辿り付く夏・暗闇で勝負
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/17 19:40



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルドに珍妙な人物が現れました。
 珍妙と言うには可哀相ではありますが、捻り鉢巻きに無駄にがっちり男臭いその人物は、入ってくるときょろきょろと何かを探す様子を見せて、暫く立ち尽くしていました。
「……おい、利諒。お前、ちょっと行ってこいよ」
「え、えー……い、嫌ですよ、何だか、途方にくれて居るみたいですし……きっと間違ってここに来たんですよ」
 他の人達はそれぞれ仕事で忙しそうですが、運悪く休憩に入ろうと、お煎餅の入った木の器と御茶道具を抱えていた利諒と、ご相伴に預かろうとしていた庄堂巌、二人のギルド受付が通りかかってしまって。
「お、おおお、丁度良い、お前さんで良い! なんか親近感が沸くしなっ!」
「そ、そんなこと言われましても、こちらとしてはご存じないですよーっ」
 そして、大概の場合、運悪く利諒が確りと掴まってしまうわけで。
「冒険者に挑戦したいんだっ!」
「ここ、冒険者ギルドじゃなくて開拓者ギルドですよ?」
「へ……?」
「ですから、開拓者ギルドです」
「……ぼ、冒険者ギルドだと思い込んでた。まぁ良い、兎に角、挑戦したいんだ!」
「い、いえいえいえいえいえ、良くないです、ってか、何をどうしてどう挑戦するんですか!?」
「よくぞ聞いてくれたっ、これは復讐なのだ、毎回毎回店を潰される、もはや勝つまでやるしかないのだっ!?」
「……それは、対象が変わっちまったら意味ねぇんじゃねえのか……?」
 ぼそりと後ろで聞いていた庄堂が言えば、困ったような表情で事情を聞こうとする利諒。
「えぇと……勝負って何をするのですか? あと、その、どちら様でしょうか?」
「見てわからねぇか? 金魚屋だ。あと、勝負は初心に戻って、小屋を二つ用意した。片方は生け簀、片方は釣り堀だ。で、魚の掴み取りをして貰おうじゃねえか、暗闇の中で」
「……あ、あの、金魚は……?」
「……ふ、そんな瑣末なこと、もう忘れたさ」
「……」
「……まぁ、出してやりゃあ良いんじゃねぇか? それでこのおっさんの気が済むなら……」
 何とも言えない表情のままの庄堂に、利諒は疲れた表情で依頼書を取り出すのでした。


■参加者一覧
/ 梓(ia0412) / ペケ(ia5365) / 嵐山 虎彦(ib0213) / 无(ib1198) / セシャト ウル(ib6670) / 莉乃(ib9744) / 雪邑 レイ(ib9856


■リプレイ本文

●小屋の前
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損……でいいのか、これ……」
 何かが違う、そう呟いて遠い目をするのは无(ib1198)、そこは芳野のお祭の真っ最中、腕を組んで仁王立ちの親仁と、その傍らに聳え立つ木製の小屋をみて、本当に何とも言えないといった表情で。
「……依頼書を斜め読みなどするのではなかったですね……」
 傍らには尾無弧がくいと首を傾げて見上げており、ふぅ、と一つ息を付くと小さく頷いてみせる无。
「金魚屋さんがやるのが、金魚掬でないのが、どうにも……」
 掴み取りと言うことは、魚でしょうけれど、と呟くも、何とも言えない良い笑顔で見返してくる親仁を見て、遠い目をしながらも緩く笑みを浮かべると、无は尾無弧を撫でてやって。
「こうなったら楽しみますよ、ええもう、力一杯全力で」
 ちょっぴり自棄に見えなくもない様子で无はそう呟くように言うのでした。
「これは金魚すくいでは駄目なのか……?」
 同じく疑問を持ったのか何とも言えない表情を浮かべるのは雪邑 レイ(ib9856)、動揺をしているわけではないのは流石ですが、個人的には掴み取りよりはと言う様子で。
「その方が風流でもあって俺は好きなのだが。金魚すくいのごとく……か?」
「い、いや、金魚掬をするってんだったら……え、えぇと、少し待ってくれ」
 この場合は金魚掬いを準備した方が良いのだろうか、何故か金魚屋の親仁なのに激しく動揺していたり。
「さーて、頑張りますよー!」
 手をわきわきさせて小屋の前に立つペケ(ia5365)も。
「勝負ということなら、手加減は出来ませんね」
 そして莉乃(ib9744)もヤる気……基、やる気は十分のようで。
「お魚ってあまり詳しくないのよね」
 口元に指を寄せてちょっと考える様子を見せているのはセシャト ウル(ib6670)で、その表情は即にいたずらっぽい表情を浮かべると、満面の笑顔を親仁に向けます。
「ねえねえ、おやじさん。お魚ってどんなのがいるの?」
 ついでにどのあたりが狙い目なの? などとこっそり助言を貰おうとしていたりして。
 比較的真面目な顔をした男性二人に華やかな女性陣三人が小屋の前で勝負の時を今かと待っていると、そこにのっしのっしとやって来るごつい影二つ。
「なんだか良く解らねぇが、暗い小屋ン中で魚の生け捕りすりゃイイんだろ? ヤってヤルぜ!」
「いやはや、変なことを考える親仁もいるもんだな!」
 昔のやんちゃの名残か偉く鍛えられたガタイの梓(ia0412)がにと笑えば、嵐山 虎彦(ib0213)も呵々と笑って腕が鳴るねぃ、と腕をぶんぶんとぶん回していて、こちらもやる気は満々です。
「と、兎に角、これで挑戦者は全員揃ったってこったな! じゃあ、早速始めようじゃねえかっ!」
 そう言って親仁は二つの小屋の前に立ちます。
 どうやら並んで建つ簡素な小屋は中扉と物凄く短い廊下で繋がっており、暗闇のまま掴み取りの小屋と釣りの小屋を行き来できるよう。
「掴み取りがちょいとと思って釣りに行っても、釣りがかったるくなって掴み取りに行っても良い親切仕様だ!」
「ふと、構造に疑問があるのだが……掴み取りの小屋から釣りの小屋に移動したところで、戸の前ぐらいは、足場があるのだろうな」
「………………な、何のことだろうな」
 雪邑の質問にぎくしゃくと視線を明後日の方向へと向ける親仁、暗いだけではないだろうと思っていたが、と言うのに思い出したことがあったのか付け足すために親仁は口を開いて。
「あ、それと、さっき釣り堀の方に金魚を追加で放しておいたので、掬う場合はそちらで……」
「慌てて追加したのかよ」
「掴み取りの方に入れたら確かに大変なことになりそうですが」
 梓が言えば、莉乃は提示された条件を反芻すると理解しました、とばかりに頷いているのでした。

●釣り堀の中
「わきゃーっ!?」
 奇妙な声を上げたのはペケ、釣り堀の中にシノビらしく静かに侵入した、筈でした。
 彼女の敗因は、どじであったこと、たぶんこれは小屋の中に何かが仕掛けられていたから、というわけではないでしょう。
 てい、と降り立った足場が突貫工事で釘で打ち忘れて止められていなかったようで、派手に踏み抜いた板が、凄い反動で跳ね返ってきてしまっただけ。
「うぇあ、は、っ!?」
 なにやら奇妙な声を上げて板に弾き飛ばされたペケは、一瞬見えた何かに捕まって踏み堪えようとするも、入り口の扉よりぽーいと放り出されて。
「きゅう……」
 明かり代わりにつける予定だった、天井から釣り下げられていた線香花火を握りしめたまま、ペケは目を回しているのでした。
「気を付けないといけないね」
 傍らの尾無弧に話しかけながら、ゆったりと釣り糸を垂れる无は、物凄い勢いで釣り堀用の小屋に入って来て、あっという間にぽいっちょと外に放り出されたように見えたペケを見送っていました。
「ん……なかなか食いつかないか……」
 ちょんと投げ入れては何かが触れた気がしたら直ぐに引き上げるというのを繰り返していましたが、なかなかどうして、釣り堀とは言え魚はなかなか掛かってきません。
「おや? 何か、手応えが……」
 幾度か繰り返していたところで、无の釣り糸の先に何やらくっついて来る小さなもの、それは手探りで確認してみれば、どうやらぴちぴちと暴れる感触、糸の先に食いついているのは金魚掬いに追加で加えられた金魚です。
 ほぅ、と溜息をつくと、无は改めてもう暫く釣り糸を垂らして待っていようと思っている様子。
 尾無弧は微かに小屋の壁の板と板の隙間から入る光で、きらきらと反射する水面をちょいちょいとさわっては、ぴぴぴと手を振って水を飛ばしたりしていて。
「おや……普通に本当に金魚以外も居たか……」
 そう呟くように言うと、取り敢えず釣り上げた物を、と小さな魚籠に入れていくと、程良い頃合いまで釣り糸を生け簀の中へと投げ込むのでした。
「表裏をまずは見極めて……」
 雪邑はじっくりと金魚掬のポイを注意深く観察していました。
「なるほどな……」
 何がなるほどなのか、兎に角雪邑はポイの構造じっくりと見通しての割く伝があるようです。
 位小屋の中の僅かな灯りで揺れている水面ですが、こちらもじっくりと位置関係などを確認してから、いよいよ勝負開始。
「ああ、水に触れればその分破け易くなるから気を付けなければな……」
 そう言って水面に目を走らせてから、さささとポイを動かすと、瞬く間に拾い上げられていって。
「この様に、水の抵抗を減らして……ん?」
 水中でささと攫うと持ち上げるのではなくその流れのまま袋に金魚を投入していく雪邑は、袋が程良く重くなった気がして、小屋から外へと出て袋の中を見ると。
 袋の中でぴちぴちしていた金魚の一匹が、ぺと何かを吐き出し、雪邑がそれを拾ってみてみれば、チェリーピアスが手の中で輝くのでした。

●掴み取る瞬間
「……」
 生け簀の中が賑やかになる前に、じっと立ち止まって足下の水の中の気配を探っているのは莉乃、傍らの足場には水の張った盥が置かれています。
 静かな小屋の中で、遠くからは喧騒しか聞こえず居れば、暗闇の中でも足を撫でる魚の感触が解って。
「……――っ」
 小さく息を吐くと、研ぎ澄ました感覚でざっと生け簀の中へと手を入れれば、そこには大きな、ともすれば人間の太股程はありそうな大きく太い魚をがっしりと捕まえて。
「良し……」
 それを盥にそうっと入れるのは、魚を傷つけないための様子、同じ流れで、二匹三匹と捕まえていたのですが、そんな莉乃の手に、魚に引っかかって流れていた様子の油紙で包まれた包みが。
「……これは、何でしょう?」
 盥も一杯になったことだし、そう呟いて小屋を盥抱えて出てみれば、その中身の立派さに親仁はぽかんと口を開けて見るも、包みを確認するために莉乃が包みを開き始めると、中から網タイツ出てきたのを見てあわあわとします。
「けっ、景品は、適当に集めて適当に人の手を借りて包んだ新品だからっ」
 問題はそこではないのですが、親仁の言葉に小さく首を傾げると、莉乃は盥の魚たちが傷付いていないのを確認してから、そっと生け簀に戻してやるのでした。
「狙いは大物! あたしの鞭にかかれば、一本釣りよ!」
 暗闇の中、怪しくうねる鞭をしゅぱーんと振るいながら傍らの盥にがんがんと魚を捕っては引き寄せて入れて行くのはセシャト、重し良いように良く捕れるお魚が又楽しそうなのですが……。
「さあ、待ってなさいお魚さん! ……って、沢山釣り上げれば勝ちよね? 釣った後戻してあげるから、ちょっと我慢しててね!」
 そこはかとなくお魚のことも気遣っている様子、小屋の大きさでちょっぴり現状順番待ちのためかそこにいるのは今のところセシャトのみ、そこへ釣り堀の方の小屋の扉が開き掴み取りに入って来たのは无、どうにも釣り堀は単調になってきたためのよう。
「あ、っぶない!?」
 丁度其の辺りにひゅっと鞭を繰り出していたセシャトの声で咄嗟に立ち止まった无、无とその足場は何とか鞭は避けた物の、近くの足場の支え棒を引っこ抜いてしまい、そこの足場の板が二、三枚ばしゃんと生け簀に落ち、何かを跳ね上げて。
「っと、何かしら? これ」
 跳ね上げた物をぽふっとキャッチすれば、油紙に包まれた何かに首を傾げてから、无の所へ歩み寄ってちょっぴり申し訳なさそうに頬を掻くセシャト。
「あー……ごめんね? 大丈夫だった?」
「ええ、声を掛けて頂いたので、踏み留まれました」
 そう答える无とこくっと頷く尾無弧にほっとしたような表情で笑うと、大漁だし、取り敢えず私はそろそろ出ようかしら、と小屋を入口から出て行って。
「ところで、これの中身は……」
 暗闇から外にでッちょっと目をぱしぱしと瞬かせると、手にした盥を傍らに置いてセシャトは包みを開きます。
「あら」
 出てきたのはダンスヒール、サイズが合うかを確かめつつ履いてみて、かつかつと音を鳴らせば小さく笑みを浮かべるセシャトは、そのまま軽くステップを踏んでぴたり止まると満面の笑みを浮かべるのでした。
「……どうにも、滑る……」
 最初の所は真面目に掴み取ろうとしていた无ですが、なかなかすばしっこい魚相手に悪戦苦闘、尾無弧はじっと水面を見ているとぱくりと小さな魚が通りかかるのを軽く咥えて捕まえて盥へと投下していて。
「……」
 その様子を見て結構びしょ濡れの无は、真面目に掴みに行くのも飽きたのでしょう、手で円を描くようにしゅぱーんと水の中に入れて掬い上げるように魚に挑み掛かります。
 飛んでいった魚を尾無弧が咥えて回収して盥に入れていれば、何か魚と違う物を跳ね上げたのに无は目を瞬かせれば、尾無弧はそれをくわえて戻って来て。
「……布、が入っているようですが……」
 入口付近で虎彦と梓の声が聞こえてきたのもあって、取り敢えず出てみましょうか、そう呟いて出て来る右派、油紙に包まれたそれが何だろうと首を傾げて開いてみると、中から浴衣がぺらりと。
「……何故?」
 魚の使い取りの筈なのに、そんな風に呟くと微苦笑気味に无はその浴衣を眺めているのでした。

●崩壊
「さーってとーたのしみマースっ!」
 腕が鳴るぜ、と褌一丁で潔く突っ込んでいくのは梓、側に盥を浮かして問答無用に生け簀へと突入する梓は、片っ端からがんがんと掴みに行き、空振りしてもがっつり掴んでも何だかとっても楽しそう。
「おーっしゃ、俺も行くかねぃ」
 一網打尽にやっちゃ駄目? と親仁に聞く嵐山は、流石に倒壊するかも知れねぇから、突貫だし、と言う答えを聞いてにと笑って。
「しかたねぇ、腕力で獲物を掴むとするか。狙いは大物だ!」
 そのまま中に入っていけば、小屋の中で魚が乱れ飛んでいるのを見て呵々と笑います。
「俺も負けねぇぞっと。巨大鰻とかいねぇのかな? 食える魚だと嬉しいんだがな!」
 うぉりゃあ、と手近な魚を狙って掴みに行けばガタイのいい男が二人小屋の中で大暴れ、互いに相手がどこいら辺を狩っているのか賑やかなため判別が付かず……。
「どりゃああっ!」
「ごぼがぼがばばばがっ……」
「お? 悪ィ! 間違っちまった!!」
 梓がていやと掴みに行ったところ、それは嵐山の足、でも暗闇では解らないし何より一瞬大物だ、と思ったのでしょう、思い切りていやと持ち上げたら豪快に生け簀に突っ込む嵐山。
 間違いに気が付いてぱっと離して豪快にがはははと笑う梓は、くるりと向きを変えて掴み取り続行です。
「が、がはっ、あー吃驚したぃ……んあ?」
 がばっと体を起こす嵐山、右手には何やら油紙に包まれた瓶のような物、左手には、小屋の柱でしょうか、木の柱を確りと握っていて。
「あー……何もいなかった見なかった、魚やーい」
 柱の方だけぽいっと手放すと当たりを付けて掴みに行くのはぬるぬるとしたどうやら鰻、嵐山も嬉々として掴み取りに戻っています。
「ていや、此奴はでけぇっ!」
 そして盥にどんどか放り込んでいた梓は、足元で何かを踏んだ気がして、手を突っ込み、手近な柱を掴んでそれを拾い上げて……。
 めしっ、大きな音を立てる手元を見れば、拾い上げた包みと、軽い気持ちで捕まって支えにした、小屋の柱。
「お?」
「あ?」
 瞬く間にめしめしという音を立てて四方に壁が倒れ、生け簀が青空の下でフルオープン。
「あ、あああっ、やっぱり−っ!?」
 その余波でか、廊下で連結していたため、釣り堀の方の壁もめしょめしょと不吉な音を立てて倒壊するのを、嫌な予感でもあったのでしょうか、頭を抱える金魚屋の親仁。
「お、ところで此奴はなんだ?」
 バリッと包みを破いて入っていた布をぺらりと広げれば、真新しい、純白の布地に、青空の下目にも眩しい黒々とした『漢』の一文字、所謂褌でしたり。
「お、俺は酒だな、梅酒か、こいつは良い」
 手元の包みを開けた瓶が梅酒なのに笑みを浮かべて言う嵐山。
「ま、親仁、そんなにへこまず酒でも飲みに行こうぜ!」
「う、うおおおっ、また、またっ、必ず帰ってきて復讐じゃーっ」
 叫ぶ親仁を慰める嵐山の声には笑いが多分に含んでいたとか居ないとか、何はともあれ、頂けるお魚は焼いたりして食べて、釣り堀と掴み取りは明るい状態のまま屋根でも付けて、祭りの期間一般に折角なので解放しておく予定とか。
「昨日の敵は今日の友、てなもんよ。ま、これからもよろしく頼むぜ!」
 親仁の肩をぽんと叩いて笑う嵐山、何はともあれ、やはりこの夏も、親仁の敗北で幕を閉じるようなのでした。