空を染める天の花
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 13人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/30 14:17



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルド受付の青年利諒は、受け取った手紙を前に微妙に首を傾げていました。
「えぇと、山からと海からの花火は分かるんですが……早い時間には飛行船も飛んでいるのが見えるって……どういうことでしょう?」
 手紙を見ながら首を傾げていた利諒に、卓の上手付かずのまま置いてある餡ころ餅目宛てにやってきた庄堂は怪訝な表情を浮かべます。
「どうした?」
「あ、庄堂さん。これなんですけれど、六色の空に飛行船飛ばして花火を眺めるお金持ちの人達が居るらしいんですが、どんな感じに見えるのかな、と思いまして」
「へぇ、物好きも居るもんだ。しかし、どういうことって言うのは?」
 御茶を入れて餡ころ餅を勧めながら言う利諒に、湯呑みを受け取りながら尋ねる庄堂。
「そんな、花火の側飛んでいて平気なんでしょうか?」
「…………お前な……」
 深く溜息をつくと餡ころ餅を口に放り込んで一つ堪能してから、だらけたように卓に肘をついて庄堂は口を開きます。
「別に芳野の街から飛行船が見える、って言ったって、花火の真っ直中飛ばす馬鹿はいねぇだろうが」
「え、あ、あぁ、確かに」
 六色の谷とか、街の少し外側を飛ぶだけでも花火からは十分離れていますよね、てっきり至近距離を飛ぶのかと思った様子の利諒はそう言いながら御茶のお代わりを注いで。
「まぁ、海と山から両方の花火があるんだし、これ以上規模を大きくする必要はねぇわな」
「花火、綺麗ですよね−、やっぱり毎年楽しみでこの時期はそわそわします」
 もきゅもきゅと餡ころ餅を消費しつつ言う庄堂は、早速お誘いの貼り紙をと、紙に筆を走らせる利諒を眺めて居るのでした。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 鶯実(ia6377) / 紅 舞華(ia9612) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / イデア・シュウ(ib9551) / 綾瀬 一葉(ic0487) / 火麗(ic0614) / 兎隹(ic0617) / ニノ・コッポラ(ic0938) / 蔀条 御影(ic0996) / シエン(ic1001


■リプレイ本文

●楽しいお出かけ
「夜も大分涼しくなってきたし、出かけるのも良いかも……」
 窓の外を眺めてそう呟くのは 礼野 真夢紀(ia1144)、丁度花火のお知らせを聞いた後のようで、浴衣などを確認して居るところでした。
「うにゃ?」
 お出かけ? とばかりにとてとてやって来て見上げるのは子猫又の小雪、きゅと小首を傾げて見上げる小雪に真夢紀は笑みを浮かべるとちょんちょんと喉を撫でてあげます。
「芳野に花火を見に行くのよ」
「こゆきもいく!」
 尻尾をぴんとあげてきらきらした目で見上げる小雪に、綾風楼は朋友も大丈夫だったし、とちょっと考えて確認をすると、期待ではち切れそうな様子の小雪のお鼻をちょんと撫でて。
「い〜い、小雪。爪とぎは絶対駄目。うろちょろせず大人しくしているのよ。言う事聞ける人ー?」
「はーい!」
 うにゃっと手を挙げる小雪に真夢紀は笑みを浮かべれば、ちょうどからくりのしらさぎがいくつか必要なものを包んできて戻ってきたところで。
「マユキ、したくできた」
「じゃあ、そろそろ綾風楼に向かうわよ」
 しらさぎと小雪を見てにこりと笑うと、真夢紀は立ち上がるのでした。
「これで良し、と……」
 柚乃(ia0638)が帯をきゅと締めて上げれば、こくりと頷くのはからくりの天澪。
 腕を少し上げて袖や帯の様子を見て大丈夫と言う天澪は、普段の天女のような出で立ちと違い浴衣姿で、青銀の髪がふわりと結われていて、瞳と同じ紫の美しい花飾りが飾っています。
 元々、柚乃は一人でのんびりおでかけと支度をしていたのですが、浴衣を身につけ帯飾りを選んでいたところで、ひょっこりと部屋を覗き込む二つの影。
「柚乃、おでかけするの……?」
 くいと可愛らしく首を傾げる十程の愛らしい姿、天澪が尋ねれば微笑を浮かべて柚乃は頷きます。
「ええ、花火を見に芳野に。縁日が賑やかだったり、華やかな花火をゆったりと楽しむ宿があったりするのです」
「縁日……食べ物のニオイがするもふ」
 ぱっと表情を輝かせるのはちびもふらの八曜丸で、いきたいもふ〜とおねだりすれば、きらきらと期待の眼差しを向ける天澪に、ちょっぴり柚乃は考える様子を見せると。
「そういえば、普通に猫又やもふらを連れて行ける場所だったような……」
 開拓者に馴染みの深い街であることを思い、また良く開拓者や相棒達を見かける事を思い出して一緒に連れて行こうと決めれば、お世話になっている呉服屋の女将さんにその事を伝えれば、折角なら天澪も浴衣で、となったよう。
 愛らしい浴衣姿になれば、そこに柚乃が選んだ児子帯をふわりとさせてあげれば、その出来映えにちょっと満足げに微笑を浮かべます。
「ふわ〜、早く行こうもふ」
 準備が出来れば、ちょっと待ちくたびれた様子の八曜丸が言って。
 頷くと、柚乃は天澪と八曜丸を連れて出掛けるのでした。
「カズハ……その……たまには一緒に出かけようぜ」
 綾瀬 一葉(ic0487)が言えば、蔀条 御影(ic0996)は目を瞬かせて見て。
 面倒とばかりにごろしゃらしていた様子の綾瀬ですが、どうやら蔀条は余り構って貰えない事に何となくどうして良いのか分からなかったようなのですが、思い切って切り出したようです。
「……いいですよー、行きましょうか」
 面倒、という思いがちらりと綾瀬の頭頭を過ぎりますが、一緒に行きたい、と言い出すのが珍しいと思えば、蔀条が頑張っていると言うのは何となく伝わったよう、では支度をしますか、とのんびり立ち上がって。
 ゆったりとした様子で歩く綾瀬に、希望が通ってちょっと吃驚したような、顔には出ない者の何処か嬉しそうな様子を見せる蔀条。
「じゃ、行こう」
 そう言って歩き出す蔀条に、綾瀬もゆったりと息を吐くと歩き出すのでした。

●兄弟子と妹弟子
「うふ……たまにはこうゆーのもいいねっ」
 所謂(*´∀`)な顔をして、上機嫌にかららころろと可愛らしい下駄の音をさせているのはエルレーン(ib7455)、浴衣姿でほんのり薄化粧まで施して、ちょっぴりいつもと違った様子を見せているよう。
「花火が始まるまで、何をしてようかなぁ?」
 のんびりと歩きながらそんな風に呟けば、何かを見つけたようで、その目がふいにきらりと光るエルレーン。
 そこには、ラグナ・グラウシード(ib8459)がいました。
「うさみたん、花火だお! 楽しみだねぇ」
 今日はとりあえず、いつもは背中に背負っているうさぎのぬいぐるみのうさみたんを抱っこして、うきうきるんるん、まだエルレーンに気が付いていないラグナはのこのこと近づいていることにすら気が付いていないようで。
 不敵な笑みを浮かべてずかずかエルレーンが近付けば、はと流石に顔を上げるラグナ。
「ぬっ!? そこにいるは宿敵エルレーン!! ここであったが……ぬおあっ!?」
「百年早いのっ♪」
 何時もの如くにエルレーンに絡んでいくラグナですが、速攻カウンターどころか仕掛ける前に先手必勝とふっとばされて、きりもみ状態で転がることに。
「ふふん、せっかくだから……かぁいいエルレーンさんがお祭りめぐりのおあいて、してあげるのっ」
 その前に踏んづけている足を退かしてから言った方が良いような気もしますが、所謂お祭りめぐりのお相手、というのは……。
「うん、こういうお祭りに来たなら、やっぱり屋台をたんのーよねっ」
 もきゅもきゅと串焼きを食べながら言うエルレーン、片手には引っ括ったラグナを引きずる縄、もう片方の手には食べている串焼きと、その腕にぶら下がっているラグナのお財布。
 ちょっとすれ違う人たちが(´・ω・)こんな顔をしているのですが、たまにお祭りで見かける光景だと割り切ったのか、見なかったことにしたのか、とりあえずはきゃっきゃと楽しげにお祭りを堪能しているエルレーン。
「……」
 返事はないけれどまだ屍ではない様子のラグナは、とりあえず虫の息ぐらいはあるよう、意識はちょっと危ういところでしょうか。
「うふふっ、今日はとっても気分がいーのっ♪」
 馬鹿な兄弟子をぼこした上で、お祭りならではのわいわいした空気の中での屋台飯、気分が悪いわけはなく。
「あ、そろそろ花火?」
 周囲の様子から気が付いたエルレーンはずりずりとラグナの葦を掴んで引き摺りながら川岸へと向かって。
「うさみたん、ほらぁ、きれいだねぇ……」
 その声にがばっとまさしく跳ね起きるラグナ、自身はずたぼろで転がっていたよう、懐は限りなく寒いと言うよりあるべきものもなく、そして、隣にはうさみたんをだっこして花火をきゃっきゃと見上げているエルレーン。
 さあどうする、ラグナさん(`・ω・)? とばかりに、何となく遠巻きに成り行きを花火と交互にちらちら伺っていた、もとい見守っていた人達。
「う、うさみたんを返せ―――――っ!?」
 それは大きな花火が打ち上がって、エルレーンの意識が逸れた、その瞬間。
 ちょっぴり駄々っ子ぱんちっぽい様子ですが、はと気が付いたエルレーンが咄嗟に蹴りを繰り出すのも、僅かに間に合わず。
 つまりラグナの駄々っ子ぱんちがエルレーンを先に捕らえます。
 ですがまぁ、そこはそれ、繰り出してしまった蹴りは当然止められる訳もなく。
 ぽーんと跳ね上げられるうさみたん、花火を背景に交差する拳と蹴り。
 川原でひくひくとひっくり返っている兄弟子と妹弟子、その傍らの大きめの岩に、誰かが座らせてあげたのでしょうか、┐(´―`)┌とでも言わんばかりのうさみたんが、花火を見上げているのでした。

●祭りの風景
「何か欲しい物ありますか?」
「りんご飴、後わたあめも食べたい」
 折角祭りにきたならと屋台を見渡して言う綾瀬、蔀条は見かけた屋台を反芻してから、驕りだからと遠慮せず答えるのに、ぽん、と蔀条の頭に手を置いて。
「子供扱いすんなよ!」
 そう言いながらも何処か嬉しげな様子を見せる蔀条は、表情には出ていないものの、どうやら内心では非常に嬉しく思っている様子です。
「俺が出しますから二人分買ってきてください。俺はここで待ってるんでー」
「じゃあ買ってくるから! そこ動くなよ!」
 丁度そこは川原の側、花火を見るようにいくつか置かれていた縁台の一つに腰を下ろして、蔀条へとお金を手渡す綾瀬に、受け取ってから、動かないとは思いつつも、びしっとそう告げて食べ物を改に駆け出す蔀条。
 暫くすれば、二人分の林檎飴やら焼きめしやら、なんやかんやと買い込んでくる蔀条、あれこれ言いながらちょこちょこと食べ始めれば、そろそろ暗くなってきた頃合い、ひゅーという小さな音の後に、ぱぁっと明るくなり、そして、お腹に響くどんっという音。
「流石に迫力ありますねー」
「……あぁ……」
 のんびりと見上げていう綾瀬に、空を染め上げる花火を圧倒された様子で蔀条が見上げると、暫しの間言葉もなく、空を染め上げるいくつもの大輪の花が次々と咲いては消えていく様を見つめる二人。
「蔀条さん楽しかったですか?」
 ぼうっとしたように目にまだ花火の残像が焼き付いて見えるような気がして見上げたままで居た蔀条ですが、綾瀬の言葉にはっとしたように我に返ると、頷いて。
「うん、楽しかった。……また来年来ような」
 蔀条の言葉に綾瀬は、楽しかったのなら来た甲斐があったと、そう口の中で小さく呟くと。
「そうですねー、花火の日くらいは進んで外に出るのも良いかもしれませんね」
 微笑を浮かべてそう頷くのでした。

●大切な相棒達と
 夕闇が迫る頃、柚乃はいくつもの紙の包みを抱えて、天澪と八曜丸を連れて屋台の通りを歩いていました。
「大丈夫?」
 柚乃が聞くのにこくりと頷く天澪は、何もかもが珍しそうに辺りを見ながら、きゅと茣蓙を抱えていて、八曜丸がぴったりくっついて茣蓙がずり落ちそうになるとちょいと抱え直しやすいように支えたりしています。
「もうそろそろ川岸ですね」
 柚乃の言葉の通り、直ぐに川岸へと降りる道があれば、幾つかやはり川原で集まって楽しんで居る人達も居て、直ぐ側に余り人が居ないところを選んでちょんと茣蓙を敷くと天澪と並んで腰を下ろす柚乃。
「あ、あれ……」
 天澪が指差す先は、ひゅるひゅると空に上がっていく光、それはやがて空の暗闇へと消えて……。
 ぱぁっと開く花と、どーんというお腹に響くような音、わぁっとあちこちから上がる歓声。
 幾つか買い込んだものをもきゅもきゅと頂けば、屋台ならではの味付けや楽しさがあるもので、天澪に御茶を入れてあげたり色々と世話を焼きつつも、笑みを浮かべる柚乃。
「もうたべられないもふ……」
 ふとみれば、沢山買い込んでいたものを目一杯楽しんでか、ぽこんとお腹を膨らませた八曜丸が、満足した顔で、満腹になって転がっており、天澪と思わず顔を見合わせて笑って。
 そんな二人の笑みを、空に瞬く花火が鮮やかに染めるのでした。
「そういえば、縁日はあちこち行ったけど、花火は今年見て無かったわよねぇ」
 綾風楼の二階、窓辺にやって来てぽふぽふと座布団を調えてやれば、ぴんと尻尾を立てて嬉しそうに窓辺へと駆け寄る小雪を見ながら、真夢紀は小さく首を傾げました。
「マユキ、はじまる?」
「ええ、間に合ったみたいね」
 真夢紀が言うのとほぼ同時に、わっと川原の人達の声が聞こえてきて、ひゅるると言う小さい音に、真夢紀もしらさぎも、そして小雪も窓から空を眺めれば。
「ハナビ、キレイ」
 どぉんと言う音と共に大きな花火が空に咲いて、しらさぎが呟くように言うと、うれしげにしっぽをぴんと立てて、次々と上がってくる花火に大興奮のよう。
「た〜まにぁあ〜」
 目をきらきらとさせながらうにゃうにゃ喜んで声を上げて。
「凄く立派な花火ねぇ」
「リッパ?」
 どんどんと花火が上がる音に、嬉しげにあげられた花火を楽しむ真夢紀達。
「うにゃ? おさかなのにおいにゃ?」
 やがてお料理の膳が運ばれてくれば、真夢紀としらさぎは、普通の懐石の食事のお膳、小雪には、焼き魚の解し身とお刺身の盛り合わせのお皿がちょんと載っけられていて。
 お酒は余り飲めないとのことなので、美味しいと評判のお茶を頂き、花火を眺めながらの楽しい食事の時間を、真夢紀としらさぎ、それに小雪は心ゆくまで楽しむのでした。

●穏やかな花火
「空と海の両方に上がる花火、今年も開催されるのか……今年も楽しみだ」
 笑みを浮かべて言う紅 舞華(ia9612)に、利諒は嬉しそうに頷いて。
 舞華は黒地に朝顔が清しさと大人らしい落ち着きとが相まった姿で、待ち合わせをしてからのんびりと賑やかなお祭りの通りとは少しずれた小径を話ながら歩いているところでした。
「しかし、花火を空から見たいというのも酔狂ですよねぇ……音といい光といい、凄そうですけれど……」
「物事を色々な面から見たいという好奇心だろうか? その人間にあった楽しみ方をすればいいと思うが」
「……そうですね」
 舞華の言葉に確かに、と頷いて笑みを浮かべると、利諒はそろそろ始まっちゃいますね、と言って舞華に手を出し出します。
「もう少し先ですけれど、ゆっくり花火が見られるところがあるんですよ」
 舞華が頬を染めて利諒の手を取れば、一緒に少しだけ小径を上がって行けば、ちょっとした広場のような所に出て。
「昔は良くこの辺りで遊んでたんですけどねぇ」
 別の道の方が重宝されるようになってからちょっと寂れちゃいましたね、と言う利諒は川を見下ろせる見晴台のような所に備え付けられていた長椅子を手拭いで払って、そこに改めて荷から布を出して敷きます。
「始まったな」
 ぱぁっと辺りが明るくなるのに空を見上げて言う舞華に、どうぞ、と椅子を勧めると並んで川の方を見下ろして。
「後ろの方から花火が打ち上げられたり、川の方からあがって来たり、不思議な感じだな」
 くすりと笑って言うと、暫し並んで見上げながら寄り添う舞華と利諒。
「……綺麗だな」
 共にいること、そして共にこの景色を見ることにしみじみと幸せを感じている舞華は、ぎゅと傍らにいる利諒の手を強く握って。
 利諒もまたぎゅと握り返せば。
「また来年も来ような」
「ええ、来年も、必ず……」
 花火を眺めながら、そう約束をすると、暫しの間静かに花火を眺めていて。
「去年は人混みの中で、つい他に気を取られて職人の力作を見逃しがちだったからな」
「こうして静かなところで見るのも良いものですよね」
 そんなことを話していれば、やがて最後の一花と、華々しく一瞬にして空を白く染め上げる程の花火が打ち上がり、そして、やがて辺りが静かになると、顔を見合わせてから。
「では、これから屋台を堪能しに行くとしますか」
「粉ものは兎も角、この陽気ならかき氷と……美味しそうな果実酒があるなら、それも良いな」
「あ、それならお勧めのお酒があるとか……お祭りの日ですから、遅くまでお店もやっているでしょうし……」
 楽しげに語りながら、利諒が手を差し出せば、微笑みながらその手を握ると、舞華は楽しげに先に立って小径を降りていくのでした。

●傍らにある心
「あぁ、よく似合っています、良かった」
 宿から出てきた相手を見て微笑を浮かべて言うのは鶯実(ia6377)。
 出てきたのはイデア・シュウ(ib9551)で、鶯実の言葉に思わず僅かに頬を染めれば、それも含めて鶯実には微笑ましく見えるよう。
「では、行きましょうか? 花火までにはまだ時間もあるようですし……」
「ぁ……」
 色々な屋台があるみたいですよ、そう言って笑みを浮かべて手を差し出せば、思わず顔を更に赤くして、どうしても躊躇してしまうよう。
 元々は交際していたにも拘わらず、自らの進む道のために別れを告げた身としては、どうしてもなかなかその手を取ることは出来ないよう、その上、どうしてもプライドから来る恥ずかしさもあるようで。
 どうすればよいのか戸惑うイデアですが、急かすでなく笑みを浮かべて静かに待つ鶯実。
 暫く戸惑っているも、意を決したかのように恐る恐る手を出すイデアの手を改めて取ると、鶯実はゆっくりと歩き出し、イデアも歩き出します。
「……」
 どうやらプライドが高くて一緒に歩くのも恥ずかしいようで、どうにも俯いてしまいがちなのですが。
「見て下さい、風鈴ですよ」
 鶯実の言葉にイデアが顔を上げれば、ちりんちりんと涼やかな音を立てる風鈴の屋台、涼やかなものや愛らしいもの、はたまた変わったものなど、色々な種類の風鈴に、目を瞬かせると。
「凄い……」
 そう言って美しい音色や光景に心惹かれていれば、どれがお好みですか? と尋ねる鶯実。
「ぇ、あ、いや……」
「これですね?」
「ぁ……」
 聞かれるのにちょっとどう答えて良いのか分からずイデアが言葉を途切れさせれば、つい熱心に魅入っていた一つの風鈴を鶯実は買い求めて、はいと渡して。
 この時期ならではのものですからねと笑う鶯実に、顔を赤らめるイデアですが、腕には風鈴を、そしてもう一方の手を取りながら、あれやこれやと珍しいものや興味をひかれる屋台に、次第に恥ずかしい、よりも祭りの楽しさに夢中になっていって。
 やがて日も暮れてきて、花火を見るのに良いと言われていた宿へと足を向ける二人。
「実は、天儀での花火は初めてで……」
「そうでしたか、気に入ると良いですね」
 宿に入り、食事屋に見物を運んできて貰うと、窓辺に腰を下ろしてからイデアは言うと、穏やかに微笑を浮かべて言う鶯実、その笑顔にずきりとイデアの胸は鈍く痛みます。
「あ、始まりますよ」
「あそこからあげるのか……」
 イデアの気持ちを知ってか知らずか川の方を見るように促す鶯実に、イデアも目を向ければ、川の打ち上げ場所が微かに確認出来、そこからひゅるひゅると最初の花火が打ち上げられて。
「わ、ぁ……」
 ぱぁっと辺りが明るくなり、空一杯に広がる花火と、次々に続いて美しく空を染め上げていくのに暫し言葉を無くすイデア。
「こんなに、綺麗なんだ……」
 知らず、つと涙がイデアの頬を伝って、はとそれに気が付けば、鶯実がそっと手拭いを差し出すのをみて、ただ、涙が零れて気が付けば、ごめんなさい、とイデアの口から言葉がついて出て、そうなれば、どうしても押さえられなかったようで。
「何度謝ったかわからないけど……こんな私でごめんなさい……」
 強さを求めその道を究める為に必要だと、甘えを捨てるために鶯実に別れを告げたイデアですが、本当はその傍に居たい気持ちが捨てきれず、どうしても離れられないことにも、別れを告げたことにも、どうにもならずに幾度も謝れば、ふわり、と撫でる手。
 何かを言えば余計にイデアが辛いだろうと思ってか、鶯実は静かにイデアが落ち着くのを待っていて。
 そんな二人を、空を染め上げていく花火が見守っているようなのでした。

●先輩と後輩
「婿探しだと? あの男はやめたまえ、顔が野蛮だ」
 綾風楼の二階、ニノ・コッポラ(ic0938)が運ばれてきた杯を手に取って言えば、お猪口を手に取りながらシエン(ic1001)は先程まで道を行く良い男を眺めて居たためついくすりと笑って。
 二ノとシエンは魔術を学ぶ過程で知り合った、いわば先輩と後輩の関係のよう、年若い二ノからすれば初めての後輩と、ついつい先輩風をびゅーびゅー吹かせてしまうのは仕方のないこと。
 シエンは婿捜しの名目で出てきては居ますが、二ノはその候補外であること、その上で知り合って日は浅いものの尊敬もしているため、関係は良好のよう。
「ま、ニノ殿、一献……」
「ふ、酒というものはただ飲めばいいというものでもない。料理に、景色に、そして席を共にする者あっての味わいが……うん」
 シエンがお酌するのに頷いて受けると、丁度ぱぁっと空に大きな花火が咲いたところのよう、そんな外を見て、そしてお酌をしてくれたシエンへと顔を戻すと杯を軽く掲げて、そしてちょっぴりくっと大人ぶりたいのか杯を一気に干して。
 小さな杯とはいえちょっとくらっとするも、後輩の手前、ぐと飲み込んで平静を装おうとします。
「ニノ殿も酒が飲めるようになられたか」
 月日が経つのは早い、と、数年ぶりの再会でもないのに思わず笑いを零して言うシエン、ニノは杯を手に持ちながら花火で賑やかな外を眺めると。
「彼はどうだ? 着ている服がかなり豪華だぞ」
「どれ……どの人だ?」
「む、そこにいたが、人混みにまぎれてしまったか」
 他は似たり寄ったりだ、と僅かに眉を寄せてから、ニノはシエンに向かって改めて口を開きます。
「しかし婿捜しとはまたみるところが多くて大変そうだな」
「ニノ殿も鏡の自分ばかり見とらんで、周りに目を向けや」
 笑って言うシエンに、ふむと言われた手鏡をみて、ちょいちょいと髪を直してから。
「ざっと周りを見たが、君が一番美しいみたいだ。もちろん花火よりも」
「そりゃ嬉しい」
 女性を立てることが嫌いなわけではないこと、そして互いにその対象ではないと理解しているからか、嫌味なく笑い合う二人。
 シエンは窓の外から飛び込んでくる光と音に外へと目を向ければ、故郷に置いてきた、恋人のような幼馴染みをふと思い出すと、未知を知り尽くしていつか帰りたい、考えていた思いがちらりと過ぎって。
 シエンは小さく頭を振ると、さてもう一献、と新たに届いたお銚子を手にとって。
 花火が終わる前に、ニノが酔いつぶれて眠ってしまうまでの僅かな間、先輩と後輩の酒盛りは、もう少しだけ続くのでした。

●心穏やかに
「はふぅ……美味しいのだ……」
 兎隹(ic0617)が感に堪えないと言った様子でふるふると僅かに耳を振るわせて言えば、同行していた火麗(ic0614)は思わず笑いを漏らして。
 花火が大々的に行われると聞いてやって来た火麗と兎隹は、綾風楼の一室を借りて、のんびりと楽しみにやってきていました。
 兎隹が味わっていたのは綾風楼で用意されたお膳と良く冷やされて切り分けられた西瓜、花火や夏の季節のものを連想させる涼やかであるも華やかなお膳に舌鼓を打っており、火麗もお膳と用意された肴の小鉢で冷酒を一つ頂きながら楽しんで居て。
「ご飯は美味しいし、花火は綺麗だし、最高なのだ♪」
「ああ、酒は旨いし、肴に花火とはまた良い」
「花火の下では花火師達が危険を賭して打ち上げ作業をしてくれていると思うと、頭が下がる思いではあるな」
「その仕事に対する真剣さに感謝しながら成果楽しんでいくのが粋って奴さね」
 兎隹は火薬を扱うのは危険が伴うことを思って言うと、花火が胸に響く音に暫し身を委ね、火麗は笑って職人の作り出す空の花の心意気に杯を掲げて。
「……ぬ? 火麗姉、あそこ飛行船が飛んでいるのだ!?」
「へぇ……そういや、今年は飛行船が飛ぶとか言っていたねぇ。今年やってみて良けりゃ、続くかもね?」
 ぱぁっと光る花火に照らされて、飛行船が浮かぶのを見ていれば、とても面白そうに見えるようです。
「空から眺める花火、我輩らも飛行船を持つようになれば楽しめる日が来るだろうか……?」
「……飛行船から眺める花火も素敵だね、ちょっと頑張ってみようか」
 火麗もちょっぴり心惹かれるようで言うと、ふと、兎隹は火麗の手の中の杯が気になった様子で。
「そういえば、火麗姉はお酒が好きなのだな? この冷やし飴よりも美味しいか?」
「酒……まぁ好きだが人によるぞ、今日の酒は甘口の口当たりのいい奴だが」
「少しだけ舐めさせて欲しいのだ!」
 わくわくと期待に満ちた目を向ける兎隹に。
「まぁ舐める程度なら経験かなと呑ましてやるが……」
 そう言って、火麗が自身の杯を渡してお酒を注いでやれば、兎隹はおずおずと顔を寄せて、ぺろり、と舐めて。
「……ぬー……甘くは、ないな……」
「まぁそうだよな」
 甘口と甘いのは違うからねぇ、と笑うと兎隹から杯を受け取る火麗。
「何だかふわふわするのだ……」
 そこまで言って、ぽてんと転がる兎隹に、やっぱりと呟くと、兎隹を膝枕してやり、頭を撫でてやる火麗。
 ぬいぐるみを抱えて膝枕に頭を撫でられて、その暖かさと心地好さに心地良さそうに眠る兎隹、火麗は手酌でお酒を楽しみつつ、空を彩る花火と飛行船を見上げて小さく笑むのでした。