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■オープニング本文 その日、開拓者ギルド受付の孔遼が清璧に顔を出せば、綾麗は何やら旅支度の最中、同じ泰国人で開拓者仲間の岳陽星は旅支度を解かずにそれが終わるのを待っていたようでした。 「あれ、旅に出られるのですか?」 「旅と言えば旅ですけれど、梅の祭りに招待を受けまして……丁度良い機会なので、瑞峰の偵察がてらに向かおうと思ったのですが……」 「でも、そうしたら、何で僕が呼ばれたのですか?」 「開拓者にも、その祭りに来て、適当に楽しんでもらえると、色々とやりやすいと思ってな」 孔遼の質問に答えたのは陽星、目的の街は、八極轟拳に対しての立場がまだはっきりとしない土地とのことで。 「恐らく、私を品定めするつもりでしょう。先方は関所の街ですが、今迄街の人たちをうまく守り通してきただけはある老獪だという噂の人物ですが、今回でいきなり私を捕らえて差し出すこともないでしょうし……」 前にあったときには、非常に頭の良い人物に見えました、と言う綾麗。 「梅の祭りはその街に特別な意味もあるらしくてな、詳しくは解らんが、祭りの間は争いは御法度だとさ」 「んー? それで、何で開拓者達がくるとやりやすいんですか?」 「……うちの雷晃曰く、あの街は略奪を逃れるために、どこにつくか、都度によって決めるそうです。開拓者の方々に祭りを楽しんでいて貰うことによって、轟拳以外の勢力が介入する可能性をちらつかせる圧力とするようにと」 「ま、最低限の駆け引きの世界だそうだ。あちらもそれぐらい承知で、遊びに来いと誘っているんだ、コイツは招待を蹴るわけにゃいかねぇし、祭りの客になにかされることもねぇ、普通に楽しんでいってくれりゃいいってこった」 「はぁ……あれ、それって結構有名な、春梅香祭ですか? 確か、山脈の中腹にある街道関所の……梅の名所だって評判ですね〜」 僕も遊びに行こうかなぁ、そんなことを言いながら、孔遼は依頼書を取り出して、お誘いの文を書き始めるのでした。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 紅 舞華(ia9612) / 音野寄 朔(ib9892) / ジャミール・ライル(ic0451) / 桧衛(ic1385) / 三郷 幸久(ic1442) / 葛 香里(ic1461) / 赤焔(ic1519) |
■リプレイ本文 ●関所の街 「おー、すっごい。圧巻、てやつー?」 「まだ少し肌寒いけれど、梅は綻んでいるのね……」 ジャミール・ライル(ic0451)が笑って言えば、音野寄 朔(ib9892)も感心したように一つ頷いて。 そこは泰国のとある地方、瑞峰にほど近い関所の街、香春関。 関所の街とだけ有って、中央通りには食事処と安価の宿が並び、少し行けば低い石壁に囲まれた梅園の姿が見えてきます。 「周囲にも綺麗に梅が咲いていたけれど、この梅園は圧巻ね」 小さな街に不釣り合いな程に広い梅園、その中にぽつんぽつんと幾つも石造りの椅子があり、また見渡せば幾つか亭子も見えるかなり立派なもので手入れの行き届きようからしても特別なものであるのが伺えて。 「えーっと、確か……梅の香りは厳寒から生まれるもの……なんだってさ?」 「へぇ……今年は特に冷え込んだと聞くし……」 だからかしらねぇ、小さく呟くように言うと改めて歩き出す朔、ジャミールも歩き出せば、見えてくるのは小さな石舞台と、そこで弦楽器でゆったりとした曲を奏でている老人達。 「へぇ、音楽に合わせて踊っている人が居るけど……」 同じ石舞台の上、優美な舞と言うよりは泰拳士の型か何かのように舞う白衣と黒衣の二人の少年の姿に目を瞬かせるジャミールに、朔も一緒に見物がてらに歩み寄ります。 「あ……」 二人の姿にぺこりと頭を下げる子供達。 「これはこのお祭りにちなんだ踊りなの?」 「はいっ、この梅園の纏わる方の夢を演じているって……梅園見物の方が有名で、あまり、知られてないのですけれど……」 朔に声をかけられてちょっと緊張気味なようですが、二人の様子に、異国の方ですか? ときらきらした目で見るのに頷くと。 「風情はあるけれど、やっぱり風はまだ冷たいわね……身体動かしましょうか」 「んー……? そだね、折角音楽もあるんだし」 俺踊り子だしね、ふと笑みを浮かべてジャミールが言えば、朔は扇を引き出し二人で石舞台へと上がると、掻き鳴らされる古琴にけんのゆったりした包み込むような音色、そこに管子と二胡が泰国独特の節回しを奏で始めます。 暫しの舞いの時間、白い梅の花弁が風に舞い落ちれば、その中にふわりと舞う赤い扇、白い梅に赤と淡い色彩で調和するかのような朔の舞と、白い花の中に浮かび上がるような鮮やかで強い色彩を纏ったジャミールの踊りはどことなく幻想的で。 「……」 「……ん? どしたの?」 舞いと踊りが終わり、すぃっと曲の余韻が消えていく中、いつの間にか集まって来ていた祭りとそしてこの街の住人達でしょうか、しみじみと感嘆の息を漏らす人々の中で朔が小さく笑うと不思議そうな表情で顔を向けるジャミール。 「私の舞いとはまた違った踊りで見惚れたわ」 「そう? 音野寄ちゃんの舞いは、やっぱこういった場に合うねぇ」 へらりと笑うとジャミールは、でもちょっと疲れちゃったから、宿に行こうか、と言えば、朔も休憩ね、と微笑して。 「確り踊ったから……お風呂に入りたいわ」 街道沿いの宿ではなくゆったり出来るところはないかと演奏していた老人達に聞けば、この時期穏やかに過ごすには良い宿があると、梅園より少し高台の宿を薦められます。 そちらへと足を向けて進んでいけば、庭といい門といい美しい宿が見えてきて、ゆったりと休みたいと伝えれば、案内されるのは離れの楼。 昔梅園の景色を愛した貴人が滞在していたと言われるそこは、泰国でも珍しい大きな石の沐浴場があり、泰国人でないと聞くと、直ぐに温水を用意してくれるとのこと。 少し待ってから行けば運び込まれ沐浴槽一杯に満たされた温水、軽く身体を流してから、特に混浴であることも気にせず手にした酒器盆を傍らに、ゆっくり浸かり杯を煽れば、ほんのり薫る梅の香と、眼前に広がる梅園、所々に見える雪と梅の花の白さを眺めて。 「早く春、来ないかなぁ…」 春はお祭り沢山だから、待ち遠しいよ、そう湯にゆっくり浸かって呟くように言うジャミールに、朔は尻尾をぱたぱたとふるとゆったりと沐浴槽に寄りかかるようにして景色を眺めてから。 「雪と梅を見ながらお風呂でお酒なんて贅沢ね……」 折角だから飲みながらゆっくりしましょう、そう微笑むとジャミールも笑って頷いて、二人は杯を掲げ暫しの間ゆったりとした時間を楽しんで居るのでした。 ●寄り添う梅香 「素敵ですわね……」 ほわっと幸せそうな微笑みを浮かべて葛 香里(ic1461)は梅の木の間を軽やかに歩いていました。 「……はは……本当に嬉しそうだ。連れてきて良かった」 本当に木々や花が好きなようで嬉しげにしている香里、三郷 幸久(ic1442)はちょっぴり驚いたようではありますが、喜んでいるのを見れば誘って良かったと改めて思ったよう。 「喜んで貰えたなら良かった」 「嬉しいです。一番好きな花は空木ですが梅も大好きですから……しかも花を見る為に異国へ渡るなんて初めてで」 ふわり、振り返って微笑みながら見上げる香里にどきりとしたか一瞬息を呑む三郷。 「白梅、僅かですが紅梅も……それに薄桃色の梅……」 嬉しそうにそこまで言ってからはっとしたように三郷を見ると、香里ははしゃぎ過ぎたと思ったのか顔を赤らめます。 「すみません、私ばかり夢中になってしまって……」 「いや、分かるよ。故郷にも結構あったしなぁ……綺麗だし、いい香りだからな」 「ええ、梅は花も素敵ですが香りが好きで」 そうっと枝に手を伸ばし指を添わせれば、まるで白梅の優しい香りに包み込まれるような思いを感じて笑みを浮かべて目を瞑る香里。 「幸久さま本当に良い香りですね」 「……ああ、穏やかな心持ちになれる」 「梅の甘く凛とした香りは春を呼び……」 「……」 小さく囁くように呟く香里、三郷はそんな香里の微笑の方に寧ろ目を奪われているようで、暫し見惚れてしまっていれば、ふと視線に気が付いたかきょとんとしたように見る香里に慌てることとなり。 「あぁ、いや……」 ちょっと困ったように視線を彷徨わせると、視界に入るのは小さなお茶やお酒を提供している様子の屋台、屋台が邪魔にならない程度に離れたところには趣のある小さな亭子で。 「春ではあるがまだ肌寒いし、少し暖まっていこう」 「そうですね」 微笑んで頷くと軽やかな足取りで隣へとやってくる香里に、三郷は共に並んで歩き出すと、屋台でお勧めの梅の実が混ぜ込まれた餡の胡麻団子に、聞いて見れば紹興酒に梅の砂糖漬けが添えられたものを卓に用意してくれるとのことで。 ゆったりと腰を下ろせる卓と椅子の亭子に入れば、腰を下ろして待つとお茶と共に並べられるお菓子とお酒。 「梅酒はなかったみたいだが、ここの梅の砂糖漬けだと……出来るだけ薄くして貰ったから、少し付き合って貰えると嬉しいが……」 「あ、お酒、ですか? 私は甘酒や玉子酒程度しか……幸久様はどうぞ楽しんでくださいませ」 「ん……一口だけ、付き合って欲しいな。より美味くなるからさ」 同じものを一緒に楽しみたい、そういえば、一口だけ、と頂いてからほんのり頬を染める香里が何処かはにかみつつ笑いかけるのにどぎまぎしていれば、さぁっと吹いた風が花びらを運んできて。 「お、香里さん髪に花びらが付いてる……」 そっと髪に付いた花びらを取ると、穏やかな心持ちのままに微笑み合う二人。 「何処も、花の美しさは変わりませんが、この景色は、天儀とはまた違う幻想的な……」 ほうと息を付いてから、いつの間にか酒杯も茶杯も空になっているのに気が付いた香里はそっと茶壷に手を添えます。 「お茶をもう少し頂きましょうか、花と風景の美しさがまた美味しくしてくれましょう」 「そうだな」 笑って頷く三郷ですが、彼にとってお茶の味わいをさらに美味しくするのは香里の微笑みのようで。 三郷と香里は今暫くの間寄り添うように腰を下ろして、梅園とその先に広がり見える瑞峰の山々を楽しんで居るのでした。 ●白梅の残香 「お、来てたのか」 岳陽星が言うのに、どうやら領主の屋敷から出てきたその姿に気が付いた桧衛(ic1385)は、笑いながら焼餅を持ったままの手を軽くあげて。 「折角のお祭りだっていうから来てみたんだけれど……あれ? 綾麗さんは?」 「ん? あぁ、直ぐ出て来るよ。よく知らんが、花がどうとか、屋敷内のものを幾つか分けて貰うらしい」 「らしいって事は、一緒じゃなかったの?」 「よー知らんが、暫く話していた後、清璧の後継者がどうこう言って、あいつだけ少し別室で話し込んでたからな。しっかし、怖いじーさんだった、穏やかに見えて、すっげぇ怖ぇ」 何かを思い出したか軽く震えるように言う陽星、と、そこへ出てきたのは小さな梅の枝を手にした綾麗で。 少し離れた場所でそわそわしていた様子のゼタル・マグスレード(ia9253)は、護衛として付いていてやりたいと思いつつも領主に失礼に当たると思い踏み留まっており、綾麗が出てきたのをこっそり確認すると、そっと待ち合わせの場所へと移動するよう。 「その梅は?」 「選定のために一定数間引いたものを頂いてきたんです」 持っていきたいところがあるので、そうちょっと困ったように笑みを浮かべて言う綾麗にへぇ、と頷くと。 「それで、何処に行くの?」 「まず梅園の入口でゼタルさんと合流して……その後で出来たら、梅園の端の、祠に行こうかと……」 「祠?」 「ええ、凄く昔に、この梅を最初に植えた方が眠られていると教えて頂いて。領主が毎年梅の枝を供えに行くそうなのですが、今年の冷えは厳しい、代わりにと薦められまして」 「ふーん……最初の一本を植えたって事は、凄く昔の人っぽい……昔の人?」 最近あった事を思い返してちらりと桧衛が目を向ければ、桧衛が察したことが分かってか頷く綾麗、陽星は不思議そうに首を傾げます。 「じゃあ、他にも何か買っていってあげようよ」 「そうですね。……おいたままには出来ないでしょうから、屋台で何かお菓子とか……そういったものも買っていきましょうか」 「え、え、祠に行くんだよな? なんかあるのか、そこの祠」 お供えしたあと頂きましょうと話ながら歩き出す綾麗と桧衛は、まだ良くわかっていない様子の陽星が可笑しかったのか、思わずくすっと顔を見合わせて笑うと梅園へ向かいます。 「やあ、領主への目通りは無事済んだみたいだね」 梅園の入口へ戻って待っていたゼタルは、何やら可笑しそうに笑っている桧衛と綾麗と、怪訝そうな表情で首を捻っている陽星に何事かと僅かに首を傾げると。 「何かあったのかい?」 「陽星さんだけさっぱり何にも分かってないから可笑しくて」 笑いながら桧衛が言えばますますに首を傾げるゼタルですが、幾つか祠にお供えするものを手分けして買ってから向かおうとなって。 「じゃあ、あたし達はあっちを見に行ってみよう」 「おう、良く分からねぇけど、茶とか酒とか肴とか買い込めば良いんだな」 梅園から通りの屋台並ぶ方へと歩き出す桧衛と陽星、 「お待たせしてしまって済みません」 「いや……祠がどうとか言っていたし、その枝は……」 「はい、祠にお供えするつもりで頂いてきました」 そう話しながら歩き出すと木々の間を歩く二人。 「……どうだった?」 「……ここから先の覚悟を聞かれました。大きなものを背負う覚悟があるかと」 重要な関を守る責任よりももっと大きいと言われて、何処か吹っ切れました、そう微笑むと言う綾麗。 「私自身が覚悟を持っているなら、私が揺らがなければ何も怯えることはないと……」 「……そうか」 領主を凄味のある人でしたが信頼できる目だった、と続けていう綾麗に、少しだけ先のことを考えて複雑そうな表情を浮かべるゼタルですが、何を買いましょうかと綾麗に言われて小さく笑んで。 「その前に……」 先にさっと見て見つけていた梅花に細工紐の髪飾りを取りだして、綾麗へと差し出すゼタル、綾麗は頬を染めて。 「ありがとうございます」 腕に梅の枝と受け取った髪飾りで嬉しそうな様子の綾麗を見ていれば、ふと気が付くのは髪に付いている梅の花びら、ゼタルは自然と手が伸びて取り除けば、我に返ると無粋に触れたと詫びるも。 「でも……君に触れる切欠を得た事が、本当は嬉しかった」 ゼタルの言葉に綾麗の頬が更に赤くなるも、微笑んで見上げると。 「私、手が塞がってしまっていて……この髪飾り、付けて頂けますか?」 綾麗の言葉にちょっとこわごわとした手つきではありますが、ゼタルは梅花の髪飾りを付けてあげて。 「じゃあ、そろそろ行こうか」 「はい」 ゼタルに嬉しそうに微笑んで頷く綾麗、祠にどういうものを買っていけばいいでしょう、などと話しながら、二人はあれこれ相談しつつ歩き出すのでした。 ●関の屋台通りを 「花より団子もふー!」 「お待ちなさいったら!」 てててと駆け抜けるもふらの八曜丸、それを追いかけるのは美しい青紫に輝く狐の伊邪那です。 「梅は『春告花』とも呼ばれるんですよ」 そう傍らの十程の少女、からくりの天澪に話す柚乃(ia0638)は広い梅園を天澪と一緒に楽しんで居るようで、お小遣いの小袋を首に駆けた八曜丸とお目付役状態の伊邪那。 甘く練った梅を混ぜ込んだ餡の桃饅頭ならぬ梅饅頭、そして蓮の実の餡の入った揚団子と迷っていれば、その屋台へとやってくるのは礼野 真夢紀(ia1144)。 「花より団子というか……天儀のほうだと屋台出す事が多いもんね。新作のネタ探しは重要です」 真夢紀はどうやら泰国のお祭りではどんなものを楽しむのか気になるようで、自身の天儀で出店するときの市場調査や新商品開発のようなもの、色々と聞いて見ているようです。 「揚げるものが多いんですね」 「うちは良い方だよ、瑞峰の綺麗な水が使えるからねぇ」 「おすすめはどれもふ?」 「どれもお勧めだが、やはり梅饅頭だねぇ」 「良い匂いね、四つ貰うわ」 袋に入れて貰ったほこほこの梅饅頭をもふらと狐が運ぶという不思議な光景を見送ると、真夢紀は頬に手を当てて軽く首を傾げます。 「でも『白い梅の花を楽しみ』なんだ。個人的には紅梅の方が見るのは好きなんだけどなぁ……」 「そりゃ、最初に白梅を植えられた方をお慰めする梅園だからねぇ。紅や薄桃の梅なら、もっと瑞峰寄りに幾つかあるよ、あっちは良い宿が並んでいるから、貴人のために幾つか植えられたって話でね」 穏やかに好きなように過ごせるよう亭子や宿の方に屋台は少なく、通りに密集しているんだよという屋台のおじさんにお礼を言ってあれやこれやと見てから、一通り味見のために買ったお菓子を抱えて、桃色、そして紅へと変わる一帯にある亭子へ足を進める真夢紀。 「このお酒に、この梅の砂糖漬けを入れて楽しむのね。天儀に戻ったらちぃ姉様に贈って……こちらは……」 揚げ菓子の幾つかに梅の実を使っているようでそれを楽しみながら見れば、紅い梅の花と桃色の梅の花の間に、幾つか、紅と白の花が咲く梅の木があって。 「こんな梅もあるんだ……」 そう言って見上げる真夢紀は、さぁと紅と白の花びらが共に混じって舞い落ちるのに笑みを浮かべると、お茶を亭子に運んで貰ってから、買い求めたお菓子やご飯代わりの焼餅を食べて、思いついた事や気が付いた音をつらつらと書き記していくのでした。 「凄い、狐さんと……もふもふな子がお買い物しています!」 「……もふもふというか、もふらもふ」 「貴方達は?」 「あ……この町の……」 「子供、デス……」 話しかけられると思っていなかったのかはたまた喋ると思っていなかったのか、八曜丸と伊邪那を見てはしゃいでいた白衣と黒衣の少年はあわあわとしながら答えて。 幾つも袋を抱えておやつを沢山買い込んだ八曜丸と伊邪那はてこてこと歩きながら柚乃を探せば、丁度お茶を頼んで受け取っていた柚乃を見つけて駆け寄り、柚乃は振り返ると八曜丸と伊邪那をきらきらした目で見つめる子供がいたりするのに首を傾げます。 「八曜丸も伊邪名も……何があったのでしょう?」 「普通の珍しい動物と勘違いしたみたいなのよ」 茶器の載ったお盆を手に少年達を見れば、ぺこりと頭を下げて去っていくのを見送ると、この子達は珍しかったのでしょうか、そんな風に呟く柚乃に、天澪がふわりと振り返って。 「柚乃、あそこがあいてる……」 柚乃が頷いて向かえば、暖かな日の光が当たり全員が入ってもゆったりと出来る亭子、卓にお茶と八曜丸と伊邪那の買って来たお菓子を並べると、嬉しそうにもきゅもきゅ食べ始める八曜丸。 「和菓子があるともっと良かったですけれど……」 そう言いながらもちょこっと胡麻団子をちょんと切って口に運ぶと、ほんのり甘くて笑みを浮かべると、天澪がひらひらと落ちる白い花びらを興味深げに見ているのに気が付いて、直ぐ隣へと言って寄り添うと小さく歌い出します。 歌に誘われるように小鳥が側の枝へと集まってくると、柚乃の歌声に小さな可愛らしい鳥の声が重なって、穏やかな時間がゆったりと流れて。 春の足音がすぐそこに……柚乃の歌のその余韻を感じながら、柚乃と相棒達、そして小鳥たちの穏やかな時間は今暫く続くのでした。 ●白い花びらの下で 「綾麗や陽星は大丈夫だったろうか」 「大丈夫だと思いますよ、詳しくは分かりませんが、孔遼君に確認した感じでは」 お祭りの間はそもそも争いは御法度と言うことも有るみたいですしね、紅 舞華(ia9612)の言葉に考える様子を見せながら応えるのは利諒、折角なのでとお誘いを受けて一緒にやって来ていたよう。 「それにしても、忙しい時期だろうに誘って大丈夫だったか?」 「勿論です、こうして一緒にこんな絶景を楽しむことが出来るなんて……」 嬉しそうに有難う御座います、そう笑う利諒に舞華も嬉しそうに笑えば、杏や茘枝のお酒を関の中の酒屋をあちこち回って漸く見つけてきたようで、これで梅見酒と洒落込もうとあちこちを見渡せば。 「それにしても、まだちょっと寒いんですねぇ、息が白くなります」 「そうだな……これ位だと、温かい料理と熱燗を頂きたくなるところだが……」 飲んでいるうちに暖かくなるかな、そんな風に舞華は手の中の酒を見るも、利諒の手を取りぎゅっと握って笑いかけます。 「利諒がいればいつでも暖かいが」 「僕も……舞華さんがこうしていて下さると、暖かいです」 ぎゅと手を握り返して利諒も言うと、屋台でお酒の肴を探しに行こうか、と歩き出す二人。 「あれ?」 「あぁ、あれは陽星さんと……桧衛さんですね」 屋台が並ぶ辺りまでやってくれば、あれが良いこれが良いお酒先の方が良いよ、冷めちゃうよ、等と賑やかに屋台を覗く姿があって。 「あ、よぉ、二人とも。丁度良い、聞いてくれよ……」 「ねぇ、お酒は良いけど、お菓子よりは普通にお茶を後に買うよね、冷めちゃうし」 「あぁ、えぇと、難しいですね……お湯も冷めますが、お菓子も出来立ても良いですしねぇ」 「……暖かいものを手分けして買えばいいのではないかな? 実際花見をするところに移動するのに時間が掛かれば同じだ」 陽星が呼べば桧衛が言うのにどっちを優先するか思わず考えてしまう利諒と、手っ取り早く済ませようと提案する舞華。 結局手分けして買うと、祠に枝をお供えに行く序でにそこで宴会をすると言うことを聞いて一緒に向かいます。 「あ、そうそう、お汁粉とか作ってきたから、後で宿でも皆でお花見しないか?」 「幾つか宿自慢の湯もあるそうです」 「湯って、温泉?」 「いや、それは温水とかのことだろ? あぁ、温水ってか、えぇと、天儀の風呂だな。湯はなんだ……し、汁物?」 首を傾げながら説明する陽星、話していれば梅園の一番端にある小さな祠、先に綾麗とゼタルが来ていたようで、備える前に少しだけ忘れられたような状態だった亭子をさっと掃除して場所を作っていて。 祠は本当に小さなもので彫られていたであろう紋様も何も残っていない寂しいものでしたが、大切に祭られていることだけは見て取れました。 「で、結局この祠って、梅を植えた最初の人間だって言ってたけど……」 「清璧の後継者を指定して言われたって事は、赤蛇でしょ?」 「……あー……」 全く思い至らなかった様子の陽星は、桧衛の言葉に納得して。 「赤蛇は瑞峰に渡って……一度はそこで落ち着いたそうです。理由は分かりませんが、その後何故か瑞峰を追われ、瑞峰も、清璧も遠くに望めるこの地にやって来て……」 苦境にあったここの領主を救って、得たのに置いてくるしかなかった妻子も、離れてしまった兄分もどちらも見守れるこの場所を守り続けて眠りについた、そういう話を聞きました、そう告げて枝を供える綾麗。 「赤蛇と認識しているのは、伝えられていた領主だけで、この街の人達には『街を守って梅を植えた英雄』と伝わっているそうです」 綾麗は、記憶はなくても何処か懐かしさを感じているようで笑みを浮かべます。 「折角の梅の祭りだ、彼も一緒に、梅の宴を楽しもう」 「そうだな……折角だ、余興として軽い手合わせの演舞でもするか。陽星も綾麗も、どうだ?」 「そうだな、綾麗も良いだろ?」 「そうですね」 「あれ? こっちを見ている子達がいる……良かったら一緒にお花見しない?」 「い、良いの?」 「わ、凄い、僕達の奉納演舞とかと違って、凄く早い……」 三人同時の手合わせ演舞に驚く子供達や、子供達を探しに来た奏者の老人達など、人が増えれば賑やかに、またその賑やかさが人を呼んで、和気藹々と楽しい宴の席になっていって。 祠を囲むようにお茶やお酒を頂いて、白いひらひらと舞い落ちる梅の花びらを眺めながら、穏やかで和やかな宴の席は暫しの間続いていくのでした。 |