色付く木々を楽しみに
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/21 20:35



■オープニング本文

 受付の青年がその文を受け取ったのは、徐々に朝の寒さが身に染み始めたある朝のことでした。
「おやまぁ、じー様からですねぇ。雪見には早い筈ですけど‥‥」
 差出人を確認してそんなことを言いながら文の封を開けつつギルドの自分の席へと向かうと、座りながら文に目を通していて。
「あぁ、なるほど、紅葉と温泉ですか、良いですねぇ。今ならあそこは、見事に真っ赤に染まっていそうですし」
 どうやらその文の差出人は、受付の青年と馴染みの伊住宗右衛門翁のようで、温泉宿に色付いている木々を楽しみに行きたいとのことで、良ければ一緒に行かないか、と言うお誘いのよう。
「それにしても緑月屋ですかぁ、良いなぁ」
 どうやら受付の青年はその宿を知っているよう、依頼書を開いて改めて文を確認しながら筆を走らせるて。
「それにしても、律儀にギルドを通してのお誘いなんですね。えぇと、これで良いですかね?」
 依頼書へとお誘いの内容を書き付けると、文の内容を改めて読み直すと、受付の青年はきちんと文をしまい直してから依頼書を手に立ち上がるのでした。


■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176
23歳・女・巫
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
水鏡 雪彼(ia1207
17歳・女・陰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
橘 琉架(ia2058
25歳・女・志
小野 灯(ia5284
15歳・女・陰
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
時永 貴由(ia5429
21歳・女・シ


■リプレイ本文

●紅葉の路
 既に季節は秋から冬へと移り変わる時期、まだ雪は降って来ておらず白い息を吐き楽しげに歩いているのは水鏡 雪彼(ia1207)と小野 灯(ia5284)。
「おいしーたべもの‥‥きれーなもみじのしたで‥‥たべたいの♪」
「温泉も凄く綺麗らしいの♪ 雪彼楽しみー」
「‥‥おんせん?」
 かっくん首を傾げる灯に雪彼はにこにこ笑いながら湧いて出ているお風呂なの、と説明しています。
 彼女達の楽しげな様子からでしょうか、自然と皆の足取りも軽く。
「ほら、はしゃぎ過ぎて前を見ないでいると危ないぞ」
「はーい♪」
 雪彼の叔母である時永 貴由(ia5429)が言えば、二人とも返事だけは良いようですが、やはり楽しくて仕方がない様子で、野乃宮・涼霞(ia0176)は口元に手を当てて
 雪彼達女性陣の荷を預かって運びつつ歩いている御神村 茉織(ia5355)に、ちょこちょこと灯がやって来ては王禄丸(ia1236)に色々と報告しているようで、頷きながら話を聞いていて。
「宗右衛門様、夏以来ですね? お久し振りです。お元気そうで、何よりです」
「おお、良くおいでになった」
 ゆったりと歩き挨拶は最初にしたものの、改めて橘 琉架(ia2058)が穏やかに微笑みながら声を掛ければ、雪彼達に連れてこられた利諒を相手にしていた宗右衛門翁も琉架へと目を細めて頷きます。
「こうして旅に赴くには、春などと違って良い風情ですわね」
「まったくだな、先日も紅葉を眺めに行ったが少し時期が違うだけで色々と違ってくる」
 微笑の琉架が言えば、香坂 御影(ia0737)がこれから行く先の宿の庭が楽しみだと呟いて。
「宿の名になるぐらいだ、余程に見事なのだろうな」
 香坂は余程に話に聞く情景を思い浮かべるのが楽しいのか、口元に笑みを浮かべて言うのでした。

●色付く木々を楽しみに
「うしさん、あたしもいっしょ‥‥いい?」
 王禄丸が着いた宿で早速荷を置いて宿の人間に声をかけていれば、とてとてと付いて来た灯がくいくいと袖を引いて見上げていて。
「ああ、構わないぞ。崖の方を見に行く、危ないから離れるなよ?」
「うん、しっかりつかまってるね?」
「あぁ、紅葉を見に行くなら、僕も行こうかな」
 改めてがっちりと袖を握りしめる灯に笑みを浮かべる王禄丸、丁度そこへ、庭師と暫し語り合っていた様子の香坂がやって来て、宿の仲居さんが用意してくれた酒やお茶、それに肴やお菓子を持って三人は連れ立って出かけて行くのでした。
「あれ、貴由ちゃんと茉織ちゃんがいない。一緒に紅葉狩りしたかったのに‥‥」
「なら、後で二人に教えてあげられるように、とびきり綺麗な紅葉を探してみましょう?」
 ちょっぴり残念そうな様子の雪彼に優しく微笑みかけて言う涼霞は、先程『嫌われないように気をつけてね』と御神村に言って送り出したところで。
 ちょっぴりやきもちなのか、むぅ、と可愛らしく膨れているものの、涼霞の言葉に少し考えてから、にっこり笑って頷くと、雪彼は一緒に出かけていきます。
「見て、雪彼ちゃん、あそこに沢山の色が見えるわ」
「赤いのも夕日みたいなのも、それにちょこんと緑色のが混ざっているのも綺麗なの♪」
 涼霞に明一杯甘えるかのようにちょこちょこついて回ってはぱっと明るい声を上げる雪彼に、涼霞もとても微笑ましく見守っていて。
「あ、涼霞ちゃん、この紅葉綺麗な形してるの。色も濃い赤から黄色までになってて綺麗だね」
「本当ね。まるであたりの木々を一枚にまとめてしまったみたいだ」
「そうだ、押し花にして、お部屋でのんびりしている宗右衛門ちゃんと利諒ちゃんにあげようよ!」
 にこにこと笑いながら大切そうにその葉を手拭いで包んで押し抱くようにして持つ雪彼は、少しでも早くそれを押し花にして二人が喜ぶ顔が見たいのか涼霞の手を引いて歩きだすのでした。
「いつの間にか皆さん出かけられたようですね」
 のんびりと宿の庭に面した部屋でそう言うのは琉架、お茶をいそいそと淹れながらどうぞと御茶菓子と一緒に出す利諒はその言葉に頷きながら、開け放たれた庭の木々へと目を向けて。
「この庭の紅葉も見事ですが、やはり季節ごとに楽しめるように整えた庭よりも、辺り一面秋に染まっている景色は圧巻ですからねぇ」
「皆楽しんでいるようならば、それで良かろうて。真っ赤であれば確かに鮮やかであるだろうが、今の時期の木々が、儂には一番良いように思えてなぁ‥‥」
 しみじみと告げる宗右衛門翁、琉架も微笑を浮かべて部屋から見える庭の木々を見ていると、お茶をどうぞと勧められるのに包みを取り出します。
「来るときに求めてきたのだけれど‥‥良かったらお食べ下さい」
 利諒に笑って言うと、宗右衛門翁へと続けて告げて渡せば、中はみたらしに胡麻、そして磯部のお団子。
「おお、では有りがたく頂くこととしよう」
 宗右衛門翁はそう言って笑うと、胡麻団子の串へと手を伸ばすのでした。
「‥‥しかし、どうしたのだ?」
 貴由と御神村はその頃、宿を出て裏手にある参道を、手を繋ぎ寄り添いながら歩いていましたが、ふと貴由は御神村の様子に小さく首を傾げます。
「いや、大したことじゃねぇんだが‥‥最近、保上って旦那の依頼ばかりじゃねーか。‥‥さては惚れたか?」
「‥‥は? 保上様に惚れた?」
 御神村としては特定の、しかも年上とはいえまだ範疇に入りそうな年齢の男の仕事ばかりになっているのに、何だか焼き餅を焼いているようですが、その言葉に本当に虚を突かれたように目を瞬かせて御神村を見る貴由。
「それはないぞ。そもそも保上様の方とて、此方が開拓者としての信頼だろうに」
「そりゃお前がそうでなくても、あっちがだな‥‥全く、良い女だって事をちったー自覚しろよ?」
 貴由が言っても何とも面白くないような複雑なような御神村に、思わず貴由は吹き出すと、どうしても笑いが抑えられなかったのか楽しげに笑って。
「何だよ、そこまで笑う事はないだろうよ」
「やきもちかと思うと、な‥‥あぁ、でも、華夜楼関係の女性を貰っていく奴は雪彼を倒してからだって雪彼が息巻いているぞ?」
「よせやい、あの子を倒せるわけ無ぇじゃねぇか」
 参ったとばかりにそっぽを向く御神村ですが、やはり紅葉よりも自身の恋人の方に見惚れてしまうのか小さく笑むと後ろから貴由をぎゅっと抱き締めて。
「んーあったけぇ。こうしてると安心すんだよ。ここにお前がいてくれるってさ。‥‥こう見えても寂しがり屋なんだぜ? だから、手放す気なんて、ぜってーないからな。覚悟しとけよ?」
「ふふ‥‥私も茉織がいると安心する‥‥離れてなど、行かない」
 ほんのりと頬を染めて抱き締める御神村に寄りかかりながら、貴由は小さく微笑むのでした。
「いやいや、良い色だな。心が洗われる」
「きもちいー‥‥っ♪ みてみて? きれー‥‥なのっ♪」
 きゃっきゃとはしゃいで王禄丸に崖の向こう側の木々を指し示す灯、宿で聞いた崖の辺りには申し訳泥土に策があり、その手前側で茣蓙を敷きのんびりと紅葉を眺めながら話す三人、香坂は宿の庭が思い出されて。
「‥‥なるほど、谷の全景をそれとなく思い起こさせるっていうのはこの事か」
 出がけに庭師から聞いた話で庭は谷に茂る木々を現しているとは良く言ったもの、と遠くに見える谷底の辺りの木々が色付き、庭で池に木々が映る様子と被って見え。
「これで夜には月が映る訳か」
 感心したように言う香坂は、灯にお団子でも食べるかと差し出せば、嬉しげに駆け寄ってちょこんと茣蓙に座って受け取る灯。
「あのね? あそこのき、あかりのかみとおなじいろ♪ とーさまとおなじ‥‥なの♪」
「‥‥そうか」
 香坂が灯を撫でれば、嬉しそうににこにこしながら、ぴっと三枚の紅葉を見せる灯。
「あのね、そーえもんと、とーさまかーさまにおみやげ♪」
「きっととても喜んで貰えるな」
「うんっ♪」
 そんな微笑ましい遣り取りに目を細めていた王禄丸はひょいと杯を一つ空けると改めて木々へと目を向けます。
「絶景かな絶景かな。値千金とは小さい小さい、なんてな。春だけの言葉ではなかろう」
「まさしく。四季折々の良さがあるからな」
 暫し紅葉を楽しむ三人、辺りが茜色に染まる頃、ふと見れば、はしゃぎ疲れたか灯がこっくりと居眠りをはじめていて。
 そっと起こさないように帰るかと目配せし合い王禄丸が灯を背負えば、香坂は茣蓙などを片付けるとゆっくりと宿へと歩き始め。
「うしさん、ありがと‥‥なの♪ またいっしょにいこーね‥‥」
 ふと灯の言葉に起こしたか? とちらり様子を窺う王禄丸ですが、すやすやと心地良さそうな寝息を立てている灯は、きっと夢の中でにっこりと笑いながらお礼を言っているのでしょう。
 ふと小さく笑むと、二人は灯を起こさないように静かに宿へと戻っていくのでした。

●湯と宴と
「さ、どうぞ‥‥近頃は慌ただしいことが多かった所為か、余計にこういった時間が心地良いですね」
「ならば余計に文をギルドへ出して良かった」
 微笑みながら宗右衛門翁へとお酌して話す涼霞、笑みを浮かべて頷くと、今日見て来た木々の話をしている二人の所にやってくるのは雪彼と灯。
「はい、こっちは宗右衛門ちゃんの分♪」
「あかりね、いちばんきれーなはっぱなの♪」
 可愛らしい子達に囲まれてなんだか宗右衛門翁も幸せそう、娘さん達の年の頃からいっても自身の孫とも同じように感じられるからか、嬉しそうに笑みを浮かべて二人から紅葉を受け取ると頭を撫で。
 気が付けば灯は宗右衛門翁の胡座を掻いた膝の上ちょんと座りご満悦、雪彼はほくほくの地鶏と茸のお鍋を涼霞によそって貰いながら、自身はお猪口を手に取り宗右衛門翁へと笑いかけます。
「この間、美味しいって言ってくれて嬉しかったの。また美味しく注ぐね」
「おう、こうして酌をして貰えるのは、また格別よのぅ」
 目を細めて言えば嬉しそうに雪彼もにっこり。
「これは、卵‥‥だよな?」
「ぶりこですね、冷め切っちゃうと固くなっちゃいますよ?」
 お腹から溢れ出る程の鰰の卵に目を瞬かせる香坂へと利諒は笑って言って。
 塩焼きにしたもので尻尾を取ってから身を軽く摘んで何やら押している様子の利諒に目を瞬かせれば、頭をつまみ外すと中の骨がそのままするっと抜けて、勧められるままに口へ運べば弾力のある卵のつぶつぶが何とも言えず。
「味噌漬けで焼いたり味噌煮にしたりもあるんですが、新鮮だとこれが美味しいんですよね」
「此奴は皮剥か。たれが二つあるみたいだが‥‥」
「あぁ、このたれには肝をすり潰し加えているらしい。‥‥うん、旨いな。と、ほら、利諒君も涼霞も給仕ばかりしていないで、少しは呑んだらどうだ?」
 目の前の皿を見てど首を傾げる茉織に貴由我先程女将さんから聞いた話を告げれば、先程から人の世話ばかりしている利諒と涼霞に声を掛け、お猪口を手に二人にお酒を勧めたり。
「うしさんのまわり、すごいの」
「あら、お皿があんなに沢山‥‥宜しかったら此方もいかが?」
 宗右衛門翁の膝の上で楽しそうにしていた灯は、ふと気が付いて言うのに釣られるように見た琉架は目を瞬かせますが、ほくほくと出来立てで運ばれてきたお櫃から丼へと茸の炊き込み御飯を装って渡せば、忝ないと受け取ってもぐもぐと瞬く間に平らげる王禄丸。
 どうやら静かに食べて呑んではいるものの、かなりの大食漢であったようです。
 たらふく食べてたらふく呑めば、折角紅葉の見られる温泉です、早速ぱたぱたーと駆けていった灯、皆も露天風呂へと向かうのでした。
「ほんと、良い宿ですねぇ。何か仕事で来させて貰ってるのが申し訳ない位で」
 言って宗右衛門翁の背中を流す御神村、武天のあちこちの名物やお勧めの店を聞いたりして楽しげに笑い。
「しかし、意外と空いてますねぇ」
「はっは、今の時期は一番中途半端と見られがちですからな、山全てが赤く染まる頃や、雪景色の頃が一番人気とか‥‥儂としては、雪も良いが、この時期の山が一番美しく思えてのぅ‥‥」
 様々に彩られた山を見ながら、宗右衛門翁は目を細め。
「一日の疲れを吹き飛ばすにはやはり温泉だな。有名と聞けばそれだけで効きそうだ」
「結構怪我の療養などに傭兵砦から人が来ることもあるそうですよ?」
 此方は取り敢えず互いに背中を流したりした後で、のんびりと湯に浸かる香坂に利諒。
「へぇ、傷に良く聞くって事かな?」
「俗に謂う傷の湯って奴だな」
 静かに湯に入りか軸のことをふと思い浮かべていたらしき王禄丸が言えば、それですね、と利諒は頷くのでした。
「だいじょーぶ? 灯ちゃん?」
「うん♪ ほかほかであったかくて、でもってそらとかきれーなの」
 雪彼が聞けば、真っ先に温泉へとやって来た灯はほわーっと嬉しそうに笑っていて。
「ほら、雪彼。よく温まるんだよ。あなたもね」
 肩が冷えてしまうよ、と貴由が雪彼に言った後に灯へも言って微笑んで。
 雪彼の面倒をみつつ、雪彼もそれに嬉しそうに懐いて堪えるのを見て、涼霞は微笑ましげに見守っていますが、ちょっぴりちくりと胸が痛み。
 ふと、ちょこんとお湯に浸かっていた灯がひょこっと見上げてくるのに気が付くと微笑めばにこっと笑い返す灯、涼霞が血の繋がりに少し寂しさを感じていたのを、自身の生い立ちから肌で感じ取ったからかも知れません。
 涼霞はにこにこと見上げてくる灯ににこりと笑うと、手拭いで顔を拭って上げるのでした。
「綺麗な紅葉ねえ‥‥すぐ散るものって儚い分、綺麗で風情あるものよね」
 琉架は少し落ち着いてから温泉にやって来てぽつりと呟くと、そんな琉架の言葉に反応したかのようにはらりと一枚、美しい紅葉の葉が舞い落ちて。
 暫し琉架も紅葉との温泉を楽しむのでした。

●鮮やかに映える月
「本当に緑色だ‥‥ここに映るものは少ないけど、雪彼は色んなものを映して沢山知りたいな」
「きっと沢山知ることが出来るわ」
 月を映す水鏡の名を持つ雪彼に涼霞は微笑んで言うと、その成長を祈って優しく頭を撫でて。
 嬉しそうに微笑む姿に、貴由と御神村も笑みを浮かべて見守っていて。
「はい、みかげにもあげるね?」
 広い縁側の一角でちょこんと腰を下ろす灯は、涼霞が差し入れた紅葉型の柚子餡饅頭と銀杏の葉に見立てた羽二重を香坂へと差し出して。
 空の月と池の中に紅葉の中に美しく緑に輝く月を二人で眺めて、昼有ったことやいろんなこと、一生懸命に話す灯に香坂は微笑み静かにお酒をゆっくりと飲んでいて。
 楽しげに語らえば香坂は、最初に見上げ見下ろした月は寂しげだった者が、心なしか楽しげに見えてくるように感じるのでした。
 王禄丸は自分に割り当てられた部屋から中庭の池の月を肴に、静かにお酒を飲んでいて。
「妻と娘たちも誘えばよかったかな。私だけ楽しんでしまった。さて、土産は何にしようか」
 思い思いの月の下、静かに時間はゆっくりと過ぎて行くのでした。