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■オープニング本文 ポツ ポツッ ポツポツッッ―― 峠を越えた辺りから雨が降り始めた。背負子を担いだ商人は近くの木の袂へ避難して、しばらくの間雨をやり過ごすことにした。 「こいつぁ、止みそうにないね」 枝葉の下から空を見上げ、嘆息混じりに呟く。 麓に下りれば小さな集落があったはずだ。そこまで一気に下りてしまおう。 山中に足止めを喰らうことを思えば、多少濡れ鼠になろうと平気の平左である。荷物の中から傘と合羽を取り出した。 「さて、と。行きますか」 被った傘を目深に下げて駆け出した。と同時に、見計らったように雨足が強くなる。 日が差し込んでいた雲間はぴたりと閉じられ、とっぷりと暮れた夕闇のような暗さに変わった。 雨と闇のせいで見通しが悪い。知らない道ではないが、山崩れを思うと恐ろしい。男は、山小屋が近くにあったことを思い出し、街道から少し道を外れて向かった。 簡素な小屋は、闇に紛れるように立っていた。小窓から灯りが見える。先客でもいるのだろうと思い、立て付けの悪い板戸を開けながら声をかけた。 「山の天気は変わりやすいって言いますが、今日のは一段と酷いですねえ」 濡れた傘と合羽を壁に立てかけておき、改めて小屋の中へ顔を向ける。 誰もいない。 囲炉裏で火が煌煌と燃え盛っているだけだった。 開いたままの破れた襖の向こうで衣擦れの音がした。 「もし」 と声をかけてみたが返事はない。男は先客が横にでもなっているのだろうと思った。それなら邪魔をしてはいかんと音も立てずに座敷へ上がり、囲炉裏の傍へ腰を下ろした。 濡れて冷えた身体を温めるように火の傍へ寄り、一息つく。 襖の奥で、のそりと起き上がる気配がした。 「休んでいたところを申し訳ありませんねぇ」 起こしてしまったかと、男は謝った。すると、 「良い所にきた。ちょうど腹が空いていた所よ」 若々しい青年の声が返ってきた。言葉遣いからサムライか志士か、と勝手な想像を巡らせながら、 「腹が空いておいででしたか。生憎、わたしの商いは着物の帯締めでして、さて、手持ちの握り飯くらいしか持ち合わせがございません」 声だけの相手に、コメツキムシのようにぺこぺこと腰を折る。 「握り飯などではどうにもなりはせん。――だが、どうしてもと言うのなら最後に喰うてやろう」 なんと厚かましい若造か。嫌な相手と雨宿りになったと、男は小さく息を漏らした。 「――どれ、炙り具合を見てみようか」 青年の声が一際大きくなり、男は襖の脇を凝視した。刹那、男の手から握り飯が落ちる。驚愕に固まった男の虹彩に、不気味な姿が映り込んでいた。 役者のように整った造作でありながら、天井まで達するほど大きな顔――。 細く整えられた眉が八の字に下がり、ニタリ、と“顔”が笑った。 男は咄嗟に土間へ飛び降り、板戸へ駆け寄る。 「!」 戸に指をかけ、後は引くだけなのに、たったそれだけのことが出来なかった。商人の真横に巨大な顔が並び、いびつに動く眼球と耳まで避けた口が異様な威圧感を与えてくる。目の細かい櫛のような歯がびっしりと生えていた。 「クケッ」 獣ですらない声を発する。 板戸は激しく揺さぶられ、内側から何度も叩かれたが、激しく降る雨の中では、どこにも、誰の耳にも――届かなかった。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
桔梗(ia0439)
18歳・男・巫
虚祁 祀(ia0870)
17歳・女・志
伊崎 紫音(ia1138)
13歳・男・サ
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓 |
■リプレイ本文 開拓者達が到着した小屋は実に簡素なもので、雨風凌ぐだけの避難施設の類に見えた。 「念の為に借りられて良かったです」 ギルドから借用してきた大工道具を木の根元に置きながら、桔梗(ia0439)が言う。同様に修繕道具を借りてきたからす(ia6525)も、並べて置いた。 「道具は多い方がいい」 九法慧介(ia2194)は持参した道具箱を差し出す。 「出来れば壊れる前に倒したいですね」 ニコリと微笑み、道具箱を受け取った伊崎紫音(ia1138)の愛らしさに、女の子? と九法が小声で訊ねた。 「ボクは男の子なのです」 いつものことだけれど、やはり間違えられるのは悲しいと思う紫音だった。 「さて‥‥。迎撃準備に取り掛かろうか」 虚祁祀(ia0870)は、紫音や九法から少し離れた木の傍で投網作成を始めた。荒縄で即席で作る網だが、かなり頑丈な仕上がりになるはずだ。最後に手頃な石を網の端へ括りつけ、重石代わりにすれば完璧である。これでアヤカシの身体をより拘束出来るというもの。 噛み付くしか能のないアヤカシの動きを封じる為に、網や縄での拘束は有利に事が運ぶ。 からすは、鏃に策を施して抜け難くした矢に縄を結んだ。 待機班の準備が進む中、アヤカシを誘き出す囮班が入り口へと集合していた。 「それじゃあ、ココからは打ち合わせ通りにいくよ」 旅を続ける兄弟の兄役、九法がピッと親指を立てた。 「‥‥ん。これで準備万端」 呼び出した式神を懐にぎゅぎゅっと押し込めると、鈴木透子(ia5664)は顔を上げた。道中で出会った行商人達から訊ねておいた小屋の間取りも完璧に頭へ入っていた。 「武器はからすさんに預けたし、間取りも覚えました。後は‥‥ボクが妹役だって事に慣れるだけ――慣れ‥‥」 「ほら、行くよ」 掴まれた手首をぐいと引っ張られ、紫音の派手な着物は、九法の「手首、細っ」という驚嘆の声と共に戸口の向こうへ消えた。 囮班が小屋へ侵入してしばらくすると、祀の網が完成した。 桔梗は荒縄を結わえた矢を二本用意しておき、いつでも射ち込めるように戸口へ向かって矢を番い、待った。 祀は網を持ち、戸口横へ移動して待機する。 「顔のアヤカシか、まったくたちの悪いやつもいたもんだな」 風雅哲心(ia0135)は言いながら、耳を欹てた。向かい合わせに立っている紫雲雅人(ia5150)が神妙な面持ちで呟く。 「逃がしたら終わりですからね。早々に、確実に仕留めましょう」 「そうだな」 「合図がくれば一気に戸を開ける。契機を逃さないよう、気を引き締めていこう」 祀の言葉に二人が大きく頷いて、同意を求めるようにからすと桔梗へ視線を向けた。 (「大丈夫です」) 彼女らもまた大きく頷いてみせた。 立て付けの悪い引き戸を後ろ手に強引に閉めると、まず紫音が口を開いた。 「透子さん、ボク、どうしても妹じゃないとダメですか?」 コショコショと透子に耳打ちする。透子は、戸口の隙間から伸びている糸を左手の指に結びながら、懐に隠しておいた人魂をこっそりと放した。 「え、無視ですか?!」 「無視してるわけじゃないわよ、あなたにはソレが一番似合っていると思ったから言っただけ」 妹役が一番似合っていると言われ、項垂れる紫音だったが、すぐに立ち直り、拳を握った。 「立派にやりきってみせるボクの姿を見て、後悔させてあげますよ!」 「なんて立派な妹なんだ! おにいちゃんはそんな紫音が大好きだぞ!」 はいはい、と透子は仮兄の九法を軽くあしらいながら土間を進んだ。さして広くない小屋の中は、すぐに囲炉裏のある座敷へ突き当たる。話に聞いていた通り、すでに何者かによって火が焚かれていた。 「姉様、ここで少し休憩していきましょう」 言いながら紫音は透子を追った。ちらりと九法を見て「べー」と舌を出す。 透子は周囲をぐるりと見渡して、 「意外に片付いているのね。外観が貧相だったからもっと汚れていると思っていたけれど。これなら休憩しても大丈夫そうね」 視界の端で鼠に姿を変えた式が、隣室へ入っていくのが見えた。座敷へはわざと上がらず、縁へ腰掛ける透子の足元へ九法が跪く。 「透子、足は痛くないか?」 そう問い掛けた後、 「さっきの鼠‥‥式だろ? 何か見えるか?」 顎先を襖へ向けて、小さな声で問う。 「暗いわね‥‥向こうには窓がないみたい。アヤカシの姿は見えないけど、気配はする」 式を通じて隣室の状況を説明する透子の表情は、固い。 「そうか‥‥」 言って九法が目を伏せる。 「でも向こうから話し掛けてくるんでしたよね。こうして待っていればいずれ」 透子の隣にちょこんと腰を下ろしている紫音が、視線を天井辺りへ這わせながら言い、梁に積もった埃をみつけると眉を顰めた。 そこへ、件の襖の向こうから声がした。聞いただけでは普通の青年の声である。 「賑やかだが、皆、連れ合いか」 三人は顔を見合わせ、九法が応じた。 「兄弟で旅をしているのですが、妹達が疲れたと言うもので休ませているところです」 「声の数から察するに三人、か」 「話し声が煩かったですか? それなら申し訳ありませんでした。すぐに失礼致しましょう」 言って三人がわざとらしく立ち上がると、声の主は慌てて引き止めにかかった。 「なに、横になっていたと言っても目は覚めていた。それよりも腹が空いてたまらないのだが」 話の通り――。囮班の顔がニヤリと不敵な微笑に染まる。 「申し訳ありません、手持ちがまったくなくて」 「なに気にすることはない。喰うものならば、そこに居るからのぅ」 ずるりと何かを引きずる音がして、襖を見遣ると大きな顔がこちらを睨めつけていた。窓から差し込む僅かな光を、白く剥き出しの歯が反射していた。 「なにこれ?」 片目を眇め、透子が思わず本音を零す。それを恐怖と捉えたのか、アヤカシはすぐにも全貌を露にし、顔をこちらへ向けた。その姿はまさに異形そのものである。 透子と九法は紫音を庇うようにアヤカシとの間へ立ち、じりじりと後退った。 「どこへ行く」 顔だけのアヤカシが一気に間合いを詰めてくる。足もないのに異様な素早さだ。浮いているのだろうか。そんなことをちらりと思いながら、三人は戸口との距離を測った。 すかさず透子が、「来ないで下さい」と言う。 「臭います、口臭が」 おおイヤだと言いたげな手振り身振りも交えて続けた。 「グギギギギッッ――!!!」 アヤカシが大きく口を開けた。獣が威嚇するような音を立て、細かい歯をカチカチと鳴らし始める。 「今だっ。一気に出るぞ!」 九法が戸口を指して叫んだ。透子は指に結わえた合図の糸を素早く引き、紫音と共に踵を返した。 ギィィィッ! アヤカシは浮遊した状態で三人へと迫る。 引き戸は賑やかな音を立てているだけでビクともしない。予定ではここで戸がからりと開き、囮の脱出を確認後‥‥追って飛び出してきたアヤカシを迎撃班が怒涛の攻撃で――攻撃で。 「嘘っ! 開かない?!」 蒼白の顔を振り向かせる紫音。 「待て待て、そう焦ンじゃねえよ。絶対向こうが開けてくれっから!」 言いつつも、九法は小屋内での戦闘も已む無しと覚悟を決め、防盾術を詠唱した。手には護身用の短刀を握り締め、アヤカシと向かい合う。醜悪な顔は目の前だ。 「買っててよかった、か、ぼ、す! えいっ、これでもくらいなさい!!」 透子は、青々としたかぼすをアヤカシの鼻面の前でぎゅっと指で押し潰した。火事場のクソ力発動。小柄な少女とも思えない怪力により青い果実はぐしゃりと潰れ、果汁が勢い良く噴出する。 強烈な酸味にアヤカシが怯んだところで戸口が無事に開き、三人は雪崩れ込むように脱出したのだった。 その直後である。背後から、ドォォォンッという轟音がした。それは何度も続き、振り返ってみると、恐ろしい形相のアヤカシが戸口へ体当たりしていた。 「壊れる!」 誰かが叫んだ。と同時に木戸は吹っ飛び、土壁は剥がれ、粉塵と埃が辺り一面に舞い上がった。 戸口の真横で待機していた祀は後ろへ飛び退き、紫雲も埃が舞わない場所へと急いで避難した。視界が利かない場所では相当に不利である。 白煙の中、うっすらと浮かぶ異形の影。その姿を確認するや、捕縛開始である。 祀の投網が投げかけられ、黒い影をすっぽりと覆った。 グゲェェェッ 網から逃れようと左右に躯を振るアヤカシ。構わず二投目。青白い光を帯びた桔梗の矢は白煙の中へ吸い込まれていく。地面が二度三度と縦に揺れた。矢が命中した朧車が暴れているのだ。矢と繋がっている荒縄を木へと括り付けに桔梗が走る。 ぴんと張った縄の反動で桔梗の身体が一瞬浮いた。 「うわァ!」 吹き飛ばされ、地面を転がった。 眦を攣らせて祀が射撃を開始する。横踏で距離を取っていたおかげでアヤカシの暴走の影響はない。 間髪入れず、紫雲が迎撃班を支援する。空へ逃げられては厄介な相手であるから、早期に決着をつけたい。 迎撃班、囮班入り混じっての総攻撃が始まった。 「そのでかい面、斬らせてもらうぜ」 哲心が叫び、真正面から斬撃を見舞う。振り下ろした阿見の刀身へ巻きつきながら白煙が切れていく。 埃と黴の臭いに顔を顰めつつ、哲心は一旦飛び退った。 全身を、というか顔全体を捩じらせても解けない拘束に苛立ち出したアヤカシは、縄を噛み切ろうと歯を立て始めた。合間に歯を剥いて威嚇してくる。 武器を囮班へ戻し終えたからすが、矢を番えた。 「上へは向かわせません!」 攻撃、威嚇両方の意味を込めて矢を射ち込んだ先はアヤカシの額。見事に射抜かれた朧車は黒い瘴気を垂れ流しながら歯を剥いてくる。 駆け出す影は九法だった。手にした珠刀を斬り上げて叫ぶ。 「炎魂縛符っ」 刀身を赤く燃え上がらせて、アヤカシへと斬りかかった。半身捻り、すばやく射ち込んだ一閃はアヤカシを芯から捉えた。 「絶対に逃がしません!」 続く紫音の打突はアヤカシの片目を潰した。苦痛からか暴走が一層激しくなる。 アヤカシの動きがふいに変わった。己を攻め立てる開拓者へ威嚇するのを止め、上へと浮上を始めた。逃げるが勝ちというつもりだろうが、開拓者がそれを許すはずもない。 「俺のような者の力でも役に立てれば」 桔梗らしい前置きの後、神楽舞が詠唱され、前線で刀を振るう仲間に力が加わる。謙虚な言葉とは裏腹に、闘志を宿した双眸は未だ逃走を図るアヤカシへ向けられていた。 やや動きが鈍くなった朧車に、記録を生業とする紫雲が静かに終焉の始まりを告げる。 「逃がすわけには‥‥いかないのでね」 刹那、アヤカシの身体が捩れ上がり、それに乗じて哲心が斬撃を繰り出した。 とうに晴れた粉塵の中で、だらだらと瘴気を垂れ流す朧車はそれでも逃げることを諦めていなかった。ガチガチと網を噛みながら、何度も上空へ飛ぼうと試みる。 「呪縛符」 透子がアヤカシを縛り、動きを阻害しているその隙をついて、からすが射掛ける。顔中に矢を刺し貫いたまま、しぶとく蠢く朧車へと紫音が斬り込んだ。 「ボクは男の子なのです!」 見事な跳躍で飛び掛り、長脇差を深々とアヤカシへ突き立てた。 ゲェェェェッ‥‥! 役者のような、と形容されていた朧車の顔は見る影もなく、今はただの異形のモノ。 「そろそろ一気に決めるか。星竜の牙、その身に刻め! 我流奥義・星竜光牙斬!!」 哲心が叫び、青く光る斬撃を放った。 畳み掛けるように総攻撃をかける開拓者達へ、朧車が最期の足掻きを見せた。瀕死とは思えない素早さで網ごと向かってくる。 「斬撃符ッ」 透子の符が朧の周りを取り囲み、切り刻んだ。 朧車の断末魔の叫びはすさまじく、衝撃波となって開拓者を飲み込んだ。 後にはドロリとした黒い染みと、網だけが残されていた。 「紫音ちゃん」 九法がからかうように紫音を呼んだ。ぷうっと膨れた顔で振り返った伊崎少年に、 「小屋の修繕なんてぇ、力仕事は男の子の仕事だねぇ。腕の見せ所だねぇ」 くふふと含み笑いで言う。 「! そうですね。せめて雨風くらいは凌げる様にしないとですね。その為の力仕事ですから、ボク、張りきっていきますよ!」 「そういう所が妹役に適任だと思ったわけよね」 と通りすがりに呟いたのは透子だった。手には線香が握られている。犠牲者の冥福を祈りに向かう所だ。 修繕に汗を流す仲間から少し離れた場所で、遺物を並べているのは桔梗だった。遺族の元に届けられる物があればと、小屋の中からめぼしい物を持ち出したのだ。残念ながらそのほとんどが不明の物ばかりで、供養するほかなかった。 「あ‥‥。透子が確か供養するって言ってた」 遺物を纏めると、透子の後を追った。 「うーん」 派手に壊れた戸口を前に唸っている祀。 「さすがに土壁の修繕は無理よね」 どうしたものかと頭を悩ませていると、紫雲が村人を連れてやって来た。 「アヤカシ退治終了の号外を置かせてもらいにひとっ走り行ってきたら、事情を聞かれましてね。小屋の現状を話しましたら手伝ってくれると言ってくださったので」 時に筆は剣よりも役に立つ。 途方に暮れていた祀の顔にも安堵の笑みが浮かんだ。 「この小屋が使われなくなるのも寂しいですからね。小屋に罪は無いですし」 ぽつりと呟いて、さて、と手帳を取り出した。 「今回の戦術の利点、反省点と‥‥朧車‥‥顔だけのアヤカシの生態、と」 筆の先をぺろりと舐めて記し始めた。 村人も加え、八人全員で修繕作業を行ったが存外に時間を食った。 終わった頃には日は沈み、月が昇っていた。 「酒は無いがお茶を用意した。静かになった山で月見でもしよう」 頬に煤を付けたからすが言う。手際よく揃えられた茶席は、簡易ながらちょっとした茶会のようである。 廃材を燃やし、明かりと暖の両方を取りながら月を仰ぐ。 「今度はアヤカシなんぞの住処にならなきゃいいな」 ふぅっと息を吹きかけ、湯気を飛ばす哲心が言った。ちらりと見た山小屋が清清しく感じられるのは、土壁が新しく塗り替えられたせいだけではないと思う。 張り詰めた山の霊気を身に感じながら、瘴気はやはりあってはならないものなのだと改めて思う開拓者達だった。 |