血腐臭の追跡
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/03 21:13



■開拓者活動絵巻
1

美空






1

■オープニング本文

「こいつは酷ぇ」
 ぎりりと歯軋りをして険しい表情を浮かべるのは、武天は芳野の領主であり広範囲に渡り盗賊等の追跡と捕縛を行う任に付いている人物、東郷実将。
 ここは芳野より二日程離れた街道の宿、普段であれば峠を越える客を呼び込んだり、表の縁台に腰を下ろして御茶や団子を楽しむ人の姿が見られるその場所は、人の気配もなく静まりかえっていました。
 実将は街道を荒らす賊の噂を耳にし、自身の街である芳野が祭りであるため、部下をそちらへと割いていたので、開拓者ギルドを通じて同行者を募って出掛けてきていました。
「うわ……これは……」
 同行の内の誰がその言葉を漏らしたか、実将は慎重に宿の中へと足を踏み入れていけば、そこに転がるは二人の男女の骸、旅装束であることから、この宿を覗き込んで被害に遭ったと推測できて。
「奥にも……皆殺しか……」
 低く喉の奥で唸るように呟く実将は、宿の奥に転がる幾つもの亡骸がこの暑さで異様な匂いを発していること、そして奥の方は一面に飛び散った黒い色彩が、宿の人達が殺されて暫くそのまま投げ打たれていたことに込み上げる怒りを抑え込んでいるところのようで。
「こちらに足跡が……」
 その言葉に顔を上げると、直ぐに葬ってやることの出来ないことを詫びるかのように一瞬目を伏せ祈ると、大股に表の戸口の方へと戻り実将は口を開きます。
「奥は腐臭著しいが、その中で数日留まっていた痕跡があった。が、この男女の身体はまだ温かい。その足跡もまだ血が乾ききっていない、何としてでも追いついて捕らえねばならん」
 そう言って実将は、街道の砂の上残る街道脇の林へと消えていった赤い血の足跡を追って中へと踏み入れていくのでした。


■参加者一覧
梓(ia0412
29歳・男・巫
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
月夜見 空尊(ib9671
21歳・男・サ
李衣 マキリ(ib9934
23歳・男・砲
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志


■リプレイ本文

●惨劇の宿
「平和なのは良いこったが、何もないてェのは何ともなぁ」
「今回は幾つか情報が入れば良かったとのことですし、元々仕事は護衛ですからね」
 良く晴れた秋空、鳶が鳴いてるのを聞きつつ行く長閑な行程で、李衣 マキリ(ib9934)が杉野 九寿重(ib3226)にへらっと笑って話しかければ、九寿重は手掛かりも聞けたことですし、と真面目に答えています。
「このまま無事に初仕事を終えられれば一安心なんだが」
 宮坂 玄人(ib9942)が言う言葉に、紅 舞華(ia9612)も微笑を浮かべて頷いて。
「そうだな、このまま無事に済むのならば何よりだ」
 その少し前をさくさくと歩きつつもちょっと気になったのか梓(ia0412)が首を傾げて嵐山 虎彦(ib0213)に問いかけます。
「なー虎の兄貴ィ、結局今回の盗賊ってなぁどこ消えたんだろうな?」
「さてねぇ、ただあの小屋が蛻の殻だったから、不都合が起きたか探りが入っていたのがばれたか、どちらかだろうねぃっと」
 恐らく前者だろうがなぁ、そう言って笑う嵐山、その少し前を歩きながら、月夜見 空尊(ib9671)は微かに眉を上げて街道沿いの建物を見ます。
「あれは……先達て立ち寄った宿か……」
 探索時目的の村に向かう途中に立ち寄った場所で、それも数日前のこと
「なにやら様子が可笑しいようだが……」
「遠目から見ても動きがあるようには見えねぇな」
 月夜見が言うのに、徐々に近付いてくる宿を見てそう呟くように言う東郷実将、実将は宿の近くに来るに従い妙な予感めいたものがあるのか徐々に早足となり、宿前につく頃には急ぎ足で開いたままのとの中へと踏み込みます。
「こいつは酷ぇ」
 ぎりりと歯軋りをして険しい表情を浮かべる実将、急ぎ歩き出した実将に次いで宿の半開きの入口までやって来た一同。
「うわ……これは……」
 酷い、そう言い掛けた言葉を押さえる舞華、覗き込んだ李衣が顔を顰めて口を開いて。
「うは、すげェ臭い」
 普段であれば峠を越える客の呼び込みや、表の縁台に腰を下ろして御茶や団子を楽しむ人の姿が見られるその場所は、噎せ返るような血の匂いと静けさに包まれていて。
「でもこんだけの血の海なら足に付いたりして痕になってるカモ」
 その言葉に頷き実将は慎重に宿の中へと足を踏み入れていけば、そこに転がるは二人の男女の骸、旅装束であることから、この宿を覗き込んで被害に遭ったと推測できます。
「奥にも……皆殺しか……」
 低く喉の奥で唸るように呟く実将は、宿の奥に転がる幾つもの亡骸がこの暑さで異様な匂いを発していること、そして奥の方は一面に飛び散った黒い色彩が、宿の人達が殺されて暫くそのまま投げ打たれていたことに込み上げる怒りを抑え込んでいて。
「東郷様、こちらに足跡が……」
 舞華のその言葉に顔を上げると、直ぐに葬ってやることの出来ないことを詫びるかのように一瞬目を伏せ祈ると、大股に表の戸口の方へと戻り実将は口を開きます。
「無辜の方々を、惨いことを……」
 僅かに目を伏せて言う九寿重は、無念を晴らします、ときっと表情を引き締めると、殿所に念の為紙に立ち入りを禁ずと記し戸を閉じて。
「奥は腐臭著しいが、その中で数日留まっていた痕跡があった。が、この男女の身体はまだ温かい。その足跡もまだ血が乾ききっていない、何としてでも追いついて捕らえねばならん」
「東郷の旦那、急ぐとしやしょう。あの手の輩は野放しにしちゃおけねぇ」
「おう、皆、行こうぜっ!」
 実将に嵐山が言えば、梓も声を上げ、一同は血の跡の消えた森へと足を向けるのでした。

●追跡
「頼むから見つかってくれよ……」
 祈るように呟く玄人の手の中には、首からさげたダウジングペンデュラムの円錐。
 森に入って暫く歩けば、血の跡も土に混じって分かり辛くなっていて、九寿重と玄人は交互に心眼を用い、また舞華の周囲の探索もあり辛うじて細い手掛かりを伝って居る状況でした。
「まだ、辛うじて血の跡があるので……こちらなのは間違いないでしょうね」
「……足取りはつかめそうか? 助かるぜ」
 血の跡を見つける度に歩調が早くなる九寿重、大股でずかずかと無造作に槍を担いだ虎彦はそう言いつつ、その実周囲に絶えず気を配っているようで。
「しっかし、アヤカシ絡みなんか、本当にただ狂人なんかがわかんねぇな」
「経験則だが、こういう輩は、大概が人間だ」
 がしがし頭を掻いてこちらも木刀を担いでいる梓に、実将はそう言ってアヤカシではないだろう、そう答えます。
「敵の戦力が読めぬな……此方も、警戒をすべき……か」
「足跡の様子を見た限りでは、居るのは三人と思うが……そろそろ血の跡が薄れてきて辿り辛いな」
「離れているカラか匂いも今のところ感じられねーし?」
 月夜見が周囲にちらりと目を向けて言えば、木々の中、少々薄暗い周囲を見渡しながら頷く舞華に、嫌な気分ダヨナァとさっきの匂いを思い出したのか眉をしかめる李衣。
「何にせよ、三人っつったっけ? その三人全員と一度に遭遇出来たらイイんだが」
 他所に逃げられんのも避けられるしサー、そう面倒が無くて良いと李衣が言っていれば、弾かれたように顔を上げるのは、丁度心眼を使った玄人。
「このまま前方に、人らしき反応が一つあった」
「急ぎましょう、追いつけます」
 玄人の言葉に九寿重が言えば、一同は足を速めて進むのでした。

●外道
「おっとっ!」
「……?」
 ぎぃんと突如響く金属音、弾かれたように音とは別、周囲へと警戒を強める一同は、響いた音の直後にがさりと枝を揺らす音に目を向けて。
 響いた金属音は、突如飛び込むように現れた紺の塊と腐臭、それが体格もあって目立ったのでしょう、嵐山の喉元を書ききろうとでも言うかのように飛び込んで来たのですが、それを警戒していた嵐山の槍が受け止めた音でした。
「へっへん、んななまっちょろい一撃で俺の首が落とせるかねぃ」
 受け止められたそれに怪訝な表情を浮かべた影の目元を見た嵐山は、斬り付けた影が受け止められたと同時に飛び退って物凄い勢いで距離を取ったのにぃと口元に笑みを浮かべて言うと。
「追わねば」
「っ、もう心眼の範囲にいませんっ」
 影は一足飛びに寄ると、斬り付けた直後に一瞬にして距離を取っており、木々の中に飛び込んだように見えた男に、九寿重が心眼を使うもそう言って。
「この森は奥の方は崖やら何やらで知らなきゃ抜けられねェ、とか言ってたナァ、付近の村で」
「じゃ、すれ違って見逃さねぇように気ぃつけねぇとなッ」
 山刀、自身と同じ名であるマキリに手で触れ確認した李衣がそう言うと梓は声を上げて。
 それに応えて一同改めて先へと足を踏み入れれば、虚心にて自身の回避を上げていた九寿重が身を翻し、構えていた玄人の盾に突き立つのは幾つもの苦無。
「……っ」
「くっ」
 苦無は前へと立つ四人、九寿重と玄人、それに嵐山と月夜見へと更に襲いかかり。
「気かねぇなぁ」
「ふむ……」
 ですが分厚い嵐山のジルベリア製腕甲に阻まれ、また月夜見は事も無げに刀でその苦無を打ち払います。
「……ぁ……」
 更に先へと幾度かの苦無をかいくぐり先へと進めば、森の木々の中、九寿重がそこに見える木々の先へと目を向けて。
「ありました、反応がこの先、三つ!」
 心眼の届く距離、そこに三人居ると読み取った九寿重が告げれ一気に心眼で気付いた逃亡者達へと迫れば、木々が開けると同時に左右よりぎらりと何かが光揺らめき志士の二人へと振るわれるも、割って入るのは月夜見と嵐山。
「我が、相手だ……!」
「ぬおぉおおおっ!!」
 受け止められた男は巨躯で髪を振り乱し、その服のあちらこちらが黒い飛沫に染まっており、野獣のような叫びを上げて大刀を振りかざし月夜見へと迫り、その様はまるで邪魔をされたことをに猛り狂っているようで。
「獣に、なりさがるか……」
「面白くやっていたところを、邪魔し腐りおってええっ!!」
 獣のような唸りのままに一刀二刀と力任せに振り下ろされるのを躱しながら僅かに眉を顰める、月夜見。
 素早く身を躱し続けながらも、その表情が揺らぐことはなく、男の様相を見つめていた月夜見は。
「人は……うつろうもの、か……」
 まずは右腕の腱を。
「ぬしらは、何を求めて斯様な事をする……?」
 次に左足の腱を、確実に断ち切り。
「う、ぐ、ぐ、ぐあああああっ!」
 そして、もはや人とは思えない絶叫を挙げて残された左腕で振るう大刀にすと半身ずらして躱しきると、そのまま跳ね上げるように刀を振るい一閃。
「ぁ……が……」
 濁った呻きを僅かに漏らすだけで、巨躯の男は崩れ落ちるとそのまま動きを止めるのでした。
 虎彦が受け止めたのは、実将と近い年頃の壮年の男、がっしりとした体躯ながらも小柄、尤もそれはもう一人の男や嵐山と対峙しているからかも知れませんが。
 男は受け止められたと見るや飛び退って距離を取ると、更に下がろうと周囲へと目を向け。
「待ちやがれ下郎共! 逃げるしか出来ねぇんならこの鬼法師が地の果てまでも追いかけるぞ!」
「下郎、と申したか……ッ!!」
「おうよ、手前ぇなんざ外道と呼ぶのもおこがましいや、下種の下郎ッてんだ」
 嵐山の言葉に激昂する男、それを見てにぃと笑いながら更に馬鹿にして笑えば、男は逃亡のことを頭から完全に消したようで。
 そこから打ち合う刀と槍、男が斬り掛かれば嵐山が腕甲と槍とで受け流し、繰り出される槍に、男は押されながらも辛うじて刀で凌いで。
「刀で槍に互角に持ち込まれる、か。出来りゃあ捕らえたかったんだがな」
 東郷様ん前でだしよ、嵐山はそう言いつつもぎっと槍を扱いて男を睨み付けて構えると。
「虎の兄貴、頼むぜッ!!」
「おうよっ!」
 びしっと木刀を握りしめて神楽舞・攻をかける梓の声に応えると、極限まで集中させた槍の一撃、男の刀は腕甲を滑り、その開いた腹部へと深々突き立てると。
「おまえらの罪は、死んだって許されねぇぜ!」
「が……ッ……」
 信じられないものを見るかのように自身を貫く槍と、嵐山とに目を向けると、ぐらりと倒れる男。
 その槍を引き抜いて血降りをすると、嵐山は既に物を言わなくなった男に厳しい目を向けているのでした。
「お前が! 泣くまで! 引き金を引くのを! やめない!」
「まぁ、名言なんだが、その引き金は当たりそうなあっちのサムライに言った方がよかないか?」
 李衣がマスケットを撃っては素早く再装填して再び撃つというのをしながら言うのに、神出鬼没とでも言って良い動きをする影を相手に警戒をしていた玄人が言って。
「しかし、まぁ、気になるコトがあんだけどさー」
「何でしょう?」
 現状は後衛の李衣がマスケットを構え、九寿重と玄人がそれぞれ前方を警戒し、舞華が影の様子を伺おうと耳を澄ませ、後方からの襲撃に備えていました。
「まあ、その、なんだ……敵サンも一応、ニンゲンなんだよなー。うん。」
「アヤカシである様子は無いな」
 人間と言いたくはないが、と返す舞華は、耳へと入った僅かな葉音に気が付き弾かれたように顔を上げて。
「来る……」
 一瞬にして寄った影の刀に、探索を重点としてきていた舞華は辛うじて引き抜いていた降魔刀で防戦するも素早く攻勢に出ている影を相手に苦心していて。
「こっちを無視はナイよなぁ?」
 と、舞華の直ぐ横に突き出されたマスケットの銃口、放たれる銃声に身を躱した影ではありましたが、影の横から繰り出されるは修羅の里の刀、牙折の刃。
「アンタらの所業もここまでだ。修羅道を謳歌できたんだからもう充分だろ?」
「そうそ、銃ってな、当てるだけが能じゃねーんだぜ?」
 炎を纏ったその刃が影の左腕が断ち切られ跳ね飛ばされて、がくりと地に落ち足の止まる影は、ぎりと見える目元だけで睨み付けると身を翻そうとしますが。
「罪のない人々を手にかけた罪、逃げられると思うな」
 その退路を塞いだのは舞華、右腕で辛うじて抜いた様子の苦無を向け、退路を切り開くため飛びかかろうとするも、そこへ低い体制を維持したまま滑り込んだ九寿重が集中し威力を増した刀で足を打ち払います。
「逃しません。殺された者達のためにも」
 九寿重の言葉、ここまでしても声すら発さず睨め付けるその影は、尚も苦無を握り、一同の後方に控える、静かに怒りを湛え見る実将へと腕を振るおうとし。
 きぃんと言う小さな音と共に地に落ちる苦無、舞華がそれをはたき落としたところで。
「……! ……!」
 声も無く激昂する影ですが、その前に立つのは李衣。
「少ォしばかし可哀想な気もしないでもねーけどよ。なんつーか、そのー……被害者が増えるのダケは勘弁してほしいからサ」
 何とかして誰か一人でも道連れにしようと藻掻く影に僅かに目を伏せると改めてマスケットを影へと向け口を開く李衣。
「……悪ィな、眠ってくれや」
 一発の銃声と共に、最後まで抵抗しようと藻掻いていた影は、その動きを永遠に止めることになるのでした。

●弔い
「……悲しむものは……無し、か……。生を求めて、生きたのか……?」
 賊たちの遺体を近くの役人へと引き渡す様を、一歩離れたところで見ていた月夜見は呟いて、ふと視線を空へと向けます。
「……求めて、生きる……我には、まだ分からぬ……」
 その視線は、空ではなく別の何処かを見ているようでもあり。
「あの、さ……終わったし、役人に事情も話してはいるけど……あの宿、戻らないか?」
「そうだな、せめてゆっくりと休んで欲しいと伝えたいしな」
 玄人が言う言葉に舞華も頷き。
 宿へと戻ってくれば宿の裏手の山の入口に穴を掘って埋葬しているところで。
「兄貴、ヤッてもらってイイッスか?」
「ああ、俺も元からそのつもりでな」
 破門された身だがなぁ、そう言って手を合わせ唱えるお経が終われば、出来れば正式に僧侶を呼んで弔ってやってくれ、と役人に告げる嵐山。
 埋められ急遽作られたその墓に舞華が花を手向け、玄人は手を合わせると暫し被害者達に弔いの祈りを捧げて。
「こんな言葉しか浮かばないが、どうか、安らかに……」
 幼い頃の情景が重なって見えたか、心の底から願うように手を合わせて、玄人はせめてそう願うしかできないのでした。