【黒塚】我ら見廻組っ
マスター名:シーザー
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/08 17:47



■オープニング本文

「お腹すいた。なんか食わせて」
 百瀬光成は言うなり勝手に台所へ上がりこみ、我が物顔で茶碗と汁碗を水屋から取り出した。
「‥‥いつもうちをあてにしてもらっては困るんですが」
 呆れ顔の青年は、それでも光成の手から茶碗を取ると飯をよそってやった。
 山盛りの茶碗を差し出しながら、青年が「またケンカしたんですか?」と訊ねると、
「氏族の息子だから手を抜いて稽古しろとか抜かすから、わざとボコボコにしてやったら飯抜きにされた。腹立つっ」
「そうは言いますが、道場を経営していく上で、そういうのも必要でしょう。夜那さんだって、きっと好きで言ったんじゃないと思います。切り盛りするって、光成さんが思ってるほどには甘くないですよ」
 自分の飯を抜いた夜那の味方をする青年を、恨めしげに茶碗の縁から覗く光成は空々しく、
「――で? 切り盛りするのが大変な口入屋には、いい儲け話は入ってこないのか?」
「光成さんの顔色が変わるような話は入ってきてますけどね」
「は?」
 青年の一言で、ほんとうに光成の顔つきが変わった。
「百瀬になんかあったのか?」
「“あった”んじゃなくて、これから“ある”と言った方がいいでしょうかね。――黒塚の領内での一件は光成さんもご存知ですよね」
 領内での一件とは、五色老の一角が当主を失う羽目になったアヤカシ絡みの事件のことだ。
 光成は、その最後のときに居合わせたから、ある程度の経緯は知っていた。
「あれはもう解決しただろ」
「もちろん、開拓者の皆さんのご尽力で。ただ、新しい緑青が決定したんですが、その際にですね。領内にアヤカシが侵入したのは警護の隙を突かれたからだということになりまして‥‥今後は五色老に見廻り番を月毎に回していこうという話になったわけです。――わかりますか? 五色老に、ですよ」
 箸を持ったまま、光成は頭をガシガシと掻いた。
「百瀬にもとうぜん回ってくるな」
「はい。それが近々」
「は? なんでそういう大事な話をソッコーで持ってこないわけ?」
 口入屋の若き店主、キチ――本名を吉川常家というが名は伏せている――は大仰に溜息を吐いた。
「光成さん専属の口入屋ではゴザイマセンので、こちらも忙しければ知らせに走ることもデキナイんです」
 キチの額に青筋がビキビキと入るのを見て取った光成は、
「悪りい。後は俺がどうにかすっから、常家っと違った。キチ、またあっちで変わったことがあったら教えてくれ。――んじゃ!」
 本気で怒らせる前に退散とばかりに、光成は茶碗と箸を卓へ戻すとすぐに勝手口から飛び出した。
「そんなに気になるなら腹を括って帰ればいいじゃないですか」
 やれやれとキチは呟いて、光成の食い散らかしを片付けた。

 百瀬重家は、受け取った書簡を手に項垂れた。
「とうとう回ってきたか‥‥。さてどうするかなぁ」
 書簡にはまだ目を通してはいないが、内容はすでに把握していた。領内への侵入を事前に防止するという名目の元、五色老が月毎に交代で領地を見回るというお役目の任である。
 跡継ぎとして考えられていた光成が出奔してから、家臣はおろか親族までも百瀬を見限って他家へ出仕してしまった今、見廻り組に割ける人間は皆無に等しい。
 先だって、主家の大事の際に光成が黒塚へ戻ってきていたようだが重家を訪ねることはなかった。
「だが、出来ぬと言うわけにもいくまい。アヤカシの影が見え隠れしている今は尚更だ」
 運悪くというべきか。
 領地内でアヤカシらしき姿が数件目撃されているのである。
 被害の報告はないが、未然に防ぐための見廻りなのだから、今こそ力を発揮すべきなのである。
 だが人材がいない。
 重家は、使者を見送った門前に腰を下ろした。頭を抱えて唸る。
 砂を食む音と共に声が降ってきた。見上げると、逆光で表情までは窺い知れないが、その佇まいから開拓者、という存在なのだと気づいた。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
すずり(ia5340
17歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
浄巌(ib4173
29歳・男・吟
ルー(ib4431
19歳・女・志


■リプレイ本文

 百瀬重家自ら盆を持ち、開拓者の面々へと茶を振舞う。さしたるこだわりがないせいか、味も素っ気もない白湯のようなものだった。
「まずはお願いしていた最近の天候ですが、お話は聞いていただけましたでしょうか」
 三笠三四郎(ia0163)が問う。気象学にも精通している三笠は、この時期の山の天候を注視していた。実際、山で作業している者達に聞く方が早かろうと、黒塚に到着した時点で重家に頼んでいたのである。
「昨日から晴れて採掘作業は再開されたが、昨日までは雨天であった。水はけの良い場所ならば問題はないが山中ともなれば足場は悪いだろうと言っていた‥‥」
 カタカタ、と音を鳴らしながら長机の上にある湯飲みを端に寄せ、黒塚の地図を広げる。
 町の中心部に食指を起き、重家はそこを起点にして巡回範囲へと指を滑らせた。
「その周辺一帯が巡回地区なのね」
 葛切カズラ(ia0725)は肩肘を卓へ深く乗せ、ずいと地図を覗き込んだ。地図は預からせて頂けるのかしら、と訊ね、重家が頷くとカズラはその大きく開いた襟元へ地図を忍ばせた。
「山へ入るのならコレがいるだろう」
 重家が次に皆の前へ差し出したのはブーツだった。底には滑りにくいように釘が打ち付けてある、黒塚特有の履物だ。借り受けたのはすずり(ia5340)、菊地志郎(ia5584)、浄厳(ib4173)の三人。
 巴渓(ia1334)は物珍しそうにブーツを指で弾き、
「ブーツは自前のを使う。履き慣れない物の方が、却って動きを阻害するもんだ」
 これに重家は目を丸くしたが、すぐに「なるほどな」と感心した。柔らかく見えたその表情が、ふいに消えた。開拓者の面々を様子を窺うように順繰りと見ていく。
 心中を察したすずり(ia5340)がブーツを脇に抱えて重家の元へと寄った。
「光成さん、の事、だよね」と小声で声をかける。
「甥を知っているのかね」
 こくりと頷くすずりに、顔を出さなければ文も寄越さない薄情者だと光成の事を嘆いた。
「光成さんは、綺麗な女の人と一緒に住んでるから、帰れないんだよ。最近は小さな男の子も増えて、楽しそうだったよ」
 と光成の近況を報告した。嘘を言ったつもりはないが、“綺麗な女の人”の部分に目を瞠った重家を見て、よけいなことを言ったかなと内心ヒヤリとしたすずりだった。

 地図で廃鉱の位置を確認し、戦闘場所とした。移動の最中に地盤の緩みやアヤカシとの遭遇等での場所変更は随時行っていく方向で、開拓者達は百瀬家を出発した。
 現地の状況を詳細に把握するため先行していたすずりは、廃鉱に到着すると地面に耳を付けて地下の水音を確認。伐採されて山肌が見えている斜面での地盤も確認する。崖からの水の染み出しもなかったが、完全とは言い切れない。戦闘ともなればなにが起きるかわからないのだから。

 先行組は化猪の目撃情報が多くあったという方角へ向かい、誘い込みを開始していた。
 足元の落ち葉は塗れて地面に張り付いている。着地のタイミングや角度を失敗すると滑落する怖れは十分にあった。志郎、ルー(ib4431)、朱鳳院龍影(ib3148)の三人は互いの顔を見やり、気を引き締めよと頷きあい、林の奥へと消える。
 同時刻。
 戻ってこないすずりを気にする様子もなく、後続の浄巌らは黙々と廃鉱を目指していた。彼女が戻らないのは、つまり戦闘場所の変更には至らなかったということなのである。
 編み笠を僅かに持ち上げ、周囲を警戒する浄厳。湿っているせいか、枯葉特有の乾いた音の代わりにぬかるんだ音が足元から上がってくる。浄厳は視線をちらりちらりと上へ下へと向けた。
(「下方と上方も土砂が崩れて生き埋めに、等となっては笑えぬぞ」)
 自嘲とも苦笑とも言えぬ笑みを口元へ浮かべながら、浄厳含む後続組は歩を進めた。

 ふいに志郎が身を屈めた。足元の落ち葉を払いのけると腐葉土が顔を覗かせる。抉ったような足跡が数箇所見受けられた。化猪のものか、野生種のものかの判別は付きにくいが、確かにここら辺りでの目撃は多い。
 視線を舐めるように周囲へ這わしながら、超越聴覚を使う。
 さくっと軽い音をさせながら、志郎の背後を少し右へ下がったところに立ったのはルーだった。金色の瞳に木漏れ日を反射させながら、周囲を見渡す。
(「策敵に関しては、シノビの志郎が超越聴覚を使ってくれるっていうし、ある程度任せても問題ないと思うから‥‥先に出過ぎて不意打ちを受けないように、後をついて行こう」)
「鉱山か‥‥採掘とかには興味あるんじゃが、今回はそうもいってられないのう。実に残念。」
 コートの裾から伸びる長い足を手近な岩に乗せ、緋色の髪を指で梳きながら、朱鳳院が呟く。
 索敵を続けながら奥へ進むと、気づけば周囲から音が消えた。それまで聞こえていた鳥の声は掻き消え、無音と化す森。
 徐々に近づく足音に、三人の顔は緊張で強張った。
「いましたね」
 目を逸らさず見やる前方右方向から、左へと猪の群れが横切っていく。霧のように立ち上る瘴気を纏うその異形の姿は、確かに獣とは違った。
 ルーの白く細い喉元が上下に動く。そして次の瞬間、馬の嘶きのような鮮烈な咆哮が木々の間をすり抜けて、アヤカシ共へと覆い被さる。
 ドドドド、という地鳴りのような足音がぴたりと止み、群れの中で最も大きい猪がこちらへ長い鼻面を向けた。
「かかったようじゃのう」
 朱鳳院がくつくつと笑う。
「さて、大舞台へと案内せねばならんの」
 踵を返し、仲間が待つ平地――廃鉱へと駆け出した。
 ルーと朱鳳院は咆哮を使い分けて誘導を開始した。先行組はアヤカシを翻弄しつつ林の中を縦横に抜けていく。

 大舞台――そこはアヤカシ掻き消える場所。
 地鳴りがはっきりと足音だと認識できた時、誘導していた三人が同時に林から抜け出してきた。それを追うように、涎を垂らしながら化猪の群れも突っ込んでくる。
「ざっと見るに二十はいるな。さて、頭を叩いてぶっ潰そうか」
 巴は拳を音が聞こえるほどに握り締め、にやりと不敵に笑いながら三笠へと顔を向けた。
「もちろんです」
 言うやアヤカシの前へと踊り出る。
 朱鳳院、レウーの咆哮につられて追ってきているアヤカシはまさに興奮状態で、小さな黒目を剥き出して激昂し、鼻息は荒く、ヒトと見るや即座に突進してきた。蹄が跳ね上げる土で、辺りは泥沼の様相を呈す。
 純白の陣羽織が宙を舞った。深紅の鱗も鮮やかな篭手を構えた巴は、瞬脚を使い、まずは一頭目の化猪へ拳を打ち下ろした。虚を疲れたアヤカシは打撃を急所へ喰らい、弾けるように消えた。
 滑りながら着地した巴の陣羽織の裾を、泥が茶に染め上げたが、一撃で猪を吹き飛ばしたことで巴の表情は明るい。
 続けて二頭目が突っ込んでくる。回避に適した位置取りをしていた三笠が迎え撃った。頭を低くし、牙で三笠を跳ね飛ばそうと睨む猪を横目で見やり、するりとかわす。背を猪に向けた刹那、三笠の嵐が鮮烈に煌いた。
 回転しながら嵐を地面すれすれに薙ぎ払わせると、化猪は真横に二つとなって切り裂かれた。
「いきなり踏み込んできますか」
 ふうと嘆息しながら、額の汗を拭う。突進を驚いたような口ぶりの三笠だが、やはり一撃でアヤカシを倒せたことは気持ちがいいようだ。刀を振るった一瞬の殺気のすさまじさを砂粒ほどにも感じさせない三笠は、うっすらと口角を上げて笑んでいた。
「群れで突っ込んでこなければ怖くは無い相手だけど、足場がね〜〜」
 と、ぬかるんだ場所で呟くのはカズラ。自身の直下を揺らすアヤカシ共を、眇めた双眸でみつめてニヤリと笑う。
 ぺろりと舌で唇を舐めると、目を見開いた。
「秩序にして悪なる独蛇よ、我が意に従いその威を揮え!」
 射程内に飛び込んできた三頭目へ、躊躇なく蛇神を向かわせる。いくつもの触手が絡み合い、交差しながら一匹の大蛇へと変化した式が苛烈に猪を弾き飛ばした。
「急ぎて律令の如く為し、万物事如くを斬刻め!」
 腹の下に響く爆裂音をさせて吹っ飛ぶアヤカシへ、トドメの鏃が疾る。ぬるりと伸びる触手は、まるで目でも付いているように的確に化猪の眉間を射抜いた。
 肉塊の代わりに瘴気がいくつもの塊となって落下してくる。それは地面に落ちるや霧散した。その向こうで、カズラが得意げに微笑んでいた。
 跳躍しながら、尚も突進を続ける猪へ手裏剣を放ったのはすずりだった。
(「倒すのは他の人に任せて、アヤカシの動きや、周囲の状態に気を配るよ」)
「怖いのは、アヤカシよりも大自然だね」
 鼻先に突き刺さったいくつもの手裏剣に驚いた先頭の化猪が急停止すると、後続はその仲間の躯の上へと折り重なるように倒れていった。
 それらを掻い潜って、何頭かの化猪が突っ込んでくる。
(「纏めて固まり突進するなら毒蟲か‥‥」)
「引き摺り足摺り這い摺り慄け」
 浄厳が詠唱すると、にわかに地面は小さな虫で溢れ出し、まるで毛足の長い上等の絨毯へと仕上がった。無数の足音は耳鳴りのように仲間の耳さえ揺らし、黒い絨毯が化猪へとなだれ込んでいく。
 一瞬にして全身を覆い尽くされた猪は、為す術もなく蟲の毒に侵されると四肢を震わせ、どうっとその場へ倒れ込んだ。
 ひくひくと痙攣し、腹を見せて動かない化猪を一瞥した浄厳は、上手く前衛へ敵を追い込めれば尚良しかと呟いて二手目に入る。
「煙に巻いて光を失え猫の目灯持たぬ者」
 墨を散らしたような霧を出現させ、動ける他のアヤカシの視界を奪う。
 それを待っていたように飛び出したのは志郎。
 刹那。散りゆく葉が止まる。羽毛のごとくゆるりと落ちるのではなく、まさに停止した。そのわずかな隙をついて志郎は手裏剣を構え――投擲。“夜”を忍ばせた志郎がアヤカシを襲う。浮いた枯れ葉を掠めて切り裂き、アヤカシの死角へと回り込んだ手裏剣はそのまま消えるように撃ち込まれていく。アヤカシは弾けるようにその姿を霧散させた。
 ルーが狙うのは、浄厳の毒蟲にやられて動けなくなっている化猪だった。すっ、と息を吸い、岩陰から姿を見せた次の瞬間にはすでにアヤカシの鼻先まで疾走しており、苛立ちと怒気に満ちた目で睨む猪へ負けじと剣気を向けて対抗する。――が、それもほんの僅かな時のことであり、彼女はリベレイターを抜き放った。
「! しまっ‥‥」
 ルーの駿足が仇になる。一気呵成に駆けた勢いでぬかるみに足を取られたルーの切っ先は、アヤカシの急所を貫くことが出来なかった。
「平気じゃ。そのような顔をせずとも良い」
 ルーの眼前に、肉感たっぷりの背中が現れた。腰に手を当て、振り返った朱鳳院の得意そうな表情は艶やかで艶かしいが、振り下ろした右腕の飛龍昇から滴る黒い瘴気が真逆の印象も与えた。
 朱鳳院に撃ち抜かれた額から、紙魚に食われる紙のように化猪は消えていく。
 アヤカシ共に仲間意識があろうはずもなく、また考える知能も薄いのか。化猪はまさに名の通り、猪突猛進に突っ込んでくる。
 巴が瞬脚で一撃離脱で一頭。
 剣気で猪を気圧した三笠の斬撃は、新陰流の覇気も纏って一頭を斬り伏せる。
 前衛と接敵する前に出鼻を挫くことを目的に斬撃符を叩き込んだカズラにあわせ、アヤカシを追い込むようにすずりの手裏剣が飛んだ。
 傀儡のように化猪は前衛の前へと移動を始めた。前へ走るしか能のない哀れなアヤカシの姿でもある。
 数がいようともそれは脅威ではなかった。
 追い討ちをかける浄厳の暗影符。散華で苛烈に始末する志郎。
 失敗が許せなかったのか。ルーが放つ剣気はさらに上昇していて、一瞬にして相手を竦ませた。それと見るや隼人で距離を縮め、即座に愛刀を打ち込む。速さの加わった剣技はアヤカシの急所を直撃し、木っ端微塵に消し飛ばした。
 隼襲で先手を取った朱鳳院は独壇場で、その力の差を見せ付ける。
 残った化猪が猛攻を仕掛けてきたが、もはやその数も威力を失い、運が良ければ開拓者に掠り傷を負わせる程度には歯向かえた。
 さりとて恐れを抱くこともないアヤカシは止まることを知らず、ただひたすらに刻まれ、霧散していった。

 討伐を終えた一行は、下山すると報告のために重家を訪ねた。
 玄関で重家を見るなり、開口一番、
「重家さん、お風呂とか借りれると嬉しいんだけど」
 言ったのはすずりだった。
「確かに皆さん、酷いあり様だ」
 シノビ装束はいざ知らず、巴は白い陣羽織である。重家は洗濯も買って出て、もちろんこちらは近所の婦人方に頼んだのではあるが、彼らを労った。
 疲れと汚れを落とすために、百瀬で一時休憩を取ることにした。
 風呂がひとつしかなく、女性陣に先を譲っていた男衆は各々寛いでいた。
「あの」
 不慣れなもてなしに奔走する重家に声をかけたのは志郎だった。光成と面識があるので、なにか言伝でもあればと思ったのだ。
「なにやら女性と同居していると聞いたのだが、その方というのはつまり」
 重家の訊きたいことはわかったが、あの二人にはまだ恋愛感情など存在していないことはわかっていた。志郎はとりあえず近況を話そうと口を開けたが、人様に有り得ない鍋を食べさせて迷惑をかけたとか、そのせいで若い女性から扇子チョップをくらっていたとか自分が小言を言ったとか‥‥それらは到底言えそうになく。
「ものすごく元気でしたよ」
 その真意を察した重家は苦笑いしながら、「ひとつよろしく頼む」と頭を下げた。
 暫定百瀬当主を見る、浄厳や三笠の目に憐憫の色があったのは言うまでもない。志郎が思い悩んだ末の「元気でした」報告であることを、しっかり見抜いていたのだから。
 風呂場では――。
 朱鳳院の爆乳の質量の凄さが湯を大いに減らしてしまったことで、上がるに上がれなくなったすずりとルーは顔を真っ赤にしてのぼせ寸前になっていた。
 そんな状況を豪快に笑い飛ばす巴と、彼女らの裸体を繁々と鑑賞するカズラは満足そうに湯に浸かっている。
 当の爆乳は、「いい湯じゃ」と機嫌よくにごり湯に揺れていた。