【氷花祭】雪見の誘い?
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/23 15:55



■オープニング本文

 その日、受付の青年・利諒がとあるお手紙を受け取って途方に暮れてみたのは、よく晴れた冬の昼下がり。
「雪見ですかぁ‥‥ですよねー、言われる時期ですよねー」
 遠くを見る利諒は、これ僕じゃなくても良いですよねぇ、とちょっと無責任とも取れ無くない発言をしてみたりしています。
「しかし、お友達とご一緒にとか、人手もとい賑やかな方がとか書いてあるなんて手伝わせる気満々じゃないですか」
 緩く溜息をつく利諒、何となく溜息をついてから、まぁ、お誘いって言う名目ってことはとぶつぶつ呟きながら依頼書を取り出して。
「つまりは、寸志しか出せないけれど、手を借りたいって事ですよねぇ‥‥全く」
 開拓者の力は借りたいけれど、雇う余裕はないからと言うことだと分かるからか溜息混じりに依頼書へとさらさら筆を走らせて付け足す利諒。
「芳野の近くで雪に塗れての雪見のお誘いです。あまりたいしたお持てなしは出来ないですがお食事と、動物たちが入りに来る山の中の雪に囲まれた露天風呂が‥‥いやいや、ここは手紙に注釈を‥‥注:自然の中にある動物たちが入る温泉です。っと」
 どうやら手紙の差出人の事を良く知っているのか、依頼書へと注釈を付け加えて。
「是非、お友達とご一緒に雪見に来ませんか、人手もとい賑やかな方が折角の『氷花祭』も盛り上がります。ここにも‥‥注:ここにある人手とは『氷花祭』の雪像作りへ参加申請したものの人手を確保できていない為、雪像作りをしてくれる人の事を指しています」
 最後にお仕事が終わったら、少なくとも御飯やお酒、それに大自然の中に放置されているかなり大きな露天風呂が待っています、と書き足して、利諒は微苦笑を浮かべて内容を確認するのでした。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
火津(ia5327
17歳・女・弓
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
久我・御言(ia8629
24歳・男・砂
磨魅 キスリング(ia9596
23歳・女・志
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●それぞれの考え
「ようこそいらして下さいました、まずはお荷物を降ろして、ゆっくりしてらして下さいね」
 お食事処の奥さんがいそいそとお出迎えすれば御主人もいそいそとお茶とお菓子を用意しているようすが外からも見えます。
「ええと‥‥雪像を作るんですわよね。小っちゃくて可愛くディフォルメされたブリュンヒルトを作りますわよ〜♪」
 磨魅 キスリング(ia9596)がご夫婦に聞くと、にこにこと笑いながら嬉しげに愛龍である駿龍のブリュンヒルトの首をぎゅっと抱き締めて笑って。
 ブリュンヒルトもどこか嬉しそうにぱたと尻尾をかるく振ると、ぐるぅぅと喉を鳴らします。
「そう言えば、防寒具などはお借りできるだろうか?」
「はい、一応道行や綿入りの羽織、それに外套もありますので、使いやすいものをお申し付け下さいね」
 風雅 哲心(ia0135)が尋ねる言葉に奥さんが言えば、各人自己紹介などを済ませて中へと上がってお茶を頂くことに。
 楊・夏蝶(ia5341)が愛犬の蒼風の首を撫でてやりながらにこにこと口を開いて。
「雪像のお祭り、盛上げる為に頑張りましょ。私としては雪像と言えば定番の『滑り台』かな? そのまま滑っても良いしそりでも楽しいし家族連れで遊べるところが有ればいいなって」
「確かに、人呼ぶならやっぱ目を引く、話題になる『売り』がいるよな。その点龍とかは人目も引くけど、家族とかでも楽しめるものなら十分売りだし話題にもなるかな」
 弖志峰 直羽(ia1884)が夏蝶の言葉に頷くと、和紗・彼方(ia9767)が廊下へと回り障子を開け中庭を見ると、外から裏口前を経由して中庭へと通されていた愛龍である駿龍の天舞がばっさばっさと翼をはためかせながら寄って来て。
「雪像作りかぁ、楽しそうだなぁ。天舞、一緒にがんばろーよ。いいよね?」
「ぐるるぁ」
 天舞が彼方の肩口に顔を寄せて何処か甘える様に喉を鳴らせばよしよしと撫でて、その様子に叢雲・暁(ia5363)がぴったりと寄り添い見上げる忍犬のハスキー君と顔を合わせて食いと首を傾げ。
「見物なら良くやるけど偶には作ってみるのも乙なもんだよねー。火津さんの提案もあったし、ハスキー君のが出来上がったら僕も滑り台作りに参加しようかな?」
「わふっ♪」
 ぱたぱたと尻尾を振って答えるハスキー君もそれなりにやる気はあるようですが、その一方では。
「はたらきたくないのじゃ〜」
 なんと朋友の像を造ろうと提案した張本人である火津(ia5327)は早速食事処の畳の間のぬくぬくした一角でのぺーと転がりながら何というか無気力。
「まろは働くのは嫌いじゃ〜、でもお金を稼がないと姉君が怖いのじゃよ〜」
「怖い、ですか?」
 丁度お茶菓子とお茶を、転がっている火津の為にお盆に載せて運んできた奥さんがきょとんとしてみれば、のたっと転がってお盆と向き直りながら器用に頷く火津。
「うむ、そこで、いい案を考えたのじゃ〜この間弟君に作ってもらったジライヤのケロンタを働かせればいいのじゃな〜」
 微妙に駄目駄目な言葉の気がしますが、楽して儲ける素晴らしい計画だと口元が僅かに笑みになっている火津。
 火津が何か大事なことを忘れている事に気が付くのは兎に角まだ少し時間が必要で。
「ふむ、雪像作りかね。では私も一つ相棒の『秋葉』を製作することとしよう」
 温泉に浸かる前に肉体労働も悪くはない、と一人満足げに頷いている久我・御言(ia8629)の視線は中庭でゆったりと身体を丸めて腰を下ろしている相棒の炎龍・秋葉の姿。
「ふふふ、できるだけそっくりなものを作ろうじゃないか」
 秋葉の姿を見やりつつ、久我はにやりと笑みを浮かべるのでした。

●力を合わせて雪像作り
「天凱、牽いてくれな〜」
 大きめのそりを甲龍の天凱に繋いでそっと首の辺りを撫でてやれば、ぐっぐっと雪の一杯入ったそりを牽いて進む天凱に、積もっていた綺麗な雪を中庭へと集める弖志峰。
「よしよし、良いぞ。っと、わわ、そんなに張り切って走ろうとしないで良いから」
 褒められてちょっぴり牽く速度を上げた天凱に弖志峰はあわあわと追いかけると、天凱はそぉ? とばかりにくいっと首を傾げます。
「まずは会場入口だな。もふら様の雪像二つで狛犬代わりにっと。大丈夫だよ天凱、お前の像は中に造るからな♪」
 入口でぽんぽんと雪を固めて積み上げながら、鼻先を擦り付けてくる天凱に笑顔を向けるといそいそともふらの像を造り始めるのでした。
「うう冷たいのじゃ〜こんな筈じゃなかったのじゃ〜」
 ぽてぽてと雪を重ねて固めていきつつちょっぴり泣き言状態になっている火津、少しだけ遡ってみますと。
「まろは邪魔にならぬように焚き火のそばで皆を見守るのじゃ〜頑張れケロンタ〜」
「やれやれじゃ、蛙に雪‥‥」
 言いながらも健気に雪の中で白い雪を掻き集め積み上げて固めようとしているジライヤのケロンタ。
 真っ白な雪の中で冷たさにちょっとあわあわしながら働くジライヤに、ぬくぬく焚き火に当たりながら指示を出している火津なのですが‥‥。
「拙者、ここまでのようなのじゃ」
「む、確かにこれ以上練力を使ったらまずいのじゃ〜」
 どろんと消えてしまったケロンタ、はたと気が付く落とし穴に火津は面倒なのじゃ〜と零しながらも、まるっとした固まりを作っていきます。
「仕方がないのじゃ〜折角だからまろは可愛いケロンタを作るのじゃ〜」
 ケロンタが形になるまでは今少し時間がかかりそうなのでした。
「はい、ブリュンヒルト、ここをぎゅっと踏みしめて‥‥可愛らしく作りあげますわ」
 ぐっと決意を込めて集めた雪をペしぺし叩きながら固めていく磨魅、きゅるると僅かに喉の奥を鳴らして言われた通りに踏み踏みと土台を踏み固めていくブリュンヒルトに力強く決意を込めて。
「本当に愛らしくてお利口ですわ。さ、ここからは私のお仕事ですわね‥‥」
 磨魅は頑張ってちょっと大きめのそれを作り上げていくのですが。
「うきゅーぐるるぅ!」
 構ってーと磨魅の側をうろうろして居るブリュンヒルトは、雪を固めていって一生懸命な様子に何だかしょんぼりしたのか、庭の隅っこに厩のように藁を敷き詰めてお食事処のご夫婦が用意した寝床にぼふっと転がると背中を向けてふて寝を始めてしまいます。
「‥‥あれですわ!」
 心の何かが触れたのか、ぐっと作り上げる形に迷いの無くなった磨魅は、更にやる気も出てきたのか上機嫌で雪を固めていくのでした。
「く‥‥ダメだ! これでは秋葉の美しさを再現できてはいない!」
 そして自己駄目出しをしながら苦悩するのは久我、秋葉と共に土台を作って雪を固めて作っていく形なのですが、持ち前の器用さも手伝ってか細部まで拘った雪像作りとなったようなのですが、なかなか満足いかないよう。
「非常にお上手と思うんですが?」
 暖かなお茶を差し入れに来た奥さんに秋葉はもっとこう、と細部に渡る拘りを解説‥‥ただ残念なことに奥さんは流石に半分ぐらいしかわかっていないかもしれません。
「む、秋葉、まだ動いてはいかんぞ」
 奥さん相手に解説を続けていた久我は、それを休憩と取った様子でふるふると首を振ってからのびをするかのように翼を伸ばす秋葉にびしっと告げて。
 秋葉が楽な体勢になるには、久我が像の形をそれなりに作り上げるまで必要の為、今暫くかかりそうなのでした。
「凄いなー、実際に作ろうと考えると龍って、結構難しいよねぇ、簡単に小さく作っても構わないかなぁ?」
 久我の気合いの入った様子をちょっと離れた場所で眺めつつ、大変そうだなぁと言いながらぺたぺたと雪を纏め始める彼方。
「きしゃーっ!!」
「わー怒っちゃいやん、天舞。出来るだけ頑張るからさー」
 手を抜くなんて酷い、と言わんばかりに抗議の声を上げる天舞に彼方は首を撫でてやりながら宥めると、どこから手をつけるかな、と首を傾げて。
「まずは雪をっと‥‥どれぐらいの大きさが良いかなぁ?」
 彼方がきょろきょろと見回せば、風雅が雪を自身の身長と同じぐらいに積み上げて居るのを見かけて。
「ふぅ、やはり像を造るとなるとそれなりに時間もかかるな」
 小さな火鉢を依頼人夫婦から借りていて、それで手を温め凍傷にならないようにと気を付けているようで、火鉢の中で炭が赤く燃えており暖を取りながら見上げる風雅。
「この大きさでも結構かかるんだねー」
「そうだな、思っていたよりは手間だが、なかなかこれも面白い。どちらにしろこの大きさが妥当なんだろうな」
 さて、とまた雪の固まりへと向き直る風雅、雪の固まりを削り形にしていけば、水などを利用して作り上げた固まりを綺麗に剃り削って作り上げていくと、徐々にではありますが綺麗な曲線を描いた極光牙の雪像が形となっていきます。
「ボクも頑張らないとねー」
 言って彼方も天舞を自身の作っていた雪の固まりの向こう側へと座らせて、ぺたぺたと再び雪に向かって格闘することとなるのでした。
「ハスキー君、あと少しだから我慢だよ?」
「ばうっ♪」
 暁が言えば、早く遊んで欲しいのか千切れんばかりに尻尾を振るハスキー君、凛々しい顔を苦無で綺麗に削り出しているところで。
 最初に板を組み合わせ四角が出来るようにして縄で括ると、その中に雪を入れて踏み固めて固まりを作った暁、ハスキー君はその間も構って欲しくて追っかけ回すもので、小さめのそりを引いて雪や道具を運んで貰っていたのですが。
「きゅーんきゅーん」
 折角踏みしめるときゅっきゅとなる柔らかな雪の上で遊びたくて仕方がないのか、おねだりするかのように鼻先を暁の足に擦りつけて。
「駄目駄目、お仕事中は一緒に頑張るんだって」
 ぽふぽふ首を撫でてやると、再び削り出しに戻り、丹念にハスキー君の柄を凍らせる水などで濃淡を作り再現していく暁。
「よーし、天凱、あと少しだから動くなよ−? 後は個々の鎧の所を綺麗に‥‥削れた、良し♪」
 構って欲しいからか名を呼ばれるたび、くいっと弖志峰へ顔を向けようとする天凱、それを押さえつつ削りだしていく愛龍の姿に‥‥。
「‥‥よし、できた! どうよ天凱、似てるか?」
 嬉しげに笑いながら愛龍を呼べば、甘える様にぐいぐいと鼻先を擦り付ける天凱。
「っと、ティエちゃんの手伝いに行く前にもう一つと」
 言って、天凱の側に小さな雪だるまを作って、それにちょこちょこ髪を作ってから、雪を固めて作った氷の扇を持たせて。
「これで雪像でもお前と一緒だな♪」
 夏蝶の手伝いに行く前の最後の一手間、弖志峰を模した雪だるまが、天凱の雪像に寄り添ってにっこりと笑っているのでした。
「さて、大きすぎるのも時間の問題があるし、頑張ろうね、ふう♪」
「わん♪」
 小さなそりを着け千切れんばかりに尻尾を振って雪を運ぶ蒼風、どんどんと積み重ねては、借りた藁沓できゅっきゅっと固く踏みしめていく夏蝶は楽しげに小さく歌などを歌ったりして作業を進めていきます。
「土台は特に頑丈にしないと‥‥怪我をしたら大変だし、少し長めにと」
 一番大物を作っているからか流石に形にしていくのは時間がかかりますが、蒼風と一緒に作業をしていれば時間が経つのも忘れる程に楽しいようで。
「ふむ、こちらの作業は終わったから、手伝おうかね?」
「僕とハスキー君も手伝うよ♪」
「ありがとう♪」
 久我と暁がそれぞれ秋葉とハスキー君を伴ってやってくればにっこり笑って答える夏蝶、手が増えれば、既に各人自分のものを作り終えてきているか、自然と効率も上がり。
「ティエちゃん、こっちはこんな感じで大丈夫かな?」
「うん、最後に柔らかい雪をその辺りに撒くから今は固く作っちゃって大丈夫」
 弖志峰と天凱も加われば、やがて立派で子供達も大喜び間違い無しの滑り台の完成。
 ついでに滑り台を飾り付けるように、夏蝶がその両脇に愛らしい雪だるまを作れば、帽子を被せたり炭でお顔を作ったり、とても楽しげな光景がそこには広がります。
 尤も、何故か猫耳の雪だるままで居たりするのですが。
「念の為試しに滑りチェックを‥‥って、ふうが先に!?」
「わ、わふぅうぅぅ‥‥」
 ちょっと情けないような顔で滑っていきますが、丈夫で綺麗に作り上げられた滑り台、蒼風は下の雪にぼふっと飛び込む形となり。
 こっそりと、その滑り台の周りにある雪だるまへと、弖志峰が夏蝶と蒼風と思しきものを付け足しているのに夏蝶が気付くのは今少し後のこと。
「あら、凄いですね〜」
「全くだ‥‥これは実に楽しそうだ」
 依頼人のご夫婦がそう言うのも当然のこと、お食事処の庭に、入口で迎える狛もふらの間を入れば、まるっと愛らしく作られた、火津の眼鏡を付けた蛙さんがお出迎え。
 鎧まで再現された風雅の極光牙が静かに通り道を見守っていると、大きめの丸い龍の背中が見え、回り込めばそこはお腹をかまくらにした磨魅のブリュンヒルトがふて寝をしている姿で、そんな仕草が愛らしく見えて。
 凛々しい姿の暁が作ったハスキー君が道案内をするかのように雪道に沿って立っていると、本物の鎧を身につけ作られた拘りの一品らしき、久我の秋葉が澄ました様子で座って居ます。
 真ん中に見える滑り台を囲むようにして反対側には彼方の天舞がきょとんとした様子で首を傾げて滑り台を見ており、道の果てでは天凱と弖志峰がにこにこと笑っていて。
 そうして振り返れば、滑り台の登り口の階段のところで、弖志峰が付け足していた、風と夏蝶らしき雪だるまが仲良く寄り添っています。
「これなら、お客さんも本当に楽しんでいって下さるわ」
「こんな立派な仕事をして頂いたんだ、滞在中の食事は特に、腕によりをかけて作らせて頂きますよ」
 依頼人のご夫婦は見て回る間に自分達でも十二分にこの光景を楽しんだのか嬉しそうにそう言うのでした。

●温泉でゆったり
「仕事の後の温泉は格別ねー、ねぇ、ふう?」
「わぅん♪」
 心地好さげに薄い浴衣を身につけて温泉に浸かりながら蒼風へと言えば、段になっているところに乗っかりながら温泉へと浸かり、蒼風も心地良さそう。
 雪に囲まれた温泉、いつもなら人をも気にせずに入ってくる猿たちがちょっぴり離れたところでお湯に浸かりながら見ているのは、龍達の姿があるからで。
 お食事処のご夫婦が用意した温泉に浸かる用の浴衣を身に付け銘々が温泉を楽しんで居るようで。
「気持ち良いか? 天凱」
 かけ湯をしてやった後で、天凱もお湯に入ってきてぐいぐいと頭を擦り付けてくるのに、温泉で楽しもうとお団子ののっかった盥を抱えていた弖志峰は笑いながら撫でてやり。
「今日は手伝ってくれてありがとうな」
「極光牙も、雪で寒かったろう」
 丁寧に洗ってやりながら風雅も愛龍を労い、その側では盥にお銚子を乗せて雪見酒と洒落込んでいる久我と、温泉に浸かりながら、縁の岩に頭を乗せて和んでいる様子の秋葉。
「温泉につかりながら秋葉と雪を愛でる事ができるとは‥‥風流な事だね」
 ですが、風流と言うには‥‥という勢いで、しゅぱーっと直ぐ側を泳ぎ抜ける二つの影。
「いや、僕の意思じゃないよ? ハスキー君の趣味だよ?」
 作業中はあまり構ってあげられなかったからでしょう、そう言いながら一緒に泳いでいる暁とハスキー君、全力で遊ぶ姿勢は評価できますが、土左衛門ごっこを他の人がいるからと自重するのはきっと正解でしょう。
「わーい、温泉、温泉ー。ひゃほー」
 予想以上に広い温泉で、他にも普通に龍も温泉に入っているのを見て天舞と共にていっと温泉に飛び込んで嬉しそうに笑う彼方。
「やっぱり一緒に入れるのは嬉しいや。洗ってあげるよ、天舞ー」
 上機嫌でてしてしと背を撫でてやる彼方、その向こう側では岩陰にてのんびりとブリュンヒルトと寄り添って心地良さそうに磨魅が湯に浸かっていて。
 ブリュンヒルトが居ればそんな人は居ないだろうと思いつつも、覗きが無いという安心感でくつろげるのか、お湯を掬ってはほうと息を吐き、優しくブリュンヒルトの鼻先を撫でてやる磨魅。
「雪景色の中での温泉、なかなか良いものですね」
 そう磨魅はしみじみと小さく呟いて。
「さ、直羽さん、お一つどうぞ」
「お、ティエちゃんありがと! 美人さんのお酌で酒が飲めるなんて最高だね♪」
 と上機嫌でお酌を受けた弖志峰、お猪口をお香と自身の盥へ目を向けて。
「‥‥って、いつのまにか俺の団子が無ぇー!? わ、わんこ待て――」
 蒼風がしっかりとお団子の包みをくわえて温泉からばしゃっと上がるのに気が付いて慌てて追いかける弖志峰ですが、雪景色の中のいわば、しかもお風呂でその岩は濡れているので、すってんとなるのは当然のこと。
「ぎゃーっ、さ、寒―――っ!?」
「もう、後で叱らないと‥‥」
 言いながらも夏蝶は、お団子の包みを加えてふるふると身体の水気をはらって悪戯っぽく見る様子にくすりと笑って。
 あまりの寒さにごろごろ転がり温泉へと飛び込むと、お湯の中から恨めしげに蒼風を見る弖志峰。
 何はともあれ一行は作業の疲れを温泉でゆっくりと癒し、心ゆくまで堪能するのでした。

●季節のもので乾杯
「わ、凄いー」
 大きな卓が用意されていて、そこに沢山の料理とお酒、それに甘味などが用意されていて思わず彼方は目を瞬かせます。
 雉と茸たっぷりの鍋や熟成させた猪で牡丹鍋、からりと揚げたワカサギや綽々下口当たりの蓮根などの天麩羅、溶けるように柔らかい豆腐とさっぱりとして柔らかい口当たりの豆腐の包み揚げ、そして茹でた蟹。
 一つ一つを挙げるのも大変なもので、龍には何を差し上げればいいのか分からなくて、とご夫婦。
「この辺りって、いつも出す料理なの?」
「そうですね、良いお宿程凄いものは出せませんが、それぞれ自慢のものですので、是非楽しんでいって下さい」
 にっこりと笑ってどんどん食べて下さいねと勧める奥さん。
「これぐらいだと‥‥」
「いえいえ、そんなにかかりませんわ」
 磨魅が奥さん相手にこれぐらいかなと大体の料金を確認すれば、そんなに高いお代は頂けないですと答える奥さんに、お手頃でよいと思ったのでしょうか、寧ろ龍と共に入ることの出来る温泉というのが大きいのか。
「今度は仲間を連れて、また遊びに来ますわね」
 にっこり笑うとブリュンヒルトにも分けてあげて一緒に御飯のようで。
「ハスキー君、美味しいね♪」
「ばうっ!」
 庭に見える雪像を満足げに眺めながらハスキー君と共に御飯に舌鼓の暁、その側では火津がちょっぴりでれんとしつつ御飯中。
「おかしいのじゃ〜まろは楽するつもりが、物凄く働くことになったのじゃ〜」
「普段はアヤカシとの闘いと、その為の鍛錬の日々の我らだが、それはこういう時間を護る為にある‥‥そう思う御言であった」
 誰に言うでもなく口にする久我、寄り添うように秋葉がのふと久我の肩に顔を乗せて和んでいるようで。
「しかし極光牙と一緒に温泉に入れたというのは良かったな」
 酒もなかなか良いものだしな、そう言って笑みを浮かべる風雅は、自身の像を軽く首を傾げて眺めている愛龍の姿に笑みを零して。
「んー美味しい御飯が食べられるのって幸せー」
「本当にね。届かないのがあったら取ってあげるよ?」
「わ、ありがとー」
 満面の笑みを浮かべて御飯を食べている彼方にくすっと笑って同意する夏蝶はお鍋を装って渡してあげたり。
 その横で澄ましたように座っている蒼風、ちょっぴり恨めしげにそれを見ている弖志峰はお団子を取り返せなかったよう。
「はい、直羽さん」
 温泉ではゆっくり呑めなかったからと言う夏蝶のお酌を受ければ改めて用意された食事へと向き直る弖志峰。
「たまにはこういうのも良いな。いや、たまにじゃなくても嬉しいけど」
「でも本当に、労働の後で温泉美味しい物食べて綺麗な物見て、幸せー」
「わふっ」
 外に見える雪景色と雪像達を眺めながら、宴の時間は賑やかでもあり、のんびりともしながら過ぎて行くのでした。