霜雪の鐘連峰
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/29 17:40



■オープニング本文

 その日、綾麗が清璧山へと戻ると、そこにやってきたのは、同じ泰国人で開拓者仲間の岳陽星でした。
「よぉ……どうだった、そっちは?」
「転戦の繰り返しであまりしっかりした情報を確認はできませんでしたが……連絡が途絶えていると伺いました」
「そうか……だいぶ、まずいかもしれねぇな」
 綾麗の答えに頭をがしがしと掻いて渋い顔をする陽星、清璧の若い門人が持ってきたお茶を受け取り礼を言ってから、卓について陽星と向き直ると、側の木箱にいくつも入っている巻紙の一つを取り出して。
「お前が要請受けて出てた所と、協力を約束したのが、その辺りか……」
 巻紙を開き指で幾つかの地点を指せば、筆を執り幾つか印をつける綾麗は、眉を寄せて。
「陽星さんの方にも、あの山の向こう側からの連絡はない、ですか。実は、今回行った先の領主殿から気になることを聞いたのですが……それによって呼ばれたわけでもあるのですけど」
「一時沈静化していたらしい奴らの活動が、また活性化されつつあるってことか……」
 顔を合わせて考え込む様子で沈黙する綾麗と陽星。
 ここ暫く、清璧周囲や陽星の里付近では、八極轟拳の動きが全くなかったのですが、その間泰国内の大きな動きや、何より綾麗は八極轟拳に表だって対抗している人間と認識されている為、方々にかり出されることが多くなったそう。
 そして二人が地図を広げて難しい顔をして確認して居る場所には、瑞峰と書かれていました。
「ズイホウ……あの地方から、連絡、一切ないのか? 清璧には、それまでそれなりの連絡は来ていたんじゃないのか?」
「……一度……」
「一度?」
「一度、瑞峰のこちら側の茶店で、人に介されお会いしたことはありましたが……関わってくるな、と切って捨てられました」
 瑞峰はその名を冠した山脈に守られる形で、水にも恵まれた天然の要塞と言える邑で、代々領主は瑞家という旧家。
 八極轟拳に関しての情報収集の一環で、山脈の付近の領主に協力のための顔合わせを要請され出掛けていたときに引き合わされたことがあるようですが、自分たち砦に引き籠もっていれば無事だから巻き込むなとかなり激しい口調で詰られたそう。
「でも、周囲の保正やらとは連絡を取り合ってたんだろ? いくらある程度自前で何とかなったとしても……」
「この所アヤカシがらみのごたごたで慌ただしくしていたため……」
「連絡がなかったのに気づく余裕も無いか」
 難しい顔をして黙り込む綾麗と陽星、と、そこへ普段清璧の留守を任されている雷晃が何やら手に持って入って来ました。
「あぁ、岳殿も居たか、丁度良い所に。実はお国元からたった今連絡がありましてな」
 そう言って差し出されるものは、どうやら陽星のお師匠からの手紙のようで、受け取りぺらぺらと読んでいた陽星は手紙を綾麗へと押しつけるように渡すと、頭をがしがしと掻きます。
「あーっ、この忙しいときに、奴らがまたうろちょろし始めやがったかっ!」
「……まさか……」
「ん? どうした?」
「いえ、ちょっと嫌な予感がしたもので……どちらにしろ、瑞峰を偵察するのは後回しにした方が良いでしょう。鐘連峰の周囲に偵察らしき者が居たとすれば、人を集めてとって返してくるまで、猶予はないでしょうし」
 すぐに支度をしましょう、と開いたばかりの旅支度に幾つか足りないものは無い確認し始める綾麗、陽星は手紙を改めて手にとってから腕組みをして。
「お復習いだけどさ、今一つよー俺が解ってないんだが、俺ン所の邑に奴らの欲しい物があるんだっけ? 分かって居るのは上の湖の水門がやられるとヤバい、湖の底の要石が砕かれるとヤバイ、あとなんかあったっけ?」
「邑より下がったところに幾つか横穴が掘られていて、火薬の匂いまで確認した筈ですね」
「想定する敵と数は?」
「……何ともいえないところです……」
 陽星の疑問に眉を寄せると、綾麗は何か気がかりな様子で、地図の上の瑞峰を見つめるのでした。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
桧衛(ic1385
14歳・女・サ


■リプレイ本文

●鐘連峰にて
「なるほどねぇ」
 現状を確認して居た桧衛(ic1385)は簡単に八極轟拳のこと、清璧派の一度の滅亡と復興、清璧派に伝わる籠手とそれを狙う幹部のことを聞いて頷きます。
「でも、この雪の中、敵も良く頑張るよね」
「それだけ相手側も拘る理由があるのでしょうけれど……」
 辺りは深い雪に沈み、湖に氷も張る白く染まった邑への襲撃を考えると表情を引き締める桧衛、柚乃(ia0638)が僅かに表情を曇らせるのは、相手の思惑一つでもなればすべて邑がなくなるということを意味しているからで。
「……こちらもしっかり準備して、迎えてやらないと」
「警戒すべきは三カ所、そのいずれも手薄にすれば致命的なことになるだろうな」
 考え込む様子を見せるゼタル・マグスレード(ia9253)に、羅喉丸(ia0347)も頷きます。
「確実に実力者が来ると分かって居るからな。ほんの些細なことが致命傷になる、襲撃がくる前に万全の体制を整える必要があるな」
「相手が八極轟拳となれば、腕ききの泰拳士が少数来るってことでいいのか?」
「分かって居るだけで、蒼仙の野郎に名前は知らねぇが脚甲のちいせぇのの幹部二人に、下っ端はどれぐらいかはっきりしねぇからなぁ」
 篠崎早矢(ic0072)の問いにがしがしと頭を掻きながら嵐山 虎彦(ib0213)が言えば。
「嵐山からしたらみんなちいせぇ奴になっちまうぜ」
 そう笑ってルオウ(ia2445)は言うと、にと笑いながら改めて口を開きます。
「村の消滅なんかさせないぜ! 絶対守りきろうな!」
「無論のこと」
 早矢が同意を示せば、柚乃も頷いて。
「誰しも故郷を失えば悲しいと、思うから。だから…守らなきゃ。爆破なんてしたら、被害は人だけでは済まされないもの」
「それに、ここが落ちれば見せしめとしての意味も持ってしまいます」
 一時邑長と邑人達に避難をして貰い戻った綾麗、避難先も良好な関係を保っていたとしても、八極轟拳が山ごと邑を潰すのを見ればどうなるか分かりません。
「後は、綾麗君も気を付けないと」
「私、ですか?」
「こういった襲撃には、周囲の信を得るためにも綾麗君は出て来ざるを得ない」
「蒼仙の野郎も、新入りのガキンチョも綾麗に執着してそうだしな。しっかり守らねぇとな!」
 ゼタルに同意を示して頷くと、嵐山は、ま、任せておけとばかりに刀を担ぐようにしてみせるのでした。

●水門
「ひゃー……流石に冷えんなぁ……」
 水門の前、白い息を吐きながら辺りを見渡して言うルオウ、髪にはうっすらと雪が積もり始めていて。
 ルオウは先程から水門の周囲の幾つかに鳴子を設置してから水門の前へとやって来ていました。
「……ん?」
 微かにからからと小さな音が聞こえてにぃと笑い、美しい刀を手にして待ち構えます。
「へっ、一人かよ」
 のそのそと現れたのは五人程の如何にもな風体の破落戸達、それぞれ得物を手に襲いかかろうとするのですが。
「何人来ようと守りぬいて見せるぜっ!」
 ルオウの咆哮、そしてそれに引きつけられるように目を向けた男達は、そこで始めてにぃと笑っているルオウの凄まじい威圧感に歩を止めて。
 男達が襲いかかってくる少し前、彼等を水門へ行くように差し向けてから、そっと木々の間を抜けて水門へと向かう男がいました。
 八極轟拳の幹部、綾麗や陽星の前で蒼仙と名乗っていた男です。
「ふん……要石に戦力を割いたか」
 何処か嘲笑うかのように小さく呟く蒼仙は、戦力を要石と水門へと戦力を二つに分けたと思ったか、薄く笑いました。
「あちらの方が奴らにとっては重要と言うことか……」
 薄く笑う蒼仙は、油断しきっていたのかも知れません。
「……」
 そんな蒼仙を、水門の裏手側に身を潜めていた桧衛が注意深く窺っていました。
 桧衛からしても流石に蒼仙は単独で当たれば実力差があることは痛感できるものでしたが、蒼仙は油断し、そして桧衛は周到でした。
「ふむ、纏めて流せば手間が無くて良いな」
 そう薄く笑んだ蒼仙は腰から帯を引き抜けば、それは剣となって直ぐに黒い瘴気を纏わり付かせます。
「はああっ……っ!? ぐあああっ!!」
 鮮血が迸り、瘴気が立ち消え雪の中に落ちる腰帯剣。
「……水門を壊させるわけにはいかないの」
「この、小娘が……っ」
 ぎりっと斬り付けてきた桧衛を睨め付ける蒼仙ですが、さと目を走らせれば、水門へと向かった男達があっさりと一刀のもとに切って捨てられ、一人の男を締め上げるように捕まえているルオウが、直ぐに加勢に来るであろう事が理解出来たか。
「ここまで来たからには当然、戦うんでしょ?」
「……貴様等開拓者、何れ血祭りに上げてやる……」
 生きていたらな、忌々しげに言う蒼仙は、追うよりも先に桧衛から一気に距離を取り身を翻して。
「他があるから、あっさり下がったのかな」
 深追いは危険と手の短剣を握り直しながら周囲へと警戒を向ける桧衛。
「はっ! ちっとも歯応えがねえな!」
「ふはは、手前ぇ強えじゃねえカッ!?」
 既に三人が倒れ血塗れに成りながらも大刀を振りまわす男、斧を繰り出しながら突進してくる敵をルオウは真っ向から斬り捨てると、男の大刀を受け流して手元を斬り付けます。
「生かしておくといずれ後悔するぜ」
 大刀を取り落とした男を押さえ込む縛り上げるルオウに、男が血塗れの凄惨な笑みを向けるも、ルオウは知ったことではないとばかりに平然とした様子で男を縛り上げるのでした。

●洞窟
「……」
 洞窟の中、暗くひんやりとしたそこに息を潜める一行、一番奥の場所にどっかりと腰を下ろした嵐山に、いつでも術を使えるようにと警戒を入口へと向けている柚乃にゼタル。
 しんと静まりかえった洞窟内、暖かい格好をしつつもどうしても白い息を吐きながら、柚乃はちらりと火薬の取り除かれた穴にちらりと目を向けます。
「……放置されていた火薬は、当然濡れて使い物にならなくなっていましたから、取り替える分の火薬も持ってくることでしょうね」
「本来なら、もっと前に来るつもりのようだったからな」
 ゼタルも頷き周囲を見渡していれば、やがて耳に何かが飛び込んできたようでそっと口元へと指を当ててから、耳を澄ます柚乃。
「……」
 直ぐに目を上げて頷くのは、その耳に飛び込んできたのががやがやと警戒する様子もなく洞窟へと入ってきた男達の声や荷を運び込んでくる音のためで。
 慎重に耳を澄ませる他の者にも聞こえてくるのは、がちゃがちゃと何か運んでいる物音と、大凡忍んでいるとは思えない男たちの話し声。
 おそらくは火薬の準備などで人手が居るためか、十人は下らないであろう男たちの、全く警戒していないといっていい馬鹿な雑談が段々と近づいてくるのに、それぞれ身を潜めて姿が見えてくるのを待ちます。
「な、何だ、手前ぇは!!」
「ここを通りたけりゃ俺を倒して行くんだな。だが、容赦はしねぇ。……なぁにこれでも元坊主だ。念仏の心配はいらねえぜ!」
「ンの、野郎っ!!」
 立ちはだかるようにぬぅっと立ち上がり呵々と笑う嵐山、いきり立つ男達ですが、嵐山の影から男達の持ついくつもの袋や木箱、そして松明へ柚乃は意識を向けると。
「少なくとも、引火しないように出来れば……」
 小さく呟いてから放つのはブリザーストームで、吹雪に巻き込まれ悲鳴を上げる男達、這々の体で洞窟から飛び出そうとする者も居るのですが。
「ここで君達の誰か一人でも逃がせば、また同じ事が繰り返されるだけだ」
 向けられるのは陰陽刀、退路を塞ぐ形で黒い壁が現れ逃げようとした者の行く手を阻めばゼタルは口を開きます。
「だから、戻る道は無いと思って欲しい」
 その壁がゼタルによって作り上げられたものであることに気が付いたか、壁に行くより洞窟で待ち構えていた人間を倒した方が手っ取り早いと思ったのか、向かってくる男達。
 振り下ろされる刀は綾麗の篭手に弾かれ、氷の龍がゼタルの刀より出でて男達を飲み込みます。
「ぐ、何だ、こりゃ……」
 氷が纏わり付き動きを阻害するのに呻きを漏らす男達、それをゼタルと綾麗とで取り押さえて縛り上げて。
「畜生ッ、坊主なら手前ぇの葬式の心配をしやがれ!」
「はっ、そいつぁ俺を倒してから言いやがれっ、そらよっと♪」
 刀でどーんと叩き潰すようにぶん殴れば、ぶくぶくと泡を吹いてひっくり返る男。
「く、こうなりゃその女だけでも……」
「ごめんなさい、眠って下さい」
 柚乃の夜の子守歌が辛うじて立っていた男達を眠りへと落とし込めば。
「さてと……幾つか聞くことはあるが、ここもこのままにはしておけないな」
 火薬を埋められていた穴やこの洞窟自体について、何らかの対処をしておかないととゼタルが言うのには、綾麗も頷いて、直ぐに陽星やその師とも相談して決めたいと話すのでした。

●要石と赤蛇
 要石の前、静かに佇み待ち受けるのは羅喉丸。
 足場は羅喉丸によって既に整えられており、はらはらと舞い散る雪もしばらく積もることはなさそうな様子で。
「……ん」
 ちらりと見れば微かに雪を踏み分ける音が聞こえてきて、対峙するかのようにそちらへと向いて迎え撃つ羅喉丸。
「ふん……やはりいるか」
 そこへ出てきたのは八極轟拳の少年幹部、黒地に赤と銀の龍が描かれた装束、白い雪景色の中に赤みがかった黒髪に赤い目が睨め付けるように見ていて。
「そこをどけ」
「生憎と、それは出来ない話だ」
 少年幹部が睨み言うのに、悠然と構えて拒否する羅喉丸、改めてちらりと目をやれば少年の脚甲は確かに綾麗の篭手とまるで対になって居るかのような意匠のもので。
「青龍を越えようとするのなら、物に頼るのではなく、修練の果てに宿ったその技で以て示すべきではないのか、赤蛇」
「私を赤蛇と一緒にするなっ!」
 きっと怒気を孕んだ言葉を発す少年が構えを取るのに羅喉丸も構え。
 双方取るのは八極天陣。
「力を持っていながらッ! 何もしなかった、極めるだけのヤツと一緒にするなッ!!」
 そう言って繰り出されるは鋭く繰り出す蹴り、少年のそれをいなすと羅喉丸は逆に拳を繰り出し、少年は受け流し受け止めて。
「……」
 同じ頃、要石を離れたところより狙おうとしていた男達、その男達の視界に、何やら燐光が入り込んできて、ぎょっと男達は立ち止まります。
「な、なんだありゃ」
 離れたところ、雪の中微かに光るそれは怪しくまた奇妙に見えたことでしょうが。
 その燐光は、早矢の目。
 とす、とすと撃ち込まれる矢は早く正確に男達の腕を射、足を射抜いていきます。
 要石へと回り込む道を守っていたのは陽星、矢から逃げるように駆け込んできた男達はそこで返り討ちとあっていて。
「ちょ……何だありゃ」
 そこで顔を上げた陽星、ずしずしと歩いてくるのは巨躯に要所要所を金属板で覆い被せているような不格好、もとい守りの厳重な巨漢。
 と、まるで叫び声のような甲高い音が鳴ったかと思えば、ぐんと飛んでくる男を咄嗟に伏せて避けた陽星は、倒れている男を見て目を白黒させると、きんきんすると軽く頭を振って立ち上がります。
「片付いたようだな」
 周囲を確認して姿を現す早矢、それに気が付いた陽星は軽く耳に手を当ててから口を開きます。
「なんだありゃ、すげぇ声がしたぞ」
「はは、その男の声ではない。響鳴弓という技があってな……」
「へぇ……弓も色々あるんだな」
 興味深げに言う陽星、早矢は少年と羅喉丸へと目を向けます。
 幾つかの打ち合いの後、羅喉丸が目にも止まらぬ速さの三連撃、それを三度繰り返すも、その悉くを躱しきる少年。
 流石に息切れしたか、動きの鈍る羅喉丸の隙に少年が一気に距離を詰め蹴り込もうとしますが。
「っ!!」
 全力を乗せようとばかりに繰り出しかけた脚、それをぎりぎりで止めようとする少年、脚甲の石が強く光ったかと思えば。
「ああああああっ!!!」
「ぐ……ッ……!!」
 止めきれなかった足が当たるとほぼ同時、一瞬にして黒い気を纏った羅喉丸の反撃の重い拳は、少年が辛うじて身を捻ったが為にまともに受けるのは避けられたものの、その一撃に弾き飛ばされるように転がる少年。
「ぐ、あ、あ……まさか、開拓者風情の泰拳士など、に……ッ!!」
 跳ね起きる少年は、受けた一撃の重さに胸を押さえて低い呻きを漏らすも。
「次は、負けないッ! 次は、貴様を、倒して、やるッ!!」
 僅かに光る脚甲、それに助けられるかのように飛び退り身を翻す少年。
「待てっ」
 後を追いかける羅喉丸に矢を番えて狙いを定める早矢ですが、転がるように逃げる少年を直ぐに見失ってしまうのでした。

●霜雪の鐘連峰
 全て追い返して邑を守った後、捕まえた者たちの処遇や聞き出した話などを確認しているところでした。
「赤蛇と一緒にするなと言うことは、赤蛇を知ってはいても、本人ではない、と言うことかな。脚甲が光ったりしていたけれど、綾麗さんの篭手にはあんまりそう言ったことはないよな」
「ええ、特にそういった事に気が付いた事はありません」
 羅喉丸が聞くのに頷く綾麗、ゼタルと嵐山は捕まえた男達を調べてから戻って来ます。
「瑞峰を落として落ち着く場所が確立できたから、今まで以上に勢力拡大を狙い始めたということらしい」
「配下にはただの見せしめだと言ってたみてぇだな」
 一緒に洞窟に埋めちまうか? などと嵐山が言うのに慌てる男達を見ながら、ルオウは拾ってきた腰帯剣を手に首を傾げます。
「今回、手応えがない奴が多かったなぁ」
「そう? あたしの方は結構手応えがあったんだけど」
 そう言って小さく笑いながら、それなりに手傷を負わせたんじゃないかな、桧衛が言えば柚乃は少し考えるように首を傾げます。
「手を広げて居るというのが本当ならば、今回で暫くは収まると良いのですけれど……他にも意識が向いているのでしたらここにだけ拘っていられるとも思いませんし」
 そうだと良いのですけれど、小さく溜息をつきますが、邑に戻った陽星の妹さん達に感謝されたことを思い出して、彼女らの故郷が守れて良かった、と、ほっと小さく微笑み。
「陽星、今回は災難だったな。なにかまた問題があればいつでも助けるからぜ」
「ありがとう。ま、暫くは警戒を続けて、どうにもならなくなりそうだったらまた、頼むな」
 嵐山の言葉に笑って頷く陽星、完全に安全だと言えるわけではないものの、一旦戻った平穏に心底ほっとしている様子で。
 改めて一行に礼を言う陽星や村人達。
 一行は、暫くの間冷え切った身体を温めながら、落ち着いた一時を過ごすことになるのでした。