菊香の市
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/07 19:10



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルド受付の青年・利諒の元にやって来たのは芳野の町に住む、顔馴染みのようで。
「いや、開拓者達がいると、ほら、抑止力ってのになるかって思ってな」
「‥‥いえ、まぁ、それは解らないでもないんですが‥‥その、護衛を頼むとか、襲撃受けそうとか、色々諸々じゃなくて、ですか?」
「いや、流石に町の人間で対処しきれないような襲撃を受けるとはあまり思えないんだが‥‥ほら、菊の市だし」
 利諒と話しているのは30代半ば程の職人さんのようで、流石に開拓者を雇うのはちょっと懐具合が厳しいし、とちょっと困ったように言って。
「今回、理由は解らないんだが、ちょっと、市の運営の方の費用が妙に足りなくてな、そっちは調べているんだが、外部から護衛を頼むのが厳しくて‥‥」
「えー‥‥でも、そういった市の運営に、芳野の方からもお金は出ている筈ですし、ちょっとしたお祭りみたいなものですから、それなりに集まっているはずですよね」
「だから困っているんじゃないか。それなんで、その、お小遣い程度のものは用意するし、中にある茶店とか飯屋とかで、開拓者だったら食事も振る舞うから、遊びに来て貰えないかと」
「うーん‥‥」
 職人の話にちょっと困った顔で考え込む利諒。
「じゃあ、一応、菊の市でちょっと遊んでいきませんかって言うお誘いは貼りだしておきます。でも、人が必ずしも集まるとは限りませんよ?」
「ああ、助かる頼む。それに、いざとなったらお前さんとお友達の厳つい人に来て貰えればいいし。一応、領主とかの手前、それなりに治安は悪くないと思うからな」
「‥‥何か、釈然としないんですけれど‥‥」
 ちょっと溜息混じりのままに、利諒は菊の市へのお誘いの文面を書き記していくのでした。


■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / 瑠璃桔梗(ia3503) / 御神村 茉織(ia5355) / 菊池 志郎(ia5584) / 和奏(ia8807) / 无(ib1198) / シータル・ラートリー(ib4533) / 山羊座(ib6903) / ノイエ=キサラギ(ib7368) / アリス ド リヨン(ib7423) / 影雪 冬史朗(ib7739) / ジュウ(ib8038


■リプレイ本文

●市は始まって
 市が始まり、朝早くから人も集まってにぎやかに……なってはいたのですが、何やら不穏で怪しい雰囲気。
 それに気がついたのは、4人の人間。
「うぁ……あれって……」
 一人は受付の青年の利諒、彼の頭の中を『騒ぎが起こる→一般人にご迷惑→不始末→信頼失墜』と目紛しく想像が流れたようで。
「あら……いけませんわ」
 シータル・ラートリー(ib4533)が僅かに表情を曇らせて見れば、子供が怯えている様子に菊池 志郎(ia5584)はすと傍によって宥めていたり。
「利諒の旦那、あれ、どうする……って、お?」
 そして、何やら固まっている様子の利諒に声をかけた御神村 茉織(ia5355)ですが、ちゃきっと木刀をどこかから取り出して走り出す利諒に眼を瞬かせて。
「ちぇすとお――っ!」
「お、おおっ!?」
 いつになくアグレッシブな利諒にちょっとびっくりした御神村ですが、利諒が突っ込んでいった先は、何故か蛇拳で『ぴー』だ『けー』だと踊り狂っていたノイエ=キサラギ(ib7368)、ちょうどシータルの発気によってたじろいで手が止まったところで。
「ぐほっ……」
「すみませんすみません、今片付けますんでっ!」
 フルスイングの末、ていやと手押し車に引括ったキサラギを突っ込むと猛烈な勢いで去っていく利諒を呆然と見送る一同ですが、我に帰るのが早いのは菊池。
「うん、もう大丈夫ですからね」
「ふえぇ……」
「……ま、迷子も相俟っているようですね……えぇと、あそこの御寺の休憩所に行きましょう」
 あまりの恐さに怯えているうちにうっかり親とはぐれた様子の子供を宥めて休憩所へと向かう菊池に、ざわついていた人々も段々と落ち着いてきたよう。
 シータルもにっこり笑ってすっと動き始めた人の流れに戻っていけば、それを眺めて軽く頭を掻く御神村。
「ま、まぁ、良いか……」
 小さく息をついて御神村も、ゆるりと人の流れに入っていくのでした。
 市の入り口である参拝堂の入り口で、なんだか不機嫌そうに腕を組んでいるのは山羊座(ib6903)、何故不機嫌かはわかりませんが、ただそこに突っ立っているわけでもなさそうで。
「山羊座様――っ! コッチっす―――っ」
 そこにきらきらとした目ではしゃいで参拝堂を駆けてくるのはアリス ド リヨン(ib7423)。
 どうやら同行していたようなのですが、ちょっと賑やかな所が気になって見に行っていたよう、アリスに気がついて山羊座も歩み寄ると、行きましょう、と嬉しそうな様子のアリス。
「ところで、何か騒ぎがあったようだが……」
 駆け付ける前に、猛烈な勢いで手押し車を押して行った受付を思い出して聞いてみれば、暴れてた人をサクッと摘み出したらしいっす、と首僅かに傾げて言うアリスは、そんなことより廻りましょうよと促して。
「……」
 ふぅと小さく息をついて歩き出す山羊座ですが、アリスと道をゆくうちに機嫌はどうやら直ったよう、本堂前の落ち着いた空気が気に入ったのか、ぐるりとあたりを見渡すと。
「……まぁ、すぐ見つかる、か……」
 小さく溜息をつくと山羊座は人混みへと目を向けるのでした。

●菊香の道
「俺の知らない物が沢山あるなんてワクワクするなぁ!」
 目を輝かせて参拝堂の、道に沿って出ている菊の鉢を見ているのはジュウ(ib8038)、色取り取りの菊を眺めていれば、その熱心で楽しげな様子に笑うのは壮年の職人さんで。
「おう、こいつがそんなに珍しいかねぃ。おう、一つ持ってくかぃ?」
 笑いながら手早く紙で鉢をくるむようにして、それを職人の印が描かれた紙袋へと入れて出しだす職人さん、見て見てば、鉢は小さいですが、大きな花が紙袋から顔を覗かせていて。
「わ、本当にいいのか!? ありがとうな!」
 嬉しげに笑うと元気に言われる礼の言葉に、職人さんは煙管を燻らせつつ笑って。
 ジュウが鉢の紙袋を持つのは、ある意味ちょっとした宣伝にもなるから気にするなという言葉に、不思議そうにどういうことか聞けば、うちの屋号の入った紙袋にその花を持って歩くだけで十分なんだよと言われ、なるほど、と頷いて。
「久方ぶりの浮世ですけれど……活気がありますのね」
 賑やかに話す壮年の職人とジュウの会話を横目に、ゆったりと市へ入っていくのは瑠璃桔梗(ia3503)です。
「この時期の花と言えば菊ですものね」
 そう笑みを浮かべるも、ふと少し困った顔になりあたりを見回して。
「久方ぶりすぎて、少々勝手がわかりませんわ……案内してくださるような親切な御方がいらっしゃれば助かるのですけれど……」
 そんなことを言ってふらっと見て回り、途中で一般の菊見の御客さんを捕まえて回ったようです。
「ふむ……たまにはこういった時間を過ごすのも悪くない……」
 市の果て、境内の端の方にゆったりと足を向けたのは影雪 冬史朗(ib7739)。
 影雪は参拝道の人混みから抜けると、ゆっくりとお寺へと歩み寄って周囲を見れば、穏やかな空間の中で、お寺の本堂に隣接して用意された、一室、そこでは小坊主達が御茶などを運んでいました。
「すまないが一杯貰えないだろうか……」
「はい、ただいま」
 ニコニコと楽しげに働く小坊主が御茶とお団子を影雪の傍らに置くと。
「ごゆっくりどうぞ」
「うむ、かたじけない」
 深々と頭を下げてそういう小坊主に僅かに頷いて応えてから影雪は辺りを見渡すと、参拝道は賑やかで、境内は比較的ゆったりと落ち着いている様子。
 本堂の中では何やら住職様が菊について話しているようで、そんな声を微かに聞きながらもゆったりとした時間を味わう影雪。
「松や菊など、長寿の願いを込めて翁草と呼ばれることもあった花ですが……」
 穏やかにのんびりと話すのは老僧、このお寺の住職でその前に座り話を聞くのは无(ib1198)、その傍らにちょこんとお行儀良く座って聞いている尾無弧、それは御茶とお団子を頂きながらの長閑な様子で。
「……忘れることのないよう賜った経文を菊の葉に書き記し、その葉に滴る雨露が霊薬となり、この話に因んで、菊の花を酒に浸しそれを飲めば延命が得られるとして、菊酒が呑まれるようになったとのことです」
「なるほど……」
 元々薬として重宝がられている花、お酒だけでなく御茶で飲んでも食しても良いという話を住職から聞いて頷く无。
 尾無弧は良い子にして无の傍らで控えながら、そんな2人の様子を見比べています。
「こちらの薬酒も良いですが、この時期にだけ、良い菊酒と菊茶を用意している茶屋が御座います、もし宜しければ寄られてみては如何でしょう?」
 温和な笑みのままで言う住職に、无は頷くと礼を告げてからゆっくりと本堂を出て周囲を見回し。
「ふむ、市を見てから、行ってみますか……」
 そう呟くと无は市の中へと足を踏み入れていくのでした。

●菊香の市
「光華姫、見て下さい、綺麗ですねぇ……」
 和奏(ia8807)はそう笑うと肩に乗っている人妖の光華に見ていた菊の花を指して言えば、自分が言われたのではないからかぷぅと頬を膨らませてそっぽを向く光華。
 とは言え、其の辺りは女の子? ……女の子、こういったものは好きなようでちらちらと視線は菊の花へと。
「おや、そのちっこいのは菊の花は嫌いかい?」
 笑って言うのは30代程の若い職人さん、ちょっと考えると後ろに置いていた盥へと目を向けて暫し、手拭いで何かを拭うとひょいと差し出すのは花の直ぐ下、指の二関節程の茎しかついていない大輪の菊の花。
 所謂管物という筒状の花弁がぱっと華やかに開いたもので、職人さん曰く、運び入れる時や市の中での混雑で折れてしまったものを切って、盥の水に浮かべていたとか。
「わぁ……」
 そっぽを向いて和奏に対して拗ねていた様子の光華は、その大きな花を嬉しそうに持つと、悪戦苦闘しながらも髪に飾ることにしたようで。
「なんか、顔より花が広がっている分、大きく見える気が……」
「何よっ!」
 きぃっと怒りはするものの、ずれそうになった花を手でぴと押さえると、ちょっと光華も嬉しそうな様子を見せていて。
「柚茶はと……」
 少し遅くなってやって来た礼野 真夢紀(ia1144)は、大切そうに持ってきた水筒に目を向けると、嬉しそうににこにこと市へと足を踏み入れていました。
「宝珠使って保温式の水筒って出来ないかなぁ」
 柚茶が冷める前に会えると良いですけれど、そう呟くときょろきょろと辺りへと目を向けて。
 寒いと嫌だし。出店や茶店の食事も楽しみだけど、と言いながら仕込んで凍らせて置いた柚茶を熱湯へと溶かして持ってきていた真夢紀は、良く作ったものを楽しんでくれる和奏に飲んで貰おうと思っていて。
「なんでしょう、あの方は?」
 ふと見ていれば、何やら市に来ていたお客さんが大輪の見事な鉢を買ったところ、それを巻き上げようとにこやかながら脅している破落戸がいたようで、てててと寄っていくと。
「いけませんよ、嫌がっているじゃないですか」
 てい、と真夢紀が破落戸を転がせば。
「山羊座さま―――っ! はぐれた!?」
 あわあわと駆け抜けるアリスがその男を踏み抜き、その後を追ってのしのしと歩いてくる山羊座が側によってアリスを呼び止めてから。
「オレはちゃんと見ていたぞ、何故貴殿がオレを見失う」
 呆れて変えてしまったかと焦っていたアリスがぴょーんと抱きつくのを引き返してきながらちらりと転がっている男を見るも、一瞥をくれるだけで。
「あ、そこ、美味い店っす!!」
 調査しましたと嬉しげにぴょこぴょこと飛び跳ねながら山羊座を追うアリスが、だめ押しとばかりに踏みつけて行くのに、潰れてしまった蛙のように不思議な音しか上げない破落戸に、ちょっぴり困った顔をすると、真夢紀は口を開いて。
「いけない事をすると、こんな目に遭っちゃいますよ?」
 真夢紀の言葉にも男は呻き声しか上げられませんが、そこに顔を覗かせるのは御神村で。
「どうした?」
「あ、この方が……」
 かくかくしかじかと現状をざっと説明すれば、そういえばあの辺りに利諒が戻って来てたなと、市の連絡所に運んどいてやるよと笑うと男を担ぎ上げる御神村、有難う御座いますとぺこりと頭を下げると、真夢紀はまた市の人混みへと入っていきます。
「さて……」
 男を担いで行くと、連絡所でほうと一息ついていた利諒を見て御神村は声を掛けて。
「なんか悪さしようとしてた奴らしい」
「あ、有難う御座います、追っかけていたのの1人です〜」
 どうやら先程運営費を掠め取っていた頭を押さえていたようで、それを知らない下っ端がまだ彷徨いているかもと一息ついて捜しに行く予定だったよう。
「しっかし、色んな菊があるもんだなぁ。色も形も様々、一つ一つそれぞれの良さがあって綺麗なもんだ」
 しみじみと言う御神村に笑って頷くと、利諒も立ち上がって。
「やっぱり、この時期ここに来ると、活気もあるしほっとするんですよ。目にも良いですし……」
「ああ、花を愛でる心の余裕をもたねぇとな?」
「ですよね」
 にこりと笑って頷くと、ぶらりと途中まで一緒に歩いて話すと、利諒は境内の方をまた見てくるそうで、御神村は市の端、大きな茶屋に入っていくと二階へと案内され出て来るのは菊のおひたしや花を散らばらせたちらし寿司など、目でも楽しめるものの載ったお膳。
「悪ぃな、飯とか奢らせちまって……かえって依頼料より高くついちまうんじゃねぇか?」
「いいえぇ、やっぱり、自慢の一品は、来て下さった方に楽しんで貰いたいじゃないですか。下の職人達と一緒ですよ」
 笑って女将さんはそう言うとごゆっくりと頭を下げて降りていき、食事に舌鼓を打ちながら、二階の窓から通りの賑やかな様子や道や境内を飾る菊の花を眺めて。
「……」
 ふっと、自身の隣に空いている場所、その畳を手で小さく撫でると、そこに誰かが居るのを思い描いたか少しだけ寂しそうに笑むと、一緒に見られたら良かったんだが、と、御神村は小さく呟くのでした。

●穏やかなお茶の席で
「あれ? 和奏さん、ここで何を?」
 ちょっと驚いた様子で小さな茶屋へと通りかかった真夢紀が尋ねれば、繁盛していて天手古舞いだった茶店でお手伝いした和奏は首を傾げて。
「あぁ、お手伝いをしていました」
 言われて一番大変な時間は手伝って過ぎたので、今は大分落ち着いた様子、ついつい手伝って頂いてしまって、と茶屋の人は奥の庭の菊が楽しめる席を勧めて。
「あ、そうです、もし良かったら、これ飲んで下さい」
「へぇ、柚子の香りが良いですねぇ……」
 持参の竹製湯飲みに柚茶を入れて和奏へと出す真夢紀、光華も湯飲みに入れて貰ったものを、小さな匙で掬って飲んでご満悦、和奏ものんびり庭を楽しみながら御茶を頂いたようで。
 市を回って気に入った菊の鉢を眺め、庭の菊を眺めて笑みを浮かべている和奏。
「あぁ、これは美味しいですねぇ。付け込む分量は……」
 お店の御主人にも振る舞って、これこれと分量の話でちょっと盛り上がってみていたり。
「本当に、たまにはこうして普通の女子として過ごすのも、よろしいことですわ」
 店先、菊の市がよく見えるところで御茶とお饅頭を頂きながら市で知り合った人とのんびりと楽しんで居る様子の桔梗、菊の小物を見ながら笑みを浮かべてゆっくりとした時間を楽しんで居るようで。
「これからどんどん寒くなって花の少ない寂しい景色になる前に、きれいな花をたくさん見ることができて……ありがたいです」
 参拝道の入口、大きな茶屋に入って休憩しながら一息ついて笑みを浮かべるのは、掏摸などに目を光らせていた菊池。
「本当に素敵な市ですね」
 迷子を休憩所や連絡所に案内したりと色々と尽力していたようで、同じく市を眺めながら言うシータル、境内の前と言うことで、店の前のその縁台は広がる菊の鉢とそれを眺める人達、花を楽しむにはある意味特等席で。
 菊を象ったお菓子と、菊の花びらが浮かべられた御茶。
「故郷では見られない花ですので、三度も回ってしまいましたわ」
 にっこりと笑ってシータルは楽しげにそう言う野でした。
「なんだこれ!? なんだこれ!? なぁ、教えてくれよ!」
「……菊を象った生菓子、だな」
 中庭に面した席では、楽しげな様子で言うジュウ、傍らには大切に運んでいた菊の鉢、所々でお土産に持たされたお菓子の包みなど、興味津々で聞いている姿に、聞かれた方も嬉しくなってか包んで持たせていたようで。
 そして、相席になった影雪、答えるべきか考えるも茶を啜り、何となく心が穏やかになったかそう応えて。
 庭に飾られる菊、池と、その側に色付く楓の木。
「綺麗だな……。こういうの過剰風月? って言うんだよな!」
「……花鳥風月、だ……」
 緩く溜息をつくと影雪はもう一口御茶を頂いて、一息。
 とは言え遠くから聞こえる市の賑やかな声も別に嫌なものでもなく、ジュウが楽しげに庭を眺めているのをちらりと眺めつつ、のんびりとした時間を過ごしているのでした。
「こほん……おや?」
 ふっと、少しだけ喉に違和感を憶えた无、手を喉に触れさせて。
「少し、飲み過ぎましたかね……それとも風邪か……?」
 不思議そうに首を傾げた无は、先程買った鉢に目を落とすと、そのうちの一つの花に手を伸ばすと。
「そういえば、風邪に効くとか……」
 呟きながらもしゃもしゃと花を食んで歩きながら家へと戻っていく无、尾無弧は不思議そうな様子で見上げて首を傾げると、无の後を追って市を去っていくのでした。
「あ、御神村さん」
 そろそろ日も沈み、市は提灯の灯りで浮かび上がって、またそれも風情があって。
「お邪魔しますーお一つ如何ですか?」
 菊の花を付け込んだ菊酒を持ってきた利諒が言えば、頷く御神村、大徳利に自家製のものを持ってきたようで。
「ちょっとした自信作なんですよ。あと、さっき近くの茶屋で真夢紀さんの柚茶も少し頂いてきました」
 おつまみもちょこちょこと、そう笑ってお盆を卓に置いた利諒、御神村は口元に僅かに笑みを浮かべて。
「ああ、旨そうだな」
「美人のお酌じゃなくて申し訳ないですけど、お一つどうぞ」
「はは、お互いにな」
 大徳利に男2人、大振りの湯飲みを使っての菊見酒に月見酒。
 穏やかな月明かりと提灯灯りの中で、菊見の時間は、もう暫く続くのでした。