【PM】南瓜のお屋敷で
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/05 19:04



■オープニング本文

※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。
オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。

 ぼんやりと黄金色の雲の中を歩いていた開拓者ギルド受付の青年・利諒は、きょときょとと辺りを見渡していると、ふと、向こう側にある大きな異国風のお屋敷に気が付き、そこに入って行く見知った人間に気が付いて追っかけるように足を速めていました。
「ぜんぜん距離が進まないように見えて、意外と近づいていたんですねぇ。でも、ここどこでしょう‥‥?」
 怪訝そうな表情を浮かべるも、おきゃくさまかんげい、と素朴な所謂くれよんで描いた子供の字と、切り抜かれたちょっと不格好な蝙蝠と南瓜提灯の切り絵。
「なんだかちょっと、楽しそうですねぇ‥‥お邪魔しまーす」
 そんな風に声をかけながら、開け放されていた門を潜ると、入っていくお屋敷、あちこち可愛らしい、でも全部子供のちょっとぶきっちょな手で作られたのが分かる飾り。
「はっぴーはろーうぃーん? というか、うわぁ、南瓜のお菓子ですね、凄い、美味しそうだ♪」
 入って行けば、矢印に従って入った食堂の広いテーブルには、たくさんのお菓子が飾り付けられていて、そのほとんどが、南瓜を使ったもの。
「ボクを食べて? なんか可愛いカードですねぇ」
 ぶっちゃけてしまえば、利諒の前に並んでいるのは季節も時代も超えた、それこそ天儀にはないようなお菓子までも、あれもこれもと並んでいるのですが、まぁ美味しそうの一言で片付いてしまう利諒もどうなんでしょうか。
「じゃあ、ちょっと頂いてみましょうか‥‥む‥‥美味しい‥‥コレは、絶品‥‥」
 南瓜のタルトをぱっくりとフォークで一口、じーんと震えている利諒は、すっかりと先に入って行った知人のことは忘れてしまい。
 そして、気が付かないうちに、ちんまい6つぐらいの男の子が、頭はすっぽりと南瓜提灯で隠れて顔は分からないのですが、ちっこい鎌を手に黒いマントを羽織って状態で、くいくいと利諒の着物の裾を引っ張って。
「おや‥‥? 君は?」
「とりっくおあとりぃと! 遊んでくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
 精一杯おっきな声で言っているつもりの男の子、南瓜提灯の口元には、にこにこと嬉しげな子供の笑顔の口元が見えます。
「あぁ、何でしょう、よく分かりませんが、一緒にこれでも食べますか? 待って下さいね、今装う‥‥」
「ちがうもんっ!!」
 にこにこと笑顔の利諒、美味しい南瓜のお菓子が食べたいと思ったのか、お皿に装ってあげようとしたら、笑顔が一転、泣きそうな声の男の子で。
「おまえなんか、かぼちゃがたべられなくしてやるーっ!」
 だだっ子のような声を上げて利諒に鎌をぴっと突きつけてから、ぱたぱた走っていってしまう男の子を、ちょっと呆然と見送った利諒。
「南瓜、食べたかったのじゃなかったんですか‥‥」
 ちょっと残念そうに見送ると、一口、食べかけだったタルトを口に運び、固まる利諒。
「ぐ‥‥」
 急に口に運べば気分が悪くなってしまい、飲み込むも、へろへろと部屋の隅っこでがっくりとして、利諒は首を傾げます。
「さっきまで、あんなに美味しかったのに‥‥というか、あの子の言うとおり、南瓜が食べられなくなった‥‥?」
 がぁんと頭を抱える利諒の前に立ったのは、先に入っていった、当の知人、保上明征。
「‥‥何やら、子供が泣きながらかけてきて、人の顔を見て怯えたように走り去ってしまったのだが、何かあったのか?」
 南瓜のスティックを囓りながらそんな風に聞く明征を、ちょっと恨めしそうに見る利諒。
「うう、あの子を見つけて、何とか‥‥さっきの言葉を取り消して貰わないと‥‥」
 事情が良く分からない明征は、首を傾げながら、子供を捜すなら手伝おう、というのでした。


■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 御神村 茉織(ia5355) / 菊池 志郎(ia5584) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 紅 舞華(ia9612) / 玄間 北斗(ib0342) / 无(ib1198) / シータル・ラートリー(ib4533) / ノール(ib8051


■リプレイ本文

●迷い込んだお屋敷は
「‥‥光華姫」
 辺りを見渡すのは和奏(ia8807)、和奏はその肩にちょこんと座っている人妖の光華に目を向けて聞くも、光華は興味深げに辺りを見渡しています。
「さっきまで、こんな所ありましたっけ‥‥?」
 いつの間にか迷い込んでいたそこは、黄金に輝くお屋敷、そして振り返れば開け放たれた立派な鉄の門。
「曲がる場所、間違えましたかね‥‥?」
「んー‥‥?」
 和奏が首を傾げるのに光華もかっくしと首を傾げて見せますが、深く考えるよりもとりあえず中に入っていくことにしたようで。
「それにしても、良い匂いがしますね」
 そんなことを言いながら、和奏は屋敷の中へと入っていくのでした。
「かぼちゃを食べられなくしてやる、と言われたら本当に食べられなくなってしまった‥‥こんなに美味しそうなものがたくさんあるのに、それは災難でしたね」
 しみじみと言う菊池 志郎(ia5584)は、同情しているようで見えて、本当にこんなに美味しいものなのに、と金色に煌めく匙で南瓜のプリンを一匙口に運んでそのほろほろな甘さを堪能しているようで、利諒もちょっぴり涙目で見ています。
「まさか、子供がこんなに美味しいお菓子を嫌がるとは思わなかったんですよぅ」
「‥‥話を聞いていると、別に南瓜のお菓子が嫌な訳じゃなさそうなのですが‥‥」
 言ってから、少し考える様子を見せる菊池、ふっと利諒へと訊ねかけて。
「それにしても、その子供は泣きそうな顔をして走って行ってしまった訳ですか?」
「はい‥‥しかも、保上さんと一緒に探していると、どうしてもあの男の子が見つからなくて‥‥」
 しょんぼりしている利諒の後ろでは、少し気不味そうな明き柾が所在なさげに立っています。
「泣きそうな様子でしたら、やはり心配ですね‥‥」
 そう呟くように言うと、ほかほか焼きたてな南瓜餡のパンを手に菊池は屋敷の中に足を向けていくのでした。
「よ、利諒の旦那、保上の旦那、お久し振り」
「保上の旦那と利諒サンも、はっぴーはろうぃーん☆」
 御神村 茉織(ia5355)と弖志峰 直羽(ia1884)が部屋の入り口からひょっこりと顔を出して声をかけてきて。
 御神村は何やら所謂ジルベリアなどで見られそうな貴族服にマントを羽織り、弖志峰はきりっとした執事の姿に、何故か頭にぴょっこりと狼の耳が付いていて。
「お菓子が欲しいので悪戯させて下さーい!」
「悪戯されたくなければお菓子を、ではなかったかな?」
 紅 舞華(ia9612)くすりと笑って言う舞華は、黒いふんわりと裾の広がったドレスに黒いリボンに南瓜と黒猫の飾りが付いた可愛らしいとんがり帽と言った魔女の姿。
「で、お二人揃って、何辛気くさい顔してんすか?」
 首を傾げて手に持った薔薇を軽く振っている御神村に、顔を見合わせた明征と利諒は、とりあえず現状をかくかくしかじかと説明します。
「あー‥‥そりゃなぁ。子供ってのは機嫌を一旦損ねるとなかなか直してくれねぇからな」
「利諒は大変だったな。‥‥その、保上さんも」
 わかるわかると頷く御神村に同情とちょっぴりの可笑しさを押さえる様子を見せながら言う舞華は、傍らの卓に『ボクをたべて!』と子供の字で辿々しく書かれたものを見てから南瓜のスティックを囓って。
「‥‥この南瓜パイも南瓜スティックも美味しいが‥‥魔法の力を持った子供、か?」
「しかし、南瓜を食べられなくされたのか? 何とか解いて貰えるよう協力するぜ」
「そーだよね、利諒サン、お菓子食べられないんじゃ不憫だし、俺も探すの手伝うよ!」
「あ、ありがとうございます! いや、南瓜が食べられないのもしょんぼりですが、やっぱり、悪いコトしちゃいましたよねぇ‥‥」
「む‥‥探すとなると、私は別に探した方が良いかもしれぬな‥‥」
 一同がでは探しに行ってみるか、となったところで。
「その前に‥‥お二人に、獣耳か落ち武者か選んで貰うぞ」
「‥‥は?」
「確かに、花より団子というが、仮装の一つもないのは野暮だぞ」
 笑いを含んだ舞華の言葉に、目を瞬かせた明征と利諒は顔を見合わせるのでした。
 ふと立ち止まった无(ib1198)は、仕事帰りに気が付けば雲に包まれるかのように道を見失い立ち止まります。
「さて、どういうことでしょうねぇ、夢か現か幻か‥‥」
 小さく呟くと、立ち止まっていても意味がないとばかりに構わず歩き始め、ざぁっと言う風と共に辺りが開け、見ればぱっかりと開いた門の内側、視線を奥へと向ければ黄金色の洋館が飛び込んできて。
「迷子になったか化かされたか‥‥誰かいませんか、帰り道を教えて欲しいですが?」
 声を上げるも、そもそも人がいるのだろうかと口の中で小さく呟いてから、兎に角行ってみるかと歩いて行き中へ入ればコレが立派なお屋敷で、すと手帳を取り出して辺りを見渡し、とりあえず記録を取ろうと筆を走らせる无。
「‥‥『ボクをたべて!』ですか‥‥折角ですので頂きましょう」
 席について用意されているお菓子の数々を手に取れば、南瓜のマドレーヌはほろほろと南瓜の本来の甘さ、ちょこんと用意されたカップにポットから注ぎ入れれば紅茶の香りが心地良く広がります。
「とりあえず、持てなされているようですし害意もないでしょう。とすれば、ここの住人に聞けば、とりあえず帰り道は分かるかもしれませんね」
 焦る必要もなさそうですしね、どこから見ても子供の用意した様子の飾り付けに目を向けて、无はとりあえず休んでひと心地付いてから探すことにするのでした。

●お客様とご対面
「このお家もハロウィン用飾り付けですねぇ」
 きょときょとと辺りを見渡しながら言う礼野 真夢紀(ia1144)は、どうやら幾度かハロウィンに関わったことがあるよう、とはいえよく知らないところに迷い込んだのには代わりがないようで、小さく首を傾げながら廊下を歩いていました。
「でも、結構広いですねぇ‥‥」
 言って曲がり角にさしかかった瞬間、どんっ、とぶつかって思わず尻餅をついてしまう真夢紀。
「痛いですぅ‥‥ほえ?」
「ぅ、ふえぇ‥‥ひぐっ‥‥ふえぇぇ‥‥」
 尻餅をついたまま言えばぶつかった相手に気が付くと、南瓜提灯の中から聞こえる泣き声に真夢紀は目を瞬かせると身体を起こして、大丈夫ですか? と声をかけます。
「うぅ‥‥ひっく、遊んで、って、言った、のに‥‥」
 どうやら泣いているのはぶつかったことではないようで、ちょっと驚いた様子のまま少しだけ考えると、にこっと笑ってから、南瓜提灯をかぶった自分よりも年下らしい男の子に手を出して。
「うん、遊びましょう。でももう少し遊んでくれそうな人集めませんか?」
「ふぇ‥‥?」
 かくっと顔を上げる南瓜提灯の口元からは、小さな男の子の口が、驚いたような声を上げるも、あわあわぱくぱくと口が動くと、直ぐに南瓜提灯が前後にかくかくと動いて。
「うんっ、遊ぶひと、あつめる!」
 手を借りてぴょこっと立ち上がる少年は、にこにこと立ち上がった状態のまま手を繋いでいる真夢紀にちょっとどうして良いのかあわあわとしています。
「‥‥狸さんがいれば、確実に遊んでくれると思うし‥‥」
 小さく真夢紀は呟くと、少年の手を引くようにして、にこりと行こうと告げ、どうやら南瓜提灯ごとちょっと赤みが差した様子の少年は、真夢紀について行くように歩き出すのでした。
「うわーうわーうわー♪」
 お屋敷の中を楽しげにぱたぱたと走り回っているのは、リエット・ネーヴ(ia8814)。
 広い屋敷に、あちこち飾り付けられているハロウィンの楽しげな、そして少しいびつな飾りにリエットはちょっと興奮気味、そして実に楽しそう。
「あ、他にも人がいます」
「う、うん」
 そこにやってきたのは、真夢紀と一緒の少年、それに気が付いたリエットは、にこにこしたまま少年の前へとやって来て、少年がえっとなどといって遊びに誘おうという言葉を口になかなか出来ないのに、満面の笑顔を浮かべ、ぎゅっと手を握って。
「こんにちわんわー! ここ、君の家? 凄いじぇえ〜♪」
「う、うん、ボクの、おうち‥‥」
「あ、先に挨拶! こんにちはー! 遊ぼ遊ぼ!! ‥‥ねぇ?」
 ちょっと気圧されたのか一瞬間がありますが、すぐに南瓜提灯の口から見える子供の口元は満面の笑みを浮かべ、真夢紀とリエットを交互に見ると。
「うんっ、あそぶ、いっしょに遊ぶっ!」
「何して遊ぼっか? 鬼ごっこ? かくれんぼ? なんでもいいじぇ!」
「そうですねぇ、庭が広いから鬼ごっこ出来そうですし。お屋敷広いみたいだからかくれんぼも良いかな? 石けりも出来そうだし‥‥」
 きゃっきゃと飛び跳ねて言うリエットにんーと考える様子を見せる真夢紀、少年はというと、だんだんとリエットの明るさに引っ張られるように何でも良いよ、一緒に遊ぶ、と姉妹には一緒に跳び跳ね出す始末。
「あら‥‥こんにちわ♪」
「あ、シータルねー! シータルねーもあそぶじぇ♪」
「あら? ‥‥はい♪ どのように遊びましょうか?」
 少し前、門を潜って迷い込んでいたシータル・ラートリー(ib4533)は、暫く庭を歩いてから屋敷内を『あら〜。素敵な洋館ですわ♪』と上機嫌で散歩して回っていました。
 そうしていれば、何やら賑やかな様子の声が聞こえてきて、そのうちのどうやら一人の声に聞き覚えがあったようでやって来てみれば、何やら微笑ましい様子、二人の所謂お姉さん達に囲まれて、ちまっとした南瓜提灯をかぶった少年は嬉しげな笑い声を上げています。
 ご挨拶をしてから少年の目の高さに屈んでちゃんとご挨拶をすれば、あわあわと頭をぺこりと下げてから、ずれた南瓜提灯を慌てて直す少年。
「せっかくだったら、まずは鬼ごっこから、順番に全部やるじぇ〜」
「鬼ごっこする人、この指とーまれ♪」
 リエットが言うのに笑いながらシータルが言えば、ぴょんぴょん跳びはねながらリエットが真っ先に飛びつき、直ぐに真夢紀もシータルの指をきゅっと握り、それを見た少年も、おずおずと掴まるのでした。

●一緒に遊ぼう
 玄間 北斗(ib0342)が真夢紀と会うことが出来たのは、鬼ごっこで暫く走り回っているうちに、真夢紀が屋敷の裏までぱたぱたとかけて来てしまった頃合いでした。
 真夢紀が言った、狸さん、それはそのまんまの、とぼけた表情をしたお手製のきぐるみを着込んでいた玄間そのままで。
「まゆちゃんなのだぁ〜」
「狸さん! ちょうど良かったです」
 やっぱりいた、とにこにこしながらいう真夢紀に、玄間もにこにこした表情のまま、ただちょうど良いという意味合いが掴めずに首を傾げると。
「実は‥‥」
 かくかくしかじか、便利な言葉ですが兎に角そう形容するのが相応しい程一気に真夢紀が現状を説明すると、もこもこの着ぐるみの手のまま顎に手を当てて、うーんと考える玄間。
「遊んで欲しいってきっとさびしがり屋さんなのだぁ〜。それなら、おいらも一杯一緒に遊んであげようなのだぁ〜」
「わ、きっとあの子も喜びます〜」
 いう真夢紀が庭の方へと戻ると、『はーい、集合ですー』と声をかけ、ぱたぱたと集まってくる少年にリエット、それにシータル。
「おいらも一緒に遊ぶのだぁ〜」
「ほんと? たぬきさんもいっしょ?」
 南瓜の少年が嬉しそうな声を上げると、もこもこの着ぐるみの手の肉球をすちゃっと見せてもちろんなのだぁ〜と言う玄間。
「では、先程まで一杯一杯走りましたし、次はかくれんぼをしましょうか」
「‥‥おや、男の子が居るとは伺っていましたが、既に人が集まっていましたね」
 シータルが提案するのにきゃっきゃと声を上げる少年、その声が菊池の耳に届いたのかがさっと茂みの中から顔を出すのに、吃驚する少年。
「あ、ぱい‥‥」
 見れば、菊池の手には食べかけのパンプキンクリームのパイ包み。
「ええ、とても美味しいお菓子です。‥‥えぇと、なんてお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
「えぇと‥‥名前‥‥知らない」
 ちょっと困ったように俯く少年、どうもひとりぼっちで居たため、自分で名前を知らないようで、にかっと笑うリエットが口を開いて。
「すっかり名前聞くの忘れてたじぇ!」
 南瓜君って呼んでたと笑って言うリエットに、なんだかそう呼ばれるのが嬉しいとおずおずと少年は言います。
「えぇと、では、南瓜君さん‥‥南瓜さん‥‥ですね」
 こっくりと頷く少年改め南瓜君に菊池は一つ頷くと、可愛らしくて賑やかで楽しい飾りですね、と声をかけ、俺も遊びに参加しましょう、というと、南瓜提灯の向こう側ではありますが、どうやらぱっと嬉しそうな表情を浮かべたようで。
「じゃ、かくれんぼなのだぁ〜おいらがまずは鬼をやるから、みんな隠れるのだぁ〜」
 きゃーとあちこちに散るのに、庭の片隅で蹲ると数を数え始める玄間、というか、狸。
 ちょっぴり庭に同化してしまっていて、猟師さんが居ないのが救いではありますが、庭やお屋敷内に散った遊ぶ仲間を捜すために、すっくと立ち上がるとよぅく耳を澄ませてから、てこてこと歩き出すのでした。
「ふむ、こいつは良く出来てんなぁ」
「びびび、吃驚した‥‥」
 何やら真っ黒に塗りつぶされていた扉を、南瓜君を捜している最中のため開けて見れば、突然どんと飛び出したワゴンと、パパパンとクラッカーが引かれて紙テープを撒き散らしたぬいぐるみが突っ込んでくるのの直撃を受けた弖志峰。
「な、なんで開けた舞華嬢は無事なんだろうか‥‥」
「まぁ、横の壁に身体を寄せて、正面に立たずに開けたわけだから‥‥」
「被害は正面に立った人に行きますよねぇ、そりゃ」
「開ける前に先に言ってくれーっ!」
「まぁ、その、済まない」
 うんうんと頷く獣耳の明征と落ち武者な利諒に、開けた本人であるまいかも謝れば、御神村がそこでお前が止めねぇと階段の下に転がってったなと言うのに、ちょっと考える様子を見せる舞華。
 ちなみに獣耳と落ち武者が決まったのは、部屋の片隅にあった遊び道具の賽子を転がして決まったとか。
「しかし、見たところ遊びたいという意志は感じられるが、危害を加える様子はなさそうだし‥‥」
「手分けして探した方が良いかもしれない」
 明征が言えば頷く舞華と御神村、ちょっぴり明征が銜えているパンプキンキャンディーを恨めしげに見ている利諒も同意を示す中、ソウダネーとちょっとかくかくしている弖志峰。
「じゃ、下の階の広間、あそこに集まるってぇことで」
 御神村の言葉で全員がばらけてみると、あちこちに楽しませようというのは分かるものの吃驚仕掛けがあったりして、またこういった所を一人で進むのにちょっぴりびくつきながら進む弖志峰、心なしか狼耳もぺたっとしているようで。
 暫くすれば、明かりがぐんと落ちた廊下に差し掛かり、なんだか嫌な予感がすると冷や汗を浮かべつつ、こそこそと物陰を這うようにして進んでいた弖志峰、と。
「ばぁっ!!」
「ひぃいぅぃぃっ!?」
 暗闇の中、普段の仕事等ならまだしも、ちょっと不気味かもとびくついていた弖志峰の目の前に、物凄い早さで飛び出してきた毛皮‥‥。
「ありゃ?」
 不思議な声を上げた弖志峰、反射的に廊下を駆け抜けて掃除用具の入っている棚の向こう側にさっと飛び込めば、廊下に現れた玄間はくいと首を傾げます。
「あぁ、真夢紀さん?」
 不思議な声に気が付いたのか、用具入れの辺りにやってきた利諒は、幾度か依頼やご招待で顔を合わせたことのある真夢紀が、既に見つかっていて弖志峰の様子に目を瞬かせたのを見かけて声をかけて。
「うぅ、り、利諒サン‥‥」
 聞いた声に半ベソ気味で出てくる弖志峰、吃驚させすぎたのだ、とかしゅかしゅ頭を掻く玄間、その様子を用具入れの中から伺っていた南瓜君が、思わずくすくすと笑いを零して。
「南瓜君、みつけたのだぁ〜」
「えへへ‥‥ボク、見つかっちゃった‥‥」
 用具入れが開いて玄間がにと笑いながら覗き込めば、用具入れからごそごそと出てくる南瓜君、利諒と目が合うとぷいとそっぽを向いてしまいますが、兎に角南瓜君も見つかったし、一度広場で集まって、休憩でもしようという話になって。
「‥‥その、ちゃんとお話を聞かないで、ごめんなさい」
 そして、広間にて、南瓜君に平謝りする利諒の姿と、ちょっとびくついている南瓜君の姿と‥‥。
「ほら、ほら、保上の旦那、笑顔、笑顔。怖がらせちゃいけねーぜ?」
「う、いや、怖がらせているつもりは‥‥こ、こう、か?」
「うわ、凄く引き攣ってますよ、保上サン」
 御神村と弖志峰に言われ頑張って笑顔を浮かべようとしている明征は、どうにも、口元がひくついているようで、それを見て、舞華は珍しいものを見たとでも言った様子で笑っていて。
「話を聞いていたところでは、遊んでくれないから南瓜を、ということのようですけれど‥‥いけないよ、思い通りに行かないことも色々あります。でも、そうやって、癇癪を起こして人に当たっては」
 ね、と優しく諭すのは、広間に来てその様子を見ていた无、相手にとっても、君にとっても良いことはありませんよ、と言われると、しゅんとするも、少しだけ考えてから、こっくりと頷く南瓜君。
「それと、人を傷付けるつもりはなくとも、階段の正面扉にあった仕掛けの様な危険なものは、あまり良くない」
 舞華の言葉にもこっくりと頷くと、舞華に撫でて貰ってちょっと嬉しげな様子で。
「光華姫、遊ばないと悪戯されちゃうんだそうですよ? …光華姫は何をしてみたいですか? お買い物ごっこ? いえ、お洋服はないですが、お菓子がたくさんありますのでお菓子屋さんならできますかねぇ‥‥」
「んー‥‥?」
 ちょっと考える様子の光華は、和奏の方からぴょんとテーブルに飛び乗ると、南瓜のクリームとホイップクリームがたっぷり入ったシュークリームを和奏へとはい、と差し出して食べるのを促していたり。
「お菓子屋さんは、あまりこういう風に食べさせない気も‥‥でも、美味しいですね」
 のんびりという和奏、お店やお買い物、という言葉に不思議そうな表情を浮かべていた南瓜君に、菊池は思い出す様子を見せて口を開き。
「近頃は、影踏み言うのが流行っていたりしますね」
「かげふみ?」
 そう聞き返す南瓜君に菊池はどんな遊びかを説明しますが、ふと、影と言われて興味深げに自分の足下を見ている南瓜君に、ひょいと手を使って動物の影を作ってあげれば、うわぁ、と食い入るように見ていて。
 あれやこれやと話す日常の話を、お菓子を一緒に居た抱きながら、興味津々で聞く南瓜君、南瓜君にとって不思議なことだらけのようで。
「おそとのせかいって、いろんなことがあるんだね」
 興奮した様子で言う南瓜君、ちょっぴり利諒の南瓜が食べられなくなっているのすっかり忘れていて慌てて南瓜君が直したりという一場面もありましたが、暫くの間、和やかな時間が流れているのでした。

●南瓜の夢
 みんなで食べるだけ食べて、かけずり回るだけかけずり回って、遊んで遊んで‥‥。
 誰ともなしに、広間に集まって来て。
 そうして、ずうっと楽しげに笑っていた南瓜君は、楽しい時間の終わりを感じて、ちょっと俯いてしまって。
「‥‥ばいばい‥‥」
 しょんぼりとした様子ではあるも、そう言う南瓜君ですが、ぽむぽむと南瓜提灯越しに撫でられて顔を上げれば、御神村がにっと笑っていて。
「こういう時は、別の言葉を使うもんだぜ?」
「べつのことば‥‥?」
 きょとんとして見上げる南瓜君ですが、リエットの手を引いたシータルが最初に門を潜り、振り返って。
「楽しかったですわ♪ また、遊びましょうね?」
「また‥‥?」
「うん、また、遊ぼーね♪」
 シータルとリエットの言葉に、意味に漸く気付くと、ぶんぶんと一生懸命に手を振る南瓜君。
「うん、また‥‥またね!」
 良い子だ、と笑って舞華や弖志峰が顔を覗き込んでから門を抜けていき、利諒や明征も、そして无や和奏に光華と続き、菊池に手を振り、御神村も門を越えていくと。
「とっても、美味しかったし楽しかったですぅ」
「また遊びにくるのだぁ〜」
 真夢紀と握手して、玄間のふかふかの着ぐるみの手で撫で撫でと撫でられて、二人も去っていき。
 そうして、またひとりぼっちになった南瓜君ですが‥‥。
「またね‥‥!」
 おきゃくさまを迎える前と違って、どこか嬉しそうに口元に笑みを浮かべて、そうっとゆっくりと門を閉じると、舞華に貰ったうさぎのぬいぐるみを、嬉しそうに抱っこしたまま、お屋敷の中へと戻っていくのでした。