船だまり、朋たまり
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 49人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/10 15:51



■オープニング本文

●船集う場所
 港という場所は、人や物が集まる場所だ。
 殊に遭都・神楽の港は、開拓者が使役する龍やミズチなどの相棒を繋留している事もあって、通常の市を出入りする買い物客以外にも開拓者や物見高い観光客まで幅広く行き交う場所である。
 さて、開拓者ギルドに届いている報告によると、貸与龍に名前を付けないまま港に放置している新米開拓者がいるのだとか。
 開拓者ギルドに登録したとてすぐに仕事がある訳ではなく、寧ろ仕事を取るまでは別の事で糊口を凌がねばならぬ。登録時に貸与された龍の世話が疎かになってしまう開拓者も珍しくない‥‥が、相手は生物である。如何に職員が常駐しているとは言え、主に放置された朋友というものは何とも切ないものであった。

●朋に逢いに
 銀河の様子を見に行ってくれないかと言われて、梨佳(iz0052)は目を輝かせた。
 開拓者ギルド所有の駿龍・銀河は、騎龍の心得がない一般人の梨佳を大人しく乗せてくれる、利口で人慣れした龍だ。遠方の使いに行く時などに時折乗せて貰ったものだが、最近は使いに行く事もなく、自然銀河とも会わずにいた。
「銀河、元気でしょうか〜」
 すぐにでも飛び出して行きそうな梨佳を止めて、職員は開拓者と一緒に行くようにと命じる。たかが港へ行くだけなのにと首を傾げた梨佳に、職員は「これは開拓者支援の一環だ」と告げた。
「朋友との距離を測りかねている開拓者に、朋友慣れして貰うのが目的だ」
 言いつつ梨佳に壁貼り用の書類を手渡す。
 そこには『武器も朋友も開拓者の相棒』と書かれていた。


■参加者一覧
/ 志野宮 鳴瀬(ia0009) / 崔(ia0015) / 羅喉丸(ia0347) / 玖堂 真影(ia0490) / 貉(ia0585) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 海神 江流(ia0800) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 辟田 脩次朗(ia2472) / 周太郎(ia2935) / シエラ・ダグラス(ia4429) / フェルル=グライフ(ia4572) / ペケ(ia5365) / 設楽 万理(ia5443) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / 只木 岑(ia6834) / 一心(ia8409) / 玖堂 紫雨(ia8510) / 和奏(ia8807) / 霧咲 水奏(ia9145) / 茜ヶ原 ほとり(ia9204) / 木下 由花(ia9509) / ラヴィ・ダリエ(ia9738) / 千代田清顕(ia9802) / 尾花 紫乃(ia9951) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / ザザ・デュブルデュー(ib0034) / アレン・シュタイナー(ib0038) / レートフェティ(ib0123) / 御陰 桜(ib0271) / 不破 颯(ib0495) / 燕 一華(ib0718) / 无(ib1198) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 久悠(ib2432) / 駒鳥 霰(ib2900) / ティンタジェル(ib3034) / オデュッセウス(ib3092) / †朔夜†(ib3095) / ガーリックバター(ib3141) / 各務 夕貴(ib3168) / けンじ郎(ib3177) / 奈緒(ib3190) / 神魔必滅(ib3195) / north(ib3196


■リプレイ本文

●一日の始まり
 かはたれどき。まだ夜の領域から抜け切れぬ頃の港には、既に人影があった。
 直立する人と大人しく控える龍の影。
 月の位置から氏族が定めし神おわす方角を特定したモハメド・アルハムディ(ib1210)は、直立し神への敬意を唱えた。
「アラーフアクバル‥‥」
 協力し合う仲間、朋友である駿龍ムアウィヌンを前に港で行う礼拝。普段此処で礼拝は行わぬモハメドの声は平生と変わらぬように聞こえる。しかし、彼の内面を知るものであれば高揚している事に気付くだろう。
「アラーフアクバル‥‥」
 直立の姿勢から屈伸礼に移り、一心に神への敬意を唱える。モハメドは自身が巡り合った状況を、神の導きと感じずにはいられなかった。
 かつて国を築いたという氏族の祖先の王は、新月を自ら達の意匠と定めた。昨今話題の栢山遺跡、発見した考古学者が唱える新儀の名は『あるかまる』と言う――それは、彼の氏族の言葉で『月』を意味していた。
「アラーフアクバル‥‥」
 再び直立し、平伏礼の姿勢を取ったモハメドは感謝と祈願を胸に唱えた。
 故郷の氏族に代々伝わる悲願。旅商として各地を巡る現在の氏族の多くが未だ知りえぬ、伝承の国は。
 いつかムアウィヌンと共に飛翔する日が来る事を信じ、彼は神を讃え祈る。いつしか薄い光が昇り始めていた。
 生まれたての朝日の中を、釣具抱えた辟田脩次朗(ia2472)が歩いていた。既に暗いうちから釣りをしていて釣果があったのだろう、下げた桶に重みが伺えた。甲龍の止来矢を連れ出して、水辺に場を据える。
「次の依頼頑張りましょう、止来矢」
 しらいし、と呼ばれた甲龍は脩次朗の桶が気になるようだ。せがむように桶より大きな頭を突っ込もうとするのを優しく制して、脩次朗は一番の大物を掴み挙げた。
 止来矢の口元に持っていってやると、つるんと丸呑み。味わっているようにはみえませんねと苦笑いしつつも、次々魚を呑ませてやる。喉越しが良いのだろうか、否、脩次朗に餌を貰うのが嬉しいのだろう。止来矢の食欲は旺盛だ。
「次の依頼で、もっと沢山食べさせてあげましょう」
 脩次朗は空になった桶をひっくり返して次の約束をすると、棕櫚束を手に止来矢を水際に誘った。力を入れて止来矢を擦り上げて、来るべき依頼に備えている。

 薄明かりを頼りに修行に励む開拓者は案外多い。人知れずのつもりが、同じ事を考える者は多いという事か。
 ――なんて言っても、久し振りに来たんだけどね!
 忍犬の吉良を連れて訪れた設楽万理(ia5443)、港に到着すると人もまばらな周囲を見渡して、絶対ここって最初は朋友を管理する場所になる予定じゃなかったんだろうな!などと考える。
 やがて神妙に吉良を見下ろした。
「さて吉良」
 来た。
 いつもの切り出しにもめげず静かに万理を見上げる吉良。わかってるんだ、このあとご主人は無茶振りするんだ。
「ここは港、目の前は海。冬毛を完全に取り去るために今日は水練でも行いましょうか?」
 来たよ。ご主人の無茶振り。
 従順に見上げながら、吉良は聞いた話を思い出す。確か、近所の小父さんに騙された子供の頃のご主人が、当時の飼い犬を川へ放り込んだ――だったか。
(「可哀想に、その犬は雨や水溜りやご主人を恐れるようになったんだっけね。それ虐待だよ勘弁してよ」)
 ご主人の苦い思い出ではないのか。
 そう言いたげに見上げる吉良へ、万理は事も無げに言った!
「虐待と思われるのは心外だから、今回も私から飛び込めば良いよね」
(「!!」)
 主従の水練が行われたかどうかは――さて、吉良は答えてくれるかどうか。
 離れた場所で土偶ゴーレムに相対しているのは巴渓(ia1334)。
 何処か統一感のなさを感じさせる土偶ゴーレムは、渓が戦場に放棄されていた残骸を集めたものだ。多くの協力者を得て漸くの再生を果たした土偶ゴーレムのメタルは起動の時を待っていた。
(「合戦には間に合わなかったがな‥‥」)
 ジルベリアでの対アーマー戦を想定していたものの、修復に存外時間が掛かってしまった。だが、破壊されたいくつもの残骸から生まれ変わらせた苦労と努力――何より渓だけの朋友の誕生だ。
「よーしメタル!ハンガーリフトオフ、セットアップレディ!!」
 昇りかけた朝日を背に、メタルに生命の火が灯った。

 おはようございますと常駐の職員に挨拶すると、顔馴染みなのか親しげな反応が返ってきた。
「今日も頑張ってくださいね」
 只木岑(ia6834)に掛けられた言葉の意味は、彼が駿龍・扶風に会いに来たのを知っているからだ。職員に見送られ、一途な岑は扶風の繋留されている柵へ。
「扶風、今日は涼しいね」
 顔を出しても名を呼んでも扶風は見向きもしない。さすがにこの様子にも慣れてきたところだ。そ知らぬ顔の扶風に凹む様子もなく、岑は扶風を連れ出した。
「飛ぼうか」
 戦いは好まぬが飛ぶ事自体は好きらしい。意思表示さえ見せぬ扶風に龍用の鞍を付けると、岑を背に乗せた扶風は爽やかな朝の空へと飛翔した。
「今日、模擬空戦があるんだって‥‥」
 岑の言葉に初めて反対の意思を示す扶風。出ないよと岑は演舞参加を誘ったが、これも却下。
「わかったよ。扶風の飛びは燕みたいに鋭くて優雅だで綺麗なのにな」
 低く唸った扶風の意思を尊重はするものの、岑は少し残念そうだ。
 まだまだ手探りだけれど、これから築いてゆければいい。まったり空を滑りながら、主従はゆっくりと絆を深めてゆく。地上ではそろそろ人が集まり始めていた。
 開拓者ギルドから連れ立ってやって来た燕一華(ib0718)と礼野真夢紀(ia1144)、手分けして抱えているのは真夢紀特製お弁当。
「本日は、ちぃ姉様が送ってくださった枇杷もあるんですの」
 梨佳が持っている籠がそれらしい、ふんわり掛けられた手拭を通して、甘い香りが漂ってくる。一緒に送られてきた筍は、新じゃがいもと合わせて酢醤油で和えたとか。これから会いに行く駿龍の鈴麗も食べるかもと、真夢紀はお重に沢山用意していた。
 一華が梨佳に案内されたのは、比較的新しい繋留場だった。
「わぁっ、青い綺麗な姿ですねっ!」
 この日、一華は初めて自身の朋友と対面していた。龍を貸与されている事を知らなかった新米開拓者はやはり少なくはないようで、開拓者ギルドの啓蒙活動はそれなりの成果を上げているようであった。
 幾分小柄な青い鱗の駿龍の名を尋ねた一華に、梨佳は名前を付けてあげてくださいとにっこり。
「んー‥‥それじゃあ『蒼晴』なんてどうでしょうかっ!」
 そうせい。空高い青天白日のように、見た人接した人の心を晴れやかにする想いを籠めて――そう一華は言って晴れやかな笑みを浮かべた。お揃いのてるてるぼうずを首に下げれば、蒼晴とはもう友達だ。蒼晴は気に入った様子で一声鳴いた。
「りーんれぃ♪」
 一方、真夢紀は慣れた足取りで鈴麗の許へ。おっとりと出迎えた鈴麗が枇杷の香りに鼻先を蠢かせた。
「今日は人が多いよねぇ。あっ枇杷は後でね、天気良いし体洗おっか?」
 中天に上る前の太陽、一日はまだこれからだ。鈴麗の身体を洗ってやって、のんびり日干しで乾かして。行き交う人や朋友達を眺めつつ、一人と一頭はいつものように仲良く過ごしている。

 梅雨の晴れ間は水浴び日和だ。
 繋留している甲龍の頑鉄を気分転換させようと、羅喉丸(ia0347)は彼を外へと連れ出した。
 風は凪ぎ、陽の光がキラキラと反射している。主従並んでのんびりと、日光浴を決め込んで、うつらうつらとしはじめた頑鉄に背を預け、羅喉丸は欄干から釣り糸を垂れていて、ふと頭を過ぎった素朴な疑問。
「頑鉄、御前は泳げるのか?」
 そう言えば、泳ぐ龍の姿というのは見た事がないような。だが「少し試してみるか」と声を掛けてみると頑鉄は素直に頚を持ち上げた。嫌がっている様子ではないので、念の為に命綱を付けてやって泳がせてみる。すいっと海に入った頑鉄はさして暴れたり抵抗したりもなく、ただ水面にぷかっと浮き上がった。
 頚だけを此方に向けて「どうする?」とでも言いたそうだ。やがて水泳に適していそうには見えない前脚を使って、犬掻きの真似事を始めた。
「すごいぞ、頑鉄。泳げたのか」
 淡々と海中を移動する頑鉄の表情からは窺い知れないが、意外と楽しいのかもしれなかった。
 龍が泳ぐ様子を遠目に、釣りに興じる人と龍。
 波止場を釣り場にしているのは不破颯(ib0495)と駿龍の瑠璃だ。元気そうな瑠璃の様子に、繋留中の仲間とのトラブルもなさそうだと安心して、釣針を凪いだ海へと投げた。やがて浮きに反応があって引き上げてゆくと――
 ばしっ。
「瑠璃ぃ、手伝ってくれるのは嬉しいけどミンチだなこれはぁ‥‥ま、いっかぁ」
 海面まで上がって来た魚に尻尾でトドメの一撃。瞬間、挽肉と化した魚は海に落ちた。釣果にはならないけれど、瑠璃が楽しそうだしこれはこれで良いかと颯は気にした様子もない。時々、新鮮な撒き餌を振舞ったおかげか、瑠璃の手伝い(?)の合間にそれなりの釣果があった。
 千代田清顕(ia9802)は、船の出払った広い波止場で忍犬のモクレンとボール遊び。
「モクレン、上手いぞ」
 飛んできた球を器用に頭で打ち返すモクレンを褒めて、清顕は球を蹴り返す。時々しくじるモクレンを冗談交じりにからかったりもして、仲良く楽しんでいると。
「あ、すまない‥‥こらモクレンっ!」
 蹴り上げた球の飛距離が長すぎたようだ、勢い良く跳んでいった球は地上を越えて海にぽしゃりと落ちた。
 追ったモクレンは躊躇いもなく夢中で海へダイブ。泳げない訳はないはずなのに、興奮状態で犬掻きを忘れたか、モクレンは海中でじたばたしている!清顕は慌ててモクレンを追った。
「まったく‥‥お前泳げるだろう?‥‥っ!」
 這々の体でモクレンを引き上げた清顕のお小言などお構いなしで、モクレンは濡れた毛をぶるりと振って清顕に雫のお返事。そ知らぬ顔で耳の後ろなど掻き始めた忍犬を見ていると何だかどうでも良くなって、清顕は笑いながら相棒を許してやった。
「さ、昼飯にしよう。お前の好きな骨付き肉持って来てやったぞ」
 そろそろ昼時だ。
 おやおやと入水主従を見遣った颯は、空を見上げ随分長い間釣り糸を垂れていたもんだと考える。
「そろそろ昼飯にしようかぁ」
「キュ〜♪」
 嬉しげに鳴いた瑠璃のお昼は釣ったばかりの魚。颯は持参の弁当を。
 そういや模擬戦をするって言ってた開拓者達がいたっけな。
「どれが勝つか、おかずと魚賭けようかぁ」
 龍相手に戯れの賭けに興じつつ、のんびりと模擬戦開始を待っている。

●訓練びより
 青空に球が跳んだ。
「ティンタジェル殿ー」
 がこんと回した仕掛けから球を跳ばしてザザ・デュブルデュー(ib0034)が声を掛けると、美しい緑鱗の龍が球を追った。肩で揃えた紫の波打つ髪をふわりとゆらし龍上の少女が球を捕まえる。
 ザザの頭上辺りで旋回し球を地上へ落としたティンタジェル(ib3034)は、遊びの延長でできる訓練を駿龍のジャスパーと共に楽しんでいた。
 地上で大掛かりな仕掛けを操作しているザザも、これは趣味の延長だ。足漕ぎの仕掛けで球を跳ばすよりも、志体持ちの生身で投げた方が効率良いだろう事は判っていたけれど、自作の機械を実用する事に彼女の浪漫があった。
「おじゃましてもいいかな?」
 二人が地上と空で球を遣り取りしているのを見て、无(ib1198)がザザに声を掛けた。
 仕事を早上がりで終えた无は駿龍の風天と昼食を共にと立ち寄ったのだが、どうやら今日は相棒と絆を深める日らしい。食後かつ无と遊べるのが満足な様子の風天を連れて港を散策していて、ザザ達を見つけたのだった。
「曲芸飛行は腹ごなしにすればいいしね」
 歓迎するザザに微笑んで、无は龍上の人に。風天を駆って青空へと飛び立った。
「あとで代わって貰おうな」
 甲龍のイフィジェニィをちらと見て、ザザは付き合ってくれると良いのだがと苦笑した。

 少し離れた所では、模擬戦が始まっている。赤と青、それぞれ旗を装備した乗り手と共に龍が舞う。
「鎗真、勝ち負けは気にするな!行くぞ!」
 白銀の鱗が美しい駿龍の鎗真を駆る酒々井統真(ia0893)は青旗だ。人であれば苦労人になるであろう鎗真は、血気盛んな主を乗せて果敢に赤組へ向かってゆく。
「難を拳で打ち砕き突き進む君の力、試させて頂こう」
 対するからす(ia6525)は妖しく笑むと「参る」と一言、いつもの如く何にも動じず漆黒の駿龍に言葉少なに命じた。
「鬼鴉、『飛び回れ』」
 普段のぐうたら振りが嘘のような俊敏さで、鬼鴉が鎗真の特攻を交わす。撹乱するように急旋回した鬼鴉は、間合いを取ると一気に反撃に出た。
「そうはいくかよっ!」
 お返しとばかりに回避させた統真、鎗真を縦横無尽に飛ばせて鬼鴉の追撃に備える。
「お前の翼を信用してる、思いっきりやれよ!」
 最近は別の朋友を同伴する事が多かったから、今日は思う存分飛ばせてやりたいと勝負度外視で共に楽しんでいる統真に、鎗真は心得たとばかりに一声吼えた。
 そして、旗を取り合うもう一組‥‥否、旗を巡って飛行を楽しむ二組というべきか。
 中天に近い太陽を背に、駿龍が大きく翼を広げた。一気に駆け昇った蒼き駿龍、珂珀は向きを変えると雪灰色の駿龍に向かって急降下した。
 近付く珂珀の乗り手は一心(ia8409)、対手が接触するまでの距離を目算しつつ、久悠(ib2432)は、にや、と笑って真昼の月が如き駿龍・白月に語りかけた。
「さて、行くか」
 白月の背に身を伏せた久悠、しっかりと手綱を握ると珂珀すれすれの位置に飛び出した。
 目指すは珂珀の装備する赤の旗、吼えはせぬが苛烈な性情そのままに、白月は好戦的に珂珀へとぶつかってゆく。
「‥‥ちっ」
 指先が旗の柄にかすったのみで離れた両者、久悠は苦笑しているものの何処か楽しそうだ。遠目に、光に反射した珂珀の白い爪がきらと光った。
 一方、一心は冷汗。ギリギリの緊迫感は楽しいが、急降下の勢いに迎撃の勢いを乗せた両者が接触するのはかなり危険だ。間一髪、怪我にならずに済んで一安心。
 楽しむ事を目的に模擬戦を行っていたから、この模擬戦は旗を取られるか対手を怪我させると負けという決まりだ。皆、一様に勝ち負けには拘っていなかったけれど、勝負に限らず怪我は避けたいところだ。
「珂珀、もう一度飛ぶぞ」
 空を飛ぶのが何より好きな駿龍に声掛けて、一心は再び珂珀を高く高く昇らせた。
 すれ違った久悠の方は寧ろ気合が入ったようだ。
「なぁ、白月。お前も生き生きしているな。楽しいか。私もだ」
 不敵に笑うと模擬戦区域を見渡すと、漆黒の龍が白銀の龍に襲い掛かっていた。かなりえげつない。
 からすが龍の背から容赦なく放つ矢に鬼鴉の衝撃派が重なって鎗真を襲う。
「ちょ!スキル使うかそこ!?」
「大丈夫、当てないから。風圧如きで怪我はしないだろう」
 今、からすから邪な笑みがこぼれたような気がする。
 焦る統真を他所に、追ってくる攻撃をかわす鎗真は伸び伸びと楽しそうだ。ま、いっかと肩竦め、統真は戦いの高揚感に身を投じた。

 暫く後。飛空訓練と模擬戦を終えて、一同揃って昼御飯。
「皆お疲れ。茶は如何かな?」
 先程の黒さは何処へやら。いつも通りのからすが茶を淹れてゆく。
 一足早く昼食を済ませていた无は茶菓子を、他の皆は久悠が用意したお握りで一休み。小女子お握りを頬張ったザザが、早速昼寝に入ったイフィジェニィに目を向けた。まあ、遊びに付き合ってくれただけでも良しとしよう。
 まずは相棒を労わって白月に鶏肉と果物を与えてから、久悠は焼きお握りに手を伸ばす。好物に喜色を浮かべて平らげる白月の食いっぷりを眺めつつ、いつか白月にも気の合う龍ができればいいなと考える。
 ティンタジェルはほっと息をついた。初めて他の開拓者達と行動したのだけれど、自身もジャスパーも受け入れられて馴染んでいるのが嬉しい。良い交流の機会が持てた事に感謝する。
 飛び足りない珂珀の様子に苦笑する一心は、食事の後でもひと飛びしませんかと統真を誘い。からすは寝た振りを決め込む鬼鴉に「楽しかったか?」と声をかけ。
「そうか。ならよし」
 僅かに返ってきた反応に、鷹揚に頷いた。

●のんびりとまったりと
 初夏の晴れた昼下がり。
 美貌を保つ充分な睡眠、調和の取れた栄養。しっかり摂ってお肌艶々の御陰桜(ib0271)が港に現れた。
「桃、どこかなぁ〜?」
 生真面目な忍犬を探しててくてく歩いていると、夏近い陽射しの中を元気に駆け回るわんこの姿が。
「いたいた♪桃〜♪」
 ぶんぶん手を振ると、ダッシュの自主訓練中だった桃が桜に気付いて飛んできた。大好きな桜のもふもふ責めをお腹に受けながらご機嫌にころころしている。
「桃ってホントに頑張り屋さんよねぇ♪」
 喜ぶ桃をもふもふしつつ、桜は持って来た球を取り出した。最近流行中の蹴球用球『友だち』だ。
「桃〜こんなの貰ったんだけど、ちょっと遊んでみない?」
 もちろん桃に否やはない。大好きな桜と一緒に遊べるのだから。桃は元気に一声鳴いた。
 見下ろすと、仲良く球を追う桃色の主従が見えた。
 空に浮かんでいるような心地よさを泉宮紫乃(ia9951)は感じていた。特に今日の空中散歩は港、海が近い分、上も下も青一色で――
 ――と、空色の駿龍が一声鳴いた。
「‥‥シエル?」
 気付けば、知らずシエルの背から身を乗り出していたようだ。警告の一声は心配する姉の如く、紫乃は感謝を伝えるとシエルの背を撫でた。
 紫乃がしっかり掴まり直したのを感じとって、シエルは風と共になる。
 滑空するシエルの背に掴まって、紫乃は龍の優しさを感じる。紫乃が落ちないように、揺れないように気遣ってシエルが飛んでいるのは、背にいてわかった。
「大好きよ、シエル」
 周囲の景色を彼女が楽しめるように飛んでくれているシエル。優しいシエル。
 思わず呟いた紫乃の視線の先、シエルの頚が動いた。笑顔だ、と何となく感じた。
「いい天気ねぇ、パティ」
 陸から滑空する龍を眺め、のんびりと雪原の如き白龍の背に身体を預ける。
 シエラ・ダグラス(ia4429)は久々の休暇を駿龍のパトリシアと共に過ごしていた。食事や毛繕いの世話を一通り終えて、今は一緒に昼寝の時間だ。
 親族全てを戦で失ったシエラにとって、パトリシアは最後に残された唯一の家族だ。戦いに於いて遅れを取らぬよう普段は厳しく躾けてはいるが、それも愛情の裏返しに過ぎぬ。
 かけがえのない相手。種を越えた家族が寄り添う様は恋人同士にも似て、水も漏らさぬ仲の良さだ。
 シエラになかなか良縁が巡って来ないのは、他者の介入を許さぬ一人と一頭にも一因があるとかないとか――そんな事はお構いなしに、二人は休日を満喫している。

「ガルーダがいい子なのは分かっているのですけれど‥‥」
 相棒の甲龍と親睦を深めるべく、懸命に笑顔の練習をしていたラヴィ(ia9738)は、強張った笑みを浮かべて言った。
「でも時々ガルーダったら、牙を剥き出しにしてニヤニヤしてたり‥‥ラヴィを美味しそうって思ってるような気がして‥‥」
 ちんまり愛らしい白兎のようなラヴィ。確かに龍の口なら一呑みかもしれない‥‥
 いやいや、それでは龍との親睦は深められない。怖がりやなぁと、ジルベール(ia9952)は妻に笑いかけた。
「甲龍って大人しいから噛み付いたりせーへんで?なあガルーダ」
 がぶ。
 言ったそばから噛まれている。お茶目な夫の背に隠れ、ラヴィは恐々とガルーダを覗き込んだ。
「ガルーダ、ラヴィは食べちゃダメなのですわ?」
 大地を思わせる無骨な体躯の龍は、そしらぬ顔をしている――
 閑話休題。
「‥‥まあ、ガルーダは顔が怖いから上級者向けかもな」
 そこでや、とジルベール。自分の相棒、ネイトを曳いてきた。榛色した駿龍は主に似て精悍、龍と呼ぶに相応しい勇猛さが伺える。ただ、青みがかった灰色の瞳は穏やかで、優しげな印象を与えた。
 とは言え、龍。やはり触れるのは怖い。大きな動物は得意じゃないのですと小動物よろしく震えているラヴィは愛らしいが、いつまでもそれでは問題だ。彼女もそれを克服すべく港を訪れている訳で。
 やがてラヴィは、頚を寄せてきたネイトにそっと手を伸ばした。
「ラヴィ、触れたやん!慣れてきたら餌やってみよな?俺らもお昼にしよか」
 おっかなびっくり手を引っ込めた妻を盛大に褒めて、次のステップへ。生肉を手ずから龍に食べさせてみよう。ネイトも心得たもので、生肉だけを器用に咥えて旨そうに食べた。
「ラヴィ、俺にも食べさせてくれへん?」
 あーん♪
「‥‥召し上がるのです??」
 不思議そうに生肉を差し出したラヴィに、いやそっちじゃなくてとジルベール。
 カフェご自慢のシェフたるラヴィ特製の弁当の中身はジルベールの好物ばかり。ちょっぴり照れて、ラヴィはオムハンバーグを食べさせてあげた。
「ガルーダも食べさせてもらい?‥‥なぁネイト、お前もヤキモチ妬いてくれたりせーへんの?」
 いまだぎこちない妻と甲龍の関係、ガルーダが自分に焼餅を焼いているのが見て取れて、ジルベールは水を向けてみる。少しずつ絆を深め始めたガルーダ達を見守りながら、ネイトの鼻先を撫でた。
「ネイト、いっつも無茶させてゴメンな。ラヴィの次にネイトを愛してるで」

 少し離れた所で、アレン・シュタイナー(ib0038)がリンゴを剥いている。器用にウサギ型に剥かれたリンゴを炎龍のアッシュに差し出して、アレンはヴォトカを一口含んだ。
「次の戦では活躍させてやるから、それまでもう少し待ってくれよ?相棒」
 大人しく、小さなうさぎリンゴをしゃもしゃも食べているアッシュに話掛けて、向こうからやってくる主従に声掛ける。
「よう、あんたも食べるかい?」
 酒もあるがとアレン。黒い仔犬を連れた菊池志郎(ia5584)は、穏やかに微笑むとうさぎリンゴをお相伴。
「そいつは忍犬かい?」
「ええ、まだ半人前ですけれど」
 犬だから半犬前でしょうかなどと雑談を交わしていると、自身の事を言われているのだと気付いたか仔犬は尻尾を振りつつアレンに近付いた。
「愛想良い奴だな」
 忍犬として一通りの訓練は済ませているものの、人の多い場所、見知らぬ巨大生物に興味は尽きぬようで、興奮は抑えきれぬようだ。
「いつでも平静でいることは大事ですよ、初霜」
 さすが忍犬の訓練を受けているだけある。志郎の一声に、次第に勢いを増していた毛先のみ白い黒尻尾がぴたりと止まった。
「合格です、初霜」
 騒いだり走ったりせず、志郎の声に従順に反応した初霜を褒めてやって、あとは遊びの時間にしましょうと愛情たっぷりに微笑んだ。
 訓練を終えた各務夕貴(ib3168)が戻って来た。
 貸与されたばかりの炎龍・赤牙に騎龍し暫く空を駆けていた夕貴は、赤牙を曳いて水辺に向かうと上着を脱いだ。共に水浴びして涼を取った後、波止場で並んで行き交う人々をのんびりと眺める。
 この主従、どことなく似ているかもしれぬ。
 まだ築き始めたばかりの絆だけれど、赤牙とは上手くやっていけそうな気がした。

 日光浴日和だった。
 たれんとだれている駿龍の夜行と崔(ia0015)は、似た者同士という言葉が良く似合う。おっとりのほんと陽射しを浴びて、一人と一頭は誰か待ち人がいる模様。やがてやって来たのは同居人。志野宮鳴瀬(ia0009)の姿を認めて、崔は夜行の背中から、だれんと手を挙げ合図した。
「‥‥よお。折角の海での休日だ。眺めてるから鳴、お前泳いでこね?」
「見世物っ!?此処は海じゃなくて、港!それにナイチチ晒す程の勇者じゃないし!」
 咄嗟に己が胸元を隠した鳴瀬がキッと睨むと、甲龍の時雨が、にやにやしている崔の後頭部へ、ふんっと鼻息を吐いた。
「だぁっ、暑苦しい癖は止めい!」
 熱風の掛かった頭をわしわし掻き毟り、冗談は程々にしとこうかと表情を改める。今日は鳴瀬と時雨の飛行訓練に付き合う約束をしていたのだ。
 んじゃ始めるかと鳴瀬を促す。口調はともかく真面目に訓練に付き合ってくれるのだとわかっていたから、鳴瀬は素直に時雨の背に乗った。
(「何時までも時雨任せとは参りませんし‥‥」)
 少々緊張の面持ちなのは、まだあまり騎龍操作に慣れていないからだ。時雨をゆっくりと上昇させ少しずつ慣れてゆく。
 ゆっくりと併走し先導をしている崔と夜行は、日光浴していた時のだらけ振りは何処へやら。妹のような鳴瀬と姉のような時雨が徐々に慣れてゆけるよう気遣った指導を行っている。二人と二頭の訓練は夕方まで続いた。
 さて、こちらも先輩から後輩へ。
 お茶とお握り、おかず少々を並べ、差し向かいに親睦を深めている猫又二匹――と開拓者二名。
 木下由花(ia9509)は神妙な面持ちで「よろしくお願いいたします」と頭を下げた。
「本日は、結珠さんに猫又社会を教えていただければと思っております」
 勧める鬼啼里鎮璃(ia0871)から恐縮して茶を受け取った由花、自身の猫又・月花を紹介した。
「月花くんは、甘えっこなので…。まぁ、そこが可愛いのですが」
 由花、親馬鹿――もとい甘々飼い主である。
 尤も甘々なのは鎮璃も似たようなもので『結珠さん大好き』な鎮璃の想いは、ほぼ一方的な片思いに近いものだったりする。月花さんとお友達になってくれると良いんですけど、と件の結珠を見遣れば、何やら入れ知恵中のよう。
「‥‥結珠さん?何教えてるんですか?」
「上手なおねだりの仕方♪」
 一も二もなく願いを叶えてくれそうな飼い主達だが、猫又には猫又なりの駆け引きがあるようだ。尚、おねだりの方法は秘密だそうで。
「あと、ボス猫との挨拶の仕方とか、地域猫との融け込み方ね」
 猫又の処世術を月花に教えているらしい。
 神妙に伺っている月花に並んで、由花も結珠のお話拝聴中。結珠とも友達になりたいのだと、ねこみみ頭巾を被って結珠の揺れる二股尻尾を追うている。
「結珠さんは、綺麗な毛並みですね〜。ちょっと撫でてもいいですか?」
 柚子色の毛並みをうっとり眺め、おねだりしてみたり。月花を撫で撫でしていた鎮璃は、結珠が触れさせてくれるか固唾を呑んで見守っていたとか。
 由花が持って来た球に猫又達は大喜び、つんつんころころ仲良く遊んでいる様子を眺めつつ、人間達は食後の甘酒でまったり寛いでいたのだった。

 平和で穏やかな昼下がり。
 フェルル=グライフ(ia4572)は炎龍のエインヘリャルを前に気合充分。
「レティ、見ててください。今日こそお手をしてもらうんですっ!」
 いつもフェルルがお手をせがむと、エインヘリャルはソッポを向いてしまう。その様まるで呆れ顔――なのに、おねだりを諦めるとフェルルに甘えて鼻先や尾を摺り寄せてくるのが何とも小憎らしい。
 ムキになっているようにも見える友人の姿に、レートフェティ(ib0123)はちょっぴり困ったような笑顔を浮かべた。犬じゃないのだから、はたかれるのが落ちではなかろうか。
 ともあれ、フェルルは真剣だった。主人たる者の意地を賭けていた。
 睨みあう(?)友たちの様子を他所に、レートフェティは球を取り出した。軽く投げ上げて、甲龍・イアリの興味を引いてみる。
「イアリ♪」
 名を呼びイアリの鼻先へ投げ上げてやると、球を打ち返してきた。
「イアリ、上手い上手い♪」
 いささかオーバーに褒めてやる。イアリは何だか得意そうだ、それに楽しそう。
 何度かトスを繰り返し、イアリの鼻先を撫でて褒め称えたレートフェティはご褒美のオレンジを与えてやった。
「イアリちゃん上手っ♪」
 球遊びから一芸へ。目指せ大道芸龍!
 レートフェティに続けとフェルルも球をエインヘリャルに向けて投げ上げ――
「エ、エイン?そんなつもりで投げたんじゃないからね‥‥?」
 力余って思わず暴投した球は、エインヘリャルに思いっきり打ち返されて海の彼方へ。回収すべくエインヘリャルの背に跨ったフェルル、平謝りだったとか‥‥
 午後の小さなお茶会を楽しむ恋人同士。
 頭上に鎮座する小振りなミズチの眼前に饅頭を差し出しながら、周太郎(ia2935)は食べる前に挨拶するよう諭した。愛らしい声で返事したミズチのニムファに目を輝かせ、霧咲水奏(ia9145)は人懐こいですなぁと微笑む。良く冷えた茶を器に注ぎつつ、己が甲龍を紹介した。
「こちらは崑崙、長い付き合いでしてな。もう一人の祖父のようだと思っておりまするよ」
 水奏の祖父とも親交深かったという薄緑がかった灰色の甲龍は、その名に相応しく仙人が住まう山の化身であるかのようだ。年輪を重ねた落ち着いた佇まいは、縁側の老爺の穏やかさを思わせる。
「‥‥と、ところで」
 先程からちらちら見ていた水奏なのだが、そろそろ我慢の限界のようだ。うずうずしている水奏が何を言いたい求めたいのか心得ている周太郎、頭上を指差した。
「どした水奏、抱っことかするか?」
「おぉぉ‥‥ひんやりふにふにと、まこと愛らしいですなぁっ」
 既に頬が崩壊しかかっている水奏にニムファを抱かせてやると、可愛いもの大好きな水奏が完全に壊れた。普段の落ち着きは何処へやら、常は隠された娘らしい仕草でニムファをむにむに愛玩している。
 もはや別人状態の水奏に苦笑していると、崑崙が周太郎の顔を覗き込んだ。
「‥‥ん?俺の顔に何かついてるかい?」
 崑崙の空色の瞳は孫の婿殿を見定める祖父のようで、厳しくも温かい。どうやら水奏の反応に同じ感想を抱いていたらしく、認めた婿殿へ苦笑いのような唸り声を一声上げた。

 昼も半ばを過ぎた頃、不思議な仮面を身につけた少年が港にやって来た。
「コラ千秋、何してやがる!」
 飼育担当の男性職員に威嚇している駿龍を容赦なく蹴っ飛ばし、貉(ia0585)は職員に謝った。
「いつもワリィな、こいつじゃじゃ馬だろ? 母親に似てなぁ」
「大人しくなってくれるのは、貉さんにだけですよ」
 慣れましたと苦笑する職員から手綱を預かって、貉は千秋を連れ出した。久々の面会、折角だからと好物の肉を持って来たのだ。威嚇どころか喜んでいる節すら伺える千秋の食事風景を眺めつつ、物思いに耽る。
「そうしてると、あいつに似てんな‥‥おめー」
 千秋の母龍。かつて自身の相棒だった龍に思いを馳せた。気が強いところも、気難しいところも、彼女にそっくりだ。ちっと一緒に飛んでやるかと、腹ごしらえを済ませた千秋に跨り空を駆けた。
 その頃、地上では釣り糸を垂れる鴇ノ宮風葉(ia0799)の姿があった。
 頭に人妖の二階堂ましらを乗せて、港の片隅で拾った木の棒を釣竿代わりに垂らしているのは直針。釣る気があるのかないのかわからない。どうやら殺生を好まぬが故に戯れで釣り糸を垂れているだけのようであった。
「風葉それ釣る気ないだろ」
 ごろりと寝転がり、ぼーっと海を眺めている風葉に、海神江流(ia0800)の斜に構えた突っ込みが入った。面倒そうに振り返る風葉の応えは素っ気無い。
「んー?」
 賑やかは好きだが個人の時間も大切にしたい我侭お嬢様は、お行儀悪く転がったままだ。頭上のましらが呆れて言った。
「ったく、お前さんは一人が好きなのか嫌ぇなのかハッキリしろって‥‥」
 放置された格好の江流に、土偶ゴーレムの土霊−ツチダマ−が何やら抱えて近付いて来た。
「ゴ主人、ご主人、一局如何デス?」
 甲高くぎこちない口調で土霊が掲げたそれは、将棋盤だ。繋留区職員詰所から借りてきたらしい。
「つっちー気が利くじゃん。海神、相手してやんなよ」
「ま、暇潰しには良いか」
 江流はそう言うと、土霊相手に一局指し始めた。
 最近買い求めたばかりの土霊は、まだまだ理解に困る部分が多い。日傘を差して外套を纏う土偶というのは何とも人間臭く感じる。しかも初夏の陽気の下では何とも暑苦しい。
「それ脱げよ、日焼けする訳でもなかろうに」
「他の土偶とはデキが違イまス、デリケェトなんでスヨ?」
 語尾上げて反論する土霊、どうやら乾燥も水濡れも厭ってこの格好らしいのだが――
「あ、それちょっと待った」
 ――格好や感性はともかく、将棋の腕は主より上のようだ。
 貉は千秋と空に遊ぶ。
「おめーは乗り心地も癖もあいつに似てんな‥‥やっぱり親子なのかねぇ」
 母龍を思い出させる千秋に、思わず呟きが漏れた。懐かしく思い起こしつつ地へ戻った貉は、千秋の轡を外すと丁寧に身体を磨いてやった。
 やがて日が傾き始めた頃、繋舎へ千秋を戻しに来ると、狢は職員に取り計らいを頼んだ。
「こいつの面倒みるの大変だろうけどよろしく頼むわ‥‥俺の親友の娘なんで、な」
 千秋もまた、親友と同じく大切な相棒なのだ。

●紅く染まる君の体躯に
 日が茜色に染まり始めた頃。
 龍の繋留区前で炎龍の毛繕いをしていた娘に玖堂紫雨(ia8510)が気付いた。
「真影?お前も龍の世話をしに来ていたのか」
「あ、父様!月児も一緒なのね」
 父に従う猫又を認めて、玖堂真影(ia0490)が手を振り応えると、猫又の月児が黒銀の毛並みを重々しく揺らして言った。
「これはみぃ姫‥緋鼓も姫に会えて嬉しかろう」
 毛繕いを終えた炎龍の緋鼓は真影から餌を貰ってがっついている。誰も取りゃしないんだからと笑いつつ、真影は月児にかつての恩に謝辞を述べた。そんな姫巫女に礼儀正しく応対する猫又へ、主の拗ねた言葉が降りかかる。
「‥‥常々思っていたが‥‥真影と私とでは、随分態度が違うようだが‥‥?」
「ふっ、拗ねるでない『めぇ』よ♪」
 めぇ=紫雨。
 焦って拒否する紫雨などお構いなしで、月児は真影こそ主であればよかったのにと言う始末。紫雨、さっさと背を向けた。
「言っていろ色ボケ猫が‥‥真影!終わったら帰るぞ?」
「はぁーい!今行く!‥‥またね、緋鼓」
 一瞬ぎゅっと抱き締めて、娘は父の後を追った。

 港を訪れた茜ヶ原ほとり(ia9204)は、いつものように繋留区域を巡り、小隊で世話になっている仲間の相棒達に挨拶してゆく。ご機嫌伺いして頭を撫でて、時にはこっそりおやつをあげて。最後に自身の相棒、駿龍のクロエの許へやってきた。
 遠くジルベリアでの合戦を機に絆を深めた駿龍、その顔に抱きつくと長いことそのままで親愛を示す。やがてクロエを連れ出したほとりは、鞍を着けずにクロエの背に跨ると夕焼け空へ飛び立った。
 空の片隅には先客一組。風と成り行きに任せて夕空を駆ける駒鳥霰(ib2900)と駿龍の疾風だ。
 人と関わる事がやや苦手な霰は、広い大空を遠慮するかのように疾風を飛ばせる。兄弟のように育った付き合いの長い疾風は心得たもので、気にした様子もなく久々の飛行を楽しんでいた。
(「‥‥懐かしいな‥‥」)
 幼い頃から、こうして疾風と飛んだものだ。種を越えて兄弟のように育った疾風は、よく霰を驚かそうと急旋回や急降下をしたもので、遠乗りの度に怪我や打撲を拵えて帰っては師匠に叱られたものだった――
「‥‥って、こら!」
 霰の感慨が伝わったか、疾風がいきなり滑空する。下は海だとは言え、空から開拓者が降っては目立つだろうし格好もつかぬ。慌てて疾風の頚にしがみつく。
 疾風は夕焼けに染まる海面すれすれまで突っ込むと、急上昇を始めた。長年の経験で、これが疾風なりの友情表現だという事はわかっているのだが‥‥
(「仕事の時のように真面目に飛んでくれれば良いのだが‥‥」)
 ――ま、いいか。
 疾風が飛行を楽しんでくれていればそれでいい。霰は振り落とされないように、離れたりはしないように、疾風の頚にしっかりと抱きついた。
 そして夕空に飛ぶもう一組。
「ラルゴ」
 ほとりが『ゆるやかに』と声に合わせて足で合図する。クロエも心得たもので空の散歩を悠々と楽しんでいる。言葉少なではあったけれど、動作を通じてほとりとクロエは通じ合っていた。
 やがて身体を使っての会話を充分に交わした主従が港へ戻る。長く伸びた影を引き連れて、一人と一頭は繋留区へ戻って行った。

●こっそりこそこそ
 港を闇が包み込む、夜になって――
 ペケ(ia5365)が暗くなってから龍の繋留区を訪れたのは、別にシノビだから‥‥ではない。
「私がもう少しまともな開拓者だったら、桃竜も色々出来たんでしょうけど。ゴメンね‥‥」
 駿龍の桃竜に好物の果物をやると、桃竜は猫のようにミャーミャー鳴いて食べた。桃竜は喜んでいるようだはペケは申し訳なさそうだ。
 シノビとは闇に生きる者‥‥だと寧ろ格好良いのだが、実際のペケは日の下で虐げられる事が多い残念シノビだ。依頼先だったり、相棒の毛動物だったり、とかくペケには不幸な運命がついて回る。
 めそめそしながら桃竜を撫でるペケ。
 幸い今日は天敵も不幸も起こらなさそうだ。夜闇に主従のささやかな安らぎが訪れていた――