ふえるもふら
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2010/10/22 05:04



■オープニング本文

 もふらさま。天儀に於いては神の御使いとされ大切にされている生物。
 食う寝る遊ぶが大好きで性質は怠惰、もこもこの毛に覆われた身体は精霊力が凝固したものであると伝えられている。

●とけるもふら?
 厳しい暑さもようやく和らいだ気がする今日この頃。
「「あついもふー」」
「「とけるもふー」」
「こわいもふー」
 秋風を爽やかに感じるのは未だ人間達ばかりのようで、牧場のもふら達は今日も今日とてもふもふもふもふやかましい。
 適当にもふもふ大合唱を聞き流したヒデが厩舎に水を撒いてやり‥‥ふと聞きとがめた。
「ちょっと待て。お前、今ナンてった?」
 心なし小さくなったような気がするもふらさまを覗きこんで、世話をする少年は問い返した。

●ぶんれつもふら
 神楽・開拓者ギルド。
 訪れたもふら牧場の少年は、胡散臭い怪談話を始めた。
「‥‥ちげぇって!これホントにヤバいからっ!」
 筆の尻で頭を掻きつつ話半分に聞いている受付係に、ヒデは必死で食い下がる。へえへえと相槌打ちながら書類を作成している係が書き留めたのは次のような怪奇現象‥‥もとい事件だった。

 神楽郊外のもふら牧場で、もふらさまがいつの間にか増えているのだと言う。
「めでてぇ話じゃねェか」
 もふらさまは精霊力が凝固した生命体、増えるという事は精霊力が満ちている事を示す。精霊力はこの世界の善きもの、満ちる事は決して悪い事ではない。
 ところが、牧場のもふら達は怯えているようだと言う。
「あののんびり屋がさ、落ち着き無くもふもふやってるんだ」
 外へ出しても厩舎に居ても、あっちでもふもふ、こっちでもふもふ動き回っているのだとか。注意深く観察していると、もふら達に派閥らしきものが出来ている事に気付いた。
「やたら目付きの悪いもふらの群れと、普通のもふらの群れに分かれてるんだ‥‥それで」
 続いた言葉は、ただもふらさまが増えただけではない状況だと示していた。
 ――普通のもふら達の大きさが縮んでいるのだ、と。

「それって、もふらさまがふたつに分かれちゃったんですか〜」
 梨佳(iz0052)の横槍に、係は阿呆かと突っ込んだ。
 もふらさまは分裂増殖はしないはずだ‥‥多分。考えられるのは、アヤカシないし害する存在が牧場に紛れ込んでいるのでは‥‥という可能性。
(「ふらも‥‥か」)
 係の推測を他所に、梨佳はお手伝い行きたいですと暢気なものだ。もしアヤカシだったら危険だとしかめ面をするヒデに対し、係は暫く考えて梨佳にひとつの約束をさせて同行を許可した。
「あァ‥‥怯えているもふらの群れと一緒に居ろ。そいつらが動いたら付いてけ、わかったな梨佳」


■参加者一覧
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
霧葉紫蓮(ia0982
19歳・男・志
海神・閃(ia5305
16歳・男・志
フリージア(ib0046
24歳・女・吟
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
ミレイユ(ib0629
23歳・女・魔
燕 一華(ib0718
16歳・男・志


■リプレイ本文

●ふらも?
 牧場に到着した一同が見たのは、至って平和そうな秋の風景だった。
 青々とした草が爽やかな風に靡き、あちこちにもふらが点在している。事情を知らなければ、ごく普通のもふら放し飼いに見えたかもしれない。

 和みますね〜と、秋霜夜(ia0979)は、もふもふが揺れるさまに目を細めた。この中に、やたら目付きの悪いもふらさまが混じっている――
「はいっ」
「はい、霜夜さん、どぞですよ〜」
 律儀に手を挙げた霜夜に梨佳が返事すると、皆の視線が一斉に霜夜へ集まった。
 こほんと小さく咳払い、霜夜は春先の経験を切り出した。
「あたし、春先に別のもふら牧場で『ふらも』退治してきました!」
 おおぅ‥‥と一同。
 仕分けの前に経験者談を聞く事になったのだが、一通り話を聞いたヒデは難しい顔して首を傾げた。
「うーん、うちとはちょっと違うかな‥‥でもナンかヘンなんだ」
 目付きは悪いが明らかな外観異常はないし、鼠算的な爆発的な増殖はないと言う。でも何か異様に感じるのだと、牧場の世話係は言った。
「前に戦った巨大なもふらのように、アヤカシの仕業なのかな」
 海神・閃(ia5305)の呟きに、そう言えば正月はありがとなとヒデ。牧場を臨む山から身体半分乗り出した超巨大もふら型アヤカシを、騎龍した開拓者達が倒したのは新年早々の事であった。
「まずは、もふらさまに事情を聞いてみましょうか」
 アルーシュ・リトナ(ib0119)はそう言って、荷からリボンや色粉を取り出した。
 色とりどりのリボンに惹かれ、もふら達が寄ってきた。
「もふー?」
「仲良しさん同士で移動しましょうね」
 言いつつ、アルーシュはピロシキを提供。あっと言う間にもふらまみれになりながら、離れた場所へ移動する。
「こちらですわ」
 杭を打ち荒縄掛けて、きっちり区分け用の場所を作って待機していたフリージア(ib0046)が手を振って合図すると、どんぐりまなこのもふら達はもふもふ騒がしく誘導されて行った。
「エルディンせんせのお弁当もありますよー」
 隔離場所で弁当箱を示す霜夜、作ったのは霜夜のサポートでやって来たエルディン・バウアーだ。ぱかっと弁当箱の蓋を開けると――
「わぁ☆かわいいー」
 ご飯の上に描かれたもふらさま。鶏そぼろや桜でんぶを使って鮮やかに、海苔の眉がアクセントになっている。
「ほらほら見て下さいな。もふらさま。はい、あーん☆」
 箸で取り、近くにいたもふらに食べさせて、霜夜は本題に入った。
「何がこわいんです?開拓者が力になりますよー」

 派閥や目付きの良し悪しで粗方分けたあと、アルーシュはそれぞれの集団の中でハープを奏で始めた。彼女が奏でているのはただの曲ではない、アヤカシにしか聞こえない音楽だ。
(「もふらに似たアヤカシふらもか‥‥」)
 手の中のモフテラスのお守りを眺めて、霧葉紫蓮(ia0982)は溜息を吐いた。
 もふら探しに着ぐるみ余興、もふらになったような気がした事もあったっけ。
 そして今回は偽もふら――ふらも事件である。
(「‥‥つくづく僕は、もふらに縁があるみたいだな」)
 紫蓮がもふらに近付くのか、もふらが紫蓮を引き寄せるのか。とにかく縁深いのは間違いなさそうだ。
 お守りを握り締め、紫蓮はもふらとにらめっこ。
「目付きの悪さなら僕も負けないぞ」
 妙な所で張り合っていた。
「え〜っと、目付きの悪いもふらさまをなんとかすればいいのよね?」
 ふらもの事はよくわかんないけど、と御陰桜(ib0271)は小首を傾げ、桜の樹の下へ。春の終わりに仲良くなった仔が、さくらんぼ収穫の時を心待ちに転寝している。
「やっほ〜♪元気シてるぅ?‥‥って、なんだかやつれてない?」
 再会のもふりに仔もふらが心地よさげに目を細めた。話に聞いた通り、少し萎縮しているようだ。
「ちゃんとご飯食べてる?」
 優しく話しかけながら、もふもふとマッサージ。
 仲間と離れて樹の下にいた仔は桜の指先に暫く癒されていたのだが、近付いて来るもふらを認めると桜の背に隠れようとした。
「?どうシたの?」
「もふ‥‥」
 せっかくみっちりぷにぷにになった身体を強張らせて、仔もふらは萎縮している。指先に伝わる細かな震えで、桜は仔もふらが怯えている事を悟った。
「あの目付きの悪いコ達にイジメられてたりするの?」
「‥‥もふ」
 桜にしっかりしがみ付いて、仔もふらが力なく返事した、その時。怪の遠吠えに、目付きの悪いもふらが反応した。
「つまり、あの目付きの悪いコ達はもふらさまじゃないってコト?」
「桜姉ぇ、気をつけて!ふらもが近付いていますよっ」
 きょとんとしていると燕一華(ib0718)の避難勧告が降って来た。渡されたピンクのリボンで仔もふらに印をつけて避難開始、でも桜にはいまいちピンと来ない。
「ふらも?アヤカシなの?元に戻れるとイイわねぇ‥‥」
 心配そうに目付きの悪いふもふも集団を見遣っている。

 続々と仕分けされてゆくもふもふ集団と、ふもふも集団。
 もふもふ集団は新しい遊びだとでも思っているのか、リボンや色粉で飾ってもらってご機嫌だ。一方ふもふも集団は羨ましい様子でもなく、じっとりとこちらを睨みつけている――
「ちゃんと整列した方が、綺麗で気持ちよいと思いませんか?」
 あっちでもふもふ、こっちでもふもふ、気ままに動き回るもふら達に整列を強要してみたものの、本もふは何処吹く風。半ば諦めてふわふわのもふもふさんをもふっていたミレイユ(ib0629)、これぞ役得と並んでもふもふしている梨佳におっとり微笑んで、暫くもふらに埋もれているように言った。
「すぐに終わりますから、この子達と仲良くしていてくださいね」
「梨佳ちゃんは危ないからもふらさま達と一緒にいてね」
「後で皆でのんびりとエルディン手作りのもふら弁当を頂こう」
 紫蓮に優しく頭を撫でられて、はぁいと暢気な返事をした梨佳は、半分以上もふ毛に埋もれながら避難区域を後にする開拓者達を見送った。

●がったい?
 ある意味、凶悪な敵だった。
「えーっと‥‥やっちゃわないとダメ?」
 桜の躊躇いも尤もだった。何せ、見た目はそのままもふらさまなのだ。アヤカシとは言え、もふもふ毛並みを見ていると人畜無害に見えてくる。
「姿を見てると気は進まないけど‥‥」
 閃はそう呟いて、ふらもの顔をじっと見た。
「ふも?」
 鳴き方が妙だった。それに、どんよりした眼。
 紫蓮は対抗心むき出しでにらめっこしていた。
「‥‥本当に目付きが悪いな」
「ふもー」
「‥‥‥‥」
「ふも‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 むか。
 にらめっこに飽きたふらもに前脚で引っかかれて、お返しにほっぺを引っ張ってやった。殆ど子供の喧嘩である。
 だが、和ましいのもそこまで。
「見た目に惑わされないように‥‥」
 じっと見つめていれば判る、もふらさまの澄んだどんぐりまなことは異なる濁った瞳――閃は両手剣に炎を纏わせると、迷いを断ち切るようにふらもに振り下ろした!
 それが戦闘開始の合図。
「雑技衆『燕』が一の華の演舞、お見せしますよっ!」
 いにしえの女傑の名を冠した薙刀を大きく回し、一華が見得を切った。
 彼の演舞は自身の力を高める為でもあり、見応えある舞でもある。遠巻きに見ているもふら達が一斉に騒ぎ出した辺り、どうやら目にも楽しい出し物と思っているようだ。
 攻撃手を支え彩るは、吟遊詩人二人が奏でる音色。
 勇壮な調べで仲間を鼓舞するフリージアと、まどろみを誘う緩やかな調べでふらもに眠りを誘うアルーシュの対照的な二つの音曲は、不思議と綺麗にかみ合って戦場に満ちてゆく。
「‥‥いきます!」
 常は使わぬ鉄爪を嵌め、霜夜が睡眠中のふらもを目指す。抵抗の余裕もなく、一頭のふらもが瘴気に還った。

 仕分けしたふらもは二十頭はいただろうか、結構な集団になっていた。
 アルーシュの夜の子守唄で、ふらもの抵抗は最小限に抑えられてはいたが、それでも開拓者達の疲労は募る。倒しても、倒しても、まだふらもは残っている。
「もふもふ‥‥ふもふも‥‥もふもふ酔いしそうです‥‥」
 果敢に攻撃を続けながらも霜夜はちょっと食傷気味。ひたすら眠りを誘いながら、アルーシュは遠吠えを奏でていた際に頭を過ぎった考えを、再び巡らせてしまっていた。
『ふらふらふらも‥‥たくさんふらも‥‥ひとつにがったいしてキングふらも‥‥』
 紫蓮がびくっと反応した。瘴気となって消えたふらもを振り切るように翡翠のまさごを纏った刀を一振り、その目付きがあまりよろしくない視線に期待少々。
(「見てみたい気もする‥‥」)
 期待の視線は段々皆に伝染してゆく。
 残ったふらも集団を囲むよう包囲陣形になったのは逃走阻止目的――のはず、だがもはやこの陣形は別の構図にも見えた。
「「ふらふらふらも‥‥キングふらも‥‥」」
 誰ともなく召喚呪文を唱え出して――やがて。

 十数頭が合体した、巨大ふらもが誕生した!

「ぶも〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「あらあら、本当に合体してしまいましたね」
 ミレイユは然して驚く様子もない。寧ろ間違って攻撃する心配がなくなりましたと、ホーリーアローからフローズに作戦変更、詠唱を始めた。
「前ほど大きくはありませんね。大丈夫倒せます」
「ぐもー!」
 閃は再び剣に炎を纏わせると、迷いのない一太刀をキングふらもに浴びせた。怒るキングに一華の薙刀が迫る。
「雑技衆『燕』が一の華が舞、ご覧じろですよっ!」
「ぐもぉ〜〜」
 瞬間、一華の上げた薙刀が朱に染まった。夕陽を思わせる力ある光が、キングを構成する瘴気の流れを乱す。眩しいのか、どんよりまなこを細めたキングは合体解除こそないものの明らかに弱っている!
「皆さん、今です!」
 フリージアが一際強く弦をかき鳴らした。武勇の曲、仲間の身の内に新たな勇気が沸き起こる。詠唱を終えたミレイユが放った冷気がキングの身を竦ませ、続いて紫蓮の太刀筋が轟音を伴ってもふ毛に沈む。白いもふ毛に桜の花が咲き、抉るように霜夜の鉄爪が引き裂いた。畳み掛ける集中攻撃はアヤカシへの慈悲かもしれぬ、一瞬にしてキングふらもは無に帰した――

●そして牧場は平和になった
 さらさらと、霧が晴れるように瘴気が消えてゆく。
「ヤっつけちゃったわねぇ‥‥」
 意外とあっさり倒された巨大ふらも、案外ブサ可愛いかったわねと桜はちょっぴり惜しそうだったが、問題はもうひとつ残っている。
「早く元のもふもふなもふらさまに戻れる様に、何か出来ないかしら?」
 避難場所で思い思いにごろごろもふもふしている毛玉集団に困った様子はないけれど、小さくなったと聞けば何とかしてあげたいというものだ。
 区切りの向こうで梨佳が手を振っている。ふらも乱入を危惧していた霜夜だが、エルディンの援護を受けずに済んで良かったと思う。
 ‥‥ぐぅ。
「安心したら、お腹が空いてきちゃいました」
「行こう、エルディンが待ってる」
 てへ、と笑って誤魔化す霜夜に、紫蓮は手を差し伸べた。

 お帰りなさいと迎えられて、ミレイユはおっとりと微笑んだ。梨佳と一緒に、もふらさまが足元に寄って来る。
「もふー」
「ありがと、って言ってるみたいですね〜」
 あたしからもありがとです。梨佳にそう言われて、ミレイユは再び深紅の瞳を優しく細めた。
 向こうでは既に戦い後の宴会が始まっている。
 弁当の蓋を開けると、もふら顔。
「‥‥‥‥」
「紫蓮さん?美味しいですよ?」
 無言で弁当を凝視している紫蓮に閃は声掛けて弁当をぱくついた。
 ああ、もふらの顔が半分に!
 悲痛な表情になった紫蓮を、梨佳まで心配そうに見ている――と、紫蓮が皆に気がついた。
「‥‥み、見た目が可愛くて箸が進まないわけじゃないぞ?」
 可愛くて食べられないんだ。
 そういう事ならと安心した梨佳の頭をくしゃりと撫でて、紫蓮は感心しつつも箸を入れた。
「うん、旨い。エルディンありがとう」
「お口に合って良かったですよ」
 エルディンは霜夜に出し巻き玉子を勧め、お茶を淹れてやる。
 桜は仔もふらと弁当を半分こ。
「あ〜ん♪」
 桜の声に仔もふらは素直に大きな口を開けて、もふもふ。ごはんの後は、もっふりリラックスまっさ〜じが待っている。

 もふら達に囲まれていたアルーシュは、小さくなったもふらを膝に抱いて、精霊語で優しく口ずさむ――愛の詩。
 心地良さげに目を閉じたもふらは心から癒されているようだ。何故なら、その毛並みが柔らかくもふもふさが増してきたから。心の旋律にそんな効果はないけれど、優しい心がもふらに力を与えているようだった。
 周囲のもふら達はアルーシュのピロシキを頬張りながら調べに耳を傾けている――あ、もふらもどき。もふらに混じってピロシキをいただいていた梨佳は紫蓮お手製の沢庵も貰ってご満悦。
「本物のもふらか確認は必要ですわ」
 なんて尤もらしい理由のもとにフリージアはもふら達をもふもふ。並んで毛繕いをしていた一華は、梨佳に最近もふらを飼いはじめた事を語った。
「ボクももふらさまと一緒に過ごすようになったですよっ」
 淡い緑の鬣をしたもふらは眠りんぼうの暢気者だそうで、話を聞いた梨佳は今度会わせてくださいねと言ったのだった。