令杏の夏
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/13 22:14



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルド受付の青年利諒は、14〜5歳程の泰国人の受付の少年孔遼を伴って理穴にある保上明征の屋敷へとやって来ていました。
「令杏、ですか?」
 やって来た二人にそう尋ねるのは、明征の屋敷で保護されている開拓者で記憶喪失中の綾麗、年の頃は16〜7歳程の泰拳士の女性です。
「一応、その町の防衛は別個に開拓者に手伝いをお願いされているんですけれどー」
 そう頬に手を当てて面倒そうに溜息をつく孔遼少年は、自身の猫っ毛を指でちょいちょいと弄りながら何やら言葉を探しているようで。
「えぇと、つまりは清璧山と令杏というのはとても繋がりが深いそうで、決まった時期に数日、お祭をするそうで……そのお祭は清璧にも縁が深いから良いのか悪いのかと思案されていたようで、外部の怪しい動きの方は兎も角、内部の警備が、その……」
 こちらも少し歯切れの悪い言い方をする利諒、その様子を見て深々と溜息をつくと、面倒そうな表情でむーとむくれて利諒に口を開く孔遼。
「だからぁ、僕は面倒だしいいじゃないですかー言われてないんだしっていったのにー」
「えぇと……孔遼君、そう言う事は言わないものです。え、えぇと……その、今日ここに来たのは、実は僕の独断なんですけれど……」
 言い辛そうにそう切り出した利諒は、清璧の人達が綾麗の無事を知って一部の破落戸を追い払った後、まだ危険と理解しつつも戻って来て再建を始めた事を話して。
 邑の周囲に低いながら石積みの囲いを二重に作り、見張り台を直し、逃げ出していた邑の人達も戻りそれに加わっていたとか。
「自分たちが少し平和に漬かっていくつもの犠牲が出たことを悔やんで、門弟さん達は村を立て直して頑張ろうとしているところで、令杏の方から手を借りたいと頼まれたそうで……僕が思うに、本当は綾麗さんに連絡したかったんじゃないかって……」
 困ったような表情でそう説明する利諒に、困惑した表情を見せる綾麗。
「現状はそんな風になって居たのですか……念の為、状況を連絡頂けるようにと、そういうお約束はしていたのですけれど……」
「なんか、確かに後継者ではあるけれどー、それ以上にー妹みたいな綾麗さんに押しつけたくないとかなんか言っていてー? 役割以上に今が大事なのだからー呼んだり連絡するのが記憶を戻さなきゃいけないって強要するみたいなー?」
「……」
 孔遼が言えば、じっと考え込む表情だった綾麗ですが、何かを決めたように顔を上げると、側で口を挟まずに話を聞いていた明征に向き直り口を開いて。
「一度、あちらに向かいたいと思います。令杏という街が縁深く、関わりがあるというのならば……篭手と私が狙われている現状の手掛かりにもなるのではないかと」
 自身に縁の深い方々の手が足りないのならば、少しでも力になりたいですし、微かに笑みを浮かべて言う綾麗に明征は頷いて。
「その祭りの巡回と、綾麗自身の護衛とを頼もう。先日同行した二人の泰国人も恐らく善意か他意かは別としても同行を申し出てくるだろうから、同行者は三人と考えて、依頼を出してくれ」
 明征の言葉に頷くと、利諒は面倒臭がる孔遼の代わりに依頼書へとさらさらと筆を走らせるのでした。


■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176
23歳・女・巫
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武


■リプレイ本文

●穏やかな祭りの風景
 華やかなお囃子の聞こえる中、令杏の建物の一室で泰国の服にそれぞれが着替えて集まれば、清璧山の留守を守る男性が打ち合わせのために来ていました。
 清璧の現時点での留守は四十になったかどうかといった男性で師範代の一人とのこと、警備の者と打ち合わせに共に来ており、綾麗の姿に嬉しいような複雑なような表情を浮かべます。
「三手に別れて俺たちゃ一般に紛れての警護と……」
 嵐山 虎彦(ib0213)が言えば軽く首を傾げる岳・陽星。
「こうなったらとことんまで付き合うつもりだが……記憶ってのぁ日常まで関わってくんのか? その、案内はともかくとして習慣的に……」
「日常生活に支障はないですし、大丈夫ですよ」
 流石にそこでは躓かないですよ、微苦笑気味に陽星に言う綾麗、表情に大分余裕の出てきている綾麗に野乃宮・涼霞(ia0176)と紅 舞華(ia9612)は笑みを浮かべて歩み寄って。
「綾麗ちゃんお久し振り。ご一緒させて貰うわね」
「元気そうで何より」
「来て下さって嬉しいです」
 見知った顔に嬉しげに話す女性陣を眺めて、ゼタル・マグスレード(ia9253)は考える様子を見せていて。
「綾麗君と籠手を狙う輩が絶えた保証のない以上、此処でも警戒は怠らないようにしなくてはな……」
 そう呟いて視線を向けるのはもう一人の泰国人で、ゼタルが以前違和感を憶えた梁・蒼仙。
 蒼仙は陽星と共に羅喉丸(ia0347)に声を掛けられていました。
「先日は申し訳なかった。状況が完全に飲み込めていなかったとは言え、それは言い訳にしかならない」
「いいえ、仕方のない頃でしたからね」
 悲しげに目を伏せて言う蒼仙はそう言うも、陽星は当然の対応だからな、そう笑って首を振っていて。
「彼女を不安にさせたくはないが……否、綾麗君はそんな弱い人ではないか」
 綾麗へと改めて視線を戻してからゼタルが呟くように言うと、微かに口元に笑みを浮かべます。
「祭を荒らす、ましてや人を傷つける悪い子は殴り倒されても仕方無い」
 鴉乃宮 千理(ib9782)が言えば同意を示すように清璧の男性が地図を出し、大凡の位置関係などをざっと説明していくのでした。
「ほれ」
「ん? あぁ、揚げ菓子か、何だかこうしてみると懐かしいな」
 屋台で売られているお菓子を一袋買うと、同行している二人に差し出すのは泰国の男性衣装を身に纏った千理、本祭はこの後のようで、先程から饅頭やこういった揚げ菓子を買っては楽しんで居る様子。
 お菓子を受け取ってもきゅもきゅと囓るとにっと笑う陽星は、清璧の武門の印であるか白を基調とし金糸と縫い込まれた青の模様のある上着を身につけた羅喉丸に目を向けて。
「実際、どんな劇っぽいんだ?」
「救村の英雄譚、とは聞いていたが……結構派手な立ち回りがあってなかなか面白いな」
 そこまで言って、声を落として続ける羅喉丸。
「……人形の武具、篭手と、綾麗の篭手は、見たところ似ている気がする。揃いの脚甲は持ってなかったようだが」
「ふーん、英雄譚の武具って言ったら、そりゃ欲しがる奴は居るかもなぁ。でも、得物は合う物を使ってこそだと思うんだが。相性とか、過ぎた力は害を及ぼすって昔お師匠に良く言われてたっけ」
 肩を竦めると言う陽星、賑やかにあちこちで聞こえる爆竹の音を聞きながら、何とも言えない表情を浮かべると微苦笑を浮かべて。
「正直な話、同じ状況だったら、俺のところは手が伸びてない山奥ってだけで、同じ事になってたかも知れねぇんだよな……」
 寂しそうに呟くと湿っぽくていけねぇなとばかりにがしがしと頭を掻いた陽星は、せめて出来ることをしねぇとは、と続けるのでした。
「陰陽師の心得がおありとか、人魂で各班との連絡をお願いしても宜しいでしょうか?」
「ええ、無論です」
 涼霞の言葉に笑みを浮かべて答える蒼仙、
「それにしても興味深いですね、こういう祭に伝承が……救村の英雄と龍の武具、と」
「龍?」
「ええ、先程そこの人形劇で、龍の化身が武具を着けた人形に変わっていました。篭手と、脚甲が光る石が埋まっていてきらきらと……」
 だから龍の武具と、聞き返した嵐山に笑みを浮かべる蒼仙。
 嵐山も祭りの前に清璧の男性に龍の英雄が降り立った話は聞いていました、そして篭手と共にあった脚甲が、装飾のみのもので魔法の武具ではないことも聞いています。
「そういえば、蒼仙さんは令杏の街の事はよく御存じなのですか?」
「良くある話しか存じませんが……この国以外の方よりは」
 微笑みながら尋ねかける涼霞に、こちらも笑みを返しながら答える蒼仙は、先程見たという人形劇の話をしたりしながら。
「本祭では大きな人形と龍の物語が見られそうですよ」
 楽しみですよね、そう言う蒼仙の、薄く浮かんだ口元の笑みを、嵐山と涼霞は目にしつつも気が付かない振りをして祭りの巡回を続けるのでした。
 舞華は出かける前に利諒と幾つか確認や相談などをしてきていたようで、手を握り会って行ってくると告げていた事を思い出しながら、綾麗とゼタルと共に街を歩いていました。
「利諒の考えでは、令杏との繋がりも深いし、この街の被害も多かったから、警護を村に頼るしかなかったのでは、とのことらしいが……どういうつもりか困ったものだ。村の復興も手一杯だろうに。……とはいえ、お祭りに来る方々の安全も大事か」
「実際の所他に方法も手段もないだろうからな」
 舞華が少し溜息混じりに言う言葉にゼタルは仕方なかろう、そう言うと、綾麗は少し困ったように頬を掻いて笑います。
「復興も自分たちの所だけで出来ることではないですからね、物資や交易とか……」
 留守の男性から幾つか話を聞いてきたようで、この比重が上がると清璧は苦しいかも知れませんが、そう言うと、人形劇の裴景にある山へと目を向ける綾麗。
「しかし、令杏を救った英雄譚か……」
「そういえば、確り思い出せるわけではないですが、ぼんやりと、あの人形劇は見たことがある気がするんです」
 魔法の武具を纏いし龍の化身とは、子供達も好みそうな話だ、そう僅かに目元を和ませるゼタルが路の脇で子供達がきゃっきゃとしながら人形劇を真似して英雄ごっこをしているのをみて呟けば、口を開く綾麗。
「何か思い出したのかい?」
「思い出した、と言うほどはっきりとは……ただ、そういえば……懐かしい感じのお爺さんに、あれはただの飾りだと笑われた気がします」
 上から確りと布を巻いて留めて、それとは分からぬようにして身に付けていた篭手に目を落としてから、これも心がけ次第で同じようなものかもしれんがと言われた気がすると言いながら、飾りだと聞いたのは脚甲の事らしく。
「それ以上思い出そうとしても、どうにも……」
「誰が何を言おうと焦らぬ事だ。今のように、掬い上げられるものもある」
「はい。有難う御座います」
 舞華の励ましの言葉ににこりと笑うと礼を言う綾麗、ゼタルは改めて人形劇と今の綾麗の言葉で関連性を考えて。
「綾麗、ゼタルはどれが好みかな」
 店主から話を聞くにしても、まずは何かを頼んでからだ、そう笑って舞華が言えば、ゼタルも、綾麗がまずは祭りを楽しんでくれれば、そう願わずには居られないようなのでした。

●波紋と混乱
 静かと言うには違いますが、祭りの賑やかさとは違ったざわめきが街中に広がり始めたのは、茜色が空に混じり始める本祭の人形劇が始まる少し前のことでした。
『街の中に八極轟拳が入り込んでいる』
『八極轟拳が根付いている』
 切っ掛けは些細なこと、八極轟拳の言葉が、何処かで発せられ、誰かが口にし返し、誰かが、それを聞いた。
 まだ恐怖の対象として、人々の記憶から消えていないその名が結局のところ、混乱に火を付けることとなりました。
 一瞬にしてその火は燃え上がり、街中が大混乱に陥ってしまいました。
「な、何があったのでしょう?」
「分かりません……何か……え? 八極轟拳……?」
「いけねぇ、落ち着かせねぇとっ!」
 戸惑う涼霞に同じく戸惑ったように混乱の原因を聞き取ろうとしてぎょっとする蒼仙、虎彦は混乱の中で逃げ惑う大人達に蹴られそうになった子供達とその人形を庇うために飛び出してきます。
「やれやれ、態々祭りをつぶしに来るのか」
「冗談じゃねえっ、大丈夫か、ばあちゃん」
「兎も角、落ち着かせないと」
 それぞれが言葉より先に混乱した人々を落ち着かせ、巻き込まれた人達を助けに動くのが、千理に陽星、そして羅喉丸です。
「二人とも大丈夫か?」
「はいっ、でももし襲撃なら落ち着かせて避難させなければっ」
「いや、襲撃じゃない……街の中で騒動が起きている」
 錯乱手前の人々から綾麗とゼタルを庇う舞華、周囲の人達の様子に舞華へ答えた綾麗ですが、咄嗟に人魂で鳥を作り出し上から見れば、街が攻められている様子はなく。
「では何故……」
 言い掛けた綾麗ですが、その視界に何かが過ぎり見上げると。
「――っ!!」
 それは狼煙銃の、合図の灯り。
「来ますっ!」
「外で動きがあった……」
 弾かれたように綾麗と舞華が見ると、ゼタルは眉を寄せて人魂から見える空からの情景に小さく呟いて。
「破ぁ!」
 市場の賑やかな場所、騒動が起きればそれとは関係無しに飽きだしてくるのは小悪党、ですが。
「どさくさに紛れて不心得者が」
 隠し持っていた独鈷杵で、略奪を始めたばかりの男が千理に叩き伏せられて。
「畜生、殴って黙らせられる悪人相手がどれだけ楽か思い知ったぜっ」
 もみくしゃにされかけつつ堪えて踏み留まって、落ち着いてくれと叫ぶ陽星、街の人達に手を出せない清璧の人間も同じようなもので。
「頼む、落ち着いてくれ」
 何とか身近にいる人達を落ち着かせようとして声を掛けつつ、誰かが怪我をしていないか辺りを確認して眉を寄せる羅喉丸。
 その羅喉丸へとすと寄る小柄な人影、小さな紙片を渡して直ぐに去るその人物は、どうやら防衛を請け負った開拓者の一人のよう。
「『襲撃はあるが、こちらは任せろ』か……」
 どう人々を宥めれば良いのか、僅かに眉を寄せたものの、羅喉丸は改めて人々へと向き直り、体を張って受け止めながら宥めることを続けるのでした。
「大丈夫かぃ?」
「ええ、有難う御座います、なんとか……」
 怯えた子供が肩に登ってしがみついている虎彦に、掴み掛かられた人から助けられた涼霞はそう言うと、それでも必死に落ち着いて下さいと声を上げるしかなく。
「く、蒼仙がいねぇ」
 そして、人混みに流されたかのように姿の消えた蒼仙。
 蒼仙は、少し離れたところで、ある人物を見つけて後を追っていました。
 その男は、道々で身に付けた装飾を引きちぎって投げ落とし、剣すら投げ捨てて人混みに紛れてしまおうとしているところでした。
「……」
「!? ……ああ、お前は幹部会で見た……」
 その前に立ちはだかった蒼仙に、救いの神を得たとばかりに縋らんばかりに駆け寄るサイハン。
「丁度良い、助けてくれ! し……」
「余計な真似を」
 言い掛けたサイハンは、言葉を失って、帯を剣へと変えた蒼仙を驚愕するのでした。

●苦悩と希望と
「埒が明かない」
 人々を傷つけないように動いていれば、やがて無理は来るもの、呻くように人々を押さえ符を構えながら言うゼタル、舞華も数が多ければ混乱を押さえるところまでは手が届かず、迷う様子を見せた綾麗ですが、顔を上げて邑の中央へと向かって走り出します。
 邑の中央、そこには人形劇のための舞台がありました。
 そこで混乱の中踏まれた人形を一瞬悲しげに見ると、綾麗は舞台へと上がって声を上げます。
「八極轟拳、恐るるに足らず! 令杏には、清璧有り!」
 武門の人間だからでしょう、良く通る声が舞台の周囲に、そして通る声に気が付いた人の耳に飛び込んでいって。
 救いを求める人に掴み掛かられて破れた布が、篭手を僅かに覗かせていたのも、人々の注意を引く一因だったかも知れません。
「私は綾麗、令杏には私達清璧も、開拓者も居る、一時の混乱に身を任せないで欲しい!」
 街の中にはおとぎ話としてであっても、令杏と清璧の龍の話は浸透していて、だからこそ、恐怖のざわめきは別のものへと変貌していき、舞台へと群がる人々に力強く頷いて返す綾麗。
 やがて、鎮圧された外の様子と、恐怖が僅かに和らいだところを宥めていた一行のお陰で、騒動は鎮静化していきます。
「蒼仙、突然消えて……ん? 誰だ此奴ぁ?」
 まだざわめきが収まっていない人々の中を抜けて歩いて行けば、嵐山と涼霞は蒼仙を見つけますが、嵐山にひっついていたこと共達に、それが何か分かった涼霞が見ないようにとこちらへと移動させて。
「八極轟拳の、何者かだと思いますが……捕らえられれば良かったのですが、揉み合ってしまって……」
 足元に転がった物言わぬ男を見下ろして言う蒼仙、警戒を続けていた嵐山の目にはその口元が僅かに嘲笑っているかのように歪んでいる気がするのでした。
「綾麗君……大丈夫かい?」
 綾麗から離れてはいけないと張り付いて後を追っていたゼタルと、同じく舞華が舞台から降りた綾麗へと歩み寄れば、当人は啖呵を切った様子とは違い苦悩の色を浮かべて、『新たな清璧の龍』の話題を始めた人々へと向けていて。
「身体が、動いたんです……」
 困ったように笑うと目を落とす綾麗、羅喉丸や千理も陽星と共に舞台の方へと戻ってくれば、用意されていた部屋へと戻ろうとなり歩き始めるのですが。
「ほれ」
「え? ぁ……」
 落ち着き始めた店から買ってきたのでしょう、袋に一杯の月餅を抱えていた千理が、深刻そうな様子を見せていた綾麗の口にそのうちの一つを押しつけ、思わずぱくりと咥えてしまう綾麗。
「祭りは楽しむが吉だ」
 その言葉に、綾麗はじわりと目元を潤ませるも、咥えた状態の月餅を手で受けて一口囓ってから、目元を擦ると笑みを浮かべます。
 千理は袋の月餅を折角だからと皆に配っていて。
 虎彦は蒼仙に死んでいた男のことを聞くものらくらと躱され、疑惑はあれど表面上は普通に会話を続けている様子。
「何が原因でいきなりあのように人々に火が付いたのか分からないが……」
「皆様の警護に落ち度は全くありませんでした」
 考え込んでいた舞華へ清璧の男性が言い、綾麗は涼霞とゼタルに心配され付き添われていて。
「綾麗ちゃん、大丈夫?」
「ええ、取り敢えずは……」
 涼霞の問いかけに頷くと、別の布で改めて破れた部分を補修して篭手を隠すようにしているも、これからのことを考えてか僅かに表情が曇る綾麗。
「どう言って良いのか分からないけど……悪いことばかりではないんじゃないか?」
 綾麗が顔を向ければ、今回の騒動で子供達には希望が出来たのでは、そういうと、羅喉丸はちょっと照れたように続けて。
「救村の英雄譚、俺もそんな話に憧れた者の一人だしな」
 羅喉丸の言葉に目を瞬かせてから、綾麗は笑みを浮かべるのでした。