁ、幹部はあらかた倒しているし、邑の方の掃討が済めば、その可能性はあるかな」
 瘴気の霧が晴れた頃には、リィムナに襲いかかってきていた者達はあらかた倒し、残っている残党も、体制を整えて狙えば落とせそうではあるものの。
「でも、今は兎も角安全策で行こう。向こうの方で追い散らされた賊が組んで戻ってこないとも限らない、そうしたら流石に危険だ」
 そう言って距離を保って背を守っていた嵐山へと合流すると、遼燕を担いでいる陽星を守って退却する一行は、布巾に隠れて貰っていた場所の元へと戻ると馬車へと乗り込み、急ぎ香春関へと戻るのでした。

●反八極轟拳の狼煙
 馬車でいち早くに遼燕を香春関へと運べば、蒼旗軍、金剛山の僧共に、清璧派の若者達と協力して今回の邑の人達に柵や塀などを作るのを手伝ったりと暫く警戒網を敷くとのことで。
「意に染まぬとは言え、荷担していたことは事実……せめて命で贖わねばと思っていたのですが……」
「償いは、生きていなければ出来ない」
「死んだって、何の贖いにもならないよ」
 ゼタルと羅喉丸の言葉に何処か迷うような表情を浮かべる遼燕は、一先ず香春関で少し傷を癒すために預かって貰えるとのこと、また、捕らえた首魁である遼燕の主はガランへと引き渡されて。
「我々がこうして顔を合わせることとなったのは、いわば天命。時が満ちたと言うことだ」
「……轟拳へ挑む、その時と言うことですね」
「無論、幾許かの支度は必要だがな」
 ガランの言葉に綾麗は頷いて。
「分かりました。お互いに協力し、攻勢に転じましょう」
「宜しく頼む」
 お互いに今後の協力体制について幾つか話をしてから離れると、綾麗は両園を囲んで居る仲間の元へ、ガランは飛鈴に気が付いて歩み寄ります。
「飛鈴殿、丁度良かった」
「何カあったカ?」
「近々、蒼旗軍で大きな行動を起こす、我々の仲間たちが大勢囚われている監獄の場所が分かったのだ」
「休んでいる暇も無いナ」
 憶えておこうと頷く飛鈴に、改めて宜しく頼むと告げてからガランは蒼旗軍の方へと戻って行くようで。
「直ぐには動けませんが……貴方方に拾われた命。必要があればいつでも捨てましょう」
「おいおい、俺達ゃ命を捨てる気も、捨てさせる気もねぇよ」
「折角助けたのに、わざわざ命捨てないでよね」
 綾麗もやってきて揃った一行へと、何事か考え込んでいた様子の遼燕は決意を込めたようにそう言えば、呵々と笑って言う嵐山に、そうそう、と同調して釘を刺すリィムナ。
「兎に角、酷い怪我だ、まずはゆっくりと傷を癒すことが先決だな」
 羅喉丸にも言われて何処か困ったような表情を浮かべるも、微かに笑みを浮かべる遼燕。
 その様子を綾麗は何処かほっとしたように見てから、何となく側のゼタルを見上げて不思議そうな表情で見返されたりして。
 これから始まる戦いの前のひとときは、不思議な程穏やかにゆっくりと過ぎていくのでした。