消えた若い住職
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/13 22:17



■オープニング本文

 その日、漸く色付く木々がちらほらと山を飾り始めた頃、開拓者ギルド受付の青年利諒がやって来たのは武天芳野の景勝地、六色の谷……の、外れにある山村地帯。
 自然豊かで小さな集落ではあるも、平穏に暮らしているその村で、ちょっと困ったことがあるという話を知人伝手で聞いてやって来た利諒が案内されるのは、村長の家です。
「実は、うちの村の裏手から更に山を登ったところに、小さなお寺があるのですが……」
 そう言って話を始める村長、どうやらそのお寺は長いこと打ち棄てられており村で綺麗に掃除をしたりして何とか保っていたそうなのですが、少し前にお寺の現状を聞いて年若い僧がそのお寺のことを、自身の所属する寺にきちんと伝えて、移ってきてくれたそう。
 年若くまだ二十代半ばというその僧は非常に穏やかで村人のことも良く気配り、子供達の勉強なども見てくれる、村にとってとても有難く良い関係を続けていたそう。
「そうして上手くやっていたのですが……つい昨日、うちの小さいのがお寺に字を習いにいつも通り行ったところ、ふらりと出掛けた、という様子の御住職様のお部屋のまま……御住職様の姿が見えなくなっておりまして……」
 夕餉の雑炊のお鍋が火から下ろされたまま、何かを見て上に一枚引っかけて出掛けたのでしょうか、無くなっていたのは外套が一つ、竈の火は消して出掛けたよう。
「最後に村の者が御住職様を見たのは、昨日の早朝でしたかと……」
 とても心配そうな村長やその家族の様子に分かりますよ、と頷いて依頼書へとさらさらと書き付けていく利諒。
「それで、何か心当たりは……今迄、こんな風に突然に居なくなるようなことはなかった、と言うことですよね?」
「はい、出かける時は必ず一言言伝をしてくださいました。近頃、この村の周囲で、山菜や茸などを荒らされているのみならず、動物を狙うような不届き者が居て、御住職様もお心を痛めておられたようで、そういった諍いに巻き込まれていたらと思うと心配で……」
 そう言うと、深々と溜息をつく村長、ちょこんと村長の傍に腰を下ろしていた六つか七つぐらいの少年がくいくいと利諒の袖を引くと。
「あのね? じゅうしょくさま、きつねさんのおやこにごはんあげてたの。ちかづいたら、ごはんたべないけれど、ちゃんとごはんたべてたら、むらのさくもつおそわないからって」
 村の周囲を荒らしている者たちが狐の親子を見つけたのでしょうか、ちょっと考え込む様子を見せた利諒に、もう一度袖を引っ張ると、少年は。
「あとね? ちかいうちにかいたくしゃさんたちをよんで、はぐれてたぐ、ぐ……おっきいのをほごしてもらわないとともいってたの」
「はぐれてたおっきいの……? と、兎に角、御住職の捜索と、御住職の言っていたはぐれていた大きな何かの保護を、引き受けて下さる方を捜してみますね」
「はぁ、そのはぐれていた何か、というのは私らは良く分かりませんが……兎に角、宜しくお願い致します」
 利諒が依頼書に筆を走らせれば、村長は改めて頭を下げてお願いするのでした。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
梓(ia0412
29歳・男・巫
九十九 嵐童(ia9158
22歳・男・シ
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ


■リプレイ本文

●空のお堂
「その御住職、一晩森の中で過ごした事になるな。急いで探し出したい所だが……」
 少し考え込む様子を見せて九十九 嵐童(ia9158)は言いました。 
 そこは村の小さなお寺、小さく古いお寺ではあるものの、隅々まで綺麗に掃除が行き届き、羅喉丸(ia0347)はぐるりと周囲を見渡してどこか感心したように頷くと口を開きます。
「住職を救う事は、住職ただ一人を救うだけではなさそうだな。本当に慕われているようだ」
「人に慕われるご住職様ってぇのは良いな。若いってぇ話だが、さぞかし良い奴なんだろうな」
 嵐山 虎彦(ib0213)も言えば、紅 舞華(ia9612)も頷くと、わずかに眉を寄せて。
「その密猟者というのが気になるな。トラブルがあったのではないかとも考えられるが……」
「『ぐ』のつくおっきな生き物の保護? 捕獲? とにかくそれもしなきゃな!」
「そこなんだが……土偶ゴーレム、グリフォン、一体正体は何なんだ」
「土偶ゴーレムがはぐれているってのはどんな光景か分からんが、土偶ゴーレムでも鷲獅鳥でも、放っときゃ危険なことにゃかわりねぇからなあ」
 梓(ia0412)の言葉に考える様子を見せる羅喉丸、どっちにしろやばいぞと嵐山は言うと、更に梓は口を開き。
「何となく、鷲獅鳥じゃねぇかなと思うが……まぁ、実際鷲獅鳥じゃなくても、暴れさせておくワケにはいかねぇし。大人しくさせるに越したこたぁねぇだろうしな!」
 そんなことを話していれば、受付の青年利諒が、居なかったのを見つけた少年を連れてやって来ます。
「御住職を捜すのに、少しでも情報が欲しい、何でも良いから教えて欲しい」
「うん、じゅうしょくさま、ここのところは、やたらもりをふみあらしているひとたちがいてしんぱいだっていってたの、そういうひとたちがいなければ、きつねさんのおやこも、くまさんももりのなかのものでじゅうぶんなのに、って」
「く、くま?」
「前にいちどおてらのまわりをぐるぐるしていたけれど、じゅうしょくさまといっしょにもりにはいってから、こなくなっちゃった……」
 少年へと嵐童が尋ねればこっくりと頷いて少年は口を開き、嵐山が聞いていないもののことを聞き返せば、御住職と一緒の時には怖くなかったけれど、お互いのためには近くに居すぎてはいけないっていわれたと答えて。
「後は、ぐのつく生き物なんだが……『ぐの付く大きな生き物』……もしや鷲獅鳥か? だとすると厄介だぞ」
「えぇと、ぐ、ぐ……ごめんなさい、おなまえ、おもいだせないけれど、おっきくてばさばさとぶんだって。『流石にあれははぐれていると、人も森の動物も、あの子自身にも良くない』っていってた」
「……ほぼ鷲獅鳥で間違いないか……」
「あの子?」
「さっき僕も道をきがてら聞いたんですが、はぐれているのは若いものみたいです、大人になりきってないとか言っていたとか……」
 考え込んでいた嵐童に少年が言えば、間違いないかと言った羅喉丸が頷いて考える様子を見せ、舞華が首を傾げるのに利諒が答えます。
「普段居る辺りを探せば平気かと思っていたが、徘徊しているのがそういった動物を狙った密猟者なら厄介だな」
「うちの村は作物を作ったり織物つくったりなので、動物を捕ったりほとんど無いので……」
「そういった場所だから、勝手に森に入るような奴に狙われた可能性はあるか……有難う、参考になった」
「利諒、後の手配は宜しく頼む」
「こちらの方は任せて下さい。舞華さんも、皆さんも、気を付けて下さいね」
 羅喉丸に少年が言えば嵐童は頷くと少年へ礼を言い、舞華は利諒へと顔を向け後を任せると、一行は森へと向かうのでした。

●森の探索
「……鷲獅鳥は、休んでいるのか? それらしいものは聞こえないが……」
 周囲を伺いながら嵐童が呟けば、周囲を確認しながら同じく周囲を伺っていた舞華も頷いて。
 今のところ人の気配もなく、人の気配に離れていった生き物たちはいるものの、それらしい様子も狐の鳴き声らしいものもありません。
「先程の狐の親子の面倒を見ていた辺りが踏み荒らされていたのは、恐らく密猟者達だと思うが」
「狙いは狐の毛皮だったか? どうやら追っていったみてぇだが……」
 舞華がこの辺りは足跡が確認出来ない、と小さく息を付くのに僅かに口調に怒りを滲ませて言う嵐山、踏み荒らされたその様子がそのまま共存している村を踏みにじったようにも見えているようで。
「ん? ……何か、人ではないが、呻きのような、苦しげなと言うか……」
 そう呟きながら意識を向ける嵐童、ぴたりと皆口を閉ざせば、今にも途切れそうな小さな鳴き声が嵐童と舞華の耳に飛び込んできて、その位置へと先導する二人。
 そこには、矢を射かけられたのでしょう、腹部から折れた矢が刺さり血を流し伏せている美しい毛並みの狐の姿、人から逃げるだけの体力もないようで、見つかる危険もあるのに鳴こうとしているのは、恐らく子狐を探しているように思えて。
「おう、梓?」
「任せてくれ、兄貴」
「その前に矢を抜かないとな」
 嵐山と羅喉丸とで狐を押さえて矢を抜いて布で傷口を押さえれば、直ぐに膝をついて梓が神風恩寵にて傷を癒せば、人に慣れているかのように暴れる様子もなく、そっと二人が手を離せばゆっくりと立ち上がる狐。
「坊さんが良くしていた狐じゃねぇか? 月餅でもやるかな」
 荷物に手を伸ばそうとした梓ですが、じっと一行を見た狐が、ぴくっと耳を動かしたかと思うとぴょんと獣道へと身を翻して駆け出すのに、耳を澄ませていた嵐童が口を開き。
「あちらから人の話し声らしいものが……」
「狐の鳴き声らしいものが……」
 それとほぼ同時、舞華が言う地点と、嵐童が示した地点は方向が少し違うだけ、そして駆けだした親狐の向かうのは、舞華が示した狐の鳴き声がした方で。
「近い……急ごう」
 羅喉丸の言葉に弾かれたように狐の向かった方へと進めば、背の低い木の陰に身を潜めるように身体を預けている、薄手の寝間着を身に付けた剃髪の若い男性と、その腕であやされるようにしている子狐、そして一点を睨むように唸る親狐の姿。
 どうやら剃髪の男性は足でも怪我をしたのか、それ以外にも折った矢が腕などに刺さっており、一行が近付くのに一瞬警戒した様子を見せるも、直ぐにほっとしたような、そんな表情を浮かべます。
「大丈夫ですか、皆が心配してましたよ」
「はい、大丈夫です。忝ない……身の腑はやられてはおりませんが、ちと、足を折ってしまったようで戻れませなんだ」
「おい梓、怪我しているみたいだ、見てやってくれ」
 そう舞華が御住職の傍らに膝をついて尋ねてみれば、脂汗を流してはいるも笑みを浮かべて頷く御住職、嵐童の告げる人の気配の方へと向きなおり片鎌の槍を握り直す嵐山の言葉に梓も直ぐに御住職の傍らに膝をついて手当をはじめます。
「なんだぁ? 手前ぇらは?」
「狐置いてとっとと消えりゃ、殺さないで居てやるよ」
 現れた男達は五人程、手に弓やら刀やらまちまちではありますが、実のところ荒稼ぎをして悪さをするにも、たいした実力があるわけではないようで。
「約束してしまってな。手ぶらで帰るわけにはいかなくてな」
 そう言って男達に対峙するは羅喉丸、嵐山の巨躯には驚いたようではあるも、森の生き物たちだけを相手にしていた今迄、罠や弓などで弱らせて叩いていただけにも拘わらず、自分たちが圧倒的な優位しか知らない為か完全に下に見ているようで。
「おう、どうしてもやるってんならかかってこいや。まぁ、やったことが事だ、逃がしゃしねぇがな」
 にぃと口の端を持ち上げて笑う嵐山ではありますが、怒りもあってか目には怒りが滲んでいて。
「ほざいてろっ!」
 射かける男ですが嵐山の槍に振り払われ、又突き立たない矢に焦りの色を浮かべ、身を翻そうとしても、そこに繰り出される嵐童の匕首が退路を遮ります。
「逃げようなどというのは虫が良すぎるな……」
「殺っちまえば済むこったっ」
 そう叫び斬りかかる男の刀を軽く躱すと腹部へと重い一撃を入れて叩き伏せる羅喉丸は。
「どのような事であれ、自分の行動に責任が持てないことはするべきではないのだがな」
 咎に責を負うのは当然のことだろうに、小さく呟くと刀を向けていた男の懐へと走り込むと叩き伏せて。
「な、なんなんだこいつらっ!」
「開拓者だ、よ、っと!」
 踏み込むと共に槍を振るって鎌とは別の方向で殴り伏せると、更に踏み込み様石突で突き倒して。
「さてと、後はお前ぇ一人だが、どうするよ?」
 ぎろりと嵐山に見られて、一番後ろにいた男はぽとりと弓を取り落とすのでした。

●若い鷲獅鳥
 引っ括った密猟者達と保護した御住職、それに御住職から離れようとしない様子を見せる狐の親子を、お寺にいる利諒に任せて再び向かうのは、御住職から聞いた鷲獅鳥の居場所。
「動物たちの水飲み場を占拠してしまっていて、他の動物たちと共存が難しいし、鷲獅鳥だからこのままだと鷲獅鳥も可哀相、ってか」
 まるで意思の疎通が出来ているかのように狐の親子を見ていた御住職の言葉を思い出して変わってんなぁ、と呟く嵐山。
 分散してその水飲み場の周囲を調べていれば、聞こえてくるのは呼子笛。
 集まってくれば、呼子笛の音で眠そうにむにゃむにゃとしながら頭を振る鷲獅鳥の姿があります。
「成体よりは少し小さいのか? ただまぁ、怪我をさせないように保護しないといけないな」
 嵐童の言葉に頷くと、鷲獅鳥を囲むように散って、捕獲に乗り出すのでした。
「どうどう、ちぃと落ち着け。なぁに悪いようにゃしねぇし、エサもやるから……って、痛ぇ!」
 まず分かり易く嵐山が囮に成り、がっしりと鷲獅鳥と向き合って抱えて組み合い。
 その巨躯と掴み合い羽ばたかないよう掴めば嘴で突かれればぎゃーすと悲鳴を上げながらも、離さないでいる嵐山。
 羽ばたくのを阻害するために背に乗って翼を押さえる羅喉丸、舞華が投げ寄越してくれる毛布でくるむようにして、渡される縄を摘んで反対側へと居る嵐童へ回せば、嵐山に気を取られているうちにぐるりと括って。
「どうどう、落ち着け」
 そうして、大暴れできないと分かった鷲獅鳥が様子を窺うようにはかはかしているのを、宥めるようにぽむぽむと舞華が撫でて宥めていけば、やがて落ち着いたよう。
 観念した様子の鷲獅鳥は、何処かすごすごといった様子でお寺へと付いてくるのでした。

●お寺のご住職さま
「興奮しておりまして、なかなか近付けませなんだ」
 穏やかに言う御住職は、鷲獅鳥が怪我をしていない様子にほっとした笑みを浮かべて改めて一行へとお礼を言います。
 密猟者達は村長が呼んでくれた役人へと引き渡し、漸く一段落したところで、一行は御茶とお茶菓子を出され、改めて御住職にお礼を告げられていました。
「狐が騒ぐので、様子を見に出たところ、彼等を狩ろうとしていた者たちと遭遇してしまいまして……拙僧も射かけられ、この子等を庇っているうちに……」
 御住職にも矢が当たり、それでも逃げていたところ足を取られ折ってしまい動けなくなっていたよう。
 親狐が離れたところで射られていたのは、どうやら御住職と子供から引き離そうとしていたようで、これだけ人に慣れてしまった子は、森には戻せないでしょうね、そう少し寂しげに笑いながら手にじゃれつき遊ぶ子狐とぴったり張り付いている親狐を撫でてやって。
「ご住職殿、なにか他に手伝えることはねぇか? 折角来たんだしな」
 嵐山の言葉に忝ない、頭を下げて少し恐縮しているようですが、直ぐに村人達が集まってくると、慌ただしくなってくるのを元僧籍にいた嵐山だからか慣れたように応対を手伝ったりして。
「ごじゅうしょくさま、もどってきたの。きつねさんも、ぜんぶもとどおり」
 嬉しげに言う少年に、羅喉丸も笑みを浮かべるとその頭を撫でてやるのでした。