【負炎】潜み滲む闇の目
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/04 19:49



■オープニング本文

 その日、保上明征が配下よりその報告を受けたのは、アヤカシの大侵攻に対するための前線にある陣幕でした。
「アヤカシが出没したか‥‥深柳は森と平地との境で立地的に重要な、しかも避難民を受け容れるのに同意し快く迎えた里だ。手を打たねばなるまいが‥‥」
 呟いて厳しい表情のままに眉を寄せる明征。
「他の集落でも、怪しい動きがあったとも聞く。本来なれば私自ら調べたいものであるが‥‥」
「深柳の里の者達は善意で受け容れているだけに、戸惑いと同時に、近頃随所で避難民の不満を耳にし、不快感を覚えているようで‥‥そんな中でのアヤカシ騒ぎで、里の者と避難民とが互いに裏で何かをしているのでは、と疑っているのだろう」
「それはそうであろう、己の家を差し出した者も居る、新たに里の資材を避難民のための家へと放出もしておる。その上不満を言われれば良い心持ちはすまいよ」
 言うと明征は懐より筆入れを取り出し従者に紙を申しつけるとどっかりと卓に付き再び口を開きます。
「相済まぬが、お主これよりギルドへと急ぎ駆け、書状を届けるよう。どうにも悪い予感しかせぬ、アヤカシの進入路や、深柳内での人々の動揺を和らげるよう腐心してほしいと伝えるよう」
 言って筆を走らせているところに、血相を変えて駆け込むもう一人の配下の姿が。
「何事だ」
「深柳程近い里が焼かれたそうですッ!」
「‥‥何?」
「何やら、物資輸送が向かった場所、しかも深柳に程近い場所ばかり‥‥既に被害は二件目とのこと、輸送隊に化けて略奪を働いた賊との話もありますが、生存者と言える生存者が‥‥」
「死んだか」
「‥‥はい‥‥」
 悲痛な表情で膝を爪が食い込みそうなぐらいに強く握りしめる配下を見ながら、ぎりと唇を噛んだ明征は目を瞑り。
 深く息を付くと、目を開ければ既に普段のままの表情で筆を取り直し、もう一枚紙を手に取ります。
「済まぬが、もう一通ギルドへ持っていくよう‥‥人手の割けぬ時に次から次へと‥‥」
 激昂を押し込めるも僅かに苛立ちは隠しきれぬ様子で明征は呟くと、二通の文を認めて配下へと渡すのでした。

「二件ですか‥‥あの辺りは今物騒ですしねぇ」
 相変わらず呑気な口調ながらも珍しく厳しい表情で文を受け取ったギルド受付の青年は、一つ目の文を開くと目を通し始めます。
「深柳の人々を脅かす、動揺の種を調べ潰すよう‥‥ですか」
 溜息交じりに呟くのも無理のない事、理穴の現状でどこでもかしこでも手が足りなく、その上大きな里の一つでも潰されてしまえば、ますます状況は悪化することでしょう。
 それを思えばそういう事件があると聞くほどに憂鬱になりながら、受付の青年はまず一つ目と言いながらさらさらと文を確認しながら依頼書に筆を走らせるのでした。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
赤銅(ia0321
41歳・男・サ
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
奏音(ia5213
13歳・女・陰
朝倉 影司(ia5385
20歳・男・シ
時永 貴由(ia5429
21歳・女・シ


■リプレイ本文

●里での対立
「まぁ、結論から言うと‥‥皆、そう思っていると思うが、避難民の女性が一番怪しい気がするな」
 いきなり元も子もありませんが、水鏡 絵梨乃(ia0191)の言葉に全員が頷く形となり。
 少し遡りますが、一行はまず深柳の里程近い場所で保上明征と落ち合い一筆、避難の受け容れや警戒のための手伝いであるという保証を貰ってからやって来ていました。
「私は避難民と前の受け容れの時以来直接顔を合わせては居らぬが、事実、ここまで深柳に対し執拗に当たられて居れば、否が応でも内部に何かが居るのを信じざるを得まい」
 そう言って、姪御に頼まれたと言いながら時永 貴由(ia5429)に一筆書いた物を渡す明征、姪がお世話になったようで、と頭を下げるのに珍しく微笑を浮かべ首を微かに振り。
「いやいや、深柳絡みに於いて、世話になっているは此方。面倒をかけるが、宜しく頼む」
 言って、赤銅(ia0321)へと頷きながら。
「深柳は殺気立っておるが、長殿は先に手を借りた者への恩を忘れていまい。近頃では神経質になっている里や村も多いし、深柳とてそれは同じであろうが‥‥」
「余計な火種は持ち込まん方が吉だ、しかし、準備の際に顔合わせたとはいえ‥‥覚えててくれてりゃ良いが」
 赤銅に劉 天藍(ia0293)は頷き口を開いて。
「今回の戦では狐のアヤカシが里を混乱させ内部から切崩しを謀ろうとしてると聞く。この村の事もその陰謀に思える」
「人の不安や恐怖を食い物にするなんざ、見過ごす訳にゃいかねえよな?」
「アヤカシを〜倒し〜たら〜きっと〜みんな〜もとど〜り〜なの〜」
 弖志峰 直羽(ia1884)が天藍にちょいちょいと服の裾を突っつきながら笑って言えば、奏音(ia5213)がのんびり言って。
「大変な時だからこそ、誤解が解けると良いのだけど‥‥」
 柚乃(ia0638)が小さく祈るような思いで呟けば、一同同じ思いなのか早く手を打たないとな、と言い合う形で。
 明征と共に陣を出れば、馬を駆って前線へと戻る明征と別れ深柳へと向かう一行、朝倉 影司(ia5385)はそこで合流すると、どういう形の話し合いになったのかを確認して。
 やがて深柳へと辿りつけば、外部に対して警戒しているようではあるものの、貴由が差し出す書状と、門番をしていた男が赤銅を憶えていたかそれまで疲労で曇っていた表情が僅かに明るくなります。
「あぁ、良く来て下さいました‥‥長がお待ちです、どうぞ」
 言って門を離れるわけにはいかない非礼を詫びる門番に構わないとばかりに軽く手を振ると、赤銅の案内で長の家へと向かって。
 赤銅の目から見れば、、前に来たときよりも幾つかまた建物が増え、比較的ゆったりとしていた深柳の里も少々手狭に見えてくる状態のよう、長の屋敷へと着けば避難民の受け容れに働き随分と疲れ老けたような長がよぅ来て下されたと深く頭を下げて。
「表向きは、我々は避難民受け容れの手伝いと言うことにしておいて頂きたく」
「ま、調査の為って言うのは内密な」
 天藍が言えば赤銅が念を押すのに頷くと、滞在中の宿として自身の屋敷へと進めます。
「しかし‥‥」
 里を歩いてみて、赤銅は元からの住民が疲れ果てている陽子に気が付き僅かに眉を寄せると、声高に自分たちは迫害されていると喚く若者を見かけますが、その若者の方が余程に元気で健康的のよう。
「‥‥勝手言いやがって‥‥」
 何処か吐き捨てるような小さな声にちらりと目を向ければ、男は赤銅に気が付いたのか少し慌てた様子を見せますが、それが前に避難民受け容れのために家の大枠を作ったときに一緒に立ち働いた相手であることに気が付いて何処かほっとしたような色を浮かべ。
「おう、手伝いに来たぞ」
 にと笑う赤銅に他にも幾人か気が付いたのか、わらわらと集まってくる元の住人達は、口々に久し振りの再会を喜んでいて。
 気が付けば元の住人達や、一番最初に受け容れられた幾人かの他の村の人達の愚痴や不満を聞いたり、それからどんなに頑張っていたかと言うことを幾分か誇らしげに告げられたり。
「まだ我々の努力が足りない、迫害しているとあんな風に‥‥」
「‥‥まあ、好意に対し不満が出りゃ憤慨もするだろうが。だが限界超えてうっかり極端に走っちゃあアヤカシと変わらん、後で後悔する羽目にだけはならない様にな?」
 泣き言に近く零す男性へと言う赤銅、微かな笑みで続けます。
「人には口と頭があるんだ、糸口はある」
 その言葉に我慢の限界で短慮に走ることも考えて居たであろう幾人かがはっとしたような表情を浮かべるのでした。
 各人それぞれに聞き及ぶ範囲のことを聞いて、一度長の家で整理すれば、誰もがあの人は悪くないと擁護する存在を耳にして違和感を憶える人物が浮かび上がってきて。
「こんな状況下で、あまりにもわざとらしすぎる気がするな‥‥」
 考える様子を見せて言う貴由、弖志峰もそれに頷いて。
「それでいて、いざ事を若者連中が起こしている間は、絶対に現れねぇってのがまた‥‥」
「遠目からちらりと姿を拝見しましたが‥‥何と言って良いのかわからない不気味さを感じて‥‥」
 困ったように目を伏せる柚乃、絵梨乃は来る前に幾つか仕入れてきた食料をちらりと見ながら言って。
「取り敢えずはもう少し情報を集めないと‥‥幸い幾つか材料を貰ってきたし、炊き出しでもしながら話を聞いてみるよ」
「っちゃい子達が〜何か〜知ってる〜みたいなの〜でもでも、ないしょなの〜だから〜あそんで〜きいてみるの〜」
「では、今少し情報を集めよう」
 奏音がのんびりにっこり笑いながら言えば、貴由も頷き、一同再び情報収集のために動き出すのでした。

●女と若者たち
「私達だけがたらふく食べていると‥‥子供たちの為にと何とか、残しておいた、食糧まで‥‥」
 それ以上言葉に成らずに泣き崩れる男、天藍は絵梨乃から受け取っていたお握りなどの炊き出し食料を持って来ており、ご近所から分けて貰って何とか喰い繋いでいた一家は、お腹を空かせていた子供達へ御飯を食べさせて何度も礼を言って。
「近くの里からやって来たって言う女と‥‥その女の周りにいる男達が‥‥家、女は何もしてきやしませんし、あの若者達は違う村の奴ららしくて‥‥」
 話を聞きながら居れば、どうやら別件の焼かれた里から女は来たようで、自分たちよりも前に、その里のことを聞きに来た開拓者達がいたことを聞いて。
「その里の出身は、その女だけなのか?」
「へぇ‥‥なにぶん小さな里なんで‥‥」
 その里の出身ではなく、その里を経由してきたのではないかと深柳の人々は思って居ることなどを聞くことが出来るのでした。
「‥‥直羽は例の避難民の女性の所へ行くのか‥‥気をつけろよ? 無事なように祈ってる」
 天藍に肩をぽんと叩かれにと笑うと、弖志峰は件の女の元へと足を向ければ、取り巻きらしき若者と二人で何やら語り合っているところで。
「ねぇ、あなた‥‥折角受け容れて下さった方々に迷惑をかけるのは良くないわ? もっと歩み寄らないと‥‥」
「でも、彼奴等、自分たちだけ元からここに住んでるからって、村を焼け出された方の身になれってんだ」
 女の前だからか粋がって言う男、弖志峰が歩み寄るのに二人が気が付いて見れば、弱々しげに縋るような目を向ける女と、邪魔をされたからか忌々しげに睨め付ける若者。
 確かに弱々しげでありながら、魅入られるような大きく潤んだ目に印象的な赤い唇、酒と肴を慰安のつもりで持ってきたと言えば、里で提供された家へとどうぞ戸迎え入れますが、若者は側を離れず。
 それが女のためか、随分と飲んでいない酒のご相伴に預かるつもりだったからか、ともあれ酒の力で追い返す様子もなく、その代わりに若者が分捕るようにして酒の徳利をもぎ取ると杯に注いで煽り始め。
「駄目じゃないの、そんな、持ってきて下さった方に失礼を‥‥」
「るせぇな、俺はまだ疑ってんだよ、里の奴らに襲われそうになったって言ってただろうがよ、此奴等も違うとは言い切れねぇぜ? なんたって、物資輸送にかこつけて、着いた村を略奪してそしらぬ顔してるような奴らが出てんだろう?」
 お前の里だってそれで焼かれてんだろうがよ、と言う若者の言葉に、そうなんだ? と首を軽く傾げて聞く弖志峰、女は目を伏せて小さくて良い里だったのですけれど、皆焼かれて‥‥と悲しげな面持ちを見せ、上目遣いに見上げてきます。
 僅かな引っかかりを憶えつつも、何で若者達がこの女にべったりなのかがわかる気がする弖志峰、色香と手管で若者達を籠絡しているのであろうと当たりを付ければ、幾つか話をした後に退出するのでした。
「違う村の‥‥なるほど」
 そう応えながらも、貴由は先程から若者の向ける視線の不快感に緩く溜息をつきます。
 大体に於いて、下卑た視線を向ける若者達に女が言うことを聞かせる方法はあまり考えたくはないものの予想がついて。
「では‥‥」
「おいおい、話を聞くだけ聞いて、さっさと行くつもりかよ」
「どこかで聞いたぜ? 人様にものを聞くには、それなりの代償ってのが必要なんだよ」
 その下卑た視線が何を物語っているのに緩く溜息をつくと、貴由は意識を足へと向け、彼等にとっては対応できない程の速さで摺り抜け通りから路地裏の若者達へ軽蔑の視線を投げかけるのでした。
 夕刻、大人達も殺到した炊き出しのお握りとお味噌汁ですが、絵梨乃が炊き出しをしている裏で子供達に優先的にお握りとお味噌汁をあげれば、きゃっきゃと歓声を上げてみんなで丸太に腰を下ろしてお握りへとかぶりついていて。
「そ〜なんだ〜じゃあ〜わんちゃん〜が〜」
「おう、ぱっくりと‥‥やべーよ、あの女。なのに、大人達はだーれも俺たちの言うこと、信じねぇんだよ」
「みーもみたよねー? みーたべられちゃったらって思ったら‥‥」
 ぎゅと美味しそうに猫まんまに顔を埋めていた仔猫をぎゅっと抱き締める避難民の女の子。
 子供達の間では、里の子避難民のことあまり関係もなく、分け隔てなく遊んでいたようで、子供達はその女の姿を見たために怯えていたようで。
 奏音と子供達は仲良くおにぎりを頬張りながら、暫くは村の状況についての話を聞くことが出来るのでした。
「あれが一般人だとか言い出しても、信用しないぞ」
 影から女を伺い続けていた朝倉は、その女の並々ならぬ用心の様子に僅かに口元を歪めます。
 とっくに伺っていることは気付かれているかも知れない、そう思いながらも表に出て来ないのは、人前に出る人間とは自身で思っていないからのようで。
 その様子を改めて長の屋敷で情報交換をした際に告げれば、柚乃も自身の結界に確かにアヤカシが居る事が現れたと告げ。
「なんによ、あの女を確保するしかねぇな」
 赤銅が言えば、一同は女性をまず呼び出してと幾つか打ち合わせをし、その日は休むのでした。

●剥がれた化けの皮
 里の囲いの外、他を巻き込まないだけの広さのある場所はそれ以外にはなかったため、外へと呼び出せば、女と共に若者達もやって来て。
「ち‥‥やっぱり連れてくるか」
 僅かに眉を寄せる弖志峰、女性は里の人間に襲われかけたことがあると若者達に言っていたらしき事を思えば、引き剥がせない可能性も考えないわけではなかった為で。
「良いからお前等、早くこっちへ!」
「うるせぇ!! やっぱり里の奴らとグルになってやがったなッ!!」
「‥‥駄目だあれは、現実を見せなければ目は覚めない」
「うわ、責任重大だな‥‥」
 赤銅の言葉にも聞き入れる様子のない若者達へ貴由が言えば、弖志峰は緩く息を吐くと意識を集中して。
「っ、他のアヤカシが、付近に‥‥」
 柚乃が警告するのと、弖志峰が女へと術をかけるのはほぼ同時で。
「ぐ‥‥ぐ、は、はは、ははははははぁっ!!! 愉快ぞ愉快、なるほどこれが、開拓者共かッ!!!」
 女が呻きを発したかと思えば、めきめきと嫌な音を立てて女の皮膚にひびが入ったかと思えば、内側から膨張し現れ出でたのは巨躯の見上げるような鬼の姿。
「ひ‥‥ヒィいぃぃッッ!!」
 その姿に悲鳴を上げ逃げ出すも腰を抜かして動けなくなる若者を朝倉が咄嗟に飛び出て引き摺り下がり。
「が、我はも少し遊び足りぬ、主等の相手はこ奴らじゃ」
 若者達を盾にしていた鬼は、わらわらと沸いて出てきた鎧を着込んだ骨達に阻まれ。
 そして何やら犬に姿を変えるとそのまま魔の森へと駆け去っていってしまい。
「く、此奴等を引き離せてさえいれば‥‥」
 鬼に騙され魅入られていた彼等には、恐慌的に引き剥がす以外術はなかったようで。
「まずは此奴等を何とかしないと‥‥」
 絵梨乃が酒を手にぐいと呑み、ほろ酔い加減になった絵梨乃が鬼達の中へふらりと飛び込めば、大斧を手に薙ぎ払い様に鎧を毎ぶった斬る赤銅。
「お前達、死にたくなければさがっていろ」
 貴由の冷ややかな言葉にじりと退がる若者達、天藍と奏音が斬撃符で援護すれば、柚乃と弖志峰も力の歪みで確実に数を減らしていって。
「倒せれば良かったけれど‥‥」
「何、こればかりは仕方がない」
 唇を噛む絵梨乃に赤銅は言って。
「あの鬼〜犬にばけた〜けど〜」
「そう言えば、おにぎり食べながら、あの子達言ってたね」
 奏音の言葉に炊き出しをしていた絵梨乃は思い出してかそう言って頷き。
「食べた相手に、化けることが出来るのか‥‥?」
 少し考える様子を見せる天藍に、とにかく里長を安心させてやろう、と弖志峰は言うのでした。

●付け入られた代償
「人々が協力して助け合えば、あのような鬼に付け入られることは、もうありません‥‥」
 里長、そして里の人間と避難民それぞれに事情を説明し、一時不安げな様子を見せた人々も、柚乃が穏やかに話して聞かせれば大分落ち着いて来ます。
 そんな様子をまるで抜け殻のように膝を抱えて虚ろな表情を浮かべた若者達が離れたところから眺めていて。
 大きな代償を払ってしまった彼等が今後どうなるのかは分かりませんが、彼等の対処は明征が戻ったらとのことで、長に預けられ。
「まぁ、色々と思うのも無理はないけれど‥‥良し、この場は一つ、俺が舞の一指し‥‥」
「ほら、直羽これを着て踊れ!」
「て、貴由ちゃんソレ女物の衣装じゃ‥‥と、止めてくれるよね? 天ちゃん」
 重苦しい雰囲気を変えようと、何やら気分を盛り立てるような余興をと思ったらしいですが、良い笑顔で貴由に着物を差し出され、救いを求める弖志峰ですが‥‥。
「‥‥頑張れよ」
 ぽんと目を逸らして肩を叩く天藍、半ば自棄っぱちで弖志峰は陽気な舞を披露したとか、乏しい備蓄も他の村へ行くはずだった物資が無事に届いたこともあり多少の余裕が出て、ささやかなお祝いをする事になり。
 久々の質素な宴は暫く振りに人々に笑顔を取り戻すのでした。