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■オープニング本文 天儀に於いて最も豊かな国、石鏡。 この地に暮らす人々は、国の中央に位置する三位湖の恵みと、国内各地の牧場でお世話をされているもふらさまの加護を受けて、心豊かな生活を送っている――と聞く。 その石鏡で、数年に一度の大祭が開催されようとしていた。 ●安須大祭 神楽・開拓者ギルド。 「石鏡でお祭りがあるんですよね〜!」 受付台に身を乗り出して、梨佳(iz0052)はわくわくと声を弾ませた。 あら梨佳ちゃん行きたいのと、書類を整理していた職員は一旦手を止めて梨佳の顔を見る。こくこくと頷くお気楽見習い職員もどきに声を掛けようとした女性職員より早く、笑みを含んだ意地悪な言葉が飛んできた。 「おう、行って来いや」 「梨佳がおらずとも、ギルドは困りませんからね」 不精者と几帳面、対照的な二人の男性職員の声に、素直過ぎる一般人少女の頬が膨らんだ。 まあまあと取り成して、女性職員は「寂しいけど行ってらっしゃい」梨佳の頬をつつくと、ぷすぅと頬をへこませた梨佳に募集掲示を頼んで、ちょちょいと文面を指差した。 『安須大祭:もふら行列参加者募集』 ●もふら行列 「何ですか?この『もふら行列』って」 「もふらさまの格好をして練り歩くんですって」 「神楽でも最近やってるだろ、菓子寄越せェってな奴」 「ジルベリア土着の伝統を基に、商人達が流行らせている行事ですね」 口々に説明する職員達の話を総合すると、異儀のお祭り騒ぎを天儀風にしたものらしい。 遠く離れた儀、ジルベリアには秋の収穫祭の折に仮装する行事があるらしい。子供達がお化けや妖精に扮装し、菓子を求めて練り歩くこの行事は、古く土着の神を祭るものに由来する為、現国主・カラドルフ大帝のお膝元では大々的には行われていないものだ。 しかし一部の商人達は他儀土着の習慣すら抜け目無く利用して、神楽なりの催しに仕立て上げた。それが『もふら行列』子供達が、もふらさまの扮装で街を練り歩くものだそうだ。 さて、今回の催しに話を戻そう。 石鏡の商業都市・陽天では安須大祭にあたり数多くの出店が予定されているのだが、とある通りで大祭の前座に『もふら行列』を企画している――というのが、今回の募集だ。 「基本は、子供達が『まるごともふら』を着て通りを練り歩き、大人達は菓子を用意して待っているようです」 祭りで賑わう通りにはいくつかの屋台が並んでいる。もふら姿の子供達が屋台の前で『お菓子くれなきゃイタズラするもふー!』と叫ぶと、店主が子供達の籠に少しずつ菓子を入れてくれるという仕組みである。 ただし、通りの屋台は普通に商売しているだけの屋台もある。そう言った屋台に声を掛けるのは、双方にとって不幸でしかない。 「えーっと‥‥呼んでいい屋台には、もふらさまの毛でできたしっぽが飾ってあるんですね?」 「そうそう、だから関係ない屋台をイタズラしては駄目よ?」 はぁいと返事して、梨佳は「子供って幾つまででしょー」首を傾げた。 飲酒喫煙できない年齢は間違いなく子供として‥‥あたしは子供組ですねと嬉しそうな梨佳に職員の茶々が入る。 「気持ちが子供なら、もふらでいいんじゃねェか?尤も、梨佳は中身も子供だがな」 「子供でいいですもんっ!」 挑発すればすぐに乗る、単純明快なお子様を窘めて、歳若い職員は挑発した先輩職員を意味ありげに見た。 「それを言うなら目の前に――」 「‥‥何だよ」 大きなお子様は後輩達の視線を浴びて、誤魔化すようにわしわし頭を掻いた。 |
■参加者一覧 / 桔梗(ia0439) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 玖堂 羽郁(ia0862) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 喪越(ia1670) / 劉 厳靖(ia2423) / 由他郎(ia5334) / ペケ(ia5365) / すぐり(ia5374) / 紗々良(ia5542) / からす(ia6525) / 神咲 輪(ia8063) / 和奏(ia8807) / 守紗 刄久郎(ia9521) / エルディン・バウアー(ib0066) / 明王院 未楡(ib0349) / ラムセス(ib0417) / 不破 颯(ib0495) / 燕 一華(ib0718) / 琉宇(ib1119) / ケロリーナ(ib2037) |
■リプレイ本文 ●まるもふ大集合 賑やかに祭りの装飾を施した陽天の某通りでは、もこもこした集団が固まっていた。 石鏡の安須大祭はもふらさまのお祭り、ここにも大勢のもふらさまが――ではなくて、ここに集っているのは着ぐるみで、まるごともふらを着込んだ人間達。 通りの入口にあたる場所に設置された『まるごともふら貸出所』と書かれた仮設小屋では、大小様々な俄かもふらが誕生していた。 「何と、大人サイズのまるごともふらも用意してあるのですね」 長身で成人の神父様、エルディン・バウアー(ib0066)は持参のまるごともふらとほぼ同じ大きさのものが用意されている事に驚いた。本当に、心が子供でさえあれば参加に制限はないらしい。 ‥‥と、会場内から愛を叫ぶ声が。 「もふもふだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」 テンションMAX、この場の誰よりも巨体もふらが似合う男、守紗刄久郎(ia9521)の雄叫びだ! 貸し出し用のまるごともふらを数着まとめて抱き締めて、感極まった叫びを上げている。この男、もふら好きのお祭り好き。安須大祭は彼のような男の為にあるようなものだった。 「ガキ共が順番待ってるぜ?」 こらこらと、既にまるもふ着用完了の大もふらが白い前脚で突っ込んだ。裏拳でもふっと突っ込んだの主は不破颯(ib0495)、へらりと笑って赤鬣をふわりと揺らすと、刄久郎が抱えていたまるごともふらと菓子籠を交換して子供達に配ってやった。 「何だい、南瓜の形のソレは?」 颯が持っている南瓜型の菓子籠を指して尋ねると「はろうぃんって奴だね〜♪」のほほんと返ってきた解説によると、元になった伝統では南瓜はお約束なのだとか。 「ん‥‥これにする」 桔梗(ia0439)は、石鏡の恵みの象徴でもある三位湖周辺の色合いをイメージしたという、蒼の体色に翡翠色の鬣のまるもふを受け取った。神楽に置いてきた仔に似た黒毛白鬣のまるごともふらと迷ったものの、安須大祭記念色と言われては着てみない手はない。 「桔梗が!桔梗がかわいい!」 きゅんきゅんしている神咲輪(ia8063)は雪白もふら。 茶色い体毛のまるごともふらを選んで、琉宇(ib1119)は考える。 (「このまるごともふら、おそうじに使えないかな‥‥」) もふら行列の悪戯なのか、彼特有の冗談のつもりなのか、真面目に活用法を考えているのか――さて。 通りのあちこちから、もふもふ主張する声が聞こえてくる。まるごともふらを着こんで屋台を巡る、もふら役達だ。 「お菓子くれなきゃイタズラするもふー!」 基本の合言葉でお菓子をおねだりしているのは梨佳だ。屋台ではなく、箱盆を肩掛けにした花林糖売りが赤い尻尾を腰に付けているのを見つけて声を掛けると、すぐり(ia5374)だった。 梨佳に手を引かれたラムセス(ib0417)は淡茶のまるもふを着て、同じ色のもふら・らいよん丸を抱えている。双子もふら達も一緒に合言葉を―― 「いたずらしないからおやつが欲しいもふ〜」 「もふ〜」 練習したのに間違えた!? 本音ダダ漏れでお菓子をねだる双子である。 「はいはい、順番に渡すさかい、慌てんで‥‥」 「ありがとです〜」 「そういや、もふら行列ってんだっけなぁ‥‥」 くすくす笑いながら、すぐりが花林糖を入れた紙袋を持たせてやると、隣を歩いていた劉厳靖(ia2423)も手籠から飴を取り出して、もふら達に配ってやった。 「そいや、お前さんも要るか?」 ニヤニヤしながら「もふーって言ってみろ」と言う厳靖に、すぐりは膨れて言った。 「‥‥やから、うち、子供ちゃうてっ!」 もふら役で参加した開拓者達は皆個性的な合言葉で楽しんでいる。例えば、燕一華(ib0718)は。 「お菓子を頂ければ悪戯しちゃうもふ、ですっ♪」 「お菓子と引き換えに悪戯ですかっ!?‥‥もふ?」 薄緑の一華もふらは梨佳もふらにえへへと笑って、本業(!)で頑張っていた喪越(ia1670)に「びっくりさせてごめんなさいっ」ぴょこりとお辞儀した。 何故なら、一華の『悪戯』は屋台の人寄せ口上なのだ。 「カツアゲの上に暴行事件勃発かとガクブルしたZe?」 テキ屋の兄さん、そんな冗談を言いながらカルメ焼きを売り始めた。側で一華もふらが人を呼ぶ。 順調な売れ行きに気を良くしたか生来の面白がりな性分か――調子付いた喪越、大きな丸鍋でカルメ焼きを作り始めた。 「さあガキンチョ共よ、好きなだけ持っていくが良い、フハハハハー!!」 何処の悪役だ。 鍋から上がる煙を纏い、黒い笑いを響かせた喪越の迫力に怯えるちびもふら達。あわやのマジ泣き寸前の所を、一華もふらが演舞乱入、巨大カルメ焼きをちびもふらに分けてやって一件落着。 もこもこ集まっているちびもふら達に混じって、颯もふらは南瓜手提げにカルメ焼きを入れて、殊更小さなちびもふらを肩車。 「にーちゃん、あっち♪」 「お、あれも美味しそうだねぇ。もらいに行くかぁ。んじゃ、ちゃんとお礼言うぞー」 「「「もこすさんありがと〜!」」」 大きな赤白もふらに率いられた一団が大移動を始めた。茶色い尻尾を下げた饅頭売りの屋台に突撃して、皆で合言葉。 「「おかしくれなきゃ悪戯するぞぉ〜♪」」 ●もふしっぽ屋台 通りの屋台には、開拓者が出しているものもいくつかある。仕事ではなくて、本日限定お祭り屋台だ。 下げた尻尾は黄金と翡翠の色を。二人の瞳の色を選んで屋台を出した恋人達は、様々な菓子類を用意して子供達を待っていた。玖堂羽郁(ia0862)が焚く香に佐伯柚李葉(ia0859)が吹く軽やかな笛の音が乗って、通りを流れていた。 お日様色のもふら頭巾を被って笛を吹いていた柚李葉が、笛から口元を離す。続いて小鳥の囀りのような声で口上を述べた。 「美味しいお菓子は如何ですか?季節の旬は大切に、味は幅広く。素敵なお菓子は如何ですか?」 口上に偽りなく、羽郁が用意した菓子の種類は多岐に渡った。南瓜のケーキに南瓜のタルト、栗饅頭、栗と芋の茶巾絞り。天儀風とジルベリア風を選べるようにし、それとは別に飴が十粒入った千代紙の小袋を付ける気前のよさだ。 くるりと身を反転させて口上を終えた柚李葉は「半分もふらさま、どうかな?」栗づくしを貰った梨佳に微笑んでみせた。幸せそうな柚李葉の様子に梨佳も笑って通り過ぎる。 (「‥‥羽郁は大きなお屋敷の若様だけど。二人でこんな風に、お店‥‥」) ううん、と柚李葉は首を振る。 今がとても楽しくて幸せだから。柚李葉は恋人を見つめて思う。 (「見つけてくれてありがとう」) 通りをきょろきょろ、和奏(ia8807)は成り行きで人混みに紛れていた。 石鏡でお祭りがあるのだと神楽で聞いてやって来た。この通りでは何やら催しがあるらしい‥‥のだが。 「‥‥托鉢への功徳みたいなものなのでしょうか‥‥?」 何か根本的に間違っているような気がする。 ともあれ、和奏は周囲を真似て準備をしていた。持参の袋一杯に栗金団と御萩と栗羊羹を詰め込んで、腰にはもふらのつけしっぽ。頭には南瓜の被り物をしていた――やはり何か間違っているような気がする。 それはともかく、和奏は彼なりに祭りを楽しんでいた。 「お菓子くれなきゃイタズラするもふー」 「はいはい、交換ですね」 寄ってきたちびもふら達とお菓子を交換しては歩いてゆく。通りを一周する頃には袋一杯の三種類も色々な甘味に変化していた。 ぬぼーっとした様子から表情を窺い知るのは難しいものの、和奏は和奏なりに祭りを満喫しているようだ。 そう、祭りの楽しみ方は自由。皆が楽しく過ごせれば、それで良いのだった。 赤白尻尾が下がる屋台で待つ少女がひとり。 「お嬢ちゃん、まるごともふらの貸し出しは向こうだよ」 屋台の前に佇んでいる少女に、通りかかった青年が声を掛けた。否、と見目にそぐわぬ大人びた所作で厚意を固辞したからす(ia6525)は、全く気にした様子なく言った。 「ここは私の屋台だ。如何かな、ひとつ」 「あ、どうも」 親切な青年は歳の離れた少女に気圧されるように頭を下げて饅頭の小箱を受け取り去っていった。 「からすさん発見です〜もふ」 「おかしちょ〜だい、くれないと‥‥ないちゃう、じゃなくっていたずらしちゃうもふですの♪」 申し訳程度に語尾もふにした梨佳と連れ立って、ケロリーナ(ib2037)がやって来た。金髪の縦ロールをふりふり、お供にもふらさまのもふらてすを連れている。 「ではこれは如何かな」 先程の青年にも手渡した小箱をケロリーナに手渡した。もふ手を出した梨佳には意味深な視線を送って、からすは一言。 「仲良く分けるんだよー」 何だろう、口調が微妙に変わったような気が。そんな変化に気付く梨佳でもなく、ケロリーナに箱を開けてとせがんでいる。 もふらさまの顔が描かれた小箱の中には、秦国風肉饅頭が四個、入っていた。 「箱のお顔もですけど‥‥」 「もふらさま、ニヤニヤしてますの〜」 もふら顔の焼印が押された饅頭を、ひいふうみい、と数えて近くを通りかかった琉宇を手招きする。 「わあ、琉宇さん沢山もらったですね〜!」 「お菓子をくれないとお掃除しちゃうよって言ったら、みんなお菓子をくれたんだ。お掃除して欲しくないのかな‥‥あはは」 借り物のまるもふで掃除すると言われれば「するな」の反応は妥当であろう。 ともあれ、もふらてすも入れてちょうど一個ずつ分けられそうだ。意味ありげに「温かい内にお食べ」とからす。 「「「「いただきまーす‥‥もふ」」」」 皆して一斉に齧り付き―― 「からいですの〜!」 お菓子を貰ったけれど、ケロリーナは泣き出した! そう、四個入った肉饅頭のうち一個はハズレだったのだ!ちなみに辛子饅頭以外にも激甘やら中身無しやら豆腐饅頭などがあるらしい。 外れるなら激甘が良かったとひぃひぃ涙するケロリーナの滲んだ視界に、箱の底に記されたメッセージが。 『トリック”アンド”トリート。菓子も悪戯も楽しめ』 箱や肉饅頭と同じ、ニヤリと含み笑いしたもふらの顔が小憎らしい。 恨めしげにからすを見るも、悪戯返しであれば怒るに怒れず、涙目で降参するしかないだろう。 改めて一人一箱ずつ手渡して「今度は当たりだといいね」新たな犠牲者を作れと唆す。激甘はどれですのと焼印もふらの具合から探ろうとしているケロリーナに、からすは笑いながら肉饅頭を差し出した。 「はい、口直し」 ちびもふら達に混じって、ご婦人方も多い屋台があった。紫の尻尾を下げた屋台は、もふらさまに似せた蒸しパンを配っている――のだ、が。 「やぁ、可愛いもふら達、こんにちは」 輝くばかりの聖職者スマイルで、ちびもふらのみならず付き添いの母親達まで虜にしている罪作りな神父様がいた。 「「きゃ〜神父様素敵!」」 「ありがとうございます。教会へ是非とも遊びに来てくださいね」 きらり輝く爽やかな笑み。エルディンとて人妻に興味がある訳ではないのだが、条件反射で愛想良くなってしまうのだから、嗚呼何と罪深い事だろうか。 「ウホッのおじさまですの〜」 「神父様、もしかしてせっそーなしです‥‥?」 こそこそと、囁き交わすケロリーナと梨佳の会話など露知らず、エルディンは至って爽やかに仔もふら達を迎えた。 「おや、仔もふらがいらしたようです。神様は常に良い子を見守っていますよ」 なでなでされて、ぎくりと緊張する二人。ぎこちなく笑って誤魔化すと、もふら蒸しパンを受け取った。 そんな様子を、輪が意味ありげに見ている‥‥ 「だ、大丈夫よね、きっと」 ついついエルディンのお尻の辺りを見てしまうものの、ひとまず屋台の横に腰を下ろすと笛を奏で始めた。 「えと‥‥ホカホカの、もふもふ、もふ」 蒼と翡翠のまるもふも愛らしかったが、今は配る側だから簡単につけしっぽのみになっている桔梗が、菓子を持ちきれない子達に紙袋を配っていた。 「もふらさまのふくろー」 「これは潰れ易いから、気をつけて」 芋版で押印したもふらさまは、ほのぼのもふもふの優しいお顔。袋の一番上に蒸しパンを乗せてやり、次の屋台に向かうちびもふら達を見送った。 「梨佳も、大量?」 「はいです。大量ですよ〜」 収穫を見せてにっこりする梨佳にも紙袋をお裾分け。随分歩いて疲れたなら少し休憩するといい、という訳で、屋台の隅っこで収穫を交換する事になった。 一足早くエルディンにお裾分けに来ていたラムセスも一緒に、一休み。 「けろりーなブリヌイつくりましたの☆」 バスケットからお手製のブリヌイを取り出して、みんなに配るケロリーナ。そのままでも美味しいし、もふら蒸しパンに使った裏漉し食材やジルベリアのジャムを合わせても美味しい。 これは何処で貰った、ここの屋台では何がなどと冒険を語りながら、道ゆく人々の幸せそうな姿に目を細める。 「皆が幸せって、嬉しいな」 「けろりーなは、いつだってわくわくドキドキですの♪」 しみじみ呟いた桔梗に、目を輝かせケロリーナは応えたものだった。 ●たいせつ 薄桃色のまるごともふらを着た紗々良(ia5542)と落ち合った由他郎(ia5334)は、まるもふ姿の妹の様子に何となく安堵した。 まるもふを兄に着せられた紗々良は最初こそ不満そうではあったが、着ぐるみを身に着けると「実は、ちょっと、楽しみだった‥‥の」はにかみつつも嬉しげにくるりと回ってみせたものだ。一旦別れ、兄は屋台を構えぬ配布役、妹はもふら役で通りを巡り、再び合流した訳だった。 (「菓子を貰って嬉しそうとは‥‥まだまだ子供なのだな」) いつしか娘らしくなったと思っていたが、幼い頃のままでいて欲しい気持ちもある。複雑な兄心は妹の兄想う心までは気付けない。 (「兄さまの、お手伝い、したかったのに‥‥」) 自分の事を当然のように子ども扱いする兄を不満に思いつつも、やはりこれまでと変わらない事には安堵する妹である。 「ああ。お前にまだ菓子をやってなかったな」 由他郎は籠から焼き栗を一掴み、紗々良の菓子籠に入れてやった。 そう言えば合言葉は聞いてなかったなと後から気付いて、二人一緒に「お菓子くれなきゃ悪戯するもふ」唱えて顔を見合わせる。 「しかし‥‥菓子をやらないと悪戯をする、とは‥‥もふららしい、というか、何というか」 ふむと押し黙る兄を、妹は真顔になって見上げた。 由他郎に恋人ができた。自分だけの兄ではなくなった事に、無意識に紗々良は寂しさを感じていたのだ――けれど。 紗々良はこれからも由他郎の妹で、由他郎は紗々良の兄に変わりなく。 変わらぬ空気に安らぎを感じながらも、徐々に兄離れの訓練を始めた妹である。 通りの屋台を冷やかしながら、すぐりと厳靖が歩いていた。時折まるもふ達に花林糖や飴を配りながら、のんびりと屋台を覗いている。 「‥‥うわぁ‥‥」 通りの屋台は色々で、一日限りの仮設屋台から生業にしているらしい本格的なものまであった。特に本職の屋台は人目を惹く作りが凝っている。 見る物全てがキラキラと珍しくて、すぐりが興味津々で覗いている――と、一際熱心に覗いているものがあった。 「もふらさまの揚げ紐か。なんだ、欲しいのか?」 「‥‥ちゃ、ちゃうよっ。欲しいなん、思てへん‥‥っ」 (「貯金、しとるんやから‥‥っ」) ふるふる、首を振るすぐりの主張は「あかん、あかん」という自制が透けて見える。心得た様子でにやりとした厳靖は、屋台で暇そうにしていた親仁に「二つくれ」と所望した。 「ほれ、アイツの分もだ」 「‥‥あ、ありがとう‥‥」 相変わらず子供扱いされて、しかも主の分まで買ってくれて。 嬉しいのと心苦しいのとで、俯いて声まで小さくなったすぐりは、小さな小さな声で礼を述べた。 「‥‥な、何か食べへん?今度は厳靖が『もふー』って言う番なっ?」 白い尻尾が下がった屋台から温かな湯気が立っている。晩秋の気候に温かな蒸饅頭は、道行く人々に大層喜ばれた。 「やっぱり、もふらさまなら尻尾は白ですよね」 そんな事を言いながら友人の母君を手伝う礼野真夢紀(ia1144)は料理好き。蒸饅頭の餡を担当している。 「もふらさまを模したふわもこのお大福。もふらさまの「お友達」は、雪うさぎとたぬきさんはどうでしょう」 「せっかくですから、大福の中身の餡は3つとも変えませんか?」 三種類の蒸饅頭を提案した明王院未楡(ib0349)の脳裏に過ぎったのは末の娘と友人のたれたぬさんの姿かもしれぬ。真夢紀は、楕円に食紅の瞳が愛らしい雪兎型は黄身餡と、たぬきの顔を模した茶色の蒸饅頭は白餡、もふらさまには粒餡を包んだ。 「お菓子くださいもふー」 「もふっ!」 既に悪戯を何処かに置いて来ているちびもふらの手を引いて、刄久郎も楽しんでいるようだ。 「あらあら…可愛いもふら様達ですね」 未楡は微笑んで、ちびもふらの頭を撫でると、火傷しないように包んだ蒸饅頭を三種類、籠に入れた。 「もふらさま!たぬきさんとうさぎさんも!」 「お友達も一緒に遊びに連れて行ってあげて下さいね」 この子達はもふらさまのお友達なのですよと未楡。刄久郎にも手渡して、ちびちゃん達をお願いしますねと頭を下げた。 「だいぶ涼しくなってますから、温かくお過ごし下さいね」 「もふもふ〜!!」 白毛に赤い鬣のモフペケッティさん。ペケ(ia5365)は伸び伸びと祭りを満喫していた。 神楽に居ればヤツがいる。暇さえあればヒーローごっこに興じる白いの。 思えばいつもいつもいつもいつも‥‥(中略)‥‥騒動に巻き込まれて酷い目に遭わされたものだった、が。 今日は居ないのだ、もふらのモフペッティは! ――ビクン。 ヤツの名を出した途端に寒気がした。 嫌ですねぇ、風邪引きかけかしらん。今日はヤツとは遭遇しないのですよ。 「遭遇しないったら、絶対に遭遇しません。超精霊チェルノブモフになんて遭遇しませんったら!」 一本角を広げて変身中のモフペッティが後ろから付いて来ているような気がするけれど、ヤツの姿なんか見えるワケにはいかないのだ。何せモフペケッティさんは、今日は一人で平和を満喫するのだから! 「‥‥もふ‥‥」 真後ろから聞き覚えのある声がした気がするが、真後ろのはきっとまるもふ、中の人が居r‥‥泣いてる!? 「ゴメンネ、一緒に回ってあげるから泣かないで」 感動の(?)再会を果たした一人と一匹は、結局一緒に祭りを楽しんだそうな。めでたしめでたし。 |