【初夢】あなたの年始
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/17 21:05



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 新春、年始、兎にも角にもお正月、いそいそとお雑煮用のお汁を作る男が一人。
「お節である程度作っていますけれど、やっぱり年越し蕎麦用のお汁を流用するだけじゃなくて、お雑煮の為に大根と人参と油揚げを確りと煮込むのが妙に楽しいのですよねぇ……」
 にこにことしてそんなことを言うのは開拓者ギルド受付の青年利諒、鼻歌交じりに作っていれば、入口の戸が叩かれて、どうぞと応えれば入ってくるのは庄堂巌、開拓者ギルドの依頼調役です。
「あれ、庄堂さん、どうしたんですか?」
「……いや、なんだ、その……」
「??」
「いや、腹が減って、な……」
「……え、あれ? 年越し蕎麦をお届けした記憶はありますが……」
「ああ、ちゃんと越す前に頂いた、あれは旨かった……んだが、あの後、何も食べて無くてな……」
「……え、えええ、お正月の準備とかお節とか色々、してなかったんですか……?」
「ここのところ忙しくて、当日なんか買いに行きゃいいやと思ってたら、何処もやってなかったんだ」
「……あ、あらら……お、お節もありますし、お餅もお雑煮もありますから。その、後で庄堂さんのお部屋にお節、お重に詰めて、お届けしますよ。お雑煮とか、お鍋でお裾分け行きますから」
「申し訳ない……餅も買えねぇとは思わなかった……」
 すごすごと帰っていく煤けた背中を見送ると、ちょっと首を傾げる利諒は。
「庄堂さんはああとして、皆さんどんな新年を過ごされているんでしょうねぇ?」
 ふとそんなことを呟いてから、もっと量増やさないと、と大根の皮をしょりしょりと剥き始めるのでした。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 紅 舞華(ia9612) / セシャト ウル(ib6670) / 墨雪(ic0031


■リプレイ本文

●年越しまであと僅か
「煮物の準備はこれで良いですね」
「年越し蕎麦の下拵えも出来たぞ」
 紅 舞華(ia9612)は利諒の部屋へとやって来ていて、せっせと一緒に年越しの準備中でした。
「あらかた終わりましたね、後はお蕎麦などを適当な時間に食べて、のんびり年越しですね」
「ああ、ゆっくりと年が越せそうだな」
 楽しげに語り合う二人、のんびりと今年はどんなことがありましたねぇ、こんな事件があったな、と言う話をおこたに入りながらのんびりと話していれば、時間が過ぎるのは早く。
「あぁ、そろそろちょっとお蕎麦の配達行ってきますね。目と鼻の先に庄堂さんの部屋があるので、様子を見に行きやすいのが助かりますねぇ」
「そうだな。届けるのが終わったら、私達も蕎麦を食べよう」
 蕎麦のお汁を温め始める利諒に、蕎麦を茹でるお湯の具合を確認すると舞華もそう言って笑みを浮かべるのでした。
「壮観だねぇ……」
 呟くように言うのは港で相棒達の世話をしている職員達。
 視線の先にはからす(ia6525)が契約している相棒達、その数何と十八体と四機……つまり全種。
 少し前の時間、からすは屋敷から十三体を連れて屋敷を出て、港へと向かって居ました。
「流石に気温が下がっているでありますね」
「日出を見る絶好の場所だね!」
 白い息を吐きながらもふらの浮舟が言えば、迅鷹と共に上をぱたぱた飛んでいた羽妖精のキリエが目的の方角を指して言います。
 からすの一行はゆっくりと歩き、先頭では尻尾をぴんと立てた猫又と、しゃきっと尻尾背筋を伸ばし、それでいて嬉しげに尻尾がはち切れんばかりに振っている忍犬。
 続くのがもふらの浮舟に霊騎と土偶が荷車を運搬していますが、その荷車には何やら荷物がてんこ盛り。
「なんか、良い匂いがするな……」
 その一行が許可を取って居た為くぎられて場所が空けられている付近で、日出を見るために良い場所を取りに来ていた周囲の人達が反応し始めていて。
「凄ぇ、天儀では相棒達とあんなに集まって日出を見るのか!」
「いや、誤解だから」
 開拓者ギルドで縁が出来た様子の天儀の一般の方に日出に連れてきて貰っていた泰拳士の青年である陽星が眼を輝かせて言うと間髪入れずに天儀人が突っ込みを入れて見たり。
「暇ならついて来るといい」
 口元に笑みを浮かべ、腰にはジライヤの符に管狐の宝珠を下げ、ミズチの入った瓶を抱えていたからすの言葉に二人は目を瞬かせるも、面白そうと思ったのか列に加わって。
 夕日を遮るには既に遅い時間ではありますが、相棒に興味があるような一般の方や、どうせなら日出でも見に行ってやろうという様子の人達も、興味深げに恐る恐る加わって用意された一角へ。
「ぴ」
 鬼火玉の陽炎燈が最後尾を飾り、そこで待っていた港の職員達にご挨拶、舎で鷲獅鳥と四龍を回収して、場所に辿りつけばてきぱきと広げられる茣蓙、荷台から降ろされる大量のお酒と、大振りのお重が幾つも並び、目を瞬かせる周りの人々。
「宜しければ皆どうぞ」
 微笑を浮かべたまま進められれば、ギルドの人も港の職員も、開拓者も一般人も区別無く勧められるのに、じゃあこれも、と持ってきたお酒やお菓子をそれぞれ差し入れながら周囲の人達は茣蓙に加わります。
「お、これ凄く旨い」
「それは私とそこにいる人妖とからくりが作った物だ」
「……」
 人妖の琴音は視線を受けて軽く黙礼をすると、どうやら他の人へと料理を小皿へとよそって上げているところのよう、からくりは何という料理か聞かれて応えているところ。
「日出までは今暫く時間がある、ゆっくりと楽しむと良い」
 からすの言葉に、暫くの間年越しの宴が続くのでした。
「あの……」
「良いから、和奏さんはゆっくりとなさって……ね?」
 折角の年越しだからと実家に顔を出して、開拓者としての自分を見て貰おう、そう傍からは見えずとも意気込んできたはずの和奏は、お座敷の上座にちょんと座らされ、微笑を浮かべた母親に早速言葉を封じられてしまっていました。
「さ、お蕎麦を食べる時間ですよ、和奏さん」
 上げ膳据え膳、年越しと言うことでどうやらお年寄り連中も集まっているよう、賑やかにわいわいと聞こえてくる声、父親と言えば、母親がべったりな様子を微笑ましげに目を細めていて。
「その、自ぶ……」
「あら、御茶の方が宜しかったかしら? さ、久し振りに帰って来たのですから、ゆっくりと、ね?」
「……」
 開拓者としての自分を見て貰うよりも何よりも、何か言おうとしても優しげで居て何も言わせないその母親の微笑の迫力に、何となく運ばれてきたお膳のお湯のみを手にとって御茶を飲む和奏は。
「和奏さん、はい」
「……」
「和奏さん」
「……」
 座布団にちょんと収まって、すっかりと御座敷犬に逆戻り、母親に勧められるままにご飯を食べて、勧められるとこくりと頷いて、話しかけられてこくりと頷いて……。
「儂の若い頃はの」
「……」
 時間が経ってお酒が回ってくれば、既に何度聞いたか分からないお年寄りの昔話が始まりますが、特に其の辺りの話を聞くのが苦なわけではないため、二度も三度もその場で繰り返されても大人しく聞きながら。
 何だの言って状況に流されながら、和奏は鐘が鳴るのってどれぐらい後でしたっけ、とぼんやり考えて居るのでした。

●新年を迎えて
「あ、鐘の音が……」
 誰の呟きか、除夜の鐘が鳴り始め、それぞれがいそいそと居住まいを正して。
「明けましておめでとう御座います。今年も、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、今年も宜しく」
 おこたから出て、ちょんと向き直って頭を下げる利諒と舞華。
「明けましておめでとう。今年も良き開拓を」
「おめでとう!」
「今年もよろしくお願いします」
 港ではからすの言葉にわっと宴は更に盛り上がり、方々から新年を祝う言葉が聞こえて来て。
 新年のめでたさに更に盛り上がったか、興奮醒めやらず、寧ろその興奮のままに日出を拝めば、中にはそのまま力尽きて突っ伏すような人々も。
「ふむ……おおすぎやしないかと思ったが、程良い量だったな」
 大分からになったお重を眺めて頷くからす、港の一角の宴は、まだちょっとだけ続くようだったのでした。
「和奏さん、明けましておめでとう御座います」
「おめでとう」
「ぁ……おめでとう御座います。今年も、宜しくお願いします」
 ご実家でご両親と挨拶を交わす和奏と。
「凄いな……話には聞いていたが……」
 そして、新年の瞬間、別の儀で違う新年を迎えていたのは羅喉丸(ia0347)と、その相棒である人妖の蓮華でした。
 羅喉丸は泰国の令杏、街中が赤い提灯に赤い壁に掛けられたとてもめでたい飾り、そして響き渡る爆竹の賑やかな破裂音、それにあちこちから沸き起こる歓声。
 羅喉丸と蓮華が泰国のお正月を迎えていたのは、少し前の会話が切っ掛け。
「百聞は一見に如かずか、行こうと思えば、行けるのだしな」
 ふと、泰拳士になったとはいえ泰国のお正月などは漏れ聞いたことしか知らないなぁと思ったようで呟いた羅喉丸、思い立ったが吉日とばかりに支度を始めれば、出掛ける準備は万端の蓮華が待ち構えていました。
「旅は道連れ、世は情けというものじゃ」
「まぁ、良いのだが……向こうに行くなら、そうそう、手土産が必要だな」
 復興途中の泰国にある都市・令杏のことも気になったこともあり早速手土産にお酒を買って、近くについて直ぐに縁ある清璧派の詰め所へと羅喉丸は顔を出します。
「突然の訪問で迷惑でなければ良いのだが……」
「いえいえ、良くいらして下さいました。あ、結構なお酒とお魚、有難う御座いました」
「山とこちらとで半分に分けて祝いに使わせて頂いています」
 自身と近い年齢やまだ年若い門派の人達と顔を合わせて話していれば、年越しの瞬間は、清璧山のことをやっているらしい綾麗も、越してそちらが終わったら令杏に顔を出すとのこと。
「我々も年越し直前から街を見回りますが、宜しければ普通に我々の国の年越しも楽しんでいって下さい」
 そう言われて街中を歩けば、前の八極轟拳と事を構えて大変な騒ぎになってあちこち壊されたりしていたその町並みは、ゆっくりとではあるようですが手を加えられたり新しく家が建ったり、着実に復興している様子が窺えます。
 年越し前までの、一家団欒の食事で賑やかな家々の灯りを眺めて居ると、しみじみと感じる、この街を守れて良かったという気持ちが湧き上がってくる様子の羅喉丸は。
「良かった……」
 そう笑みを浮かべ呟くと、あちこちの家の戸が開き、人々がそわそわした様子で出て来るのを見て年越しの瞬間が近いことを感じ取り。
 沸き起こる歓声と爆竹の破裂音、花火の光が街中を包むのを見て。
「何のために戦うのか」
 もしかしたらこの光景が無かったかも知れない、だからこそ余計に感慨深いものを感じていた羅喉丸に、蓮華は口を開きます。
「その想いを忘れぬことじゃ、さすれば、道を違える事もなかろうよ」
「……そうだな」
 蓮華の言葉を噛みしめるようにしてから、羅喉丸は笑みを浮かべて頷くと、新年に沸く令杏を見て回っていれば、時間が経つのは瞬く間で。
「無事新年が迎えられたようですね」
「はい、怪しい奴の姿もありませんでした」
 そうして、喧騒の中で聞こえてきた聞き覚えのある声と、清璧の若い人達と言葉を交わしているその姿に気が付いた羅喉丸は。
「明けましておめでとうで通じるのかな」
「! 羅喉丸さん、いらしてたんですか? ぁ、新年おめでとう御座います」
 若者達からの報告を受ける前だったようで驚いた様子の綾麗ですが、笑みを浮かべて応えるのでした。

●新年の生活
「利諒、今戻った」
「お帰りなさい、わぁ、凄く綺麗です」
 年を越した後で、一旦家に戻って近所の人と作ったお節の煮しめと黒豆を詰め、折角だからと晴れ着で戻って来た舞華に嬉しげに迎える利諒、こちらも新年と言うことで、きちんと紋付きで出迎えていて。
「じゃあ、取り敢えずご飯にしようか」
「はい、今お餅が焼けるところです。あ、そうです、後で庄堂さんにお餅とお雑煮のお裾分けをしないと……」
 先程一度顔を出されたんですよ、そう説明する利諒になるほどと頷く舞華は。
「ん、では庄堂さんの所へ後で行こうか。お参りがてらもいいな」
「良いですね、新年のご挨拶に伺って、お参りに行きましょうか」
 そう言って笑い合う二人、舞華が出すお節、利諒の用意したお節と並べて頂きますと手を合わせれば。
「このお節、私も手伝っていたが……豆は難しいな」
「凄く美味しいですよ」
「ん……利諒の作った伊達巻きときんとんも美味しいな」
 仲良く楽しげに話す舞華は、お節を食べて笑います。
「そう言って貰えると嬉しいです……」
 舞華が喜ぶのが嬉しい様子で思わず顔を赤くして笑い返す利諒。
 暫くそうして食事を楽しむと、別に庄堂さん用にお重を積めていたお節に、自分の持ってきた煮しめと黒豆も詰めて、風呂敷に包むまいか、煮込んだ鍋より幾分か小さめの、それでもそこそこ十分にあるお鍋にお雑煮のお汁のお裾分けを移して持つ利諒。
 本当に文字どおり目と鼻の先にある庄堂巌の部屋へとお裾分けを持って行けば、ちょっとへろりとした庄堂の部屋へと入る二人。
「年末年始お疲れ様」
「わざわざ済まない、新年おめでとう……本当に助かった」
 直ぐ目の前なので、焼き立てのお餅と熱々のお雑煮と、それにお節。
 舞華と庄堂が話している間に、利諒はお鍋を設置しお椀によそい、お餅を入れて卓へと並べ、食べられる支度をすっかりと済ませて。
「じゃあ、僕達お参りに行ってきますね」
「ああ、本当に済まないな、気を付けて行ってこいよ」
 ご近所様とも道々行き合う度にご挨拶をしたりして、早速参拝に向かえば其処は既に凄い人だかり。
「凄い人だな、はぐれないよう、と」
「大丈夫ですか?」
 人だかりの中でぴったり寄り添っての初詣、今年の無事と幸運を祈ると二人が向かうのは御神籤。
「利諒は中吉か」
「舞華さんは大吉ですね」
 お互いに良い年になりそうですね、そう笑って、改めて今年もよろしくと利諒に伝える舞華、こちらこそ、と応える利諒は舞華の手をきゅと握って。
「こうして一緒にお参りに来られて良かったです」
「私もだ。さぁ、戻ってお雑煮を食べようか」
 のんびりとあちこち冷やかしながら戻り、部屋に入ればお昼に丁度良い頃合い。
 改めて温めたお雑煮を利諒が出せば、お椀を手にとって食べてから、舞華はにっこり笑って。
「うん、年末の蕎麦も美味しかったが、お雑煮も本当に美味しいな」
 その言葉を聞いて、利諒は本当に嬉しそうに笑うのでした。
 その頃和奏は、ご実家で井戸水を汲み神前に捧げる若水取りを執り行った後……相変わらず座布団の上にちょんと飾られています。
「……」
 どうしてこうなったんでしょう、小さくそれだけ考えるも、あまり深く考えることもしないようで。
 帰省中、結局の所開拓者である自分の道を、ご実家に示せる機会はないようなのでした。

●あなたらしい年始
 神楽の長屋の一室、新年を迎えた中で静かに無口に、日当たりが良い明るい縁側に腰を下ろしているのは墨雪(ic0031)、その膝に鎮座してるのは長屋に住み着いている一匹の猫。
 新年を迎えているはずは筈なのですが、特に極端に変わることはないよう。
 とは言え、こんな風にゆったりした時間を過ごしているのは新年だからなのかも知れません。
 この長屋に住み着いている猫は、他の部屋が帰省中だったり宴会に出張っていたりしている中、ゆったりした時間を過ごしているこの部屋の居心地が良かったよう、ちょこちょこと近付いてくれば顎をそっと撫でる墨雪。
「うにゃぁ……」
「……」
 撫でられていればぐるぐるとはするものの、何か言いたげな様子の猫、少しだけ考える様子を見せた墨雪は、夜に買ってきて半分だけ食べたお魚があったことを思い出し。
「……白身魚で味も濃くはない、まぁ大丈夫だろう」
「ふにゃあんっ、みゃぁぁんっ」
 お魚があると分かれば、まるで溶けてしまいそうな勢いでの甘えっぷり、身を解して出してやればにゃぐにゃぐと夢中で食べる猫は、まさしくお正月のご馳走気分。
 食べきって満足したのか、縁側で本を読むのに戻っていた墨雪のところへてこてことやって来た猫は、のしっと、まるで当然のことのように膝に乗っかり。
「うなぁ……」
「……」
 撫でれ、といわんばかりの態度になでなでと背を撫でてやり顎を撫でてやれば、ぐるぐるごろごろと響き渡らんばかりの音を立てて膝で丸まっていた猫、次第にぐでんとお腹を見せてぐっすりと夢の中へ。
 それをちらりと見て、動くでもなくそのままのんびりと本へと目を落とし読書を続ける墨雪は。
「う、なぁ……」
 本に没頭していれば既に空は茜色、満足、といった様子でくわくわ欠伸を繰り返しながらぽてぽてと帰っていく猫を見送ると、そろそろかなとばかりに上に一枚引っかけてぶらりと墨雪は出掛けます。
 向かった先は、墨雪の住む長屋近く、有名店では無いものの、なかなか良い物を出す煮売り酒屋。
 その日の煮魚をまずは深皿にたっぷり、こういったお店は高級店ではないためお値段もとても良心的。
 出てきた鰤大根に箸を延ばせば、鰤のみに柔らかく入る箸、じわりと溢れ出る煮汁で身を一つ口に運べば、あっさりとした煮汁と鰤の脂が口に広がって。
 寒ブリ……脂も多すぎず少なすぎず、これはいいぞ。
 噛みしめる度に感じるその旨味に、心の中で言う墨雪、次は色の良くついた大根へと延び、さっくり箸で割れば柔らかく、中は輝く白さが見えるのに、しみ出す煮汁に期待は膨らむようで。
 味の染みた……大根、うまし……。
 熱々で噛みしめると大根の甘みを殺さず、それでいて煮汁の出しの風味も感じられる至福。
 出てきた熱燗、徳利をつまみお猪口へと注ぎ口に運べば、口に広がる酒の風味。
 酒もなかなか旨い……キレの良い後味だ……。
 さらりと口の中に嫌な後味も残らず、香りも燗に付けたためか柔らかく鼻をくすぐって。
 そこへ、すと出される小鉢の紅白なます、箸を取り直します。
 なますは箸休めにちょうどいい……酒で温まった体をほどよく冷ましてくれる……。
 熱燗でかぁっと熱くなった身体に、ひんやりと、そして酢が口の中もそして身体もすっきりとさせてくれているようで。
 黙々とその旨さを味わっていれば、黄色と白の二層、出てきたのは錦たまご。
 正月といったら、コレだ。黄色と白で見た目にもめでたい……。
 口に運べばほんのり甘く、その優しい舌触りに僅かに口の端に笑みを浮かべて一つ頷く墨雪。
 淡々と、静かに、墨雪の年始はこうして過ぎていくのでした。
「天儀の冬って……寒すぎるわっ!」
 こちらは、新年早々おこたつむりのセシャト ウル(ib6670)、セシャトはアル=カマルを離れ神楽ですごす初めての冬を、寧ろその寒さを身に染みて感じているようです。
「……でも、コタツは最高ね」
 火鉢入りの火燵から出られない日々、寒いし暖かくしてごろごろとしていることの快適なこと。
「でもこのままじゃまずいわね。運動してないし、蜜柑は美味しいし、おモチも美味しいし……」
 つまりはそう言う事、冷静に考えてみればみるほど、流石に不味いのではと思うセシャトは、幾つかぐるぐると考えた後で、何やら思いついたよう。
「久しぶりに外にでも行きましょうか!」
 早速さっと身だしなみを調えて飛び出すと、向かう先は、何度か縁のあるご隠居、伊住宗右衛門翁。
「宗右衛門さんは芳野に住んでるのよね? ならば龍でひとっ飛び……しまった寒いわ!」
 上空で、駿龍であるセベクの背で風を正面から受けて、すっかりとその事を考えないで居た自分に固まるセシャトは。
「そ、宗右衛門さん、遊びに来たわ〜……」
「お? おやおやおや、それは空を通ってくれば寒かろう、ささ取り敢えず火鉢にあたりなされ」
 もこっと暖かく柔らかい半纏を借りて震えつつ火鉢に当たるセシャトは、漸くひとここちついたよう、丁度孫娘の伊住穂澄嬢が職務で出掛けるところだったようで、出がけにセベクも穂澄嬢からお正月のご馳走を頂いて一休みです。
「あたしよく考えたら、天儀の新年って良く分からなくて。良かったら教えて貰おうと思ったの」
「おお、儂で良ければ何なりと聞いて下され」
 にっこりと笑い言う宗右衛門翁、凧揚げや羽子板、双六に福笑い、色んなものの説明を聞きながら焼き立てのお餅をあんこに絡めてちびりちびりと小分けにして食べるセシャトは、とてもとても幸せで溶けそうな顔をして居ます。
「あぁ、おモチが本当に美味しいわ……でも、甘い物ばかりで食べるのもちょっと……」
「それならば、これは如何かな? 酢が大丈夫なら、ですがの」
「これは?」
「大根をおろしに大葉をちらして醤油と柚乃酢を好みでこう……」
「ん、ちょっと、つんときたけれど……え、わ、お、美味しいわっ♪」
 猫舌の私でも丁度良いとにこにこと食べるセシャト、どうやら程良く暖まり、腹拵えも出来たようで。
「では、正月らしい遊びでもしますかな」
「ええ。そうね、なんだか凧揚げとか、おもしろそうね」
 幾つか人型や四角に字を書くものなど、面白がるセシャトに、折角だからと凧作りから体験してみるよう、どういう形にしたいかを相談し、その大きさに、竹を組んだらどうなるか、のりしろはと楽しんではしゃぐセシャト。
 宗右衛門翁からしてもまんま孫達と同年代、どうやらとても楽しいようで、乾かしている間に福笑いをして大笑いをしたり、とても楽しい一時。
 そうして、凧の準備も万端、たこ糸が危険なので戸色々と宗右衛門翁に聞いて、支えて貰って、君と紐を引けば、ふわりと浮き上がる凧。
「わ、飛んだわ!」
 自分が作った物が空を飛ぶのは嬉しいようで歓声を上げてきゃっきゃと凧揚げに興じるセシャト、それを微笑ましげに見守る宗右衛門翁。
 一通り遊んで、興奮冷めやらぬ様子のセシャトは持ち帰るために包んで貰った凧を嬉しげに何度も眺めて居て。
「お礼に私の国の料理……は苦手だから、代わりに新年を祝う踊りはいかが?」
「おお、異国の踊りですかな」
「ええ、芸人一座出身だから、こういうのは得意なのよ♪」
 新年祝いの華やかで艶やかな踊りをお礼として披露すれば、やんやと喝采の宗右衛門翁。
「天儀のお正月って言うのも、楽しいわね♪」
 そう言って笑うセシャトは、折角だからと勧められたのもあり、お正月のお休み期間、宗右衛門翁の屋敷で目一杯遊んでお正月を堪能するのでした。