国の宝に未来を刻め!
マスター名:シーザー
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/07 00:05



■オープニング本文

 西の空が茜に染まる中、翼を広げた黒く大きな影が小さな農村の上空を横切った。
「このまま強行しても玉紅が疲れるだけだな」
 眼下を見下ろし、玉紅が降り立てる場所を探すレイ・ランカン。日が沈む前に見つけなければと、レイは目を凝らした。
 おもちゃのような可愛らしい家が立ち並ぶ石畳の道。それを辿って行くと牧場が見えた。玉紅の首筋を軽く叩き、滑空を促す。
 牧場内に家畜の姿はなく、レイはここへ降りることを決めた。
 相棒の休息と夕食を兼ねて立ち寄った村は小さく、とうぜんながら龍を繋留できる宿はない。
「すまんねぇ、旅の人。アンタだけならいくらでも泊められるんだがねぇ‥‥アンタらが降りた牧場は使ってないから、そこで寝るといい」
 年季の入ったシワくちゃの婆が、杖で牧場の方角を指した。
「いや、突然訪ねた我も悪いのだ。ありがたく休ませてもらう」
 仮面を装着した龍連れの開拓者に対して、警戒するでなく、休む場所を提供してくれるのだから有り難い。玉紅といっしょならどんな場所でもいいと、レイは思った。
 大人しく待っている相棒の元へ、レイは駆け出した。大事そうに抱えたバスケットからは湯気が立っている。温かな食事を早く玉紅に――。
 石畳を駆け抜けていくレイの頬を、家々から零れる橙色の明かりが優しく照らしていた。
 温かい手作り料理に舌鼓を打っていると、夜は冷え込むからと村の人たちが毛布を持って来てくれた。干草に潜り込んでいた玉紅も顔を出して、「きゅ」とお礼とばかりに愛らしく鳴く。
「我に返せるものはないか」
 恐縮するようにレイが言うと、
「いっしょに遊んで!」
 村の子供たちがぞろぞろと出てきて、玉紅を一斉に指差した。
「それくらいならかまわん。なあ、玉紅もいいだろう?」
「きゅ♪」
 玉紅はきゅっと目を瞑って返事をした。

「きゅぅ」
 項垂れる玉紅の背中では、きゃっきゃと騒ぐ女の子たち。尻尾のカーブに掴まって、ジャンプをしては飛距離を競う男の子たち。
「迂闊であったな‥‥」
 膝を折ったレイが呟く。子供のパワーは思っていた以上に底なしだったのだ。
 彼らには満足して欲しいと思うが、このままではこちらの身が持たない。レイは村長の婆に頼み込み、風信機で神楽のギルドへ応援を呼んでもらう事にした。
「“我と共に子供らの心へ思い出を作る手伝いを頼まれてくれないか。相棒といっしょに来て欲しいのだが”」
 堅苦しい言葉で言付けると、お茶目な婆は勝手に言い換えた。
「国の宝に未来を刻め! 来たれ、開拓者とその相棒よ!! レイ・ランカン‥‥――これでええ。アンタは堅苦しすぎるねぇ」
 自分の物言いが堅苦しいとは気づいていないレイは、婆の杖攻撃を尻に受けながら首を傾げた。


■参加者一覧
虚祁 祀(ia0870
17歳・女・志
花流(ia1849
21歳・女・陰
シエラ・ダグラス(ia4429
20歳・女・砂
からす(ia6525
13歳・女・弓
与五郎佐(ia7245
25歳・男・弓
千羽夜(ia7831
17歳・女・シ


■リプレイ本文

●牧場にて
「遙々、神楽の都からよく来てくれて助かった。あのように子供は元気でなくてはな。とはいっても――」
 まだまだ寒いが、微かに草木が芽吹き始めた牧場。レイ・ランカン(iz0005)は来訪したばかりの開拓者達に改めて事情を説明した。すぐ近くで甲龍の玉紅が子供達と遊んでいる様子を眺めながら。
「きゅぅ」
「あ、ずるいよ〜。次はあたしね〜♪」
 ずっと子供達の相手をしていたせいで玉紅もバテ気味。レイもまた先程まで子供達の相手をしていたせいか両肩が落ち気味だ。レイは志体持ち、泰国でいうところの仙人骨持ちなのに、ここまで疲れさせるとは子供達の体力恐るべしである。
「国の宝に未来を刻め! ‥‥か、面白い事言いますね。依頼書に、そうありましたねぇ」
「そ、そうだ。確かにそうなっていたはずだが‥‥」
「続きが『来たれ、開拓者とその相棒よ!!』でしたか。実にいいですねぇ。本当にいい感じです。子供あっての国の将来。そこを忘れてはなりませんね」
「まあ、その‥‥あ、あのだな‥‥」
 与五郎佐(ia7245)の誉め言葉にレイがマスクの下の目を泳がせる。実はこの地で世話になっているお婆さんがノリで変えてしまった文言なのだが与五郎佐はそれを知らない。
 何度も与五郎佐が誉める度に本当の事を話そうかとレイは迷う。しかしそうすればまた村の婆に堅苦しいといわれてしまうのではと悩むレイであった。
「とっとと済ませようぜ。しかしよ‥‥。この俺が子供の相手かよ。まったくよぉー」
 与五郎佐の足下から声が届く。レイが視線を落とすと欠伸をする猫の姿がある。正確には猫又。与五郎佐が連れてきた燦爪丸だ。
「ちゃんとやるんですよ。子供らに爪でも立てたりしたら姫に言いつけてやるからな」
「わ、わかったよ‥‥遊んでやりゃいいんだろ。人使い、いや猫又使いが荒いってもんだ」
 燦爪丸は与五郎佐から一旦視線をそらし、その後が気になったのか元に戻す。気位が高いが故にあまり乗り気ではない様子であった。
「レイさん、お久しぶりー!」
「千羽夜殿!」
 元気な千羽夜(ia7831)はまず再会の挨拶をレイと交わす。そして駿龍の碧維も含めて子供達と遊んでいる玉紅へと近づいた。
「きゅぅ♪」
「がぅ♪」
 龍の玉紅と碧維が首をくねらせて挨拶をする。応援が来てくれて玉紅は嬉しそうだ。
「こんなに玉紅、疲れているし。レイさんったら、また玉紅を放って置いて‥‥鼻の下を伸ばしてどこかにいる他の子にデレデレしていたんじゃないの?」
「いや、そんなことはしていないぞ。先程までは我も一緒に子供らと遊んでいたのだ。なあ、そこの子よ」
「本当? ほんとうの本当?」
「本当だ。う、嘘ではない。嘘ではないのだ」
 にじり寄る千羽夜にじりじりと退くレイ。千羽夜は両手を牛の角のように持ち上げてレイの耳を摘もうとした。
「きゅぅ、きゅぅ♪」
 その時、玉紅が首を下ろしてレイに頬ずりをする。
「玉紅に免じて信じてあげる。もし玉紅を放っておいたら、私が連れて帰っちゃうからね!」
 しっかりレイに言い渡しておく千羽夜である。
「まずは子供達に挨拶をしておこう。空中演武をするにしろ、親しんでもらってからがよいからな」
 虚祁 祀(ia0870)も甲龍の槐を遊んでいる子供達のところへと連れていった。
 戦ってる時の槐は必死な様子で見ていてつらく感じる時がある。せっかくの子供達と接する機会なので槐に心穏やかになってもらえたらと考えていた虚祁祀だ。
 虚祁祀や槐と同じように子供達へ近づいたのが、花流(ia1849)と駿龍の疾風丸である。
「大変だったでしょ、玉紅。もう大丈夫です。これからは疾風丸も頑張ってくれますので」
 花流はこれまで一体で頑張っていた玉紅の頭を撫でてあげる。その隣で疾風丸は『グフゥ‥』と迷惑そうな顔をしていた。ここへやってくるまでに少々無理をして飛ばされたのがお気に召さなかった様子だ。
「ランカン殿、疲れてませんか?」
「もう大丈夫。こんなに集まってもらったからな」
「任せてください」
「どうかお願いする。花流殿」
 心の中で『レイさん』と呟いた花流はさっそく子供達と遊び始めた。餌をあげると即座に機嫌が直る疾風丸だ。まずは子供達の興味を疾風丸へ向けさせる。
「お痛をする子には‥‥疾風丸、竜巻!」
 花流が疾風丸の尻尾をペシペシと叩いていた男の子を指さす。
「グフォン♪」
 疾風丸にとっては尻尾を子供に叩かれても何てことはないのだが、ここは花流のいう通りにする。ここでいう竜巻とは胸いっぱいに吸い込んだ後の鼻息攻撃である。
「うわぁ〜♪」
 他の子も混じり、子供達は鼻息を浴びながらグルグルと回る。そしてよろけるふりをしながらムギュっと疾風丸に抱きつくのであった。
「琴音。命ず、『遊べ』」
 人妖の琴音にそう告げた、からす(ia6525)はしばらく様子をみた。
 琴音はこの辺りの子達と髪や瞳の色が違うのでどうしても目立ってしまうのだが、自然にとけ込めたようだ。仲間達の朋友と一緒に遊び始めたのを確認してから、からすは牧場の外に出る。
 向かった先は牧場近くの人家が並ぶ村。お茶菓子用の饅頭や煎餅は売っていないかと探し回るものの、そのような店は一軒もなかった。
「これ、どうなさった? アンタ、この辺じゃ見かけない顔だね」
「この村に菓子を売る店はないのだろうか?」
 石畳の道に佇んでいたからすに声をかけてきたのは杖をついた婆。レイの世話を何かと焼いてくれる人物とからすはたまたま出会う。
 からすから事情を聞いた婆は、それならばとついてこいいといって歩き始める。
「ここを使ってもよいぞ。もし知らんのであれば、饅頭なら作り方を教えられるぞ。煎餅はまったく知らんがな」
 婆が案内したのは一軒の空き家。茶葉を含めて食材もからすに提供してくれた婆である。
 場所は戻って子供達が戯れる牧場。
「戦以外でこの子の力が誰かのお役に立てるというのなら、喜んで協力させていただきます」
「よろしくお願いする。どうか子供らによい思い出を。それにしても立派な龍だ」
 シエラ・ダグラス(ia4429)はレイに駿龍のパトリシアを紹介する。この時、パトリシアの視線が刺すような感じであったのにレイは気づいていない。どうやらシエラを口説こうとして近づく輩として判別したようだ。
 ともあれシエラは一人の子供を連れてパトリシアの背中へと跨った。
「身を乗り出すと危ないから、大人しくしていてね」
 子供を自分の前に乗せたシエラは手綱を引いてパトリシアを飛び立たせる。
「すご〜い。風になったみたいだよぉ」
「ブルル‥」
 背中の子供に応えるようにパトリシアは啼いた。安全を考え、なるべく低空を飛ぶようにシエラは努めるのだった。

●お茶の時間
「そろそろ休憩にしようか。お茶を淹れてあげるよ」
 牧場の小屋近く。焚き火で湯を沸かすと、からすは一同を集める。
 村で作ってきたばかりの饅頭はほんのりとまだ温かい。残念ながらジュースの類は手に入らなかったので、子供達には黒糖を溶かしたお茶を出す。
「いただきます〜♪」
 小屋の縁側に座った子供達は、からすが用意した饅頭をほおばった。
「はい♪ 龍ちゃんもどうぞ」
 饅頭をちぎって龍達にあげる子供もいる。主人の許可を得てから食べる龍、そうでない龍など様々だ。
「ん? からす殿と一緒に来た子が見あたらないな」
 少し遅れてやってきたレイが小屋の周囲を見回す。遊んでいる最中、金髪赤眼の男の子がいたのだが、お茶を頂いている子供の中には含まれていなかった。
「人でないような印象があったのだが‥‥。気のせいか?」
「どうした? レイ殿」
 悩んでいる様子のレイにからすが声をかける。
「あの子の正体は一体? どうも人ではない気がして‥‥。何かといわれると困るのだが」
「あれは私の娘だよ」
 驚く様子のレイに冗談だとからすは頬笑む。そして茶でもどうだと湯気の立つ湯飲みをレイに手渡した。
 その間に密かに進行していた悪戯が一つ。人魂でリスに化けた琴音が小屋の雨樋を走る。止まったところはちょうどレイが座った真上だ。
「饅頭を作ってみたのだが」
 ちらりと頭上を眺めた後で、からすはレイに饅頭も勧める。饅頭は皮の色が違う三種類が用意されていた。
「どれも美味しそうだな‥‥」
 それぞれに中身のあんこが違うと説明を受けたレイは唸った。
「どれも美味しかったが、特にこれが私の好みかな」
「そ、そうなのか」
 虚祁祀の勧めがレイをさらに悩ませてゆく。
 レイの隙を見てリスに化けた琴音は真っ赤な粉末を湯飲みにサラサラ。
「饅頭にはやはりお茶が合っ‥‥‥‥うは‥‥ずぅ‥‥なのぉだぁがああぁぁぁ!!」
 唐辛子入りの茶を飲んだレイは口から火を噴くような勢いで叫んだ。そして足をばたばたとさせながらレイは小屋の屋根を指さす。リスに化けた琴音に気づいたようだ。
「ふふ、琴音は悪戯をするそぶりを見せないからね。たまにしかやらないし」
 笑顔のからすは淹れておいた冷茶をレイに差し出すのであった。

●与五郎佐と燦爪丸
「俺はこう見えても精霊界じゃ近衛中将だったんだぞ」
「へぇ〜」
 切り株の上に座った猫又の燦爪丸は胸を反り返らせて自慢話を始める。特に女の子へのアピールは過剰気味に。
「君、前は衛門大尉って言ってなかったっけ?」
 しばらく黙って聞いていた与五郎佐だが、ここぞとばかりにやけながら燦爪丸へ突っ込んだ。
「ぎゃぁー! 余計な事言うんじゃねぇ与五郎佐!」
 燦爪丸と与五郎佐の顔を見るために子供達が何度も振り返る。
「この分じゃ明日には大納言か左大臣かな?」
「それはすごい。ご昇進された際にもどうかお言葉をお交わし頂けるよう、日々精進を続ける所存。どうかお見捨てなさらぬよう平にお願い申し上げます」
 与五郎佐に加えてからすも突っ込みに参加した。褒めちぎるというか褒め殺しである。
 最初は勢いのよかった燦爪丸だが、徐々に生気を削がれてゆく。
「そ、そうだ。こうしてはいられねぇな。ちょいと用事があったんだ。み、みんなを守る為にしょうがねぇことなんで‥‥あばよ!」
 終いにはどこかに退散する燦爪丸。とはいえ一時間後には戻ってきて、何食わぬ顔で子供達の中に混じる。
「やわらか〜い☆」
「あ、次わたしね」
 お目当ての女の子達にお膝をしてもらってご満悦な燦爪丸だ。まるで猫のように喉を鳴らして身体を丸くする。
「なはは、どうでい俺様の毛並みは。ちょっとしたもんだろ。おうおう、もそっと優しく撫でてくれよ」
 しかし楽しい時間は長く続かなかった。それは日差しが遮られたときに訪れる。
「お、おい! 突然なんだ!」
 突然持ち上げられた燦爪丸は慌てて手足をばたつかせる。
「猫もいいものだな。この柔らかさと手触りは」
「俺は猫又だ!」
 通りすがったレイが燦爪丸を膝に乗せたのである。ついには足の肉球を触られて涙目の燦爪丸だ。
「お、おい与五郎佐! こいつを何とかしろ!」
「はっはっはっ、人気者だね燦爪丸」
 レイにいじられる燦爪丸を見殺しに、もとい、微笑ましく見守る与五郎佐はからすが淹れてくれた茶をすする。
「春にはもうしばらくといった季節のはずなのに、今日は暖かいねぇ」
 与五郎佐は遠い目をして澄んだ空を見上げる。
「いや、やめてくれ〜〜!」
 その空に燦爪丸の叫び声がむなしく吸い込まれてゆくのだった。

●晩の食事
 日が暮れて子供達は村へと帰る。
 レイと開拓者達は小屋の近くで焚き火を熾し、食事にありついていた。村人が持ってきてくれた肉や野菜を入れた鍋である。
 鍋が釣り下がる焚き火を全員で囲み、椀に移して味噌で味付けした汁を頂く。
「龍で空を編隊飛行か。それは面白そうだ。我も参加してよいだろうか? 邪魔はしない。子供らの思い出になろう」
 レイは龍を連れてきた開拓者四人から空中演武についてを詳しく聞いた。話はまとまり、レイも参加する事となる。
 昼と夜の二回に分けて行われる。昼は激しい動きでの迫力ある飛行。夜はたいまつを焚いての光の軌跡を観賞してもらう。
 子供達を乗せての夜間飛行の案も上ったが、これは取りやめになった。危険についてはまず大丈夫であろうし、おそらく子供達も喜ぶはず。しかし子供達の親御の心労を考えてだ。
「レ、レイさんも参加‥‥してくれる‥のなら、とっても‥‥」
 ついに耐えきれなくなって千羽夜はレイから視線をそらす。
 真面目なレイだが、その頬には長い縦の細い傷がたくさん。どうやら日中、猫又の燦爪丸に引っかかれたようだ。真面目な言葉遣いと頬の引っ掻き傷のギャップはとてつもない。
「賑やかなのはいいですねぇ」
 与五郎佐は陽気だ。当の燦爪丸は先に休むといって、さっさと干し草の中に潜り込んでいた。実はからすからもらった鰹節をこっそりと楽しんでいたのだが。
(「私も燦爪丸を抱えてみたけど‥‥」)
 千羽夜は昼間に燦爪丸を可愛いとかまった記憶を思いだす。
 その時、駿龍の碧維に焼きもちからか髪を引っ張られてしまったのだが幸いに怪我はしていない。『こ、これはレイさんみたいな浮気じゃないわよ!?』と叫んでみたらすぐに収まったのだが。
 とにもかくにも、お腹もいっぱいになったところで就寝する一同であった。

●龍の空中演舞
 翌日の昼過ぎ。子供達だけでなく噂を聞きつけた村の人々も牧場に集まりだす。
 与五郎佐とからすは連れてきた朋友と共に牧場で待機する。龍を操る面々は大空から登場するので、牧場から少し離れたところで準備に余念がない。
 時間になったところで虚祁祀、花流、シエラ、千羽夜、レイはそれぞれの龍の背に乗る。
「編隊飛行の訓練の経験は一応ありますけど‥‥演武なんて初めてですね」
 自分の胸を触りながらドキドキしていたのはシエラ。
「疾風丸」
「グフゥ」
 花流の呼びかけに疾風丸が応える。
「私たちが演舞の軸だから、ね」
 虚祁祀は槐に話しかけながら自らの気持ちも盛り上げていった。
「最初は四匹のつもりだったけど、レイさんも参加してくれることになったの。一緒にがんばりましょ♪」
 千羽夜は碧維に声をかける。
 レイが玉紅と一緒に参加するので駿龍が三・甲龍が二の構成となっていた。
 槐の呻り声が響き渡ると一斉に龍が飛び立つ。
「では挑もうぞ」
 レイも手綱を引いて玉紅を大空に舞わせる。
「あ、来た! 龍が来たよ〜♪」
 龍の編隊に真っ先に気がついたのは一人の女の子。最初は小さかった存在が、ある瞬間から一気に迫ってくる。
 まず牧場の上空に現れたのが駿龍の三体。右翼を疾風丸、中央をパトリシア、左翼を碧維が担当し、一気に大空を駆け抜ける。
 そして甲龍が続いた。
 最初一体のみと思われた甲龍が、突然二つに分かれる。一列になって重なっていた槐と玉紅は互いに錐揉みをしながら上昇を続けた。まるで太陽に向かうかのように。
 槐が先頭を飛ぶ中、駿龍の三体が甲龍二体を囲む。やがて編隊は一列となり、五体で空に円を描いた。
 一体だけ抜け出した槐は急降下して四体が織りなす円の中心を抜けてゆく。
「やりますねぇ。燦爪丸もそう思うでしょ」
 腕を組んで空を見上げる感心しきりの与五郎佐は、太い木の枝で寝転がる燦爪丸に話しかける。
「だな」
 村人達の歓声の中、興味のない様子で燦爪丸は欠伸をする。
 その他にも空中演舞では様々な動きが披露された。
 碧維とパトリシアが真正面から衝突しようとした瞬間に交わし、反り合った刀のような軌跡を作り上げる。
「大盛況だな。子供達大歓声だ」
 お茶を振る舞っていたからすは、集まってくれた村の人々の興奮する姿を間近で見ていた。この歓声が大空で舞う仲間達に届いて欲しいと願いながら。
 疾風丸はわざと翼を広げて失速し、槐に追い抜かせる。さらに追随してわずかな間隔での曲芸に挑んだ。
 退場の際には五体全部が速度を合わせて飛ぶ。翼を固定しながら左右に揺らす姿はまるで牧場にいる人々に手を振っているようである。
「すげぇなあ‥‥」
 龍が去った後でも子供の多くはずっと空を見上げるのだった。

●お別れ
 夜にも龍五体は飛ぶ。但し、月夜であっても非常に見えにくいので、たいまつを焚いての飛行である。
 龍を操る者達はたいまつが消えてしまうのを防ぐ為にゆっくりと飛行させる。
 夜空に光の軌跡が浮かび上がる。最後には『またいつか会おう』と言葉を描いて。
 翌朝、レイと開拓者達は牧場を去る。
 その思い出は子供達の記憶に深く刻まれるのであった。


(代筆:天田洋介)