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■オープニング本文 その日、ギルド受付の青年の利諒は、同じくギルドの制服の、14、5程の少年となにやら話し込んでいました。 「えぇー、面倒ですよぅ」 「面倒って……お仕事ですよ?」 少年は泰国の人間で孔遼、どちらかと言えば自国で話を聞いたりすることの方が多いようですが、どうにも、猫っ毛のその少年は利諒相手に怒られないと思ってぐだぐだ甘えているのか、それとも本当にめんどくさがりなのか。 「目的地がないんじゃしょーがなくありません〜?」 「で、でも、二人程、綾麗のこと知ってると言って、同行することを申し出てくれた人、いるんでしょ?」 そう聞いたから一度故郷に行ってみようってなったのに、そう困った顔で言う利諒に、ふぅと溜息をつくと孔遼はごそごそと傍らに置いていた大きな布の鞄を漁ると、なにやら数枚の紙を取り出して。 「でもですね、その方々の証言にあった邑っていうのが、その、廃村って感じっぽいですし。まぁ、廃村になったのは、比較的最近らしいですけどぉ……」 「廃村!? どういうことです?」 「んー……まぁ、そこ見に行ったら、無人だったりしたって事ぐらいしか知らないですからねぇ。ここ数ヶ月らしいですよぉ、取り急ぎそれだけ報告に来たんで〜まだ周辺調査とかはしてないですケド?」 「……兎に角、最近廃村になったらしいけれど、確かにそこに、邑は有ったんですね?」 「それは〜……そうですねぇ、確かに、地図の地点にありますねぇ」 孔遼が差すそこは、清璧山という山を中心とした邑で、山自体がきえた訳もないですしねぇ、と言うのに分かったと頷くと、利諒は出かけていきます。 「ふむ……具体的なことが分からんから何とも言えんが……」 どうする? とばかりに綾麗へ言うのは保上明征、ここは明征の屋敷で、綾麗を保護している人物。 「……記憶の切っ掛けにと思っていましたが、廃村となって居るなら、確かめたいと思います。私の名と共に同行を申し出て下さった方の話での、恐らく故郷ではないかとのことなら、尚のこと確かめたいです」 「ふむ……廃村となったにはそれなりに理由もあるだろう。向こうに完全に戻るのではなく、こちらを拠点に、慎重に調べていった方が良いだろう」 明征が言えば、頭を下げて礼を言う綾麗、明征は頷くと利諒へと向き直ります。 「調査にも手は居るだろう、ましてや邑一つと考えれば物騒な状況を想定して動くべきだ。幾人か、手を借りられるように手配を頼む」 「分かりました。あ、これは一応確認した時に使った地図の写しです、先にお渡ししておきますね」 地図を手渡されると礼を言って、支度を少しずつでもしておきたいと席を立つ綾麗を見送ると、明征は利諒を側に呼んで。 「綾麗を襲った者がはっきりしていない今、一度戻すのが得策かは分からんが、事態が膠着しているのも事実だ」 「んー……警戒だけはして置いてね、って事ですね」 「……何だか急に軽い事柄になったような気がするが、まぁ良い。綾麗を一人にしないように、と言うことだ」 「分かりました、依頼を受けて頂く人に直接それは、伝えます」 頷くと利諒は、筆を取りだして依頼書へと書き付けていくのでした。 泰国・清璧山。 山の麓に広がる邑、そして山を中心として、その山腹に高い塀が囲み、立派に聳え立つ門は、今は開け放たれています。 「良いか、良ぅく探すんだ。あれは、この俺様にこそ相応しいモノだからな、ぶわはははは……」 巨躯の男はそうげはげは笑うと馬に乗って、見つかるまで戻ってくんじゃねぇぞと言う言葉を残すと駆け去っていきます。 「なーんど探しても、ねぇもんはねぇだろーによー」 「あ、小銭落ちてた、儲け〜」 置いて行かれた男達は口々に文句を良いながら、だらだらとその辺をほっくり返したり、家に置かれて居た荷を漁っては、酒瓶など勝手に持ち出して呑んだりしていて。 それは、所謂その男達の占領下にある、と言った様子でした。 ギルドの方で簡単に調べた時には、ここにこの男達はいませんでしたが、狙いモノもが見つからなかったため、再びここに舞い戻った、という状況のようで。 「しゃあねぇ、見つからなきゃ、近くの村を襲って、逃げた奴らを痛めつけりゃ、あっさり在処も吐くだろうよ」 「ここの酒が尽きる頃にいきゃいーだろーよ」 げらげらとさも楽しいことを話しているかのように、男達は民家の鍵のかかってないとをわざわざ蹴り破ると、金目のモノはないかと再びだらだら捜し物に戻るのでした。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
滋藤 柾鷹(ia9130)
27歳・男・サ
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●二人の泰国人 「俺らと別れた後にそんなことが……」 難しい顔をして言う岳・陽星と、話を聞いて考える様子を見せる梁・蒼仙、二人の泰国人に滋藤 柾鷹(ia9130)は口を開きました。 「綾麗とは天儀へと渡る時に知り合ったと聞いたが、彼女が記憶を失う前の話で良いのだろうか?」 「ええ、丁度私たちは同じ時に泰国から渡って参りましたので」 疑いたくはないと思っては居ても、綾麗を襲った人間が分かってない以上はどうしても警戒は必要で、羅喉丸(ia0347)がそう尋ねれば頷く蒼仙。 「ならば、その頃の彼女の様子を聞いても良いか?」 「私共に答えられることでしたら……」 幾つか聞いてみれば、それぞれ一番最初は別々に綾麗と顔を合わせていること、邑の習わしで跡取りは見聞に出される為に送り出されたと言っていたと話します。 「あの、もしかして、私たちは疑われているのですか?」 「いや、それは……」 「全面的に信用出来るかと言えば難しい。不愉快に思うかもしれないが、互いに互いを知っているわけじゃない」 注意深く聞かれることに戸惑った様子の蒼仙が尋ねれば何と言って良いのか少し困った様子の羅喉丸、御凪 祥(ia5285)がそれを見て肩を竦め、真に受けて痛い目を見るより多少不快になっても警戒するのは仕方がないことじゃないかと口を開いて。 「そんな、私達は善意で……」 「いや、正しい判断じゃねぇか? 疑われるのは嫌な気分だが、俺が同じ立場でもそうする」 何か言いたげな蒼仙ですが、陽星は開拓者としては間違ってねぇだろとそれを制して。 「ただ、場所はギルドの方にも確認して貰ってる。俺としては、同朋の邑の危機は他人事じゃねえ」 出来ることなら同道したい、そう言う陽星に、にぃと笑うのは嵐山 虎彦(ib0213)。 「ま、ぐだぐだ言ってても仕方ねぇわな。兎に角、案内頼むぜ」 何とも言えない空気の中、そこにやって来たのが綾麗です。 「……どうするか、決めたのか?」 ゼタル・マグスレード(ia9253)が聞くのにしっかりと頷くと、綾麗は口を開いて。 「持って行くことにします。これと私自身が足手纏いにならないように気を付けますので、宜しくお願いします」 改めて一同に頭を下げる綾麗に頷く一同、紅 舞華(ia9612)は笑みを浮かべて。 「綾麗、皆も一緒だ、大丈夫」 「はいっ」 「それにしても……どうにも、廃村なんて不穏だね」 少し考える様子を見せる鞍馬 雪斗(ia5470)は、自身の経験と重ね合わせたか僅かに眉を寄せて言い、心当たりや何か知っている話は無いかと二人の泰国人に聞けば、賞金首など荒らし回っている人間は聞いたことがあるかも知れないとのこと。 「周辺の村はあるってことは、何か知っているかもね」 廃村になった経緯とか、鬼灯 恵那(ia6686)が言うと、頷く綾麗と共に兎に角邑の方へと向かうことにするのでした。 ●邑の中 「……今はばらけているようだけど……」 「何かを探して居るみたいだが……あまり真面目に探している様子ではなかった」 邑に来る途中の集落で綾麗を知っている様子の村人達が数名おり、その時のことを感嘆に聞いてからやって来た一同は、邑を襲ったものと思しき男達を見かけたと聞いていて。 ゼタルの鳥を模した人魂での偵察によって見えるのは、それなりの人数の破落戸達が邑のあちこちを徘徊する姿、その者達の様子から、舞華が偵察を行えば、邑を主として漁っている者たちは、あまり熱心ではないのが窺えます。 「火を掛けて燃やせば、焼けずに残るのではと言うようなことまで言っていた」 「単純に値打ちの物目当ての盗賊ならばいいが、特定の物を狙い、特定の人物を狙ったのであれば……」 御凪の視線が綾麗へと向けば、眉を寄せる柾鷹。 「……襲撃時に居なかった人物を待ち構えているにしては様子が可笑しい」 「……狙ってるのは……綾麗さんでなくて持っている物なのか……? ……やっぱり話に聞くように、人を引き込む何かがあるみたいだな……」 「他に何かあったとしても、有ったらとっくに持ち出されてるだろうからな」 少し考える様子を見せて綾麗を鞍馬が見れば、敵か清璧の者かどちらかがと考える様子を見せる陽星、廃村になってから時が経って漁りに来たとすれば、そのどちらも持ちだしていなかったものが目宛てと言うことで。 「……まだ邑を壊されてないだけマシ……か。焼かれる前に何とか取り戻さないとな」 小さく呟くように言う鞍馬、偵察で流石に山腹の廟等までは分からないものの、この様子では恐らく中にも居るだろうと予測はついて。 「まずは出来る限り山腹に近付いて様子を窺うしかないな」 幾つか打ち合わせの後、二手に別れ動き出すのでした。 するすると邑の中、鎧に布を挟み音を押さえて進む御凪は、邑の中で予想以上にばらけて動く男達に気取られないように歩み寄っていけば。 「ぐ……」 裏口より入った家、背を向けて金目の物を漁っていた男が弾かれたように立ち上がりかけ……ふわりと、ただ円を描くように踏み込んだだけに見えた御凪の、その円の軌道を追うように撓る槍にて小さな呻きと共に崩れ落ちる男。 さらに踏み込むとひゅっと、しなやかな槍が打撃音に顔を出した男の後頭部を強打しその意識を刈り取って叩き伏せます。 「……」 「……」 視線を上げれば次に家捜しをしている男がいるのは三軒ほど先の家であると、さっと舞華が目配せと軽い手振りで示して見せ、手早く昏倒している男達を括り猿轡で物陰に隠して。 山の麓の邑で有るだけに、山腹の方から見咎められれば敵に遭遇し騒ぎ立てられるとほぼ同位のことが起こるであろうと分かれば、その歩みはどうにも慎重なものとなり。 音を消していたのも幸いしたんでしょう、邑で家を漁ることに夢中になっていた男達は舞華と御凪の手にとってあらかた排除されたのでした。 もう一方の、物陰を伝いつつ進む一同は、綾麗を守りつつ蒼仙と陽星の様子を窺いつつではあるものの、先行して行ったゼタルと舞華の偵察で開いている道筋を選び山腹を窺える辺りまで何とかやってきていました。 「……聞いていた話と総合すると、邑の中の数名を除けば、中には十人程か……」 捜し物が邑にある可能性よりは、明らかに清璧の内部の方が可能性は余程に高いからか、破落戸の数はその山腹にある程度纏まっているようで。 「入口に二人……だろう」 望遠鏡で注意深く探っていた羅喉丸はそう言って僅かに眉を寄せ、距離と状況を確認し、改めて符を手に山腹へと目を走らせるゼタル。 「大体、屋内にいるとは思うが……」 「陰陽の術は偵察などに便利なのですね」 現在陰陽師として学んでいるという蒼仙は興味深げにゼタルとその手の中にある符をじっと見て言い、ちらりと見るも手の符を白い鳥へと変えて飛ばすと、上空から少しずつ近付いて開けられた廟や配置、そしてそこにいる男達の姿を確認して。 「それじゃあ……ひと斬り行こうか♪」 舞華と御凪が合流すれば、町の方の破落戸達はほぼ縛り上げて隠したのを確認し、十分には位置を確認してからの突入、鬼灯はにっこりと笑みを浮かべると刀の柄に指を這わせるのでした。 ●霊廟前の死闘 「ふふ、それなりに歯応えがあるじゃない♪」 楽しげに男達へと斬り込むのに、そこは腐っても泰拳士、ぎりぎり辛うじて避けるのに嬉しそうに笑う鬼灯は、それでこそ斬り甲斐があると言わんばかりに向き直って構えます。 そのちらりと感じられる異様な雰囲気、狂気を僅かに含んだ笑みに男達は顔色を変えると何者かと警戒をしたようで睨み付け。 「同じような足の運びをしている……」 「彼奴等は全員同じ門派と言うことか」 綾麗を守るようにして山腹に踏み込んだ一同、柾鷹が言えば盾を構えた羅喉丸は言って。 「へっ、来やがったぜ、構う事ぁねぇ、火ぃ放っ……」 霊廟の側にある武器庫で灯りに手を伸ばしかけた男が繰り出された槍を避けようとするも、それが撓り自身を追うのに側の板斧を取り必至で受け流そうとする男、まるで挑発するかのように槍の穂先を揺らしてにぃと笑います。 「させない!」 火と耳にして火を付けようとした様子の男に鞍馬が剣の宝珠を煌めかせ放たれるのは風刃、弾き飛ばされた男が体勢を立て直す前に素早く忍び寄っていた舞華が忍刀で斬り付けてねじ伏せ。 「手慣れてやがる、此奴等村を襲い慣れてるんだっ」 「まだだ、まだ戦える……」 実力で言えば有利な開拓者、しかし躊躇無く殺しにかかる男達が霊廟湯を背に迎え撃つとなれば少し事情は違い、方々から手を出しては引かれる動きに幾つか受ける手傷、陽星が忌々しげに叫ぶもゆらり立ち上る気配、羅喉丸は周囲を見据え口の端を僅かに持ち上げて。 「うああああっ!!」 荷車の向こう側にいた男が荷を満載したそれを盾にするように突っ込んでくれば、その前に立ちはだかったのは嵐山。 「うらあっ!」 身体ごと迎え撃つ形で、勢いが乗り切る前の荷台に繰り出す槍、それが荷台を粉砕すれば、勢い余って突っ込んできた男を槍で叩き伏せてむぎゅっと踏みつけ。 「死にてぇ奴からかかってきな!」 呵々大笑、その声に建物や者を盾にしようとしていた男達の意識が嵐山の方へと逸れます。 「余所見してる場合か?」 その一瞬に、打ちかかろうとしていた男の斧を弾き飛ばし、叩き伏せる御凪。 「貴方もあんな風になりたい?」 そして同じく気が逸れた男の首を切り飛ばして、更に別の男へと微笑みながら迫る鬼灯、側に潜んでいた男が飛び出して躍りかかるのに割って入るように長巻が撓らせ振るわれた泰剣を受け流して。 「貴様らは何を探しているのだ? 頭領は誰だ? どこに居る?」 きっと強く見据え向き合うと、刀をぐるぐる弄ぶように振りつつ薄ら笑いを浮かべる男。 「ざぁんねん、俺は喋らねぇよ」 にぃと口の端を持ち上げる男、暫しの睨み合いがあるも、男の意識を削いだのは鞍馬が踏み込んできて打った吹雪の余波、隙が出来たと慌てたか男が斬り付けてくるのを再び受け流す柾鷹が返す槍でその刀を打ち落とせば、にぃと笑う男は。 「くっ、何という奴だ……」 突如血を口から零す男、尋問されるよりはましとばかりに自ら懐の短刀で首を裂いたようで、その異常な様子に小さく呟く柾鷹。 「大丈夫?」 「はいっ」 少し離れた場所より射掛けられた矢を、くるり回るように身を翻しはたき落とす綾麗が頷くと、問いかけたゼタルは綾麗を狙った弓を持つ男に打ち出す符、それは男に襲いかかり切り裂いて。 「く……な、何なんだこいつら……」 物陰に隠れてじりと下がる男、それが短く何事かを叫び門へと向かおうとする男の前に立ちはだかる舞華と、直ぐに駆けつけるとぴたり長巻を突きつけると、柾鷹は男に大人しく投了するよう言うのでした。 ●周囲に散った人々と 邑の開放後、来る前に立ち寄った村などで綾麗を見た村人が知らせたか、清璧の者が数名得物を手に駆けつけていて、山腹でいざというときには籠城できるようにと幾つか修復に回っていました。 彼等の話では村人達を逃がすようにと指示した長老は残り亡くなったこと、人が残れば再建できるため、後のことは修行を終えて戻る綾麗に任せることなどを言い残していたとか。 「捕らえた者から聞いた話だが……朱・梅山とかいう、その、恰幅の良い相手らしいな」 「八極轟拳の轟煉とこの幹部の一人とか何とか……もっとも、上と関係無しに、篭手が欲しいってなっての襲撃らしいが」 色々と知っていそうな男は自決したものの、他に生き残った者から聞き出した情報から何と言って良いのか言葉を探し言う柾鷹、当人は燃叉武神君とかご大層な名を名乗っているも配下の表現は叉焼とか、しかし賞金首絡みかと緩く息をつく御凪。 「我々はここだけでなく邑も自衛できるような対策を考えながら復興していこうと思います」 「そりゃ良いな」 「ああ、無事に復興できるよう願っているよ」 清璧のその男性が言う言葉に、嵐山はにと笑い、羅喉丸も頷いて。 「……」 少し考える様子を見せているのは舞華、状況を聞いてやって来たギルドの少年・孔遼に話を聞いたものの、何とも言えないとのことで。 「僕も利諒さんも、どうにも気になるは気になるんですけどねぇ……ただ、僕、あの蒼仙って人、個人的には好きになれないですねぇ」 「どうしてだ?」 「だって、いっつも笑顔ですけどぉ、目が笑ってないですもん。あぁいう目って、どっかで見たことある気がするんですけどねぇ……」 うーんと首を傾げていう孔遼に、舞華は二人の泰国人について改めて思い返してみるのでした。 「懐かしい気がするのに、思い出せないのは……少し寂しいですね」 「……」 同じ頃、休憩や治療の間清璧内にある小さな楼に昇り見渡して呟く綾麗、一人にしてはいけないと一緒にあがって来ていたゼタルと鞍馬も来ており、鞍馬は故郷を失っているためか、壊されず守られた邑の様子に目を向けて。 そこにすぅとまるで気配を隠していたかのようにあがって来た影は蒼仙。 「……なにかあったのか?」 蒼仙は階段を昇り辺りを眺めていた綾麗と鞍馬に目を向けていたものの、一歩下がって様子を見ていたゼタルに気が付かなかったのか、声を掛けられちらりと見ると直ぐに柔和な笑みを浮かべて首を振ります。 「いえ、大丈夫と思いましたが、残党がいないとも限らないと思って……下から姿が見えたので来てみたのですよ」 「ふぅん……」 興味がないようにそう答えながらもゼタルはちらりと、それでいて注意深く蒼仙を見ていて、鞍馬もさりげなく綾麗との間に立っていれば、不意に下から上がる声。 「おい、残党が居たら危ねぇだろ! どうやらここを襲わせた奴が分かったみてぇだし降りてこいよ!」 楼に上がっているのを見かけたらしい陽星が下から、まるで口うるさい兄気取りでもあるかのように言うと、後ろにいる鞍馬に気が付いて一人じゃねぇなら平気か、と決まり悪げに頭を掻いていて。 「……取り敢えず、行こう」 鞍馬とゼタルに促されて一緒に楼を降りる綾麗、姿が見えないからどうしたかと思ったぞとそれに加わって歩き出す陽星。 そんな姿を、蒼仙は口元に微かに笑みを浮かべたまま、冷たく見下ろしているのでした。 |