【氷花祭】幻雪楼の宴
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 17人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/12 00:07



■オープニング本文

 その日、受付の青年が武天の芳野に呼ばれて何事だろうと不思議そうに首を傾げていたのは良く晴れた冬の日のことでした。
 お茶を頂きつつも何となく落ち着かないのは、居るのがちょっと特殊な場所だからでもあり。
「お茶、もう少しお注ぎしましょうか?」
「あ、いえ、大丈夫です‥‥」
 微笑を浮かべて利諒に声を掛けているのはほっそりとした姿に淡い色彩を纏った女性で、利諒は何となく普段は自分がする事を他者にされているのが落ち着かないのだと気が付いた頃、四十程のぱっと見穏やかな男性が部屋へと入って来て。
「おう、遅くなってすまねぇな」
「ぶっ‥‥ちょ、ちょっと待って下さい、何してるんです、こんなところで」
「相変わらずこまけぇことを気にする奴だ。儂が氷花祭を見に来て何が悪い」
 笑って言う男にそれはそうですが、と言うと、軽く首を傾げる利諒。
「でも、緊急とかじゃないようですし、宗右衛門のじ様経由で連絡してきても良かったんじゃ‥‥」
「おうそれよ、叔父上にちらりと開拓者ってぇのについて話を聞いてなかなか面白そうだったんでな、どんな奴らか見て見てぇと思ってよ」
「‥‥はぁ、いや、見て見てぇからなんです?」
「宴をここで開いて適当に解放しとくから、まぁ遊びに立ち寄ってくれりゃ良いとぺらり一枚張り紙しておいてくれりゃ良いって訳だ。叔父上は別口で客人呼ぶようだからなぁ?」
「何かあったらどうするんですか貴方は。第一、幻雪楼って一般的には‥‥」
「名代の許可は取ってある、って事にしときゃ良いだろうよ。それに少々仕事の話で尋ねてくる客人と合う予定もあるんだが、却って人目のある方が問題も起きなくて良い」
 僅かに呻くように言う利諒に男性は面白そうに笑って言うと、すと表情が楽しげな笑みから微苦笑へと代わって。
「何やらお前の知人なんだそうじゃねぇか」
「あぁ、そう言えば仕事の都合で一度挨拶にとか何とかいってましたねぇ。明征さん固まるんじゃないですか? 尋ねてきたら祭りの宴じゃ」
「ま、早急に戻らなきゃいけねぇ用事でもなきゃ、折角の祭りは楽しんでいくだろうさ」
 諦めたかのように溜息をついて笑うと、利諒は依頼書を取り出して筆をつらつらと走らせるのでした。


■参加者一覧
/ 櫻庭 貴臣(ia0077) / 神凪 蒼司(ia0122) / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 喪越(ia1670) / ルオウ(ia2445) / 御神村 茉織(ia5355) / 時永 貴由(ia5429) / 設楽 万理(ia5443) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / そよぎ(ia9210) / 夏 麗華(ia9430) / 紅 舞華(ia9612


■リプレイ本文

●幻雪楼
「わー‥‥凄いところだなぁ‥‥」
 天河 ふしぎ(ia1037)は三階の部屋へと向かう中で、思わず小さく呟くようにして言葉を洩らします。
 そこは幻雪楼、芳野の景勝地である六色の谷にあって唯一許可無しには立ち入れない特別な宿で。
「幻雪楼って普段はお泊まりさせて貰えない所なんだよね‥‥」
 きょろきょろと思わず見てしまう宿の内装は噂に聞くのと違い落ち着いた様子ではあるものの、ふと触れる階段の手摺などにすら、螺鈿で飾られた花々が静かに光を映し揺れているように見えます。
「凄いですよね? 私も一度入ってみたかったんですの♪」
「わっ!? い、いや、べっ、別に珍しくなんか、無いんだからなっ!」
「まるで物語で語られているような素敵なところですわね」
 きょろきょろとしているのを見られたことに思わず真っ赤になりながら否定するも、礼野 真夢紀(ia1144)はにこにことしながら天河へと軽く首を傾げて言います。
「公開されてねぇだけで有難ぇもんじゃあねぇがなぁ」
 低く笑う声が聞こえて見れば、銀煙管で軽くぽんぽんと肩を叩くようにしながらゆったりと階段を降りて来た依頼人。
「だがまぁ、此処から見る祭りの様子は格別だ、ゆるり楽しまれるよう」
「ご招待頂きありがとうございます♪」
 せめてお礼は言っておきたいと思ったかにこにこと笑っていう真夢紀に僅かに目を細めると、頭を撫でるのは失礼かもしれねぇなぁと小さく呟くように言うと、兎に角部屋に入ってゆっくりすると良いと依頼人は勧めて。
 三階へと上がっていけば、ちょっと物珍しげにしていたことにばつが悪かった様子の天河も再び室内の様子に興味津々でぐるりと目を向けるのでした。
「よぉ、アミーゴ! 早速やらせて貰ってるぜ〜」
 依頼人が中座している間にやってきたのでしょうか、喪越(ia1670)が給仕をしている女性からお酌を受けつつ、依頼人に気が付いて声を掛けます。
「おお、お客人ゆるりと楽しんでいってくれよ」
 にぃと笑って答える依頼人に、酒の杯を軽く振って笑い答える喪越は役得と楽しげに酒を飲んでいて。
 三階に用意された部屋は広い大広間のような所で宴の支度はほぼ終わっているようで思い思いに場所を使ってのんびりと過ごせるようになっており。
「俺はサムライのルオウ! よろしくなー」
 依頼人が関に着くかつかないかの時に元気良く宴の席に突撃してきたのはルオウ(ia2445)、好きな場所にと勧められると早速料理の御膳の前に腰を下ろしてあれやこれやと持ってきて貰っています。
「蒼ちゃん、あそこの辺りが良さそうだよ」
「だから蒼ちゃんはやめろと‥‥」
 宴の間におずおずといった様子で顔を出して櫻庭 貴臣(ia0077)が言えば、神凪 蒼司(ia0122)が溜息混じりに言い掛けますが、どうにもあまり強くは言えないよう。
「ね、蒼ちゃん」
「‥‥」
 微苦笑気味にみる神凪ですが、どうにも櫻庭に甘いのか
 勿論、宴に集まるだけでもなく、からす(ia6525)は祭りで冷えた人々へとお茶やお酒を振る舞う、その場所にいました。
 設楽 万理(ia5443
「ふぅ、それにしても雪の祭りだから当然とはいえ、寒いわね‥‥」
「お疲れ様。お茶、いかが?」
「あら、頂くわ。宴の席は上だったかしら?」
 からすに勧められお茶を受け取ると、温かい御茶を頂いて一息ついてからありがとね、と言って上の宴会場へと上がっていく万里。
「やっぱり暖まるにはこれよね」
 微笑を浮かべ席へと着けばお銚子をひょいと取り上げて万里は呟くのでした。
「あら、保上様」
「む‥‥? おお、揃ってどうした?」
 野乃宮・涼霞(ia0176)の掛ける声に気が付いたようで目を向けた保上明征は、御神村 茉織(ia5355)、時永 貴由(ia5429)、そして紅 舞華(ia9612)と四人連れだって幻雪楼へとやって来たのに気が付いて。
「開拓者ギルドに幻雪楼での宴のお誘いがありやしてね」
「宴か‥‥ん? 幻雪楼での?」
 御神村の言葉になるほど、と頷き掛けて、はたと考える様子を見せる明征。
「宴があるとは‥‥その、初耳だが?」
「ご存じないのですか?」
「保上様も招待を受けられたのでは?」
 目を瞬かせる貴由、舞華が聞けば、明征は仕事の都合でとある方とこちらでお会いする約束をしたのだが、と首を傾げて。
「建物の前で立ち話もなんですし、入りませんか?」
 涼霞が微笑んで言えば首を捻る明征を、ままと言いながら御神村が後ろから押すようにして中へと入っていく一行。
「ぶらりと辺りを見てから来たのですが、なかなか面白いお祭りですよね」
「この街は余程に祭りなどの行事が多いと見える。だが規模の大きな祭りの時期なればお忙しかろうからと、できれば避けたかったのだが‥‥」
 どこか釈然としない様子の明征に舞華が振ればやがて辿り着くのは三階の宴の席。
「おう、良く来たな、ま、自由にゆるりと楽しんでいってくれ」
 一行に笑って言う依頼人、その後ろにはこっそり気不味そうに利諒が隠れてみたり。
 なにはともあれ、ある程度の人も集まって宴は始まるのでした。

●穏やかな茶と酒の席
「これは泰国の着物ですね。少し天儀のものとは雰囲気が違うかと」
「この芳野でも、近頃では他島の者を良く見るようになったが、その形は泰国独特のものってぇことか」
 夏 麗華(ia9430)が自己紹介がてらに自身の衣装について言えば、なるほどねぇ、と煙管を燻らせながら頷く依頼人。
「」
 そこへ女性陣を相手に主にお酌をしてきていた水鏡 絵梨乃(ia0191)が麗華へとお酒を勧めに来て言葉を交わしたり。
 ルオウあたりは賑やかに飲み食いしているようですが、比較的まったりとした宴の席のようで、雲母(ia6295)は一人のんびりと窓の側に居て酒を載せた膳を目の前に置き、煙管を燻らせて眼下に見える祭りの様子を眺めていました。
「いい景色だ、久しぶりにのんびりとすごせる」
 そう言って膳の上にある杯へと酒を注いで手に取ると、くいと一気に呷ってふぅ、と満足げに息を漏らして。
「全く、近頃は酒もゆっくりと飲めなかったからな」
 ゆったりと窓に寄りかかりながら呟くと、雲母は笑みを浮かべながらぼんやりと祭りを見下ろしているのでした。
「みてみて、おっきな雪像‥‥あっちこっちにあって凄いな」
「雪で真っ白。きれいなの」
 わっと広がる景色を見降ろして完成をあげる天河に、にこにこと笑いながら窓の下を眺めるのはそよぎ(ia9210)。
 見慣れたものの筈ではありますが、依頼人はその様子に僅かに目を細めると。
「この景色は気に入ったか?」
「凄いね、空から見ているみたい」
「うん。色々な形があってかわいいの。あ‥‥」
 興奮気味に笑って答える天河に、そよぎはこっくり頷いてからぱっと顔を輝かすと、とある一角を指差してぱぁっと顔を輝かせて依頼人を見上げるて、嬉しそうに口を開きます。
「あれ皆で作った雪像なの!」
「ほう、どれどれ?」
 そよぎが指差した辺りには何やら大きなもふら様らしきものと、ちいさなものが沢山。
「‥‥うーむ‥‥白くて小さなもんらしいが、ちとここからだと遠くて何かまでははっきりしねぇなぁ」
「あのね、雪兎なの」
 後で見て欲しいの、とにっこり笑って見上げるそよぎに依頼人は笑って頷きます。
「あそこも絶対後で見に行くんだ! 楽しみだな」
 天河も言えばそよぎは嬉しそうに再び自身の作った雪兎を良く見ようと目を凝らすのでした。
「あらやだ」
 一応は気を付けて、と、普段は記憶を無くすまで呑む様子の万里がお酒をちびちび楽しんで居れば、ふと視界に入った人物に頬に手を当てて。
「どうしたんです?」
「いや、あれウチの国のえらいさんじゃないの‥‥う〜ん、これは家の恥を晒さないためにも大人しくしないとねぇ」
 お酒を運んできた女の子を掴まえて呑ませていた様子の絵梨乃が万里の言葉に軽く首を傾げて聞けば、杯が空いているのに気が付いた絵梨乃にお酌されつつ呟くようにそう言って。
「思わぬ失態なんてして、実家にご指摘いただいたらシャレにならないわ」
 そう言いつつも、ちびりちびりではありますがお酒を継続して頂いている辺り、いける口なのかはたまた今回のお酒の味が気に入ったのか。
 のんびりとお酒を楽しみながら万里は暫くの間は深く考えずに寛ぐよう。
「初めてかもしれませんね、こんなにゆったりした時にお会いするのは」
「ん‥‥そう言えばそうだな。常にばたばた動き回っているときばかりであったからな。‥‥見苦しかったか?」
 当の明征は涼霞のお酌を受けながら、言われる言葉にむ、と少し考える様子を見せます。
「いえ、そう言うわけではなく‥‥いつもお忙しそうでしたので心配していましたが、お変わりない御様子に安堵致しました」
 微笑む涼霞の言葉にふむ、と頷くと。
「それなりに気は使っているつもりなのだがな」
 言いながらも明征は、微かに口元に笑みを浮かべて。
「だがそうだな、こんなにゆったりと宴を楽しむ事も久方振りに感じる」
「そういえば、どうしてこちらに? お仕事の都合と伺いましたが。東郷様にお会いする為でしょうか?」
「ああ、幾つか確認と相談と、それにきちんと一度挨拶をしておかねば、と思って約束し来たのだが‥‥祭りでお忙しいであろうと思っていたが、まさか宴の最中とは」
 考えもしなかったという明征に、涼霞は小さく首を傾げて。
 とにもかくにも、雪を眺めながらのんびりと言葉を交わしている様子の二人なのでした。
「一緒に呑むか?」
「あ、すみません、頂きます」
 舞華が声を掛ければぺこっと頭を下げてお酌を受ける利諒、窓辺で舞華は御神村や貴由と共に酒を酌み交わしているようで。
「ここは鮭も料理も旨いな」
「本当ですね、こんなに贅沢して僕良いのかなぁ‥‥ちょっと落ち着きませんねぇ」
 頬を掻くと利諒も舞華の杯へと酌をします。
「しかし、このような素敵な宿に名も知らぬ者を呼ばれるとは豪快な方だな」
「本当にな。それにしても、何か初めてあった気がしねぇな」
 貴由の言葉に御神村は頷いてから、笑みを浮かべれば。
「そりゃ良かった。どうか緩り楽しんでくれよ」
「あ、この度はご招待頂きやして‥‥」
 宴に集まった者達を軽く見て回っていたのか依頼人が笑って声を掛ければ頭を下げる御神村、貴由と舞華は笑みを浮かべて見上げると座れる場所を空けて。
「東郷様は伊住様の甥御様とか」
「お? あぁ、其の辺り、聞いてきておったか」
 笑って言うと叔父上が随分と楽しそうであってな、と笑いながら言う依頼人。
「東郷様。お噂はかねがね。ま、まずは一杯」
 舞華に勧められて杯を受け取れば、注がれるのは宴で用意されたのとは違う酒、辛口のそれを燗にして貰っていたか、口元へと運んでにと笑うと口を付けて、一口口に含み依頼人は笑います。
「ほう、こいつぁ良い酒だ、旨ぇ」
「東郷様も中々イケる口ですね、もう一杯どうぞ」
 自身の選んだ酒を気に入った様子に舞華は嬉しそうににこりと笑うとすと杯にもう一杯を手早く注いで。
「仕事で顔を合わせる機会を楽しみにしてやすぜ」
「東郷様のお仕事があれば是非お呼び下さい。仕事のやりがいがありそうです」
「おう、儂も楽しみよ」
 御神村と舞華の言葉に依頼人は笑って頷くのでした。
「さて‥‥」
 それなりにお酒を堪能したのでしょうか、雲母はゆったりと煙管を燻らせて外を見ていたようですが、何やらめぼしい物でも見つけたよう。
「さて、どんな店があるかな」
 にぃと笑うとゆったりと、やはり煙管を加え燻らせたまま、雲母は階下へと消えて行くのでした。

●余興
「しかしなんだ‥‥なんか、こう、ゲイ人としての血が『一発かましとけ』と騒ぐ気が‥‥」
 酒をたっぷりと楽しんでいた喪越ですが、何やらうずうずとしてきたようでそう呟くと。
「おっしゃ、雪像に新しい1体を加えさせて貰おうかな?」
「あ、俺も―っ!」
 何やら酒で良い感じに興が乗ってきたようで喪越はいそいそと出かけて行き、ルオウも後を追うように外へと向かいます。
「どの辺に‥‥いないの」
 そよぎがその様子に窓からすぐ下を覗いてみたりしていますが、どうにも見当たらないようで首を傾げていれば。
「うっしゃー、んじゃまいっちょやるか」
 やがてそんな事を言いながらもどってきた喪越は大きな盥に雪をたっぷりと持ってあがって来たようで。
 何をするかと見て見たら、床の間に盥の下にあったらしきお盆を置いて、そこでぺたぺたと雪を乗っけて盛り固めていって。
「う、ううう‥‥つ、冷てー‥‥」
 ちなみに同じくたらふく食べてたらふく飲んで出かけて行ったルオウはというと、ゆきをわっしゃわっしゃと集めているときに木の枝の雪が降って来たのでしょう、なんとか小さくできた雪山から這い出すとよたよたと幻雪楼の中へ足を進めます。
「‥‥お茶、いかが?」
「ありがとよー」
 よろよろ上がって来た姿に一瞬間はあったものの、ずずいと温かいお茶をからすが勧めれば、飛びつくようにしてお茶碗を受け取り、ぐびーと一気に飲み干すルオウ。
「はへー、やー生き返るぜぃ!」
「雪塗れだ、これで拭くと良い」
 言ってからすが差し出す手拭を受け取ると、ルオウはありがとなーとにっと笑い雪を落として濡れた顔や手をぐしぐしと拭います。
「上行かないのか?」
「うん、夜になったら見に行こうかと思って」
 それまではここでお茶席を開いてるから、そういうからすにそっか、と頷くと、また来るなーとい言って上の階へと上がっていくルオウ。
 すっかりさっぱりと雪像づくりでもしようと思ったことは忘れているようで。
「できた! いやいや、頭の中で次の式とかよく考えちゃいるが、やっぱ形になるとまた一味もふた味も違うってもんだ」
 ルオウが上がって来ればちょうど良い感じに喪越の雪像は出来上がっているようですが、なんと表現して良いのか、良い意味で前衛的、優しく評価して奇抜にして不可思議、有り体に言うと判断不可能な不思議な物体が出来上がったようです。
「‥‥これ、何だ?」
「おう、芸術ってやつよ、どーだい、旦那?」
「足があるから、とりあえず生き物ってぇことはわかるんだがなぁ」
 感想を求められて余程に面白かったか軽く煙管を振りながら低く笑い声を洩らす依頼人。
「うーん、折角の宴会だし、ボクも‥‥ん〜‥‥なにしようかな?」
 盛り上がる様子に絵梨乃も触発されたか、折角なら一発芸でもしようかな、と言い出して。
「久しぶりに瓦割りやってみるか」
 宿の人に瓦をお願いして集めて用意して貰えば、軽く肩を回し簡単に屈伸をしてから向き直る絵梨乃。
「じゃ、一つ、瓦割、行きまーす!」
 言って構えるもそれは拳という様子ではなく、軽く息をつけば綺麗に降りあげられた足は、丁度瓦のど真ん中へとすとんと見事に踵から落されて。
 積み上げられた瓦が見事に真っ二つに割れれば、ほう、と感心するように見る依頼人、ちょっぴり一部で足を振り上げた時の着物の裾がはだけてあられもない姿に気不味そうな人が居たりはするものの、綺麗に決まれば宴の席はわっと盛り上がるのでした。

●静かに日は落ち
「こちらには良く来られるのですか?」
「来られるというか、良く泊まっているというか、まぁ、何だそんなところだな」
 住んでいるってぇところまではいってねぇ筈だが、そう涼霞に応える依頼人。
 夕暮れ時の雪景色を眺めてからの一行は、少しゆったりとした時間を過ごしているようで、依頼人の周りには明征と涼霞、それに舞華がおり、少し離れた窓際で御神村と貴由はのんびりと話していて。
「しかし、この前の聞いてその気がないのが確認出来てほっとしたけどよ」
「って、お前気にしていたのか‥‥保上様にあるわけないだろう‥‥」
 御神村の言葉を聞けば、寄り添う貴由は微苦笑気味に言って。
「第一、保上様の場合、もっといい人がいるだろう。涼霞とか‥‥」
「保上の旦那、女の好みとか、ちょいと聞いてみるかねぇ?」
 そう言って明征へと声を掛ける御神村。
「好み、と言われてもな‥‥む‥‥あれだな、理解のある者が居れば、か?」
「理解のある者、ですか?」
 不意に御神村に声を掛けられ少し考える様子を見せる明征が言えば、何とは為しに涼霞と舞華が明征へと目を向けて、首を傾げて。
「役目柄、常に常に屋敷にいられるわけでもない。そうなれば、構わぬ大事にせぬと、そう言う夫婦をまぁ、回りでも見ることがあってな」
 溜息をついて言う明征に、確かにそれは大事だなと頷く依頼人。
「今は特にまだやることが山積みで忙しいからでもあるが‥‥国の大事に戦へと出向いて、帰って来たら金目の物を持ち去られて離縁されたなどと言う話を耳にすれば、いたたまれぬ故な」
「確かに、戻ってそれでは何の為にと思ってしまうのも無理はないことですね」
 実際にあった話だと聞けば僅かに目を伏せる涼霞、御神村と貴由もそんなことがあるのかと驚くようで。
「なるほど、それで理解ある者、と」
 得心いったように言う舞華に明征は頷きます。
「まぁ、何が好みどれが好みと言葉で表すのはあまり得意ではない。だがどのような相手であれ、理解が互いになくば相手にも辛い思いをさせ悪かろう」
 答えになって居らぬか、と苦笑する明征にいいやと首を振ると、御神村は改めて窓辺で貴由と寄り添い外を眺め抱き寄せて髪へと口付けを落として。
「‥‥私は茉織が良い‥‥」
 くすぐったそうに笑みを浮かべた貴由はそう言って笑みを浮かべます。
「それにしても‥‥相変わらずお忙しいようですが、ちゃんとお休みになって、御飯はしっかり召し上がって下さいね?」
「む‥‥? あ、あぁ、まぁ、それなりにな」
 自分では気を付けているつもりなのでしょうが少々自信が無いのか、涼霞の言葉に明征は曖昧に頷いて見せて。
 それを見て微笑みかけて続ける涼霞。
「心配しておりますのよ、私も雪彼ちゃんも」
「‥‥今少し、回りにも聞いて、気を付けることとしよう」
 少し困ったように微かな笑みを浮かべて明征も頷くのでした。
「ふわー‥‥あはは。そよぎ、舞います!」
 何やらぽーっと赤い顔をして、しゅたっと立ち上がり宣言するそよぎ、それまで御茶やお菓子を頂いていたのですが、好奇心でお酒を口にしてどうやら少し酔っ払ってしまったのか、舞傘を取り出して上機嫌です。
「あわわ、目が回ってきました‥‥」
「うーん、見事にぐるぐるまわってる‥‥」
 そよぎの様子を眺めていた利諒がくらくら来ていたり、適当に雪祭りを楽しんで戻って来た様子の天河がうわー、と別の方向に感心したように言いますがそれはそれ、そよぎ自身もぽふと尻もちをつくもにこにこ笑顔です、目はまわっているようですが。
「宴、か‥‥飲んで食べて騒ぐだけ…というのも良いだろうが‥‥」
「どうしたの? 蒼ちゃん」
 神凪がふと呟くように言うのに、のんびりと一緒に景色を楽しんでいた櫻庭は小さく首を傾げます。
「いや、それだけでは、何処と無く味気無いもの、だなと‥‥」
「確かに、宴だからって‥‥食べたりするだけっていうのは、つまらないね。でも、僕に何か出来ることといったら、楽器と舞くらい‥‥」
 どうやら皆の様子やそよぎの先ほどの姿を見て思うところがあった様子の神凪に、少し考える様子をみせる櫻庭は、ふと微笑を浮かべて。
「そうだ、蒼ちゃん…久し振りに二人舞、やってみようか。」
「‥‥貴臣と二人舞、か。昔は二人で良く舞の練習をしたものだな。覚えている事と言えば叔母上の稽古が、かなり厳しかったことだが」
「ほら、最近、蒼ちゃんと一緒に舞ってないから、久し振りに舞ってみたいし‥‥」
 駄目? とばかりに僅かに上目使いで見上げればふむ、と少し考える様子を見せていた神凪はその視線に気がついて笑い。
「まあ、他ならない貴臣の頼みとあらば――舞うとしよう」
「本当?」
「二人で舞うのも久し振りだが、お前となら息も合うし、な」
 嬉しそうに笑うと立ち上がる櫻庭に神凪もたちあがると、依頼人に一指し、と告げれば互いに扇を手に向き合って。
「でも、でも、昔から蒼ちゃんの方が舞は上手だったんだよね、僕の方が巫女の家系なのに」
 微笑を浮かべたまま言う櫻庭に神凪も笑みを浮かべて見せ。
 二階では静かに真夢紀が暖かくしている部屋から外に広がる、明かりに照らされた雪像たちを楽しげに眺めており、万里が外から戻ってくるのが見えます。
 祭りの中で煙管を燻らせながら、日が落ちて明かりを灯して尚賑やかな祭りの店を、どこか満足げに笑みを浮かべて眺めて歩く雲母。
 宴のまでは、子供扱いするなーとちょこっとからかう喪越にわーとじたじた腕を振り回していたルオウは一日元気に暴れまわっていたからか、隅っこで転がっており、酒を飲みにあがって来たからすに毛布をかけられ夢の中。
「雪見に月見。梅の花もそろそろだろうか」
 そのからすは小さく呟いてのんびりお酒を片手に窓の外の雪を眺めて。
「やっぱり外は寒いね。でも、いろんな像があってやっぱり楽しかったな」
「俺が作ったのはそこで溶けて盥の水んなってんぜ。まぁ、式を作ったつもりだからな、溶けて消えるのもある意味あっているんだがな」
「やっぱり室内は大分暖かいからかな?」
 祭りに少し出かけて来ていた様子の天河が楽しげに言えば、床の間を軽く指して笑う喪越。
 天河も外と中ではだいぶ温度が違っているからと頷き。
「大分食べたし飲んだねぇ」
「ええ、本当に‥‥食べすぎでしまったでしょうか?」
 絵梨乃が言えば頬に手を当てて小さく首を傾げる麗華、二人はのんびりと良い心持なのかちょこちょことお酒を注ぎあったり話したりしながら、櫻庭と神凪の舞を眺めています。
「綺麗な景色も貴由と一緒なら、一層格別になるってもんだ。まぁ、俺にとっての一番の綺麗はやっぱおめぇだけどよ」
「ああ、やはり二人でこういうものを楽しめるのは、本当に良いな」
 窓辺で肩を寄せ合い、時折御神村が髪や頬に口づけを落とすのを、貴由はくすぐったそうに受けて微笑み見上げていて。
「やはり治安といった‥‥?」
「ま、近いようなもんだな。開拓者が頼りになるらしきことはこれに聞いていたからな」
 利諒と依頼人相手に舞華がお酒の話や仕事の話などに花が咲いているようで楽しげに笑えば、涼霞は明征にお酌をしながら時折言葉を交わしてのんびりと舞を眺めています。
「嫌な仕事もそれなりに多いし全てに対処できるわけではないが‥‥何もせず手をこまねくことの方が力不足を嘆くより腹立たしい故な」
「そうですね‥‥でも、こうしてたまにはゆっくりと身体を休めませんと、いざという時にさし障りますよ?」
「‥‥道理だな」
 珍しく控えめとはいえお酒が入っているからか、少々饒舌な様子の明征に微笑みながらこっそりと釘を刺してみる涼霞。
「やっぱり、蒼ちゃんとこうして一緒に舞えるのは、楽しいな」
「俺もだ」
 笑みを浮かべて舞い続ける櫻庭と神凪。
 既に日も落ち、窓より見える遠くに篝火が美しく雪景色を照らす中、二人の舞と共に、宴はもう暫くの間続くのでした。