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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 影絵のようなモノクロの世界に浮かぶ影ふたつ。 ふたりは仲睦まじくダンスを踊っている。 クルクルクルクル――――‥‥ 『貴方が見る夢は甘くて美味しいのかしら? もっともっと欲望をちょうだい。甘くて蕩けそうな砂糖菓子のようなあっま〜い夢を』 少女のような愛らしい声が、星型にくり抜いた夜空に響く。 『きみの望みはなんでも僕が叶えてあげるよ。だから言ってごらん? 悪夢なんて見やしないよ。だってきみがこれから見る夢はぜんぶきみの望んだものばかりなのだから』 濡れたテノールの声が、星型にくり抜いた夜空に響く。 『さあ、曝け出して』 『貴方の欲望が』 『きみの夢が』 愛らしい声とテノールが淫靡なユニゾンを奏でる。 僕の、 あたしの、 お腹を満たしてくれるのだから。 青年の、濡れたように輝く漆黒の髪は、月明かりが注ぐと微かに紫色に艶めいた。その青年の膝には、一人の少女の小さな頭が乗せられていて、微かな寝息がすうすうと上がる。 少女の髪を優しく撫でつけながら、青年はゆったりと満足そうに笑った。 「どうかな。満足してくれたかい?」 眠っていたと思われた少女の唇が開き、 「もう少し‥‥こうしていたい。もっともっと見たい夢があるの」 鈴の音のように、高く可愛らしい声が、もっとと続きをせがんだ。青年は言う。 「かまわないよ。きみの望む夢はなんだって叶えてあげるって約束しただろう? さあ次はどんな夢がお望みだい」 「‥‥笑ったりしない?」 少女はまぶたを閉じたまま、声を不安そうに潜ませた。青年は言う。 「笑わないさ。さあ、言ってごらん」 「あのね。――格好いい男の子たちに囲まれてひゃっはーな気分を味わいたいの」 「‥‥そ、そう。それはまたずいぶんと大胆な夢だね。でも僕に任せておけばだいじょうぶ。きみの望む格好いい男の子たちを各種取り揃えてあげるよ」 「嬉しいっ」 青年は、少女の額に人差し指をそっと押し当てた。すると、見る間に少女の表情が恍惚としたものへと変わる。 ふふ、と青年は意味深に笑いながら少女の耳元へ唇を近づけた。 「どう? 最高だろう」 おかげで僕はこんなにも満たされる――。 どこからか遠くで青年を呼ぶ声がした。青年は立ち上がる。膝に乗せていた少女の頭が乱暴に床へと投げ出された。だが、少女は何も言わなかった。夢の世界の住人となった彼女が、現世での痛みを感じることはない。 裾を引きずる上着はまるでマントのようだ。青年は、上質のビロードの裾を引きながら声のする方へと向かう。 「やあ、いらっしゃい。きみはどんな夢を見たいの? 僕ならぜんぶ叶えてあげられるよ。そうだね。欲を言うなら“普通じゃない”夢がいいね。きみの本音を晒してごらん。その夢が異質であるほど、欲望に忠実であるほど、きみが得る快感は最高のものになるんだから」 女性は、本音を晒すことをためらったが、それも僅かの間のことだった。 真珠のように白く輝く腕を差し出し、 「秘密厳守よ?」 「もちろん」 青年はその手を取ると、敬意を込めた口づけを落とす。ちらりと上目遣いに女性を見遣り、 「秘密が深ければ深いほど、極上の悦びを与えて差し上げられます」 低くて甘い声で囁き、女性の手を引いて抱き締めた。 |
■参加者一覧
雪ノ下 真沙羅(ia0224)
18歳・女・志
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
ネオン・L・メサイア(ia8051)
26歳・女・シ
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
エクレール・カーリム(ib9362)
20歳・女・ジ |
■リプレイ本文 青年の手には、透き通った蜂蜜色のワインが注がれたグラスがあり、馥郁とした極上の香りを漂わせている。青年が呟く。 「これは見事なオードブルだが、さて。それだけでは満足できないよ。ひとつひとつ味あわせていただこうか」 青年の青白い右手が空を突き、指を軽快に鳴らした。 「淡白な味覚なのに、気づけば虜になっている‥‥」 言うや青年の姿は黒衣の紳士と変貌した。漆黒の髪、黒曜石の瞳。筋肉の動きさえ浮かび上がらせるほどの細身のスーツ。そして磨かれた靴の下で小さな喘ぎを必死に堪えているのは日依朶 美織 (ib8043)。 目を合わせる事すらおこがましいと、美織はひたすら俯き、教えを乞うた。だが言葉はかけない。かけてはいけないのだ。気まぐれとも思われる巫女の青年の、侮蔑に満ちた視線、鼻にかかった低く魅惑的な声は変わらず美織を蔑むのだが、時折‥‥そう、時折美織を褒めるものだから、この少女のように可憐な少年は、期待に胸を何度も波立たせた。 乱暴に手首を掴まれ、寝台へと放り出されても美織は声をあげなかった。 「家具は家具らしく、そうやって大人しくしているがいい。ふむ。悪くない家具だ。少しは楽しめそうだな」 美織は固く目を閉じた。寝台がぎしりと軋み、青年の熱い吐息を首筋に感じた時、苦痛とはけして違う感覚が全身を襲った。食われる悦びに下肢が震えた。青年とひとつになれる事こそが美織の存在意義なのだと、皮膚を噛み千切られる度、血肉を啜られる度に感じた。 僅かな生気だけを残し、青年が美織の傍らから腰を浮かせると、初めて美織が口を利いた。 「満足いただけましたか」 青年は目を細めて怜悧な光を返した。薄い唇が象ったのは、お前は私のものでいろ。 美織は猫のように喉を鳴らし、その呪縛に従い家具となった。 満足げに眠る美織を横目で見遣り、夢魔は袖口のカフスを乱暴に毟り取った。 「きみの欲望は実に繊細な味わいだった。さて――」 ぺろりと上唇を舐めながら指を二度鳴らす。室内が暗転し、天井に据えられた天窓からの一筋の明かりの下で蠢く金色の塊と銀色の塊。 「あはは〜、雫くん発見ですよ〜。せっかくですし一緒に楽しいことしましょうか〜♪」 猫宮 京香 (ib0927)はお気に入りのぬいぐるみにでもするように、優しくその背をぎゅうと抱き締めた。抱き締められた真亡・雫 (ia0432)は、戸惑いと恥ずかしさを隠すようにあえて落ち着いた声を返した。 「いけません。お仕事で来ているのですから‥‥ふぐっ」 京香は息を吹きかけて雫の言葉を遮った。京香の後ろで甘えるようにしなだれかかっている数人の少年たち。とりわけ目を引く少年が、雫をじっと凝視していた。恐らく彼が夢魔なのだろうと雫は気づいたが、目の前でとっかえひっかえ少年たちを愛でる京香から目が離せなかった。 (「もし僕に大切な人ができたら、その人の為に身を尽くしている夢が見たいかな。無茶苦茶な目に会っても僕は本望だよ――確かに思ったけれど。これは少し、いや、かなり恥ずかしいのだけど」) ひたひたと京香の冷たい掌が雫の首筋を這っていく。少し汗ばんだその掌はやがて熱を帯びていき、それは呼び水のように雫にも熱を齎した。 「真っ赤になる姿がよいですね〜。次は君を抱いてあげますよ〜」 年上の京香は常に余裕で触れてくる。雫はそれが少し腹立たしく、故に溺れそうだった。16歳にもなって膝に抱かれるなんて、みっともないのに逆らえない自分がいた。 「皆さんもとっても可愛いですよ〜。ふふ、皆で一杯楽しむのですよ〜♪ 私の身体はどうですか〜?」 鈴の音ように笑う京香。恥ずかしげもない問いかけに、雫はひたすら顔を赤くした。ただひとつ――驚きの感情が湧き上がった事に目を丸くする。 「皆さんといっしょは‥‥嫌、な‥‥気がします」 嫉妬だった。 京香は一瞬だけ瞠目したが、すぐに首を傾がせて破顔させた。 「では雫くんをたっぷり‥‥♪」 安楽椅子に腰掛けた夢魔は、指についたパウダーシュガーを舌で舐め取った。マーブル状に練られた二人の熱を口内で転がしながら、 「甘露のような甘さだ。次は違う味がいいな。――おやこれはなんとも‥‥くくっ。実にいい」 くるりと椅子を回した。極上の舌心地に夢魔はみだ気づかない。自らの腹がすでに大きく膨らんでいる事に。 「早よう直すのじゃ、愚図。妾のベッドがこのように乱れておるのは誰のせいじゃ」 室内に響くのは乾いた鞭音。短い悲鳴が後に続くが、リンスガルト・ギーベリ (ib5184)は気にも留めずに鞭を振り続けた。打たれているのは粗相をしたと罰せられているリンスガルト付きのメイドである。一糸纏わぬ裸身のままでベッドメイキングを初めからやり直させられていた。 鞭で打たれ、のたうつ度にメイドの髪や身体からリンスガルトと同じ芳香が立ち上る。共に湯殿で湯を浴びたせいだった。メイドである彼女の身体から香りが発するのには理由がある。口元からも仄かに香るのは、リンスガルトが石鹸を口へ捻じ込んだからだ。清めよ、と命じ、メイドは断る術もなく主人の言葉に従った。 最後にはその全身すべてで女主人を洗い清めたのだった。 いかがでしょうか、とベッドメイキングを終え、伺ってきたメイドの目の前で、リンスガルトはシーツをわざと乱してやる。 「気が変わった。もう一度、妾が汝を乱したように、このシーツ‥‥皺のひとつまでも再現してみせよ」 無理難題を押し付けた。うっすらと涙を浮かべたメイドの頬を手酷く引っぱたいてやる。 「よいか? 妾は皺のひとつまでも再現してみせよと言ったのじゃ。その意味、真にわかっておろうな?」 メイドはふるふると首を振った。リンスガルトは小さな唇を不満そうに尖らせ、 「その皺はどうして出来たのじゃ? 妾は何をした? 疾く思い出すがよい。‥‥ほぉ? ようやく思い出したようじゃの。これ以上妾に打たれたくなければ、見事再現してみせよ」 ふとメイドの手が止まった。怪訝な顔でリンスガルトが見る。やがて幼女の顔に眩い光の笑顔が浮かび上がった。 「なんじゃ、汝は変わっておるのう。妾に打たれるのがそんなによいか。では存分に打ってやろう」 華奢の腕が振り上げられ、ぱしりと乾いた音が立ち、愉悦に満ちた悲鳴は何度も幼き女主人の耳を叩いた。 「かなり濃い味付けだったな。次はもう少し淡白なものがいい」 白いハンカチーフで口元を覆った夢魔は、腹を軽く擦った後、指を鳴らした。背後の暗闇に、スポットライトが当たる。 灯りに浮かぶのは白と黒のコントラストが愛らしい牛柄のビキニと、不似合いなニーソックス姿の雪ノ下 真沙羅 (ia0224)である。肩と肘の間辺りまで伸びた長手袋。耳に角、首にはカウベルが下がり、尻からはするりと長い尾まであった。 牛娘スタイルの真沙羅は、恥ずかしそうに自身の胸を両手で多い隠していた。身の置き場がないように、内股で微かに震えてもいた。 「ふふっ。さぁて‥‥では、よく見ていると良い」 ライトの光が届かない闇の中から声がした。聞き覚えのあるその声に、真沙羅の表情に安堵が浮かぶが、光がすべてを照らし出した時、真沙羅のそれは驚愕へと変わった。 見知ったネオン・L・メサイア (ia8051)の背後に、およそ百体はいるであろう夢魔が、青年の姿を模したままずらりと並んでいるのだ。壮観である。それらを統べているかのような佇まいで、うっすらと笑みを浮かべているのがネオンだった。 黒光りするするボンテージスーツを着込んだネオンは、肩にかかる萌黄色の髪を軽く払い、 「くくっ‥‥相変わらずはしたない身体をしている。恥ずかしくないのか?」 「ネオン‥‥?」 何を言っているの、と問いかけるつもりが、二百と二つの目にみつめられただけで腰から下の力が抜けた。 慌てて口を閉じて両手で押さえても、零れる声が抑えられない。 (「ふぁ‥‥ゃ、恥ずかしい、ですぅ‥‥っ! でも‥‥あぁ、何故だか、気持ちいいんですっ♪」) 「真沙羅。羞恥心に煽られているフリをして誘っているのか? それでは抵抗の内には入らんぞ」 ネオンの合図に従い、百の夢魔が四方八方から手を伸ばし、真沙羅の全身を隈なくなぞる。空気に晒されている箇所などどこにもないくらいに、素肌という素肌を夢魔の骨太な指が縦横無尽に這いずり回った。真沙羅を怖気を感じ、イヤイヤと首を振ったが、それをネオンが聞き入れてくれるはずもない。 「嫌だと言ってもなぁ。そんなに嬉しそうな顔をしてたら説得力がないぞ?」 ネオンは喉の奥を鳴らして笑った。少し呆れた顔を見せると、真沙羅の表情に翳りが差した。悦んでいるのは自分だけなのだとしたら、「寂しい」からだ。 夢魔にもみくちゃにされながらも手を伸ばし、ネオンの指先を握り締めた。 「私だけいやらしいのはイヤ」 もじもじと腰を振る姿に夢魔の本体が、「ならば望み通りにしてやろう」と一斉に分裂した自身で二人を襲った。 「ち、違う、我はそんな、、あぁっ、駄目だぁぁ♪」 仰け反るネオンの胸に縋りつきながら、真沙羅は喘いだ。 「‥‥ふゃ‥‥ァ♪」 夢魔は満足そうに二人の欲望も嚥下した。喉を通る感触を楽しみながら、己のキャパシティも省みず、夢魔は次の欲を所望する。 「気が狂いそうです‥‥いいえ、これは悪い意味ではなく。‥‥まあ、あなた方にしてみれば悪い意味かもしれませんねぇ。うふふ」 すみれ色をした小さな花々が敷き詰められた絨毯のように咲く小高い丘で、サーシャ (ia9980)は自身の理性と戦っていた。欲望をあらん限り噴出させても咎められる事のない世界にあって、彼女はその悲しいまでの巨躯を極力小さく折りたたみ、戦っていたのだ。 その身体に、少年少女らが覆い被さってくる。まるで遊具のような扱いだったが、彼らとのスキンシップはサーシャにとってこの上ない癒しであり、また官能でもあった。 邪気のない笑顔――ああ、泣かせたらどんなにいい声で啼くのかしら。 それを抑えることがどれほど苦痛か。 何も知らない少年が、ちょこんとサーシャの膝に手を置いた。 「どこかいたいの? おまじない、してあげようか?」 少年の触れた膝が、ジンと痺れた。 その手を優しく握り返し、腕の中へ抱き寄せた。 「うふふ。大丈夫ですよ。おまじないはきみ自身だから、こうして触れ合っているだけで私の苦痛は和らぐ‥‥和らぐ‥‥はぁぁ〜。この肌触りが堪りませんねぇ」 堪え切れなかったサーシャが頬ずりをすると、無垢な少年は声を上げて笑った。 「くすぐったいよ。あはははっ」 「そうだ。可愛いきみに花冠を作ってあげよう」 「ぼくはおとこのこだよ」 「では花で作った王冠をきみに捧げよう」 サーシャは少年の手を取った。従者のそれとは言いがたい口づけで忠誠を誓う。 少女がサーシャの上着の裾を引っ張った。サーシャは脂下がった顔で少女の手も取った。 「小さくて可憐な姫君。貴女にも忠誠を誓う口付けをしても?」 少女は大人びた様子で答えた。 「忠誠ではないキスでもよくてよ」 サーシャは膝を折った。そしてどこかでこの様子を見ているであろう夢魔に向けて朗々と言った。 「ここからは目を瞑っていただきたい」 と。 「お望みとあらば、閉じておきましょう。好きなだけ愉しむといい。その感情が僕へと流れ込めば、それだけ僕は満たされるのだからね。とはいえ、少々僕も欲張りすぎたようだ。今夜はここらでおしまいにしよう」 夢魔が幕を閉じようと両手を一拍した時だった。 「‥‥どんなマニアックな欲望でもいいのね? ドン引きしたりしない?」 エクレール・カーリム (ib9362)の声が響いた。天井が高いのか、いやに反響する。夢魔は眉を潜めたが、 「いいでしょう。どんな欲望か興味が湧きましたから。あなたの見る夢は甘いのか、苦いのか。果ては苦痛に塗れているのか」 エクレームは小さく笑った。 「まずは絶世の美女をここに出して」 夢魔は容易いね、と少し意地悪な微笑でもってその望みを叶えた。現れたのは教会の壁画から抜け出してきたような、天使のように慈しみの美貌を湛えた美女だった。 「その人、ブクブクに太らせて」 「え?」 さすがの夢魔も目を剥いた。せっかくの美女を醜く太らせろと言うのだ。だが嗜好は人それぞれである。そんな簡単な事で自分の腹が満たされるなら、と夢魔はこれもすぐに叶えてやった。 エクレームは斜に構えたまま、指先を自分の唇に当てる。なにか謀を企んでいる目で、 「醜く太らせるのは簡単過ぎてつまらないでしょう。顔だけはきちんと元の状態をキープさせて。ムリとは言わせないわよ、やって」 夢魔は、なぜ自分がこのエルフの言いなりなのか不思議でならなかったが、存外に楽しいので続ける事にした。 エクレームはナイスバディのサキュバスを限界ぎりぎりまで太らせ、その身を収めたキツめのボンテージが肉に食い込む様を、笑いながら観察した。飛べないと知るや、必要ないと断じて黒い羽をもぎ取った。 「体重もスリーサイズも三桁を超える気分ってどうかしら?」 太りすぎてなにも話せないサキュバスの、もみじみたいな手を、ぎゅうっと踏みつける。 「ねえ?」 と今度はインキュバスへと顔を向けた。インキュバスはここで初めて背筋を走る冷たいものの正体に気づいた。 そして自身の身体も、目の前にいるサキュバス同様、はちきれんばかりに太っている事にようやく気づいたのだ。 「もう後戻りできないくらい無限に超々肉塊化させて欲しいわ‥‥望んで破滅するのってゾクゾクしない?」 インキュバスは憎悪に満ちた表情へと変わったが、時はすでに遅い。 進んだ針は戻せないのだ。 「やめ」 四方から、これまで欲望を叶えた開拓者達の悦びの声が聞こえる。それらが渦となって夢魔の口へと入り込んでいく。夢魔の意思などお構い無しに、それは喉を通り、食道を駆け下り、臓腑をいっぱいにした。 やがて怨嗟の言葉を吐きながら、インキュバスははち切れた。天井、壁、床に散ったものはドス黒い欲望の塊ばかり。だが、それも宿主の消滅に伴い――消えた。 「‥‥一体、僕はどうしてしまったの‥‥? ‥‥って、京香さん?!」 「んふふ〜、いい夢が見れましたね〜。雫くんも可愛かったですよ〜♪現実でもまた‥‥しましょうか、なーんて♪」 「ふぅー‥‥スッキリしたな、真沙羅?」 「‥‥」 なかなか現実に戻れない真沙羅はへたり込んだままだった。 にぎにぎ、と両手の中に残る少年少女の手の感触を思いだそうとしているサーシャの背中には、人を寄せ付けない寂しいオーラが漂っていた。 |