【正】女だらけの?!
マスター名:シーザー
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/17 17:49



■オープニング本文

 閑古鳥も虫の息――そんな店の中で、ただ一人盛大な溜息を吐いているのは店主、お艶である。
「あ〜あ。茶の葉もこだわって自家栽培、店内の内装だって女の子が喜びそうなお城仕様! それなのにどうしてこんなに客が来ないのかっ」
 顔が映りこむ程に磨きこまれたテーブルへ突っ伏して、ダンダンと拳を叩きつけるお艶。
 こだわった茶の葉もやたらに甘くすれば、昨今流行の痩身意識のせいで不人気極まりなく、女の子受けすると踏んだお城仕様の内装も、総畳敷きな上に仕切りもないただの大広間となれば、プライバシーなどあるはずもなく‥‥。そこはまるでただの大宴会場のよう。
 カラコロリン――と開いた店のドアも、お艶が、「いらっしゃいませ」と言う間もなく、すぐにぱたりと閉じられてしまう。
「なんで? アイツの店はたった一日でうちの一年分の売上を叩き出したっていうのに!」
 握り込みすぎた指先は色を失い、真っ白になった。お艶が言う、アイツとは先だって開拓者達に店を一日だけ貸し出した姉のことだが、
「やっぱりここは開拓者の能力にすがるしかないのかしら。ああ、でも嫌だわ。私の大切な城の中に‥‥城の中に‥‥」
 お艶は人差し指の関節を、ぎりっと音がするほど噛んだ。
 彼女にはどうしても譲れないこだわりがあった。こだわりと言えば聞こえはいいが、重傷の――男嫌いなのだった。
 頭を両手で抱え込み、うーうーと唸りを上げる。
「お、と、こ、をこの店に入れるのだけは、イ、ヤ、だ! どうしてこの世には男と女しかいないの。女だけでいいじゃない。むしろ男は蟲と名前を改めて山とか畑とか川とか、もうその辺でうじゃうじゃしていればいい」
 うじゃうじゃ気持ち悪っ――と一人ツッコミして落ち着きを強引に取り戻したお艶は、ある一点に気づいた。
「開拓者には女の子もいたわよね。なにも男じゃないと繁盛しないわけじゃなし。ここはひとつ。女の子達にお頼みしようじゃないのお」
 店主はポンと手を打った。
 これまでの死人のような様相から一転。元は色っぽいおあ姐さんの艶である。大きく開いた襟元からくっきりと影を刻む程の谷間を覗かせて、揚々と店を飛び出した。
 向かったのはもちろん、開拓者ギルドである。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
シュラハトリア・M(ia0352
10歳・女・陰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志
白鵺(ia9212
19歳・女・巫
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ミリート・ティナーファ(ib3308
15歳・女・砲
天ケ谷 月(ib5419
16歳・女・巫


■リプレイ本文

 艶は、依頼通りに粒揃いの彼女達が店を訪ねてきたことがこの上なく幸せだと思った。
「今日は本当にありがとう。何もかもをお願いすることになるけど、楽しみにしているから」
 虹彩の中に光が乱舞している。本来の目的は、店の繁盛なのだが。
「閑古鳥も虫の息、ともなれば、従業員に客、より好みしている場合ではないように思うのですが‥‥いえ、経営方針にまで口を出すような権利はありませんね。これで固定客が掴めればいいのですが」
 咄嗟に口をついて出たのがまるで苦言のように思え、 志藤久遠(ia0597)は右手を顔の前でパタパタと振りながら、訂正した。
「ビラの内容ですが、 時間帯で割引、セットメニューの導入、割引内容の広告表示で構わないだろうか」
  白鵺(ia9212) は、大まかに書かれた下書きを見せながら艶に言うと、彼女はすべて任せると満面の笑みで答えた。
「えと、とりあえず、お店の内装、ちょっとだけ、変えてもいいかな。席と席の間にね、仕切り、置くといいと思うの。全部の席には無理でも、一定の間隔で置ければ、どう?」
 天ケ谷月(ib5419)が、は〜いと右手を挙手して提案。OKが出るや、材料の調達へと飛び出していく元気な月だった。
 打ち合わせがメニューへと移行すると、
「 メニューは主に大福などの甘味系や抹茶を使ったやや苦味のあるものを提案するよ」
  浅井灰音(ia7439)が言うと、
「 ボクは芋羊羹を作ってみようかなと考えてる。自分でもう何年も作り続けているから、味の方は問題無いと思うし」
 灰音の義姉でもある 水鏡 絵梨乃(ia0191)が具体名を上げる。だが、甘味の強い羊羹であるからセットとなる飲み物が限定されるのでは、と危惧していた。
 彼女らから少し離れた場所で幟作りに専念していたミリート・ティナーファ(ib3308)は、渾身の出来栄えである幟を手作り支柱にくくりつけて店先へ向かった。小柄なミリートは自分の背よりも高い幟に翻弄されている。
「頑張る姿は見ていて微笑ましいけど、少しは頼ってもらっても構わないよ?」
 頭上から白シャツの腕が伸ばされ、不安定だった支柱は易々とその人物の手によって店先へと固定された。灰音である。なるほど彼女ほどの長身ならば易いことだ。
「だう?」
 ね? と灰音がニコリ。
「はやぁ〜」
 男装済みの灰音を感心したように見上げるミリートだった。
「なるほどね。改善策というかむしろソレにするわ」
 色とりどりの花々を愛でる様に鼻の下を伸ばしつつ、次々に決定していく新メニューを帳面へと書き写していく艶。
 月が奔走してくれたおかげで、間仕切りの材料はほぼ無料で手に入れることができた。
 艶の野望はこうして着々と進行していくのだった。

「‥‥あぁぁ」
 身支度を終えた女中と側仕えを見るなり、失神寸前とばかりに艶が眩めいた。
 慎ましやかな色合いの着物に身を包む可憐な女中は、路傍にこっそりと咲く菫のよう。シックな装いの男装陣には、もはや声も出ず。艶は肩を小さく打ち震わせていた。
 その内の一人には格別の、異常とも言うかもしれないが、反応をみせる。
 白シャツに黒の蝶ネクタイ。あれがジルベリアの執事というものか、と艶は興奮した。ただし、彼女が悶え苦しんでいるのは衣装だけにではない。それを身に付けているのが女性だからこそ、なのだ。
 ただならぬ視線に白鵺はぶるりと身を震わせた。
「?」
 だがこの様子に、彼女らは確信を持った。同じ匂いを持つ者を嗅ぎ分けることが出来れば、この店はきっと繁盛すると。
 いざ、呼び込みへ出陣――。


「ふふ、そこ行く貴方‥‥女性だけの百合の花園に興味はありませんか〜?」
 一人歩きの女性を目ざとくみつけると、女中姿の猫宮京香(ib0927)がすかさずビラを差し出しながら声をかけた。両脇にはシュラハトリア・M(ia0352)とミリートが並んでいる。客引きと客寄せも兼ねた自分達が宣材だということも承知している京香は左右の二人を抱き寄せ、ニコリ。二人も同様に微笑めば、絢爛な花が一斉に満開になったような眩さがターゲットの眼前で瞬いた。
 ふらり、と女性の足が京香へと向かった。はい、お一人様ぁ。
「うふふぅ。なんだか妖しげな雰囲気で楽しそぉ♪」
 スキップを踏みながら先を歩くのは、依頼主に抱きついて悩殺しかけたシュラハトリア。年齢に沿った外見と、年齢にそぐわない豊満な上半身(特に一部)を活かした小悪魔系の女中サンは、艶の心臓にはどストライクらしい。しかも、少々危ないプランも立てている小悪魔サンだが、さてそれは少々後の話。
「甘くて美味しくて且つ太らないお茶とお菓子! で誠心誠意、ご、ほ、う、し、しちゃいまぁすぅ♪」
 思いきりのいい猫撫で声を出して、ターゲットの腕へ自分のそれを絡めるシュラハ。外見年齢二十歳位の、一人で歩いている女性がシュラハの狙う客らしい。
 いきなり声を掛けられた女性は初めこそ驚きはしたものの、大きな瞳を上目遣いにして見上げてくる少女に警戒の色は見せなかった。――追加のお一人様ご案内ぃ。
 肝の座った客引きの少し向こうでは、久遠がおずおずと女性等に声を掛けていた。真面目な久遠はあからさまな客引き文句が言えず、数秒の躊躇いの後、
「お忙しいところを申し訳ありませんが、少し、貴女の大事な時間を私との一時に割いては頂けませんか」
 額に汗を掻きつつ、幾つかの失敗も重ねながら久遠はようやく女性客を得る事が出来た。人の良さそうな、自分より少し年上の女性である。
(「‥‥ナンパ、ではない筈です、ええ」)
 客と共に艶の店へと踵を返しながら、言い訳のように久遠は呟いた。
 一方、呼び込みを見送った厨房組は早速新しいメニューの作成に取り掛かっていた。人通りの多い地区へ向かった仲間達が戻って来るまでには時間がある。
 芋羊羹の試食の結果が良く、メニュー入りが決まった絵梨乃は拳を上げてガッツポーズ。
「抹茶の渋味が効いたね」
 悩んだが、抹茶を採用して正解だったという訳だ。
 残った厨房組と艶の連携は素晴らしく――ときどき側用人や女中さんに見惚れて手が止まることもあったが、艶の張り切りは素晴らしく、呼び込みが客を連れて戻ってくる時には粗方終わっていた。
 ここからが艶のお楽しみ、もとい。瀕死の閑古鳥を救う一大プロジェクトの始まりだった。
 木製のドアを開けると、温かみのある空間が広がる。手作りの間仕切りは愛らしく、玄関設定の上がり框では女中姿の月が三つ指をついて客を出迎えた。畳敷きならではの演出だ。
「いらっしゃいませ」
 趣向の変わった店に来てしまったと気づいてももう遅い。後戻りしようにも振り返ればそこには男装の麗人と、妖精のようなお女中達が微笑んでのとおせんぼをしているのだから。
 一人が足を踏み入れれば後は早い。元より、先ほどから鼻腔をくすぐる甘い香りに惹かれないはずがなかった。
 上座に近い一角では、「女性には常に優しく温かく」をモットーとした接客を心がける絵梨乃が、側用人らしくぴしりと背筋を伸ばし、緊張気味の女性へ皿をついと差し出した。手ずから作った菓子である。
「貴女の為に作った芋羊羹です」
 少し目を伏せ、楊枝で一切れ切り分けると、それを刺して女性の口元へ。
 どうぞ、と笑顔で勧めた。
(「良い仕事です、絵梨乃姉様」)
 存外に静かな物腰で接客している絵梨乃の横を灰音が通り過ぎた。長身に男装はあまりに似合い過ぎて、柱の影から覗き見ていた艶は思わず壁に爪を立てた。その灰音が、おや、と一人の客の席で立ち止まる。
 膝をつき、失礼と声を掛けた。
 え、と顔を上げた女性客の口元には粒餡の一粒が付いていて、
「ふふ、口元が汚れているよ? 動かないで」
 懐から小さく折り畳んだ布を取り出し、口元を拭った。
 相手が女性だと承知の上でも、何やら空気が甘くなっていく。それは苺のような甘酸っぱさもあり、客は慌てて胸を押さえながら小さな疼きを感じていた。
 注文を受けた甘味セットを盆に乗せ、厨房から姿を現した白鵺に視線が集中した。男装は不慣れだと言うが、なかなか堂に入っている。長い髪は後ろで一つに束ね、黒の上着に特徴のある襟をした白いシャツ。蝶の形をしたネクタイなぞ女のようだが、すらりとした白鵺はそれらを見事に男装として着こなしていた。
 どこからか溜息があがる。
 そんな中。おっとりとした声と弾んだ声が同時に響いた。京香とシュラハトリア、ミリートの三人が接客している卓からだ。どうもけしかけたのはシュラトリアのようだった。隠し切れていない豊かな膨らみから目を反らす客に、
「シュラハのお胸、気になるぅ?」
 あわわと焦る貧乳の彼女の手を握り締め、自分の襟元へ導く。固まる二十代前半やっぱりそこは気になるの世代ド真ん中。横では、
「もう、お客様ったら積極的ですね〜」
 と小柄なのに豊満な胸を純粋に褒められると、客の肩をパチンと軽く叩いた。
 久遠お姉さんも同席しよう、とミリートが呼ぶとなんだか団体客の様相を呈しだす長卓。以前の依頼でお世話になったの、と当然の顔で久遠をぽふりと強引に抱っこして見せびらかす。尻尾は嬉しそうにパタパタと大きく振れていた。
 なんだか空回りしている感が否めないと思っていた久遠は、ミリートの腕の中に顔を埋めながら、ひたすら身体を強張らせている。客はそんな真逆な二人を見て、きゃっきゃと笑い、
「固くなんない、固くなんない。楽しんで行こっ」
 ミリートも、実はこっそり楽しんでいたりした。

 女中、側用人の呼び込みと心の篭った手作りの菓子類が評判を呼び、時間が経つにつれ、目に見えて客が増えてきた。自由に組み合わせ内容が変えられるセットメニューと、時間帯による値引きという女性心をくすぐるアイデアは大いに当たった。
 しかし、結果が出てくれば更に上を目指したいものだ。それじゃあ、うんと呼んでこようと勇んで呼び込みに表へ出た交代要員の月は、店の前で入りたそうにウロウロしている男性と出くわした。
「女の子限定なんです、ごめんなさい」
 両手をパンと音が出る程にぎやかに合わせ、愛らしくお断りする。
 入れないと聞かされると余計入りたくなるのが人情というものだが、そこをなんとか女装でもなんでもしますと、ややこしい事を言い始める始末。
 粘られてもはっきり、「ダメ」と突っぱねる月の姿も可愛らしく‥‥背後のドアが徐に開くと、そこには絵梨乃、灰音、白鵺の男装組がぞろりと立ち並び、無言の「男子禁制」オーラを劇的に上から目線で発射。
 そういうお店ですかそうですか、と男は退散する。そういうお店とはどういうことか。

 厨房、店内と艶は忙しなく動き回っていた。そんな店主に負けず劣らずの勢いで接客しているのは絵梨乃。毎日こなしている家事のおかげで、臨機応変に客の求めに応じていた。
「こんな見た目でも家事は毎日してるからな。料理は得意な方だ」
 言って卓上に置いたのは焼き菓子。手間がかからないから客を待たせる心配もない。
 気に入ってもらえたら嬉しい、と囁いて皿をついと寄せてやる。
「ああ、白鵺。これ、ボクの手作りだけど、よければ白鵺のお客様にも食べていただけるかな」
 両手を盆で塞がれた白鵺が通りかかると、絵梨乃は焼き菓子が乗った小皿のひとつを盆の上へことりと置いた。
「ありがたくいただきましょう」
 軽く会釈した様は実に執事然としていた。まさになりきりである。
 玄関口では見送りに出てた久遠が、
「ああ、そうそう、またこちらへ来て頂ける時は、女性だけでいらしてくださいね」
 艶にとってもこの店にとっても重要な注意事項を告げていた。
「大事な殿方においしいお店をお教えしたい気持ちもあるでしょうが、周りの女性に嫉妬させてしまっては居づらいでしょう?」
(「‥‥流石に、男性嫌いの店長がいる、と素直に言う訳にも」)
 眉を潜めて困ったように笑う久遠の生真面目すぎる心の声だった。

 閉店後。
 売上を計算し終えた艶が、ぐふふふと妖しげな声で笑った。
「やっぱり女だけの店は大正解よ。来てくれたお客も満足してくれてたし。うん、決まりね。うちはこれからこの路線でいく」
 売上金の入った巾着袋を頬擦りしている姿は、なんだか物悲しさを感じさせるが、本人が良いのならしかたあるまい。
「また手が必要になったら呼んでくださいね〜? ‥‥あ、お客としてもたまに来ますね〜♪」
 女だらけの桃色世界は存外に心地よく、京香は両手を艶に差し出しながら握手を求めた。もちろん艶もそれには満面の笑みで応える。
「ぜひ遊びに来てね。今日の成功を足がかりに、うんと派手なお店にしちゃうからっ」
 桃色を通り越した世界が艶の脳内を巡っているのか。目の形が三日月になっている。
「あ、そうだ」
 余った菓子とお茶で寛いでいたミリートが、艶の元へ転がってきた。畳なので汚れる心配がないからか、気づけば各々自由な格好で寛いでいる。
「何でそんな男嫌いなの? そりゃあ悪い人もいるよ。でも、良い人もちゃんといるのになぁ」
 ミリートには不思議なことだが、訊ねられた艶の表情が一変したところを見て、その根の深さを知った。
「あんまり敵視しないで楽しく行こっ♪ ね?」
 しかし爛漫な性分の彼女は、ファイト! と拳を握って艶を激励したのだった。