【夢々】ぼくのこれから
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/17 22:17



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

「うが?」
「うにゃん♪」
 ここは胥という猫さんの夢の中。
 胥は白黒の猫で、赤い飾り紐を首輪にしていて、見た目は大分大きい若い猫ですが、お屋敷育ちでちょっぴり子供っぽい甘えん坊。
「ことしもよいとしをむかえたのにゃ」
「うが、ぬくぬくしあわせにゃ」
 立派なお屋敷の中、縁側で日向ぼっこの最中の二匹、胥よりも一回りほど大きな黒い猫、金糸を編み込んだ飾り紐を首に巻いた猫、黒甜も、暖かな日差しの中で心地良さそう。
 黒甜のふてぶてしい顔つきはお屋敷に入る前の野良さんだった頃の名残です。
「ごしゅじんさまも、おかーさんも、ごはんもまたおでかけにゃ?」
「こーいうひは、あそびにくるのがいたりするかもしれないにゃ……うが、おもてなしするにゃ!」
「うにゃー……」
 元気の良い黒甜に対して、胥はちょっぴり尻尾をぱたぱたさせて下を向いてしまいます。
「どうしたにゃ?」
「うにゃ……おともだちと、いつもあえればいいのににゃ……」
「うが、なにいってるにゃ!」
 しょんぼり寂しそうな胥にふんと胸をはって踏ん反り返る黒甜。
「ゆめでいつでもあってるにゃ! ねててもしょとおれさまがきづいてないだけにゃ!」
 あんまりにも自信満々の黒甜にくいと首を傾げて見上げる胥。
「そなのかにゃ?」
「そうなのにゃ! おれさまたちがこうしているのは、きがついているからにゃ! おもてなしのじゅびにゃ!」
 よくわからないといった表情を浮かべている胥ですが、黒甜はくいくいと飾り紐を直すとにぃと笑って、胥を促し、胥もつられたようにぴんと尻尾を上げてお屋敷の中にぽてぽてと入っていくのでした。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲


■リプレイ本文

●おもてなし
 新しい年を迎えるというのは、何やら忙しかったりするようでさっぱりと人や相棒達の姿を見ません。
「羅喉丸や、おらんのか」
 そんな中、聞こえてくるのは少しお年を召したような声。
「これはどうしたことじゃ、世界が大きく見える……」
 言いかけて、周囲を見渡して頭を振るのは羅喉丸(ia0347)の相棒で皇龍の頑鉄、改めて色々なものを見てみれば、そこはやはり普段見ているものよりも何もかもが大きな世界。
「いや、わしが小さくなっただけか」
 やれやれとばかりに首を振ると、頑鉄は改めて羅喉丸の姿を探しますが見あたりません。
「肝心なときに頼りにならない……やはり、わしがしっかりしとらねばいかんようじゃの」
 ふんと鼻息荒くぽてぽてと庭の中を歩けば、庭に面したお部屋で、白黒の猫と黒猫の二匹がせっせとお持てなしの準備中。
「おや、おぬしら、そこで何をしておるのかの?」
「おきゃくさんにゃ! おもてなしのじゅんびをしていたにゃ!」
「いらっしゃいなのにゃ〜」
 えっへんと胸をはる黒猫の黒甜に、ぴんと尻尾を立てていう胥、ふむ、と首を傾げていた頑鉄は得心いったように頷きます。
「歓迎してくれるようじゃな、せっかくだからご厚意に甘えようかのう」
「どうぞなのにゃ〜」
 縁台からよっこらしょと部屋に上がった頑鉄にぽてぽてと座布団を出す胥、そこへひょこっと顔を出したのはすらりとしたりりしい犬、紅 舞華(ia9612)の相棒で忍犬の潮です。
「よ、久しぶりだな。また正月に招待してくれてありがとな」
「うしおさんなのにゃ! いらっしゃいなのにゃ〜」
「あけましておめでとう、今年も宜しく」
 胥と黒甜へ潮は声をかけると、潮は部屋へと上がると頑鉄にも会釈をして。
 と、かささと草むらが揺れて、ひょっこり現れたのは小さな王冠。
「……む? ここはどこなのにゃ? 図体のでかい同居人の姿もいないにゃ」
 お昼寝の真っ最中から目が覚めて、きょときょとと辺りを見渡すのは嵐山 虎彦(ib0213)の相棒で猫又のスヴェトラーナ。
「どこかで見覚えもあるよーにゃ、ないよーにゃ……にゃ!?」
 そこではたと思い出したのか、ぴょこんと草むらから出て来れば、キュキュッとマントを直してから、にんまり笑って屋敷へと目を向け、いそいそとてとてと歩み寄ります。
「にゃにゃ? そこにいるのは胥に黒甜にゃ! 一昨年の宴会以来にゃ〜、潮もひさしぶりなのにゃ! 龍のおじーさんは初めましてなのにゃ♪」
「うが、すう゛ぇとらーにゃ! すーなのにゃ! ひさしぶりにゃ!」
「ふむぅ、賑やかになってきたのぅ」
 頑鉄が目を細めて笑うと、何やら胥はちょっぴりそわそわと門の方へ目を向けて。
「おや、どうしたんじゃ?」
「もしかしたら、きてくれるかにゃって……おもって、にゃ……」
「ふむ、待ち人か」
 胥の言葉に頑鉄も門の方へと顔を向ければ、ぽてぽてとてとて、小さな足音がやってくるのが聞こえてきて、直ぐにひょこっと門の所から顔を出す空龍の姿。
「……にゃ……」
「よかった、ちゃんと来れたのです……!」
 それはウルグ・シュバルツ(ib5700)の相棒のシャリア、初めて会う頑鉄の姿に少しだけもじもじするも、ちょこちょことやってくるとぺこりと頭を下げるシャリア。
「胥さんも黒甜さんも、明けましておめでとうなのです! 潮さんもスーさんも、えと、龍のお爺さんも……」
「しゃりあちゃんも、あけましておめでとうなのにゃ♪」
 嬉しげにシャリアに駆け寄って嬉しそうに尻尾を目一杯にぴんと上げる胥、シャリアも嬉しそうに胥を見つめて微笑します。
「うがっ、たちばなしもなんにゃ、とにかくあがるのにゃ」
 黒甜の言葉にシャリアも胥と一緒に部屋へと上がれば、潮が猫たちの用意したごちそうの前でご満悦。
「正月といえば祝い事、祝い事といえば宴会。ここんちの奥方は料理上手だからなー」
「おかあさんのごはんおいしいのにゃ、おかあさんたちがやっているようにならべてみたのにゃ」
 お膳に並べられたそのごちそうは台所に作られたもののよう、お節なども並んでいて、それを見た潮はそういえば、とひょこっと立ち上がると。
「これこれ」
「うが、なんにゃ?」
「あ、ごはんのもってたつぼにゃ」
「それは壷ではなく徳利ではないかの?」
 潮が持ってきたのはどうやらここの屋敷の主、明征のとっておきのお酒のよう。
「うが、あれがどんなかおするかおれさまたのしみにゃ」
「え、えっと……だいじなもの、です……?」
 にやりと笑う、ちょっぴり意地悪な黒甜に、シャリアはいいのでしょうか、とちょっと心配そうです。
「うにゃ、ごはん、たぶんおこらないのにゃ、だいじょうぶにゃ〜」
「それなら良かったのです」
「吾輩、お魚が楽しみなのにゃ」
 そう言っていそいそとお膳の前に座って、どうやら見よう見まねではあるようですが何とかそれらしく見える様子でむにゃむにゃと手を合わせてから、スヴェトラーナは器用にお箸を手に取ると。
「うにゃ? うにゃにゃ……」
 お刺身を挟もうとしてちょっぴり悪戦苦闘。
「お箸がにくきゅうに当たってうまくいかないのにゃ」
 むむと難しい顔をするも、ちゃきっと取り出すのはフォーク、ぱくりと一切れ口に放り込むと、ふるふると幸せそうに尻尾をふるわせます。
「いただきます……」
「うちの主人もいつも楽しみにしているからな……うん、うまい」
「ふぅむ、普段は見ておることが多いが、酒というのも、こうして味わえばまたなかなか……」
 シャリアがちょんと手を合わせて言えば、潮も早速ごちそうにありつけて嬉しそうに尻尾をぱたぱた、頑鉄もお酒にお節にと舌鼓を打って。
「吾輩、生まれは遙かジルベリアにゃが、この地のごちそうも悪くないと思って居るのにゃ!」
「じるべりあ?」
「にいさまもジルベリア出身です……」
 ふんふんと上機嫌で魚卵にかかったかつぶしをつつきながら言うスヴェトラーナにクイと首を傾げる胥、シャリアが呟くように言えばどんなところ? と首を傾げます。
「ふむ、興味があるのにゃ? ならばよかろうなのにゃ! 同胞にも、他の面々にも、吾輩の故郷のお話をしてやるにゃ!」
 えっへんと胸を張り口の周りにくっついていたかつぶしのクズをぺろりと舐めると、ちょこちょこと自分の暮らしていた、寒い北の大地のことを話し出すスヴェトラーナ。
「……そこでは、吾輩身分を隠してただの猫として、暮していたのにゃ。しかも、美しいお嬢様の元で可愛がられていたのにゃ!」
 そこまで言って、ちょっぴり尻尾を下げてスヴェトラーナはしみじみとした様子で。
「美味しいご飯に毎日のブラッシング……なつかしいにゃあ」
「みが、今は違うにゃ?」
「ま、今も悪い暮らしじゃないけどにゃ! こっちでお嬢様に再会できたし! それに、天儀も悪くないにゃ! かつぶしも般若湯も美味しいし!」
 ちょっぴり心配そうに聞く黒甜でしたが、直ぐにしゃきんと尻尾をあげるとにくきゅうをぴっと向けて大丈夫にゃ! と笑うと。
「そーにゃ! 折角口うるさい同居人たちがいない今こそ! 御神酒をちょいと頂くチャンスにゃ!」
「ふむ、御神酒とはこれのことかの?」
「わー♪ ありがとうなのにゃ♪」
 頑鉄がひょいと側にあった真っ白な徳利を手に取ると、すちゃっと杯を手に、へへーとばかりに次いで貰うスヴェトラーナ。
 もきゅもきゅと美味しい物を食べながらわいわい話していれば、自然と今どんな様子か、と言ったお話になるものです。
「主人は勉強頑張ってるのかな?」
「うにゃ、おべんきょーもしゅぎょーもがんばっているのにゃ」
「うがっ、いつもともだちがきていっしょにがんばってるにゃ」
「それは良いことだ。ここんちは夫婦も仲良くで実に喜ばしいことだ」
 胥と黒甜が交互に答えるのに笑みを浮かべて頷く潮。
「俺は進化して後輩指導とか最近は割と時間費やしてるかな」
「みゃー、ぼくたちはしんかできないにゃ?」
「ちょっと方向性が違うとは思うが、頑張りたいと思うなら任せろ」
 努力するなら協力するぞと潮が言うと、何やら胥と黒甜はがんばるにゃーと、ちょっぴりやる気です。
 しかし、今すぐか、と思えば、ちょっぴりだけ、その意気を挫くものがお屋敷にはあったのでした。

●冬の楽しみ
「ところで……この屋敷には、炬燵というものはあるのかの?」
「おこた?」
「あるにゃ!」
 頑鉄の言葉にさっと反応した二匹、お膳のお部屋のお隣への襖をささっと開けに行くと、そこには気の枠組みと側に畳んだお布団があって。
「……ふだんは、ぼくたちだけだと、つかえないにゃ……」
「ゆめなのにゃ、だからつかってだいじょうぶなのにゃ……」
 あらがいがたい誘惑とでも言うのでしょうか、ふらふらと歩み寄った二匹は、近寄ったが早いかてきぱきと火鉢を引きずってきたりして火入れに火をおこし、木枠にていやとふっかふかのお布団を掛けて。
「にゃー……」
 満足、と言った様子で額をふきふきとする黒甜に、どうぞなのにゃと一行をおこたへ誘う胥。
「ほほう、確かに炬燵じゃな……普段なら入れぬが、今の姿なら試せるのう」
 笑みを浮かべて歩み寄る頑鉄がお布団の端を持って足を入れぽふと膝にお布団を下ろせば、ぬくぬくと心地よく、また柔らかいお布団の感触が至福の瞬間。
「お、炬燵に入るのも良いな」
「うにゃ、吾輩にも抗えぬのはおこたの誘惑にゃ」
 庭はいつでも駆けられるからなと笑って潮が言えば、尻尾をぴんとあげてとてとてと駆け寄るスヴェトラーナ。
「え、えっと……」
「しゃりあちゃんもいっしょにおこたなのにゃ」
「あ、はい」
 胥に誘われておずおずと歩み寄ると、シャリアもそっと控えめにおこたに入り、ほうっと笑みを浮かべます。
「あったかいです……」
「みゃー」
 シャリアが微笑すれば嬉しげにちょんとお隣に座ってぐるぐる幸せそうに喉を鳴らす胥。
「さて、おこたにはこれだろう」
 潮が笑って持ってくるのは蜜柑がたっぷりと入った籠、それを側に置くと興味を示した様子の頑鉄にほい、と渡して。
「ふむ……羅喉丸が炬燵に入って蜜柑を食べている姿は見たことがあったが……大変幸せそうだったからの。折角じゃからいただくかのう」
 受け取ってから自身の手を見て、ちょっと考え込む頑鉄。
「どうしたのにゃ」
「皮を剥いて食べてみたかったが、それは無理か。まあ、この手ではしょうがないのう……それでも、上手い事2つに割ってしまえば、後は何とか、ぬう、できた」
「すごいのにゃ、凄く器用に剥いたのにゃ」
 最初のうちは悪戦苦闘といった様子でしたが、何とか半分に割ってみて皮を剥くと楊陵も解ったか、三つほどの房をまとめて口の中へ。
「……旨い」
 そう言ってにっこりと笑みを浮かべる頑鉄、もぐもぐと蜜柑をいただきまったりとおこたに入っている様は非常に穏やかで……。
「これは、甘くてなかなかじゃわい。こんなにうまいのなら、今度、羅喉丸のやつに持ってくるように要求してもいいかのう」
 嬉しそうに蜜柑をぽいぽいと口へ入れてはしみじみ噛みしめ、足下はおこたでぽかぽか暖まり、目を細める頑鉄。
「極楽、極楽」
「本当に暖かくて心地良いです」
 シャリアもぽかぽかとしていてなかなかおこたでの休憩は気に入ったようで。
「うにゃ、おこたは気持ちが良いのにゃ、丸くなんてなって居られないにゃ」
 スヴェトラーナはお布団の一カ所から伸びと身体を投げ出すようにしてうっとりと髭を震わせています。
「日向ぼっこするのも好きじゃが、炬燵もいいのう」
 幸せそうにぬくぬくとしている頑鉄姿からは、普段の若い者には負けんという気概ではなく、好々爺とした様子が見えて。
「今なら、年寄呼ばわりされたとしても、どうでもよくなりそうじゃわい」
「みゃ〜、おこたに般若湯……もとい御神酒……うにゃ、どちらでもいいにゃ、しあわせにゃ〜」
「むしろがんてつより、すーの方がおじいちゃんみたいにゃ」
「おじいちゃんっっていうか……おっさん?」
 胥が笑って言うのに潮も思わず笑って同意して。
 ごちそう後の心地良い時間、一行はおこたで暫くの間まったりと過ごすのでした。

●夢中で遊んで
 お庭で始まったのは羽付き、ちょこんと羽子板を持っててててと走るシャリアに、羽にじゃれつきたくてうずうず我慢しながら応援している胥。
「ふははは、おれさましょうりをいただきにゃ! にゃ!」
 気合いだけは十分な黒甜ですが、ていやていやと振り回す羽子板が幾度も宙を切ったり。
「勝負にゃ!」
「負けないぜ!」
 スヴェトラーナと潮は実に素早く白熱した戦いを繰り広げていたりするも。
「にゃ! 羽が分裂したにゃ!?」
「スーは飲み過ぎだ」
 勢いよくぐるんと回って振り返ったスヴェトラーナは酔いが回ってか本猫もぐるりんと回ってしまい、潮がちょこちょことお水を運んで。
「ふぅむ……蜜柑も旨いが、饅頭も旨いのう。何とも、熱いお茶との組み合わせが至福じゃ」
 そして、折角のこんな時間ぐらいならと、まったりおこたで若者達の盛り上がりを微笑ましく眺めて居る頑鉄。
「す、墨で書いても、黒甜さん見分けつかないです?」
「あかいすみもあるにゃ」
「にげもかくれもしないにゃ、おもいっきりやってくれにゃ!」
 本当に書いてしまって良いのでしょうかとはらはらしているシャリアに、主僕を持ってくる胥と、さぁ書けとばかりにふんぞり返っている黒甜。
「まぁ、お正月の魔除けだからな、これは」
「にゃー、吾輩の高貴な顔に口ひげにゃっ、ばってんにゃっ」
 シャリアが黒甜の顔に控えめにちょんと丸を書くのを見て笑いながらの潮は、黒々とスヴェトラーナの顔に丸く口ひげとほっぺたにばってんを書いて。
 きゃっきゃと楽しげに遊んでいれば、やがてちょっぴり疲れておこたの頑鉄の所へ戻って休憩です。
「胥さんのおうちはほんとうに大きいのです。すごいのです」
 身体が小さくなっているからだけではなく、立派で大きなお屋敷のためシャリアはそう言うと、胥はこれが元からだから科挙とんと首を傾げて。
「そうなのにゃ?」
「うが、ここはよそよりおおきいにゃ」
「まぁ、大きいな」
 黒甜も同意すれば潮も頷いて、スヴェトラーナはくしくしと顔を綺麗に拭き取ると口を開いて。
「うにゃ、面白かったのにゃ」
 黒甜も頷いて顔を拭いて貰えば、暫くの間まったりとしていれば、辺りの様子をじっくりと見ているシャリア。
「他にはどんなところがあるのかな………」
「うにゃ、しゃりあちゃん、どうしたのにゃ?」
 胥が聞くのにちょこんと小首を傾げるシャリア。
「お散歩に行きたい……かなって……」
「おさんぽにゃ?」
「……いつもは通りに降りれないですけど、今なら行けるのです」
 シャリアの言葉に少し不思議そうではあるものの、起き上がってうーんとのびをすると、尻尾をぴこぴこ揺らす胥。
「うが、さんぽならまかせるにゃ」
「そうだな、この周囲はなかなかに趣があるところも多いからな」
「ふぅむ、それならばわしも行くとするかのう」
「みにゃ、吾輩も行くのにゃ♪」
 それぞれ立ち上がる一行、早速外へと出れば、お屋敷の裏手の山がよく見えて。
「あらう、あら、うめ……んみゃ」
「荒梅田だな」
「荒梅田?」
「ああ、ここは理穴で裏手には立派な山が見えるだろう?」
「理穴の、立派な裏山のあるお屋敷……」
 しっかりと覚えようとでも言うかのように確認して繰り返すシャリア、それが解ってか、潮も目印になるような所を幾つかシャリアに教えながらのお散歩。
「うにゃ、しゃりあちゃんといっしょにおさんぽにゃ♪」
 嬉しくて仕方がないといった様子で尻尾をぴんと立てて歩く胥は、熱心に辺りを見ているシャリアと並んで歩いていれば、黒甜はスヴェトラーナと一緒に頑鉄の昔話をきゃっきゃとはしゃぎながら聞いて居るようで。
「ううん……人がたくさんなのは苦手なのですけど、いないのもちょっと寂しい気がするのです」
「たしかに、ほかにだれもいないと、ちょっとさみしいにゃ。しゃりあちゃんは、たくさんはにがてにゃ?」
 ちょっぴり、と頷くシャリアにぼくもたくさんいるとちょっぴりこわいにゃ、と胥が言えば、しゅんと少し寂しそうなシャリアは。
「たまににいさまが私も一緒に行けるお祭りに連れて行ってくれるのですけど、楽しそうなとこに行けないのです……」
「」
「でも、みなさんと一緒だとどこに行っても楽しいのです。もちろんにいさまと一緒なのもとっても嬉しいのですけど……それともちょっと違う感じがするのです」
「ぼくも、ごしゅじんさまといっしょなのはとってもうれしいにゃ。でも、しゃりあちゃんやうしおやすーと、もちろんおじいちゃんもいっしょはちがううれしいなのにゃ」
 ちょんと胥と手をつないで歩きながら、シャリアは帰る前に一度また空からこの辺りを見て回ろうと心に決めて。
「……空からの景色を覚えておけば、にいさまとも会いに来られるです……?」
 シャリアの小さな呟きは聞こえてなかったか、不思議そうに見上げる胥。
 一通り回ってから屋敷に戻って、目一杯遊んで宴会の続きをして……まったりのんびりとした休日。
 でも、やっぱりそろそろ夢の終わりは近付いてきて。
「さて、そろそろお暇する時間かのう」
 穏やかな心地良い眠気がやってくると、そう言って胥と黒甜へと笑みを向ける頑鉄。
「おかげで、随分と楽しかったわい。ありがとう」
「ぼくたちもたのしかったのにゃ」
「またきてなのにゃ」
 ちょっぴり寂しい様子を見せながらも、すりっとご挨拶をしてお見送りの二匹、
「また一緒にごちそう食べて楽しく遊ぶのにゃ」
 ちょっぴりじんわりしつつも堂々と胸を張って言うスヴェトラーナ、潮は二匹を知っている気安さもあってか気負う様子はなくにぃと笑い。
「楽しい正月だったな、二匹とも招待ありがとな」
 そして、ちょっぴり目元を潤ませながらも、ちょんと指先を触れさせるシャリアと胥。
「ぜったいに、ぜったいにまた会いにくるのです! 約束なのです……!」
「やくそくなのにゃ、またいっしょにあそぶのにゃ!」
 そんな風に、また新年の楽しいひとときは幕を下ろすのでした。

●ぼくのこれから
 年が明けてから、大分経って。
 そろそろぽかぽかとした陽気になりつつある、春先の朝。
 やけに相棒のシャリアが騒ぐのでどことなく心配げな様子で見ていたのですが、どうやらどこかに行きたがっているようなのが解って一緒に出かけることに。
 やがてやってきたのは理穴の、立派な山の麓の大きなお屋敷の上、どうやらそこの庭に降りることができるよう、三人の少年達がわいわいと稽古をしている姿が見受けられて。
「あれ? 御前の親父さん今日何か仕事頼んでいたのか?」
「いや、心当たり無い、けど……」
 降りてくるシャリアとウルグの姿に不思議そうな様子の少年達ですが、その時、縁側にいた白黒の猫と、黒猫の二匹がうたた寝から急に現実へと引き戻されたよう。
「うにゃ……」
 夢とは違って本来の大きさのシャリア、白黒猫の胥はちょっとびっくりしたようにシャリアを見ると、知っているよりもずっと小さな様子の胥にシャリアもおびえられるのかと不安な様子を見せるのですが。
「う、うにゃあぁぁぁんっ、うにゃぁんっ!!」
 直ぐにぴんと尻尾をあげて半分泣いているかのようにシャリアに駆け寄りすりすりと甘える胥に、シャリアもくるると声を上げて鼻先をちょんと寄せて。
 何が起きたのかさっぱりと解らないで首を傾げるウルグと少年達をよそに再会を喜ぶシャリアと胥を、用事で顔を出していた舞華と共に来た潮、それに黒猫の黒甜が微笑ましげに見守っていて。
 またいつでも逢える、その嬉しさを噛みしめながら、春の穏やかな時間はゆっくりと流れていくのでした。