死を持っての償い・索壱
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/18 19:48



■オープニング本文

 その日、受付の青年・利諒が飛び込んできた少女が名指しで自分を指名した後に泣き崩れる前で途方に暮れたのは、底冷えするような寒さのとある冬の朝のことでした。
「えっと、その、一体どうしたんですか? あれ? えぇと‥‥貴女は確か‥‥」
「淑栄の妹の陽花です‥‥兄様が、兄様が‥‥」
 縋り付くように掴まって泣く少女は年の頃14、5でまだあどけなさが残りますが、その顔を涙でくしゃくしゃにして早口で何かを捲し立てますが興奮していて言葉にならないよう。
「それで‥‥栄君がどうしました?」
「兄様の所為と、責められ、一人で、行ってしまいました‥‥私、どうして良いのか‥‥」
「栄君が責められた? 気が急くのは分かりますが、まずは何があったか教えて下さい」
 何とか座らせお茶を飲ませ順を追って話すように促せば、彼女の兄・淑栄は友人でもあったはずの開拓者仲間から何やら酷い侮辱と罵りを受け、単身武天と理穴の国境の小さな村へと向かったとのことで。
「栄君は確か、サムライの人と、あと陰陽師の人とで、二人親しい開拓者仲間がいましたねぇ、そう言えば」
「ええ、その、サムライの方に‥‥兄様が出立する二日程前に、陰陽師の方がその村に向かったそうで、兄はその話を聞いて、血相を変え装備を掴み飛び出していき‥‥」
 開拓者で、良く一緒に組んで仕事を受ける仲間が居る事は、そもそも淑栄の友人である利諒も知っていた為、その仲間が淑栄を罵るというのがしっくり来ない様子の利諒。
「単身でと言っても、村に向かったのなら‥‥」
「いいえ! あのサムライの方は、兄が飛び出していった後に、私に気味の悪い顔でにたりと笑って、他島の者など皆死ねば良いと‥‥兄は生きて帰って来ないと、楽しみにしろと!」
 親代わりともなって可愛がってくれた唯一の肉親を失ったらどうすれば良いのかと、そう言って再び泣き崩れる陽花に利諒は難しい表情で考え込んで。

 まずは境界にある村への道筋などで、理穴側を回る便宜を図って貰う為の保上明征への書状を認め手配してから、利諒は陽花に向き直ります。
「それで、サムライの‥‥永錬さんのことなのですが‥‥その、僕にはどうしても、ぴんと来なくて‥‥結構物静かで、その、穏やかな方だった気がするんですが‥‥」
「それは‥‥つい先日までよくお土産を持って遊びに来て下さって、私も、可愛がって頂きました‥‥ですが、明け方に突然押しかけて来られた時には、もう、ぞっとするような冷たい‥‥」
 言い掛けて思い出したのかぞくりと小さく体を震わせる陽花、永錬は淑栄が飛び出して行き陽花に冷徹な言葉を投げかけた後、そのまま町外れの方へと歩き去ったそう。
「永錬さんのことも気になります、言った言葉も言葉ですし、栄君相手にしたようなことがあちこちで行われたりしてたら大変です。そちらの方も対処しなくては‥‥」
「わ、私‥‥私、は、兄様が無事に戻ってくるのを、家で、待っています‥‥」
 悲痛な表情で声を震わせながら言う陽花に頷くと、利諒は調査の為に手伝ってくれる人を募集しなければと呟いて筆を執るのでした。

 何処かの、暗い森の中で、緩やかな笑みを浮かべる影が一つ。
「ふふ‥‥我の邪魔立てをしたものは、皆、死を持って償うが良い」
 低い笑い声は、深い闇の中を響き渡るのでした。


■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029
23歳・女・巫
野乃宮・涼霞(ia0176
23歳・女・巫
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
水鏡 雪彼(ia1207
17歳・女・陰
当摩 秋臣(ia7432
29歳・男・シ
劫光(ia9510
22歳・男・陰
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ


■リプレイ本文

●三人の開拓者
「何か、引っかかることでもあるのか?」
「あぁ、いえ‥‥」
 北条氏祗(ia0573)の言葉に少し困った表情を浮かべる利諒、北条は改めて利諒へと口を開きます。
「貴殿の心当たり、全てを話してくれないか?」
「心当たり、と言えば陽花ちゃんが小さな頃に栄君が追い払ったアヤカシぐらいしか‥‥他に恨みを買うような事とかは思いつきません」
「ふむ‥‥」
「利諒様、淑栄、永錬、甲雲。この三名の方がこれまで関わった依頼記録の閲覧をお願いいたします‥‥何か手がかりになれば、とも思いまして」
「結構色々と出ていますからね、全て調べるとなるとあれですけど、一応国境付近のことなどは幾つか纏めてあります」
 記録の幾つかを書きだして置いたのか、利諒が差し出す括った冊子を受け取りざっと目を通す御剣・蓮(ia0928)は少し考える様子を見せて。
「その村について知っていることや分かっていることが有れば教えて欲しい」
「直ぐ確認しますね」
 紅 舞華(ia9612)に利諒は頷いて答えて。
「一番最近の依頼はどんな感じだったんだ?」
「先の理穴に絡んで武天と理穴の国境辺りで警備の仕事をしていましたね。アヤカシ対策ではなく盗賊対策だったと思いますが」
 利諒に聞けば返ってくる言葉に首を傾げる劫光(ia9510)。
「淑栄と永錬が会った時、又は共に初めて依頼を受けた時の内容等は残ってないのか? 記録に」
「えぇと‥‥記録を見つけるのはちょっとかかりそうなので探しておきます。ただ、僕が憶えている限りなら‥‥」
 初めて三人一緒に当たった依頼は家畜などがアヤカシに食い荒らされる件の調査だったらしいと告げて。
「また獣を喰らうアヤカシ‥‥とは言え、その様な事例なら幾らでもあるだろうが」
「結局の所、その依頼はどうなったの?」
「詳しいことは確認しないと‥‥でも、相手はかなり強く、獣に化けて襲いかかってきたそうで、手傷を負わせたものの追い払うのがやっとだったとか‥‥」
「また、追い払う、ですか‥‥」
 陽花の過去の話と重なるか野乃宮・涼霞(ia0176)が考え込むように呟けば。
「一つだけ確認しておきたいのだが、永錬君は最初から何かしら目的があっての関係だったのか、それとも昨今様子がおかしいだけなのかだが」
「つい先日お会いしたときには全くそんな様子はなかったですねぇ‥‥」
 当摩 秋臣(ia7432)の確認に首を振る利諒、万木・朱璃(ia0029)も考え込む様子を見せ。
「そうなるとやはり、アヤカシに憑かれたとか? 何があってもおかしくはなさそうですし、早めに調べ上げないとまずそうですね」
「永錬様の豹変についてと、足取りですね」
「利諒ちゃん、陽花ちゃんと永錬ちゃんのお家教えて。登録者なら住所分ると思って‥‥だめ?」
「ぅ‥‥」
 涼霞が言うのに水鏡 雪彼(ia1207)が上目遣いにうるっとした表情で利諒におねだりすれば、何となくわたわたと赤くなって言葉に詰まる利諒。
「ぁ、ぇ、ぃ、いや、まぁ、調べるまでもなく、僕も知っているんで構わないですが」
 こういう事態ですしとそれぞれの家を教える利諒に、雪彼はありがと♪ とにっこり笑いかけて礼を言って。
「兎に角、僕は陽花ちゃんが心配で‥‥永錬さんにしても甲雲君にしても、サムライとか陰陽師、みたいな言い方するというのは‥‥」
「動揺しているだけなら良いが、酷く追い詰められてしまい精神的に不安定になっているのかも知れないな」
 利諒の言葉に劫光が言えば、痛ましく思ったのか涼霞は僅かに目を伏せます。
「取り敢えず、情報収集の間ぐらいでしたら、僕も休み有りますし、陽花ちゃんの様子見てられるんですが‥‥」
「うん、雪彼も涼霞ちゃんと行くから、それまでお願いね、利諒ちゃん」
 雪彼の言葉に利諒は頷くと、一行はそれぞれの方法での情報収集へと向かうのでした。
「アヤカシを倒す仕事よりも、どちらかというと村を守るとか、そう言った事柄の仕事の方が多かったということか」
「何でもこの力は守る為のだからとか淑栄が言っていたのもあるし、永錬も甲雲も、自分から攻めに入る性格じゃなかったようだからな」
 三人と仕事を良くしていたと言う男性が丁度他の仕事が開けて酒場に繰り出していたようで、舞華と蓮、それに北条が話を聞きに来れば、本当の兄弟かと思う程に仲が良く正義感の強い淑栄に穏やかな永錬、二人を慕っていた甲雲の話を聞くことが出来て。
「そりゃ、懲らしめた盗賊たちとかからは恨まれているかと思いますけれど、恨みを買うような人たちじゃなかったですよ」
 その店には仕事が終わった後に男性が連れて来ることもあったようで、お店のお姉さんもそう言います。
「過去の依頼から考えても、確かに‥‥とは言え恨みは何処で買っているか分からぬものだからな」
 思案する様子を見せながら、北条はそう呟くのでした。

●足取りを追って
 永錬の家へと朱璃、北条、そして蓮がやってくると、家は戸も窓も板で打ちつけられて封じられていていました。
「うーん‥‥この様子では中にいるとは思えませんし、どうせ暫く帰らないようなら戸の一つや二つ壊れていても文句は言えませんよね」
「むしろ壊さないと入れないだろう、ここまでしっかりと封印されているとなるとな」
 少しだけ困った表情を浮かべた朱璃が言えば、仕方有るまい、緩く息を吐いて北条もそう言うと。
「この躊躇はしていられないようですね‥‥開けましょう」
 蓮も頷けば三人で打ち付けられた板を何とか引っぺがして入口の戸を壊し部屋へと入れば。
「あそこは、争った跡‥‥でしょうか?」
 部屋自体は永錬の性格だからでしょうか綺麗に整理されていたようですが、土間を上がって直ぐの所に倒れた衝立、それに僅かながら血の跡が見受けられます。
「そこの土間の影に何か光って‥‥って、うわっ!?」
 土間に光る物を見つけて手に取ろうとして、影で見えなかった所に血が付いているようなのが見えて。
「銀の腕輪‥‥ですね。って事は、この血はもしかして‥‥」
「永錬さんの物としたら、取り憑かれるなどしたときに抵抗した跡でしょうか?」
 布越しに落ちていた物を拾い上げれば、それは腕輪で、血が付いているのに気が付き呟く朱璃に、蓮は少し戸惑う様子を見せます。
「ここで襲われて取り憑かれたと見るのが妥当なところか‥‥」
 北条が言えば兎に角足取りを追いましょう、と蓮。
「陽花さんのことを雪彼ちゃんと涼霞さんに任せきりになってしまいますし、何かあったら不安ですから私もちょっと行ってみますね」
 一度朱璃は戻るつもりのようで、改めて情報を集めた後に集まる確認をして、二手に分かれるのでした。
 同じ頃、舞華と当摩は理穴の保上明征の元へとやって来ていました。
「これを‥‥」
「あぁ、あの少女からか‥‥確かに、利諒より話を聞いて、その可能性を考えんでも無かったが」
 舞華が雪彼より預かった文を明征へと渡せば、受け取り目を通した明征は緩く溜息をつきます。
「可能性とはどういうことだろうね?」
 肩を竦めて当摩がそう尋ねれば、明征は口を開いて。
「先の理穴の魔の森での折、人の姿に化け人々の間に不信感を煽ったアヤカシが居た。尤も、逃走してより未だその足取りは掴めて居らぬが」
「なるほど‥‥となるとその鬼は実際にいる人物の姿になることが出来るみたいだね」
「何が条件なのかははっきりとしては居ないのが現状ではあるが」
 言えば、不信感を煽るような手を取るなら知能の高い類のアヤカシか、と当摩は少し考え込む様子を見せます。
「私の方でも、継続して情報を追うこととしよう」
「お願いします。それと‥‥その村について、少し調べたいと思うのですが、あちらに行くことは?」
「今から行くなら、その村への最寄りの拠点で落ち合うと良かろう。すぐ手配しよう」
 舞華の言葉に頷くと、明正は立ち上がるのでした。

●残忍な微笑み
「陽花ちゃんいるかな?」
 雪彼と涼霞、それに劫光が連れ去ってやって来ると、呼ばれるのに顔を出す利諒。
「良かった、僕はこれからギルドに戻らないければ行けなかったんですよ。すみません、陽花ちゃんをお願いしますね」
「はい、お任せください。お仕事頑張ってくださいね」
 微かに笑んで言う涼霞、三人は利諒と入れ替わりに淑栄の家へと入れば、土間の三和土に腰をかける劫光。
「落ち着いて、大丈夫そうだと思ったら声をかけてくれ。二人なら兎も角、初対面の男がいきなり上がり込んで話を聞くのも気の毒だ」
「うん、劫光ちゃん、ちょっとだけ待っててね?」
 雪彼は部屋の中へと声をかけ障子戸を開けると、そこには座ってじっと手を握り締めながら俯いて啜り泣く陽花の姿が。
「陽花ちゃん、お弁当持ってきたの、一緒に食べよ?」
 名乗ってからにっこりと笑いかける雪彼に陽花は泣き腫らした目を向けて見て。
「大丈夫ですか? 淑栄さんを待つのなら、ちゃんと食べておかないと。お兄さんが返ってきた時に迎えてあげないと」
 そう微笑みかけ言う涼霞になんとか頷くと、許可を取ってからお湯を沸かしに土間へと立つ涼霞は、劫光にも声をかけて。
「折角ですし、劫光さんも一緒に食べましょう? 雪彼ちゃんとたくさん作ったので」
「ん? ああ‥‥しかし、大丈夫なのか?」
 ちらりと戸の隙間から見える陽花に目を向ける劫光、思いつめている様子がない訳ではないものの、今のところ人が居るというだけで少し落ち着くのか取り乱すという様子はなく、劫光も名乗って部屋へと入り、少し距離を保ちます。
「涼霞ちゃんの料理美味しいの。はい、どーぞ」
 ほんのりお塩を振ったほくほくの鮭が入ったお握りを半分に割ってにこりと笑いかける雪彼、その様子に押されたか思わず陽花は受け取ると、にこにこ笑っている雪彼を改めて見ると、小さく一口口へと運んで。
「‥‥‥おい、しい‥‥」
 兄達の事があってから何かを口にした訳でもなく、ずっと張りつめていたものが切れたのか、ぽたぽたと涙を零しながらゆっくりとお握りを口にする陽花。
「淑栄ちゃんを心配してあまりご飯食べてなさそうって思ったの。心配してると食べるのが面倒なんだよね」
 自分もお握りをぱくぱくと食べ進めて手拭で手を拭うと、陽花の頭を撫でる雪彼。
「淑栄さんは私達の仲間が救出に向かっているの。大丈夫、大丈夫だから‥‥」
 お握りを食べ、溢れる涙をぐしぐしと拭って堪えようとしている陽花をそうっと抱きしめて優しく涼霞が言えば、声にならないもののなんとか頷いて陽花は顔をあげます。
「お前の兄貴の無事は俺達が必ず護ってやる。だから話を聞かせてくれ‥‥」
「‥‥はい‥‥大したことは、わからないですが、私の知っている事なら‥‥」
 掠れた声でそう言うと、改めて陽花は深々と頭を下げるのでした。
「ちゃんとの目元を冷やさないと」
 陽花の髪を梳いて雪彼が言えば、渡されていた冷たい手拭を再び目元へと当てて。
「確かに永錬だったんだな‥‥?」
「はい‥‥でも、私、どうしても信じられなくて‥‥他に、心当たりのある陰陽師も、甲雲さんしか居ないのは分かっていたのに、名前を言ったら、違うのに、本当になってしまうんじゃって、思って‥‥」
 潤みかける目元に手拭を押し当てて何とかやり過ごす陽花、雪彼が髪を結いあげてから、御饅頭と一緒にお茶の用意ができた涼霞が進めてゆっくりでいいというのに、なんとか微笑みかけようとして。
「他島の者というのは、私と兄の事だと思います。甲雲さんも‥‥永錬、さんも、この天儀の出身の筈です」
「最近、淑栄ちゃんが何か調べていたとかは知らない?」
「兄は‥‥確か、先の理穴との国境で盗賊対策で警備に行って戻った後、全く見知らぬ女性に睨め付けられ戸惑ったと。確か年の頃‥‥で、甲雲さんも気味が悪いと‥‥あっ」
「どうした?」
「その、その女性は知らないけれど、その目付きを、知っているような気がするって、永錬さんが‥‥」
「その女性の容姿など、どんな風だと言っていたか覚えてますか?」
 理穴と女性と聞いて、涼霞と雪彼は引っかかりを覚えたようで問いかけると、覚えている限りの特徴を話す陽花に。
「雪彼、嫌な予感がするの。陽花ちゃんのお家にお泊りしていいかな?」
「ええ、兄の部屋もありますし、二人とはいえ良くその、あの二人も、来ていましたから場所もお布団も、ありますし‥‥」
 僅かに目を伏せて言う陽花、朱璃がそこへやって来て顔を出せば、どうせなら情報交換を蓮が提案していたのでと言うことで、一度この家に集まることにする一同。
 二日程それを続けていた真夜中。
 雪彼の嫌な予感が当たったか、風体の宜しくない数人が雪彼の人魂にて見つけられれば、豊富な支援と、守りに長けた者達とのこともあり、三人の開拓者崩れの男達を北条と蓮で通り押さえます。
「何の力も持たない小娘一人を嬲った後できるだけ惨たらしく殺すよう‥‥そう、言ったんですね‥‥」
「畜生め、開拓者達が護衛に付いているなんて、聞いちゃいねぇぞ」
 唸るように言う男達、問いつめれば妙齢の女性に声を掛けられて雇われたらしき事は分かり。
「残念だったな、お前達の雇い主は既に神楽を去っているようだ。後金は貰えぬな」
 永錬の足取りを追えば、途中で永錬自体の存在が消え入れ替わりのように一人の女が現れるようになったことを突き止めていた一行はその女が理穴へと向かったことまでは突き止めており、北条が言えば忌々しげに睨み付けてくる男達。
「しかし、淑栄が万が一戻っても、戻った頃には開拓者崩れに妹を‥‥という筋書きなら、永錬や甲雲と違い、余程に淑栄はそのアヤカシに憎まれているらしいな」
「陽花ちゃんに触れるなんて、雪彼が絶対に許さないよ! 勿論、淑栄ちゃんにもね」
 劫光が思案げに言えば、雪彼は任せて、と陽花を安心させるかのようににっこりと笑いかけるのでした。

●細い糸を辿って
「今、手当を受けているところだよ、だから安心すると良い」
 当摩の言葉に良かったと小さく呟いてぽろぽろと涙を零す陽花、兄の淑栄は怪我をしてはいるものの無事で手当を受けて戻るとのことで。
 一足先に当摩と舞華はそれを伝えに先に戻ってくれば、陽花自身が襲撃を受けた話に舞華は眉を寄せて口を開きます。
「あの鬼は理穴へと戻ったらしいが‥‥陽花君や淑栄君に対しての憎しみは並みでないようだな」
「また狙われることも有るかも知れないですし、警戒は必要ですよね−。でも理穴での足取りも追っていかないと」
「しかし、人の姿をそっくり乗っ取る事の出来るアヤカシ‥‥どうにも嫌な感じだね」
 朱璃がやることが多そうですね、と言えば、当摩は詳細がなかなか推察できないのが気に掛かると言って。
「今はまず、淑栄様を迎えてあげましょう。彼の話を聞けば見えてくるものもあるでしょうし」
 蓮がそう言うと、涼霞は微笑みながら兄の帰りを待ち侘びる陽花の頭をそっと撫でてあげるのでした。