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■オープニング本文 酷く静かな村だった。それはけして夜に限った事ではなく、朝も昼も‥‥――。 畑で農作業に従事しているのは、皆、老人ばかりだった。幾人かは若い者もいたが、数えるほどしかいない。もっとも若い者というと十二歳になったばかりの少年だった。 しかも彼ひとりだけである。他に子供らしい姿はない。 この村に幼子の姿がないのには理由があった。森から現れるアヤカシのせいだった。 村人が“夜行”と呼ぶそのアヤカシは、赤子や幼子の泣き声に惹かれるらしく、決まって子供の泣いた家を襲った。漆黒の闇に轟く馬の嘶きと蹄の音。アヤカシの声は聞こえないが、とにかく恐怖に駆られた村人がわざわざ見物に出るわけもなく。 姿を見に行けば確実に殺されていたので、やがて「アヤカシの姿を見た者は呪にかかって死ぬ」と噂されるようになった。 村にいては殺される、と幼い子供を連れた一家などは次第に土地を離れた。中には大きく育った子供を連れて戻ってくる家族もあったが、出て行った家族の大半は帰らなかった。 そして子供の声を久しく聞かなくなった村は、急激に寂れた。代わりにアヤカシの襲撃がなくなった。きっと別の村を襲っているのだろうと、誰もが思った。 「あの、すみません」 少し疲れの見える声で話しかけられた村人は、畦に腰掛けたまま振り返り、そしてぎくりとした。暮れかけの茜空を背にして立っていたのが妊婦だったからだ。 腹の大きい嫁を支えるように、若い青年が頭を下げる。 「夕暮れ前に宿場町まで到着できると思っていたんですが、ちょっとムリみたいで‥‥どこか納屋でもいいので一晩お借りできませんか」 「だ、だめだだめだ。ここにはアンタらを泊めるようなとこはない。なんとか日が出ているうちに村から出て行った方がいい」 慌てて立ち上がった老父の足元を、錆びた鍬が転げる。 夫婦は怪訝な顔をして見詰め合ったが、 「眠る場所さえいただければいいんです。嫁は身重ですが」 「それがだめだと言っとるんだ! この村に妊婦は置けん。見たところ、産み月だろう? それならなお更だ。その身体で急げと言うのは冷たいかもしれんが、その方がアンタらの身の為だからな」 「仰っている意味がよくわからないんですが‥‥産み月までまだ後ふた月ありますし。嫁も疲れていますし、そこをなんとか」 食い下がる青年に老父はただただ渋い顔を見せる。二ヶ月先が産み月ならば、今夜一晩くらい泊めたところで大丈夫ではないだろうか。老父は逡巡して、ゆっくりとしわがれた声を吐き出した。 「今夜一晩だけだ。明日には早々に立ってもらうが、いいな?」 「もちろんです! ありがとうございます。恩に着ます!」 その夜。 老父の家から赤子の産声が聞こえた。 早産してしまったのだ。喜ぶ若い夫婦と違って、恐怖に全身をわななかせているのは老夫婦。だが怖れを抱いていたのは束の間で、老父は素早く二人の旅支度を代わりにしてやると、 「まだ嘶きは聞こえんからな。間に合うだろう。アンタら、早くここを出ろ。出ろっ」 「どういう‥‥事ですか?」 青年は狐につままれたような顔で老父の顔を見つめ返す。その間に婦人が表の様子を窺い、 「何も音は聞こえない。今すぐ街道まで出れば逃げきれるかもしれないね」 蒼白の顔で板戸を開ける。 「この夜道じゃ迷うかもしれんな。わしらが村の出口まで送ろう。だから早くここを出るんだ」 あまりの剣幕に押された青年は、生まれたばかりのわが子を産着に包んで抱き上げた。若い嫁は足元をふらつかせながら、夫の肩に掴まる。 冗談や酔狂などで言っているのではない事は、老夫婦の震える両手を見ればわかる。彼らは何かに怯え、そして怖れるソレから若い夫婦を逃がそうとしているのだ。 小さな提灯を掲げ、四人はひっそりと家を出た。 「いいな。けして赤子を泣かすなよ」 老父は声を押し殺して言った。 はぁはぁ‥‥はぁ‥‥はぁはぁはぁ。 はぁぁぁ――――。 四つの息遣いが闇に響く。じゃりじゃりと足元から上がる砂を食む音。森からは梟の声が時折聞こえた。 老父は心の中で「大丈夫、大丈夫」と念じた。まだ梟が鳴いている。まだ赤子は泣いていない。まだ馬の嘶きは―――― ヒヒィィィ‥‥ッッン ‥‥‥ヒヒィン‥‥ 「まさかまさかまさか」 老父は何度も呟いた。裾を捲り上げて走る速度を上げた。だが、子を産んだばかりの嫁はそれに追いつけなかった。 彼女は足を止めた。 「何をしているんだ、足を止めるな。追いつかれるぞ!」 追いつかれる。 そう言葉が洩れた時、老父はようやく気づいた。すでに蹄の音が、目の前の闇から発せられている事に。 「私、これ以上は走れません」 若い母親がそう言って顔を上げたが、次には濁った音共に血を吐き出すとその場にくず折れた。 青年が何か大声で叫んだが、最早言葉ではなかった。暗闇に息づくアヤカシに向かっていったのか。ぐしゃりと嫌な音がして、青年の悲鳴が山にこだました。 老夫婦は、自分達の生がここで終わることを悟った。赤ん坊が村で生まれ、その声に惹かれてまたアヤカシは現れた。村の人間は門戸を固く閉じている事だろう。 そして誰も助けには来ないのだ。 姿を見ると呪われて、食われてしまうから。 明け方になって、ようやく村人が姿を見せ始めた。 様子を見に、村はずれまでやって来ると、そこには大きな血溜まりだけが残されていて、誰ひとり生きている者はいなかった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
熾弦(ib7860)
17歳・女・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 陰惨な襲撃に終止符を打つべくギルドへ依頼してきた割に、村人は非協力的だった。それを実感している内のひとり、和奏(ia8807)は嘆息する。 (「お話を聞かせてくださったのは、ほんの僅かな方々。これではあまり役に立ちそうにありませんね」) 呪についても、明確な情報を彼らが持ちえていないのは「見ていない」からなのだ。なぜ見ることができないのかと、膝を突き合わせて訊ねた老人の一人が明かしてくれた。 ――わが身可愛さで外へ出ることなど、誰も考えなかったからだよ。 「その顔から察するに、そっちも収穫なしか」 「ラグナさん」 腰に下げた大剣をわざとらしく鳴らしながら、ラグナ・グラウシード(ib8459)が近づいてくる。 「夜行とやらが現れだしたのはいつ頃なのかとか、目撃情報のひとつでも掴めやしないかと思ったが埒もない」 どちらにしても、とラグナは言葉を続けた。 「憂いは断たねばならんだろう」 地面に、棒切れの先が走る。一本道を書き、その両脇にいくつかの丸印が書き込まれる。 「珠々さんはこの道を駆けてください。両脇に書いた、この印の位置にいくつか仕掛けを施させてもらいましたので、仮に不可視のアヤカシにも対応は可能かと思います」 「わかりました」 囮役の珠々(ia5322)はじっと足元の図面を見ながら答えた。三笠 三四郎(ia0163)が施したという仕掛けの中には染料が詰め込まれた袋があった。道の数センチ上に縄が張られ、珠々はこれをうまい具合に避けて走るが、追ってきたアヤカシがこの縄を引くなり踏むなりすれば、脇に据えられていた染料入りの袋が飛び出して降りかかるというわけである。 仮に不可視のものでも、染料がかかれば位置の特定はし易いというもの。 「胸クソ悪い依頼だなァ‥‥」 そんな言葉が降ってきた。鷲尾天斗(ia0371)である。 「さっさとギルドに頼めばよかったのによォ‥‥」 鷲尾の苛立ちは、依頼を受けた時よりも村に入ってから更に強くなったようだ。非協力的な事も含め、村から子の声が消えてしまうまで放置していた事に憤懣やるかたない様子である。 わが身可愛さとはいえ、あまりに身勝手すぎる。 「子は宝、未来を担う大切な存在だというのにね。本来は喜ばしい、子の誕生という祝い事を恐怖に変えるアヤカシ、確実に討たせてもらいましょう」 熾弦(ib7860)の言葉にも知らず力が篭る。 重い空気が流れる中、すうっと静かに宵闇が訪れた。見上げた稜線には僅かな夕陽の残照が残っていたが、それもすぐにぷつりと切れる。 ――夜がやって来た。 ドクンドクン、と鼓動がよく聞こえる。超越聴覚のせいかもしれない。 (「それにしても泣き声に反応するなんて、‥‥「普通の」子どもは泣くのが仕事ですよ‥‥今度はそちらが、泣く番です 」) 珠々は気合を入れるように頬を両手で打ち、息を深く吸った。前方の闇に、合図の篝火がぽつぽつと灯るのを見るや、腹の底から声をあげて泣いた。 「うわああんっ。ああああんっっ」 小さな体躯に似つかわしくない大声。だが子は声を張り上げて泣くものだ。ついで駆け出す。初めはゆっくりと。泣きながらも背後や周囲に注意を払う。囮がしくじるわけにはいかないのだ。 そしてそれは敵に食われても駄目なのである。珠々は、敵の攻撃は上から来るものと予想し、後方上部にもっとも神経を尖らせた。 やがて蹄の音が聞こえてきた。泣きながら、ちらりと振り返る。闇に溶けて見えないが、はっきりと聞こえる。馬の息遣いと近づく蹄の音。 (「は、早いっ」) 予想もしなかったほどの至近距離から、馬の吐く息が吹きかけられ、珠々はすぐさま速度を上げた。目指すは仲間が待ち受ける篝火の下。 三笠が仕掛けた縄を軽々と飛び越える。すぐ後ろから、ばしゃんばしゃんと染料が飛び散る音が追いかけてくる。 最早後ろを振り返る余裕はなかった。待ち受ける仲間の下へ、夜行を引きつけるのみだった。 篝火が目前に迫る。 けしてそれで気が抜けたわけではなかった。だが、そこに仲間がいると思った刹那、珠々の頭部を刈るように大振りの何かが薙いでいったのだ。 鋭い聴覚が空気を裂く音を聞き取り、前方へとんぼを切るように跳躍して攻撃をかわした。飛び込んできた珠々を中央へと置き、ぐるりと円陣を組む。 さまざまな染料に染められたアヤカシが、その異形の姿を現した。 それはけして不可視ではなかった。首のない馬、それに跨っているのは一ツ目の鬼だった。先ほど珠々の頭を薙いだのは六尺はあろうかという錫杖である。 鬼は、ずらりと並んだ開拓者を前にしても表情を変えない。むしろ身の固い大人ばかりである事に残念そうですらあった。 「やはり騎乗タイプでしたか。それならばその脚から止めさせていただきましょう」 言うや和奏の鬼神丸から風刃が解き放たれる。周囲の空気をも巻き込み、首なし馬を襲ったつむじ風の刃はその巨躯から血の代わりに黒い瘴気を噴き出させた。 鬼は手綱も無しに馬を操り、和奏を襲う。馬の太い前足が和奏を潰しにかかったが、紙一重でかわす。掠ったと思った打撃だが、和奏の額からは流血が見えた。 その横から、ぬうっと突き出る槍。騎乗型のアヤカシならばまず馬を潰すのが定石である。三笠の槍は定めた位置に突き刺さったが、大きく前足を上げて跳ね除けられてしまった。二撃目にかかるまでの隙に、輪陣形の中央から珠々の手裏剣が霰のように鬼を襲う。 手裏剣のいくつかは器用に錫状を操って打ち落としたが、攻撃は確実に喰らっていた。しかし、打たれ強いのか、皮膚が硬いのか。手裏剣を身に刺したまま、馬上より錫状を大きく薙いでくる。 右から左へと振り抜かれた錫杖は、和奏の瞬風波に似た攻撃を繰り出した。真横から襲ってくるカマイタチが皆の顔や腕を切り裂いた。 これにいきり立ったのが鷲尾だった。 右腕一本で攻撃を受け、血は袖をしとどに濡らしたがこの男は顔色を変えず叫んだ。 「赤子やその親の恐怖は美味かったか? アアッ?」 魔槍砲コイチャグルを構え、大きく見開いた隻眼に狂気を、いや狂喜かもしれない色を迸らせて撃ち抜いた。 鈍い音と白煙。鬼の体が大きく傾いだ。馬の体半分が吹き飛ばされたようだ。 「アアァ! ムカつくムカツク!! お前を喰らわんとこのイラつきはおさまりそうにもないんだよォォ!」 更に撃つ。 篝火に浮かんでいた馬の姿が消えた。 轟音に地面が揺れる。そして一際大きく地鳴りがすると、消え始めた煙の中に、一ツ目鬼の巨躯が浮かび上がった。 ぎょろりと大きな目で一瞥する。瞼はない。ひたすら大きな黒目が、開拓者をひとりひとり眺め渡していく。 「オマエラマズソウダナ。ダガ、オレノ馬ヲ殺シタカラ食ウノハヤメテ、オマエラゼンイン殺ス」 アヤカシにそんな情があるとは思えないが、馬を失った事への報復宣言をしたのだ。 「脚を失って機動力のない鬼如きに、私達が倒せると本気で思っているのなら笑えますね。それ以上に、こちらも腹立たしく思っているんですよ。復活すること叶わぬ程に滅してあげます」 熾弦の全身が淡く光る。不敵に零れた笑みには勝機が確信されているようであった。裂けていた三笠の頬の傷が消えた。額を割られた和奏の傷も癒えていた。二の腕に大きな裂傷と打撲があった鷲尾は豪放磊落とばかりに笑いながら腕を振り回している。 肩にグレートソードを担いでいるラグナは、退屈そうに欠伸までしていた。その腕には、僅かな傷跡が残るのみである。 この男の表情にも笑みが零れていた。ラグナの身体からは闘気が迸っている。 ふ、と艶然と笑ったかと思うと、次の瞬間には地を蹴っていた。ガードブレイクを施した一閃で鬼を袈裟斬りにする。鬼も素早く防御したが、勢いは殺されず鬼の身体を切り裂いた。 首なし馬を先に仕留めたのは正解だった。 錫杖による鬼の攻撃は突き、薙ぐ、打ち下ろすの三点しかなく、恐らく馬の前足での踏み潰しで相手の動きを封じた後、鬼の攻撃でトドメを刺したのだろう。そして、ゆっくりと咀嚼し味わった――。 しかし、形成は不利以外の何ものでない。 和奏の秋水に耐え、膝を折りつつも錫で攻撃してみるがするりと捌かれ、先手を打たれた。 機先を制するように次々に繰り出される開拓者の攻撃の前に、一ツ目鬼は成す術がない。それでも鬼の攻撃がすべて不発というわけでもない。 遠心力を使い、振り回した錫の軌道が変わり、跳躍し、逃げ場を失った珠々を襲ったが、 「ちっ‥‥砕けろ、アヤカシ風情がッ!」 ラグナの一撃が鬼の二撃目を封じた。 重い爆音が空気を激しく振動させる。風圧に負けた数本の木が薙ぎ倒されていく。 珠々もやられてばかりではない。くるりと空中で身を翻し、交差させた両手から手裏剣を繰り出した。 鬼の背には深々と手裏剣を突き刺さる。だが背後から襲い来る毘沙門天に横っ腹を抉られながらも、錫杖を後ろ手に回して三笠の臓腑を打ち抜いた。 その勢いで鷲尾に接近戦を挑んでくる。それが癪に障ったのか、鷲尾はそれとわかるほどに歯噛みして、 「クソみてーな奴にこれ以上付き合うとさらにムカつくからなァ‥‥これで逝って俺の糧になれ!」 ベイエルラントは鷲尾の叫びと共に迸った。 肉を裂き、骨を砕き、突き破ったベイエルラントを鷲尾は無造作に引き抜いた。 鬼の身体がぶるぶると震えている。だが錫杖を地面に突き刺し、堪えていた。 どうにかバランスを取り、錫を引き抜き、反撃に出ようとした鬼の懐には和奏が立っていた。 「許せないんですよ、ぜったいに」 鯉口を切る所作から一気に抜刀。鬼の目が見開かれる。錫杖が音を立てて地面に落ちた。ぼとりと鈍い音が続く。鬼の腕である。 「ギャアアアアアアアアアアアッッ‥‥!!」 おぞましい叫び声が轟く。斬られた肩から真っ黒な瘴気をぶち撒けながら、鬼は残された腕を闇雲に振り回した。 軌道は読めないが、それはすでに攻撃とも反撃とも呼べなかった。 開拓者らは、腰を少しばかり低くさせ、腕を掻い潜り、鬼の懐へと潜り込む。 なかなか倒れないしつこさは鬼特有だが、コイツは格別のようだ。 再度、鷲尾の魔槍砲が火を噴く。 仰向けに体勢を崩したところへ三笠の毘沙門天が待ち受け、肉を突き破った。閃癒に専念していた熾弦も攻撃に加わり、派手な重力の爆音で鬼の足を吹き飛ばしてやる。 もはや鬼に勝ち目はなかった。 「クソクソクソクソ」 念仏のように呟いている。目はぎょろぎょろとめまぐるしく周囲を見回していた。鬼の周囲には、己が垂れ流した瘴気が、まるで血のように地面に浸み込んでいく。 「消え失せろ、外道‥‥!」 崩れ落ちそうな鬼の背後でラグナの赤い目が光った。 大剣が斜めに振り下ろされると、まるで紙が細切れに破かれたように、一ツ目鬼の巨躯は塵になったのである。 夜が明けた。 白々と、日が沈んだのとは逆の稜線が明るくなる。緑深い山々が姿を現すと、耳に心地いい野鳥の声が響いた。 村の中へ足を向ける。依頼達成の報告をする為だが、気が乗らない。 それでも正式にギルドを通した依頼だ。開拓者は、戦闘で重くなった身体と身勝手な村人と話さねばならない気の重さすこぶる鈍る足を引きずって村長の家を訪れた。 夜行を倒したと聞きつけて、村人がこぞって礼を言ったが、まるで耳に入らない。今、生き残っている村人の下には、いったいいくつの赤子の骸が転がっているのか。 「他人を見殺しにして長らえた命、精々大切にするこったァなァ」 鷲尾は思った事を口にして、その場を後にした。一瞥したその目の冷たさに、村人はようやく己らの身勝手さに気づいたのだろうか。皆、口を噤んでしまった。 「畑を見た限りでは、その、あまり肥沃とは言えませんが‥‥間引き、という事でもないんですよね」 三笠はずっと自分の中にあった最悪の事態を払拭する為に問うた。 村長は大きく首を振ってそれを否定し、 「子供達が村を出てしまって、すっかり寂れたように見えますが、あなた様方が夜行を倒してくださったおかげで時期戻ってきてくれるでしょう」 「それならいいんです」 子を喰らう事を好むアヤカシだが、それを呼び寄せた原因が間引きであるなら、問題はこの村全体にある。果たして村長が言うように、子供らは帰ってくるのだろうか。 そして間引きは行っていないという、村長の言葉は――真実なのだろうか。 だがその解明は依頼に含まれていない。 嫌な依頼だった。 誰かがそう、呟いた。 |