お茶会を貴方に
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/17 17:19



■オープニング本文

 その日、一通の手紙を前に、開拓者ギルドの受付の青年は、首を捻って考え込んでいました。
「これは、依頼、なんですかねぇ? それとも、普通の招待状、なんですかねぇ?」
 何度も首を傾げる受付の青年、それもそのはず、受付の青年に対して送られてきたお手紙は、受付の青年に対して手渡されたものの、宛先として明確な人名が書かれて居らず。
「えぇと、取り敢えず‥‥ふむ、お茶会を開くので、どーぞいらして下さい。あぁ、この日だと、僕じゃそもそも行けませんねぇ」
 少し考える様子を見せる受付の青年、どうやらお手紙には、お茶会のお誘いが書いてあったそうで、お茶とお菓子を庭やお座敷で気軽に頂く席という説明があって。
「うーん‥‥まぁ、この場合、僕じゃなくても良いですよねぇと、差出人から考えれば、馬鹿騒ぎさえしなければお客様一杯は喜ぶ方ですし。ま、報酬無しだけれど、お茶飲みたい人はっていう風に出しておきますかねぇ」
 頬を掻くと、受付の青年は依頼書にぺしぺしと筆を走らせて。
「えぇと、ついでに、開拓者ギルドの受付は、仕事により行かれません、宜しくって言ってましたーって伝えてください、マル。うし、これで良いですねー」
 うんうんと頷きながら受付の青年は、改めて、お茶会へのお誘い、と題した依頼書を読み返すのでした。


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
野乃宮・涼霞(ia0176
23歳・女・巫
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
赤銅(ia0321
41歳・男・サ
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
瑠璃紫 陽花(ia1441
21歳・女・巫


■リプレイ本文

●お茶会に呼ばれたので
「伝言を伝える役目なのに名前知らないのも変だろ」
「‥‥あぁ、確かにそー言われればそうですねぇ。僕は利諒と言います」
 劉 天藍(ia0293)の言葉に頭を掻くのは開拓者ギルド受付の青年、そこはギルドで受付の青年は漸く一息ついて休憩中で。
「これってようするに茶と菓子で、使いっ走りになれってことね」
「ま、まぁ、そう言う事になりますよね」
 ちらりと見られて答える青年ですが、胡蝶(ia1199)は既に少し考える様子を見せていて、受付の青年は困ったように頭を掻きます。
「その方は武天にお屋敷があるのですね。私、武天に行くのは初めてなのでドキドキします」
「私も楽しみだけど、不安が一つ。武天のお茶会でと言うことは、かの国は『無骨なおサムライの多い武人の国』‥‥本当にそのお茶会は雅なもので、私が期待しているような可愛らしいお茶菓子が存在するのかな?」
 瑠璃紫 陽花(ia1441)が胸を押さえるようにして笑むと、俳沢折々(ia0401)が難しい表情でむと考えるのはお茶会でのその内容のことですが、微苦笑気味に緋桜丸(ia0026)が口を開いて。
「その辺は大丈夫だろ。そこまで無骨なら、飲み会のお誘いを文で送ったりせずに酒宴だ、来いと連絡するだろうしな」
 その実緋桜丸としても折角楽しみであるお茶菓子がなければがっかりすると言う意味合いもなきにしもあらず、と言ったところでしょうか。
「だが茶会となれば、普段から着ているものはあまり向かぬなぁ。うぅむ‥‥昔を思い出してなんだが、着物を着ておくかぁ‥‥」
「お茶会ですとどのような装いをしていくのかを考えるのも楽しいですね」
 自身の姿に目を落として紬 柳斎(ia1231)が言えば野乃宮・涼霞(ia0176)もそう言うと、受付の青年へと目を向け。
「それにしても、お茶会のご招待ですか‥‥とても楽しそうですね」
「はい、人を呼んで持て成すのが好きな方なんで、是非楽しんできて下さいね」
 にこにこと笑う受付の青年は頷きながら答えれば、さて、とばかりに赤銅(ia0321)が軽く受付の青年の目の前に置かれた筆へと目を向けて口を開きます。
「代理の八人が居るとはいえ、呼びたかった本人の何がしか‥‥はより嬉しかろ。何か一筆書いて‥‥」
「あ、そうですね、済みません、今用意します」
「つかな、大事な事を口で済ますなって」
 年長者としての言葉を苦笑しながら告げる赤銅に、あわあわと紙を用意して筆を執る受付の青年。
「ところで‥‥先程から幾つか考えて居る様子のその候補って言うのは、ご挨拶に持っていくお菓子かな?」
「別に、自分で食べるモノは自分で選びたいだけよ」
 折々が首を傾げて訪ねてみれば、胡蝶は違うわとばかりにつんと答えてはいるのですが‥‥武天に着いてから折々はこの言葉をにんまり笑いながら思い出すことになるのでした。

●宗右衛門翁
「此度はこのような場にお招きいただき恐悦至極に存じます」
「受付の方はご用事があるとかで‥‥私達が代理でお邪魔させて頂く事になりました。宜しくお願い致します」
「おお、これはご丁寧に。なあに、あやつは人の誘いを多忙だからと、数回に一回ぐらいしか顔を出さぬのです、お茶会に招かれて下さったことを感謝致しますぞ」
 柳斎が挨拶を告げ涼霞が言えば、年の頃は七十半ばの矍鑠としたその好々爺といった様子の御老体は笑いながら屋敷の中へと一行を案内して。
「先に荷を置いてゆっくりされて下さい。お茶は逃げませなんだ」
 笑って言う御老体に、赤銅は荷を置くと改めてその中から一通の便りを取り出してそれを御老体へと渡して。
「こちらを預かって来た」
「おや、あれが便りを寄越すなどとはまた珍しい。確かに、受け取りましたぞ」
 文を受け取り心なしか嬉しそうに大切に押し抱くと、ご準備が出来ましたらいらして下さい、と言って御老体は戻っていきます。
「なかなか立派なお屋敷だな」
「うむ、それに庭やら屋敷やらとなかなかに風流だね」
 案内された部屋をぐるっと見て言う天藍に折々は感心したように頷くとそわそわと気になるのはお屋敷内やお茶会のほうのよう。
「準備は出来ているようだし、早々に窺わせて貰おう、待たせるのも悪いしな。べ、別に菓子が目宛てな訳じゃないぞ?」
「そうですね‥‥では、改めてお茶の席へと御呼ばれいたしましょう」
 荷を置いて一息、とつく前に早速に立ち上がった緋桜丸の言葉は、誰の目から見てもお菓子が楽しみであるのはよくわかり、自身が作ってきたお茶菓子の包みを手に微かな笑みを浮かべて言う涼霞。
「へぇ‥‥まあまあ良さそうな所じゃない」
 感心したように声を漏らすもすぐにどうということでもないとばかりに続ける胡蝶、その様子を御老体はさも面白げに眺めていれば、柳斎が歩み寄りすと頭を下げて。
「此度はこのような場にお招きいただき恐悦至極に存じます。‥‥いかんな、昔の癖が抜け切らんから堅い‥‥」
 きちんと挨拶をしてから微苦笑を浮かべる様子に首を振れば、涼霞や胡蝶のお土産を礼を言って受け取って。
 涼霞が御老体の名を聞けば宗右衛門と名乗る御老体。
 宗右衛門翁に案内され座敷へと入れば、戸が開け放たれており心地良い風が感じられる中で、宗右衛門の友人というほっそりとした老人がお茶を点てており。
「しかし‥‥利諒とは何処で? やはり開拓者への依頼が切っ掛けだろうか?」
「はっはっは、あれが孫の一人と言えば信じますかな? 実は、孫の幼馴染みでしてな、よぅく家に遊びに来ておりました。近頃は忙しいのかあまり来なくなってしまいましたが‥‥」
 孫よりも懐いていたので孫よりも近頃では懐かしいと笑う宗右衛門翁。
「今はギルドもとても忙しい御様子。利諒さんも少し落ち着かれましたら、きっと御自身でご挨拶に来られるかと思いますわ」
 微笑みながら言う涼霞、赤銅はむしろ挨拶に来させるとでも言わんばかりに頷いて。
「あれも気を使ったのでしょうな、こうして皆様が来て下さり楽しんでいって貰えれば、儂は嬉しく思いますぞ」
 笑いながら言う宗右衛門翁、滞在中のこの数日は、ゆるりと楽しんで下され、と改めて一行を歓迎するのでした。

●遊興
「さて‥‥爺さんさえ良ければ、昔は使われたとか、手合わせをしてもらいたいところなんだが」
「おお、それは良い、庭の方で宜しいかな?」
 緋桜丸の提案に目を輝かせる宗右衛門翁は早速自らも槍か刀かを確認すると、屋敷の者へと木太刀を頼むと、いそいそと襷がけをして庭に出る辺り、どうもやはり武天のサムライであったようで。
「まぁ、ご老体ということで、無理はさせられないが‥‥若輩者の俺が気をつかうのも失礼‥‥か?」
 互いに向き合えば、好む槍の間合いと少々勝手が違う様子の緋桜丸ですが、普段から身体が鈍らない程度には軽い運動をしているとの屋敷の者の話通り、宗右衛門翁はやたら元気。
「へぇ‥‥」
 一礼して向き合ってみれば実際になかなか踏み込む隙が感じられないのは、やはり長年の経験か、いっそのこと胸を借りるつもりで、と踏み込めばその度に受け流す宗右衛門翁。
 とは言え年齢もあってか、宗右衛門翁の方も踏み込み返すと言うところまでは直ぐには至らないようで。
 見たところお互い得意な得物は槍のようと見てとる赤銅、どうやら宗右衛門翁は守りに特化した様子と見て取れば、少々渋めのお茶を貰い静かにその様子を眺めており。
「ふぅ、流石に年を取ると若い方ほど素早く踏み込むのは難儀ですな」
「そう言いながら息も切らしてないじゃないか、爺さん、やるなぁ‥‥」
 ケラケラと笑う緋桜丸、お互いに余興と言うことで相手に完全に踏み込むまでは行わないもののなかなか付かない決着は、程良いところで切り上げての引き分けとなるのでした。
「む、むむむ、これは‥‥美味い♪」
 早速に女性陣はのんびりとお茶とお茶菓子を楽しんでいたようで、嬉しげに美しい葛餅で餡をくるんだ和菓子をぱくりと頂いて幸せそうに笑みを浮かべるのは折々。
「あ、あの‥‥かすていらなど有りますでしょうか‥‥?」
 お茶菓子を運んできては女性陣の反応に嬉しげにしていた職人らしき壮年の男性は、おずおずと陽花が訪ねるのに、希望が聞けて嬉しかったか、笑みを浮かべながらこれから用意しますので、少々お時間を頂いても? と首を傾げて。
「ささ、お茶をどうぞ‥‥」
 小皿に落雁がちょんと飾るという言葉に相応しく置かれており、それにお茶を添える形で出される御抹茶、目にも涼やかに感じられる落雁は美しい桔梗を象ってあり、涼霞の差し入れたそのお手製のお菓子は、宗右衛門翁が甚く気に入っていたとか。
「‥‥家がこういうことに厳しかったのよ、悪い癖ね」
 気軽な様子の席に於いて、どうにも背筋を伸ばして固くなっているのは胡蝶と柳斎で、余程に厳しく躾けられたのが思わず出てしまうのか、生真面目とも言えそうな位に気にしてしまうためか。
「はー、いやいや、いい汗掻いた」
「近頃では皆歳だから歳だからと、久々に思い切り動きましたな」
 実際年齢的には自重した方が良いと言われるのも当然な様子の宗右衛門翁は、汗を軽く流してさっぱりとして戻ってきた様子の緋桜丸に続いてやってくれば、緋桜丸も宗右衛門翁も揃ってお茶菓子についつい目を奪われるようで。
「ふむ、やはりこう、楽しお茶席まず一句、といったところかな♪」
 楽しくなってきて興が乗ったか、短冊をすちゃっと取り出せば楽しげに筆を走らせて・
「『清香に 誘われ繋ぐは 人の縁 俳沢折折』っと」
「‥‥‥‥私もそれ、貰えるかしら‥‥」
 読み比べでもないけれど、という胡蝶の前には自身が買ってきた羊羹の載った小皿とお茶が置いてあり。
「『見栄すぎて 文の字見えて 味もせぬ』‥‥‥まったく、こんなコトなら安物にしとくんだったわ」
 どうにも自身の買ってきた羊羹のお値段を思い出してしまうか、参ったわね、と小さく呟く胡蝶。
 その様子に微笑ましげに眺めている宗右衛門翁、お茶会も一段落してくれば、どこかもじもじとした様子の陽花、見れば花札を手に持ってはいるのですが、なかなか切り出せないよう。
「おお、花札ですかな。いや久し振りだ、こう見えましても花札は結構、やりこみましてなぁ」
「そ、そうなんですか‥‥? 宜しければ、やりませんか? ‥‥私は花札弱いですが‥‥」
「ふむ、花札はあれですぞ、絶対に引くという信念と、手札を錯覚させるはったり勝負で‥‥」
「いやいや、真っ当なやり方を教えたが良いと思うのだが、まずは‥‥」
 何やら賭けでの勝負のやり方を陽花に早速伝授しようと仕掛けた宗右衛門翁には天藍が思わずつっこみをいれてみたり。
 そこへ先程陽花が希望したかすていらが運び込まれ、そのほわほわで暖かい出来立てのかすていらにほんのりと頬を染めて陽花は嬉しそうに口へと運べば幸せな甘さ。
 かすていらやお茶を頂きながら賑やかに花札をしてみたり、のんびりと静かに色々と話ながら、昼のお茶の席は過ぎていくのでした。

●またいずれ
 夕餉のお膳も既に済んで屋敷も茜色から静かな青い色彩へと沈む中、庭には灯りが入れられのんびりとした時間、天藍が作った木彫りのもふら様を宗右衛門翁にと贈れば、こういった贈り物はここ暫くずっと貰った覚えがないそうで、嬉しげに受け取り。
 一息ついて穏やかな時間となったところで緋桜丸が良く使い込まれた様子の笛を取り出し指を這わせれば、流れ出でるは心地良い穏やかな音色。
 その音色に、すと宗右衛門翁へ頭を下げてうっすらと微笑みを浮かべるのは涼霞、庭と部屋で揺れる灯りの中で萩と月の描かれた扇を広げ一指し舞う姿はどことなく幻想的もであり。
 舞と笛が止めば、名残惜しげに目を細めて惜しみなく拍手を贈る宗右衛門翁。
「梅雨上がりであまり暑くもなく、今が一番良い季節かもな」
 ほうと小さく息を付いて呟く天藍、赤銅は宗右衛門翁へと目を向けて。
「もし良ければ、昔話でも聞かせて貰えないか? 今此処に居るからこそ振り返れる話は集まった駆け出し全員にとっても宝みたいなもんだからな」
「ははは、老人の昔話に如何ほどの価値があるかは解らんですが、それで良ければ‥‥」
 言って語り出す昔の話、やはり多いのはアヤカシとの戦い、そして盗賊や山賊との戦い。
 特に辛かったのは貧しさやアヤカシに追われ食うに困って道を踏み外した者に槍を向けなければならなかったときのこと。
「力不足を痛感したこともありましたな。共に闘った者の裏切りもありました。しかし、儂に出来たのは、槍を振るうことのみでしてなぁ」
 その時には本当にやりきれなかったし、辞めてしまいたいとも思ったと。
 勿論、自身が助けることが出来た者の礼の言葉や、そうした人達の、その先にある暮らしを思えば、そして自身の守るべき家族などを得る度に改めて闘う支えになったとの言葉。
「何か支えが一つでもあれば、続く。それだけで、いい歳になっておりました」
 そう言って懐かしむように微笑む宗右衛門翁。
「だからでしょうか、こうして人と共に楽しむのが、やはり幸せでしてなぁ。まぁ、皆忙しい、年寄りの我が儘とは解って居るのですが、どうにも辞められないで」
 笑って言う宗右衛門翁、なので年寄りの我が儘と思って、気兼ねなく訪ねてきて欲しい、楽しんでいって貰えると嬉しいのですよ、と宗右衛門翁は改めて招待に応じて貰えたことに礼を述べるのでした。
「いやいや、しかし、ひげもじゃな筋肉達磨たちが、がっはっはと笑いながら酒を浴びるのが武天のお茶会だったりしないかと。それならそれも面白いかもと飛び込んでみたのだけれどね」
 にこにこと笑いながら言う折々に、宗右衛門翁も相好を崩して。
「おお、それも良いが、武天の皆が皆髭もじゃとはかぎらんのですぞ。だがまぁ、皆で酒を楽しむ賑やかな宴も楽しいもの。またその様な席も、是非儲けたいと、そう思いますでな」
「それは良いな、是非酒の席も。やはり拙者には茶より酒のほうがあっているし」
 笑みを浮かべて言う柳斎に、赤銅は次は受付の青年をひっぱって来るべきだなと口の中で呟いて。
「そうそう、忘れないうちに聞いておかないとな。利諒に何か言伝はあるか?」
「では、たまには時間に余裕が出来たら遊びに来いと伝えて下され」
 必ず、と頷く天藍、
 宗右衛門翁は改めて、是非必ずまたお茶会やお酒の席の招待をギルドへと送りましょう、と笑いながら言うのでした。