【混夢】洋館へようこそ
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/27 21:07



■オープニング本文

※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 山奥、しとしとと降り出した雨。
 利諒が目を覚ますと、山の中にある古井戸にもたれ掛かって眠っていたようでした。
「あ、あれ? 僕は何でこんなところに……? と言うか、何処、ここ」
 目をごしごしと擦り、辛うじて古井戸と木々のお陰でぽつぽつとだけ当たる雨もびしょ濡れにはなっていないようで。
「う、このままここに居たら風邪引いちゃいそうですね、どうしましょう」
 よろよろと起きだして辺りを見渡すも、やはり森の木々、雨もありますが、どうやら時刻は夜のようです。
「えぇ……と……何か……あ、あれ? あそこに灯りが……」
 いそいそと見えた方向へと急ぎ歩を進めていけば、そこには石壁に囲まれた大きな洋館の姿、どうやら先程見えたのは二階の灯りのようで、石壁の中央には、巨大な金属の両開きの門が聳え立っていて。
「……え、えぇと……呼び鈴は無いみたいですね、開くのかな?」
 軽く触れればきぃと小さな音と共に開く金属の門は思ったよりも軽く開いて、そうっと入り込むと、きょろきょろと辺りを見渡してからゆっくりと玄関の方へと足を進める利諒。
『がしゃんっ』
「!?」
 背後で閉まった金属門に素早く警戒するように周囲へと目を向ける利諒、何とも言えない表情で居ますが、このままで居れば雨で体力を無くすだけ、せめて雨宿りできる場所に行こう、そう呟いて玄関の前までやってくると、扉を叩いて。
「ごめんください、ごめんくださーいっ」
 返事のない様子に恐る恐る信を掴んでゆっくり回せば、こちらもあっさりと開くのに戸惑うも、灯りも付いているし施錠を忘れただけかも知れない、そう自分に言い聞かせて、中へと足を踏み入れれば。
「うわっ!?」
 ドンと閉じる扉に突き飛ばされるように、利諒は暗闇のロビーへと投げ込まれるのでした。


■参加者一覧
/ 野乃宮・涼霞(ia0176) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 紅 舞華(ia9612) / 无(ib1198) / 黒木 桜(ib6086) / 羽紫 稚空(ib6914) / 羽紫 アラタ(ib7297) / 羽紫 雷(ib7311


■リプレイ本文

●迷い込んだ洋館
「大丈夫?」
 かけられる女性の声に目を瞬かせると、利諒はわたわたと体を起して周囲を見渡しました。
 そこは洋館の吹き抜けの広間、中央の階段からゆっくりとランプを手に下りてくる女性を見て、利諒は眼を丸くして。
「う、舞華さん……?」
 ゆったりと降りてきた女性は紅 舞華(ia9612)、とはいえその姿は普段の着物と違い所謂貴婦人、ゆったりとした豪奢なドレス姿です。
 舞華は利諒の言葉に上品な笑みを浮かべて小さく首を傾げ。
「どなたかに似ていましたか? 私も貴方を知ってる気がしますが思い出せません……」
「ぇ……」
 困ったような笑みを見て戸惑った様子の利諒ですが、舞華はにこりと笑うと利諒に立つように促して。
「外はこの天気ですし、どうかゆっくりなさって下さい」
 そう言ってどうぞ中へ、と促しながら階段を上り始める女性について、戸惑った様子のままに、利諒は後について階段を上り始めるのでした。
「……仕方あるまい、暫し雨宿りをさせて貰おう」
 そう言って広場の扉が開かれたのは、それから程なくして。
 玄関を開けて入ってきた保上明征は、自身の上着で同行者を雨から守っていたようで、建物の中に入ってきて野乃宮・涼霞(ia0176)は呼び鈴を押しても戸を叩いても出て来なかった館に少々不安げな表情を浮かべています。
「戸は開いていたし、あまり明るいとは言えないが灯りも付いている。あまり無人とは思えんが……」
「兎に角、どなたかいらっしゃらないか探してみましょう。具合が悪くて出て来られない場合もあると思いますし……」
「勝手に入っていくのも気が引けるが……仕方あるまい。家人が居ないか少し進んで見よう」
 明征の言葉に頷くと、得体の知れない場所と感じるからでしょう、すと明征に掴まる涼霞、二人は慎重に建物の奥へと進んでいくのでした。
「洋館ですか……うーん、取り敢えず色々と見て回りましょう」
 招待状とそれに添えられた鍵を使って中へと入り、鍵に刻まれた番号と一致する部屋を見つけてそんなことを呟くのは和奏(ia8807)。
 天候が崩れたことにもあまり頓着はなく、部屋のベッド側のテーブルに鞄を置くと、和奏はゆっくりと心地の良いビロード張りの床を踏みしめて扉を抜け洋館の中を見て回ることにするのでした。
「さー、て……此処が何なのか、さっさと調べますか……」
 まったく、と小さく呟いて周囲を見渡すのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)、利諒と同じくまるで追い立てられるかのようにやって来た風葉は、こちらは利諒と違ってお出迎えがあったわけではないようで。
「この場合の定番は、書斎……まず書斎は何処にあるか……ちょっと、地図とか無いの?」
 玄関の広間を見渡すと、薄明かりはあるものの玄関に見取り図らしきものは見あたりません。
「はぁ、取り敢えず見て回るしかないか」
 そう言いながらもぐだぐだと立ち止まっているのも性に合わないのでしょう、取り敢えず一階から見て回る事にしたようで、風葉は広間から廊下へと繋がる戸を開けて歩き出すのでした。
「――おや……」
 无(ib1198)は尾無弧と共に首を傾げて目の前に広がる空間を見ていました。
 丁度のんびりと図書館の整理をしていた時分、準備室へ行った時に見慣れぬ本があったので台帳と照らし合わせてみようとするも、何故か台帳が見あたらず、視線を巡らせば開いた戸の向こう側、図書館の方の机に出しっぱなしになっている台帳が見えて。
 足を踏み込んだまでは良かったのですが、先程まで見えていた見慣れた景色ではなく、そこは薄暗く覚えのない、小さめで2階の吹き抜けとなって居る図書室で。
「……整理が全然されてない」
 手近な所を見れば、他は生前と並び埃がうっすらと積もっている中で、数カ所ぐしゃぐしゃに棚に突っ込まれた本があって、見知らぬ所に来てしまったことよりも、その棚の様子に気を取られたようで、全く、と言いながら整理を始める无。
 尾無弧は時折、无を守るかのように何かへと視線を向けているようですが、その何かは尾無弧がいることもあってかそれ以上近寄ってこないようで。
「……少し掛かりそうだ」
 荒れている棚が1カ所だけではないのに、そう无は言うと、暫くの間本の整理に没頭し始めるのでした。

●羽紫家の窓辺
 少し時間は遡ります。
 利諒達が迷い込むよりも前、お昼過ぎでしょうか、この洋館にお客さんがやって来ていました。
「いやいや、折角のお祝いだから、借りてみたんだけれどね? 思ったよりもこう、立派だねぇ」
「……立派と言おうか、ちぃとばっかり不気味のほうが合ってるんじゃねぇ?」
 羽紫 雷(ib7311)がうんうんとばかりに洋館を見上げていれば、羽紫 稚空(ib6914)が何とも言えない様子で居ました。
「本当にここだったか……?」
 羽紫 アラタ(ib7297)も少し首を傾げてはいるものの、地図は確かにそこを指し示していて、鍵も歩み寄って差し入れればぴたりと嵌る為、確かに目的地であることを証明しています。
「立派な洋館ですね」
 玄関が開き広間へと入ると、三兄弟の後ろから付いて入ってきた黒木 桜(ib6086)が目を瞬かせて豪奢な作りの広間を見渡していました。
「見た目はともかく、中は手入れが行き届いているようだな……」
 外観から中に不安を感じていた様子のアラタは意外と普通な様子に拍子抜けしたようでそういえば、雷は笑顔で桜に顔を向けて。
「じゃ、俺たちは色々と準備があるので、桜ちゃんは稚空と適当に過ごしててよ」
「出来るまで、好きにうろついてろ」
「てきとーって……」
「あ、はい、わかりました」
 雷に続いてアラタの言葉、もっと言い方があるだろうとかごもごもと言い掛けた稚空は、微笑を浮かべて頷く桜の様子に口の中でごにょごにょとする形となるも。
「じゃ、折角だから色々と見て回ろうぜ」
「はい」
 気を取り直した稚空に誘われ嬉しそうに笑って頷く桜、二人で揃って歩き出せば、その様子を雷はにこやかに見送り、アラタはと言うと。
「いやだなぁ、なんでそんな目で見るんだい、あっちゃん」
「……その呼び方をするな」
「怒らなくても良いじゃないかー。で、何か言いたげだね」
 にへらと笑いながら言うと、ホールの電話機の側に折りたたまれた見取り図があるのに気が付いた雷が手に取って首を傾げます。
「あ、これ一枚だけなのか。まぁ良いや、食堂分からないし借りていこ」
 先に立って歩き出す雷に、アラタは一つ深く息を付いて。
「味付けは俺だけでやる。兄貴に任せるとせたらとんでもねぇ味付けになるからな」
「えー、信用無いなぁ」
 追いついたアラタが雷に言うのに、雷は笑いながら食堂へと入り調理場の扉に手をかけるのでした。
「……よく考えりゃ最近依頼だとかで二人きりってのがなかったからな……こいつは、絶好のラブ日和じゃねぇか!」
「?」
 プロポーズも済んでいて二人きり、自然と気分も高揚してくる稚空、その様子を隣でにこにことしながら見上げる桜は、ちょっぴりきょとんとした様子で小さく首を傾げ、その様がまた愛らしく映るのか一人舞い上がっている様子の稚空。
「あぁ、なんつーか、幸せだ……」
「私も、稚空がいてくださってとても幸せです。これからもどうかお傍にいさせてくださいね」
 ほんのりと頬を染めて微笑み見上げる桜に、くらりと一瞬思考が停止した様子の稚空、ぐっと廊下の壁に桜を押しつけて。
「好きだ……すっげー好きすぎて俺、おかしくなりそ……」
「? 私も好きですよ?」
「〜〜っ!」
 完全に思考が飛びかけたその瞬間、すぱこーんと頭が叩かれてびくっとする稚空。
「紳士たるもの、もっと慎んで行動したまえよ、我が弟よ」
 叩いたのは雷、手にはどこから手に入れたのかハリセンが握りしめられていて。
「って、手前ぇっ、ど、ど、どこから沸いて出たっ!?」
「いや、ここ、勝手口の側。ほら、直ぐそこが厨房」
「……」
「夕食の時には、こちらに伺えば良いのですね」
 壁に押しつけられた当人の桜は、食堂の位置を確認してにこりと笑い、特に稚空の意図は理解していなかった様子。
「さ、桜、外行こう」
 勝手口から庭へとあわあわと桜を引っ張って飛び出す稚空は。
「桜、足元気をつけろよ」
「はい……きゃあっ!?」
「って、言ってるそばから……大丈夫か?」
 噴水の側までやって来ながら声を掛ける稚空ですが、返事をすると同時に躓いてひっくり返りそうになった桜を、予測していたかのようにひょいと支えて覗き込みます。
「は、はい……」
 あわあわしてから、支えられて立っているのに少しほっとしたように笑みを浮かべる桜を見ると、ちらりと勝手口の方へと目を向けてから改めて桜へと目を戻す稚空。
「くっそー……兄きめ……ま、今はこれで我慢してやるよ」
「ぁ……」
 噴水の前で改めて桜をぎゅっと抱き締めると、桜に口付ける稚空。
 桜も頬を染めると目を瞑って受け容れるのでした。

●書斎の主
「おやおや……目を覚ましてしまったかな」
 そう呟くのはからす(ia6525)、と言ってもその姿は艶やかな濡れたような羽根を持つ鴉そのもの。
 そこは二階の一番奥にある書斎、本があるからか窓はカーテンで陽の光を遮っており、からすが僅かにカーテンを捲ったその隙間から僅かに陽の光が差し込む程度。
 見えるのは中庭、明るい日差しの中で幸せそうなカップルの姿が見えます。
『……良い、な……』
 微かに聞こえる声、ちらりと部屋の中に目を向けるからす、そこに誰の姿もありませんが、からすの目には何かが映っているようで。
「日が陰ってきた……今夜は荒れるかもな、こちら側は……」
 かかっと器用に笑うからす、そして、鴉の目に映る外の景色は二つ。
「迷い込む者が現れぬと良いのだがね」
 ふぁさっとテーブルへと移れば、さくさくとクッキーを囓り、紅茶で喉を潤して。
 それから、数刻。
「……お客さんが、来たようだ」
 暗闇の中、からすは呟くのでした。

●図書館の中で
「……おや、お客さんが」
 尾無弧がくいと顔を上げたのを見て、无も来客に気が付いたようです。
「――どういった本をお探しで?」
「あんたここの人……って訳じゃ無さそうね。誘導されるようにこの洋館に来たんだけど……外、出らんないのよね」
「なるほど、外観は洋館ですか……」
 尾無弧と顔を見合わせる无に、怪訝そうに首を傾げるのはやって来た風葉。
「いえ、図書館にいたのですが、扉を開けたらここで、戻れなくなりまして」
 そのうち戻れるかと思って、と言う无に、信じられないとばかりに軽く額を押さえる風葉。
「まーいいわ、日記とか無かったかしら、ここに関連してそうな。本当は書斎とかにあるんじゃないかと思うのだけど」
 念の為ね、と聞く風葉は聞いて見ただけ、と言うつもりのようですが、少し考えた无は、くいくいとそれを引く尾無弧にはたと思いだした様子で。
「そうそう、この本を手にとって、台帳と照らし合わせようと思って……」
 古い日記のようです、掠れた表紙に辛うじて読める文字を見て、そう言って風葉に差し出す无。
「まだ整理している途中だったので、これは確認してなかったのですが」
「当たり。これみたい」
 風葉が受け取ってぺらぺらと捲れば、それは女性の日記のよう。
「これ、持ってくわよ」
「はい、ではこちらに署名を……」
「なに? これ」
「貸出台帳です」
「……」
 何とも言えない表情を浮かべた風葉ですが、取り敢えず団長と記帳すると書斎の場所を確認してから図書室を後にして。
「……休憩したいな」
 大分根を詰めて図書室の整理をしたのでしょう、尾無弧と共に図書室を出ると、何処にいこうかなと呟きながら図書室を後にするのでした。

●二つの感情
「……ここは女性の部屋のようだが……誰も居ないようだな」
 次に行こう、そう言い掛けた明征は、部屋の真ん中でぽつんと立ち尽くす涼霞に戸惑ったように目を向けて。
「大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
 恋人である明征の問いかけに、一瞬切なげな表情を浮かべた涼霞ですが、にこりと笑いかけると、ぎゅっと明征の腕に掴まるように抱きついて。
「いいえ。行きましょう?」
「あ、ああ……」
 普段よりもぐいぐいと押して来る涼霞に戸惑いと、何か引っかかる様子な表情を浮かべますが。
「兎に角、人を捜さないとな」
 思案する表情を浮かべてその女性の部屋を後にする二人、少し行って別の部屋を開けば、そこにいたのは舞華と利諒。
「あ、涼霞さんに明征さんっ」
「紅殿に利諒……ここは……?」
「貴方も、私に似た知り合いがいらっしゃるのですね」
 微笑を浮かべる舞華、戸惑った表情のままの利諒が、今夜の舞踏会に出てくれと言われているのですが、戸惑った様子の利諒に明征が何か言おうとしますが、それを遮るようにぎゅっと明征の腕に強く抱きついて笑いかける涼霞。
「素敵じゃないですか。私達も……」
「あ、いや……私はまだやることがある。遠慮しよう」
 涼霞がねだるように言い掛けるも、やんわりと言葉を止めさせて言う明征。
「え、あ、あの、僕はどーすれば……」
「あぁ……すまん、こちらもちょっと立て込んでいる」
 そのまま口付けまでもねだられる勢いの涼霞を宥めつつ、手を引いて部屋を後にすると、明征は何かを決めたように歩き出すと、次に辿りついたのは書斎。
「開かない……」
「ね、ここは何も無さそうですもの、他に行きましょう?」
 扉の奥、書斎の中では鍵を開けようとしたからすですが、外から扉を開けようとするのを留めるのを感じて小さく鳴いて扉の前から離れる気配を見送ります。
「う、うう……どうしよう……」
 困ったような表情で、置いて行かれた利諒は、寂しげに見上げる舞華の表情にぐっと詰まったような色を滲ませて。
「あ、あの、僕はその、ジルベリア風の踊りとかは、良く分からないので、その……」
 もごもごと困った表情を浮かべる利諒ですが、別人と名乗っていても舞華の姿を断って振り払うことも出来ず。
「折角の舞踏会の夜ですのに……」
「わ、わかりました……」
 押される形で頷けば、嬉しそうな微笑みを浮かべて黒と白のスーツを出して首を傾げる舞華。
「黒王子と白騎士、どちらでも好きな方を……」
「その、僕はあまり真っ白は似合わない、と思うので……」
「ではこちらですね」
 黒いスーツを渡すと、音楽室へと誘う舞華は純白のドレスを身に纏い、入っていく音楽室、他に人の姿はありませんが、ぱっと華やかで煌びやかな音楽室、明るい舞踏曲が流れる中で、腕を絡める舞華にリードされて踊り始める利諒。
 一曲、二曲と踊った後、テラスに誘われ二人で出れば、灯りに浮かぶ噴水を眺めながら舞華は切り出して。
「初めて会ったのに何故か懐かしい貴方……私は、貴方と一緒にいたいのです……」
「ぁ……」
 告げられる言葉に戸惑う利諒ですが、少しだけ、迷うような色を目に滲ませてから。
「……良くして貰ったのに、済みません……僕は、やっぱり舞華さんと一緒にいたいんです」
 悲しげな目で利諒を見た舞華。
「あ、あ、れ……?」
 舞華の表情が歪んだかと思えば、利諒の意識はそこで途切れるのでした。
「何故つれないのです?」
「……あの部屋に入るまでは、確かに涼霞だったが……今は違う。私は涼霞を取り返したいだけだ」
 手掛かりを掴まないと、そう呟く明征の手に掴まったままの涼霞は、寂しげな、それでいて羨ましげな表情を浮かべているのでした。

●越えられない向こう側
「……天儀風と比べて天井が高いのですねぇ……それに畳ではなくて絨毯……が、歩く所だけ引いてあるのがこちらと逆でちょっと不思議です」
「意外とここに人が集まっているのですねぇ」
 居間のソファーに腰を下ろして、紅茶をすすりながら天井を見上げる和奏。
 先程から御茶の時間にしていた和奏の所に辿りついた无は、向かい合ったソファーに尾無弧と共にちょこんと並んで腰を下ろしていて。
「建物の造りにもよりますけど、石造りの分、声や足音が響くのですねぇ」
「どなたが用意されたか分かりませんが、この菓子美味しいですよね」
 気楽に寛いでいる二人とひとつ、
「間接照明が多いのと、おトイレとお風呂が一緒になってるのはちょっとイヤかな……」
 シャワーブースを別に作るのなら、先にトイレとバスを分けろよ……、そう口の中だけで呟く和奏、无はそう言えば、と口を開きます。
「さっき、鏡を見たら向こうの景色は晴れていたのですけれど……序でに自分の姿も映らなかったですが」
「それは絵じゃないのですか?」
 物を動かしたら同じく動いていたので、鏡だと思いますよ、そういう无に首を傾げるも、深く考えるのはやめて紅茶とお菓子を居間暫くの間楽しむことにしたようなのでした。
「先程の花瓶が動いたあれは何だったんだ……?」
 首を傾げて食卓へ料理を運んでいたアラタは、疲れているのだろうか、そんな風に溜息をついて。
「なにしてやがる……おい糞兄貴……そいつに何かしてみろ、俺の技がお前の顔面に飛び交うことになるぞ」
「え〜、蜂蜜おいしいのに♪」
 そんな会話を繰り返して料理を作り上げるのはなかなか骨が折れたようで。
「お、旨そうだな」
 にっと笑っていう稚空と、わぁ、と並ぶ料理の見事さに驚いた声を漏らす桜、全員揃えば楽しい晩餐の始まりです。
「ぐっ……、りょ、料理を運んでいる間にやられたのか……」
「糞兄貴、俺らを殺すきか……」
 食事開始と共に突っ伏すアラタと稚空の双子。
 にまりと笑って返事にした雷、たっぷりとした蜂蜜が掛けられた双子と違い、普通に美味しい食事を頂きながらの桜は笑みを浮かべて。
「この度は、本当にお誘い有難う御座います」
 桜の言葉に表情を微笑に変えると雷は桜へと向き直って。
「桜ちゃん、稚空のこと宜しく頼むね」
「はい」
 桜は幸せそうな笑みを浮かべて頷くと、稚空へと目を向けて微笑むのでした。

●日記の中身
「表情の違う、恐らくは同一人物の肖像画か……」
「……」
 甘えてもやんわりと宥めながら、屋敷を調べる明征に、ちょっぴり不満そうな表情で見上げる涼霞。
「ずるい……」
「……言いたいこともあろうし、私を恨みたいなら構わんが……それは好きにすると良い。涼霞本人でなければ意味が無い」
 きっぱりと言い切る明征に、涼霞は唇を噛むも、少しすると、何処か納得したような、満足したような表情を浮かべて、そのまま崩れ落ちます。
「っ、涼霞?」
 慌てて抱き起こして覗き込んだ明征は、うっすらと目を開けて、目を瞬かせる涼霞を見るとほっとしたように息を付きます。
「あとは、戻る方法だな……」
 明征の言葉に、何かを考える様子を見せて頷くのでした。
「あ、あれ、僕はなんで……」
 利諒が目を覚ませば、何やら板の上に括り付けられており、周囲には蝋燭が囲むように並び揺らめいていて。
 そこに思い詰めた様子で駆け下りてくる舞華、手のナイフで括っているロープを切り縛めを解くと。
「逃げて!」
 叫ぶ言葉、舞華が崩れ落ちるのと同時に、利諒は再び激しい頭痛と共に意識を失うのでした。
「君は何が知りたいのかね?」
「この日記の中身の裏付けが欲しいの」
「裏付け、ねぇ」
 書斎へと辿りついた風葉が、手に持った日記をからすへと見せれば、面白そうに笑うからす。
「恋愛も出来ずに閉じこめられたまま亡くなった女性ってのは分かったけれど、とっくに亡くなってるし、幽霊と言うにはちょっと違う気がするし」
「思い入れのある物が、何かの切っ掛けで目を覚ましたと」
「幸せそうな姿に妬みの感情が道連れを作ろうとして、羨望が身代わりになろうとしたというところだろうな」
 からすが笑うのに、溜息をついて本に目を落とせば、そっとその本に手を添える、透けた手。
「……あんたは……?」
『……私だけでは、止められないの……』
 寂しそうな女性が、私では駄目だったから、その言葉で残された羨望だと気が付いた風葉は寂しげに日記を見るその女性を見て、日記を見てから頷きます。
「羨ましかった気持ちが、別れちゃっただけと……」
 噴水の側、いつの間にか雨は止んでいて、風葉は火を熾すと寂しげに佇んでいる女性へと目を向けてから、火に向き直り日記を火へとくべて。
 館のどこかからか悲鳴が聞こえた気がするも、向かいに立つ女性は微笑を浮かべたまま、火に混じって揺らめいて、やがて煙と共に消えていき。
「おやすみ。……今度からは静かに眠れるといいね」
 火が消えると共に、何時の間にか空は晴れ、星が光っているのが見えるのでした。

●夢の終わりに
「私が私でなかった時……あなたを取られて怖かった、辛かった……」
 擦れた声でそういう涼霞に、抱き締めたまま黙って聞いている明征。
「でも、彼女がしようとした事は私が心のどこかで望んでいた事で……思えば、普段出来ない私の代わりにしてくれていたのかもしれません」
 自身の中にいた女性の、恋愛への憧れと切なさが感じられたのか、震える声できゅっと明征に掴まりながら涼霞は続けます。
「だから、彼女の思いの為に勇気を出します……私を抱いて下さい、このまま一晩ずっと
あなたに全て差し上げたいのです」
 偽らざる私の望み、そう告げる涼霞をじっと見つけていた明征は、やがてゆっくりと息を吐いて小さく首を振って。
「……いや、止そう。夢になるといけない」
「……」
 悲しげに目を伏せようとした涼霞の頬に手を添えると口付けて、笑みを浮かべる明征は。
「ここでは、な」
 屋敷に戻ってからだな、そう囁くように言う明征に、涼霞は頬を染めて見上げるのでした。
「雨が止んだんだな……帰るときは道がぬかるんで無さそうでよかった……」
 そう呟いて欠伸を噛み殺す和奏は、ふかふかのベッドに収まっていて、一晩泊まってすっきりとしてからかえるつもりのよう。
「……すっかり遅くなってしまったが……あんな所に別宅なんてあったかな?」
 寛いだ後、図書室へと向かう途中の无は、噴水側で焚き火をしている様子の風葉を遠巻きに見た後で、再び図書室へと足を踏み入れると。
「あぁ、開いているな」
 入ってきたときの扉が開いているのに気が付いて、尾無弧と共にその扉を潜ると、振り向いたそこには既に扉はなく、いつもの図書館の中で。
「はてさて、夢か、現か、幻か。どうも違う扉を開けてしまったのかね」
 そう呟くも、一つ息を付くと、帰るか、そう呟いて无は家路へと付くのでした。
「結局、崩れるかと思いましたが、今日はずっと、綺麗な星空でしたね」
「そうだなー……なんっか、時々人の気配があったような気がしたんだが、気のせいかよ」
 夜の庭を楽しげに話す桜と稚空、兄二人は片付けに回っているようで、折角の星空を楽しもうとなったよう。
「本当に楽しくて……きゃ……」
 悪戯な風が桜のミニスカートを揺らしたのに慌てると、真っ赤な顔でスカートを押さえる桜、にやけそうになる表情を必死で押さえる稚空に赤い顔のまま口を開く桜。
「す、すみません……うまく対処できなくて……」
「何言ってんだ、気にすんなよ」
 寧ろ役得、とは思ってもぐっと飲み込むと、稚空は笑顔のまま桜の手を握って暫し中庭の散歩を続けるのでした。
「……う、うん……あれ、ここは?」
 体を起こすと、利諒は頭を軽く押さえて周囲を見渡して、傍らに倒れている舞華に気が付いて慌てて駆け寄ります。
「舞華さん、舞華さん!?」
「ぅ……ん……? 利諒? 何があった? 泣きそうな顔をして居るが……」
 舞華の言葉に戸惑ったような表情の利諒は、ぎゅーっと掴まるように舞華を抱き締めると。
「夢、だったのかな……良かった……」
「ん? 本当に、何があったのか……」
 怪訝そうな戸惑った様子を見せる舞華は、ぽんぽんと宥めるように利諒を抱き締めて撫でると。
「一夜の夢、か……」
 小さく呟くのでした。
「結局、楽しげな晩餐の席以外、何も無かった。きっとな……」
 そう楽しげに笑うのはからす、屋敷の中を駆けずり回った風葉も、頃合いになれば自身の部屋で目を覚ますことでしょう、それを考えてどうにも楽しげな様子で。
「全員無事に帰り着いた、と言うことかな」
 クッキーを人囓り、紅茶を一口すすると、足元に落ちている鴉の羽根を手に取ると、にぃと笑うと。
「夢は終わったというわけだ」
 本当に楽しげに呟くと、からすは風葉が燃やしたものとは別の日記を手にとって、ぺらりと捲り読み始めるのでした。