【夏の祭】祭りの夜
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/07 21:33



■オープニング本文

 その日、とある文を受け取った受付の青年が何やら紙に筆を走らせていたのは、少し日差しが柔らかくなった、午後のことでした。
「えーと、武天の芳野にて夏の祭開催‥‥っと」
 受付の青年が貼り付けたのは少々大振りな和紙で、そこそこすらっと綺麗な文字で書き込みがしてあります。
 掻い摘んで読んでみれば、武天の芳野にて、少々大きい規模で賑やかなお祭が行われるとのことで。
 武天の都、此隅から天儀の各地へと伸びる街道筋沿いの海にほど近い場所で発達した街です。
 商業が発達し、大きな花街も存在しているような華やかで賑やかな町とのことで、それなりに楽しめるのではないか、とのことで。
「祭りの売りは海の上に浮かぶ花火、華やかで賑やかな盆踊りに、立ち並ぶ賑やかな屋台、ですよね〜」
 海に映える花火に、飛び入り歓迎で華やかな盆踊り会場、商業都市らしくあの手この手に盛り上がる出店の通り。
「もしお暇があれば遊びに行くのも良いのではないでしょうか、まる」
 書き忘れた部分を書き足して満足げに頷く受付の青年。
 慌てて、周りに迷惑をかける人は摘み出されるらしいので気を付けて下さいね、と書き足してから、受付の青年は仕事に戻るのでした。


■参加者一覧
/ 万木・朱璃(ia0029) / 北條 黯羽(ia0072) / 斎賀・東雲(ia0101) / 風雅 哲心(ia0135) / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 犬神・彼方(ia0218) / 劉 天藍(ia0293) / 柚乃(ia0638) / 佐上 久野都(ia0826) / 蒼詠(ia0827) / 鳳・月夜(ia0919) / 鳳・陽媛(ia0920) / 天河 ふしぎ(ia1037) / ロウザ(ia1065) / ミル ユーリア(ia1088) / 水鏡 雪彼(ia1207) / 露草(ia1350) / 嵩山 薫(ia1747) / 千王寺 焔(ia1839) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 水津(ia2177) / 星風 珠光(ia2391) / ルオウ(ia2445) / 斉藤晃(ia3071) / 赤マント(ia3521


■リプレイ本文

●祭りの夜は賑やかに始まり
「さぁさぁ皆さんよってらっしゃい〜」
 元気で良く通る声が芳野の町、空が茜色と薄紫の混じり合い始める頃、出店で賑わう通りに聞こえてきます。
 声の主は万木・朱璃(ia0029)、屋台として構える店には『瑠璃屋出張店』と書かれたのぼりが立っており、襷がけして明るく声を上げる様子に、町の人達も通りすがっては寄っていくよう。
 それでなくても屋台を回るのは楽しいもの、折角なら愛想が良くて気持ち良く寄っていける店主が居るお店の方が良いのは何処でも同じ、若い娘さんなら鼻の下を伸ばして蕎麦を啜る若者だっていようってものです。
「しかし‥‥折角の祭りの夜なのに商売優先とは色気がありませんねぇ、我ながら。出会いなんてないからしょうがありませんけど。あぁもうかっぷるな人たちが妬ま‥‥羨ましいです」
 まぁ、たまたまそこに千王寺 焔(ia1839)の所に遅れてきた様子の星風 珠光(ia2391)が駆け寄る様子を目の前で見てしまい、ついつい本音が零れそうになったようですが、それは客の手前と何とか飲み込んだようで。
「朱璃、景気はどうだい?」
「よぉぅ、なかなか繁盛しているよぉじゃねぇか」
「あら、父様方‥‥なかなか忙しくて‥‥」
 そこへやって来る北條 黯羽(ia0072)が愛しの旦那様である犬神・彼方(ia0218)と腕を組んで顔を出せば、朱璃は答えながらもこちらも仲の良さそうな組み合わせに、見慣れてはいるのでしょうがちょっぴり寂しさが。
「お、たこ饅頭だぁな。折角だぁし、黯羽に食べさせぇて貰いたいなぁ?」
「ふーふー‥‥はい、あ〜ん♪」
「あーん」
「うう‥‥毎度ありです‥‥」
 朱璃の寂しさは兎も角、祭りの夜は始まったばかりです。
 さて、出店と言えば射的、射的と言えば出店でしょう、異論は認めます。
 何はともあれ、朧楼月の構える射的屋の前に通りかかるのは佐上 久野都(ia0826)の引率状態であちらこちらのお店を見て回っていた一行。
 鳳・月夜(ia0919)と鳳・陽媛(ia0920)がきゃっきゃと――主に楽しげな声を上げるのは陽媛の方ですが――林檎飴を舐めたりお団子を齧ったり、それは賑やかで華やかなもの、その後ろを蒼詠(ia0827)が感慨深げにのんびりとついて歩いているようで。
「‥‥懐かしいなぁ。陽媛さん達が久野都お兄さんの家に引き取られてからは行く機会も殆ど無くなってしまいましたけど‥‥」
 呟く蒼詠、双子に手を引かれて歩いていた佐上は、射的に誘われていたとかでちょっとやってみようと足を止め‥‥固まります。
「兄ちゃん、やってかねえか?」
 にこりともしない仏頂面の勧誘は、凄みが利いていて何と言いますか、半ば脅し、でもまぁ、そこは射的、良心的に公平だというそれに挑戦すれば、ころんと落ちた小さな可愛らしい箱がふたっつ。
「お、やったな! 兄ちゃん!」
「‥‥あまり嬉しくないのは何故でしょう‥‥」
 やはり表情一つ変わらない様子でやったなと言われても、ちょっぴり盛り上がりには欠けるようです。
 何はともあれ出てきたのは可愛らしい桜の細工の散りばめられた薄紅色の鈴と、桔梗の細工の散りばめられた青い鈴、仲良く月夜と陽媛が一つずつ分けると、嬉しくて堪らないと言った様子の陽媛に対し、月夜は。
「‥‥次、あれ食べたい」
「え‥‥? 月夜、そんなに食べてばっかりじゃダメです! もう聞いてるの?」
「お祭の時はいろんな物を食べたくなりますよね」
 照れ隠しなのかぷいといった様子で側の屋台へと指を指す月夜、陽媛が全く、と言う様子で注意をすれば蒼詠はくすりと笑い。
「そうだね、幾つか買っていこう」
「お祭りなんだから食べないと‥‥特に陽媛は身体弱いんだし」
 佐上が言う言葉にそうそう、とばかりに頷く月夜、陽媛もその様子に仕方がないなぁとばかりの笑みを浮かべて頷くのでした。

●楽しい出店巡り
「うっしゃーっ! 次は射的や、片っぱしから制覇したるわっ!!」
 入れ替わりに射的にやってきたのは斎賀・東雲(ia0101)、既に紙袋やら何やら食べ物飲み物その他の雑貨がいっぱい、頭には横に向くように猫とも熊とも言えない半目口が半開きのお面が装着済みです。
 既に目一杯お祭りを楽しんでいるようですが、そこはそれ、やはり制覇という言葉の響きが浪漫なのでしょう、ここに来るまでに、幾つか地雷を踏み抜いてきた様にも見えるのですが。
 何はともあれ挑戦することに意義はあるのですが、如何せん強行軍に食べ歩いている所為で、食べ物より別の娯楽を選んだのかも知れません。
「おっしゃ、ともかく挑戦や挑戦、ほら撃つもん早ぅ寄越せや!」
 やる気満々で景品へと向き直る斎賀、その様子を眺めながら後ろを通り過ぎると、きょろきょろと通りを見てから再び歩き出す小柄な姿があります。
「綺麗な髪飾り、売ってるかな‥‥?」
 賑やかな通りを少しどきどきした様子で見て小さく首を傾げる柚乃(ia0638)は、装飾品の類を扱っているお店がないだろうかと見ているようで。
「凄く、賑やか‥‥みんな、笑顔で楽しそう」
 言ってから、柚乃も辺りの賑やかで楽しげな様子に釣られたように微笑を浮かべます。
「はむはむ‥‥んむ? や、今晩は!」
 ちょっぴり賑やかな人並みに微笑を浮かべつつも、なかなかお店に近付けない柚乃に、もぐもぐと食べていた焼きもろこしを飲み込むと、にと笑って声を掛ける赤マント(ia3521)。
「あ‥‥今晩は‥‥」
「同業者さんのようだし、良かったら僕と一緒に回らない?」
 にこにこ笑って食べる? ともう一本ある焼きもろこしを差し出して言う赤マントに、ほんのりと嬉しそうに頬を染めて受け取ると、有難うとお礼をいう柚乃。
「ついつい屋台だと沢山買っちゃうんだよね〜」
「柚乃は‥‥少し圧倒されてしまって。とても楽しそうで良いのだけれど」
「そうだねぇ、僕なんか割と田舎の方から出てきたから、こんな大きな祭りは、はじめてだよ」
 歩きながら食べるのはちょっと柚乃には大変そう、二人で少し端に寄って仲良く焼きもろこしを食べてから、出店の散策を再開です。
「幼い頃は一人で出歩くなんて許されなかったから‥‥ちょっと、楽しくて」
「じゃあ、一杯これからあちこち見ると、もっともっと楽しいよ、きっと!」
 嬉しそうに笑って言う赤マントに、柚乃も釣られるように微笑んで頷くのでした。
「ジルベリア製の帽子か‥‥いいなぁ」
 花火が始まるまでは今少しの時間があるのですが、花火の時間を楽しみにしていたはずの天河 ふしぎ(ia1037)は、ふかふかとした暖かそうな毛皮の帽子を興味深げに手にとって目を輝かせています。
 空色の生地に飛空船の描かれた浴衣を普段の姿の上から羽織って団扇を握りしめている様はなかなか華やかに見えて、時折道行く一般の方々が目を向けていたり。
 赤マントと柚乃が後ろを通り過ぎるのにも気が付かず楽しげに帽子を眺めているその様子は、どうやら熱中していると言っても過言ではないよう、多種多様の異国風の品々に心を躍らせていて。
「これは‥‥ジルベリアの細工物? って、わぁっ!?」
 ちょこんと台座に載った可愛らしいお人形が、目の前でかくんと首を動かすと、ジルベリアの音楽でしょうか、楽しげで涼やかな音色が流れ始めて、それに合わせてちょこちょこと踊っているように見える人形。
「わぁ凄い、おじさん、これどうやって動いてるの?」
「おお、これはおるごぉるとかいうやつでな、背中のねじを‥‥」
「なるほど、ちっちゃいけれど歯車とかで構成されているんだね」
「へぇ、お嬢ちゃん、こういったのに詳しいのかい?」
 店主の言葉にぴたり、と固まる天河。
「ぼ‥‥」
「ぼ?」
「僕は男だ――っ!」
 思わず店主に顔を真っ赤にして抗議をする天河。
 そんな光景を横目で見ながら串に刺した焼き烏賊を頬張り通り過ぎるのは風雅 哲心(ia0135)、同業者も一般の人々も、お祭の中好き勝手に楽しむのは皆同じよう、それなら遊び倒したいと思うのが人情で。
「やはり祭りというのはいいもんだな。少なからず開放的な気分になれる」
 小さく呟き内心で頷くと紙の袋に入れて貰った焼き鳥を取り出してぱっくり。
 どこぞか落ち着けるところでこいつを肴に、等と腰に手を伸ばせば、そこには徳利がぶら下がっていて、焼鳥や烏賊の他にも何か良いつまみはないかなと何処か機嫌良さそうに歩いていれば、赤マントが声を掛けます。
 女性のお誘いは出来るだけ断らない信条なのか、ちょっぴり赤マントと柚乃と同行するのに両手に花状態。
「うわぁ、あの人凄いよ」
「お、なんや? あんま楽しんでへんようやなぁ、おっしゃ、お裾分けしちゃろ」
「いや、僕たち楽しんで‥‥わ、ありがとう♪」
「‥‥あんず飴? ‥‥美味しい」
 あれもこれもと目移りしてしまってなかなかお店で買うのに迷ってしまっていた柚乃を見たからでしょうか、射的を終え、その後も幾つかお店で買い込んでいた斎賀がにかっと笑ってりんご飴とあんず飴を差し出せば、柚乃はおずおずと口にして微笑を浮かべるのでした。

●それぞれにとってのお祭
「はー‥‥陸の上ぁごった返し‥‥わしゃ船の上でのーんびりと。酒も旨いし、平和やなぁ」
 そんな光景を目にしている人物が。 
屋根船に揺られ屋台のごった返す様子を眺めながら杯を傾け上機嫌に言うのは斉藤晃(ia3071)。
 斉藤と同じように船に乗って楽しむ人達もそれなりに居るようで、斉藤はちょうど良い具合の船を借りることが出来て、陸の様子を見つつ呑んでいれば、そこに運ばれるのはお膳。
 そこには鱧尽くし、鱧と大葉の天麩羅に小皿に大根おろしが添えてあり、醤油の小瓶の側には鱧の鮨、ついてきた小さなお櫃には炊きたての御飯に焼いた鱧を崩して混ぜ込まれたものが。
 酒を改めて杯へついでちらりと見れば、ちょうど運び込まれてくるのは湯引きされた鱧に梅肉を和えたもので、満足げににぃと笑って、斉藤は改めて杯を煽るのでした。
「ただの買い食いではないかって? これはあくまで祭の見張りを兼ねて、よ」
 嵩山 薫(ia1747)は出店の立ち並ぶ中を歩きながら、警備のお手伝いに加わりながら開拓者の出した出店を主に、それ以外の屋台などもその流れのままに回っては料理をぱくついていました。
 串に刺してある瑞々しい果物があれば買い求めてぱくつき、豪快に肉を焼いて売っている屋台があれば買い求めて平らげ‥‥その勢いたるや、開拓者の警備ってどんなだろうと期待に胸を躍らせた若い警備のお兄さんを圧倒するものでしたり。
「し、しかし、開拓者というものはあれですね、やはりアヤカシ退治などで体力を使うのでしょうね、だ、だから何処に収まるのだろうという勢いで食事をされるんですねっ」
 なかなかの健啖家ぶりを発揮する薫に話題を捜しながら同行していた若いお兄さんは言いますが、その視線だけで射殺してしまいそうな視線と、薄く笑みの形にひかれた唇にさーっと血の気が引いた様子で。
 どういう状況でも、女性によく食べるといった類の言葉は禁物だ、とお兄さんは痛感したようで。
「そう言えば、花火の時間はもう少し後かしら?」
「はい、今暫くかかりますね、準備の方で」
 答えが返ってくれば、では、と言いながら食べ物を買い求める姿を見ながら、お兄さんは余計なことは言うまい、と思いつつ、僅かに遠くを眺めているのでした。
 ミル ユーリア(ia1088)はお祭に出てきてからずーっとあちらこちら、甘い物を中心にお店を回っていました。
「お祭か。実はほっとんど行ったことなかったのよね、こーいうの」
 言いながら水飴をぱくりと行けば、よく冷えており幸せな甘さが口いっぱいに広がります。
「ん〜っ、美味しいわやっぱり」
 嬉しそうな様子で言いますが、ふと、人混みの中、人酔いに近い感覚でも覚えたのでしょうか、きょろきょろと辺りを見回して。
「買い込んだらどっか落ち着けそうな場所見つけて眺めようかな。流石に歩きっぱなしだと疲れるし」
 言いながら休める場所を探して歩けば、開拓者のやっている様子の甘味処が見つかって。
「丁度良いわ、ここで少しのんびりしていきましょ」
 ミルは笑みを浮かべると甘味処へと入っていくのでした。

●楽しい一時を大切な人達と
 目に潤いを与えるような浴衣の装いと、華やかなその様子に人目を引いている人々も居ます。
「花火が始まる前には宗右衛門ちゃんの所に戻らないとね?」
 かくんと小首を傾げてにこり笑うのは水鏡 雪彼(ia1207)で、野乃宮・涼霞(ia0176
と手を繋ぎながらご満悦な様子で歩いていて。
 言われた劉 天藍(ia0293)はそうだな、と言いながらぽんぽんと頭を撫でてあげると、ますます嬉しそうに笑って手に持った赤く小さな花の描かれた風車をふーふー吹いて回す雪彼、その様子に風車を買ってあげた露草(ia1350)も嬉しげに微笑みます。
 見れば雪彼の帯のあたりに青い風車が挿してあり、どうやら人へのお土産のつもりのようで。
「それにしても賑やかだねぇ、言われるだけ有って盛大だし」
 弖志峰 直羽(ia1884)が言えば、雪彼はふと何かに気が付いたのかとてとてととある屋台に近付いていきます。
「くださいな♪」
「おう、可愛いお嬢ちゃんだ、特別おっきいのにしてやろうな」
 見ればお砂糖菓子のお店のようで、甘い匂いの楕円形のお菓子、買ったそれを上機嫌で持ってくると、にこにこしながら半分に割って。
「おっきいの貰ったのー♪ はい、露草ちゃん、半分こ」
「半分こ、ですか? ありがとうございます♪」
「うん、半分こ♪ 雪彼ね、半分こが好きなの。だって、大好きな人と好きな同じ物を食べられるのって嬉しいの♪」
 雪彼と露草の様子を微笑ましげに見ていた涼霞は、再び雪彼と手を繋ぎながら歩き出すと、私も何か買おうかしら、と出店を眺めていて。
 あれこれと珍しい物や美味しそうな物、可愛らしい物と目移りしてしまうようですが、ふと目に止まったのは飴細工のお店。
「あら‥‥」
 ついついあれもこれもと可愛らしい物や見事な物の並ぶ飴細工を見ていれば、更に目移りをしてしまうようですが、そんな涼霞の様子に気が付いた天藍。
「こうして見ていても飽きない。そうだな、女の子達には飴細工‥‥いや何か‥‥」
 安くて可愛いのを‥‥、と天藍が口の中で小さくもごもご言葉を途切れさせるのは、飴細工がなかなかに高価だからなのですが、それはそれ、やはり飴細工の技を見ていれば、それに目を輝かせている姿にちょっぴり躊躇もして。
「わ、可愛いのがいっぱいあるのー♪」
「これは見事ですね、職人さんの手で自由自在に、と言ったところでしょうか」
 涼霞がどの飴が良いかしらと目移りしているうちに雪彼と露草も気が付いたのか、目の前で自由自在に飴の形を変えていくのに楽しげな様子を見せれば、喜ばせて上げたいと思うのは人情というより男の子だからか。
「欲しいのがあったら買ってあげるよ、お土産に」
 大分躊躇しながらではあるものの腹を括るも、内心それぞれの値を考えれば、お祭用に持ってきたお財布の中身がすっからかんになりそうな予感にあわあわもしているようで。
「案の定財布がピンチっぽい‥‥天ちゃんやさしーんだからなー、もう」
 こそっと呟いて、弖志峰はにぃと笑うと、すすすっと天藍の後ろに回って耳打ちです。
「‥‥天ちゃん、俺も半分出すから」
「うう、直羽感謝」
「あ、雪彼ねーくまさんが良い♪」
「えーと私は‥‥兎。できれば立った兎を」
 にこにこして頼む雪彼に、ほんのり頬を染めつつ、ぐっと拘りを職人さんに告げる露草。
「天藍君が奢ってくれるの? ありがとう。‥‥それじゃあ‥‥」
 涼霞もふと思いついたものがあるのか竜を頼み、幾つか細工師にお願いをしているところ、何やら思い入れのある物を作って貰うつもりのようで。
 繊細な色合いを出しながら頼まれた物を作り上げては渡していく職人さんに、改めて天藍は弖志峰の援助に感謝を感じているようで。
「んでもって、これは天ちゃんの分の飴な! 後でゆっくり食べるのだぞ☆」
 ひょいと既に出来ているものではありますが、職人さんから飴の細工を受け取った弖志峰が天藍に差し出して。
「じゃあ、そろそろ行こうか、朱璃さんのお店が其の辺りにあるって聞いたはずだから‥‥」
「宗右衛門ちゃんの所にも、何か買っていってあげよ?」
 賑やかに楽しげに話ながら、一行はもう少しの間、お祭ので店を楽しむようなのでした。

●華やかな輪の中で
「角度だ‥‥水に濡れた紙に負荷をかけてはいけないからね‥‥角度を考えて、素早く掬い上げるっ!!」
 すちゃっと金魚を掬い上げてお椀へと映す姿に、柚乃は凄いですねと感心しながら見ていれば、捕れた金魚のお裾分け、はいと金魚の入った入れ物を渡されて目を瞬かせる柚乃。
「みんな! おどる! うたう! さわぐ!」
 そんな二人の後ろをぴょいんぴょいん跳ね回って楽しげに進むロウザ(ia1065)は、赤マントに気が付くと、太鼓を一緒に叩く約束をしていたようで。
「たたく、たいこ! ひろば、いっぱい、たいこ、たいこ!」
 ちょうど広場を見て来て人が沢山集まっている様子を見た後なのか、ちょっぴり興奮気味のロウザ、太鼓を叩きたいと言う旨を理解したのか、サラシに法被を貸して貰って着付けて貰ってきたようで。
「楽しそうだ、行ってみよう!」
「ぁ‥‥はい」
 賑やかという広間がどんな風になっているのか、ちょっぴり期待と不安を胸に、柚乃も頷いて赤マント達と一緒に向かい。
 広間では櫓を囲むようにして人々が集まっており、櫓は二段になっている大きな物、中断にはいくつかの太鼓が置いてあるのですが、何より一番上の櫓には特に目を惹く大きな太鼓が鎮座しています。
「ろうざ、あれ、たたく! みな、おどる!」
 ロウザが嬉しげに登っていく様を見ながら赤マントも中段の太鼓へと櫓に登っていけば、ばちを握り全身で太鼓を打ち始めるロウザの姿に目を惹かれたか広場の人達はわっと喝采。
「たいこ! いのち もえる おと!」
 人々の知らない異国の調子が新鮮であり、面白くもあり、一時広場は異常な熱気と盛り上がりを見せていて、お囃子の人々との不思議な協奏は、芳野の祭りを更に賑やかにもり立てるのでした。

●芳野の空に咲く花
 どーん、と遠くから小さく聞こえ始めた音に、一瞬で店の賑わいが少し静かになったかと思うと、空を見上げて一斉にわぁっと歓声が上がります。
 一帯が明るく染まる大きなものから始まり、空を鮮やかな色彩で埋め尽くす花火。
 ですが、歓声を遠くに聞きながら、高台の木々に囲まれた小さな広間に、彼女は居ました。
「焔の魔女見習いの名にかけて‥‥」
 水津(ia2177)が展開するのは火種、目はあくまで空を彩る花火に向けられていて。
「今はただの人魂程度が精一杯でも‥‥いつかはあの花火にも負けないような綺麗なものを作り上げてみせます‥‥ふ、ふふ‥‥ふふふふふ‥‥は、ははは‥‥あははははははっ!!」
 その高笑いを、たまたま花火を見る特等席目指してやって来た子供が、後々まで恐怖として語り継ぐのは、それはまた別のお話。
 水津の高笑いは、その森にいつまでも響き渡るようなのでした。
 それはさておき、お待ちかねの花火にそれぞれの楽しみ方をしているようで。
「おう、ようやっと‥‥酒のお代わり貰えへんか?」
 船に揺られて機嫌良く酒を頂く斉藤は、水面に映る花火と空に上がる花火とを堪能しながら、ゆったりした時を過ごすようで。
「一献頂きましょうか‥‥陽媛、月夜 注いでくれるかい?」
 花火の見える、少し通りから離れたお座敷でのんびりと酒宴を楽しむ佐上、月夜と陽媛は大好きな義兄に言われた言葉が嬉しいようで交互に居酌をしていますが。
「祭の勢いだからね、そんな事他の男にはまだしてはいけないよ」
 兄としてはその辺りはちょっぴり複雑なところのようで。
「それにしても花火が綺麗ですね」
「‥‥‥兄さんと一緒‥‥幸せ」
 陽媛が言うのに、月夜は他に聞こえない程に小さく呟いて。
 蒼詠はそんな兄妹の様子をにこにこと眺めてはお茶を飲むのでした。
「花火、綺麗ー♪」
「そうだなぁ‥‥そろそろ付く頃だな」
「うん、宗右衛門ちゃん、喜んでくれるかな?」
 かくんと首を傾げる雪彼に天藍はふと微笑し頭を撫でてやって。
「きっと喜ぶ」
 雪彼は風車やお祭らしい食べ物を、天藍は宗右衛門翁と開拓者ギルド受付の利諒へ細工物などのお土産を買っていて。
 雪彼と天藍はお土産を一杯抱えて宴席へと戻っていき、二人と別れた涼霞に露草、そして弖志峰は折角だからと屋形船に乗っけて貰い、お酒を頂いたりお菓子やお茶を頂きながら花火を見上げ。
「天儀酒とつまみ片手の花火最高ー♪」
「普段は呑まないのですが、御祭ですし‥‥ちょっとだけ良いですよね?」
「今頃は雪彼ちゃん達もこの花火を見ているのですね」
 弖志峰だけは花火にも優る女性陣に囲まれてご満悦のよう、のんびりとした時間がここには流れているようなのでした。
「ねりあめ‥‥俺はいいや、黯羽が買いなぁよ」
 花火が鮮やかに辺りを染める中、楽しげな様子で出店の前を通りかかった犬神が悪戯っぽく黯羽に言えば、物嫌いだったかと黯羽は不思議そうな表情を一瞬浮かべるも。
「っ!? 俺の練り飴を横からあぐって?! ‥‥うう」
 勝ち誇ったように、横から黯羽の練り飴をかじって強奪した犬神に、その表情を見てちょっぴり悔しそうな黯羽の頬が赤く染まっていたように見えたのは、花火の所為でしょうか。
 仲睦まじげに練り飴をかじりながら、二人は花火の中、出店を回り続けるのでした。
「ここの花火も悪くないな。酒の肴にはちょうどいい」
 暫く引っ張り回された女性陣と別れてから、風雅は朱璃の店の一角に収まって花火を肴にお酒を頂いていました。
「何処から見ても花火の綺麗さは変わりませんね。来年こそは誰かと一緒に見に来てみたいものです」
 風雅の言葉が聞こえたか、先程から大体が男女の組み合わせで仲睦まじげにしている姿ばかりを見せつけられ、朱璃はちょっぴりのの字を書いて隅っこに。
「おー、花火や花火や、かき氷もろて、花火見物やー」
 そこに斎賀が入ってくれば、お仕事に戻ってかき氷を出しつつ、花火を眺め、我が身を省みてしまう朱璃。
「やっぱ祭は最高や!!」
「モー東雲ッタラハシャギスギジャナイノー?」
 斎賀がひゃっほぅとばかりに祭りを喜んで声を上げると、これまた斎賀が自分で肩に乗った人形をカクカクと動かして声色を変えて自分に突っ込みを入れていて。
 その様子を遠い目で見ていた朱璃にとって、少なくとも今年の花火はお仕事が恋人状態で見る花火のようなのでした。
 甘味処ではミルが白玉を頂きながら空の花火を見上げていて。
「花火も、実は見たことなかったのよね。」
 ミルの言葉に偶然同席した薫は持参したお酒と肴を口にしながら同じく空を見上げて。
「この街の花火は綺麗ねぇ‥‥亭主や娘とも一緒に来たかったわ」
「家に帰ったときに土産話ができる様にしておかないとね。‥‥私は戻ることがあるのかは判んないけど‥‥」
 少ししんみりとしてしまう二人、ミルはにっこりと笑って。
「だからしっかり目に焼き付けておくつもり」
「そうね、私も、しっかり目に焼き付けて、お土産話に出来るようにするわ」
 薫もミルの言葉に笑顔で頷いてみせるのでした。
「綺麗だ‥‥まるで大空にお花畑が出来て居るみたい」
 出店の中を歩いていた天河は、ゴーグル越しに空の花火を見上げていて。
「いつか、あの花々と一緒に、大空を自由に飛んでみたいな‥‥」
 そんなことを呟く天河は、いつの間にか広場へとやって来ていて。
「今回の花火も、素敵‥‥」
 呟いて空を見上げている柚乃が直ぐ側に居て、天河は軽く首を傾げ。
「今回も?」
「ええ、花火を見るのは2度目なの。 先日、依頼を受けた時に見たのだけど、あの時もとても良かった」
 そう言って柚乃は微笑んで。
 広場の櫓では、ロウザと赤マントが太鼓を叩き続けていて。
 どーん、どどーん、花火を背に大太鼓を叩くロウザは、まるで花火と一緒に空で太鼓を叩いているように見えて、天河は目をごしごしと擦ってから笑みを浮かべ。
「いつか、きっと、あんな風に‥‥」
 改めて呟くように言うと、天河はいつまでも花火を見上げているのでした。