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■オープニング本文 なんだか今日は朝から家の中が賑やかね。 老婦人は、廊下を忙しく走り回る娘婿に目をやった。その横で、きびきびと的確な指示を出す娘が立っている。 「ふふ。気分が浮き立つものね、お誕生会というものは‥‥」 老婦人――吉野房江は、明日行われる孫娘の誕生会の準備に勤しむ家人を眺めながら呟いた。 「武人は妹の誕生会。楽しみ?」 「どうして僕が妹の誕生会を楽しみにしないといけないんですか。僕の時もそうですが、毎回同じような会でなにが楽しいんだかわかりませんね」 読みかけの厚い書物を閉じ、椅子から立ち上がった武人は憮然とした顔で答えた。房江は、十五になったばかりの孫の手元を見る。歳に見合わない小難しい書物ばかりに没頭している孫が若干心配ではあったが、心根のやさしい子に変わりはなく、 「そう言いながら、武人だって冬海への贈り物を楽しそうに選んでいたではありませんか」 冬海とは、明日の誕生会の主役の孫娘の名である。 先日のことだ。武人は妹への贈り物を選ぶのに、祖母へ買い物に付き合ってくれと頼んだのだが、房江はそのときの事を思い出して、ふふと笑った。 「‥‥毎回同じような会でつまらない? あなたもそう思っていたの?」 房江の問いに武人は少し考え込む仕草を見せた後、くるりと背中を向け、 「少なくとも、楽しんでいるおばあさまを見るのは楽しかったですけどね」 ああ、と思い出したように武人が振り返った。 「たまには趣向を変えてみてはいかがです。冬海も喜びますよ、きっと」 「それで今年の贈り物が‥‥」 少し大人びた深い緋色の絞りで縫われた巾着を武人は選んでいた。それに合わせた揃いの着物と帯を房江は誂えたのだった。 「そうねえ。それじゃ、先日わたくしを楽しませてくれた茶房があったのだけれど。一度お話を持っていっても良いかもしれないわね」 「なんです? それは」 「ふふ。きっと武人は理解できないと思うけれど、冬海は喜んでくれると思うわ」 出かけます、と房江は家人に告げると屋敷を出た。 向かったのは、少し前に一度だけ訪れた『浪漫茶房』という名前の店である。 「あら? 看板が違うわね。どうしたのかしら」 首を傾げながらも店の扉を開けた。 店主に訊ねると、一日限りという条件付きで店を貸しただけなのだと言う。 「あの日の店員さんが皆、開拓者の方々だとおっしゃるのね?」 「そうですよ。人づてに聞きましたが、大盛況のようで。閑古鳥を恐れる経営者としては店の方向を変えようかしらと思っているほどですよ」 けらけらと女店主が笑う。 「そういうわけだから、ギルドへ行った方が早いですよ、奥様」 「そうするわ。ありがとう」 礼を言って房江は店を出た。 「開拓者ってアヤカシ退治が仕事なのかと思っていたわ」 意外に柔軟な彼らの資質を感心しながら、ギルドへと急ぐ。 「冬海の驚いた顔が目に浮かぶわ」 房江は、いたずらを思いついて実行する幼い子供のような顔で両手を打ち、笑った。 家に戻ると、武人とよく面差しの似た冬海が出迎えた。 「明日の誕生会。楽しみね」 土産の饅頭を孫へ手渡しながら言うと、冬海はツンと唇を尖らせた。 「ただの食事会じゃないの。楽しみもなにもないわ。違うのはプレゼントがあるかないかくらいだもの」 「そう言わないで。明日はとびっきりの方々をお招きしたから」 「お客様がいらっしゃるの?」 「違うわねぇ。お客様とは違うわ。主賓の冬海への、もうひとつのプレゼントよ」 「あら‥‥いつもと違うことがひとつできたわね。贈り物が去年よりひとつ多い」 ちゃっかりしているところが女の子である。冬海は祖母からもらえるプレゼントが増えていることを純粋に喜んだ。 そんな孫を、房江は愛しそうにみつめた。 |
■参加者一覧
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
千代田清顕(ia9802)
28歳・男・シ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
キオルティス(ib0457)
26歳・男・吟
央 由樹(ib2477)
25歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
ライディン・L・C(ib3557)
20歳・男・シ
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟 |
■リプレイ本文 依頼人に思い当たる エグム・マキナ(ia9693)は陽光を銀色に返す髪を梳き上げながら呟く。 「さて――出張浪漫茶房、開店と参りましょうか」 玄関の格子戸の前で彼らを待っていたのは依頼人の吉野房江。浅黄色に小花を散らした小紋は歳に合って上品である。右手に今日の主賓である冬海の両親がにこやかに立ち、武人は少々憮然とした顔で彼ら出迎えた。冬海は初めてみる開拓者達に目を瞠っていた。 「最高の誕生日会にしますんで、楽しんでください。‥‥俺のおばばも、貴女みたいやった。俺をよう可愛がってくれました」 はにかんだ顔で由樹(ib2477)が挨拶をした。祖母、という存在にかなりの思い入れがある彼へ、房江は「孫は無条件に可愛いものよ」と笑った。 「先日起こし頂いた際よりも‥‥お綺麗になりましたか? ‥‥少し会わない間に何かあったんじゃないかって、俺達嫉妬しちゃいますよ」 首を傾げてニコリと微笑むのはライディン・L・C(ib3557)。 「房江ちゃん、僕らのコト覚えててくれてありがとっ」 ライディンの後ろからひょこっと顔を出し、にぱっとアルマ・ムリフェイン(ib3629)が笑う。 「おばあさまばかりに声がかかるのね」 冬海が唇を尖らせると、すかさずキオルティス(ib0457)が、 「俺はキオルティス‥‥。流浪の吟遊詩人さね。可愛らしいお嬢さん?」 派手な容貌によく似合った髪飾りを揺らし、冬海の前で跪いた。少し目を見開いた冬海の耳元で、長身の千代田清顕(ia9802)が囁く。 「小さくて可愛い子だね。うちのモクレンを思い出すよ」 (「小さくて可愛い子ですってっ!!」) うちのモクレン以降の言葉は冬海の耳には残らなかった。 冬海の清顕を見る目が少々‥‥危険を孕んだハート型になる。 「茶会の準備はもう済んでいるのよ」と房江の言葉で、一同応接室へ移動した。 会場へ通された一行は、手作り感満載の室内の装飾に度肝を抜かれながらも、各々が用意してきたプレゼントを手に、さっそく冬海を囲む。 そんな中ライディンは厨房へと姿を消した。まずはエルディン・バウアー(ib0066)が名乗りを上げる。 「さあお姫様、お誕生日おめでとうございます」 聖職者が恭しく差し出した両手の中に鎮座していたのは毛糸の手編みのミニもふら。手のひらサイズの幸運のお守りである。 「可愛いっ」 誕生日を迎え、大人に近づいたとは言えそこは子供だ。小さなプレゼントをぎゅうと抱きしめる。 「お姫様に齎される幸運の中に私との出会いも含まれていると良いのですが」 白い歯をきらりと光らせるエルディンに、冬海は「もちろんよ」と屈託のない笑顔で答えた。 ずいと目の前に差し出された皮袋を、きょとんとした顔で冬海は見た。 「指輪は‥‥お嬢さんにとって大切な人が出来た時の為に取っとくゼ?」 耳飾りに首飾りと、宝石箱をひっくり返したように華やいだ、キオルティスらしい贈り物が零れだした。 「?」 髪に触れる感触で冬海が顔を上げると、そこには震える手で髪飾りを挿そうとしている由樹がいた。小さなガーベラの花飾りが慎ましく少女を引き立たせた。 「‥‥他のもんと見劣りするやろうけど、貴女への想いは誰よりも負けへんつもりや」 伏目がちに由樹が言う。 「はいは〜い! お、ま、た、せ。今日の冬海ちゃんの為だけに作った、とっておきの甘味をご披露しま〜すっ」 髪や顔のあちこちに白い粉をつけたライディンの登場である。冬海の目の前で跪き、すっと差し出した皿の上には、『純和風みるふぃゆ』なる菓子が乗っていた。 粉砂糖で冬を印象づける菓子を小さく切り分け、楊枝に指すと、 「あ〜ん、してくれると嬉しいな」 片目をぱちんと瞑り、誘うように笑って見せる。慌てて周囲を気にする冬海だったが、長身揃いの彼らが壁となって父親から死角を作ると、では遠慮なく、とばかりに小さな口を精一杯広げた。 はむ、と口に含んだ甘味を味わい、とろんとした表情で頬を押さえる冬海。甘いものは何でも好きだが、今日のコレは別格だった。舌と耳で味わえる甘味など、そうそう経験できるものではない。これもオトナの味かしらと冬海は胸を震わせた。 「俺の真心込めた、冬海ちゃんの為だけに作ったひと品。甘い味が気に行ったなら‥‥俺の事、また呼んでね?」 エルディンとは別種の爽やかさが憎いライディンの笑顔だった。 「えっと、冬海姉様、って呼んでいいかな‥‥? 冬海姉様綺麗だから、こんなの要らないだろうけど」 紅と手鏡を上目遣いにおずおずっと差し出したのは羽喰琥珀(ib3263)。 「あなたも開拓者、なの?」 あきらかに自分より年下に見える琥珀へ冬海は驚いたように訊ねた。 「頼りなさそうに見える、かな」 眉尻を下げ、不安げに問い返す琥珀を見て冬海の母性本能が疼き出した。やっと13歳になった彼女だが、きちんと母性本能は育っているようだ。自分には存在しない弟を琥珀に投影して、 「安心して。私がいつも応援するからっ」 姉様顔で拳を突き出した。 「冬海ちゃんの綺麗な声には敵わないけど、これも良い音だよ」 言って神威の織物を差し出したのはアルマ・ムリフェイン(ib3629)。 織物にはオカリナが包まれていた。葉とハートを実らせた流線状の枝が描かれたそれを手に、 「じゃあ、今教えてくれる?」 ねだる冬海の背を押して、手近にあった椅子へ彼女を座らせる。エルディンが準備に入る間の時間稼ぎなのだが、冬海は真剣な表情でアルマからオカリナの吹き方を教わった。 「それではこれからちょっとした手品をお見せします」 準備を終えたエルディンがその旨を伝えると、席を立った冬海の袖を琥珀がツンと引っ張った。 「姉様、他の人ばかり見てる」 俯いてはいたが、頬がぷっくりと膨れているのが見えた。 「琥珀くんの事も見てるわよ?」 いつもの自分の我侭を、今は琥珀が向けてくれることがとても嬉しい冬海は、優しく頭を撫でて宥めた。 「ではいきます」 部屋の中央のテーブルには、有り得ない色の液体が注がれたグラスが置いてあり、 「中身はお酒やジュース、醤油、砂糖、塩などが投入されています。それをこれから一気に飲み干します!」 ぐいと一気に黒とも紫ともつかない代物を飲み下すエルディン。冬海が蒼白になってそれをみつめている。実はエルディンのスキル、キュアウォーターを使った荒業のような芸だが効果は満点だった。 「なーんてね! 驚きました? 飲んでみますか??」 「無理ですっ」 当然の回答だった。 エグムからは獣耳のカチューシャを貰い、(これには武人が少々危険な反応を示したが)清顕からは、祖母が選んだ贈り物に合わせた緋色のショールを贈られ、肩へかけてもらうことに。 清顕にだけ乙女な反応を返す冬海へ、焼き菓子が差し出された。 「お嬢さんの愛らしさには負けますが‥‥可愛らしいお菓子は如何です?」 キオルティスだった。 「一人にだけそんな表情見せるのって、ズルイよ。俺には見せてくれないの?」 どこか意地悪な含みを持たせた口調の吟遊詩人は、食えない笑顔で少女を翻弄させた。 「おまえは顔さえ良ければどんな男でもご機嫌なんだな」 仏頂面で紙包みを突き出す武人に、冬海は困惑した顔を向けた。兄の不機嫌の理由がわからない。 「別に無理して使う必要ないからな」 ふいと顔を背け、武人は合奏の準備に入っているキオルティス達の方へ踵を返した。 包みを開けると、祖母の着物‥‥清顕のショールと揃いの巾着が入っていて、冬海は顔を綻ばせる。 ゆったりした音楽で両親と招待客を楽しませた後、房江の「主賓も踊りたそうよ」という一言で音楽は一転。軽快なリズムへと転調した。 「それじゃ、軽く見本を見せようか」と清顕。 「単調なすてっぷの繰り返しだから、大丈夫だよ」 シャランと髪飾りを鳴らしてキオルティスが励ます。 手本として中央へ進んだのは、清顕と由樹。なんだか妙な雰囲気を醸しつつ曲は始まる。 「‥‥踏んだらすまん」 ぼそりと由樹は俯いたままで呟いた。 「料理だけじゃなく、踊るのも上手だね由樹さん」 ふいに囁かれたせいで足をもつれさせた由樹。狙っているとは思いたくはないが、過剰反応した由樹はつい足をもつれさせた。清顕の胸へ顔面を強打させる。 きゅん。 冬海の胸にあるものが去来した。頬は赤く染まり動悸息切れ、まるで不治の病のよう。そんな冬海を横目に見やり、オトナの対応を見せる清顕。微笑んでいるだけなのに、その様は板についている。 (「扱い慣れている!」) 主賓はかなりの興奮である。 「壁の華を私に頂けませんか?」 見本ダンスをガン見している冬海へ手を差し出したのはエグム。誘われるとは思っていなかった冬海は、ぽかんとしていたが、首を傾げたエグムの、「けして散らしたりなどしませんから」と乞われると顔を赤くしてその手を取った。 クルクルと水紋のようにダンスする冬海とエグム。楽しそうな娘の様子に手拍子を合わせる両親。エグムは冬海嬢をエルディンの元へ優しく導くと、次は房江の手を取った。 「また、お美しくなられましたね。ぜひとも秘訣を伺いたいものです」 壁の花は一輪だけではないらしい。 エグムから受け取った花を手折らぬように優しくフォローするエルディン。窓から差す陽光にも負けないぴっかぴかスマイルは、由樹と清顕の見本ダンスを見た時の邪なときめきのせいで冬海の胸をズキズキと痛ませた。 (「ああ、なんて清らかな微笑なの。痛いわ胸が痛い。どうしてこんなに胸が熱く苦しいのかしら」) まだ幼い彼女にその正体が何であるかはわからない。 そんな冬海の胸中を知っているかのように、ライディンが神父の手から少女を奪い去る。 くるり、とターンしながらさりげなく冬海の腰へ手を添えた。ぎらりと光る武人の熱視線には敢えて気づかぬフリ。 「ダンスは慣れっこだよ。どこかで‥‥誰かと踊ってた、気がするんだ」 終始笑顔のライディンが、少しだけ表情を曇らせた。寂しいような愛しいような、複雑な色を滲ませた瞳を冬海が覗き込むと、 「鳥みたいに軽やかなステップだね。素敵だよ」 冬海の指先を軽く摘み、くるくると駒みたいに回した。足元が覚束なくなった彼女の手を取ったのは、――清顕。 「ほら、くっつかないと踊りにくいだろ? ‥‥そう、いい子だね」 「!!!」 (「‥‥お褒めに預かり光栄ですわ」) 今にも湯気が出そうな赤い顔の冬海はダンスパートナーの顔が直視できない。ふいっと背けた視線の先にいたのは楽しそうに楽を奏でているキオルティスだった。 緋色の髪を顎先で跳ねさせながら、何かを象る唇。 か わ い い よ――。 「‥‥次の男に渡すのが惜しいな」 ぎゅっと手を掴み、冬海を熱くみつめる清顕 。声にならない楽師の甘い言葉と名残惜しそうな清顕の囁きを間近に聞き、 (「もう死ぬ」) 冬海は思わず、両親に先立つ不幸をお許しくださいと懺悔してしまいそうになった。 「踏まないように精一杯努める」 固いセリフで我に返った冬海。喉を反らせるほど見上げた先にあったのは、清顕と見せた手本ダンスの時と同じ緊張した由樹の顔だった。多少固さはあるもののダンスにはなっている。意識が足元に集中するそのつたなさが、冬海の心を落ち着かせた。 「私もこのダンス初めてだから、少しくらいおかしくてもきっと大丈夫ですわ。二人なら平気」 「‥‥そう、やな。二人ならへいき、やな」 強張っていた顔が一気に緩む。脂下がったように目を細めて笑う由樹は可愛らしく、 (「間近でこういう顔をされるとぐらっときますわねぇ」)と由樹から何かを学んだ様子の冬海だった。 アルムの気配りで、曲調がスローテンポに変わる。 娘を若い男にばかり奪われていた父親が、半泣き状態で冬海にダンスをせがんだが鼻で軽くあしらわれるという非常に気の毒な場面が展開された。 房江にそっと耳打ちしたエグムが仲間へOKのサインを送ると、房江は冬海の両親を連れて退室した。 王様ゲーム。 番号が書かれた札を各々が引き、王様の文字が入った札を手にした者の命令はぜったいに果たさなければならないという、ある種プライドを懸けたゲームである。 とはいえ主賓が負けてばかりいてはいけない。札には少々細工が施されていた。基本的に冬海が王様になるような細工ではあったが例外も時としてある。 「3番が5番をお姫様抱っこしてターンする!」 初めに王様を引いたのはなんとアルマだった。ニヤリと不敵な笑いを浮かべつつ命令を下す。 「あ」 手の中の札に3をみつけたエルディン。 「ぐ」 わなわなと肩を震わせている由樹の手を覗き込むと、そこには5番の札が。 どんなことにも動じないエルディンは煌びやかな微笑を浮かべ、引き攣った顔で後じさる由樹をがしっと捕らえ、ひょいと抱き上げる。 「あかんやろっ」 赤面しながら由樹はじたばた。――アルマ。小悪魔な笑いを張りつけて冬海へ耳打ちする。 「こんな風に冬海ちゃんが誰かに何かして貰うってのもアリだよ?」 ぐっと拳を握り、次の手に期待大という目で「わかったわ!」と答えた。 常に負け覚悟で挑戦していたキオルティスが次の(ある意味)敗者になった。王様を引いた冬海から、 「初めて話すせきらられんあいたいけんだん」 見た目の華やかさから恋愛経験が豊富と判断した冬海が、今後の参考のためにするからと命令。 「喜んで」 ハープの弦を爪弾きながらキオルティスが過去へ思いを馳せる。 「大理石のように白く、冷たい彼女の肌が、俺の指先ひとつで次第に熱を帯び」 「なんやかんやで愛は素晴らしいんだよ冬海」 とライディンと酒をかわしていたハズの武人が突如乱入すると、キオルティスの赤裸々な部分を遮った。激しく動揺している兄へ皆の視線が集中する。 しすこんなのだね、と一同大きく頷いた。 次もやはり王様は冬海だったが、甘い言葉から少し方向転換させる命令を出す。 「7番が王様の私に意地悪なことを言うの」 7の札は琥珀だった。一斉に視線を浴びる琥珀だが、 「さっき愛想よくしすぎじゃなかったか? 後でたっぷり聞かせてもらうから。色々と、さ」 キオルティスに向けた笑顔が妬けたんだ、とこれまでとがらりと違う声音で言った。 「‥‥え」 あまりに雰囲気が違うものだから冬海の表情が僅かに強張った。すかさず弟キャラへきゅぴんと変身した琥珀は上目遣いで、 「だってそういう指示だったから」 冬海は、「心臓に悪い弟ね」と安堵したように――笑った。 笑い、続けた。 後日、房江から礼状が送られてきた。 夢のような一日を冬海は喜んでいたが、武人の干渉が厳しくなったとも書き添えられていて――。 「次のプレゼントは“弟”がいいと言って両親を困らせたとか」 声を立てて一同は笑う。 血生臭い事件も多いけれど、些細な幸福を齎すのも素晴らしい仕事じゃないかと思うのだった。 |