まるがりもふら
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/29 02:51



■オープニング本文

 もふらさま。天儀に於いては神の御使いとされている生物。
 精霊力が凝固して生まれたと伝えられており、その生態は謎が多い。
 ――が、当のもふら達にそんな事は知ったこっちゃなく、今日も気ままに生きている。

●朋友連れて牧場へ
 神楽・開拓者ギルド。
「‥‥でさ、今うちの牧場で毛刈り体験やってるんだ」
 少年の名はヒデ、郊外のもふら牧場で働いている。
 彼の話を聞いているのはギルドの受付係だが、受付卓でなくギルドの柱にもたれて聞いている辺り、休憩中なのかもしれない。
「それがどうかしましたか」
 係の反応に、ヒデは「いつものおっさん、どこに行ったんだ」と、内心苦虫噛んで辺りを見渡した。
 ヒデが依頼を持ち込んだ際にいつもいる、ぼさぼさ頭のくたびれた男性職員が今日は見当たらぬ。代わりに話しかけた職員は如何にもお役所気質の難物と言った風で、話を通すのにも一苦労だ。
「‥‥開拓者、来ないかなーって」
「それは依頼ですか」
 間髪入れず係に問われて、ヒデは視線だけで天を仰いだ。
 毛刈り体験に開拓者が来ないかな――遊びの誘いだと気付けよ。
 あらぬ方向から視線を元に戻した時、玄関掃除を終えたばかりか箒と塵取りを手にやって来る梨佳(iz0052)の姿が目に入った。
「梨佳!」
 ヒデが呼ぶ声は、ほとんど悲鳴に近かった――

「‥‥つまり、彼は開拓者に遊びに来いと誘いに来た訳ですか」
 漸く意図が通じた堅物職員は、じろ、とヒデを冷ややかに見た。
 蛇に睨まれた蛙が如く固まった少年の着物の裾を、梨佳がちょちょいと曳いて耳打ちする。
「ヒデさん、話し掛ける人を間違えてますよぅ」
「梨佳、何か言いましたか」
 ぶんぶんぶん!!
 日頃から大層厳しく躾けられている梨佳は、係の声に慌てて首を振った。
 まあいいでしょうと真顔で流した係、懐手で柱にもたれ直すと「ふむ」と小さく独りごちて目を閉じた。記憶を辿っていたのか、暫くして「そういえば‥‥」目を開いた。
「‥‥三月ほど前に、朋友交流の啓蒙活動をギルドで行いましたか。あれは港でしたが‥‥」
 ヒデの働くもふら牧場は、当然の事ながら大層広い。龍やジライヤのような大型朋友の受け入れも可能であろう。
 放置朋友を減らす為には定期的な啓蒙活動が望ましい。前回より暫く間が空いているし、そろそろ時期かもしれぬ。
「わかりました。報酬なし、開拓者が朋友と絆を深める事を目的に自主的に向かうものとして、今回の件、協力しましょう」
 牧場に向かう者は朋友を一体同伴させる事。その朋友との絆を深める為に時を過ごす事‥‥云々。
 どこまでも頭の固い反応を返す係であった。ヒデと梨佳は顔見合わせて、それでも開拓者の皆と一日遊べる事を喜び合ったのだ。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 真亡・雫(ia0432) / 桔梗(ia0439) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 葛切 カズラ(ia0725) / 白拍子青楼(ia0730) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 秋霜夜(ia0979) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 皇 りょう(ia1673) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / エルディン・バウアー(ib0066) / 明王院 未楡(ib0349) / 不破 颯(ib0495) / 燕 一華(ib0718) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 月影 照(ib3253) / ルルー・コアントロー(ib3569


■リプレイ本文

●本日は毛刈り日和
「小太郎。ほら、もふら様が沢山いらっしゃいますわ?」
 きゃっきゃと無邪気に喜ぶ純真な巫女。白拍子青楼(ia0730)は忍犬の小太郎を従えて、もふら牧場に立っている。
 あっちを見てもこっちを見ても、もふらさま。
 もふらさまのふわっふわを堪能にやって来た青楼は嬉しくて楽しくて、おっとりしていながら浮き浮きとはしゃいでいる青楼を見上げる小太郎は心配顔――あ、青楼が転んだ。
「きゃぁ〜♪お布団みたいですわ♪お日様の匂いたっぷりですわ♪」
 転んだ先にももふらさまがいて、ふわふわに助けられた青楼は抱きついたままいつしか夢の世界へ――
 残された小太郎は、やれやれと言った様子で主の傍に丸くなった。
「おやっさん‥‥ちっ、素早いな」
 見慣れた渋もふらの姿を探して、巴渓(ia1334)は舌打ちした。あのダンディもふらも毛刈りは苦手と見える。連れて来たミズチのルナも恩もふら以外には無関心だったから、渓はまったりと秋の一日を過ごす事にした。
 今日のお茶請けはスイートポテトと梨のタルト。お茶にも合うよう甘さは控えめ。
 晴れ渡る秋空を見上げ、渓は食べ盛り達がひと遊び終える頃を見計らって、お茶の用意を始めた。

 連れて来た淡金色のもふらと分かれ、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は毛刈り体験に向かう。
「もふ龍、他のもふら仲間と遊んでるもふ!」
「刈られないよう、気をつけてね?」
 牧場体験だから、さすがに誰彼構わず毛刈りする訳ではないのだが、紗耶香は大真面目だ。もふ龍も真に受けて、良い子の返事をした。
「刈られそうになったら、ご主人様の名前を呼ぶもふ!」
 きっともふ龍は迷子にも誘拐にも遭うまい。ピンチの時には紗耶香の名で解決だ!
 ともあれ、紗耶香はもふ龍を見送ると毛刈り体験。普段から扱いなれているだけに手際も良い。それを見ていた大きなもふら、からす(ia6525)の浮舟が小柄な主を見上げて言った。
「からす。浮舟は毛刈りもふらに混ざりた‥‥」
「承認」
「行ってくるであります〜」
 即答。浮舟は鼻歌混じりに毛刈りもふらの群れに混ざっていった。
 自作の子守唄を歌うのは浮舟が機嫌良い証拠だ。日頃から自身の毛並みに気を配っている浮舟の事、自分の毛並みを皆に見てもらいたい意識もあるのだろうなと、からすは群れに消えてゆく大柄もふらの後姿を見送り思う。
 さて、と鋏を手に、からすは牧場のもふらを撫でた。梳くように優しく刈り取って、彼女はもふらに尋ねた。
「気持ちいいかね?」
「もふー♪」
 毛を引っ張られたりもせず、身を切られたりもせず、するりと毛を刈られたもふらは心地良さげに一声鳴いた。
 もふ龍と遊んでいるもふらのもふ秋はまるで兄弟のようだ。
 ひとまず毛刈りもふらと間違えられる心配はなさそうな事に安心して、ルルー・コアントロー(ib3569)は体験用の牧場もふらの毛をじょきっと切り取った。
「ふぅ‥‥こんな感じでいいんでしょうかねえ?」
 緊張から解放された顔を案内職員に向けてみれば「お上手ですよ」の声。もふらはおとなしいし、ルルーも安心して再び鋏を構えた。
「動かないで下さいね〜えいっ」
 もふ秋とは最近縁付いたばかりだ。もふらの扱いに慣れる為にも、ルルーは懸命に毛刈りを学ぶ。体験を通り越した真剣さに案内職員もつい真面目に相手して、遂にルルーは一頭丸々自力で刈り取った。

 ぼけーっとした表情のまま、鋏をやんわりと握っている。
 鈴木透子(ia5664)が今から毛刈りを始める訳だが、手の鋏は今にも落としそうだ。
「血が出たらごめんね」
「もふッ!」
 ぼそっと。言った。
 毛刈り体験用のもふらは、その役割に相応しからぬ様子でビクリと跳ねて、一目散に逃げ出した!
「遮那王」
 相変わらずぼーっとぼそっと。だが透子の反応は素早かった。忍犬の遮那王に指示するや、遮那王は逃げるもふらを追い始めた。
 尻尾ふりふりもふらの退路に回り込んだ忍犬の仔犬は、遊んでいるようで立派に職務を果たし逃走もふらを主に引き渡した。
「遮那王、よし」
 これが遮那王に課せられた本日の修行なのだ。
 観念したもふらに、透子はやはりぼーっとした面持ちで言った。
「だいじょうぶですよ」
 治癒符は用意してありますからと陰陽師。怪我前提かと涙目のもふらに呪縛符も持って来ていますがと付け加える辺り、意外と食えない娘である。
 ヒデに扱いの説明を受けていた桔梗(ia0439)が、こっそり取り出したのは栗饅頭。毛刈りの相方になるもふらに進呈した。
「皆にあげられる分は無い、から‥‥あ。ヒデも、どうぞ」
 さすがに牧場内にいる全員分は用意できないから内緒で、と気兼ねする桔梗は優しいなとヒデは微笑う。
 毛刈りもふらは人に慣れていて、桔梗とも仲良くなって大人しく腹を見せている。
「痛くない、か‥‥?」
「だいじょぶもふー」
 丁寧に毛の縺れを解していた桔梗が、いよいよ腹側から毛を刈り始めた。毛の根元から、でも身は切らないように。もふらさまを傷つけないようにと気をつけて、桔梗は鋏を入れてゆく。
「さむくないもふか」
 毛刈りもふらの周囲で桔梗のもふら・幾千代がくるくる回っていた。だんだん毛の装いが剥がされてゆく光景に衝撃を受けているようだ。
(「幾千代、心配‥‥なのかな」)
 毛の手入れをしてもらう事が大好きな幾千代、毛はとっても大切なもので‥‥牧場のもふらは毛を刈られていて。
 やがて刈り終えて鋏を置いた桔梗は幾千代を呼ぶと、はだかんぼうもふらにぴとっとくっつけてみた。
「これで少しは、寒くない‥‥かも」
「さむくないもふ?」
「だいじょぶもふ」
 もふもふとぷにぷに。
 二匹仲良く体を寄せ合っている様子が何とも睦まじくて愛らしくて、桔梗は暫し言葉を失った。
「‥‥‥‥」
「どうしたもふか?」
 幾千代の問いに桔梗は黙って行動で返事した――それはもう愛情たっぷりに、二匹まとめてむぎゅりと抱き締めたのだった。

●秋空散歩
 グライダーが二機、秋空をゆく。
「あっはっは、はるか眼下では愚民どもが必死に働いておるのぉ」
 見た目の愛らしさにそぐわぬ悪代官な台詞を吐いて、月影照(ib3253)はグライダーの飛波を傾けた。滑らかに先をゆく飛波の尾翼を追い、天河ふしぎ(ia1037)も天空竜騎兵を右に傾ける。
「ほんと、人やもふらが蟻のようだ」
 照に返して、心地良い風を全身に浴びつつ、ふしぎは飛波と並ぶように天空竜騎兵を操縦した。
(「これって、デート‥‥?」)
 ひとつがいの鳥のように追いつ追われつ空を駆けてゆく。
 頭を過ぎる淡い期待――ふしぎはどきどきと誘ってくれた獣人の少女を見た。
(「すごく嬉しい‥‥照ともっと仲良くなりたいもん」)
 熱の籠もった視線の先では、照が色気も素っ気もなく空中遊泳を楽しんでいるのだが、ふしぎはそんな事関係ない訳で、どちらが乙女か判りゃしない。
 浮き立つ気持ちのまま、ふしぎは天空竜騎兵を曲芸飛行。
「ふふっ‥‥あっ‥‥なっ、何も見てない、見てないんだからなっ」
 思わず零れた笑みも、真っ赤な顔も、全力な否定も。ふしぎは今日も全開でツンデレさんの模様――

 くるりととんぼ返りしたグライダー。
 秋空を見上げた菊池志郎(ia5584)は、今日はよく乾きそうですねと穏やかに笑んだ。
「太陽に干すと、きっとふかふかになりますね」
 その為にも、もふ毛の洗濯を頑張ろう。もふらさまの毛を刈ったり洗ったりするのは初めてでつい珍しさが先に立ってしまうけれど、刈られた毛はもふもふでふかふかで、少しばかり大地の匂いがした。
 先生、と駿龍の隠逸を振り返る。
 洗濯に興味のない隠逸は、まるで関心なげにそっぽを向いて日向ぼっこをしていた。青みを帯びた灰色の鱗を陽の光で温めて穏やかに丸まっている様子は、縁側のご隠居さんのようだ。
「先生、今日も天気がよくて良かったですね。後で散歩しましょうか」
 志郎の誘いに、隠逸は首だけ此方へ向けて応と言うかのように小さく唸った。
 このままでも綺麗なように見えるけれど、きっと細かい砂埃が混ざっているのだろう。
「‥‥もふ毛丸洗い、石鹸は付けなくても良いのでしょうか?」
 おっとり尋ねた和奏(ia8807)に、案内職員はまずは洗ってみてくださいとぬるま湯を溜めた盥を勧めた。じゃぶじゃぶと押し洗いしてみるとあら不思議、そのままでも綺麗に見えたもふ毛にも汚れはあったようで、ぬるま湯が濁ってゆく。
「汚れはぬるま湯で充分落とせるんですよ」
「石鹸の泡がいっぱい立ったら楽しそうなのにな‥‥」
 余程の汚れは石鹸を使う事もあるけれど、その場合は石鹸水に漬け込んで汚れを落としますと職員。ぶくぶく泡立てて洗うのではないと聞いて、和奏はがっかりだ。
 盥一杯に泡立てて、シャボン玉はできないかな。もふ毛で人妖のお衣装は作れないかな。
 いつの間にか想像に没頭し始めた和奏の隣の盥で、モハメド・アルハムディ(ib1210)がいい汗をかいている。駿龍ムアウィヌンは、時折盥の匂いを嗅いでみたりする以外は、おとなしくモハメドの傍に控えていた。
 かつて旅商として毛織物の絨毯を扱いもしていたモハメドだが、実際に洗ってみるのは初めてだ。衣服の洗濯とはまた違った気遣いを要する毛物洗いは独特で、ぬるま湯の入った盥の中で毛を振り洗いするのは、結構力のいる仕事だった。
 これが糸になり毛織物になるのだと思うと、良い糸になるようにと洗濯にも気合が入る。体験ではあったが真面目で誠実な気性の人物であった。
 熱心にもふ毛洗いに勤しんでいると、何時の間にか梨佳が隣に来ていた。ムアウィヌンが寛いでいる横で仔もふらを抱えて、洗濯水の汚れに目を見張っている。
「この子洗ったらこんなに汚れてるんでしょーか‥‥」
「もふ‥‥」
 突拍子も無い事を言い出した梨佳と仔もふらに戸惑いの表情を浮かべ、モハメドは洗濯の手を止めた。キリの良い所まで洗い上げると、手を拭いて持参した荷を開ける。
「ヤー、梨佳さん。ハディーヤ、あなたへの贈り物です」
 あたしにですかと、梨佳は仔もふらを地面に降ろすとモハメドから綺麗に畳まれた白い布地を受け取った。
「わあ‥‥」
 広げてみると、白い生地には色とりどりの花が咲いている。天儀固有の花をシンプルな技法で刺繍したそれは、モハメドの氏族ではヒジャーブと呼ばれる、女性用の装飾品だった。
 ありがとうございますと顔をほころばせた梨佳は、遠慮がちに尋ねた。
「でも、あたし誕生日じゃないですよ‥‥?」
 ラ、ラ、とモハメド。新大陸が近付き、神様は自分に微笑んでおられるように感じるのだと、彼は言った。
「ワ、そして、次はあなたの番です。インシャッラー」
「あたしの、番‥‥」
 夢に向かって進みなさい、職員への道を諦めずに進みなさい。
 天儀に伝わる千人針に擬えて成就を願った刺繍の花は、この先、梨佳を勇気付け後押しする光となるだろう。
 祈りの籠もったヒジャーブを抱き締めて、梨佳は再びありがとうございますと深々と頭を下げたのだった。

 声が挙がった。
「ふははは!存外楽しいものよなあ!」
 もふらさまが盥の中ではしゃいでいた。
 もふらの風信子は不破颯(ib0495)の真似をしているつもりのようだが――洗っているというよりは、一緒に洗われているとか、もっと有体に言えば水遊びしているように見えた。
「おや、意外とやるね〜」
 颯がへらりとそんな事を言ったものだから、風信子は余計に調子付いてばしゃばしゃ水を跳ねている。風信子はますます高揚して、普段の落ち着きは何処へやら、偉そうな口調はそのままで高笑いなんぞしている。
「んじゃ、洗いっこ競争しようか〜」
 颯も颯でけしかけて。一人と一匹、青空の下おとなげない水遊びはまだまだ続く。
 また声が挙がった。
「――ああっ、そんなに力を入れては折角の毛が痛んでしまうではないか!」
 猫又に叱られている開拓者がいた。
 皇りょう(ia1673)は猫又の真名の怒声に手を止めた。神妙な面持ちで真名を伺っている。
「本日は洗濯の練習、何卒、真名殿のお知恵を拝借いたしたく‥‥」
「ふっ、わしの知恵が要り用か?仕様の無い奴じゃ」
 いつも対等な立場で――寧ろ真名の方が上位なのではと思う事もあるが――皇の当主に接する猫又は、貫禄を見せて身体を揺らした。洗濯が苦手なりょうに、ああと同意してみせる。
「お主が洗うと、倍の速度で生地が傷みよるからのぅ‥‥勢い余って割った洗濯板は三枚じゃったか?」
「ま、まだ二枚です!」
 りょう即答。三枚目はまだ割っていない、少々撓んではいるけれど‥‥
 無残に変形した洗濯板に、真名は「割れる寸前ではないか!」呆れて言った。これでは婿の来手もないやもしれぬ、ならば助言するが皇家の猫又というもの。
 仕方ないと嘆息した真名に、りょうは「忝い」と頭を下げた。猫又の指導のもと、素直に洗濯修行を始める。
「それはそうと――」
「なんじゃ?」
「真名殿も、幾分毛並みに艶が無い御様子」
 石鹸を使って力一杯洗っているもふ毛は、既に半分ほどの嵩になっているようだが、りょうは気付く様子もなく真名と話を続けている。
 真名は、ふん、と息吐いて答えた。
「遠出じゃしな。そもそもわしはこんな場所に二度も来るつもりはなかったのじゃが――」
 飽きたとぶつぶつ言っている真名の身体がふわりと持ち上がった。泡だらけのりょうの手が真名を抱えている。
「‥‥って、おい。まさか‥‥」
 真名のイヤな予感は大概当たるのだ――嗚呼。
 
 賑やかな洗濯体験の脇で、柚乃(ia0638)はもふらの八曜丸と、まったり。周囲には牧場のもふら達がもふもふとたむろっている。
(「もふらさまいっぱい‥‥」)
 柚乃はとても幸せな気持ちだった。もふらさまが大好きだ。無論、八曜丸も。
 藤色の毛並みをした小柄なもふらの八曜丸は、にこにこしている柚乃を横目にご機嫌斜め。
「八曜丸もおいで♪ほらほら、もっふもふー★」
 手招きするものの、八曜丸はふんとソッポを向いて毛繕い。どうやら拗ねている。
 柚乃は八曜丸を置いてけぼりにしないよう気を遣っているのだが、八曜丸にはちょっぴり物足りないようで。絶妙な距離を保って毛繕いしては、ちらと柚乃の方を見たりしている。
「‥‥そういえば以前、石鏡で大もふさまのお手入れを手伝ったことがあったな‥‥」
「大もふさまもふ?おっきいもふ?」
「大もふさまもっふもふもふ?」
 八曜丸の毛繕いで思い出した独り言に、周囲のもふら達がもふもふ反応した。
「ここの仔達も、もっふもふです★」
「‥‥‥‥」
 にこにこと返事しながら、もふら達をもふもふしている柚乃を八曜丸は無言でじーっと見つめている。やっぱり気になるようだ。
 暫くにらめっこしていた八曜丸と柚乃だが、結局は柚乃が動いた。
「八曜丸も、もっふもふ♪」
 側に寄って、小柄な身体を抱え上げるともふもふもふ。柚乃に付いて来たもふら達に埋もれて、八曜丸は誰よりも柚乃にくっついていた。
「みんな、仲良くですよー♪」
 空からもふらの群れを眺めていたグライダーの二人が、着地に良さそうな辺りを選んで、人もまばらな草原に降り立った。
「ああ、楽しかったのぅ」
 空中散歩を堪能した照の満足気な声に、ふしぎの胸の鼓動が高まった。並んで青草の上に寝転んで、先程まで居た空を見上げる。
 意を決して、ふしぎは手をそろそろと伸ばした。
「照、僕と一緒に行ってくれるかな‥‥あの空のもっと先まで」
 ――大丈夫、上手く言えた。
 ぎゅっと手を握り、一世一代の口説き文句を吐けた!‥‥はずだった、が。
 その直後、ふしぎのものと思しき悲鳴が上がった!
 後に照は語る――そのイベントにはまだフラグが足りなかったのだと。

●刈ったもふ毛で何つくる?
 二足歩行のもふらさまがいた。
 じゃーんと現れたエルディン・バウアー(ib0066)はまるごともふら姿、手入れの行き届いた極楽・もふんどしで見えないお洒落も完璧だ。
「あまりの可愛さに、本物と間違えそうですか♪」
 これぞもふらの正装と鼻高々なエルディンだが、仲間達は「ないない」手をひらひら振っている。気にする様子もなくエルディンは畳み掛けた。
「間違えて私を刈らないようでくださいね」
 いや、二足歩行のもふらは間違えようがないと思う。
 どこから突っ込んだものかと秋霜夜(ia0979)は考える――まるごとくまさん姿で。涙目で見上げる忍犬の霞にはもふなり兜、この師弟、似た者同士かもしれぬ。そして最大の被害者は霞かもしれない。
 着ぐるみ師弟と一緒に毛刈り体験を行うは母娘のような二人。駿龍の斬閃に風除けを指示し、明王院未楡(ib0349)は荒縄製の束子を手に取った。斬閃に並んで風除けを担っている駿龍の鈴麗には礼野真夢紀(ia1144)がブラッシング。
 おとなしく座っている鈴麗を優しく擦り上げながら、真夢紀は今日のお八つは自作ではないのだと言った。
「先日お姉様が初物送ってくれましたの」
「お蜜柑が故郷の名産なのですね」
 柑橘類の良い香りに気付いていた未楡はにっこりと「良かったですね」と微笑んだ。
 蜜柑という単語に反応したか鈴麗はそわそわ、落ち着かなく頚を巡らせる。
「鈴麗、あとでね」
 毛刈り体験が終わったらお八つにしましょうねと、真夢紀は鈴麗の鼻先を撫でた。
「中々構ってあげられなくてすみません‥‥そのうちちびちゃん達を連れて、港に行きますからね」
 家族で会いに行くと約束して、未楡は斬閃をゆっくり擦り上げる。これから始まる毛刈りの際に、もふら達が斬閃に怯えぬよう、もふ毛のてるてるぼうずを斬閃の首に掛けた。
「未楡さん、お願いしますっ」
 もふらのブラッシングを促す霜夜。未楡の優しいブラッシングで心が解れたもふら達の様子を見計らって、霜夜はエルディンと目配せを交わした。
「では‥‥一気に刈り上げだー!!」
 霜夜の雄叫びに、もふらが驚いたが時既に遅し?――否、そこまで慎重にする必要はなく却って怯えさせてしまった感が無きにしも非ずだが、ともあれ霜夜は毛刈りに成功した!
 エルディンはもふらのパウロに毛刈りを要求。
「パウロ、さっぱりしてみませんか?」
「もふ?‥‥もふ、もふ〜神父様〜〜くすぐったいでふ〜〜」
 普段触れられる事の少ない腹部に手を回されて、パウロはエルディンのなすがままだ。
 腹毛を刈って、足先を残して‥‥?
「はい、プードルの出来上がり!」
 エルディンの悪戯に、人間達は一様に微妙な表情になったのだが、エルディン本人だけはご満悦だ。
「‥‥ああ、パウロ、なんて可愛らしい!!」
「ほんとでふか?僕、可愛いでふ?」
「ええ、とても可愛いですよ!」
 さすがにプードルでは申し訳ないと思って最後まで丸刈りにした。ひとまわり小さくなったパウロはぷにぷにで、縮んでも可愛いと頬ずりするエルディンは立派な親馬鹿だ。
「霞いいなーもふ毛に包まれて嬉しそうです♪」
 嫌そうな霞の首に刈った毛を巻きつけて悦に入る霜夜は、ついでに自分もご利益に肖らんと頭に被ってみたり。
 真夢紀は蜜柑の皮を向いて鈴麗の口へ丸ごと放り込んでやる。
「果物好きな龍っていうのも、大概変わってますよねぇ」
 そうは言うものの、鈴麗が美味そうに食べるので気にしない。周囲のもふら達にもお裾分けして、自身ものんびり初物の味を口に含んだ。

 暫く振りに訪れたもふら牧場は、秋風に草原が波を立てていた。
「もうすっかり‥‥冷えてくる時期だね。秋が来て。しばらくすれば冬に」
「暑かったのに寒くなる‥‥って、四季って不思議です」
 真亡・雫(ia0432)の言葉に人妖の刻無も小さく頷いて、久し振りだから沢山遊びたいと素直な気持ちを口にした。雫に否やはなく一緒に楽しもうと毛刈り体験へ。
 これからの季節、必需品になるだろう温かな毛製品の素にくすりと笑んで、雫はもふらの毛を刈っている。
(「‥‥毛がいっぱいの子って、もふもふ、ってしたい気持ちになるのは何故だろう」)
 毛刈りの様子をじーっと見ていた刻無、周囲でもふもふ言っている牧場のもふら達を見つめて呟いた。
「‥‥ついでにもふもふしてみても、良い?」
「いいもふよ」
「もふもふすきもふ」
 途端にもふら達に埋められてしまう刻無だが、そんな様子もまた雫には微笑ましい。
 今日はゆっくりもふもふしよう、暫く依頼にも連れていけなかった分、一緒に。
 心地よい風に乗って、鼻歌が聞こえてくる。
 もっふもっふもっふ‥‥
 リズムよく毛刈りをしているのは燕一華(ib0718)、傍らでもふらの木陽が日向ぼっこをしている。一華の姿はまるごともふら、鬣の色が木陽とお揃いの薄緑だ。
 もっふもっふもっふ‥‥
 子守唄にも聞こえるその鼻歌に、木陽のみならず毛刈中のもふらも「もふぁ‥‥」欠伸した。そのままうとうとし始める毛刈りもふらを撫でて、一華は何となく考える。
「んー、もふらさまの毛は冬毛に生え変わったりもするんでしょうかっ」
 木陽を背もたれに、しばし休憩。秋の抜けるような空が、やがて一華にも眠りを運んできた。
 人妖の蓮華がもふ毛と格闘していたもので、思わず羅喉丸(ia0347)は毛刈りを楽しんでいた手を止めた。
「師匠、何をやっているんですか」
「羅喉丸、お主もやりたいのか」
 もふ毛の中に足半分埋もれて、蓮華が羅喉丸を見上げた。見方によっては毛に捕らわれているようにも見えるが、これは彼女なりの遊びらしい。楽しいぞとはしゃぐ蓮華はご機嫌で、少し酒が過ぎているかもしれない。
「よいよい、恥ずかしがらずに言うがよいぞ」
 そうは言われても、人妖がもふらの背に埋もれるのと羅喉丸が埋もれるのとでは同じようにはいくまい。
 羅喉丸は少し笑って、毛を刈っていますと答えた。
 この牧場では、もふらの毛を用いた土産物は売っていないのだろうか。港で留守番している頑鉄が暖かく過ごせるよう、毛布辺りを求められれば良いのだが。
 甲龍一頭を包み込む毛布にはどれくらいの毛が必要なのだろう‥‥とりそめない事を考えながら、羅喉丸は黙々と平和な作業を楽しんでいる。
「どうかなろんろん、気持ちいい?」
 琉宇(ib1119)にふわふわもこもこの毛玉でごしごしされて、駿龍のろんろんは気持ち良いのか機嫌良さげな唸り声を出した。
 このふわもこは『おそうじもふら』ろんろん洗浄用にと琉宇が考えたものだ。毛刈り体験で刈った毛を分けてもらって、手に握れる大きさに適当に丸めて。ふわふわの毛は吸水力もあり、石鹸を使えば泡立ちも良さそうだ。
 牧場内の水浴び場へろんろんを連れ出して早速試しに使ってみると、なかなか良い感じだ。
(「これをもふらさまをモチーフにしたデザインに転化するには‥‥」)
 思索に入った琉宇の手が止まったもので、ろんろんは続けてくれと甘えた様子で小さく唸った。

 作業小屋前の広場では、紡毛機を外に持ち出しての紡ぎ体験が行われている。
「これだけでも、もふらさまみたい」
「本当、もっふもふです〜♪」
 佐伯柚李葉(ia0859)の声に、彼女の左腕にくっついていた梨佳もご機嫌で歓声を上げた。柚李葉の右腕は駿龍の花謳の頚、久し振りのお出かけに花謳も機嫌が良さそうだ。
 洗い、天日に干して乾燥させたもふらの毛は、梳いて毛の向きを整えた後、糸車に掛ける。元々、白以外にも色があるもふらの事、毛の選び方で色合いは如何様にも作れた。
「花謳、目を回さないでね」
「きゅぅ?」
 駿龍の顔を覗き込んだ柚李葉は、教わった通りに丁寧に糸車を回し始めた。花謳はテンポよく回る糸車を目で追って――やがて諦めた。代わりに「きゅぅ、きゅぅ」と音に合わせて歌っている。
「ハッちゃんもチャレンジしてみよう!」
 妙にテンション高く人妖に嗾ける葛切カズラ(ia0725)。えーと不服そうな人妖の初雪を上手く持ち上げて、牧場まで連れて来たのだ。
「ほらほら、すごいね〜あのもふ毛がだいへんし〜ん」
 言葉巧みに誘導し、初雪を紡毛機の座席へ――座ったは良いが人間用だけに少々背が足りないようだ。途端に不機嫌になる初雪を宥めて、カズラは彼女を草の上に座らせた。
「ハッちゃんは、これでやってみよう〜」
 これでは糸車を回せないと主張する初雪に手渡されたのはスピンドル。紡毛機の原始的なもので、錘を仕込んだ独楽の回転力を利用して糸を縒る道具だ。
 はっきり言って、非常に地味だった。紡毛機よりもずっと地味な道具で、しかも作業そのものが地味だった。
「あらぁ、ハッちゃんはこんな道具も使えない不器用さんなのかな〜」
 物凄く不満そうな初雪だが、カズラは巧みにその気にさせる。クールで格好良い万能キャラを装いたいお年頃の初雪はカズラの挑発にまんまと乗って、あうあう唸りながら地味に糸を縒り始めた。
「‥‥本当に単純な子」
 後に残るはカズラのほくそ笑み。
 花謳に見守られて作業を続けていた花謳は白を基調に色を混ぜて紡いでいた。布にした時に柔らかな虹色になるようにと考えて。
「毛糸もね、そんな色合いなら花謳に似合うと思うの」
 耳を傾けるが如く首を傾げる花謳に小さく笑って、花謳は紡いだ糸を当ててみる。
「マフラーだったら、どれ位編めばいいのかな?」
 随分と沢山編まなければならなさそうだ。柚李葉が遠くへ視線を向けたもので、花謳は不思議そうに頚を寄せている。

 それぞれ牧場での休日を楽しんだ頃、お茶にしないかと渓が呼んだ。
「美味しい料理はいかがですか?」
「いなり寿司もありますよ〜☆」
「もふ!お稲荷さんもふ!」
 紗耶香とルルーの声に、もふ龍ともふ秋が駆けてくる。殊にいなり寿司はもふ秋の好物だそうで、他のもふら達も興味津々だ。
 からすのお茶席もいつものように。勿論もふらも客のうち。
 茶菓子を喜んで食べているもふら達と梨佳に茶を勧めながら、すっかり丸刈りになった浮舟に目を向けた。
 浮舟の肌はつややかで、丸裸になっても健康的なのがよくわかる。明日になれば何事もなかったように極上の毛並みになるだろう浮舟は、牧場のもふら達に美しい毛並みの維持について語り倒している。
「良い毛並みは健康あってこそ!健康から美しい毛並みは生まれるのであります〜!」
「「もふもふ」」
「健康は良い食事から!野菜とお茶がおすすめであります!」
「「もふもふ」」
 相槌なのだろうか、浮舟の演説をもふら達は熱心に聴いている。からすも黙って耳を傾けていたのだが。
「ここで、お得情報であります」
「「もふ?」」
「良い毛が売れるほどもふら達の食事も潤うのであります〜!」
「「「「「もふ!!」」」」」
「それは言い過ぎ」
 さくっと地面に突き刺さる、からすの投げた花札が浮舟の足元に飛んだ。


 暑すぎた夏な過ぎ、秋が来たりて冬になる。
 四季折々の何気ないひとときが、開拓者とその朋友達のささやかな思い出とならん事を――