【聖夜】おつかい。
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/15 02:03



■オープニング本文

 クリスマス、という習慣がある。
 遠くジルベリアで大昔に発生した土着の習慣で、この時期になると『サンタクロース』なる者が子供達に贈り物を届けるらしいのだが、所詮は御伽噺の類である――と人間達は思っている。

●クリスマス
 ジルベリア由来のこの祭りは冬至の季節に行われ、元々は神教会が主体の精霊へ祈りを奉げる祭りだった。
 とはいえ、そんなお祭りも今では様変わりし、神教会の信者以外も広く関わるもっと大衆的な祭典となっている。
 何でも「さんたくろうす」なる老人が良い子のところにお土産を持ってきてくれるであるとか、何故か恋人と過ごすものと相場が決まっているだとか‥‥今となってはその理由も定かではない。
 それでも、小さな子供たちにとっては、クリスマスもサンタクロースの存在も既に当たり前のものだ。
 薄暗がりの中、暖炉にはちろちろと炎が燃えている。
 円卓を囲んだ数名の人影が、深刻な面持ちで顔を見合わせていた。
「‥‥やはり限界だな」
「今年は特に人手不足だ、止むを得まい」
 暖炉を背にした白髪の老人が、大きく頷いた。

●さんたのおつかい
 北面。七宝院邸。
 地位はないが財力はある傍流の名家は冬の寒さとは無縁である。燗々と焚かれる火鉢で火照った身体を冷やそうと、縁側へ出た猫又のちくわは、この時期ならではの精霊に出くわした。
「‥‥三太か」
「そういうお前様は猫又の‥‥悪いが儂は三太兄ィやおへん、弟の九郎や」
 九郎と名乗った老人は、赤い服を纏い白い髭をふさふさと蓄えていた。

 サンタクロース――と、人間達であればそう呼ぶであろう。
 九郎は『御伽噺』を信じている人間達の許に現れる。尤も、あくまで『御伽噺』であるから、人間達の記憶には残らない。記憶は適当に改竄され、人々は贈り物の主を身近な人だと思うのだ。
「まァな、儂らは小さい子ォらが喜んでくれたらそれでええねん。嬉しそォな顔してプレゼント抱えてンの見たらたまらんでェ?」
 九郎は黄色い歯を剥いて笑った。爺ィの笑顔はあまり気持ちの良いものではない。
 ちくわは九郎に三太はどうしたと尋ねた。何でも、ちくわの知己は頑張り過ぎてぎっくり腰になったとかで、九郎が三郎の担当分までやっているのだとか。
「せやけど儂かてか弱い爺ィやろ? 二人分の仕事はさすがにきついねんわ。お前様、手伝ってくれへんやろか?」
 ここで会ったも何かの縁と、九郎はちくわに応援を要請し、懐から手帳を取り出すと、さらさらとペンを走らせページを破った。続いて懐から財布を取り出してこう言った。
「ほれ、これが届け先なー行く前に神楽の万商店寄って、クリスマスプディングを買ってくの忘れたらアカンでェ?」
 妙に具体的なお使いを頼まれた。
 お代だと渡された金子を前脚で弄びながら、ちくわは微妙な表情で九郎を見た。
「なンや? 余ったカネはお駄賃にしてええで」
「いや、そういう事ではないのだが‥‥」

 とりあえず神楽へ行くか。港へ行けば手伝ってくれる者も見つかるだろう。
 立ち去る九郎を見送って、ちくわは微かに髭を振るわせた。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
海月弥生(ia5351
27歳・女・弓
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
アーニー・フェイト(ib5822
15歳・女・シ


■リプレイ本文

 訪れたちくわから、港に繋留されていた開拓者達の朋友達は仔細を聞いた。

●プレゼントを買いに
 心なしヒゲが下がっているちくわに駿龍が頚を傾け、気の毒そうに低く唸った。
『ぎゃーぎゃぎゃぎゃーぎゃー』
 輝夜(ia1150)の駿龍、輝龍夜桜(駿龍)は同情して――これでは逐一翻訳が必要なので、以下の報告書では人語で記す――言った。
「精霊の世界というのもなかなかに大変なようだな」
「だからと言って我らに押し付けるのは如何なものか」
 輝龍夜桜は九郎に同情的だが、ちくわは未だ釈然としない様子だ。
 二匹の遣り取りを聞いていた鈴梅雛(ia0116)のもふら・長老様が大きな身体を更に大きく膨らませた。どうやら伸びをしたらしい。
「たまには働いて、人の役に立つもふ」
 落ち着いた佇まいで堂々として見える長老様だが、もふらさまの御多分に漏れぬのんびり屋で怠けものだったりする。長老様が働くというのは本当に珍しい事なのか、厩舎のもふら達がもふもふ騒いでいる。
「運ぶのは任せるもふ。荷物運びは大得意もふよ」
 そう言って、長老様は厩舎でもふもふ騒いでいた同胞達と一緒に荷台調達に動き出す。
 長老様達と入れ違いに、ちくわの許へは港に居合わせた朋友達が何事かと集まって来た。
 小柄なちくわより更に小さな人は、真亡・雫(ia0432)の刻無。
「人間の皆、こういうお祭りみたいなイベント好きだよね‥‥僕も好き」
 座った猫又と然して変わらぬ身の丈の人妖からは表情の変化は判り辛かったけれど、クリスマスのおつかいには興味津々のようで、喜んで手伝うよと協力を約束し、緋那岐(ib5664)の忍犬・疾風は期待に尻尾をちぎれんばかりに振っている。
(これがかの有名な、はじめてのおつかい‥‥!)
 迷子になったり、お釣りを貰い忘れたり、道中でケンカもするけれど、最後は『がんばったね』って褒めてもらえる、はじめてのおつかい!
 もしかすると後ろからサンタクロースが付いて来ているかもしれないし、心してかからねばと疾風は張り切っている。
 そんな疾風の横でちょっぴり斜に構えている猫又は、アーニー・フェイト(ib5822)のベールィ。ジルベリア出身の猫又である。
(クリスマスはジルベリアの風習であると認識していたが、天儀にまで伝わっているとはな)
 ジルベリアと天儀の交流が始まってまだ三十年ばかり、天儀に精霊が生まれるほど浸透している事に不思議な感慨を覚える。異儀へ来ているように感じていたが、意外と二つの儀は近しくなっているのかもしれない。
(‥‥ふむ。知己を増やすのに良い機会であるな)
「我輩も協力させて貰おう」
 文化の融合の如く自身も天儀に住まう者達と近しくならん。
 主であるモハメド・アルハムディ(ib1210)と共に、独自の信仰と文化・言語を持つ氏族から天儀にやって来たムアウィヌンは、口数少ない駿龍である。ちくわと輝龍夜桜の会話にも多くを語りはせず、相槌を打っている。会話の意味は理解しているようだが、話すのは得意ではないようだ。
 ともあれムアウィヌンに反対の意思はなく、寧ろ積極的に手伝いたい様子だ。もし言葉を発したなら主と同様の事を言っただろう、『人助けは喜捨』なのだと。
 甲龍が穏やかに言った。
「気持ちを届けにいきましょうか」
 母性が龍の形を成せばこのようになろうかという、落ち着きと安らぎを周囲に齎している、慈愛溢れる声音の甲龍は犬神・彼方(ia0218)の黒狗だ。
 黒狗は、はしゃぐ疾風を優しく宥めながら続けた。
「聖夜に夢見る子供達へ‥‥そして、私の大切な娘へ」

 開拓者の朋友達は、九郎の指示通りクリスマスプディングを買いに万商店へと向かった。
 大柄な者達が店内に入ると、あれこれ倒して大変だ。
「雛の分も、買ってきて欲しいもふ」
 長老様は大人しく伏せをして万商店前で待機の姿勢。龍達や疾風も此処では待機。黒狗や疾風の注文は、刻無がしっかりメモを取っている。
「ムアウィヌン、君は?」
 静かに待機しているムアウィヌンにも、何か主が喜ぶ事をしたいという想いはある。刻無に促され、暫く考えたムアウィヌンは何かを頼んだようだった。
「そんなら、おらぁは玩具を仕入れてくるでな」
 丈夫で精密、遊び心満載の、あの工房のカラクリ細工ならば贈られた子供達も喜ぶに違いない。
 海月弥生(ia5351)の土偶ゴーレム・縁は担当分の資金を手に、弥生が日頃世話になっている工房へ向かうべく姿を消した。

 万商店は武器防具から雑貨類に至るまで様々取り揃えてある開拓者ご用達の店である。売り子の暁は滅多に依頼に出はしないが開拓者であり――つまりは朋友が相手でも然して驚かずに接客してくれる相手だ。
「あれ、みんなこんな時間にどうしたの?」
 深夜の訪問者――しかも朋友集団――を、暁は笑顔で迎え入れた。
(プレシアは今頃爆睡中でしょうか‥‥)
 仕事の後の御飯を美味しく食べて、ふるもっきゅで満足して、きっと今頃は夢の中だろう――と、獣人である暁のもふ耳を見た人妖のフレイヤはつい主のプレシア・ベルティーニ(ib3541)を思い出したりして。
 ルオウ(ia2445)の猫又の雪(本名はズィルバー・ヴィントというらしい)が淑やかに前へ進み出て、言った。
「ええと‥‥少々買い物を頼まれまして」
「開拓者さんから?」
 暁の問いは売り子の本能というか、ただの応対反応だったのだけれど。
 皆はどきりとした。サンタクロースの手伝いだなどとは言ってはいけない。
 雪は慌てた素振りも見せず、落ち着き払って頷いた。
「ええ、まさに猫の手を借りたい、とか‥‥失礼ですわよね?」
 困ったように白い艶毛を揺らす。腹は立つものの主の命は絶対、買って帰らねば機嫌を損ねるのだと販売を請うた。
「朋友さん達も大変だね〜」
 そこはそれ、日頃から個性豊かな開拓者達と接している暁である。特にいぶかしむ事もなく、快くクリスマスプディングを出してくれた。
「あとは‥‥」
 メモを読み上げる刻無の横で、迷っているフレイヤ。
(ついでにプレシアにも何か‥‥やっぱりふわもこしたものかしら)
 きょろりと見渡して、暖かそうな帽子を見つけたが元気娘が落っことす様子まで想像できてしまったので棚に戻す。手触りを確かめながら品定めして行って――どうやら眼鏡に適った贈り物が見つかったようだ。
「このふわもこマフラーを、プレゼント包装してくださいな」
 如何に落ち着きなく動き回ろうとマフラーなら失くすまい。ふわり柔らかなプレシアの耳とお揃いのような贈り物を見つけて、フレイヤは満足気に微笑んだ。

 一方、馴染みの工房へ向かった縁はというと。
「おや、姉ちゃんのお使いかい?」
 縁の姿を認めた工房の職人が声を掛けてきたが、縁は曖昧に首を左右に回すと、弥生に内緒で探し物があるのだと言った。サンタクロースの話も秘密だし、この際本命の用事も一緒に済ませよう。
「姉ちゃんには内緒か‥‥隠し事なんて珍しいな」
「おらぁ、ご主人に修理道具一式贈りたくて、へそくり貯めてただよ」
 ごそごそと素焼きの身体から唐草模様のがま口財布を取り出して「足りると思うけんど」職人に金子を示せば、職員はほろりと涙ぐんだ。
「縁よぉ‥‥お前本当にイイ奴だなぁ‥‥」
 感激した職人は、縁が指定した修理道具一式を徹底的に研ぎ上げた。元々高級な道具類は、ワンランク上の超高級道具に進化した!
「ご店主も、ありがとさんなぁ。そんであともうひとつ用事があるけんど‥‥」
 縁は子供向けの贈り物を探しているのだと言って予算を提示、職人と一緒にあれがいいこれはどうだと職人自慢のカラクリ道具を選び始めた。

 ――やがて。
 贈り物の数々を抱えて再び集まった朋友達は、一夜限りのサンタクロースに変わった。

●一夜限りのサンタクロース
 鈴の音も軽やかに、橇が空を駆ける。
 曳いているのは輝龍夜桜だ。駿龍の曳く橇は夜空に美しい弧を描いた。
「あれは輝桜? ‥‥いや、まさかの」
 地上で焼ネギ屋の屋台を営んでいた輝夜が空を見上げた。輝龍夜桜は港に繋留しているはずだ、勝手に飛翔していようはずがない――とは思うものの、輝桜に付けてやった首輪の鈴が鳴っているような気がして、ついつい夜空を眺めてしまう。
 冬の寒さで澄み切った夜空は気持ちよく晴れ渡り、何故かうっすらと桜が咲いたような光景を人々に感じさせた。
 今夜は特別な日。何か奇跡があっても不思議はない。
 夜空を見上げた人々が、いつもより優しい気持ちに満たされた事を、当の朋友達は気付いていただろうか。

 輝夜が仕事に勤しんでいる頃、輝桜こと輝龍夜桜はご機嫌で空を翔んでいた。
『ぎゃーぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ〜♪』
 クリスマスに相応しい楽しげな歌を、鈴に合わせて歌っている。駿龍が駆けた後は薄桃色の軌跡を描き、地上へと降りてゆく。
「輝桜さん、もう少しゆっくり翔んでくださいな!」
 振り落とされそうになるのを荷ごと必死にしがみ付き、雪が叫ぶ。
 時々捉え損ねた荷が宙を舞い何処かの家へ降って行ったが、きっとその家にも子供がいるのだと思う事にしよう。何せこれは精霊のおつかい、偶然もまた精霊の導きであろうという事で。
「輝桜さん、張り切っていらっしゃいますね」
 地上近くを飛行している黒狗がふふりと微笑った。あれでは騎龍している雪は大変ですねとくすりと笑い、背に乗る縁に大丈夫ですかと問うた。
「おらぁ大丈夫だよ。黒狗さぁ大丈夫けぇ?」
 縁に加えて玩具が色々、重くはないかと気になって尋ねたが黒狗は平気ですよと翼を羽ばたかせる。急上昇して縁は慌てて黒狗の背に掴まった。

 地上では、狭い路地でひと騒動。長老様が詰まった。
「む。こういう時は体が大きいと不便もふ」
 後ろからムアウィヌンが引っ張って何とか抜け出した長老様は小柄な配達員達に後を託す。
「家の中へは頼むもふ」
「任せられよ。我輩が責任を持って届け‥‥これ疾風殿待たれい!」
 ベールィと贈り物を残して疾風は弾丸のようにすっ飛んで行き、忘れ物に気付いて戻って来た。
「おお済まん。勇み足だったな」
 使命感に燃える忍犬は贈り物の包みを咥えると、再びすっ飛んでいった。やれやれとベールィも後を追う。
 二匹が訪れたのは荒れ寺の境内。ここに住んでいる者がいる事は九郎のメモで知っている。
「ベールィ、どうした?」
「うん? 鍵が掛からぬとは無用心なと思うてな‥‥仕事がし易いのは助かるものではあるが」
 ジルベリアの家屋には扉に鍵が掛かるのだとベールィ。尤も二匹が訪れた場所は親を亡くした子達が寄り添って生活している場所だったから、貴族の屋敷にでも行けば鍵にもお目にかかれるかもしれぬ。
 疾風は眠っている女の子の汚れた頬をそっと舐めて、傍らに人形を置いた。ベールィも別の子の側へ独楽を置いて、神妙な口調で言った。
「‥‥親亡くせども世に捻くれず、真っ直ぐに生きるのだぞ」
 脳裏には目の離せぬ馬鹿娘の顔が浮かんでいたのかもしれない。
 開拓者となる事を条件に免罪された己が相棒の少女、天涯孤独のアーニー。彼女は偶々志体持ちだったから道も開けたけれど、志体持たぬこの子らに世間の風は厳しかろう。
 だが、素直に生きて欲しい。そう願わずにはいられなかった。
 別の長屋ではフレイヤが人間に見つかった!
「あっ、こら、しっぽも耳も飾りじゃないから!ひ、引っ張らないでっ」
 あわあわ、わたわたと振り切って一目散に逃げてゆく。背中で、贈り物を見つけた子供達の歓声が聞こえた。
「‥‥全く、容赦ないわね‥‥」
 そうは言ってもフレイヤの声には喜びが滲んでいる。小さな同胞の帰還を迎えたムアウィヌンは、自身もまた人助けに加わっている事に喜びを感じていた。
「えっと‥‥この地区はこれで全部かな?」
 九郎メモに墨を入れて残りを確認した刻無の頭には赤い帽子。何となく被った方が良いような気がしたのだと、刻無は首を傾げた。
「めりーくりすますっ、って言うのが合言葉だよね。多分‥‥」
 まだまだ頑張ろう。あと少し、夜明けまでには配り終えなければ。

●みんな誰かのサンタクロース
 一仕事終えて――
 新しい陽がまだ顔を出さぬ内に、皆は港に戻って来ていた。

「おゥ、お疲れさんなァ」
 何処からともなく何時の間にか姿を現していたサンタクロースの九郎は、もっさり蓄えられた白い髭の上からでも判るような、おやという顔をした。
「お前様ら、クリスマスプディングはどないしてん」
「クリスマスプディングなら九郎さんと三太さんの分以外は配ったよ」
 子供達へのプレゼントだったのでしょう、と皆。
 九郎は苦笑して言った。
「いや‥‥お前様らの主はんらに思ゥて買うてけ言うてんけどなァ‥‥」
 全部配ってしまうとはと九郎が困ったような嬉しそうな様子で指を鳴らすと、港にクリスマスプディングの包みがいくつか現れた。
「お土産や、持って帰り」
 せっかくなので皆で分ける事にした。主が食いしん坊だというフレイヤや雪、長老様は一個余分に分けて貰う。
 お土産だけでなく、皆は相棒達へのお土産を用意していた。へそくりを貯めて入手した縁や、新しい煙管をと買い求めた黒狗、寒さ対策に毛布を選んだムアウィヌン、ベールィとフレイヤはマフラーを。
 皆がそれぞれに思う所あって選んだ贈り物は、きっと喜ばれるに違いない。
 これからもうひと仕事、残っている。一番大事な大仕事。大切な相棒に、眠っている相棒の枕元に選んだ贈り物をそっと置くのだ。
 九郎を見送った朋友達は、とても疲れてはいたけれど心地良い気持ちで各々の住処に戻って行った。

 ここからは各自の家での出来事になる。
 フレイヤは寝相の悪いプレシアに毛布を掛けなおしてやって、ベールィは橋の下で眠るアーニーが風邪をひかないようにマフラーを巻いてやり、縁はカラクリ作業で疲れた弥生が熟睡しているのに安心し。
 それぞれがそれぞれの大切な人の枕元に贈り物を残す。
 疾風は緋那岐と妹君に贈り物。もふらさま好きの妹君とは正反対に緋那岐はもふらさまが苦手だから、違うものをと紅白饅頭を選んだ――のだが。石鏡で人気の紅白饅頭にはもふらの焼印が押してあり。翌朝緋那岐が卒倒したのは、また別の話。
 刻無は翌朝の雫の反応を楽しみにしながら枕元に置いた。
(マスター、驚くかな‥‥?)
 きっと雫は喜んでくれるに違いない。刻無が置いたものだと気付いてはいても、知らぬ顔して嬉しそうに喜んでくれるだろう。

 一家に戻った黒狗は、そっと彼方の私室に向かった。
(‥‥お疲れ様です)
 普段から仕事に宴会にと忙しい彼方は年末ともなれば尚更で、ぐっすりと眠っている。愛用の煙管にヒビが入ってしまったと聞いたのは先日の事、喜んで貰いたい想いで新しい煙管を求めた。
 赤柄に金の雁首は壊れた煙管に近いものを選んだ。喜んでくれるかしらと枕元の煙草盆に載せる。
 また私の背に乗って散歩に行きましょう、と黒狗は娘の寝顔を覗き込んだ。
(愛していますよ、彼方‥‥同じ紋を刻む、大切な私の娘‥‥)