【初夢】あなたのお正月
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/31 21:33



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 新春、年始、とにもかくにもお正月。
 そこは武天芳野の景勝地、六色の谷……の、外れにある山村地帯にある、自然豊かで小さな集落です。
「な、何故このような事態に……」
 ぐるるるぁ! と年若いご住職の呟きに応えるのは、若い鷲獅鳥、視線の先にはちょこんとお行儀良くお賽銭箱のすぐ後ろに控えた白い美しい狐が二匹。
 六色の谷へと遊びに来ていた御仁が、ふらりとこの辺りに来て、またちょっとばかし信心深かった為このお寺に顔を出したそう。
 その御仁が見たのは、黙々とお寺の掃除をし経をあげ、人々の相談相手になって居る年若いご住職と、そのご住職に従い躾の行き届いた様子に見えた若い鷲獅鳥と、そして美しい白い狐の姿。
 で、この御仁がちょこちょことあちらに行ってはここが良いあすこはこうだった、とか言葉巧みに書いては話題を呼ぶ、ちょっとした一部にとっては有名人だった為、六色で楽しんで居た人が初詣ついでに足を伸ばしたよう。
 その結果、今迄の村人達だけの相手と同じとは行かなくなり、今年はちょっとお手伝いを頼んで、白酒を振る舞ったり護摩を焚いたり絵馬を御朱印を破魔矢はと、ある意味阿鼻叫喚だったようで。
「……一年の計は元旦にと申すもの、今年はどんな年になることやら……」
 拙僧の考え及ぶところではありません、となって居るご住職、実はまだなぜ参拝客が急に増えたのか知らないご様子。
 所変わって六色の谷では、芳野領主代行の伊住穂澄が、客人である綾麗をひっ捕まえて、厳重に高価な布で簀巻き……もとい、高価そうな帯に悪戦苦闘しているよう。
「浴衣は着たことがありましたが、振袖というものは、その、いざという時に動けなさそうで、心許ないのですが……」
「大丈夫です、きちんと身のこなしさえ覚えれば、槍も刀も全く問題ありません! ……いえ、私は動きやすく袴の方が良いですけれど」
 どうやらこちらは折角ならば振袖でも着て、初詣等はどうですか、と穂澄に勧められ、ただその穂澄がちょっと、珍しい目出度い帯結びをしようとして記憶があやふやになってしまっているようで、こちらも阿鼻叫喚。
「それにしても……色々な新年の迎え方があるみたいですけれど……皆さん、どのような年を迎えられているのでしょう?」
 そう呟いて小さく首を傾げると、綾麗は穂澄が帯の結び方を思い出すのを気長に待つことにしたようなのでした。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 菊池 志郎(ia5584) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 紅 舞華(ia9612) / 无(ib1198) / エルレーン(ib7455) / 御影 紫苑(ib7984) / ラグナ・グラウシード(ib8459


■リプレイ本文

●年を越す前に
「まずは兎も角、大掃除を済ませませんと……」
 布巾と手拭いで髪と口元を覆ってすっぽり割烹着を着て、完全防備の体勢で菊池 志郎(ia5584)は自身の部屋をせっせと掃除をしているところでした。
「しーちゃん、うたも行きたい……」
「駄目ですよ」
 先程から菊池の周りを飛んで駄々を捏ねている様子の若葉の妖精・天詩ですが、ぱたぱたと叩きをかけながらも、最後まで言わせないでばっさりと切って捨てる菊池。
 むーとむくれる様子を横目で見ながらも、菊池は年越し前と言うだけでなく掃除を急ぐわけがあって。
「出掛ける前に済ませてしまいませんと」
「あの、主様……」
「フシューッ」
「今回は初霜だけですから、彩衣も先生もお留守番お願いしますね」
 畳を起こして日干ししながら、床を掃除していた菊池は幾度も繰り返された遣り取りだからでしょう、からくりの彩衣に雷龍の隠逸相手にもきっぱりと釘を刺すと、もの言いたげな宝狐禅の雪待を軽く撫でてやってから忙しげに畳を戻しに向かいます。
 菊池は今年から来年に駆けての年越しを、出身地の里で過ごす事にしたようで、里は小さく貧しいので全員連れていくことはできないよう、連れて行く又鬼犬の初霜は同じ里の出身のため、初霜にとっても里帰りとなるようです。
「掃除はこれで良いですが……お飾りお飾り……」
 ぱたぱたと右へ左へ大忙し、方角を確認して鏡餅を備え、松飾りを設置すれば、年越し支度は完成……とは行かないようで。
「お節もですが、持っていく土産なども考えませんと……」
 せっせとお節を用意して出掛ける支度に右往左往、どうやら出掛けるにはまだ時間が掛かりそう。
「こちらの菓子は土産で、こちらの薬は……里長にはこちらで……」
 色々と包んで用意するのも時間が掛かりますが、何とかお節の準備も終えて家の方は片付けば、菊池がちょこんと嬉しげに支度が終わるのを待って座って居る初霜。
「出かけるまでが大変ですね。疲れてしまいました……」
 ふぅ、と息を付きながら笑みを浮かべると、荷を背負って立ち上がります。
「それでは、なるべく早く帰ってきますから、留守番をよろしくお願いしますね」
 そう残る相棒達に留守を頼むと、初霜を伴って帰省するために歩き出す菊池は、久しぶりに自分の師匠や里長に会えるのが嬉しいようで、足取りも軽く歩き出して。
 初霜も嬉しそうに尻尾をはち切れんばかりに振りながら並んでいそいそと歩き出すのでした。
「利諒、これはどうかな」
 ひょいと味を調えていた栗きんとんを箸で一つ取って利諒へと差し出す紅 舞華(ia9612)、丁度鍋一杯に煮物を作っていた利諒は、ぱくりと頂くと笑みを浮かべます。
「とても美味しいです。あ、お芋も煮えたようですね……味を見て頂けますか?」
 利諒がこちらも良く火の通って味の染みた煮物の里芋を一つ取って差し出せば、舞華はちょっと顔を赤く染めつつぱくりと食べてから微笑を返して。
 舞華は年末に利諒の家にやって来て一緒にお節を作っているようで、お重を並べてせっせとお節と、年越し後に食べるご馳走作りの真っ最中。
「取り敢えず、お蕎麦とお雑煮に使うお汁は温めるだけだし……そろそろお重に詰めていこうか」
「後で庄堂さんにもお裾分けですね。お蕎麦とこちらのお重で」
 お重に一段目は二段目はなどと話しながら次々詰めて行けば、直ぐに二組のお節が出来上がり、お餅用の胡麻は後で良いですかねぇ、等と年越し後の準備をしている利諒、一足先に舞華は振袖に着替えて帯も確りと一つ結んでから。
「利諒、帯の仕上げを頼めるか?」
「はい、直ぐに……」
 きちんと手を拭い舞華の所へと来ると、後ろの帯を手際良く結ぶ利諒、帯で松と鶴を見立てたものに結い上げて、帯締めを締めて。
「華やかで良いですね。舞華さんにとても似合っています」
 利諒が笑って言えば僕も着替えてきましょうと部屋を出て暫し、直ぐに羽織袴で戻ってくると。
「庄堂さんには舞華さんが着替えている間にお裾分けに行ってきましたので……そろそろお蕎麦、頂きましょうか」
「ああ、十分に、鐘撞きには間に合いそうだな」
 笑みを浮かべてお蕎麦を頂くと、連れだって出掛けます。
「年越し前からそれなりに人が居るみたいだな」
「あ、あそこが鐘撞きの列のようですよ。……思ったより並んでないのですね」
 境内には集落の人達が集まっていて軒のところで賑やかに盛り上がっていますが、鐘が鳴る頃には他の参拝客も増えてくると思われるのでした。

●北東の年明け
「よし決めた」
 一つ頷いて无(ib1198)はさっと立ち上がります。
 側には宝狐禅の尾無弧が八面骰子を見つめており、その目は二。
 あっという間に无と尾無弧は飛行船上の人となって居ました。
「……」
「うん突発でよくとれたね」
 どうやら賽の目に方角を北から右回りで割当てた結果、出た目の二は東北を指していたようです。
「本当は最北東行きたかったのだがなぁ」
 どうやら行きたかった最北東は宿がなかったようで、やや北寄りに北海を望める温泉宿を見つけて向かったそうです。
「いやいや、仕事も忘れ日々も忘れ……いや、ゆっくりとしたいい時間だな」
「……」
 折角なのでと部屋の内風呂に入れば心地良く、湯に浸かりながらのんびりして居ればうつらうつら、挙げ句に尾無弧までうつらうつらとしている无の頭にくっついてすやすやと心地好さ下に寝る始末。
「うー……」
 流石にここで朝までとは行かないようで、のそのそとお湯から上がると敷かれていたふかふかのお布団に飛び込むと、尾無弧もふるふると頭を振ってからお布団までやって来て丸くなります。
 そのまま夜も更け、遠くで鐘の音が鳴り、やがて障子の外も白んできて、すっかりと明るくなっていきます。
「ん……いや、良く、寝た……」
 日が昇りすっかりと明るくなったもので、心地好さそうにお布団にくるまっていたのですが、もぞもぞと起き上がって延びをすれば、尾無弧は既に起きて毛繕いも済ませてちょんと窓辺に座って居ます。
「あぁ、流石にお正月だ、お節だよ」
 尾無弧を呼び寄せて卓へと付けば、お重の蓋を取り、やがて直ぐに搗きたての餡ころ餅やらお茶や等と運ばれてきて舌鼓を打ち、仲良く尾無弧と頂けば、雪景色に誘われたか、のんびり散策をすることに。
「宿は空いているみたいだけれど、まぁお正月だしね」
 食べ物や、と言う形では殆ど締まってしまっているのは、北東の港町のためでもあり、また年越しをそれぞれの出でて楽しんで居るようで。
「あれはなんだろう」
「……」
「あぁ、白鳥か」
 広い湖の中、見える白い点に目を懲らせば、それがふわりと羽ばたいて飛び立つのを見て微笑むと頷く无。
「……」
「何か……あぁ」
 すりすりと足下に擦り付いて何かを知らせようとしている尾無弧に无は目を落とすと、何か言いたげに指し示す先を見れば、そこから程なくの場所に社が見えてきて、ゆっくりと无は歩き出します。
「折角ですし、参りますか」
 見れば初詣の参列に並ぶ人の姿も見えて、无と尾無弧も並ぶと手を合わせてぶらりと境内を歩くと、見えるのは御神籤。
「……中吉、と、そちらは?」
「……」
 誇らしげに自身の番号を見た巫女さんに出して貰った籤を見せれば大吉と書かれており、揃って暫し籤の内容を読んだりしてから、境内の木の枝に結びつけて。
「思いつきで出てきたけれど、良かった」
 そう穏やかな様子で言った无は、尾無弧と共に、暫しの間北東の静かな街でのんびりとした正月を過ごすのでした。

●日出と元日
 武天芳野の寺、年明けを暫く待てば、一つ目の鐘を御住職が撞いて、年が明けたのを告げ、舞華と利諒は微笑み合います。
「今年もこうして共に在れる事に感謝だ」
「舞華さんとこうして、一つ一つ時を重ねていけることが、何より幸せです」
 次に次にと鐘が鳴り、舞華が一つ利用が一つと鐘を撞き、晴れやかな様子で御住職達の元へ向かう二人。
「あぁ、御住職にあの時の鷲獅鳥に……白狐たちも……元気そうで何より」
「ぐるるあぁぁ!」
「くーん!」
 嬉しげに応える鷲獅鳥に白狐、温かな甘酒も用意されていると言われ、高い所にある境内から、わいわいと話を交わして進めていれば空が白んできて。
「温かい夜で良かった」
 そう舞華は笑うと石段へと足を向けます。
「……そろそろかな」
 ゼタル・マグスレード(ia9253)も寺へとやって来てまずお参りを済ませると、徐々に夜が白み足元が明るくなってくるのに気が付いて、山頂へと向かう石段を登り始めると。
「おや」
「これは、明けましておめでとう御座います」
「ああ、二人とも、おめでとう。山頂に?」
「ああ、初日の出を拝もうかと」
 穏やかな様子で新年の祝いを交わして、一同は山頂に上がって暫しの間、日が昇る様を見つめているのでした。
「今日は開拓者業もお店のお手伝いもお休みですし、のんびりとできますね」
 笑みを浮かべて言う柚乃(ia0638)は、武天芳野の温泉宿にやってきていました。
 庭では凄いもふらの八曜丸が縁側で毛繕いをしていれば、南瓜提灯のクトゥルーが部屋の庭にある露天風呂を覗き込んでちょこちょこと提灯を振っていたりします。
 忍犬の白房は部屋の隅で心地良さそうに丸くなってすやすや眠っていて、轟龍のヒムカはのんびりお正月でお客さんの少ないため厩舎でぬくぬくとしているようで。
 からくりの天澪と宝狐禅の伊邪那は初詣に出掛けるのが楽しみなのか、いそいそと準備をしています。
 早速晴れの衣装で可愛らしく着飾った天澪をつれて伊邪那と柚乃で連れ立って出かけるのは、参拝道を行った先の神社でした。
 賑やかに参拝客がわいわいと集まり、お参りをしたりおみくじを引いたり、振る舞う甘酒に、お札をもらったりと境内は兎に角大賑わいのてんてこ舞い。
「……大変そうですねぇ」
 思ったよりも忙しくなっていたようで、自身のお参りを済ませてからちょっと考える様子を見せた柚乃は、作務所へとやってくると、中であわあわとしていた神主さんへと声をかけて。
「いつもよりも忙しいのに、人出がちょっと少なくなってしまってね」
「そうなんですか……あの、柚乃もお手伝いしましょうか?」
 急に人手が足りなくなってどうにも回すのが大変とのことでそう提案すればとても助かるとお礼を言われ、早速飛び入りでお手伝いをすることになりました。
「はい、巫女さんです☆」
「あたしの出番よー♪」
 にっこり笑って見せる柚乃は愛らしい巫女装束に、白い狐耳と尻尾付き。
 伊邪那が狐獣人変化を使った結果、可愛らしい狐な巫女さんのできあがり。
「ご利益がありますように」
 にっこりと笑って作務所でお守りを渡してくれる柚乃、隣で天澪もニコニコ見ていれば、綺麗なお嬢さんに愛らしい白い狐さんの巫女さんならば御利益もありそうだとちょっとした話題を浚っていくことになるのでした。
「……」
 参拝道の茶店では、初日の出を拝んだあと、自宅で粛々とお節とお雑煮を頂き朝を過ごしたゼタルが、人をのんびり待ちながら茶店でお茶を頂いていました。
 女性の着付けは時間がかかるものだし、とのんびり構えていたゼタル、ふと前を見ればそこには滞在中の宿から青い振袖姿で出てくる綾麗で、一瞬ぽかんと歩み寄ってくるのをそのまま見ていて。
「遅くなってすみません、ちょっと着付けに手間がかかりまして……あ、今年もよろしくお願いします」
「あ、ぅ、うん、明けましておめでとう。今年も宜しく……」
 口をついた挨拶の言葉、改めてこほんと小さく咳払いすると、どこか遠くを見ているゼタルは、折角の振袖姿を讃える言葉が出てこず、型どおりの新年挨拶が出てきた自分に微妙に自己嫌悪気味のようです。
「どうかしましたか?」
「あ、いや……じゃあ、行こうか」
 そう促すと、立ち上がったゼタルは手を差し伸べて。
「はぐれるといけないし……いや、子供ではないのだから平気だろうが……僕がそうしたい、のだ」
 僅かに顔が赤く染まるゼタルですが、綾麗も目を瞬かせてから頬を染めるとどこか嬉しそうに微笑んでゼタルの手に自身の手を重ねます。
「……私も、こうしたいです……」
 そう赤い顔で笑んで言うと、きゅとゼタルの手を握るとゆっくり歩き出す二人、着物は大分慣れても振袖はまだ慣れていなくて、ちょっと歩みが遅くなってしまう綾麗が赤くなりつつ言えば、歩調を合わせて歩くゼタルは口を開いて。
「振袖姿、よく似合っているよ」
 それは人混みに紛れてしまいそうな呟きでしたが、綾麗の耳に届いたようで真っ赤になりつつも、少しじんわりと目元を潤ませて嬉しそうに微笑み。
「ゼタルさんにそう言って貰えると、凄く嬉しいです」
 ちょっと綾麗の目元が潤んだのに内心焦った様子のゼタルではありましたが、鳥居を潜り、手水場の作法を教えてやったりしながら一緒にお参りをして。
 手を合わせてまず思うは近しい人々含めた健勝祈願と研究者として学業成就を祈念して、手を合わせたまま少しだけちらりと横目で見れば、同じく手を合わせて居る綾麗を見てから改めて目をつむるゼタル。
「そして、今年も君と繋がっていられる縁を……」
 口の中でだけ小さく祈るゼタルは、目を開けてテオを下ろすと、綾麗の手を握って社務所の方へと向かいながら、君を守れる僕であれ、そう密かな誓いをたてるのでした。
「あ、柚乃さん」
「綾麗さん、お守り、如何ですか?」
 社務所では、見知った顔がお守りを授けているところでした。
「あ、是非。先日はありがとうございました……あの、お仕事、ですか?」
「忙しそうでしたので……巫女さんなのです」
 真っ白な狐耳をぴこぴことさせながらにっこりと笑う柚乃、確かに白いお狐様の巫女さんが授けてくれるお守りなら、とても霊験あらたかそうです。
 お守りを授かるついでにちょこちょことお話をしていれば、綾麗の振袖のことや巫女さんの服やらの話になって。
「そうそう、綾麗さん、着物でしたら当呉服屋では年初め、初売りの福袋が目玉なんです」
「福袋、ですか?」
「新年によく売り出されるあれだな、中身は見られないが、一般的に値打ち以上の物が詰められていることが多い」
 首を傾げた綾麗に説明するゼタル、柚乃もゼタルの説明に頷くと続けます。
「お洒落な着物や小物が入っていて、結構好評なのですよ♪ おひとついかがですか?」
「……え、えぇと、行ってみてまだあったら、是非買ってみますね」
 どういった物か想像をしてみているようですがまだぴんと来ていない様子ですが、どうやら綾麗も興味を持ったよう、好みでない物を引いても大丈夫なんです、と柚乃は笑うと。
「毎年、女の子達は楽しそうに交換し合ってたりするんです」
「なるほど、そういった楽しみもあるのですね」
 穂澄さんを誘って行ってみます、そう言ってゼタルと連れだって境内をあとにする綾麗を見送ると、柚乃はにこやかに次の参拝客へとお守りを手に振り返るのでした。

●新年のご挨拶
「……全く、面倒ですね……」
 良く晴れた新年の空の下、ぼやいているのは御影 紫苑(ib7984)。
 ぼやいて気が重いのもある意味仕方のないこと、それは正月二日の年始回りです。
 年始回りというのは新年の挨拶に知人や親戚、また長上、つまりは目上や年長の人達の家々を回ってする挨拶回りのこと。
 そして御影はアヤカシ退治を生業としているその家の当主、挨拶に来る人たちを迎えて返礼をする立場です。
 それだけでも新年早々気詰まりなところですが、その後に客へのもてなしの席も用意しなければいけないことに少々うんざり気味のよう。
「あの、お客様が……」
「解った」
 客の到来を告げ終えるよりも先に立ち上がると、玄関へとやって来て座り迎えます。
「ごめんください」
「どうぞ」
 先方が外套を玄関の外で脱ぎ声をかけるのに、迎え入れる御影。
「新年明けましておめでとうございます。年始のご挨拶に参上致しました」
「ご丁寧にありがとうございます」
 玄関先でも、ほとんど同じ光景の数々が繰り返し続けられていて、そろそろうんざり顔を笑顔で押さえておくのはそれが必要な役目だと理解しているからか。
 もっとも、それはあくまで金蔓としておくために、という言葉が頭に付きますが。
「いやはや、やはりなんですな、アヤカシを考えますと、御影様のようなお立場のお家とこうしてお付き合いさせて頂いているのは、はい、安心できると言いましょうか」
 手土産の菓子を置いてからもぺらぺらと下手に出ながら話すといおうかおべっかを使うといおうか、それを作り笑いを浮かべて受けていると、更にもう一言二言話して去っていくのを見送ってから、げんなりした顔をして。
「後どれ位来る予定だったか」
 年始回りは基本敵に会う予約を入れずに来られる席のため、実際どれ位来るかがその場で分かるものではありませんが、毎年来ている人や昨年のことを考えてきそうな人の分を思い浮かべれば、そろそろ時間も宴席の時間に移る頃と気が付きます。
「さて……」
 大広間では支度は調っているようで、客人を徐々に埋めていきやがて始まる新年祝いの席で、また親しげに酒を注ぎに来たり色々と話しかけられるのを当たり障り無く済ませると。
「先代が仲良かったとはいえ、私にとってはただの金蔓でしかないのですがねぇ……」
 杯を口元へと運びながら小さく口の中だけで呟くと、僅かに皮肉げに口元を歪めて笑うと杯に口を付けるのでした。

●今年も穏やかな年に
「ああ、穂澄様、宜しければ後でお雑煮やお節を一緒に食べないか? 綾麗にゼタルも良ければどうだ」
 柚乃に勧められた呉服屋の福袋、結局穂澄にお参りをしていた舞華と利諒も加えて買って来たようで、宿であれやこれやと中のものを交換したり、晴れ着の女性三人が和服や小物を広げて居る様はなかなかに華やか。
 微笑ましげに見る利諒と、お茶を頂きながらのんびり待っていたゼタルですが、お雑煮やお節というのに何となく顔を見合わせる男性陣。
「結構たくさん作ったからな、利涼の煮しめは本当に美味しいんだ」
 嬉しげにいう舞華、のんびりして居たところで嬉しげな舞華の言葉に思わず照れて頬を掻く利諒。
「あはは、ここよりは狭い部屋ですけれど……宜しければ食べに来て下さい」
 美味しいお酒も仕入れてありますし、そうにこにこと舞華という利諒に、綾麗は首を傾げて。
「沢山作ったと言うことは、お二人で作られたんですか?」
「私? お餅は美味しい筈だ、うん」
 穂澄に綾麗、そしてゼタルはちょっと考えると、笑みを浮かべて口を開く穂澄。
「じゃあ、ご相伴に預かりましょうか」
「ん……邪魔をする」
 早速行きましょうか、そう言って福袋のものを綺麗に包み直すと楽しげに利諒の家へと向かう一同は、和やかな新鮮の祝いの時を過ごしたようで。
「結局忙しく働いていたわね」
「でも、御利益がありそうって喜んで貰えたのですよ」
 部屋に戻り他の相棒達が幸せそうに眠っているのを眺めながら、部屋に備え付けの温泉湯船にのんびりと浸かる柚乃、湯気のぽかぽかで伊邪那も心地良さそうに座って話しているところで。
「でも、一年の計は元旦にありというのに、今年も忙しくなりそう」
 伊邪那が言うのにくすりと笑うと、柚乃は湯船から見える夜空を見上げて笑みを浮かべ。
「立場とは言え面倒なことだ……」
 新年の挨拶回りの者たちも帰り宴の席も終えて、御影は部屋で酒を舐めながら漸くに一息ついてゆっくりと人の居ない時間を過ごしています。
「やはり家は良いですね」
 无と尾無弧は家に戻るとこちらは存外暖かいと笑いながら、土産に買った地酒の徳利を卓へと置いて、尾無弧と共に祝い酒と洒落込むよう。
 菊池は自身の家へと帰ってくると、傍らの初霜を一つ撫でてから戸を開けて。
「ただいま、今年も宜しくお願いしますね」
 おかえりなさい、と口々に言いながら集まってくる相棒達に笑みを浮かべると、菊池は家の中へ入り、戸をゆっくりと閉じるのでした。